政策工房 Public Policy Review

霞が関と永田町でつくられる“政策”“法律”“予算”。 その裏側にどのような問題がひそみ、本当の論点とは何なのか―。 高橋洋一会長、原英史社長はじめとする株式会社政策工房スタッフが、 直面する政策課題のポイント、一般メディアが報じない政策の真相、 国会動向などについての解説レポートを配信中!

November 2014

高橋洋一・株式会社政策工房 代表取締役会長】 

 現代ビジネス24日掲載された。筆者の「衆院解散「大義なし」批判は財務省からのアメを失った増税派の遠吠えにすぎない」(http://gendai.ismedia.jp/articles/-/41199)の中のグラフについて、池田信夫氏が捏造だといった(ikedanobuo.livedoor.biz/archives/51920669.html)。
現時点では、その記事は削除されているが、こちらには謝罪もない。まったく非常識な話だ。

 

 一応数字を確認しておこう。これらは内閣府の統計サイト(http://www.esri.cao.go.jp/jp/sna/data/data_list/sokuhou/files/2014/qe143/gdemenuja.html)にあるものをエクセルで計算しただけである。

 201379月期から1012月期、駆け込み需要のあった1413月期、その反動減と消費増税による需要後退のあった46月期、そしてこの79月期の実質GDPの対前期比はそれぞれ、2.4%増、1.6%減、6.7%増、7.3%減、1.6%減である(下図)。

141127高橋さん①
                                                  (表作成:政策工房)
 
 マスコミはこの数字ばかり報道しているが、傾向を見るためには、それぞれの前年同期比をみるといい。それらの数字は、
2.5%増、2.3%増、2.9%増、0.2%減、1.2%減となっている(下図)

141127高橋さん②
                                    
  (表作成:政策工房)

 これを見ると、消費増税の4月以前には、2%程度の実質経済成長をしていたが、消費増税後の4月以降はマイナス成長になったことがすぐわかる。

 

 伸び率だけではわかりにくい場合もあるので、実際の実質GDPの金額(季節調整済み、年換算)を入れてみることも経済の動きを理解するのに便利だ。消費増税の影響がなく、その前の年2%の伸びを維持していたらという場合も計算できる(下図)。


141127高橋さん③
                                    (表作成:政策工房)


 
 消費増税で15兆円ほどのGDPを失った。この場合、国と地方を合わせた税収も3兆円ほど失っただろう。つまり、増税して、景気が悪くなって、減収になったと最悪のパターンだ。

 

 池田信夫氏らのデフレ・増税論者は、増税による景気悪化を予測できず、今の景気悪化も分析できず、その上、正しく景気予測をした人を誹謗中傷するのはまったくおかしい。 


 
 

 

先週21日、政府が憲法7条にもとづく解散詔書を閣議決定し、その後に開かれた衆議院本会議で解散となった。これにより、第187臨時国会は会期末(11月30日)を待たずに事実上の閉会となった。

今回の解散・総選挙を「大義のない身勝手な解散」などと批判する民主党や維新の党などは、衆議院本会議で伊吹議長が解散詔書を読み上げた後、慣例の万歳三唱をしないことで対決姿勢を鮮明にした。与野党各党とも事実上の選挙戦に突入している。


*衆参両院の本会議や委員会での審議模様は、以下のページからご覧になれます。

  衆議院インターネット審議中継参議院インターネット審議中継  

 

【政府提出法案、成立率は67.7%】

与党は、21日の衆議院解散を前に、以下の主要法律を駆け込みで可決・成立させた。

民主党など野党は、安倍総理が衆議院解散を表明したことに「解散を決めた内閣のもとでの審議には応じられない」「信を問うとは国会の機能がいらないということだ」(民主党の川端国対委員長)などと反発して、緊急性の高い法案など一部を除き審議・採決を欠席した。また、当初、内閣不信任決議案を提出して安倍総理との対決姿勢を鮮明にすることも野党内で検討されていた。しかし、決議案そのものが衆議院を解散する口実ともなりかねないとの懸念が生じたため、決議案提出を見送ることとした。

 

まち・ひと・しごと創生法

 地方創生の基本理念などを定め、地方での魅力ある雇用創出や結婚・出産・育児の環境整備などを着実に実施するよう客観的指標を盛り込んだ平成27年度からの5カ年計画「総合戦略」の策定を国・地方自治体に努力義務を課す

