政策工房 Public Policy Review

霞が関と永田町でつくられる“政策”“法律”“予算”。 その裏側にどのような問題がひそみ、本当の論点とは何なのか―。 高橋洋一会長、原英史社長はじめとする株式会社政策工房スタッフが、 直面する政策課題のポイント、一般メディアが報じない政策の真相、 国会動向などについての解説レポートを配信中!

September 2015

【過去最長の通常国会が閉会】

先週25日、衆参両院で閉会中審査の手続きなどを行い、1月26日に開会した第189通常国会が会期末(9月27日)を前に事実上閉会した。民主党は「公党間の約束の予算委員会開催をほごにされた」(高木国対委員長)として、与党側が約束した予算委員会が開かれなかったことなどに反発し、閉会中審査手続きを行う衆議院本会議を欠席した。

 

 *衆参両院の本会議や委員会での審議模様は、以下のページからご覧になれます。

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 通常国会では、安倍内閣が経済再生などに取り組む「改革断行国会」と位置付け、緊急経済対策を裏付ける補正予算や一般会計総額96.34兆円の2015年度予算、アベノミクスを推進するための労働者派遣改革や農協改革、電力自由化、女性活躍推進などの関連法を成立させた。集団的自衛権行使の限定容認を含む安全保障関連2法(平和安全法制整備法、国際平和支援法)が国会提出されると、与野党は激しく対立していく。最終盤に繰りひろげた与野党攻防で大荒れとなったが、与党などの賛成多数により関連2法を可決・成立させた。安倍総理は、事実上の通常国会閉会にあたり「戦後以来の大改革を成し遂げる歴史的な国会となった」と、その成果を強調した。

ただ、政府提出法案の新規成立率は88%にとどまった。過去最長の延長で245日の会期を確保したものの、与党が安全保障法制の審議・成立を最優先した国会運営と与野党対立の激化などが影響し、衆参両院の勢力が異なる「ねじれ国会」時と同様の低水準となった。

 

柔軟な働き方を広げて労働生産性を高めるねらいから高度プロフェッショナル制度創設や企画業務型裁量労働制の対象を新商品開発・立案や課題解決型営業などへの拡大、年5日の有給休暇の取得ができるよう企業に義務づける過労対策などを柱とする「労働基準法等の一部を改正する法律案」は、「残業代ゼロ法案」と位置付けて廃案をめざす民主党などと対決すれば安全保障関連2法案の審議に影響を及ぼしかねないとして、衆議院通過が見送られた。

また、関連2法案をめぐる参議院での混乱により審議ができなかったのは、社会福祉法人が抱える内部留保から建物修繕費など事業継続に必要な財産を除いた余剰分を、地域貢献活動などに充てるよう義務付ける「社会福祉法改正案」や、国民年金の目減りに備えて企業年金などを拡充して老後の生活資金を補うねらいから、年金加入者なら誰でも個人型確定拠出年金に入ることができるよう拡大した「確定拠出年金法等改正案」、検察・警察の取り調べの録音・録画(可視化)の義務付けや司法取引の導入などを柱とする「刑事司法改革関連法案」などだ。特に、刑事司法改革関連法案は、与党と民主党、維新の党とが修正合意し、衆議院を通過させていたが、参議院では審議するに至らなかった。

このほか、昨年の臨時国会で廃案となり自民党・日本維新の会・生活の党が再提出した、カジノを含む統合型リゾート施設(IR)の整備を促す「特定複合観光施設区域整備推進法案」(議員立法)も、ギャンブル依存症への懸念や、マネーロンダリングなどの犯罪対策が不十分などを理由にカジノ解禁に慎重姿勢を崩さなかった公明党などに配慮して、審議入りが見送られた。賃貸契約ルールを改めるなど120年ぶりの大規模改正になる予定だった「民法改正案」も審議入りには至らなかった。いずれも継続審議となり、11月上旬にも召集される予定の臨時国会へと先送りとなった。

 

 

【安全保障法制、大荒れの委員会採決】

国会最終盤で最大焦点となっていた安全保障関連2法は、19日、与党と日本を元気にする会・次世代の党・新党改革の野党3党などの賛成多数により可決、成立した。

 

参議院での採決をめぐっては、与野党が激しく対立し大荒れとなった。わが国および国際社会の平和安全法制に関する特別委員会の鴻池特別委員長(自民党)が16日に締めくくり総括質疑を開催することを職権で決めたことに反発して、民主党など野党議員は、理事会室・委員会室前を占拠して鴻池委員長の入室を阻止するなどの実力行使に出た。これにより、特別委員会そのものが開催できないまま、17日に持ち越しとなった。

