政策工房 Public Policy Review

霞が関と永田町でつくられる“政策”“法律”“予算”。 その裏側にどのような問題がひそみ、本当の論点とは何なのか―。 高橋洋一会長、原英史社長はじめとする株式会社政策工房スタッフが、 直面する政策課題のポイント、一般メディアが報じない政策の真相、 国会動向などについての解説レポートを配信中!

【TPP対策大綱と1億総活躍社会の緊急対策を決定】

先週11月25日、政府は、環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)総合対策本部を開き、農林水産業の成長産業化や中堅・中小企業の海外展開支援などを柱に据えたTPP対策大綱を決定した。対策大綱では、攻めの農林水産業への転換施策として、生産者の体質強化を推進していくほか、中小企業の6割以上が海外で新規取引先の獲得や事業拡大を実現するとの目標を明記して、対象企業の海外展開などを支援する。また、農林水産物・食品の輸出額を6000億円超(2014年)から1兆円にする目標の達成時期は前倒しにした。

安倍総理は「(TPPは)日本の経済再生、地方創生に直結させるために必要な政策」と強調したうえで、TPP対策大綱の着実な執行と施策の具体化により「攻めの農林水産業に転換する」などと決意を示した。今後、政府は、対策大綱にもとづき、農業者などの意見も聴取しながら政策・施策を継続的に検討し、来年秋をメドにとりまとめる方針だ。また、牛・豚肉の経営安定対策事業の法制化などは、来年1月4日にも召集される予定の通常国会に関連法案を提出する方向で進めていくという。 

 

 26日には、新たな看板政策として打ち出している1億総活躍社会を実現するための具体策を関係閣僚・民間議員らで検討する「1億総活躍国民会議」を開催し、緊急対策(第一弾)を決定した。緊急対策では、(1)「名目GDP(国内総生産)600兆円」を達成するための強い経済、(2)2020年代半ばまでに「希望出生率1.8」を実現するための子育て支援の充実、(3)介護を理由に仕事をやめる介護離職者(年間約10万人)を減らす「介護離職ゼロ」など社会保障制度改革・充実、の「新3本の矢」それぞれの施策を列記した。

議長の安倍総理は、「1億総活躍社会とは、成長と分配の好循環を生み出していく新たな経済社会システムの提案」「子育てや社会保障の基盤を強くし、それがさらに経済を強くするという成長と分配の好循環を構築していきたい」と対策の意義を強調したうえで、「緊急対策を内閣の総力を挙げて直ちに実行に移していく」と述べた。

 

強い経済関連では、法人実効税率(国・地方)を早期に20%台まで引き下げる道筋をつけるとしたほか、最低賃金を年率3%程度引き上げて2020年代前半に全国加重平均で時給1000円をめざすことを打ち出した。また、賃上げの恩恵が及びにくい低所得の年金受給者への支援も盛り込み、給付金1人3万円程度を支給する方向で検討している。26日に開かれた政府と経済界が協議する「官民対話」では、日本経団連の榊原会長が、法人実効税率の引き下げや新技術開発に向けた積極的支援、労働規制のさらなる緩和などにより2018年度までの3年間で設備投資が10兆円程度増加する見通しや、収益が好調な加盟企業に自社の実情にかなったかたちで前年を上回る賃上げを行うよう呼びかける方針を表明した。

 

子育て支援関連では、待機児童の解消に向けて認可保育所・小規模保育・事業所内保育所といった施設整備・補助拡充などを進めることで2017年度末までに保育受け入れ枠50万人分を新たに確保するとした。保育所増設は、既存の子育て支援関連基金を活用する方針だ。認可外の事業所内保育所にも子どもを預けやすくするため、保育士数などを条件に運営費の補助するほか、複数企業による共同保育所運営を容認するなど施設整備を後押しするしくみも検討する。また、保育士の人材確保を図るため、修学資金の貸し付けと卒業後の所得に連動させて無理なく返済ができる制度導入、保育士の待遇改善や離職した保育士の再就業支援なども行う。

さらに、25~44歳の女性就業率を将来的に80%まで拡大していくことを目標に、雇用契約満了までに子どもが2歳にならなければ取得できない非正規雇用女性の育児休業を子ども1歳半であれば取得できるようにするなど育児休業を取得しやすい制度なども見直す。このほか、幼児教育の無償化や児童扶養手当の拡充、3世代同居向け住宅の建設に補助拡充などの育児負担の軽減、不妊治療への助成拡充なども盛り込まれた。

 

介護離職ゼロ関連では、特別養護老人ホームや宿泊を組み合わせた在宅サービス、サービス付き高齢者向け住宅といった介護施設などを、2020年代初頭までに50万人以上分を新たに整備することが明記された。また、介護人材確保策として介護福祉士をめざす学生に対する学費貸付制度の対象を拡大する。介護職員の給与が低く慢性的な人手不足が指摘されるなか、政府は、介護人材の処遇改善が喫緊の課題と位置付けているが、具体的な処遇改善策への言及について見送った。いまのところ、2018年度の介護報酬改定まで介護職員の基本給引き上げも行われないようだ。このほか、介護休業給付を休業前の給与水準の40%から育休給付と同じ67%に引き上げる。

 

政府は、補正予算案や来年度予算案に反映するとともに、制度の見直しなどが必要なものは通常国会で法改正をめざす。また、国民会議では、2020年以降を見据えた中長期の総合的対策と具体的工程表からなる政策パッケージ「日本1億総活躍プラン」のとりまとめ作業に着手し、来年5月にも策定する方針だ。

 こうした緊急対策に、与党内から「全体のつながりがみえない」「総花的で何をしたいのかがわかりにくい」といった批判や、具体的な財源が曖昧で関係府省の連携も不足しているなどと懸念する声が続出している。また、国民会議の民間議員らから、低年金者への給付金など一過性の対策も含まれているため、参議院選挙を意識したバラマキ施策にならないようにすべきとの意見もある。

 

 

【安倍総理、補正予算案と来年度予算案の編成を指示】

政府は27日、補正予算案と来年度当初予算案の編成の基本方針を閣議決定し、全閣僚に編成を指示した。政府・与党は、政府の基本方針を踏まえて編成作業を本格化している。

補正予算案は、3.5兆円規模となる見通しで、昨年度決算剰余金(約1.58兆円)や、法人税・所得税や消費税など今年度予算の税収上振れ分(約1.3兆円)などを財源に充てる。財政再建への懸念が強まることを避けるため、2015年度に基礎的財政収支(プライマリーバランス)の赤字を半減する目標を堅持し、国債の追加発行は見送る。TPP大筋合意を受けての国内対策や1億総活躍社会の実現に向けた緊急対策のうち緊急性の高い事業を計上するほか、9月の関東・東北水害の復旧や河川整備関連(約2000億円)に重点的に置いた災害対策や、パリ同時多発テロを受けた緊急のテロ対策費用なども、補正予算案に盛り込むようだ。

