政策工房 Public Policy Review

霞が関と永田町でつくられる“政策”“法律”“予算”。 その裏側にどのような問題がひそみ、本当の論点とは何なのか―。 高橋洋一会長、原英史社長はじめとする株式会社政策工房スタッフが、 直面する政策課題のポイント、一般メディアが報じない政策の真相、 国会動向などについての解説レポートを配信中!

May 2015

【安全保障関連2法案が審議入り】

 今週26日、衆議院本会議で、武力攻撃事態対処法や周辺事態法、自衛隊法など法律10本の改正案を束ねた一括法案「平和安全法制整備法案」と、国際社会の平和・安全の確保に資する他国軍の取り組みを後方支援するために自衛隊の海外派遣を随時可能にする「国際平和支援法」の安全保障関連2法案の趣旨説明と質疑が行われ、審議入りとなった。


*衆参両院の本会議や委員会での審議模様は、以下のページからご覧になれます。

  衆議院インターネット審議中継参議院インターネット審議中継

 当初、民主党や維新の党などは、衆議院我が国及び国際社会の平和安全法制に関する特別委員会の委員名簿提出を拒むとともに、少数会派も委員ポストが確保できるよう委員枠(50人)を増やすことなどを求め、早期の審議入りを拒否してきた。21日の衆議院議院運営委員会理事会で、与党が丁寧な委員会運営を行うことを約束したことから、民主党・維新の党・共産党は委員名簿の提出に応じ、委員長人事を決める特別委員会を22日に開催することで合意した。

22日の特別委員会<委員45人>で、元防衛大臣の浜田靖一氏(自民党)が互選で委員長に選出された。自民党<委員28人>は、特別委員会の理事に、前防衛大臣の江渡聡徳氏(与党の筆頭理事)はじめ、岩屋毅氏や今津寛氏など安全保障法制整備に関する与党協議会メンバーらを重点的に配置する布陣をとった。一方、民主党<委員7人>は、発信力を重視して長妻代表代行を野党の筆頭理事に就任したほか、党内バランスを考慮した委員人事となった。維新の党<4人>理事には与野党に人脈をもつ下地幹郎氏が就任し、共産党<委員2人>は志位委員長自らが委員として論戦に挑む。

 

特別委員会後、審議の進め方について与野党理事が協議した。菅官房長官ら7閣僚の常時出席を求めた野党側に対し、与党側は中谷大臣と岸田外務大臣にとどめるべきと主張し、与野党が激しく対立して協議は平行線を辿った。また、安倍総理が特別委に出席する回数や、与野党の質疑時間の配分、審議日程なども調整が難航した。

その後も断続的に非公式に与野党協議を重ねた。25日の特別委員会理事懇談会で、与野党は、特別委員会を26日の衆議院本会議後に開催して趣旨説明を、27日に実質審議入りし、28日に安倍総理と関係閣僚出席のもと審議を行う日程で合意となった。29日に関係閣僚が出席する一般質疑、6月1日に安倍総理や関係閣僚が出席する集中審議を行うことも申し合わせた。また、野党に配慮して十分な審議時間が確保することを条件に、常時出席する閣僚は中谷大臣と岸田大臣とすることや、6月以降の審議ペースを週3回とすることでひとまず折り合った。

 

 

【与野党論戦がスタート】

26日の衆議院本会議では、中谷防衛大臣兼安全保障法制担当大臣が関連2法案の趣旨説明を行った。その後、与野党各党の代表が質疑に立ち、これらに対する答弁を安倍総理らが行った。

安倍総理は「グレーゾーンから集団的自衛権まであらゆる事態に切れ目のない対応を行うことが可能になる」と関連2法案の成立意義を説明したうえで「誠実な説明を尽くし、平和を願う全ての国民、国会議員とともに実現に全力を尽くす決意」と、通常国会での確実な成立を期していく意欲を改めて示した。

これに対し、野党各党は、従来の憲法解釈との整合性や、武力行使の新3要件の具体的な判断基準、集団的自衛権行使の範囲、自衛隊の活動拡大に伴うリスクがどこまで高まるかなどについて追及した。

 

安倍総理は、自衛隊活動の範囲拡大で多国間の戦闘に巻き込まれるなどのリスクが高まるのではないかとの野党側の批判に、「現在の法制では日本のため任務につく米軍が攻撃を受けても日本は何もできない。日米同盟が完全に機能すると示すことで抑止力が高まり、日本が攻撃を受ける可能性は一層なくなる」と、抑止力強化の重要性を訴えた。

また、武力行使の新3要件について「国際的にも例のない厳しい基準で、恣意的に解釈できるものではない」と強調するとともに、集団的自衛権を行使できる存立危機事態の判断基準を「国民生活に死活的な影響が生じるか否かを総合的に評価」したうえでとし、「単に国民生活や国家経済に打撃が与えられたことや、生活物資が不足することをもってのみで存立危機事態に該当するものではない」と、単なる経済的影響だけでは該当しないと見解を示した。さらに、「必要最小限度のものとして(武力行使の)新3要件を満たすことはありえる」との認識を示したうえで、外国領域での自衛隊による機雷掃海は「民間船舶の安全な航行を確保することが目的で、性質上もあくまで受動的、限定的な行為」であり、武力行使を目的に武装部隊を他国領域へ送る海外派兵とは性質が異なる点を強調した。

 

 このほか、自衛隊活動の範囲拡大により自衛隊員のリスクが高まるのではないかとの批判に、安倍総理は、これまで「リスクとは関わりがない」(20日の党首討論)としていたが、「隊員のリスクを極小化するための措置をしっかりと規定している。それでもリスクは残る。あくまでも国民の命と平和な暮らしを守り抜くために自衛隊員に負ってもらうものだ」と軌道修正を図った。中谷大臣は「補給・輸送などの支援活動は危険を回避し、活動の安全を確保した上で実施するものだ」と補足した。