17日、鴻池委員長が特別委員会理事会を委員会室内で再開することを決めたことに民主党理事らが「だまし討ちだ」「理事会室に戻れ」などと激しく抗議するなか、鴻池委員長は特別委員会の開会、さらに質疑終局を職権で宣言する。これに対し、民主党は、鴻池委員長の不信任動議を提出した。不信任動議を受け取った鴻池委員長は、佐藤正久・与党筆頭理事(自民党)に委員長職務を委託すると宣言して、委員会室を退出する。佐藤筆頭理事が委員長席に座って審議を進めようとすると、特別委員会理事会の協議もなく鴻池委員長が委員長職務の委託を宣言したことに民主党などの理事らが委員長席に詰めかけて「手続きに瑕疵がある」と反発するとともに、委員会室に怒号やヤジなどが飛び交うなど、紛糾する事態となった。そして、特別委員会は、再協議するため休憩に入った。

 

与野党が再協議した結果、野党が提出した鴻池委員長の不信任動議を処理するため、特別委員会を再開することとなった。特別委員会で、不信任動議の趣旨説明に立った民主党の福山哲郎理事は、中谷防衛大臣兼安全保障法制担当大臣の答弁をめぐって、何度も国会審議が紛糾し、しばしば審議がストップする事態が続いたことや、十分に審議が尽くされたとして採決・成立を急ぐ政府・与党の姿勢などを挙げて、「本当に国民の声を聞いているのか」「戦後日本の安全保障法制の根幹を揺るがすのに国民に信を問わないのか」などと批判した。その後、各会派による動議賛否の討論でも、動議に賛成する民主党・維新の党・共産党・社民党・生活の党・参院会派の無所属クラブが、演説を延々と続けて議事進行を遅らせるフィリバスター(議事進行妨害)作戦を繰り返した。

 鴻池委員長の不信任動議は、野党の賛成少数により否決された。その後、鴻池委員長が委員長席に戻ると、参議院自民党の若手議員10人以上が委員長を取り囲み、鴻池委員長からマイクや資料を奪って採決阻止を試みる野党議員らを相次いでブロックした。委員長席近くで与野党議員が激しくぶつかりあうなか、鴻池委員長は議事進行を進めたようだ。採決に反対する野党側の怒号で鴻池委員長の声がかき消されたが、与党が緊急提出した質疑打ち切り動議、関連2法案、自衛隊海外派遣への国会関与強化など与党と野党3党の合意事項を盛り込んだ附帯決議を次々と採決していった。いずれも、与党と野党3党の起立多数により可決した。民主党・共産党・社民党・生活の党は採決に加わらず、維新の党は反対した。

 

 特別委員会での可決を受け、鴻池委員長は「ああいう形での採決は不本意だったが、審議はほぼ尽くされたと感じた」「参議院の態度として結論を出さなきゃいかん時期だと私が判断」「参議院の意思を表さないと時期としてはちょうどいい時期だと思った」と特別委員会採決に至った経緯を説明したうえで、議事運営の正当性や、野党3党も賛成した点を強調して強行採決にあたらないと認識を示した。そのうえで、「どうしても不備な答弁が目立ったような気がする。今後、外交・防衛委員会などで謙虚に耳を傾けてやってもらいたい」と、政府に苦言を呈した。

 一方、野党5党は「議事課に確認しても委員長が何をいって誰が賛成しているかも分からない。可決とはとても認められない」(民主党の榛葉参議院国対委員長)、「いったい何がおきたのか、そもそも動議が出たのかどうかも、委員長が何を発言したのかも誰もわからない。だから全く無効」(共産党の井上参議院幹事長)などと反発を強めた。参議院に対案を提出して与党と修正協議を行ってきた維新の党も「締めくくり総括質疑をちゃんとやってから採決という話だったが、いきなりの採決は言語道断」(松野代表)、「我々の独自案は採決すらされなかった」「安倍政権は今後、野党に対して対案を出せという資格は一切ない。強く抗議したい」(井坂政調会長)と憤った。

 

 

【野党5党、決議案連発などで抵抗】

 野党5党1会派の参議院国対委員長らは、山崎参議院議長に、特別委員会での採決は無効であり、審議を特別委員会に差し戻すよう申し入れた。また、議事録精査が終わるまで参議院本会議の開会を認めないとも抗議した。しかし山崎議長は「鴻池委員長から採決に瑕疵はなかったと報告を受けた」などと述べ、野党側の要求を受け入れなかった。

 特別委員会での可決を受け、参議院議院運営委員会理事会が開催された。民主党など野党が反発するなか、中川雅治委員長(自民党)が、参議院本会議を17日中に開会することや関連2法案の緊急上程を職権で決定した。これに反発した民主党は、中川委員長の解任決議案を提出する。参議院本会議での決議案審議でも、野党側は、趣旨説明や賛成討論にてフィリバスターを行った。しかし、中川委員長の解任決議案は、野党の賛成召集により否決された。

 

関連2法案の本会議採決を大幅に遅らせたい野党5党1会派は、国会対策委員長会談を開いて、安倍総理はじめ関係閣僚や鴻池委員長らに対する問責決議案を参議院に、内閣不信任決議案を衆議院に共同提出するなど、あらゆる手段で対抗することを確認した。決議案1件につき採決に配布資料の印刷や投票時間を含めて3時間程度かかることから、効果的なタイミングを見計らって順次、決議案を国会提出していくことにした。