 

 TPPの国内対策では、「攻めの農林水産業への転換」に必要な経費を中心に計上するとしており、農林水産関連の対策費を総額3000億円程度とする方向で調整している。

農林水産業の体質強化・収益力向上策は、複数年度にわたって機動的・弾力的に予算配分を行う必要があるとして、関税の引き下げの影響を受ける牛肉・豚肉などの畜産業と、それ以外の野菜・果実などに分けて二つの基金をつくり、農地の大規模化に必要な機械・施設への設備投資、畜産の繁殖技術の改良、畜産クラスター事業、産地パワーアップ事業などを支援する方向だ。また、農産物の輸出促進・拡大に向けた販路支援・環境整備、自民党が強く求める農地の大区画化・汎用化など農業農村整備事業(約1000億円)のほか、財源不足が見込まれる水田活用の直接支払交付金の積み増し、台風で被災した農家への支援策、強い農業づくり交付金なども盛り込む方向で調整している。

財務省は、TPP対策が旧来型のバラマキにしないよう、予算額を極力絞り込む方針だが、自民党内では、対策大綱に明記された「既存の農林水産予算に支障を来さないよう政府全体で責任を持って毎年の予算編成過程で確保する」点を根拠に、TPPに対する不安が大きい農家への保護対策の拡充と予算増額を求める声が強まっており、財務省と自民党・農林水産省とが水面下で攻防を繰りひろげている。

 

 1億総活躍社会の実現に向けた緊急対策関連については、安倍総理が「我が国の経済は穏やかな回復基調が続いており、引き続き機動的な対応を行いつつ、GDP600兆円に向けた歩みをより確固としたものにしていく必要がある」と、子育て支援や介護離職ゼロに直結する施策に必要な経費を計上する意向を示している。具体的には、個人消費の活性化を図るべく、賃上げの恩恵を得られていない低所得の年金受給者に絞って支給する臨時給付金を計上するほか、保育や介護の関連施設・サービスの整備、介護人材の育成強化、介護者の負担軽減を図る介護ロボットやICT(情報通信技術)の活用、3世代同居を促す住宅補助、近居世帯に対する家賃軽減の拡充なども補正予算案を盛り込まれる見通しだ。

 このほか、「地方創生なくして1億人を維持することはできない」(安倍総理)として、地方創生や地域経済の活性化に取り組む地方自治体の先駆的事業を積極的に支援するため、「地方創生加速化交付金」(仮称)を最大で1000億円規模で計上する方針だ。政府は、新型交付金を2016年度から導入することになっているが、地方自治体の先駆的事業が本格始動することを踏まえ、前倒しで補正予算案に盛り込むこととなった。

 

 一方、来年度予算案の編成をめぐっては、編成の基本方針で「経済再生なくして財政健全化なし」と、経済再生と財政健全化をともに前進させる方針を改めて打ち出した。TPPや1億総活躍社会の実現に係る対策に重点を置きつつ、財政健全化計画に盛り込まれた2020年度にプライマリー・バランスの赤字脱却をめざして国の政策遂行に必要な経費を計上する一般歳出を年平均5000億円強の増加に抑える目安を十分踏まえたうえで予算案を編成していくため、「歳出全般にわたり聖域なき徹底した見直しを、手を緩めることなく推進する」と歳出改革にも取り組むとしている。

 基本方針の閣議決定に先立って開催された行政改革推進会議(議長:安倍総理)では、8府省55事業<来年度予算案での概算要求総額13.6兆円>の政策効果を点検・検証する「行政事業レビュー」の検証結果がとりまとめられた。検証結果では、原子力関連事業や2020年東京オリンピック・パラリンピック関連事業などを中心に、抜本的見直しや予算計上の見送りなどを求めている。安倍総理は「税金が優先順位の低い施策に使われるとの批判を招いてはならない。予算編成に的確に反映し、さらに事業の改善に努力したい」と、引き続きムダ撲滅に取り組む方針を強調したうえで、検証結果を来年度予算編成に反映させるよう各府省に指示した。

 

国の一般歳出の多くを占める社会保障関係費を抑制するため、財務省は財政健全化計画にもとづいて概算要求から約1700億円を削減する方向で調整している。抑制分は、医療サービスなどの公定価格「診療報酬」のマイナス改定でほぼまかなう方向だ。

薬の値段などの「薬価」部分は、今年も1%超を引き下げる。厚生労働省は、医療費の抑制・適正化に向け、割安な後発医薬品(ジェネリック)の価格を、先発薬の原則6割から5割に引き下げるほか、後発薬への切り替えが進まない先発薬の価格を通常の薬価改定とは別に1.5~2%引き下げる制度の要件も見直す方針だ。医師や薬剤師の技術料など「本体」部分では、患者の服薬情報の一元管理や服薬指導を手掛ける「かかりつけ薬局」の調剤報酬を手厚くする一方、特定病院の処方箋のみを集中的に受け付けている「門前薬局」の調剤報酬を引き下げるなどの見直しを行う。

削減を徹底して求める財務省と、削減幅を極力抑えたい厚生労働省・自民党などが、予算編成での改定率決定を前に水面下での攻防を繰りひろげられている。

 

 

【与党協議、軽減税率の品目などで平行線】

12月10日ごろの2016年度与党税制改正大綱とりまとめに向け、与党は要望項目の取り扱いを決める振り分けなど行って検討作業を加速させている。

今回の税制改正大綱では、市販薬を購入した額の一部を所得額から差し引く所得控除(所得税・個人住民税)、不正行為を意図的に繰り返す悪質な納税者に対し通常の所得税や法人税などの税額に上乗せする「加算税」の10%引き上げ(最高50%)、新幹線通勤者などが増えていることに配慮して公共交通機関の定期券代や有料道路の料金に応じた通勤手当の所得税非課税限度額を月10万円から月15万円に引き上げ、クレジットカードで国税納付ができるしくみの創設などが固まっている。また、TPPの農業対策の一環として農地集約を促進するため、農地中間管理機構を通じて農地を長期間貸し出す農家に対し、固定資産税を最大5年間半減する優遇措置を導入するほか、再生可能な耕作放棄地に対する固定資産税を1.8倍に増やすようだ。

