【安全保障関連2法案が審議入り】
今週26日、衆議院本会議で、武力攻撃事態対処法や周辺事態法、自衛隊法など法律10本の改正案を束ねた一括法案「平和安全法制整備法案」と、国際社会の平和・安全の確保に資する他国軍の取り組みを後方支援するために自衛隊の海外派遣を随時可能にする「国際平和支援法」の安全保障関連2法案の趣旨説明と質疑が行われ、審議入りとなった。
*衆参両院の本会議や委員会での審議模様は、以下のページからご覧になれます。
当初、民主党や維新の党などは、衆議院我が国及び国際社会の平和安全法制に関する特別委員会の委員名簿提出を拒むとともに、少数会派も委員ポストが確保できるよう委員枠(50人)を増やすことなどを求め、早期の審議入りを拒否してきた。21日の衆議院議院運営委員会理事会で、与党が丁寧な委員会運営を行うことを約束したことから、民主党・維新の党・共産党は委員名簿の提出に応じ、委員長人事を決める特別委員会を22日に開催することで合意した。
22日の特別委員会<委員45人>で、元防衛大臣の浜田靖一氏(自民党)が互選で委員長に選出された。自民党<委員28人>は、特別委員会の理事に、前防衛大臣の江渡聡徳氏(与党の筆頭理事)はじめ、岩屋毅氏や今津寛氏など安全保障法制整備に関する与党協議会メンバーらを重点的に配置する布陣をとった。一方、民主党<委員7人>は、発信力を重視して長妻代表代行を野党の筆頭理事に就任したほか、党内バランスを考慮した委員人事となった。維新の党<4人>理事には与野党に人脈をもつ下地幹郎氏が就任し、共産党<委員2人>は志位委員長自らが委員として論戦に挑む。
特別委員会後、審議の進め方について与野党理事が協議した。菅官房長官ら7閣僚の常時出席を求めた野党側に対し、与党側は中谷大臣と岸田外務大臣にとどめるべきと主張し、与野党が激しく対立して協議は平行線を辿った。また、安倍総理が特別委に出席する回数や、与野党の質疑時間の配分、審議日程なども調整が難航した。
その後も断続的に非公式に与野党協議を重ねた。25日の特別委員会理事懇談会で、与野党は、特別委員会を26日の衆議院本会議後に開催して趣旨説明を、27日に実質審議入りし、28日に安倍総理と関係閣僚出席のもと審議を行う日程で合意となった。29日に関係閣僚が出席する一般質疑、6月1日に安倍総理や関係閣僚が出席する集中審議を行うことも申し合わせた。また、野党に配慮して十分な審議時間が確保することを条件に、常時出席する閣僚は中谷大臣と岸田大臣とすることや、6月以降の審議ペースを週3回とすることでひとまず折り合った。
【与野党論戦がスタート】
26日の衆議院本会議では、中谷防衛大臣兼安全保障法制担当大臣が関連2法案の趣旨説明を行った。その後、与野党各党の代表が質疑に立ち、これらに対する答弁を安倍総理らが行った。
安倍総理は「グレーゾーンから集団的自衛権まであらゆる事態に切れ目のない対応を行うことが可能になる」と関連2法案の成立意義を説明したうえで「誠実な説明を尽くし、平和を願う全ての国民、国会議員とともに実現に全力を尽くす決意」と、通常国会での確実な成立を期していく意欲を改めて示した。
これに対し、野党各党は、従来の憲法解釈との整合性や、武力行使の新3要件の具体的な判断基準、集団的自衛権行使の範囲、自衛隊の活動拡大に伴うリスクがどこまで高まるかなどについて追及した。
安倍総理は、自衛隊活動の範囲拡大で多国間の戦闘に巻き込まれるなどのリスクが高まるのではないかとの野党側の批判に、「現在の法制では日本のため任務につく米軍が攻撃を受けても日本は何もできない。日米同盟が完全に機能すると示すことで抑止力が高まり、日本が攻撃を受ける可能性は一層なくなる」と、抑止力強化の重要性を訴えた。
また、武力行使の新3要件について「国際的にも例のない厳しい基準で、恣意的に解釈できるものではない」と強調するとともに、集団的自衛権を行使できる存立危機事態の判断基準を「国民生活に死活的な影響が生じるか否かを総合的に評価」したうえでとし、「単に国民生活や国家経済に打撃が与えられたことや、生活物資が不足することをもってのみで存立危機事態に該当するものではない」と、単なる経済的影響だけでは該当しないと見解を示した。さらに、「必要最小限度のものとして(武力行使の)新3要件を満たすことはありえる」との認識を示したうえで、外国領域での自衛隊による機雷掃海は「民間船舶の安全な航行を確保することが目的で、性質上もあくまで受動的、限定的な行為」であり、武力行使を目的に武装部隊を他国領域へ送る海外派兵とは性質が異なる点を強調した。