中川委員長の解任決議案の採決に先立ち、まず中谷大臣に対する問責決議案を参議院に提出する。中谷大臣に対する問責決議案を審議する参議院本会議では、野党側のフィリバスターに対処するため、自民党が決議案の趣旨説明・賛否討論の時間を1人10分以内に制限する動議を提出した。これに対し、野党側は、時間のかかる記名投票による採決を求めて対抗したが、与党の賛成多数により動議が可決された。中谷大臣に対する問責決議案をめぐっては、自民党の反対討論で共産党が防衛省の内部文書を入手した件について「情報を手に入れた側に違法行為がなかったか調査してほしい」などと述べたことに共産党が猛反発し、決議案の質疑が一時ストップする場面もあったが、野党の賛成少数により否決となった。

 その後も、山崎議長や安倍総理、鴻池委員長の問責決議案を次々と参議院に提出した。18日の参議院本会議でいずれも審議されたが、与党などが時間制限の動議を可決させたうえで反対多数により否決した。維新の党は、問責決議案の対象を安全保障法制の審議に関わった閣僚らに限定すべきだとして、山崎議長の不信任決議案を処理した参議院本会議に欠席した。鴻池委員長に対する問責決議案では、趣旨説明に立った民主党の小西洋之議員が、25分に制限されていた時間を大幅に超え、56分間にわたって関連2法案の不備や安倍政権を批判し続けた。

 

また、野党5党は、衆議院に内閣不信任決議案を共同提出した。自民党は、可決されれば内閣総辞職か衆議院解散を選ばなければならない内閣不信任決議案と、法的拘束力のない問責決議案とでは重みが異なるとして、衆議院側では、時間制限の動議を提出しなかった。衆議院本会議で趣旨説明に立った民主党の枝野幹事長は、約1時間45分にわたって「安倍政権の安保法制は、戦争への深い反省に基づく民主主義と立憲主義、そして平和主義と専守防衛に基づく戦後の安全保障政策を転換し、破壊するもの」「戦後最悪の法案を強行する姿勢は、まさに暴挙」などと安倍内閣を批判し続けた。

その後の賛成討論でも、野党5党は「平和主義、立憲主義、民主主義を大きく傷つけることに加担するのか」「安倍内閣の集団的自衛権の行使容認は憲法違反以外の何ものでもない。即刻退陣すべき」(民主党の岡田代表)、「安倍政権の答弁は終始真摯さに欠けた」(維新の党の松野代表)、「立憲主義を根底から破壊しようとしている」(共産党の志位委員長)と非難するなど、フィリバスターを実行した。これにより、本会議採決まで約3時間半を要することとなった。内閣不信任決議案は、野党5党などの賛成少数により否決された。

 

 

【19日未明に関連2法が成立】

 参議院で鴻池委員長の問責決議案が野党5党の賛成少数により否決された後、19日未明になって、関連2法案を審議・採決する参議院本会議が開催された。鴻池委員長による委員会報告後、自民党が討論時間などを1人15分以内に制限するよう求める動議を提出したのに対し、野党は記名投票での採決を求めた。反対討論に立った民主党の福山幹事長代理は、時間制限の動議が賛成多数により可決したにもかかわらず、「昨日の暴力的な強行採決は無効だ。法案が違憲かどうかは明白で、集団的自衛権の行使は戦争に参加することだ」などと批判し、約30分間の演説を行った。

 各党による賛否それぞれの立場から討論した後、関連2法案の採決が行われた。与党と野党3党などの賛成多数により関連2法が可決、成立となった。採決の投票総数は238で、賛成148票、反対90票だった。本会議場で山崎議長が成立を宣言すると、与党席からは拍手が起き、野党席からは「憲法違反」のコールが起こる異例の事態となった。

 

 関連2法の成立を受け、安倍総理は「平和安全法制は国民の命と平和な暮らしを守り抜く必要な法制であり、戦争を未然に防ぐためのものだ。子どもたちや未来の子どもたちに平和な日本を引き継ぐため、必要な法的基盤が整備された」と法整備の意義を改めて強調したうえで、「今後も積極的な平和外交を推進し、万が一への備えに万全を期していきたい」などと述べた。

強行採決だとの野党側の批判には、「野党からも複数の対案が提示され、議論も深まった。民主的統制をより強化する合意が野党3党となされた。より幅ひろい支持のもとに成立させることができた」と反論した。また、野党側が戦争法案と批判していることに対しても、「もし戦争法案なら、世界中から反対の声が寄せられるはずだ。しかし、世界のたくさんの国々から、支持する声が寄せられている」と説明したうえで、「戦争法案や徴兵制など、無責任なレッテル貼りが行われたことは大変残念」「レッテル貼りは根拠のない不安をあおるもので無責任」と述べた(通常国会が事実上閉会した25日の会見)。