○改正地域再生法

 地域支援をめぐる各省への申請窓口を一元化するとともに、地域活性化に取り組む自治体を支援

○改正外国人漁業規制法・漁業主権法<議員立法>

 小笠原諸島周辺海域での中国漁船によるサンゴ密漁問題を受けて、外国人による日本領海内などでの違法操業や、排他的経済水域(EEZ)で無許可操業などに対する罰則強化

○空家対策推進特別措置法<議員立法>

 国土交通省・総務省に基本方針策定を義務付けるほか、自治体による固定資産税納税情報を活用した所有者調査や立ち入りを可能にし、所有者に撤去・修繕に係る命令権限を付与

○改正薬事法<議員立法>

 検査・販売停止命令を出せる危険ドラッグの対象を拡大し、全国一律で販売・広告の禁止などの規制・罰則強化

 

臨時国会では、閣僚の政治とカネをめぐる疑惑追及などで法案審議が停滞し続けたため、政府が新たに提出した31法案のうち成立したのは21本にとどまった。継続法案では、改正テロ資金提供処罰法や、専門的有期雇用労働者等特別措置法が成立している。

 

 

【重要法案も審議未了で廃案、来年の通常国会で再提出へ】

解散のあおりを受け、重要法案を含む以下の法案などが審議未了のまま廃案となった。

成立できなかったこれら法案は、来年の通常国会で再提出して成立をめざすこととなる。通常国会で審議されれば、成立は来年度予算・予算関連法などが成立する来年4月以降になる見通しだ。

 

○女性の職業生活における活躍の推進に関する法律案

 女性の採用・昇進機会を増やす取り組み加速を促すため、従業員301人以上の大企業、国・地方自治体に、採用者や管理職に占める女性割合、勤続年数の男女差などを把握したうえで、自主判断で最低1項目の数値目標を盛り込んだ行動計画の作成・公表を義務化

○労働者派遣法改正案

 企業の派遣受け入れ期間の上限規制を撤廃(最長3年、一部の専門業務除く)する一方、派遣労働者一人ひとりの派遣期間の上限は原則3年に制限して、派遣会社に3年経過した後に派遣先での直接雇用の依頼や、新たな派遣先の提供などの雇用安定措置を義務化

○国家戦略特区法改正案

 外国人の起用要件の緩和など、国家戦略特区でのさらなる規制緩和の追加

○五輪・パラリンピック特別措置法案

 2020年の東京オリンピック・パラリンピックに向けて、専任の五輪担当大臣を新設するため閣僚枠を拡大

○風俗営業法改正案

 クラブやダンス教室に係る規制の緩和

○特定複合観光施設区域整備推進法案<議員立法>

 カジノを含む統合型リゾート施設(IR)の整備の推進

 

 このほか、19日、与野党8党は、6月に施行された改正国民投票法で憲法改正国民投票の投票年齢を18歳以上に引き下げることに伴う措置として、選挙権年齢を現行の20歳以上から18歳以上に引き下げるとともに、未成年者が買収などの悪質な選挙違反をした際には成人と同じ刑事裁判を受けさせることで合意し、衆議院に会派を有しない新党改革を除く7党で公職選挙法改正案<議員立法>を衆議院に共同提出した。同法案は、解散に伴い廃案となったが、来年の通常国会で改めて提出して成立をめざす方針だ。

 

 

【安倍総理、アベノミクスの正当性を改めてアピール】

 政府は、衆議院本会議での解散後、臨時閣議を開き、第47回衆院選「12月2日公示・14日投開票」の日程で実施することを正式決定した。

 

 安倍総理は21日の記者会見で、今回の解散を「アベノミクス解散」と位置付け、「アベノミクスを前に進めるか、それとも止めてしまうのか、それを問う選挙」と、アベノミクスの是非について衆議院選挙で国民の審判を仰ぐことを改めて強調した。

アベノミクス効果や円高の弊害などを述べたうえで、「経済の好循環を力強く回し続けることで、全国津々浦々に至るまで、景気回復を実感できる。景気回復、この道しかない」「他に選択肢があるのか国民に伺いたい」と力説した。また、個人消費の落ち込み、中小企業支援などの底上げ、円安・燃料費や原材料輸入価格の高騰などへの対処については、的を絞った経済対策と衆院選後に編成する補正予算案でスピード感を持って対処する方針を表明した。