 

 一方、関係団体などとの調整ができていないビール系飲料の税額見直しや、ゴルフ場利用税の廃止を先送りし、来年末の2017年度改正作業で議論することとしている。また、金融庁や証券業界などが強く要望していた、株式と株式投資信託などで得た利益と損失を合算して課税額を決める「損益通算制度」にデリバティブ取引を加える案も見送る方向で調整に入っている。

焦点となっている法人実効税率の引き下げ幅のさらなる上乗せをめぐっては、経済再生や企業の国際競争力向上、景気の底上げにつながる企業の投資拡大と賃上げを後押しして、早期に20%台に引き下げる道筋を付けるため、政府は、1年前倒しして2016年度に29.97%まで引き下げる方針を固めた。給与総額など企業規模に応じて課税する「外形標準課税」(地方税)の拡大や設備投資減税の一部縮小、購入した生産設備などを耐用年数に応じて費用に分割計上する減価償却制度の見直しなどにより税率引き下げの穴埋め財源を捻出する方向で、政府・与党が調整している。経済産業省は、赤字企業への課税拡大につながるとして外形標準課税の拡大に慎重姿勢を示していたが、打撃を受ける中堅企業への配慮を条件に容認した。与党協議を経て与党税制改正大綱に盛り込まれる見通しだ。

 

2017年4月に消費税率10%への引き上げに伴って負担緩和策として導入する軽減税率の制度設計をめぐって、自民党と公明党が幹事長レベルによる協議を行っているが、互いに主張を譲らず、協議が平行線を辿っている。

事務負担が増える事業者への配慮や財源確保の観点から対象品目を絞りたい自民党は、2017年4月の軽減税率スタート時には対象品目を生鮮食品(年間軽減額3400億円)とし、税額票(インボイス)が義務化される3年後をメドに加工食品を含めた飲食料品へと拡大する段階的に拡大する案を改めて主張している。また、公明党に配慮して、対象品目の拡大までの期間、社会保障と税の一体改革の枠外の一般財源を使って低所得者に給付金を支給する方向で調整を進めている。これに対し、国民の痛税感の緩和や分かりやすさ、景気対策になることなどを重視する公明党は、軽減税率の導入当初から対象品目を「酒類を除く飲食料品(外食を含む、年間軽減額約1.3兆円)」か「酒類・外食を除く飲食料品(年間軽減額約1兆円)」と、可能な限り幅ひろい品目にするよう求めている。

 

 官邸側は、自民党と公明党の幹事長レベルでの協議で決着をつけることを前提としつつも、このまま期限が迫っても決着の糸口をつかむことができなければ、水面下での調整に乗り出す構えもみせた。軽減税率の対象品目を生鮮食品と加工食品(酒・外食・菓子・飲料を除く、年間軽減額約8000億円)とする案なども検討している。医療・介護や保育などの自己負担の合算額に上限を設定し上限を超えた分を国が給付する「総合合算制度」の実施見送りで捻出できる年4000億円のほか、景気回復による税収の上ぶれ分や、たばこ増税、診療報酬改定の厳格化などで穴埋め財源を捻出する案も挙がっているという。

こうした官邸側の動きに、自民党執行部や税調内では、税収の上ぶれ分を活用する案などが安定財源としてみなすことができないと反発を強めるほか、官邸側が調整に乗り出すことへの警戒感もひろがった。谷垣幹事長は、安定財源の確保を前提としつつも、「まとめるには視野を広げた議論が必要」と、加工食品の一部も対象品目に追加することや、軽減税率に充てる財源を上積みして4000億円超とすることも含め、公明党と一致点を探っていく可能性を示唆した。当面、軽減税率の対象品目と穴埋め財源をめぐる政府・与党間の激しい攻防が12月10日まで続きそうだ。

 

 

【軽減税率などをめぐる攻防に注目を】

12月1日の衆議院文部科学委員会で、馳文部科学大臣や遠藤オリンピック担当大臣らの出席のもと閉会中審査が行われ、高速増殖炉もんじゅの管理不備問題や、教職員定数、奨学金拡充、学校の耐震化、五輪選手への報奨金といった問題についての議論が行われた。3日にはTPPの合意内容と国内対策などをテーマに衆議院内閣委員会・農林水産委員会の連合審査会、くい打ち工事の施工データ不正問題などをテーマに衆参両院の国土交通委員会、9月の関東・東北豪雨災害をテーマに衆議院災害対策特別委員会などでそれぞれ閉会中審査が開催される。

このほかにも、高木復興担当大臣が出席する衆議院東日本大震災復興特別委員会の閉会中審査を8日に開催する方向で調整している。野党側は、高木大臣の疑惑を追及する構えだ。参議院側では、11日までの間に各委員会での閉会中審査を開催する方向で与野党が調整を進めている。

 

ただ、閉会中審査の質疑総時間が限られていることもあり、議論の深まり欠ける。「衆議院か参議院のいずれかの4分の1以上の議員が要求した場合、内閣は召集を決定しなければならない」と規定する憲法53条にもとづいて臨時国会の召集を強く求めてきた野党5党(民主党・維新の党・共産党・生活の党・社民党)は11月30日、大島衆議院議長に政府に臨時国会の召集を要求するよう文書で重ねて申し入れた。12月2日には、民主党・共産党・維新の党・社民党と参議院会派無所属クラブが、山崎参議院議長に政府に臨時国会を早期に召集するよう働き掛けを求めた。衆参両院の議長は「憲法を守るべきだという求めは当然。議長として改めて開くよう要求したい」(大島議長)、「個人的には同感だ。重く受け止め、内閣に強く申し伝える」(山崎議長)と、野党側の申し入れを政府に伝えると応じた。ただ、与党は野党側が求める臨時国会の召集に応じない方針で、本格的な与野党論戦は事実上、通常国会に持ち越しとなっている。

 

 与党税制改正大綱のとりまとめが大詰めを迎えており、最大焦点となっている軽減税率の制度設計についてどのように決着するのかがポイントとなる。また、補正予算案や来年度予算案の編成作業などが本格化しており、政府・与党の水面下での駆け引きも激化している。軽減税率はじめ税制改正大綱のとりまとめや、予算編成などをめぐる政府・与党内の攻防に引き続き注視しながら、最終的にどのような内容になるのかを見極めていくことが大切だ。
 