そして、安倍総理は、世論調査で反対が賛成を大きく上回っていることを念頭に、「さらに理解を得られるよう丁寧に説明する努力を続ける」「時を経るなかで、法制の意義は、十分に国民的理解が広がっていくと確信している」と自信を示した。

 

 賛成票を投じた与党や野党3党からも「日本の安全と平和を確保していくため結論を出さなければいけなかった」「個別的であれ集団的であれ、自衛権を発動しないで済むために全力を傾ける必要がある」(自民党の谷垣幹事長)、「日本を守るための抑止力を高め、これにより外交で物事を解決する力とする。憲法の枠内で自衛隊の活動を活かし、きちんと歯止めをかける具体的な措置を盛り込んだ」(公明党の山口代表)、「与党が修正案をのんだことは、国民の意見をくみとったものと評価したい」(新党改革の荒井代表)などと評価した。日本を元気にする会の松田代表は、与党との修正協議で国会関与を強めて自衛隊の海外派遣に歯止めをかけたことを大きな成果としつつも、「問題が多い法案、欠陥が多い法案」「11本を束ねた法案は間違っている。バラバラにして出し直すべきだった」とも述べた。

 

これに対し、野党5党は、違憲の法律を強行採決したとして一斉に批判した。民主党は、「憲法の平和主義、立憲主義、民主主義に大きな傷跡を残した」「集団的自衛権の部分は白紙に戻さなければいけない」(岡田代表)、「こんなかたちで成立したのでは、最前線の自衛隊員が不安になる。許しがたい」(北沢俊美・野党筆頭理事)、「憲法を踏みにじり、国会で自民党・公明党が追随した。絶対に忘れてはいけない日だ」(蓮舫代表代行)などと訴えた。

他の野党も「安倍政権は横暴で傲慢だ。衆参ともに強行採決をしたのは残念でならない」(維新の党の松野代表)、「採決強行を満身の怒りを込めて糾弾したい。憲法の平和主義を壊し、立憲主義を壊し、国民主権の民主主義を壊す、まさに歴史的な暴挙だ。この暴挙を働いたものには必ず歴史の裁きが下る」(共産党の志位委員長)などと非難した。

また、民主党や維新の党、共産党は、来年夏に行われる参院選でまず勝利して衆参勢力の異なるねじれに持ち込み、関連2法の執行阻止や与党に見直しを迫るためにも、与党に対峙できる野党勢力の結集や共闘態勢の強化を呼び掛けている。

 

 政府は、19日の持ち回り閣議と国家安全保障会議(NSC)で、政府が法律施行にあたり5党合意の趣旨を尊重し適切に対処する旨を盛り込んだ「平和安全法制の成立を踏まえた政府の取組について」を決定した。17日に特別委員会で可決した附帯決議では、与党と野党3党の合意事項が盛り込まれているが、閣議決定によりこれらを追認、合意履行を正式に担保した。

 関連2法は、9月30日に公布し、来年3月末までに施行される。関連2法により、国連平和維持活動(PKO)で自衛隊の武器使用権限などが強化され、駆けつけ警護や、一定地域の治安維持を担う安全確保活動などが可能になる。国連南スーダン派遣団(UNMISS)に派遣している自衛隊の部隊が来年5月に交代となることから、政府は、早ければ来年2月にも閣議決定するPKO実施計画で、駆け付け警護を新たな任務として追加する方針だ。防衛省は、関連2法にもとづき、武力攻撃などに直面した際の任務遂行の基準や武器使用のあり方などを定めた「部隊行動基準(ROE)」の更新や、新たな訓練の検討などの準備作業に着手した。

また、中谷大臣は「(米軍と)訓練や情報交換など、今まで対応できなかった調整や協力ができる部分もある。わが国の抑止力、対処力を向上させていくことにつながるので、今後とも連携したい」と述べており、自衛隊・米軍との共同訓練の拡大など体制整備・連携強化、日米協力の具体的シナリオの検討などにも着手する。政府は、自衛隊が米軍を後方支援する際の手続きを定めた「日米物品役務相互提供協定(ACSA)」を改定して、秋の臨時国会にも提出することをめざしている。

 

 もっとも、関連2法は憲法違反との主張が絶えない。年内にも多くの違憲訴訟が提起される可能性がある。日米安全保障条約や自衛隊の違憲性が問われた過去の裁判で、最高裁判所は高度な政治性を伴うことを理由に司法の判断対象外としてきた。ただ、民主党など野党は、特別委員会の採決にあたり手続き上の瑕疵が多々あると主張している。特に、地方公聴会に派遣された委員が調査結果を特別委員会へ口頭または文書で報告することになっているが、16日に開催された地方公聴会(横浜市)の公述人発言の報告がされないまま、17日に質疑を打ち切ったのではないかとの声も出ている。今後、司法の判断次第によっては、政策の再転換を迫られる可能性も否めない。違憲か否かをめぐる議論は、まだまだ続きそうだ。

 

 