 

 消費税率10%への引き上げの18カ月延期について、財政再建・社会保障制度改革を着実に進めるため、消費税率引き上げを延期するための関連法改正案では景気弾力条項を削除して、2017年4月に実施することを明言した。安倍総理は、「野党も同意しているので選挙の争点にはならない」との見方があることを念頭に、野党がどのタイミングで消費税率を引き上げるかについて明示していないとして、争点になりうるとの認識を示した。

延期により影響を受ける社会保障の充実に向けた財源確保・スケジュールについては、「給付と負担の関係からすべての社会保障政策を行うのは難しい」と、給付抑制など見直しが必要と認識を示したうえで、待機児童の解消促進を柱とする子ども・子育て支援新制度の実施は予定どおり来年4月から実施する考えを明らかにした。

 

 

【各党の選挙公約に注目を】

 自民党1強の政治情勢の転換をめざす野党側は、「政権行き詰まりを隠す解散」「アベノミクス失敗隠し解散」「スキャンダル隠しの解散」「国民そっちのけ解散」「追い込まれた解散」などと命名して、安倍内閣批判を強めている。

 

厚みのある中間層の形成をめざして、「今こそ、流れを変える時。」と政策転換を主張する民主党は、景気回復の恩恵が大企業・高所得者を中心に偏っていることや、実質賃金の低下・金融緩和に伴う過度な円安進行・賃金上昇を上回る物価高などを指摘して、アベノミクスのマイナス面を浮き彫りにしたい考えだ。

「身を切る改革。実のある改革。」としがらみのない改革を主張する維新の党や、「次世代が希望を持てる日本を」を掲げる次世代の党は、景気の足踏み状況や経済指標の頭打ち感、業界団体や族議員の抵抗などで岩盤規制改革が進んでいないことなどを捉えて、「アベノミクスの限界」「徹底した規制改革」を主張している。

このほか、集団的自衛権の行使容認を含む安全保障法制や、原発再稼働、沖縄基地移設問題、第2次安倍内閣の政権運営・政治手法などについても選挙の焦点にしたい考えだ。

 

 次世代の党は21日、維新の党は22日、民主党が24日、自民党が25日と、それぞれ衆議院選挙公約を発表した。「いまこそ、軽減税率実現へ。」と、生活必需品の消費税率を低く抑える軽減税率の導入を公約の柱に据える公明党は、27日に選挙公約を発表する。その他の政党も近く公約を発表する予定だ。

 今回の選挙は、公示までの期間も短いだけに短期決戦となる。与野党各党がどのような政策を掲げ、政策論争がどこまで深まっていくのだろうか。まずは各党の選挙公約を見比べ、それぞれの政策・主張ポイントを抑えておくことが大切だろう。 

【山本洋一・株式会社政策工房 客員研究員】

 安倍晋三首相が21日、衆議院を解散した。新聞各紙は今月前半から年内解散だと繰り返し報じてきたが、「マスコミが煽っているだけ」と疑う声も根強かった。「マスコミが解散に追い込んだ」との見方すらあるが、実態はどうなのか。解散報道の舞台裏を探ってみたい。

 
 幕を切って落としたのは読売新聞だった。今月9日付朝刊1面に「増税先送りなら解散、年内にも総選挙 首相検討」との記事を掲載。総選挙の日程として「122日公示、14日投票」か「9日公示、21日投票」が有力だと具体的に報じた。

 
 当日は日曜日で夕刊がなく、翌10日の朝刊も休刊日だったが、10日付夕刊では数紙が「安倍政権内に解散論浮上」(朝日新聞)などと後追い記事を掲載。11日付朝刊以降は各紙とも年内解散を前提とした紙面構成となった。

 
 解散報道で終始リードしたのは読売新聞。朝日や日経、毎日新聞など他紙は先頭をひた走る読売の後ろをついていくだけで必死な様子だった。結果的に最初の報道通り、首相は増税の先送りと122日公示、14日投票という日程での解散に踏み切った。

 
 読売はかねて安倍政権に肯定的な立場をとってきたため、今回の報道も「政権側による意図的なリーク」との見方がある。しかし、「政局ネタのスクープ」が大好物である読売が政権幹部から確信的な情報を得ていたならば、最初の報道の際に一面トップで大々的な見出しをつけていたはず。実際には二番手(ワキ)記事だったことから、確信が持てないまま報道に踏み切ったことをうかがわせる。