【TPP対策大綱、25日に決定】

 先週20日、自民党と公明党は、交渉参加12カ国による環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)の大筋合意を受けての国内対策に関する提言をそれぞれとりまとめ、政府に提出した。与党の提言を踏まえ、政府は25日にも対策大綱を決定する。

自民党は、農林部会・水産部会・経済産業部会・財務金融部会など13部会での検討結果を踏まえ、国内対策に関する提言をとりまとめた。TPPを契機に国産の農林水産品・工業製品・放送コンテンツ・サービスなどの輸出を拡大して新輸出大国をめざす「攻め」の施策と、安価な農産物の輸入で打撃が見込まれる生産農家の経営安定化などを重視した「守り」の対策の2本柱で提言している。公明党は、農業生産者の不安解消を図るための経営安定化対策、TPP活用策に関する相談窓口の整備など競争力強化策、消費者の視点を重視した原料原産地表示を義務付ける加工食品の対象拡大などを求めた。

 

自民党提言では、攻めの施策として、農商工連携や官民連携組で中小企業の海外展開の後押しや、円借款手続きの迅速化やトップセールスでのインフラ輸出促進、農業の6次産業化などによる地域資源のブランド化、TPP活用窓口の設置など情報発信の強化などを積極的に進める。また、貿易・投資が活発に行われる「グローバル・ハブ」をめざして、国内企業のイノベーションを進めるなど国際競争力の強化も図る。農林水産業では、生産者が力を発揮できる「農政新時代」をめざすため、経営感覚に優れた次世代の担い手育成と金融支援措置などの充実、農地中間管理機構の活用・拡大による農地集約・大規模化、リース方式による漁船導入支援、林業の間伐推進などを盛り込まれた。

 関税引き下げに対する生産者の不安払拭や影響緩和の守りの対策では、政府備蓄米の保管期間を原則5年から3年に短縮することにより単年度の購入量を増やし流通量を調整することで国内米価の下落を防止するほか、牛肉・豚肉の所得補填事業を法制化して補填率を赤字分の8割から9割に拡大といった具体的な経営安定対策などが並んだ。自民党提言では対策の予算規模や必要な期間の明記が見送られたが、農林水産対策については「既存の予算が削減・抑制されることなく安定財源を確保」するよう求めた。


政府は、対策大綱をとりまとめ、その一部を補正予算案や来年度予算案に計上する。財政制度等審議会(財務大臣の諮問機関)が24日にまとめた2016年度予算編成に関する建議(意見書)では、1993年の関税・貿易一般協定のウルグアイ・ラウンド合意を受けての農業対策(約6兆円)で農業の体質強化につながらない施策が含まれていたことを指摘したうえで、TPPの国内対策では、構造改革の進捗を客観的に測定できる成果目標を設けるなど、「真に競争力の強化に資する内容」にするよう求めている。自民党は「バラマキはしない」(小泉進次郎・農林部会長)と強調しているが、来年夏の参議院選挙を意識して、農業の土地改良事業費など手厚い予算配分を求める声も出ている。補正予算案や来年度予算案の編成作業が本格化しており、政府・与党内での熾烈な駆け引きが活発となりつつあるようだ。

 

 

【一億総活躍社会の緊急対策、26日にとりまとめ】

 新たな看板政策として打ち出している1億総活躍社会の実現に向け、自民党と公明党は24日、政府の緊急対策(第一弾)に反映するべく、それぞれの提言を政府に提出した。

自民党がとりまとめた提言では、子育て支援策として、保育士不足の解消をめざして原則年1回実施している保育士試験を2回にする都道府県を増やすことや、介護福祉士をめざす学生への修学資金拡充、介護職員の待遇改善、企業内保育所を新たに設置した場合に助成される補助金の支給期間(運営開始から5年間)の延長、第2子以降の児童扶養手当増額などひとり親世帯への支援強化、病児・病後児保育の充実、住宅建設の補助を拡充するなど3世代同居・近居の支援などを挙げた。介護支援策としては、介護休業・休暇の分割取得が可能な制度見直し・職場環境の整備や、用地確保の困難な都市部で国有地を安価で貸し出すなど介護施設・サービスの整備推進などが明記された。

公明党がとりまとめた提言では、妊娠や出産を理由に退職などを迫るマタニティーハラスメント防止のための法整備や、ひとり親家庭の親の就労・子どもの学習への支援拡充、介護従事者の一層の待遇改善などを求めている。

 

 政府は、安倍総理が掲げる新3本の矢(強い経済、子育て支援の充実、社会保障制度改革)を前提に、「経済の好循環を通じて、夢を紡ぐ子育て支援や、安心につながる社会保障を実現する」との基本的考え方を緊急対策で打ち出す。

2020年代半ばまでに「希望出生率1.8」を実現する子育て支援関連では、待機児童の解消に向けて2017年度末までの保育受け入れ枠を40万人から50万人に拡大することや、雇用契約満了までに子どもが2歳にならなければ取得できない非正規雇用女性の育児休業を子ども1歳半であれば取得できるようにするなど取得しやすい制度への見直しなどが盛り込まれる見通しだ。

介護を理由に仕事をやめる介護離職者(年間約10万人)を減らす「介護離職ゼロ」関連では、国有地を社会福祉法人に民間相場の最大半額で貸し出し、介護休業の分割取得も可能とする制度見直し・介護休業給付金の引き上げなどを打ち出すという。慢性的に介護人材が不足するなか、介護施設などの整備目標を2020年代初頭までに約40万人増へと拡充するため、厚生労働省は、介護職員らの事務作業負担の軽減や、離職した介護職員に再就職支援として数十万円を貸付ける制度新設など介護分野の人材確保にも取り組む。

 

24日に開催された経済財政諮問会議では、国内総生産(GDP)600兆円の達成で希望を生み出す「強い経済」を実現するため、消費喚起策や投資促進などを柱とする緊急対応策のとりまとめに着手している。2015年7~9月期実質GDPが2四半期連続のマイナス成長となったが、緩やかな景気回復が続いているとの認識のもと、短期的な景気刺激策という位置づけにはしない方針だ。

議長の安倍総理は、経済界に賃金引き上げを要請するとともに、「年率3%程度をメドに、GDPの成長率にも配慮しつつ引き上げていくことが必要」「(2020年代前半に最低賃金の全国加重平均が)1000円になることをめざす」と、経済の好循環には最低賃金の引き上げが不可欠との認識を示し、企業が賃上げできる環境整備を進めるよう関係省庁に指示した。人件費負担が増える中小・零細事業者などの反発も予想されるため、業績改善を通じて賃金上昇の原資を確保できるよう、中小・零細事業者を対象とした生産性向上や取引条件の改善などの支援策も講じていく考えだ。