【内閣改造の動きに注目を】

自民党は、24日に両院議員総会を開いて、9月8日に告示された総裁選で無投票再選した安倍総裁(総理)の再任を正式に了承した。また、臨時役員会や党総務会などを開催して、内閣改造に併せて行う党役員人事を安倍総裁に一任することを決めた。

再任された安倍総理は、今後も経済最優先で取り組み、デフレ脱却・経済再生に再び全力を挙げる決意を表明した。アベノミクス第2ステージとして、日本の構造的な課題である少子高齢化に歯止めをかけて50年後も人口1億人を維持し、誰もが家庭・職場・地域などで活力を発揮できる「1億総活躍社会」の実現をめざして、(1)国内総生産(GDP)600兆円の達成で希望を生み出す強い経済、(2)希望出生率1.8の実現をめざして夢をつむぐ子育て支援の充実、(3)介護離職ゼロなど安心につながる社会保障制度改革・充実、の「新3本の矢」で重点的に推進すると訴えた。

 

 1億総活躍社会を実現するため、安倍総理は、国民的議論を深めるため有識者で構成する国民会議を設置して、2020年までの道筋を定めた「日本1億総活躍プラン」を策定する考えを示した。経済から子育て・介護、社会保障制度改革など政策課題が多岐にわたり、省庁間の総合調整が必要となることから、内閣改造に伴って担当大臣を新設するとしている。いまのところ、閣僚枠は増やさず兼務とする方向で、甘利経済再生担当大臣が兼務する案が有力となっているようだ。

 具体的には、多様な働き方改革や生産性革命、対日投資の促進、地方創生・ふるさと活性化などを果断に進め、まず希望を生み出す強い経済をつくっていくとしている。そして、少子化に真っ向から取り組み、待機児童ゼロの実現、幼児教育の無償化のさらなる拡大、多世帯への重点的支援、子どもの貧困対策、教育制度の複線化、奨学金拡充などを進めて、誰もが結婚・出産の希望をかなえることができ、誰もが進学できる社会環境をつくるという。また、介護施設の整備や介護人材の育成などを進めて在宅介護の負担を軽減するとともに、仕事と介護が両立できる社会づくりを本格的にスタートさせたいとしている。さらに、現役世代も安心できる社会保障制度の改革・充実、予防に重点化した医療制度改革、高齢者への多様な就業機会の提供など生涯現役社会の構築といった取り組みも進めていくという。

 

 引き続き経済再生をはじめ山積する重要課題に全力を挙げて取り組む姿勢を打ち出すとともに、来年夏に行われる参院選を見据えて、政権基盤を固め直し人心一新を行うねらいから、安倍総理は、ニューヨークで開かれている国連総会出席など外遊日程をこなして日本に帰国する10月2日以降、組閣に向けた作業を本格化させる。7日にも内閣改造・自民党役員人事を断行する方針だ。

 

安倍総理は、24日の会見で「大きな骨格は維持をしながら、女性の皆様にも活躍をして頂きたいと思うが、同時に老・壮・青、男性・女性、バランスのとれた体制を整えていきたい」と説明している。いまのところ、内閣では麻生副総理兼財務大臣や菅官房長官、甘利経済再生担当大臣、石破地方創生担当大臣、塩崎厚生労働大臣、岸田外務大臣、中谷防衛大臣、遠藤オリンピック担当大臣、公明党の太田国土交通大臣が続投になるのではないかとみられており、閣僚交代は小幅になると見方が出ている。女性登用の一環として、稲田政調会長や丸川参議院厚生労働委員長らを閣僚などに起用するといった話も浮上しているようだ。党執行部では、高村副総裁や谷垣幹事長、二階総務会長の留任が固まったとされている。

一方、下村文部科学大臣の交代は確実となった。2020年東京オリンピック・パラリンピックのメイン会場となる新国立競技場の旧整備計画で総工費が2520億円に膨張し、安倍総理が白紙撤回という一連の混乱を招いた責任をとって、下村大臣は安倍総理に辞任を申し出た。24日、旧整備計画で経緯などについて検証した文部科学省の第三者委員会(委員長:柏木昇・東京大学名誉教授)は、「難度が高く複雑なプロジェクトに求められる適切な組織体制を整備できなかった」と、下村大臣にもその結果責任があると結論付ける報告書をとりまとめたからだ。安倍総理から慰留され、下村大臣は、内閣改造までその職に留まることとなっている。

 

 自民党内には、衆議院当選5回以上を中心とした入閣待機組も多い。党内各派は、こうした議員たちをなるべく多く入閣させようと躍起になっており、水面下での競争が過熱している。ただ、安倍総理は、これまでにも閣僚や党役員に女性や若手などを積極的に登用してきただけに、党内各派の希望通りの人事になるかは未知数だ。

来週、安倍総理は内閣改造・自民党役員人事を断行する。どのポストにどのような人材を配するのだろうか。そして、内閣改造のねらいを安倍総理がどのように説明するのだろうか。重要課題が山積するなか、当面の政策動向を把握するためにも、まずは改造内閣の顔ぶれと、安倍総理はじめ新閣僚の発言などをしっかり抑えておくべきだろう。
 

