政策工房 Public Policy Review

霞が関と永田町でつくられる“政策”“法律”“予算”。 その裏側にどのような問題がひそみ、本当の論点とは何なのか―。 高橋洋一会長、原英史社長はじめとする株式会社政策工房スタッフが、 直面する政策課題のポイント、一般メディアが報じない政策の真相、 国会動向などについての解説レポートを配信中!

July 2014

 ニュースサイト「dot.」にて、当社の代表取締役・原が紹介されました。

 先日、原の著書『日本人を縛りつける役人の掟 「岩盤規制」を打ち破れ!』が出版されましたが、その内容についても触れつつ、原について紹介されています。
 
 お時間ある方はぜひご覧いただきたく、ご案内申し上げます。

アベノミクスのバイブル? 『日本人を縛りつける役人の掟 「岩盤規制」を打ち破れ!』の著者は「現代の黒田官兵衛」
http://dot.asahi.com/news/politics/2014072900034.html
 

高橋洋一・株式会社政策工房 代表取締役会長】 

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月からの消費税増税後の経済を注視していた。最初にあれっと、思ったのは、627日に公表された総務省の家計調査を見たときだ。

 

 当日は、総務省から労働力調査、消費者物価指数調査が一緒に公表されていたので、マスコミはほとんどスルーした。そこで、「過去33年でワースト2!消費税増税がもたらした急激な消費落ち込みに政府は手を打てるか」(http://gendai.ismedia.jp/articles/-/39708)というコラムを書いた、予想以上の反響があった。

 

 710日に内閣府が公表した機械受注統計も悪かったので、「経済指標は軒並み「景気悪化」の兆候!「消費税10%」の是非判断が安倍政権の正念場になる」(http://gendai.ismedia.jp/articles/-/39839)、630日に国交省が公表した住宅着工統計も悪かったので、「消費、住宅、機械受注のトリプル悪化 政府の景気判断「上方修正」に疑義あり(http://diamond.jp/articles/-/56518)を書いた。

 

 こんなに悪い数字ばかりなのに、政府の見解は、「景気は持ち直している」として、景気が悪いとはいわない。717日に公表された月例経済報告や25日に公表された経済財政白書も、まったく同じトーンで書かれている。統計を見ればちょっと違うだろうと思ったので、「政府月例経済報告に異議あり!消費税増税の悪影響を認めたくない政府に騙される政治家とマスコミ」(http://gendai.ismedia.jp/articles/-/39916)、「消費税増税の悪影響を認めたくないあまりに分析までおかしい「2014年度経済財政白書」」(http://gendai.ismedia.jp/articles/-/39956)を書いた。

 

 以上で、筆者が「数字が悪い」というのは、過去2回の消費税増税の時に比べて、今回の場合が悪いという意味だ。

 

 統計数字は、健康診断でいろいろとチェックする数字のようなものだ。これらの変化を見ながら、健康状態をみていくのは、経済でも同じである。

 

 筆者が最近書いているのは、政府から公表された統計数字を見て、それがちょっと危ないところになりつつあるというウォーニングである。しかし、政府のいいぶりをみていると、数多い健康診断の中の数字で、少しでもいいところを見つけて、大丈夫ですよといっているようなものだ。筆者はメタボで、コレステロール値が基準値以上になっている。それを少し改善したからといって、それだけを強調し、大丈夫という医者なんていないが、政府の景気診断はそう言っているようなものだ。

 

 730日に公表された6月の鉱工業生産統計をみて、さすがに一部の官庁幹部や民間エコノミストたちも騒ぎ出してきた。生産指数が前月比3.3%低下したのだ。業種別でみると、15業種のうち14業種が低下、1業種が横ばいで、上昇した業種はなかった。

 

 特に在庫は問題のある数字で、意図せざる在庫が積み上がっているような数字になっている。

以下の図は、横軸に在庫、縦軸に出荷をとり、この景気回復局面をプロットそたものだ。

 

0731高橋さん

 景気循環の過程で、右回りの円を描くように動く。6月の段階で4分の3周したかのような位置になっており、これは、今後、景気が下降局面に移行しつつあることを示唆している。

 