また、野党が「一般に海外派兵は許されない。武力行使を目的として海外の領土や領海に入っていくことは許されない」(20日の党首討論)、「一般に自衛のための必要最小限度を超えるもので、憲法上許されない」(26日の衆議院本会議)と答弁している安倍総理と、武力行使の新3要件にあてはまれば、憲法上は機雷掃海や敵基地攻撃など他国領域での武力行使も許されないわけではないと発言している中谷大臣や菅官房長官との説明の食い違いも問題視している。この点について、中谷大臣が26日の閣議後の会見で「総理が述べたことと私が申し上げたことには全く矛盾がない。過去の答弁とも整合性はとれている」「海外派兵の答弁も、存立危機事態の憲法上の問題もしっかりと整合性が取られている」と反論した。そのうえで、難解さが残り誤解されやすい状況も踏まえ、「国会論戦で納得いただけるように説明していきたい」と述べた。

 

 27日から特別委員会で実質審議入りとなる。与野党とも幹部級が質疑に立つ予定で、いよいよ与野党論戦が本格化する。与党側は、安倍総理や関係閣僚から分かりやすい答弁を引き出すべく、与党協議会座長を務めた高村自民党副総裁ら法案作成に関わった当事者たちが質問する。一方、野党側も、民主党の岡田代表や、維新の党の松野代表らが質疑に臨むようだ。

 また、関連法案の内容をめぐる論戦にとどまらず、審議日程などをめぐっても波乱含みの展開が予想される。通常国会の会期末(6月24日)前に衆議院通過・参議院送付のうえ、会期を大幅延長して成立させる方針の与党は、通常国会での成立は譲らないものの、審議時間を十分に確保するとともに丁寧な答弁を行っていくことで、野党との衝突をできるかぎり回避していきたいとしている。

しかし、野党側は、成立阻止に全力を挙げる民主党や共産党などが徹底追及の構えをみせているほか、是々非々で対処する方針の維新の党も慎重審議を求めていくことでは他の野党とも歩調を合わせている。また、維新の党は、武力行使にいたらないグレーゾーン事態に対処する「領域警備法案」を、民主党と共同で国会提出することもめざしている。

 

 

【重要法案ごとに審議動向のチェックを】

 国会では、21日、法的分離による送配電部門などの中立性確保や小売料金の規制撤廃、電力・ガス・熱の取引の監視を行う電力・ガス取引監視等委員会の設置など柱に、エネルギー分野の一体的なシステム改革を実施するための「電気事業法等改正案」が衆議院本会議で与党などの賛成多数により可決し、参議院に送付された。

22日の衆議院本会議では、昨年の衆議院解散・総選挙により臨時国会で廃案となったが、安倍総理が重要課題として位置付け通常国会に再提出した「女性の職業生活における活躍の推進に関する法律案」の趣旨説明と質疑が行われ、審議入りとなった。同法案は、女性の採用・昇進機会を増やす取り組み加速を促すため、従業員301人以上の大企業、国・地方自治体に、採用者や管理職に占める女性割合、勤続年数の男女差などを把握したうえで、自主判断で最低1項目の数値目標を盛り込んだ行動計画の作成・公表を義務化することを柱としている。有村女性活躍担当大臣は、非正規雇用の女性への対応を重要テーマと位置付け、「国が策定する基本方針や行動計画指針に必要な取り組みを盛り込む」と答弁した。

 

 26日、衆議院厚生労働委員会で審議されている「労働者派遣法改正案」に関連して、民主党と維新の党、生活の党が、非正規労働者の待遇を改善するねらいから、同じ職務を行う労働者は正規・非正規にかかわらず同じ賃金を支払う同一労働・同一賃金を進める「労働者の職務に応じた待遇の確保等のための施策の推進に関する法律案」を衆議院に共同提出した。

野党3党は、労働者派遣法改正案とともに審議するよう与党側に求める方針だ。ただ、労働者派遣法改正案をめぐっては、民主党や共産党、社民党などが「生涯派遣で低賃金の労働者が増える」「派遣の固定化、不安定化につながる」と改正案成立の阻止を掲げて徹底抗戦する構えを鮮明にしているのに対し、維新の党は同一労働・同一賃金の環境整備が大前提としつつも「現行法の改善は必要」と、政府案に一定の理解を示している。このことから、野党3党がどこまで連携するかは未知数だ。

 

 現在、「安全保障法制」「労働法制」「電力自由化」「農協改革」「女性活躍推進」など、重要法案が同時進行で審議されており、法案審議・採決日程などをめぐって与野党の駆け引きがそれぞれ繰りひろげられている。それぞれどのような日程で、どういった論戦が繰りひろげられているのかを整理しながら、ウォッチしていくことが大切だろう。
 

原英史・株式会社政策工房 代表取締役社長】 

 4月から5月半ばにかけては、統一地方選、大阪都構想の住民投票と、地方政治での動きが続きました。

 これらがひと段落し、次は、安全保障法制はじめ、国政での重要課題が本格的に動き始めています。

 

 今後の課題に移る前に、この1か月半の地方政治の総括も必要でしょう。

 

 ここしばらくのマスコミ報道では、大阪都構想が成立に至らなかった要因や、この結果が国政にどう影響するのか(橋下氏の政界引退、維新の影響力低下?など)といった分析が盛んになされています。

 

 もちろんこうした分析も重要ですが、より本質的な問題があります。

 今回明らかになった最大の問題は、地方での変革がいかに困難か、もっといえば、地方での変革の方がしばしば国での変革より難しい、ということではないかと思います。

 

 一般に、地方自治体では首長が直接公選されるため、より強いリーダーシップをふるうことが可能と考えられがちです。

 しかし、現実に起きていることをみれば、むしろ逆です。

 