【安全保障法制をめぐって舌戦】

今週14日、通常国会最終盤で最大焦点となっている安全保障関連2法案(平和安全法制整備法案、国際平和支援法案)を審議する参議院わが国および国際社会の平和安全法制に関する特別委員会で安倍総理出席のもとで集中審議が行われた。

安倍総理は、自国の存立のため必要な自衛の措置は認められるとした1959年の最高裁砂川事件に触れて「判決のいう必要な自衛措置とは何かをとことん考え抜き、隙のない備えをつくっていくことは政治家、政府の一番重要な使命」「何か起きてから法律をつくるのでは遅すぎる」「一日も早い平和安全法制の整備が不可欠」と、関連2法案を早期に成立させる意義を改めて強調した。

 

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これに対し、北沢・野党筆頭理事(民主党)は、「反対する者は黙っていろという姿を、国民は見抜いている」と述べ、いったん関連2法案を廃案にして出し直したうえで、与野党協議を行い、そこで合意に至らなければ衆議院を解散して国民に信を問うべきだと、安倍総理に迫った。安倍総理は「(批判は)真摯に受け止めたい」としながらも、「平和な暮らしを守り抜くためにこの法制は必要不可欠」であり、「この国会で成立させるとの決意に変わるところはない」と拒否した。

また、安倍総理は「残念ながらまだ支持が広がっていないのは事実」と認めつつも、「国民に必要な法案だと理解をいただき、支持をいただくことがベストで、われわれもそのために丁寧な説明を繰り返している」「法案が成立し、時が経ていくなかにおいて間違いなく理解は広がっていく」として、「選挙により選ばれた議員が審議を深め、決めるべき時には決めていただきたい」と与野党に協力を求めた。

 

ただ、中谷防衛大臣兼安全保障法制担当大臣の答弁をめぐって、何度も国会審議が紛糾し、しばしば審議がストップする事態が続いている。11日の特別委員会で開かれた集中審議では、陸上自衛官が他国軍を後方支援する際の安全確保の規定などに関する中谷大臣の答弁をめぐって何度も中断し、安倍総理や官僚らが答弁内容をすりあわせる場面や、質された質問に答えられずに立ち往生する場面もあった。

質問に立った福山哲郎・民主党幹事長代理は「いま、(茨城・栃木・宮城各県などでの大規模水害の)災害活動で、頑張っていただいている自衛隊員に失礼だ」と批判するとともに、「(政府が)こんな答弁をしているから、衆議院で100時間以上審議をやって、参院で70時間以上やっても、国民の半分が説明不十分と言っている」「これだけ国会を延長してやっても、国民の理解は広がっていない。はっきり言って、総理、負けですよ」と、政府側が不誠実な答弁を繰り返していること自体に問題があると指摘して、安倍総理に「素直に認めて審議未了、廃案とすべきだ」と迫った。

14日の特別委員会で行われた集中審議でも、中谷大臣が「法案が成立したら内容を把握して検討する」と関連2法案成立ありきの答弁を行ったことで、野党側が「何のための国会審議だ」と反発、繰り返し審議がストップする事態が続いた。

 

民主党は、大森政輔・元内閣法制局長官が、集団的自衛権行使の限定的に容認するために憲法解釈を変更した昨年7月の閣議決定を「国際環境や安全保障環境を考慮しても、内閣の独断であり、許容できない」(8日特別委員会・参考人招致の答弁)と違憲と断じたことや、過去の内閣法制局長官が行った答弁などを引き合いに、横畠内閣法制局長官が国会審議で答弁している内容の整合性も質した。

横畠長官は「元の上司が、まさかそういう答弁をしているとは考えられない」と答弁した。福山幹事長代理は「官僚の皆さんは安倍政権に雇われているのではなく、国民全体に雇われている」としたうえで、「いろんな法律を大臣の答弁に合わせ、いままで出ていなかった話を出して、事実をねじ曲げて、法律を通そうなんて、考えられない」「あなたの答弁は考えられない。本当に魂売りすぎ」と、横畠長官の姿勢を厳しく批判した。

 

 このほか、集団的自衛権を行使する唯一の具体例としてきた中東・ホルムズ海峡の機雷掃海について、安倍総理がこれまでの政府答弁を軌道修正した。政府は「日本の生命線である海上航路の安全確保は、日本のみならず国際社会全体の繁栄と発展に不可欠」であり、機雷封鎖により「日本の存立が脅かされる明白な危険」が発生したと判断できれば、集団的自衛権の行使で機雷掃海を実施することもありうると説明してきた。