このほか、自衛隊活動の範囲拡大により自衛隊員のリスクが高まるのではないかとの批判に、安倍総理は、これまで「リスクとは関わりがない」(20日の党首討論)としていたが、「隊員のリスクを極小化するための措置をしっかりと規定している。それでもリスクは残る。あくまでも国民の命と平和な暮らしを守り抜くために自衛隊員に負ってもらうものだ」と軌道修正を図った。中谷大臣は「補給・輸送などの支援活動は危険を回避し、活動の安全を確保した上で実施するものだ」と補足した。
また、野党が「一般に海外派兵は許されない。武力行使を目的として海外の領土や領海に入っていくことは許されない」(20日の党首討論)、「一般に自衛のための必要最小限度を超えるもので、憲法上許されない」(26日の衆議院本会議)と答弁している安倍総理と、武力行使の新3要件にあてはまれば、憲法上は機雷掃海や敵基地攻撃など他国領域での武力行使も許されないわけではないと発言している中谷大臣や菅官房長官との説明の食い違いも問題視している。この点について、中谷大臣が26日の閣議後の会見で「総理が述べたことと私が申し上げたことには全く矛盾がない。過去の答弁とも整合性はとれている」「海外派兵の答弁も、存立危機事態の憲法上の問題もしっかりと整合性が取られている」と反論した。そのうえで、難解さが残り誤解されやすい状況も踏まえ、「国会論戦で納得いただけるように説明していきたい」と述べた。
27日から特別委員会で実質審議入りとなる。与野党とも幹部級が質疑に立つ予定で、いよいよ与野党論戦が本格化する。与党側は、安倍総理や関係閣僚から分かりやすい答弁を引き出すべく、与党協議会座長を務めた高村自民党副総裁ら法案作成に関わった当事者たちが質問する。一方、野党側も、民主党の岡田代表や、維新の党の松野代表らが質疑に臨むようだ。
また、関連法案の内容をめぐる論戦にとどまらず、審議日程などをめぐっても波乱含みの展開が予想される。通常国会の会期末(6月24日)前に衆議院通過・参議院送付のうえ、会期を大幅延長して成立させる方針の与党は、通常国会での成立は譲らないものの、審議時間を十分に確保するとともに丁寧な答弁を行っていくことで、野党との衝突をできるかぎり回避していきたいとしている。
しかし、野党側は、成立阻止に全力を挙げる民主党や共産党などが徹底追及の構えをみせているほか、是々非々で対処する方針の維新の党も慎重審議を求めていくことでは他の野党とも歩調を合わせている。また、維新の党は、武力行使にいたらないグレーゾーン事態に対処する「領域警備法案」を、民主党と共同で国会提出することもめざしている。
【重要法案ごとに審議動向のチェックを】
国会では、21日、法的分離による送配電部門などの中立性確保や小売料金の規制撤廃、電力・ガス・熱の取引の監視を行う電力・ガス取引監視等委員会の設置など柱に、エネルギー分野の一体的なシステム改革を実施するための「電気事業法等改正案」が衆議院本会議で与党などの賛成多数により可決し、参議院に送付された。
22日の衆議院本会議では、昨年の衆議院解散・総選挙により臨時国会で廃案となったが、安倍総理が重要課題として位置付け通常国会に再提出した「女性の職業生活における活躍の推進に関する法律案」の趣旨説明と質疑が行われ、審議入りとなった。同法案は、女性の採用・昇進機会を増やす取り組み加速を促すため、従業員301人以上の大企業、国・地方自治体に、採用者や管理職に占める女性割合、勤続年数の男女差などを把握したうえで、自主判断で最低1項目の数値目標を盛り込んだ行動計画の作成・公表を義務化することを柱としている。有村女性活躍担当大臣は、非正規雇用の女性への対応を重要テーマと位置付け、「国が策定する基本方針や行動計画指針に必要な取り組みを盛り込む」と答弁した。
26日、衆議院厚生労働委員会で審議されている「労働者派遣法改正案」に関連して、民主党と維新の党、生活の党が、非正規労働者の待遇を改善するねらいから、同じ職務を行う労働者は正規・非正規にかかわらず同じ賃金を支払う同一労働・同一賃金を進める「労働者の職務に応じた待遇の確保等のための施策の推進に関する法律案」を衆議院に共同提出した。
野党3党は、労働者派遣法改正案とともに審議するよう与党側に求める方針だ。ただ、労働者派遣法改正案をめぐっては、民主党や共産党、社民党などが「生涯派遣で低賃金の労働者が増える」「派遣の固定化、不安定化につながる」と改正案成立の阻止を掲げて徹底抗戦する構えを鮮明にしているのに対し、維新の党は同一労働・同一賃金の環境整備が大前提としつつも「現行法の改善は必要」と、政府案に一定の理解を示している。このことから、野党3党がどこまで連携するかは未知数だ。
現在、「安全保障法制」「労働法制」「電力自由化」「農協改革」「女性活躍推進」など、重要法案が同時進行で審議されており、法案審議・採決日程などをめぐって与野党の駆け引きがそれぞれ繰りひろげられている。それぞれどのような日程で、どういった論戦が繰りひろげられているのかを整理しながら、ウォッチしていくことが大切だろう。