是非の評価は別として、

・カリスマ的な人気を誇った橋下市長でさえ、大阪都構想を実現できなかったこと、

・他方、国政では、決して国民的関心や支持の高くない秘密保護法制、安全保障法制などが着々と前進していること、

を見比べれば、対比は明らかでしょう。

 

 これは、選挙の仕組みに立ち返ると、実はそう不思議なことではありません。

簡単にいえば、

・国政では、小選挙区制の導入により、ランドスライド(地滑り的圧勝)が生じやすくなっており、圧勝した与党のトップは、リーダーシップを発揮しやすい構造です。

もちろん、過去数年続いたような衆参ねじれ状態では「決められない政治」になりますが、選挙結果次第では「変革しやすい政治」状況も生まれるのです。

 

・一方で、地方政治では、圧勝して首長になっても、議会はまた別です。そして、地方議会は、大選挙区制、中選挙区制のもと、一般に、“個人商店型”の議員が多くを占め、変革は生じづらい構造になっています。

また、首長が変革を試みても、部下である役所組織と、国の中央官庁が一緒になって足を引っ張るといったことも起きがちです。

足を引っ張るプレイヤーが、国以上に多く、また強力なわけです。

 

 大阪都構想に関しては、とりわけ議会が難題でした。

 大阪市議会では、橋下市長という強力なトップがいながら、大阪維新の会が過半数をとることはできていませんでした。これは、定数2~6名の中選挙区制のもと、過半数を確保することはほぼ不可能だからです。

 この結果、橋下氏はダブル選挙で勝利したものの、その後、議会との関係で苦戦を強いられました。

 そこでの苦戦で政治的資本を消耗した結果が、今回の住民投票だったとも考えられるわけです。

 

 統一地方選で問題になった低投票率や、無投票の多さなども、変革が生じづらい地方議会に直結しています。

 

 こうして、選挙システムによって、

・国では、(選挙結果次第で)変革が起きやすく、

・地方では、構造的に変革が難しい、

という状態が生まれています。

 

 問題は、これが妥当かどうかです。

ふつうに考えれば逆で、国と地方の比較論で、

・相対的に国でより慎重さが求められ、

・地方では、自治体ごとにそれぞれ、もっと思い切った変革にチャレンジしてもよい、

と考える人が多いのではないでしょうか。

 

 そして、地方でもっと変革ができるようになれば、知恵とチャレンジ精神のある地方が成長できるようになり、地方間の競争で日本全体がもっと活性化していくのでないでしょうか。

                                               

 この問題は、実は、「地方分権」「地域主権」といった課題が、長年にわたって掛け声倒れに終わってきた要因でもあります。

 ここに手をつけなければ、安倍内閣の掲げる「地方創生」も、絵に描いた餅に終わりかねないでしょう。

  

【安全保障関連法案を閣議決定のうえ国会に提出】

 先週14日、自民党と公明党は、武力攻撃事態対処法や周辺事態法、自衛隊法など法律10本の改正案を束ねた一括法案「平和安全法制整備法案」と、国際社会の平和・安全の確保に資する他国軍の取り組みを後方支援するために自衛隊の海外派遣を随時可能にする「国際平和支援法」の安全保障関連2法案の了承手続きを終え、安全保障法制整備に関する与党協議会(座長:高村・自民党副総裁、座長代理:北側・公明党副代表)で正式合意した。

これを受け、政府は、同日中に国家安全保障会議(NSC)9大臣会合、臨時閣議を相次いで開催して関連2法案を決定し、翌15日に国会へ提出した。臨時閣議では、武力攻撃に至らないグレーゾーン事態<武装集団による離島への不法上陸の恐れがある事案、日本領海で国際法上の無害通航に該当しない他国軍艦の航行、公海上での日本の民間船舶に対する侵害行為>に自衛隊による治安出動または海上警備行動の発令を速やかに行うため、NSCや臨時閣議の開催が困難な場合には、電話での審議・決定やメール連絡などを認める方針も決定した。

 

安倍総理は、臨時閣議後の記者会見で「もはや一国のみで、どの国も自国の安全を守ることはできない時代」との認識を示すとともに、「積極的平和主義の旗を高く掲げ、世界の平和と安定にこれまで以上に貢献していく」と平和国家としての歩みを今後も堅持する考えを示したうえで、「不戦の誓いを将来にわたって守り続けていく。そして国民の命と平和な暮らしを守り抜く。この決意のもと、日本と世界の平和と安全を確かなものとするための平和安全法制を閣議決定した」と説明した。

テロ行為で日本人が犠牲になったことや、北朝鮮による弾道ミサイルへの懸念、中国の海洋進出など安全保障環境が厳しさを増していることを念頭に「厳しい現実から目を背けることはできない。平和外交を展開すると同時に、万が一の備えを怠ってはいけない」「日本人の命と平和な暮らしを守るため、あらゆる事態を想定し、切れ目のない備えを行う法制整備が不可欠」と説明し、安全保障法制を整備する意義を強調した。また、「日米同盟に隙があると思われれば、日本が攻撃を受ける危険性が増す。そうした可能性をつぶしておく必要がある」「日米同盟が完全に機能すると世界に発信することで抑止力はさらに高まり、日本が攻撃を受ける可能性は一層なくなっていく」と、日米同盟による抑止力向上のためにも法整備が不可欠だとも述べた。

 

 また、アメリカの戦争に巻き込まれるとの批判などがでていることを念頭に、「日本近海で米軍が攻撃される状況では私たちにも危険が及びかねない。まさに私たち自身の危機」との認識のもと、昨年7月に閣議決定した武力行使の新3要件を関連法案で明記していることに触れて「厳格な歯止めを法律案の中にしっかりと定めた。さらに国会の承認が必要となることは言うまでもない」と極めて限定的な集団的自衛権の行使になると説明したうえで、「批判が的外れなことは歴史が証明している」「そのようなことは絶対にありえない」と語った。