安倍総理は、14日の集中審議で「新3要件に該当する場合はありえる」としながらも、核開発を進めるイランが欧米などとの問題解決に向けた協議が合意に達するなど緊張緩和の兆しが現れつつあるなど中東情勢の変化も踏まえて「現在の国際情勢に照らせば、現実の問題として発生することを具体的に想定しているものではない」と、将来の不測事態に備えることが重要と答弁した。岸田外務大臣も「イランを含めた特定の国がホルムズ海峡に機雷を敷設するとは想定していない」としたうえで、「ホルムズ海峡を擁する中東地域において安全保障環境はますます厳しさ、不透明性を増しており、あらゆる事態への万全の備えを整備していくことが重要」と強調している。

 

 

【15日に中央公聴会、16日に地方公聴会を開催】

15日の特別委員会では、特別委員会採決の前提となる中央公聴会が開催された。中央公聴会では、6人の公述人がそれぞれ関連2法案への賛否を表明した。

与党推薦の公述人2名は「国会の意思を反映し、政府の考えだけで変えられないことを示している。集団的自衛権を容認しても海外派兵の扉は固く閉ざされている」「最高裁が違憲とする可能性は低い」(坂元一哉・大阪大学教授)、「安全保障環境は急速に変わっている。法制を整備しないと対応できない」(白石隆・政策研究大学院大学長)などと、関連2法案を賛成・評価する考えを示した。

これに対し、野党推薦の公述人4名は「本来、憲法9条の改正手続きを経るべきものを、閣議決定で急に変えるのは非常に問題だ」「(政府が限定的な集団的自衛権は認められるとしている点について)法律専門家の検証にたえられない。裁判所では通らない」(浜田邦夫・元最高裁判所判事)、「解釈改憲は事実上の日米安全保障条約の改定にもつながる。それを国会承認なしに行う意味でも立憲主義に反する」(松井芳郎・名古屋大学名誉教授)などと、関連2法案が憲法違反にあたるとして、政府・与党の対応を批判した。

 

16日には、地方公聴会が神奈川県横浜市で開催された。地方公聴会をめぐっては、自民党が当初、会期末(9月27日)までの日数が実質残りわずかとなるなか、関連2法案の採決までの日程を短縮するため、開催を見送る方針だった。谷垣幹事長ら執行部は、不測事態で関連2法案が廃案に追い込まれないよう、参議院本会議で採決する事実上のタイムリミットを18日未明と設定しつつも、余裕をもって成立させたいとして、16日の特別委員会で採決し、同日中に参議院本会議に緊急上程する日程を主張してきた。しかし、参議院自民党は、18日までに関連2法案を成立させることで一致してものの、参議院独自の判断によって決すべきとギリギリまで努力し続ける姿勢を崩さなかった。参議院自民党内には、参議院の存在感が低下するなかで参議院も採決を強行したとのイメージがつくことへの恐れだけでなく、参議院送付から60日経過しても関連法案が採決されない場合には衆議院本会議で3分の2以上の賛成により再可決できる「60日ルール」(憲法第59条)を適用し衆議院側で再可決を示唆することで、早期採決を迫る官邸や自民党執行部への不満・不快感もあったようだ。 

自民党内の衆議院側と参議院側で採決時期をめぐる見解の相違が顕在化するなか、参議院自民党は、参議院採決までなるべく丁寧に手順を踏むことで特別委員会の審議を円満に進むことを期待して、民主党など野党側が求めていた16日の地方公聴会開催を受け入れることを決めた。そして、11日の特別委員会で地方公聴会開催を全会一致で議決、開催することが決まった。

 16日の地方公聴会では、与党推薦の公述人2名が「平和安全法制は、抑止力をさらに強化し、現状を変更しようとする他国の意思をくじくための法律」(伊藤俊幸・前海上自衛隊呉地方総監)、「集団的自衛権が一部行使できるのは、存立危機事態と重要影響事態の2つだけ」「法案と国際関係の現状を冷静に観察すると、巻き込まれのリスク(日本の防衛と関係ないアメリカの戦争に巻き込まれるリスク)は人々が不安に思っているほど大きくない」(渡部恒雄・東京財団上席研究員)などと、関連2法案を評価する意見を述べた。

 一方、野党推薦の公述人は、「どう考えても憲法に違反している」「法案の進め方は、民主主義と立憲主義に対する挑戦」「審議が進むほど重大な問題点が続出し、国会が議論をつくしたとは、大多数の国民が考えていない。現在の民意に耳を傾けることこそが政治家の責務」(広渡清吾・専修大学教授)、「政府の説明とも乖離がある状態の法案を通してしまえば、国会の存在意義がなくなる。単なる多数決主義であって、民主主義ではない」(水上貴央・弁護士)などと、成立を急ぐ与党の姿勢を批判した。

 
 

【採決をめぐる与野党攻防が激化】

 与党は、16日午前に参議院本会議で他の法案処理を済ませ、午後に地方公聴会を開催、夕方以降に特別委員会で安倍総理出席のもと締めくくり総括質疑を行ったうえで採決に踏み切るシナリオを描く。ただ、成立阻止の姿勢を強める野党が採決に猛反発するのは必至で、野党の出方次第では、特別委員会での採決が17日に、参議院本会議の採決が17日または18日にずれ込む可能性が高い。参院自民党には、地方公聴会と同じ日に法案採決を行った前例がないうえ、17日の特別委員会は定例開催日ではないだけに、18日に先送りすべきとの意見もある。