また、経済財政諮問会議の民間議員から「賃金引き上げの恩恵が及びにくい低年金受給者にアベノミクスの成果が波及するよう対応すべき」との提言があったことから、別途、賃上げの恩恵を受けられない低所得の年金受給者への給付が必要と判断した。1人3万円の給付金となる方針で、低所得の年金受給者の家計を支援することにより、個人消費の底上げをならっている。このほか、女性や高齢者の働く意欲を抑えているとされる税・社会保険料負担の「103万円の壁」への対策検討や、省エネ住宅や燃料電池車の購入費負担軽減なども盛り込むようだ。

 

政府は、11月26日に開催予定の「1億総活躍国民会議」(議長:安倍総理)で、新3本の矢からなる緊急対策をとりまとめる。これを受け、TPP大筋合意を受けての国内対策や、1億総活躍社会の実現に向けた緊急対策などを柱に補正予算案を編成する方針だ。このほか、9月の関東・東北水害の復旧や河川整備に重点的に置いた災害対策や、パリ同時多発テロを受けた緊急のテロ対策費用などが補正予算案に盛り込まれるようだ。

補正予算案は3.5兆円規模となる見通しで、昨年度決算剰余金(約1.58兆円)や、消費税や所得税など今年度予算の税収上振れ分などを財源に充てる。財政再建への懸念が強まることを避けるため、国債の追加発行は見送るという。政府は、補正予算案を12月中旬に閣議決定し、来年1月4日に召集する通常国会に提出する。

 

 

【与党、税制改正大綱のとりまとめ作業に着手】

与党は、今年12月までに2016年度与党税制改正大綱をとりまとめに向けた作業に着手した。2017年4月に消費税率10%への引き上げに伴って負担緩和策として導入する軽減税率の制度設計や、法人実効税率(国・地方)のさらなる引き下げなどが税制改正の主要焦点になるとみられている。

法人実効税率の引き下げをめぐっては、2016年度に32.11%から31.33%に下がることが決まっているが、経済再生や企業の国際競争力向上の観点から、税率引き下げ幅のさらなる上乗せをめざしている。2016年度に30.88~30.99%に、2017年度に20%台をめざす案が有力だ。ただ、税率引き下げの前提としている財源確保について、給与総額など企業規模に応じて課税する「外形標準課税」(地方税)の拡大や、租税特別措置の廃止などによって捻出する方針としているものの、いまのところ具体策は決まっていない。どのように財源を確保し、「数年で20%台」(2015年度税制改正)を実現する具体的道筋をどう示すのかが主なポイントとなる見通しだ。

 

地方創生の一環として2016年度からの導入をめざしている、地方自治体への寄付を企業が全額損金算入できる現行制度に加え、本来支払うべき税額から3割を差し引く税額控除を新たに設ける「企業版ふるさと納税」について、自民党は、与党税制改正大綱に盛り込む方向で調整を進める。また、震災復興の支援税制として、2016年3月末に期限を迎える被災者を雇用した企業に認めている法人税軽減の時限措置などは延長の是非を検討するようだ。

 経済の好循環の実現に向けて、企業が投資拡大や賃上げに積極的に取り組むよう、約354兆円と過去最高を更新した内部留保への課税を検討すべきだとして、自民党次世代の税制を考える会の中堅・若手議員らが政府や党税制調査会などに働きかけている。賃上げや設備投資・研究開発・人材育成を経済界に要請している安倍総理を後押ししたい思惑がある。ただ、内部留保への課税は、法人税納入後に残る利益剰余金に再び課税(二重課税)することになるため、政府は「政策的な議論を深めることが先決」(菅官房長官)と否定的な見解を示している。官民対話などを通じて経済界に働き掛けていく方針で、「法人税を下げて、下げた分だけ内部留保がたまるのでは意味がない」「企業は給料を増やす、株主に配当を増やす、設備投資を増やす。この3つに利益は使われてしかるべき」(麻生副総理兼財務大臣)などと強調している。

 

飲食料品・生活必需品の消費税率を低く抑える軽減税率の制度設計をめぐっては、自民党と公明党が協議を重ねているが、対象品目や税収減を補う財源などで隔たりが大きく、平行線をたどっている。

18日の与党税制協議会・軽減税率制度検討委員会(座長:宮沢洋一・自民党税制調査会長)で、自民党は、事務負担が増える事業者への配慮や財源確保の観点から、2017年4月の軽減税率スタート時は飲食料品の対象品目を絞り、事業者の準備が整う3年後をメドに対象品目を拡大する「2段階案」を主張した。自民党は、加工食品の線引きが難しいとして「生鮮食品を基本」(年間軽減額3400億円)とすべきであり、穴埋め財源も医療・介護や保育などの自己負担の合算額に上限を設定し上限を超えた分を国が給付する「総合合算制度」の実施見送りで捻出できる年4000億円以内にすべきだとしている。

これに対し、国民の痛税感の緩和や分かりやすさ、景気対策になることなどを重視して対象品目を可能な限り幅ひろく設定するよう求めている公明党は、線引きを行えば混乱も招きかねないとして、対象品目を「酒類を除く飲食料品(外食を含む、年間軽減額約1.3兆円)」とするよう改めて求めた。穴埋め財源は、対象品目の設定議論と切り離して、税制・財政全体で捻出すべきだと主張している。

 

 こうした膠着事態を早期に打開するため、19日と20日、谷垣・自民党幹事長と井上・公明党幹事長も加わって非公式協議を重ねた。与党税制改正大綱をとりまとめる12月10日までに結論を出すことを確認しあったものの、隔たりの大きい対象品目や穴埋め財源について互いに主張を譲らず、一致点を見出すには至らなかった。

格上げした幹事長レベルの協議でも解決の糸口をつかめなかったことから、安倍総理は24日、谷垣幹事長や宮沢調査会長と会談して「国民の理解がえられ、事業者に混乱が起きないよう、わかりやすい制度にしてほしい。財源はいわゆる社会保障と税の一体改革の枠内で議論してほしい」「財政再建計画や一体改革など議論の積み重ねがあり、用意できる財源は限定されているので、それをしっかり守ってもらわないといけない。ない袖は振れない」と、導入段階では対象品目を限定し、一体改革の枠内で安定財源を確保するよう指示した。

 