さらに、「自衛隊がかつての湾岸戦争やイラク戦争での戦闘に参加するようなことは今後とも決してない」と断言するとともに、「戦争法案といった無責任なレッテルは全くの誤り」などとも反論した。アメリカ主導の有志連合によるイスラム教スンニ派過激組織「ISIL」掃討作戦への自衛隊の後方支援についても「われわれが後方支援をすることはない。これははっきり申し上げておく」と否定した。そのうえで「難民に対する食糧支援や医療支援など非軍事的な活動を引き続き行っていくことになる」とも強調した。

 

 

【国会論戦がスタートへ】

 安倍総理は、野党が一括法案で国会提出し審議を求めていることへの批判に対し、「今回の法制はグレーゾーンから集団的自衛権の一部行使容認に至るまで、切れ目のない対応を可能にするものだ。かつての有事法制の際には、野党からすべてまとめて法案を出すべきだとの意見をもらった。その趣旨も踏まえた」と、15日の衆議院経済産業委員会で説明した。

また、安倍総理が4月29日のアメリカ連邦議会・上下両院合同会議での演説で、安全保障法制の整備を「この夏までに成就させる」と表明したことに「外国の議会で成立を約束するのは言語道断」(民主党の近藤衆議院議員)などと批判していることに対しては、「決意を示したのは初めてではない。昨年来、記者会見や国会答弁の中で今国会での成立を図ると繰り返している」と反論した。

*衆参両院の本会議や委員会での審議模様は、以下のページからご覧になれます。

  衆議院インターネット審議中継参議院インターネット審議中継

 18日の参議院本会議で、安倍総理は、集団的自衛権の行使要件となる存立危機事態について、攻撃国の意思や能力、発生場所、事態の規模に加え、「わが国に戦禍が及ぶ蓋然性、国民が被る被害の深刻性を客観的、合理的に判断する」と説明したうえで、「わが国が爆撃の対象になるような場合に限られるものではない」と語った。

そして、「密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生し、日本で生活物資や電力の不足によるライフラインの途絶が起こるなど、単なる経済的影響にとどまらず、国民生活に死活的な影響が生じるような場合、わが国が武力攻撃を受けた場合と同様の深刻、重大な被害が及ぶことが明らかな状況に至る可能性がある」と、物資・電力不足の場合でも存立危機事態に該当しうるとした。シーレーン(海上交通路)上の中東・ホルムズ海峡が機雷で海上封鎖され、日本への石油輸入が途絶える場合、国民の生命を脅かす深刻な事態に陥れば、自衛隊を海外に派遣して機雷を掃海させることが念頭にあるようだ。

 

20日に行われた党首討論では、民主党の岡田代表が「平和憲法が、安保法制の全面的な見直しの中で揺らぐのではないかとの不安感がある」と、安倍政権との対決姿勢を鮮明にしたうえで、自衛隊の活動範囲が広がることで「リスクは飛躍的に高まる」と追及した。これに対し、安倍総理は「戦闘に巻き込まれることがなるべくない地域を選んでいく。安全が確保されている場所で後方支援を行う」「戦闘が起こったときはただちに一時中止をする。あるいは退避することを明確に定めている」と、自衛隊員が危険に遭遇する事態は回避できると反論した。また、集団的自衛権行使は限定的な容認であり、「外国の領土に上陸し、戦闘行為を行うことを目的に武力行使することはない。大規模な空爆をともに行うことはない」とも表明した。

 

 

【審議入り日程をめぐって与野党が攻防】

与党は、通常国会の会期末(6月24日)前に衆議院通過・参議院送付のうえ、会期を大幅延長して8月上旬までに成立させる方針だ。与党は、連日審議することが可能な特別委員会「我が国及び国際社会の平和安全法制に関する特別委員会」を19日に衆議院へ設置し、21日から衆議院本会議で趣旨説明と質疑を行う日程案を提案していた。

しかし、民主党や維新の党など野党側は、審議入りまでの期間が短すぎることのほか、一括法案で国会提出し審議を求めていること、自民党が衆議院での審議時間を「80時間程度」と表明したことに「期限ありきという姿勢は受けられない」などと反発しており、与党が求める早期審議入りを拒否した。また、少数会派も委員ポストが確保できるよう委員枠(50人)を増やすことも含め、丁寧かつ徹底的な審議に努めるよう与党側に求めた。

 

 特別委員会の設置については、19日の衆議院本会議で採決を行うこととなった。民主党や維新の党、共産党などが反対したが、与党などの賛成多数により特別委員会の設置が決まった。与党側は本会議後に特別委員会を開催し、委員長を互選で選出するよう求めたが、審議時間の十分な確保などを求めている野党側が委員名簿の提出を拒否したため、開催を見送ることとなった。

特別委員会の委員数は与党の要求どおり45人<自民党28、民主党7、維新の党4、公明党4、共産党2>となったが、少数会派にも質問する機会を設けるよう配慮するとしている。委員長には、元防衛大臣の浜田靖一衆議院議員(自民党)が特別委員会の開催初日に選出される予定だ。特別委員会に常時出席する閣僚は、外務大臣と防衛大臣となっているが、民主党など野党は官房長官らを含めるよう求めている。

 

審議入りの日程をめぐっては、21日の衆議院議院運営委員会理事会で、26日の衆議院本会議で趣旨説明と質疑を行い、審議入りすることを決めた。野党は、与党に十分かつ慎重な審議の要求や、「国会をまたぐ覚悟でしっかりとした審議をお願いしたい」(維新の党の松野代表、20日の党首討論)などと通常国会中の成立を急ぐべきではないとの点で足並みを揃えており、徹底抗戦の構えだ。