 昨年秋に、消費税増税しても景気は心配無用といっていた民間エコノミストは8割くらいいただろう。この状況をどのように説明するのだろうか。

 先週25日、政府は、閣議で「平成27年度予算の概算要求基準」を了解した。

概算要求基準では、公共事業費や防衛費など各省庁の政策判断で柔軟に増減できる「裁量的経費」の削減(今年度予算比で一律10%抑制)や、人件費などの義務的経費の抑制(今年度予算と同額以下)する一方、「新しい日本のための優先課題推進枠」(上限3.9兆円)を設けて、地方活性化などの成長戦略などに重点配分するとしている。年金・医療など社会保障関係費については、景気回復で生活保護費や失業手当の減少を見込む一方、高齢化などに伴う自然増分8300億円(前年度比1600億円減)を加えた範囲内で予算要求を認めるとした。

 

 例年、概算要求基準段階で予算総額を示しているが、来年度は歳出上限額を設けないことなった。来年10月の消費税率10%への引き上げの判断が今年末に控えており、法人実効税率引き下げの詳細も決まっておらず、税収見通しが立たないからだ。各省庁からの要求総額(一般会計)は、初めて100兆円を突破するとみられている。

安倍総理は、閣議に先立って開催された経済財政諮問会議で「経済再生と財政健全化を両立し、メリハリのついた予算とするよう、政府を挙げて取り組んでいきたい」と述べた。政府が概算要求基準とともに示した「2015年度予算の全体像」では、(1)新規国債発行額を今年度比で抑制、(2)社会保障を聖域としない、(3)5年以上が経過した政策は原則として縮小・廃止、などの方針が掲げられた。また、財政健全化の方針を踏まえ、「前年度を上回る効率化を行う」「ゼロベースで見直す」など徹底した歳出の抑制に努めていくとしている。

8月下旬に「概算要求」を財務省提出するべく、各府省庁は、 概算要求基準にもとづいて取りまとめを急いでいる。

 

 

 安倍総理は、25日、6月に閣議決定した日本再興戦略・改定版の「早急に具体的な制度設計に着手し、速やかに実行してもらいたい」と全閣僚に指示するとともに、「地方創生」と「女性の活躍」の関連法案を秋の臨時国会に向けて準備していく意向を示した。

 急激な人口減少と超高齢化、地方経済の低迷などの課題に対応するため、省庁横断的に地域振興策を策定する「まち・ひと・しごと創生本部」(本部長:安倍総理)立ち上げに向け、25日、政府は設立準備室を内閣官房に設置した。準備室は、9月第1週にも実施する内閣改造で地方創生担当大臣が任命され次第、速やかに創生本部を発足・始動できるよう準備を進めていく。また、安倍総理は、創生本部発足に先立ち、8月中にも有識者会議を組織してヒアリングを開始する予定で、それら作業も準備室がサポートする。 

創生本部では、2060年時点の日本人口「1億人大台を維持」を掲げ、国が都道府県や経済団体と連携して取り組む具体策を盛り込んだ「2020年までの総合戦略」を来年1月にもまとめる予定で、発足後、本部会合や有識者会議を毎月開催していくという。また、次官級の関係府省庁会議も招集して、税制や地方交付税制度の見直しなどに向けた調整を進めるようだ。創生本部の発足にあたり、いかに省庁の縦割りを越えて連携・推進できる態勢を構築していくことができるかがポイントとなりそうだ。
「女性の活躍」については、指導的地位に占める女性の割合を2020年までに30%以上とする目標達成に向け、国・地方自治体・企業に女性登用の現状把握と目標設定、自主行動計画の策定などを求めるほか、役員の女性比率の記載を有価証券報告書で義務づけるなどを盛り込んだ新法を策定する方針だという。また、女性登用状況に関する企業情報を一元化した総合データベース化なども進めていくという。

 

 

国会議員の定数削減を含む衆議院選挙制度改革を検討する第三者機関「衆院選挙制度に関する調査会」の人選について、伊吹衆議院議長は、佐々木毅・元東京大学総長を座長に起用する意向を固めた。このほか、メンバーに地方自治体首長や経済界、法曹関係者、マスメディア関係者など15人程度が選ばれる見通しだ。伊吹議長は、29日の衆議院議院運営委員会理事会で調査会メンバーについて与野党に報告する。8月にも調査会の初会合が開催される予定だ。

 

 議員1人あたりの人口格差(1票の格差)是正策に向けた参議院選挙区制度改革をめぐっては、25日、参議院各会派でつくる「選挙制度協議会」の会合が開催された。

会合では、新党改革と生活の党が、脇座長(自民党参議院幹事長)が提示した、議員1人あたりの有権者が少ない隣接選挙区同士をあわせて1選挙区とする「合区案」に賛成することを表明した。公明党や日本維新の会・結いの党など5会派は、複数の都道府県を1選挙区とし複数名を選出する「ブロック案」を主張した。