 
 読売新聞の根拠は「複数の政府・与党幹部」。もしも取材源が安倍首相本人や菅義偉官房長官、自民党の谷垣禎一幹事長らであるならば、確かな根拠があることを示すためにも「政府高官」とか「与党首脳」などと記したはず。「複数の幹部」などと濁したということは政権中枢から少し離れた議員や官僚たちの情報を総合的に判断し、報道に踏み切ったとみられる。

 
 新聞各紙の分析記事を総合すると、首相が解散を具体的に検討し始めたのは女性閣僚がダブル辞任した後の10月後半。アジア歴訪に出発する前の117日には自民党の谷垣禎一幹事長と公明党の山口那津男代表に「年内解散を検討している」と伝えたという。

 
 首相から直接話を聞いた谷垣、山口両氏はそうそう漏らさないが、そこから側近議員らに伝えられていくうちに、どこかで情報は漏れる。しかし、マスコミも伝聞情報では確信が持てないので、読売のように「先送りなら」とか「年内にも」などと逃げをうって報じる。他紙の追いかけ記事にある「解散論浮上」などという書き方は、読売の取材源にすらたどり着けなかったことを表している。

 
 年内解散論が報じられるようになってからも、首相は「まったく考えていない」(9日)と否定し続けた。しかし、政治家は本音と建前を使い分ける職業。記者へのコメントとは別に、首相本人、もしくは秘書官や側近議員がオフレコベースで本音をレクチャーしている。否定した後も報道が出続けたということは、首相側が火消ししなかったことを意味している。

 
 一部で「マスコミが解散風を吹かせ、首相を追い込んだ」との評があるが、政治取材の実態をまったく知らない人のコメントだ。個別には誤報も多いマスコミ報道だが、各紙が一斉に同じ方向の記事を書くときは、必ず根拠がある。裏で真相を説明している人物がいる。みんなで寄って集って虚報を書くほど、横の連携もとれていない。

 
 さらに、大手新聞やNHKの記者は、国民の目に触れないところで、首相にも直接取材している。政治面の「首相動静」には出てこないが、こっそり首相官邸に入ったり、ホテルで密会したり、携帯電話で話したり。新聞が「首相、解散を決断」などと確定的に書くときは、今回の場合はここ数日のことだが、基本的に首相本人から言質をとっている。

 
 解散によって政局報道が一段落し、今ごろかつての同僚記者たちはほっと胸をなでおろしているだろう。しかし、選挙はこれからが本番。選挙の争点や各党の政策の違いを丁寧に解説してくれるような、中立公正な記事を期待したい。

【7-9月期GDP速報、2四半期連続でマイナス】

 今週17日、2015年10月から消費税率10%に引き上げるか否かの判断材料のひとつとされている、2014年7-9月期の国内総生産(GDP、季節調整済み)1次速報が発表された。

 

GDP1次速報では、物価変動の影響を除いた実質で前期比0.4%減、年率換算1.6%減と事前の予測を大きく下回り、2四半期連続のマイナス成長となった。

今年4月の消費税率8%への引き上げにより景気が大きく落ち込んだ4-6月期(年率7.3%減)からの回復が遅れたことについて、増税に伴う物価上昇や円安影響に所得増加が追い付かないうえ、夏場の天候不順要因も重なって、GDPの約6割を占める個人消費(前期比0.4%増)が伸び悩んだことにある。

また、好調な企業業績を背景に、けん引役として期待された設備投資(0.2%減)や、住宅投資(6.7%減)などの低調も影響したとみられている。

 

甘利経済再生担当大臣は「景気の好循環は続いている」との認識を示しつつ、「景気後退という言葉で簡単に片付けられない」「消費マインドの萎縮が一番よくない。将来に向けて所得環境が連続して改善していくという安心感が必要だ」と強調した。

菅官房長官も、消費税率8%への引き上げについて「間違いなかった。このことによって財政健全化に大きな役割を果たした」と強調したうえで、「全体的には緩やかな回復基調にあり、アベノミクスによる日本経済再生の流れは底堅い」との見解を示した。

 

 

【経済対策の策定・補正予算の編成を指示】

消費税率引き上げ是非の最終決断にあたって、安倍総理がもう一つの判断材料としているのが、11月4日からスタートさせた政府の消費税率引き上げが日本経済に与える影響などを検証する「今後の経済財政動向等についての点検会合」での有識者ヒアリングだ。5回にわたって開催された点検会合は、18日に終了した。甘利経済財政担当大臣は、ヒアリング結果を安倍総理に報告を行った。