自民党は、安倍総理の指示を踏まえ、対象品目を「生鮮食品」か「生鮮食品、パン類など一部の加工食品」で調整していく方針で、公明党の歩み寄りを期待する。これに対し、加工食品も対象に含めるよう主張している公明党は、安倍総理が対象品目や軽減額を明言するはずがなく、総理指示を都合よく解釈していると反発を強めている。菅官房長官も「一体改革の枠内とは聞いていない。安定財源の中でということであり、具体的な形で突っ込んだ指示はしていないと思う」「具体的金額は承知していない」との認識を示した。公明党は、譲歩しない姿勢を貫いており、安倍総理・自民党総裁と山口・公明党代表による党首会談での最終的な政治決着を期待する声もある。

両幹事長が交流事業として中国を訪問する12月2日までに大筋合意へこぎつけたい考えで、25日にも非公式協議を開く。ただ、総理指示の解釈をめぐっても溝が深まっており、協議難航の様相を呈している。

 

 

【予算編成や税制改正論議に注目を】

自民党と公明党は、与党税制改正大綱のとりまとめを進めている。最大の焦点となっている軽減税率の制度設計をめぐって、自民党と公明党の溝は深まったままだ。協議期限が迫るなか、自民党と公明党がどのように決着するのかが最大の焦点となっている。一方、政府は、今週中にもTPP対策大綱や1億総活躍社会の実現に向けた緊急対策を決定し、これらを踏まえて、補正予算案や来年度予算案の編成作業を加速させる。

 

来年度予算案の編成にあたり、政府は、予算編成の基本方針の策定を経済財政諮問会議で進めている。24日に財政制度等審議会がまとめた2016年度予算編成に関する建議では、2016年度予算を財政健全化計画の成否が懸かっている予算と位置付け、政策経費から国債費・地方交付税交付金などを除く一般歳出を2016年度から3年間で約1.6兆円増という抑制目安を「逸脱することは断じてあってはならない」と、歳出改革に厳しい姿勢で臨むよう求めた。具体的には、社会保障関係費を「確実に高齢化による増加分の範囲内にしていくことを求める」と、概算要求6700億円増(2015年度比)から5000億円弱の増加に抑制するよう求めた。医療サービスなどの公定価格「診療報酬」では、診療報酬の本体部分のマイナス改定や、薬の値段などの「薬価」部分の抜本見直しなどを求めている。また、文教予算も、少子化傾向を踏まえて公立小中学校の教職員定数を約3.7万人減らせるとしている。

このことから、政府は、財政健全化計画の路線を「十分踏まえたうえで予算編成を行う」「着実な一歩を踏み出す」と、堅持する姿勢を基本方針に盛り込む。また、TPP対策や1億総活躍社会の実現に向けた緊急対策の費用は「補正予算での対応とあわせて適切に対処」と、補正予算案と一体で計上することも打ち出すようだ。こうした基本方針を早急に固め、12月1日の閣議で決定することをめざしている。

 

 政府が決定するTPP対策大綱や1億総活躍社会の実現に向けた緊急対策の内容を抑えつつ、当面、補正予算案や来年度予算案の編成動向をウォッチしていくことが重要だろう。また、軽減税率の制度設計をはじめとする税制改正論議もチェックしておいたほうがよさそうだ。
 

【自民党、TPP農業対策案を決定】

 今週17日、自民党の農林関係会議は、交渉参加12カ国による環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)の大筋合意を受けての農業対策案を正式決定した。17日に決定された農業対策案「農政新時代―努力が報われる農林水産業の実現に向けて」では、補助金バラマキ政策から農業の成長産業化への転換方針や基本的考え方<農業者の不安払拭、成長産業化の応援、未来の農業・食料政策のイメージ明確化と農業者で対応できない環境整備>を踏まえ、(1)攻めの農業へと転換するための国内農業の体質強化策、(2)コメなど重要5項目の農家経営安定対策を2本柱に据えた。

 

体質強化策として「経営感覚に優れた次世代の担い手育成、金融支援措置などの充実」「農地中間管理機構(農地バンク)の活用・拡大による農地集約・大規模化」「産地パワーアップ事業の創設」「畜産クラスター事業の拡充、規模拡大や品質向上による畜産・酪農の収益力の強化」「新たな国産ブランド品種の育成、革新的技術の開発など国際競争力の強化」「重点品目ごとの輸出促進対策、高品質な農林水産物の輸出拡大」などを列挙した。高性能な農業機械・施設などの導入や農地拡大など意欲ある農業者支援、高収益作物・栽培体系への転換、畜産物のブランド化など高付加価値化の推進、原料原産地表示の検討などを進める。また、成果目標の設定や既存施策の点検・見直し、進捗管理も行う。

 経営安定化策では、「政府備蓄米の保管期間を原則5年から3年に短縮し、単年度の購入量を増やして流通量を調整することで国内米価の下落を防止」「牛肉・豚肉の所得補填事業を法制化し、補填率を赤字分の8割から9割に拡大」「酪農経営の安定を図る加工原料乳生産者補給金制度の対象に生クリームなど液状乳製品を追加」「砂糖の代用品となる輸入加糖調整品を調整金の徴収対象に新たに加えるなど、糖価調整制度の安定的運営」といった具体的な経営への影響緩和策が並んだ。

 

 自民党の対策案では、既存の農林水産予算が削減・抑制されないよう政府が責任を持って十分配慮するよう求めるとともに、現時点で見通せない影響を念頭に弾力的な支出ができるよう基金などのしくみをつくることも盛り込んだ。ただ、対策の予算規模や必要な期間の明記は見送られた。年内にも政府が示す影響額試算を踏まえ、改めて検討するという。

 また、政策調整に時間がかかるなど、今回の農業対策案に盛り込みきれない対策は、「農業骨太方針策定プロジェクトチーム」を設置して、日本農業の将来像や、人材育成や輸出力強化などの具体策を中心に来年秋まで継続的に議論のうえ、「農業骨太方針」を策定していく方針を示した。今後の検討課題として、生産資材の価格形成のしくみや、原料原産地表示、チェックオフ制度や収入保険制度の導入、肉用牛・酪農の生産基盤強化策などがあげられている。小泉進次郎・自民党農林部会長は「対策は1回で終わりではなく、スタート。来年、時間をしっかり取り、真の不安解消と成長産業化への希望を感じる方向性を出したい」と、中長期的な農業政策に取り組む姿勢を強調している。

 