 

参議院自民党は、座長案に賛否両論の意見が党内にあると報告したうえで、現行の都道府県単位の選挙区を維持しつつ有権者数の少ない県の選挙区に有権者数の多い隣接県の一部地域を編入する「選挙区域調整案」(仮称)を試案として提示した。ただ、編入される側に抵抗感があることも留意して、対象地域などの具体的な編入案を示さなかった。選挙区画定審議会のような中立的機関に委ねることも視野に入れているという。

 

参議院第1党の自民党と、参議院第2党の民主党が、ブロック案に「選挙区が広くなり、議員が地域代表という趣旨が薄れる」などと反対しているため、協議会でブロック案が採用される可能性は低い。とはいえ、自民党と民主党が座長案への賛否も曖昧にしたままで、与野党合意のうえ秋の臨時国会に関連法案を提出できるかはいまだ不透明だ。

特に、自民党は「調整案」で党内調整できるかも微妙な状況で、党としての結論が出ていない状態にある。このため、他会派から「与野党協議が進展しないのは、自民党が統一見解を提示しないからだ」といった批判も出ている。

 

 

予定されている内閣改造・自民党役員人事について、官邸は、概算要求のとりまとめ状況や9月上旬の外交日程などを踏まえ、9月第一週3~5日の間に実施する方向で調整に入った。また、石破幹事長は、所属議員に副大臣・政務官の役職希望についての聞き取りを行う予定だという。

今回の内閣改造では、菅官房長官や麻生副総理兼財務大臣、岸田外務大臣、甘利経済再生担当大臣らを留任させる一方、大幅な内閣改造になるのではないかとみられている。特に、新設する「地方創生」や「集団的自衛権行使容認を含む安全保障法制の整備」の担当大臣の人選、女性閣僚の登用、党の人事や資金の配分に大きな権限を持つ幹事長職にある石破氏の処遇などが注目されている。

 

 

8月下旬の概算要求において、推進枠への付け替えなどが横行すれば、成長戦略名目の要求が積み上がる可能性もある。また、与党内には消費税率10%への引き上げに備え、景気対策のための補正予算の編成を求める声も出ており、その内容次第で歳出規模が急拡大する恐れもある。まずは、概算要求段階で各府省が要求・要望する政策や事業とはどのようなものになるのか、引き続きみていくことが大切だ。

 

【山本洋一・株式会社政策工房 客員研究員】

 地方議員の不祥事にうんざりしている国民は多い。不適切野次に始まり、号泣記者会見、危険ドラッグの常用と、連日にわたって信じがたい問題行為が報道されている。「地方議会などそんなものだ」と達観していた私だが、さすがにこのニュースには驚いた。

 

 「不適切発言、指摘の議員に矛先」――。中日新聞が24日付朝刊に掲載したこの記事は、愛知県新城(しんしろ)市議が、議会で「穴の開いたコンドームを配っては」と発言した問題の続報。市議会が23日に全員協議会を開き、対応を巡って協議したというものだ。

 批判を受けて当該議員が謝罪、不適切発言を慎むよう申し合わせて終わらせるというのが普通の流れだろう。しかし、新城市議会は違った。問題発言をブログで取り上げた別の市議を問題視。議員の情報発信を制限するルールを作ると決めた、というのだ。

 

 問題発言は、無所属の永田共永市議が6月の一般質問で、少子化対策として「婚姻届けを出す夫婦に、穴の開いたコンドームを配ってはどうか」と述べたもの。

 当時は注目されなかったが、今月14日に共産党の浅尾洋平市議がブログで取り上げたことがきっかけで「地方議員の不祥事シリーズ」の一環として報道された。議会での公式発言とはいえ、浅尾氏が取り上げなければ市民に気づかれなかった可能性が高い。

 ところが23日の協議会では、ある市議が「議会で問題提起する前に、自らの主観を表に出すのはいかがなものか」とか「個人名を挙げるなら相手に通告するなど配慮すべきだ」と批判。他の市議も同調し、ブログやツイッターなどで発信する際のルールを設けることを賛成多数で決めた。

 

 首長はともかく、議員が自らの主観を表明することの何が悪いというのか。議会の前に自らの考えを説明し、質問に市民の声を反映させるのは議員の重要な職務である。公人である議員を批判するのに、事前通告しろというのもおかしな話だ。もしそれが事実ならば、首相官邸や民主党本部はパニック状態に陥るに違いない。