 

点検会合では、意見を述べた識者45人のうち、「一時的なマイナス成長で、決めたことを実行すべき」(西岡アール・ビー・エス証券東京支店チーフエコノミスト)、「再増税に伴う景気下押し圧力には経済対策で対応可能」(平野・全国銀行協会会長)、「少子化対策はここ1~2年が重要で、先送りは致命的」(大日向・恵泉女学園大大学院教授)など、予定通り消費税率引き上げるべきとの意見が6割強となった。また、景気の先行き懸念が強まっていることもあり、消費税率引き上げの前提として、経済対策を求める声も多くあった。

一方、「日銀の支援の下で経済が成長すれば、税収は増える。増税は不要」(宍戸・筑波大名誉教授)、「消費税増税で経済は痛んでおり、税率を8%から5%に戻すべき」(若田部・早大政治経済学術院教授)、「景気回復の実感が得られるまで反対」(吉川・全国消費生活相談員協会理事長)といった反対・慎重論や延長論も出た。

 また、「デフレ脱却を最優先にするべきで、1年半程度延ばす選択肢もある。期限を切り、引き上げ時期を明示して対処するべき」(白石・読売新聞グループ本社社長)、「先送りするとしても時期は明示するべき」(清原・三鷹市長)など、消費税率引き上げ時期を明示すべきだとの意見も出された。

 

1次速報値が予想を大きく下回り、2四半期連続マイナスとなったことで、2014年度全体もマイナス成長になる可能性があり、景気の後退局面に入っているのではないかとも指摘されている。また、消費税率引き上げの延期でその時点での景気の落ち込みは防げたとしても、景気へのプラス効果は限定的に留まる可能性もありうるとの見方も出始めている。

 

こうした景気の失速懸念や先行き不安の強まりに対処するべく、安倍総理は、18日の経済財政諮問会議で、地方経済活性化策などを柱とした新たな経済対策の策定と、それを裏付ける補正予算案の編成を関係閣僚に指示した。

具体的には、低所得者向けの現金給付やガソリン・灯油購入費の助成、地方自治体が配る地域商品券の財源手当て、円安・燃料費高騰の影響を緩和する中小企業・事業者対策、エコポイントの復活も含めた住宅購入促進策などが検討されている。公共事業関係については、災害対策に限定するとみられている。

補正予算案の規模は2兆~3兆円を軸に調整される予定で、財源は好調な企業業績を受けた税収の上ぶれなどを活用し、国債の追加発行は避ける方針だという。

 

 

【安倍総理、衆議院解散・総選挙を表明】

18日、安倍総理は記者会見を行い、消費税率引き上げの実施時期を1年半後(2016年4月)に延期して、重要政策の変更について国民に信を問うとともに、アベノミクス・成長戦略の継続是非を問うべく、衆議院を11月21日に解散して衆議院選挙の断行を表明した。

安倍総理は、消費税率の再引き上げにより「個人消費を押し下げ、デフレ脱却が危うくなる」との認識を示したうえで、経済情勢が悪いときに消費税率引き上げを先送りできると規定した社会保障・税一体改革関連法の景気弾力条項(付則18条)を適用した理由について「デフレを脱却し、経済成長させるアベノミクスを確かなものにするため」と説明した。また、国・地方の基礎的財政収支赤字を2020年度に黒字化する財政健全化目標を堅持する観点から、「18か月後に消費税率引き上げを再び延期することはないとはっきり断言する」とも述べた。

 

政府は、安倍総理の最終判断を踏まえ、来年1月召集の次期通常国会に、社会保障・税一体改革関連法の改正案を提出のうえ、速やかに成立を図る方針でいる。その際、財政健全化に取り組む意思を市場に明示し、金利急騰・国債暴落による混乱を未然に防ぐねらいから、景気弾力条項は撤廃するようだ。

また、消費税率10%への引き上げ時に財源を充てることが前提となっている子ども・子育て支援新制度に関する法律など、社会保障関係法の改正案もあわせて国会に提出する予定だという。

 