もっとも、関連法案への賛否では、反対姿勢を示す民主党、共産党、社民党、生活の党などに対し、次世代の党や新党改革は全面的に賛同する立場を表明している。維新の党は、「歯止めをかける対案を示しつつ、政府の安全保障法制が抱える問題点を洗い出し、徹底審議を通じて国民の不安を払拭していきたい」などと、安全保障法制に一定の理解を示して修正協議に含みを持たせている。

 

野党第一党である民主党は、PKOの駆けつけ警護の条件つき容認など部分的な共通項目がある一方、集団的自衛権行使については安倍政権下では容認せず、武力行使の新3要件も「抽象的で、最終的に内閣がすべての情報を総合して決めるのでは、基準があってないようなことになるのではないか」(岡田代表)と批判している。政府案の一括審議・採決となれば、全面的に反対せざるをえないと主張している。

通常国会中の関連法案の成立阻止をめざす民主党は、関連法案に反対する野党だけでなく、維新の党も含めた野党共闘を模索している。民主党と維新の党は、グレーゾーン事態での政府案は不十分との理由から、政府案の対案「領域警備法案」の素案を実務者レベルでとりまとめ大筋合意した。民主党と維新の党それぞれの党内手続きを経て、早ければ月内にも共同提出をめざしているという。同法案の共同提出を野党共闘への足掛かりにしたいとの民主党の思惑もあるようだ。

 

 一方、強行採決に至る事態を避け、可能な限り野党の協力もえたうえで関連法案を成立させたい自民党も、接近しつつある民主党と維新の党の分断を図るべく、維新の党から修正協議の「要望があれば応じる用意はある」と柔軟に対応していく姿勢もみせている。

いまのところ、委員会審議が与党ペースで進む公算だが、今後、与野党の駆け引きがより本格化していくことが確実なだけに、今後の先行きに不透明感も漂いつつあるようだ。

 

 

【重要法案それぞれの主要争点の見極めを】

 労働者派遣法改正案など与野党対決型の重要法案が審議入りし、与野党の本格論戦がスタートした。

政府の農協法等改正案は農家の所得向上にもつながらないだけでなく、農協への介入でコスト増をもたらしかねないと批判する民主党は、13日、農協の自主性を尊重することを国や地方自治体に義務づけ、農協に政治的中立性を確保することを柱とする「農協法改正案」を衆議院に提出した。政府案と民主党案は、14日、衆議院農林水産委員会で審議入りとなった。

また、安全保障関連法案が国会提出されたことで、審議入り日程や特別委員会の運営などをめぐって与野党攻防が活発に繰りひろげられている。

 

まずは、水面下での駆け引きも含めた与野党攻防の行方や、委員会でどのような論戦がおこなわれているかなどを踏まえつつ、何が主要争点なのかを見極めていくことが大切だろう。
 


【高橋洋一・株式会社政策工房 代表取締役会長】

 いよいよ5月17日だ。大阪都構想に関する賛否を問う住民投票が行われる。事前の報道によれば、反対票が優勢であるが、はたしてどうなるだろうか。

 

 地方行政の観点からみれば、人口270万人の大阪市が基礎的自治体としての適正規模を超えているのは、どのような方法で計算しても明らかなので、もう少し小ぶりの基礎的自治体に再建する、つまり、基礎的自治体として今の大阪市の代わりに、今の24の行政区を5つの特別区に統合するという大阪都構想の方向は正しい。

 

 もっとも社会科学として正しいこと(自由貿易など)が、民主主義で行われないこともしばしばなので、その意味で、17日の住民投票でどのような民意が示されるかはきわめて興味深い。

 

 政治的な立ち位置をいえば、維新の会だけが賛成で、自民・共産・民主が反対となっている。公明党の支持母体である創価学会は自主投票である。

 

 先般の統一地方選での大阪市議会議員選挙の各党の得票率は、維新の会37.0%、公明党18.9%、自民党19.6%、共産党14.6%、民主党4.2%、その他5.7%だった。

 

 維新の会と自民・共産・民主の勢力はほぼ拮抗している。要するに、公明の票がどうなるかで、勝敗は決まる。これまでの報道では、表向き公明党は反対だったので、反対が優勢なのだが、はたしてどうなるのだろうか。

 

 大阪都構想が否決されると、現状維持になる。反対は、自民・共産・民主の相乗りなので、新しい案が出てくることはまずない。となると、これまでの体制のまま、将来の大阪はどうなるのだろうか。

 

 東京都、大阪府、愛知県の県民総生産(名目)の推移を1960年から見てみよう。


0515高橋さん
 表作成:政策工房
 

 
 日本経済全体のマクロ政策に地方経済もだいたい連動する。しかし、動きはまったく同じではなく、地方によって差が出る。その差が長期にわたって継続する場合には地方政府の巧拙の差であろう。現状維持であえば、この差はこれからも続くと思ったほうがいい。

 

【与党、安全保障関連法案を最終合意】

今週11日、自民党と公明党は、安全保障法制整備に関する与党協議会(座長:高村・自民党副総裁、座長代理:北側・公明党副代表)を開催し、政府が提示した安全保障関連法案の全条文案を審査し、最終合意した。関連法案は、改正する法律10本を束ねた一括法案「平和安全法制整備法案」と、新たに恒久法として制定する「国際平和支援法」の2法案となった。

 

現行法を改正する一括法案では、以下の10法案が改正される。

○武力攻撃事態対処法

集団的自衛権の行使が可能とする存立危機事態の定義<第2条>で他国への武力攻撃であっても日本の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある場合とし、判断基準として武力の行使は事態に応じ合理的に必要と判断される限度<第3条>、他に適当な手段がない<第9条>と盛り込むことで「武力行使の新3要件」を条文化