自民党は、政府が今月25日をメドに策定・決定するTPP対策大綱への反映をめざして、20日にも農業以外の分野も含めた国内対策をとりまとめる。13日のTPP総合対策実行本部では、農林部会・水産部会・経済産業部会・財務金融部会など13部会が、それぞれ検討している国内対策案について報告された。海藻類を除き輸入関税が原則撤廃される水産分野では、安価な輸入品の増加に伴う国内水産物の価格下落などが懸念されるとして、担い手漁業者への支援や国際競争を見据えた漁業の構造改革など国内漁業を収益性の高い操業体制に転換していくとともに、輸出拠点となる漁港施設の整備など国内外での需要・消費の拡大に向けた対策も必要としている。外資規制の緩和については、日本の中小企業による海外展開を促すための支援策などを打ち出す方向だ。

公明党も17日のTPP総合対策本部(総合本部長:井上幹事長)で、農業生産者の不安解消を図るための経営安定化対策、消費者の視点を重視した原料原産地表示を義務付ける加工食品の対象拡大、TPP活用策に関する相談窓口の整備などを盛り込んだ提言をまとめている。自民党と公明党は、今週中にそれぞれ提言書を政府に提出するという。

 

 

【希望出生率1.8の実現、介護離職ゼロに重点化】

 新たな看板政策として打ち出している1億総活躍社会の実現に向け、12日、関係閣僚・民間議員らが具体策を検討する「1億総活躍国民会議」(議長:安倍総理)が開催された。安倍総理は、11月26日にもまとめる緊急対策(第一弾)について「希望出生率1.8の実現、介護離職ゼロという二つの目的達成に直結する政策に重点化したい」と述べ、具体策の検討を加速させるよう指示した。

12日の会合では、厚生労働省や文部科学省など関係8閣僚が緊急対策に盛り込む政策案のほか、国民会議の民間議員から「高等教育を含む教育負担の軽減」「未婚率が高い非正規労働者層の正規化」「企業の採用基準の見直し」「保育士の資質・処遇向上」「介護家族の相談機能の拡充」などの提案があった。各省の提案に対し、民間議員らは1億総活躍とは関係性が薄いものがみられたとして、「予算を増やすばかりではなく、精査する必要がある」と指摘も出た。

 

 2020年代半ばまでに「希望出生率1.8」を実現する子育て支援関連では、(1)待機児童の解消に向けて2017年度末までの保育受け入れ枠を40万人から50万人に拡大<厚生労働省>、(2)男性、派遣社員など有期契約で働く女性の育児休業取得促進<厚生労働省>、(3)男性の検査を含めた不妊治療への助成拡充<厚生労働省>、(4)幼児教育無償化の拡大や就学援助・奨学金の充実など教育費負担軽減<文部科学省>、(5)都市再生機構の住宅に入居する新婚・子育て世帯への家賃の一部補助や近居割(5年間5%の割引サービス)の拡充、国が助成する地域優良賃貸住宅制度の見直しなど家賃負担軽減<国土交通省>、(6)テレワークの普及促進など女性活躍の推進<総務省>などが示された。また、2016年度税制改正で、結婚・子育て支援を目的に親・祖父母が子・孫に関連資金を一括贈与すれば贈与税が非課税となる措置(1人あたり最大1000万円まで)で出産後の健診費用や不妊治療の医薬品代も対象とすることや、3世代同居のための住宅改修費用一部を所得税控除できる制度新設などを検討しているようだ。

 

介護を理由に仕事をやめる介護離職者(年間約10万人)を減らす「介護離職ゼロ」関連では、(1)特別養護老人ホームなどの介護施設・小規模多機能型居宅介護など宿泊可能な在宅サービスの整備目標を2020年度までに約34万人増から2020年代初頭までに約40万人増に拡充・地域医療介護総合確保基金の積み増し<厚生労働省>、(2)国有地を社会福祉法人に民間相場の最大半額で貸し出し(原則50年の定期借地権を設定)、事業者の建物所有要件の緩和など介護施設整備の促進<財務省、厚生労働省>、(3)離職した介護・看護職員に対する再就職支援のための貸付制度新設や離職した介護福祉士の人材バンク創設、介護士をめざす学生への修学資金の貸し付け拡充など介護分野の人材確保<厚生労働省>、(4)家族1人につき1回のみの介護休業(最大93日)を3回程度の分割取得も可能とする制度見直しと介護休業給付金の引き上げなどを提案している。

 

 こうした政府内での検討作業と並行して、自民党と公明党でも提言案とりまとめに向けて議論が行われている。自民党1億総活躍推進本部(逢沢本部長)では、緊急対策の提言案として、保育士不足の解消をめざして都道府県が実施している保育士試験を原則年1回から2回に増やすことや、企業内保育所を新たに設置した場合に助成される補助金の支給期間(運営開始から5年間)の延長、第2子以降の児童扶養手当増額など一人親世帯への支援強化、介護休業の分割取得が可能な制度見直しなどがあがっている。

 

 

【来週にも安倍総理が補正予算案の編成を指示】

TPP大筋合意を受けての国内対策や、1億総活躍社会の実現に向けた緊急対策などを柱とする補正予算案の編成について、安倍総理は「1億総活躍社会やTPPで早急に対策が必要だ。速やかに補正予算編成を指示する」(16日)と、マレーシアで開かれる東南アジア諸国連合(ASEAN)関連首脳会議など一連の外遊日程を終えて帰国する来週にも、補正予算案の編成を指示する意向を示した。

来年1月に召集される通常国会冒頭で処理する方針で、政府・与党内では補正予算案を3兆円以上の規模とする方向で検討が進められていくようだ。2015年7~9月期の国内総生産(実質GDP)が2四半期連続のマイナス成長となったことを踏まえ、「雇用、所得環境は改善しており、緩やかな回復基調は続いているが、機動的な対応を行うことで景気をしっかり下支えし、弱さがみられる流れを反転させていかなければならない」(安倍総理)として、景気対策も盛り込まれるという。

 

このほか、新型交付金は2016年度に創設される予定の地方創生に取り組む地方自治体向け新型交付金の積み増しなども補正予算案に盛り込む方向で検討しているようだ。石破地方創生担当大臣は、17日、地域での雇用創出など具体策について検討する「地域しごと創生会議」の初会合で、「ヒト」「知恵」「カネ」を地方創生三本の矢と位置づけ、(1)地域の人材育成や国家公務員らを地方自治体に派遣、(2)地域の経済・人口動態が把握できるビッグデータ利用の推進、(3)新型交付金と企業版ふるさと納税などを軸に支援強化を図る方針を示した。また、「まち・ひと・しごと創生会議」で2016年度から自治体での地域活性化の取り組みが本格化することを念頭に、2019年度までの地方創生施策の方向性を示した総合戦略の改定を進めており、年末までに決定する予定でいる。石破大臣は、こうした施策のうち「必要なものは補正予算、税制改正に反映をしていきたい」と意欲を示している。