衆議院選挙は、12月2日公示、14日投開票の日程で行う方針だ。衆議院選挙後、首相指名選挙が行われる特別国会召集や新内閣の組閣など、年内のスケジュールが立て込んでいる。来年度予算編成や税制改正大綱の策定は越年となる見通しだが、作業の遅れを最小限にとどめるためにも、14日投開票とした。

 消費税率引き上げの延期を理由に衆議院解散・総選挙は大義がないとの批判があることに対し、安倍総理は「税制は国民生活に密接に関わっている」「国民生活にとって重い決断をする以上、速やかに国民に信を問うべきだと決心した」「成長戦略を国民とともに進めていくためには、どうしても国民の声を聞かなければならないと判断した」と、重要政策の変更について国民の信を問うのは「民主主義の王道」であり、「景気回復を実現したうえでの消費税率を引き上げる」ことについて理解を求めた。

 

 安倍総理はじめ与党側は、政権発足直前の成長率や物価上昇率、失業率、有効求人倍率、賃金の伸びなどを示して、民主党政権時代の停滞から飛躍した点をアピールしつつ、デフレ脱却・経済再生を最優先に取り組む「アベノミクス」継続の重要性を掲げて、3分の2超の議席の維持をめざしている。衆議院選挙で自民党・公明党で過半数を維持できなかった場合、安倍総理は、アベノミクスが否定されたとして退陣する意向を示し、強い決意を示した。

 

 

【野党各党、大義なき解散・総選挙と批判】

野党各党は、2四半期連続でマイナス成長となったことについて、「アベノミクスの失敗」と一斉に批判した。また、安倍総理が、衆院議員の任期を2年近く残したまま衆議院解散・総選挙に踏み切ったことに、「大義名分なき解散・総選挙」などと一斉に反発した。

 

増税分を社会保障に充てることを前提に消費税率引き上げを予定通り実施すべきと主張してきた民主党は、(1)消費税率引き上げの先送りはアベノミクスの失敗に原因があること、(2)国会議員の定数削減などの「身を切る改革」が先の通常国会で実現されなかったことや、社会保障の充実・安定が実行されていないことなど、安倍内閣の約束破りで自民党・公明党との3党合意の前提が崩れたとして、消費税率引き上げの延期容認に転じた。これにより、主要政党の足並みは増税凍結でほぼ揃った。消費税率引き上げ延期を争点に国民の信を問うことは「選択肢のない大義なき総選挙」でしかないと、野党側は安倍総理の姿勢に反発している。

また、厳しい経済状況のなかで総選挙を実施して政治空白をつくることへの疑問が呈されているほか、安全保障法制や原発再稼働、沖縄・普天間基地移転問題などの争点隠し、相次ぐ閣僚の「政治とカネ」疑惑の隠蔽ではないかとの批判、野党側の準備や選挙協力が進まないうちに踏み切るほうが有利といった自民党の党利党略だとの指摘などもされている。

 

 

【女性活躍推進法案と派遣法改正案、審議未了・廃案へ】

安倍総理が衆議院解散・総選挙の断行を表明したことを受け、与野党とも公約づくりや選挙準備を急ピッチで進めており、野党間では選挙協力などの模索も続けてられている。解散・選挙モードとなったことで、自民党は、臨時国会中に成立させる法案を絞り込んだ。

 

政府・与党は、地方創生の基本理念などを定め、地方での魅力ある雇用創出や結婚・出産・育児の環境整備などを着実に実施するよう客観的指標を盛り込んだ平成27年度からの5カ年計画「総合戦略」の策定を国・地方自治体に努力義務を課している「まち・ひと・しごと法案」、地域支援をめぐる各省への申請窓口を一元化するとともに活性化に取り組む自治体を支援するための「地域再生法改正案」を、21日までに参議院本会議で採決し、成立させる方針だ。

これに対し、対決姿勢を強める野党は、小笠原諸島周辺海域での中国漁船によるサンゴ密漁問題を受けて、外国人による日本領海内などでの違法操業などに対する罰則強化を図るための外国人漁業規制法改正案や、危険ドラッグの取り締まりを強化する薬事法改正案など、緊急を要する法案などを除いて、国会審議を拒否することで足並みをそろえている。

参議院自民党は、19日に安倍総理出席のもとで質疑を行い、20日に参考人質疑を行ったうえで採決、21日の参議院本会議で採決するシナリオを描いているが、想定通りに進むかは微妙な情勢だ。

 