○重要影響事態法(現行の周辺事態法改正)

事実上の地理的制約を撤廃のうえ、そのまま放置すれば日本への直接の武力攻撃に至るおそれのある重大影響事態と位置付け、日本の平和のため活動する米軍や友好国の部隊への後方支援を可能にするとともに、支援メニューも拡充など

○国連平和維持活動(PKO)協力法改正案

治安維持任務や駆け付け警護などの任務拡大、国連主導のPKO以外でも国連安全保障理事会などの決議を踏まえた活動や欧州連合(EU)など政令で定めるその他の国際機関の要請にもとづく人道復興支援や治安維持活動などを「国際連携平和安全活動」として容認。このほか、PKOを含めて任務の遂行が妨害された場合を安全確保業務として武器使用も可能にするための武器使用基準の緩和、司令官などを務める自衛官の国連派遣、大規模災害に対処する米軍などに対する物品・役務の提供など

○自衛隊法

グレーゾーン事態での他国軍防護や在外邦人の救出活動を可能にし、存立危機事態における自衛隊の権限や平時の物資支援を拡大、海外での規律違反で不測の事態に陥ることを防止するねらいから、自衛官の上官命令への多数共同による反抗や部隊の不法指揮、防衛出動命令を受けた者による上官命令反抗・不服従などの国外犯処罰規定を追加など

○集団的自衛権行使関連4法案

存立危機事態での機乗輸送規制(海上輸送規制法)・捕虜の扱い(捕虜取扱法)、他国軍への支援(米軍等行動関連措置法)と施設利用(特定公共施設利用法)を可能にするなど

○国家安全保障会議(NSC)設置法改正案

NSCの審議事項に「存立危機事態」「重要影響事態」「国際平和共同対処事態」の認定などを追加

○船舶検査活動法

日本周辺有事に限定していた任意の船舶検査に係る地理的制約を外し、「国際社会の平和と安全に必要な場合」にも実施可能に

このほか、平和安全法制整備法案の付則に、道路交通法や国民保護法、サイバーセキュリティ法など計10本の法律の技術的改正も盛り込むようだ。

 

 一方、国際社会の平和及び安全の確保に資することを目的に、自衛隊を海外に派遣して他国軍隊への後方支援を随時可能にする「国際平和支援法案」では、「国際社会の平和及び安全を脅かす事態であって、その脅威を除去するために国際社会が国際連合憲章の目的に従い共同して対処する活動」に対し、自衛隊を派遣して他国軍を支援する必要がある事態を「国際平和共同対処事態」<第1条>とし、国連総会か国連安全保障理事会の決議を要件に、現に戦闘が行われている現場(一部の捜索救助活動を除く)でなければ、自衛隊による他国軍への燃料補給や弾薬の提供・輸送などの後方支援を可能にするとしている。

 自衛隊派遣にあたっての国会承認については、例外なき事前承認を要求した公明党に配慮して「総理大臣は対応措置の実施前に、基本計画を添えて国会の承認を得なければならない」とし、迅速な派遣手続きを行うため、衆参両院は承認を求められてからそれぞれ「休会中の期間をのぞいて7日以内」に議決するよう努力規定が盛り込まれた。国会承認から2年後の継続手続きについては、国会閉会中または衆議院解散時に限って「その後最初に召集される国会で承認を求めなければならない」と事後承認を認めている。

 

自民党と公明党は、協議会での最終合意を受け、それぞれ党内の了承手続きに入った。自民党は12日の総務会で、反対を唱える村上誠一郎衆議院議員が採決前に退席したため、全会一致での了承となった。公明党は、14日に了承手続きを終える。与党の了承手続きが済み次第、政府は同日、国家安全保障会議(NSC)と臨時閣議を開催し、関連法案を決定する。

政府は、関連法案とセットで、武力攻撃に至らないグレーゾーン事態の3ケースへの対処方針についても閣議決定する。(1)武装集団による離島への不法上陸の恐れがある事案、(2)日本領海で国際法上の無害通航に該当しない他国軍艦の航行、(2)公海上での日本の民間船舶に対する侵害行為の3事態に警察当局や海上保安庁だけでできない場合、自衛隊による治安出動または海上警備行動などを速やかに発令するため、「大臣全員が参集しての臨時閣議開催が困難な時は、電話等により各国務大臣の了解を得て閣議決定を行う」「連絡が取れなかった大臣には事後に速やかに連絡を行う」と、手続きの簡素化・迅速化する。電話による閣議決定に加え、メールでの連絡、国家安全保障会議(NSC)の電話による審議も可能にするという。また、自衛隊や海上保安庁、警察庁、外務省など関係省庁による緊密な協力と対処能力の向上を掲げるため、「わが国の主権を守り、国民の安全を確保するとの観点から、いかなる不法行為に対しても切れ目のない十分な対応を確保する」と明記し、関係省庁の連携や情報共有など協力して対処するとしている。 

 

 

【関連法案の審議入りをめぐって与野党攻防へ】

政府は、翌15日に安全保障関連2法案を国会提出する。通常国会の会期末(6月24日)前に衆議院通過・参議院送付のうえ会期を大幅延長し、8月上旬までに成立させる方針だ。

当初、与党は、19日に連日審議することが可能な特別委員会を衆議院へ設置し、21日にも衆議院本会議で趣旨説明と質疑を行う日程を野党側に提案していた。しかし、民主党など「法案提出後に内容を精査する時間が必要」「法案の閣議決定から審議入りまでの期間が短すぎる。充実した審議ができない」として5月26日以降の審議入りを求めた。

冒頭から野党と対立する事態を避けたい自民党と公明党は、野党に配慮して、19日か21日に特別委員会を衆議院に設置、26日の衆議院本会議で審議入りの方向で調整し、15日の与野党国対委員長会談で野党に協力を求める方針でいる。