 

 

【軽減税率に関する与党協議、与党幹事長も参加へ】

2017年4月に消費税率10%への引き上げに伴って負担緩和策として飲食料品・生活必需品の消費税率を低く抑える「軽減税率」を導入するにあたり、自民党と公明党は、与党税制協議会・軽減税率制度検討委員会(座長:宮沢洋一・自民党税制調査会長)で制度設計を進めている。しかし、対象品目や穴埋め財源などをめぐって、自民党と公明党の主張の隔たりが埋まらず、与党協議が難航している。

 

軽減税率の対象品目について、自民党と公明党は、精米を含む生鮮食品は加えることでは一致しているが、加工食品までひろげるかでは主張が異なっている。財源確保の点から対象品目を限定したい自民党は、加工食品の線引きが難しいとして生鮮食品、譲歩してもパンなど生鮮食品に近い加工食品への絞り込みを求めている。これに対し、国民の痛税感の緩和や分かりやすさを重視して「酒を除く飲食料品(外食を含む、税収減約1.3兆円)」と可能な限り幅ひろく設定するよう求めている公明党は、線引きを行えば混乱も招きかねないとして、加工食品全体を対象にすべきだと主張している。

軽減税率導入に伴う穴埋め財源については、医療・介護や保育などの自己負担の合算額に上限を設定し上限を超えた分を国が給付する「総合合算制度」の実施見送りで捻出できる年4000億円程度を充てることで一致しているものの、対象品目を絞って4000億円以内にとどめたい自民党と、対象品目の設定と軽減税率の導入に必要な財源の議論とは切り離し、税制全体で穴埋め財源を捻出する方策も模索すべきと主張する公明党とでは隔たりがある。公明党は、総合合算制度の実施見送り以外の穴埋め財源案として、軽減税率導入までの臨時措置として低所得者に現金を配る簡素な給付措置や、たばこ税増税などをあげている。

 

 与党は、12月10日にも与党税制改正大綱をまとめるべく、例年通り11月下旬から法人税実効税率の引き下げなど他の税制見直し議論をスタートさせたい考えで、当初、11月中旬にも軽減税率の制度設計で大筋合意することをめざしてきた。しかし、軽減税率の制度設計をめぐる与党協議は難航しており、合意への見通しも立っていない。こうした事態を打開すべく、公明党は、幹事長の協議参加を自民党に打診した。当初、自民党は慎重姿勢だったが、来年度予算の編成や与党税制改正大綱のとりまとめ日程などに支障をきたさないためにも、早期に合意を図るべく現在の税調担当者よりも高いレベルで政治決着を図ることが必要と判断し、17日、公明党の要請を受け入れた。

 今後、与党間で隔たりがある軽減税率の対象品目と穴埋め財源などをめぐって、自民党と公明党がどのように決着をつけていくことになるかが焦点となる。いまのところ、安倍総理は、具体的な制度設計を与党税制協議会の専門的議論に任せるとしているが、与党協議の行方次第では、より高度な政治判断も必要になる可能性もありそうだ。

 

 

【大詰めを迎える対策づくりに注視を】

12日、安倍総理は、自民党の谷垣幹事長と会談して、民主党など野党が求めている年内の臨時国会召集について協議した。安倍総理の外交日程が立て込んでいるうえ、来年度予算案の編成作業が本格化する12月中旬までの間に十分な審議時間も確保できないことなどを理由に、臨時国会の召集を見送ることを確認した。

16日、安倍総理が訪問先のトルコ・アンタルヤで「外交日程や来年度予算や補正予算の編成作業などを考えれば、年内の国会召集は事実上、困難と判断せざるをえない」「憲法の趣旨も念頭に、大変異例だが新年早々、1月4日に通常国会を召集したい」と、通常国会を例年の1月後半より大幅に前倒しして召集する方針を表明した。これを受け、17日、自民党の谷垣幹事長と公明党の井上幹事長が会談し、安倍総理が表明した方針を確認した。野党から要請があれば、閉会中審査には可能な限り対応していくことでも一致した。

 

 来年1月の通常国会まで国会が開かれないことに、「衆議院か参議院のいずれかの4分の1以上の議員が要求した場合、内閣は召集を決定しなければならない」と規定している憲法53条にもとづいて臨時国会の召集を政府・与党に迫る野党側は、「安全保障関連法に続いて2度目の憲法違反だ。憲法の規定にもとづく国会召集をしないのは独裁者といわれても仕方がない」「通常国会をちょっとぐらい早く始めるからといって、憲法違反が修正されるわけではない」(民主党の枝野幹事長)などと非難した。

 こうした批判に菅官房長官は、憲法規定に基づいた野党による臨時国会召集要求も考慮して、通常国会の開会日を前倒ししたことを強調したうえで「召集時期は憲法に規定されておらず、内閣に委ねられている。憲法に違反することはない」「合理的な期間を超えずに国会を召集すれば、憲法上も問題は生じない」(17日の記者会見)などと反論した。

 

 与党は、18日、野党側が要求した幹事長・書記局長会談に応じた。自民党は、臨時国会の召集見送りを表明し、来年の通常国会を1月4日に召集することや、閉会中審査に積極的に応じることで理解を求めた。しかし、民主党や維新の党など野党5党と参議院無所属クラブは、12日の幹事長・国対委員長会談で、高木大臣はじめ新閣僚の疑惑やTPPの交渉プロセスと大筋合意内容、くい打ち施工データ改ざん問題、米軍普天間基地移設問題など課題が山積していることを理由に、引き続き臨時国会の召集を要求することで一致しており、足並みを揃えている。与党が応じる姿勢をみせている閉会中審査の開催も要求する構えだが、「越年してでも(臨時国会を)開くべきで、それが憲法上の要請」などと「憲法第53条違反」などと訴え、臨時国会の早期召集を改めて要求した。


 

 今週から来週にかけて、政府・与党内で検討・とりまとめ作業を進めているTPP大筋合意を受けての国内対策や、1億総活躍社会の実現に向けた緊急対策、軽減税率の制度設計などが大詰めを迎える。また、来週には安倍総理が、景気対策を含む補正予算案の編成を指示する。引き続きこれらの動向を追いながら、最終的にどのような内容が盛り込まれるのかをウォッチしていくことが重要だ。
 

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