地方創生関連2法案と並ぶ重点課題に位置付けられてきた、女性の採用・昇進機会を増やす取り組み加速を企業などに促すための「女性の職業生活における活躍の推進に関する法律案」についても、与党は、臨時国会での成立を事実上断念した。女性活躍推進法案は、12日の衆議院内閣委員会で審議入りとなり、自民党が12日の衆議院内閣委員会理事会14日の採決を提案したが、民主党など野党側が難色をしめしたため、折り合いがつかなかった。その後も、与野党協議のメドは立っていない。このことから、このまま審議未了・廃案となる見通しだ。

 

 派遣労働者の柔軟な働き方を認めるため、企業の派遣受け入れ期間の最長3年という上限規制を撤廃(一部の専門業務を除く)する一方、派遣労働者一人ひとりの派遣期間の上限は原則3年に制限して、派遣会社に3年経過した後に派遣先での直接雇用の依頼や、新たな派遣先の提供などの雇用安定措置を義務づける「労働者派遣法改正案」について、与党は、臨時国会での成立を事実上断念した。

当初、与党は、12日にも衆議院厚生労働委員会で採決する構えだったが、野党の反発により審議が進まなかった。与野党協議の結果、エボラ出血熱への対策を強化する感染症法改正案や、危険ドラッグを規制する薬事法改正案を優先して審議することで折り合った。与党側は、野党の反対を押し切ってまで審議を強行するのは得策ではないと判断した。改正案は、審議未了により廃案となる見通しだ。

 

安倍総理の衆議院解散・総選挙の正式表明を受けて、与野党とも選挙モードに入った。国会の残された審議時間は、極めて限られている。衆議院選挙を意識した与野党の駆け引きが続いているなか、重要法案はじめ各法案のうち、どの法案が成立し、何が審議未了により廃案となるのかについてもみておいたほうがいいだろう。

高橋洋一・株式会社政策工房 代表取締役会長】 

 

 先月の本コラム(消費増税有識者と衆院解散)に書いたとおりの展開になってきた。11月19日(大安)解散-12月14日(友引)総選挙というスケジュールで、解散風が吹いている。

 

 いうまでもなく解散は首相の専権事項である。安倍首相が外遊中なので、すべては帰国してからだが、もはや現場は動き出しているので、止まらないだろう。

 

 いずれにしても、79月期のGDPは、消費増税の判断をするうえでも注目されているが、その一次速報は1117日に公表される。消費増税10%への再引き上げを行うなら、本来GDPはどれぐらいの数字でなければならないだろうか。

 

 ちょっと数字を使って頭の体操をしてみよう。201413月期、46月期の実際の実質GDP(年換算)は、それぞれ、535.0兆円、525.3兆円だった。13月期では駆け込み需要、46月期ではその反動減と消費増税による需要減があった。

 

 もし今年4月の消費増税がなかったなら、13月期、46月期は、それぞれ前年同期比2%の成長があっただろう。実際、201379月期、1012月期ではともに2.4%の成長だったのだ。そうであれば、13月期、46月期の実質GDPは531.5兆円、536.0兆円だっただろう。となると、13月期での駆け込み需要増は、実際の535.0兆円から増税なった場合の531.5兆円を引いた3.5兆円。46月期では、その分反動減となるはずだ。しかし、それ以上に7.3兆円ほどGDPが減少しているので、それは消費増税の悪影響とみてよい(これはあくまで筆者の目の子であり、きちんとした数字ではないが、イメージはつかめるだろう)。

141113高橋さん(表作成:政策工房) 


 この消費増税の悪影響は、79月期も同じ程度で継続するはずだ。もし増税がなければ、538.4兆円のはずだが、消費増税の悪影響を受けて、それより7.3兆円少ない531.1兆円程度になってもいいだろう。これでも、消費増税の悪影響があったので、本来得られるはずのGDP538.4兆円より小さいが、増税派にとってギリギリ想定内と言えなくもない。その数字の前期比は4.5%増だ。つまり、79月期の実質GDPが前期比4.5%増なら、増税派は10%への再増税容認というだろう。

 

 もちろん、増税スキップ派の筆者にはこれでもトンでもない数字である。筆者であれば、79月期は消費増税なしの場合に本来得られているはずの前年同期比2%増の538.4兆円程度でないと再増税には賛同しかねる。ちなみに、この数字は前期比10%増(年率換算)である。 

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