 

もっとも、民主党は「なぜ通常の安全保障委員会ではだめなのか」(民主党の高木国対委員長)と与党が求める特別委員会設置にも否定的な見解を示している。また、与党が求める関連法案の早期審議入り・一括審議も「強引にやれば無責任のそしりを免れない。中身に自信があるならば、時間をかけて国民に周知し、理解を求めて通せばいいだけの話」「中身に自信がないほど、国民が知らないうちに早く成立させようとするのではないか」(民主党の枝野幹事長)、「法案成立を前提に期限を切るのは、国会に失礼だ」(維新の党の松野幹事長)と、慎重かつ徹底した審議も求めている。

 

野党各党は、安倍総理はじめ政府・与党に厳しい姿勢で臨む方針だ。安倍総理が4月29日のアメリカ連邦議会・上下両院合同会議での演説で、安全保障法制の整備を「この夏までに成就させる」などと表明したことに、閣議決定・国会提出前に成立前提ありきの発言だとして一斉に反発した。野党各党は「法案提出すらなされていない段階で、これほどの重要法案の成立時期を外国、それも議会で約束するなど前代未聞」(民主党の岡田代表)、「憲法の根本原理の権力分立にかかわる問題。相当厳しく対峙したい」(民主党の枝野幹事長)、「特別委員会設置も、国会の会期延長も決まっておらず越権行為だ。国会審議が形骸化する」(民主党の長妻代表代行)などと批判している。

また、日米両政府が日米防衛協力の指針の再改定にあたり、安全保障関連法案で規定する自衛隊の活動拡大などを先取りした内容で合意したことも問題視して、「憲法解釈変更を含む大きな政策変更を国民にも国会にも説明なく、日米閣僚間で合意するのは異常で許し難い」(民主党の岡田代表)、「関連法案を提出していないのに日米で合意するのは順番が逆だ。国民が議論する手順が欠けていて、政権の姿勢は大いに問題」(維新の党の小野安全保障調査会長)、「国民の合意なく既成事実化するのは極めて問題」(社民党の吉田党首)などの批判がでている。

 

民主党は、通常国会中の成立阻止も視野に野党共闘を模索しているという。反対の共産党や社民党が民主党との連携をめざす方針を打ち出しており、維新の党も「重大問題なので次の国会に持ち越すべき」(松野幹事長)との慎重姿勢を示していることから、国会審議への対応で連携が進む可能性がある。

いまのところ、十分な審議時間の確保で野党各党の足並みが揃っているものの、民主党と維新の党との間で政策・主張の隔たりも横たわっている。関連法案すべてに反対する民主党は、将来的に容認する可能性に含みを残しつつ「専守防衛の観点から安倍政権が進める集団的自衛権の行使は容認しない」としているが、維新の党は「国際法で個別的自衛権の範囲内と言えるところは認める」(江田代表)と容認しており、存立危機事態をより厳格化に規定する修正案をとりまとめている。

また、自衛隊の海外派遣を随時可能にする恒久法の制定には反対で、「特措法をつくって議論するほうが確実性も高く、透明性も高まる」(長妻代表代行)と主張する民主党に対し、維新の党は、国会の事前承認を「自衛隊派遣の可否だけではなく、具体的な活動計画も含める」(江田代表)などの独自の恒久法づくりを進めている。

 

 こうした野党側の対決姿勢を強めつつある傾向に対し、自民党の高村副総裁は「あまり横暴なことをしたら選挙に負ける」と、拙速な強行採決などは極力避け、丁寧な国会審議を心がけていく考えを示した。その一方で、「抽象論としては議会の中で審議したうえで常にいろいろなことがあり得る」と、是々非々で対応する維新の党や方向性が一致している次世代の党などとの修正協議に応じる可能性も示唆した。野党間の分断を図りたい与党の思惑も見え隠れしており、民主党が描くとおり野党共闘が実現するかは不透明だ。

今後、関連法案の審議日程などをめぐって与野党の激しい攻防が繰りひろげられていくこととなるだろう。

 

 

【労働者派遣法改正案が審議入り】

12日の衆議院本会議で、派遣労働者の柔軟な働き方を認めることを目的に、企業の派遣受け入れ期間の最長3年という上限規制を撤廃(一部の専門業務を除く)する一方、派遣労働者一人ひとりの派遣期間の上限は原則3年に制限して、派遣会社に3年経過した後に派遣先での直接雇用の依頼や、新たな派遣先の提供などの雇用安定措置を義務づける「労働者派遣法改正案」の趣旨説明と質疑が行われ、審議入りした。同法案は過去2度、国会提出されたものの、いずれも廃案となった。政府は、派遣労働の固定化への懸念・批判が出ていることを踏まえ、直接雇用を促す姿勢を示すねらいから「派遣就業が臨時的・一時的なもの」との文言を明記するなどの修正を施したうえで通常国会に再提出していた。


*衆参両院の本会議や委員会での審議模様は、以下のページからご覧になれます。

  衆議院インターネット審議中継参議院インターネット審議中継

 与党は5月中に衆議院通過・参議院審議入りし、通常国会中に成立のうえ、今年9月1日施行をめざしている。安倍総理は、12日の衆議院本会議での趣旨説明で「多様なニーズに対応した働き方を実現する観点から今後、より一層の改革を押し進める」「働き方の選択がしっかり実現できるような環境を整備していく」と改革意義を説明した。塩崎厚生労働大臣も「派遣で働く方の一層の雇用の安定や保護を図るものだ」と強調した。 