 そもそも問題となった発言は批判されて当然である。穴開きコンドームの配布が本気で少子化対策になると考えたのならば、明らかに議員としての資質に欠ける。厳正な本会議で受け狙いの冗談を言ったのならば議会人としての品位、人間としての品格が疑われる。

 議員辞職という類いの話ではないにせよ、市民の批判にどう応えるか、議会は真剣に向き合うべきだ。問題の焦点をすり替え、発言を明らかにした議員を糾弾している場合ではない。ましてや議会の透明化を逆行させるべきではない。

 

 総務省によると、地方議員の数は全国で34476人(定数ベース)。「そんなにたくさん要らない」という声は今後、さらに高まるだろう。抜本的な定数削減に取り組むか、さもなければ「議員がいてよかった」と市民に思わせるような仕事をして、存在意義を証明しなければならない。 

原英史・株式会社政策工房 代表取締役社長】 

 タクシー運賃について、5月下旬、大阪地裁、福岡地裁で相次いで、国の規制(公定幅運賃)に関する仮差止決定が出された。

 

 経過を振り返ると、

・昨年秋の臨時国会で成立した法律(いわゆるタクシー減車法)に基づき、この4月から、タクシー運賃の「公定幅」を国土交通省が定める仕組みに。

 例えば、大阪市域の中型タクシーの場合は、初乗りは「上限680円、下限660円」という公定幅が定められ、上限を上回ることも、下限を下回ることも認められないことになった。

http://wwwtb.mlit.go.jp/kinki/tetsuzuki/taxi/20140325-73.pdf

 

・これに対し、従来から低料金で運営していたタクシー会社のいくつか(MKタクシーなど)は、4月以降も下限を下回る運賃を継続。

 一方、国土交通省は運賃を値上げするよう指導。さらに運賃変更命令という強制措置をとることをタクシー会社側に通告。

 タクシー会社側は、司法の場でこの命令の仮差止を求め、大阪地裁と福岡地裁でこれが認められた・・・という経過だ。

 

 タクシー運賃は、もともと1955年以降、「同一地域同一運賃」という規制運用がなされていたが、1990年代になると、そんな画一的な規制は緩和すべきとの問題提起がなされ、徐々に緩和(97年にはゾーン運賃制に移行)。

 2002年には、「自動認可運賃制」(上限以下の一定範囲の運賃申請は自動認可。下限を下回る運賃申請の場合は個別審査)が導入され、ワンコインなど格安タクシーの可能性が開かれた。

 

 ところが、この2002年の規制緩和は、その後、「小泉政権下での行き過ぎた規制緩和」の象徴例として批判を浴びるようになる。

 運賃規制だけでなく、参入規制の緩和もなされたことから、タクシーの台数が増えて過当競争が生じ、この結果、ドライバーの労働環境悪化、さらにそのため事故増加などを招いた・・との指摘がなされ、2009年には「タクシー適正化・活性化法」によって、運賃規制の再強化がなされた。

 さらに規制を強化すべく、議員立法による提出されたのが昨年の通称「タクシー減車法」。これによって、一定地域(法律上は特定地域・準特定地域)では、国が運賃の「公定幅」を定める仕組みに逆戻りしたのだ。

http://www.dpj.or.jp/article/103443

 

 大阪地裁と福岡地裁の決定は、「公定幅」を定める仕組み自体を否定したわけではない。運賃幅の定め方(大阪市域の中型車であれば「初乗り660~680円」という金額設定)に問題があるとの判断だった。

 

 しかし、本来、労働環境や安全上の問題に対処する必要があるのであれば、労働規制や安全規制により対処するのが筋だ。このために公定幅運賃に逆戻りするのは、問題のすり替えであり、そもそも仕組み自体、的確な方策ではないと筆者は考える。

 

 さらに、もうひとつ議論されるべき論点もある。

 百歩譲って、公定幅運賃の仕組みを認めるとして、その幅を誰が定めるべきかだ。

 現行制度では国(国土交通省)が定めることとなっているが、それぞれの地域での運賃規制については、より地域の実情に近い自治体で定めるべきではないか。

 

 地方分権の議論が最近すっかり下火になっているが、こうした問題でも、「自分たちに決めさせてほしい」と求める自治体がでてきてよさそうなものだ。

 

 

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