これに対し、格差是正解消を旗印に掲げる民主党や、改悪批判を展開する共産党や社民党などが「生涯派遣で低賃金の労働者が増える」「派遣の固定化、不安定化につながる」と改正案成立の阻止を掲げており、徹底抗戦する構えを鮮明にした。こうした批判に、安倍総理は「派遣元の責任を強化し、派遣就労への固定化を防ぐ措置を強化した。一生派遣の労働者が増えるとの指摘は不適切だ」と反論しつつ、「計画的な教育訓練を新たに義務付けるなど、派遣労働者のキャリアアップを支援する」と理解を求めた。 

 民主党は、他の野党と連携して成立阻止をめざすが、維新の党が同一労働・同一賃金推進法案を準備したうえで、政府提出の労働者派遣法改正案への賛成に含みを残しているだけに、成立阻止のハードルは高くなっている。

 

 労働者派遣法改正案の衆議院通過後には、柔軟な働き方を広げて労働生産性を高めるねらいから、労働時間ではなく仕事の成果に応じて賃金を決定する高度プロフェッショナル制度の創設や、実際の労働時間にかかわらず労使間であらかじめ合意した時間を労働時間とみなす企画業務型裁量労働制の対象を新商品開発・立案や課題解決型営業などにも拡大することなどを柱とする「労働基準法改正案」が審議入りとなる。与党は、6月中に衆議院通過・参議院審議入りし、会期延長後の通常国会までに成立させる方針だ。

 ただ、民主党や共産党、社民党などは「残業代ゼロ法案」と位置付け、成立阻止を掲げている。今後、労働者派遣法改正案や労働基準法改正案の審議・採決日程をめぐって与野党攻防が繰りひろげられることとなりそうだ。

 

 

【野党、西村副大臣の発言撤回を追及】

 環太平洋戦略的連携協定(TPP)交渉について、西村内閣府副大臣は、アメリカ政府が守秘義務をかけたうえで連邦議会議員に極秘扱いの協定案閲覧を認めていることを引き合いに「テキストへのアクセスを認める方向で調整したい」と、日本の国会議員に協定案の開示を進める意向を示していた。しかし、その後、一転してその発言を撤回した。

 

このことに、野党側が「西村氏がきちんと経緯を説明し、約束した情報開示を一定の範囲で行うことが必要だ」(民主党の岡田代表)、「政府・与党内の意思統一はどうなっているのか」(維新の党の柿沢政調会長)、「米議会では情報が開示されているTPPの内容が、日本の国会議員に開示されないのは極めて問題だ。説明責任を求めるよりも開示すべきだ」(共産党の山下書記局長)などと反発した。

特に、民主党と維新の党は、国会議決にもとづき、TPP交渉を含む通商交渉での交渉状況や関係資料、交渉結果による影響と対策について、政府は、少なくとも月に1回は国会の所定委員会(秘密会)に報告するとともに、国会が必要な報告や記録提出を求めた場合は国会に適切に対応することなどを定めた「国民経済及び国民生活に重大な影響を及ぼすおそれのある通商に係る交渉に関する情報の提供の促進に関する法律案」を、4月24日に共同で衆議院に再提出している。

 

こうした野党側の反発に、西村副大臣は、12日の参議院外務防衛委員会で「どのような情報提供の工夫ができるか、引き続き検討するのが真意だった」と釈明したうえで、「私の発言で誤解、混乱が生じた。誤った印象を与えたことは深く反省している」と謝罪した。また、12日の衆議院農林水産委員会理事会でも情報開示をめぐる混乱について陳謝した。

野党側は「西村氏が発言を撤回した経緯と趣旨について納得できる説明がないと、通常の審議には応じられない」と、関連委員会での法案審議には応じない構えをみせたため、与党も、13日の衆議院農林水産委員会でTPPをテーマにした一般質疑を計5時間行うことで同意した。

 

 民主党など野党は、引く続き西村副大臣の真意を質していく方針だ。14日の衆議院農林水産委員会で、全国農業協同組合中央会(JA全中)の中央会制度を廃止や地域農協の経営状態などを監査してきた監査・指導権限を撤廃し、法施行から3年半後にはJA全中を特別認可法人から一般社団法人に完全移行することなどを柱とする「農協法等改正案」が審議入りする予定となっている。与党は、5月末~6月上旬に衆議院通過・参議院審議入りし、通常国会中に成立させる方針だが、西村副大臣の発言撤回への追及が続けば、農協法等改正案の審議にも影響を及ぼす可能性もある。

 また、政府提出の農協法等改正案について、民主党や維新の党などが、安倍総理が主張するほどの大改革には値しないなどと批判している。民主党は、国や自治体に「農協運営の自主性」を尊重するよう義務付けるとともに、都道府県をまたいだ農協などの設立も可能にする対案骨子をまとめた。党内調整を進め、近く国会に提出するという。また、維新の党も独自の対案づくりを進めている。

 

 

【安倍総理の記者会見、重要法案の審議に注目を】

12日に労働者派遣法改正案が審議入りし、14日には農協法等改正案が審議入り予定で、いよいよ与野党対決型の重要法案をめぐっての本格論戦がスタートする。来週20日には、通常国会初となる党首討論が開かれる予定だ。今回の党首討論では、安倍総理に民主党の岡田代表、維新の党の江田代表、共産党の志位委員長が挑む。

 

 14日の臨時閣議で安全保障関連法案が決定され、その後、安倍総理が記者会見を行って、国民に向けて安全保障法制の整備意義や法案内容などを説明する。安倍総理がどのように説明するのかについて、注目しておきたい。

また、今後、重要法案をめぐって与野党攻防が繰りひろげられることとなり、展開次第では荒れることも予想される。相次いで審議入りしている重要法案について、どのような論点・切り口で質疑を行い、どのような答弁を引き出していくのだろうか。各党の政策・主張やスタンス、野党提出の対案内容なども抑えながら、それぞれの国会論戦をチェックしておいたほうがいいだろう。
 

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