 

 一方、通常国会中の成立阻止に全力を挙げる民主党など野党側は、関連2法案の合憲性などについて追及を強めるとともに、与党が採決を強行すれば徹底抗戦する構えだ。

11日、野党6党(民主党・維新の党・共産党・社民党・生活の党・日本を元気にする会)と参議院1会派(無所属クラブ)の党首・代表らが会談を行い、与党側が模索する今週中の採決に応じず、あらゆる手段を講じて関連2法案の成立を阻止する方針で一致した。また、特別委員会で参考人質疑の開催や、オディエルノ陸軍参謀総長との会談で安全保障法制整備が2015年夏までに終了するとの見通しを伝えていたとされる河野統合幕僚長の参考人招致など、引き続き徹底審議を求めることや、衆参両院の予算委員会で茨城・栃木・宮城各県などでの記録的な大雨被害に係る集中審議を早期に開催するよう与党側に求めることでも一致した。

 与党が事実上のリミットと位置付ける18日までに関連2法案の成立を阻めば、廃案や継続審議の現実味が帯びてくる。民主党などは、特別委員会での採決にあわせて、衆議院に内閣不信任決議案を、参議院に鴻池特別委員長の解任動議、安倍総理はじめ中谷大臣・岸田大臣ら4閣僚、鴻池特別委員長への問責決議案を共同提出する考えだ。内閣不信任決議案や問責決議案などは法案採決より優先され、決議案1件の採決に配布資料の印刷や投票時間を含めて3時間程度かかる。野党側は、これらを連発して提出することで、関連2法案の本会議採決を大幅に遅らせることをねらっている。

 

 関連2法案の採決をめぐって与野党の攻防が激しくなるなか、自民党の吉田参議院国対委員長は、14日、民主党の榛葉参議院国対委員長と会談して、公聴会開催メドがついたことを念頭に「そろそろ採決を考える時期だ」と早期採決を提案した。これに対し、榛葉参議院国対委員長が「強行採決はすべきでない。27日まで徹底審議すべきだ」と審議続行を求めたため、話し合いは平行線に終わった。

 また、野党側の提案で15日に与野党の衆議院国会対策委員長会談を開き、関連2法案をめぐって協議した。野党側は、国民の理解が深まっていないなどとして徹底審議を求めるとともに、60日ルールを適用しないよう与党側を牽制した。また、記録的な大雨被害に係る集中審議を衆議院予算委員会で開くよう要求した。こうした要求に、自民党は「(60日ルールの適用は)考えていないが、(参議院の)動向をみつつ判断したい」「まだ被害が把握できていないので、すぐに(集中審議を)開く考えはない」と回答した。自民党は、いまのところ60日ルールの適用をしない方針だが、国会の混乱で参議院本会議の採決が18日以降にずれ込めば、60日ルールの適用も視野に入れるとも示唆している。

 

 そして、15日夜に開かれた特別委員会理事懇談会で、与党は16日の地方公聴会終了後に、安倍総理出席のもと締めくくり総括質疑を行うことを提案した。これに対し、民主党・維新の党・共産党は「27日の会期末まで時間があるのに、なぜ質疑を打ち切るのか」「地方公聴会後に締めくくり質疑を行うのは遺憾だ」などと強く反発した。このことから、鴻池特別委員長(自民党)が職権で締めくくり総括質疑の開催を決めた。民主党の特別委員会委員5人が詰めかけ、鴻池特別委員長や与党理事らに「こんな強行許されるのか」「国民の憲法を奪うんじゃないよ。議会を殺す気か」などと抗議した。

 

【与党、野党3党と大筋合意】

与党は、野党との間で進めてきた修正協議にもメドをつけた。与党は、日本を元気にする会・次世代の党・新党改革の要求を一部受け入れることで、野党の一部を取り込むことに成功した。野党3党(15議席)が賛成に回ることで、成立阻止を掲げる民主党や共産党などが採決に抗議して退席しても、与野党の賛成多数による採決が可能となり、与党単独で強行に採決したとの印象も薄まる。与党は、採決環境が整ったと判断した。また、対決姿勢を強める野党側の足並みが乱れるのではないかとも期待しているようだ。

 

維新の党との修正協議では、当初、維新の党から採決への協力を引き出すことをめざしてきたが、集団的自衛権行使の要件などをめぐって双方が主張を譲らず、見解の隔たりが埋まらない状態が続いていた。また、維新の党が事実上の分裂状態に陥っているうえ、松野代表が野党共闘路線に踏み切った。このことから、与党は、維新の党との修正合意は困難と判断し、15日の修正協議で、維新の党にその旨を伝えた。

また、与党は、維新の党が求める点の一部を安倍総理の国会答弁などで担保する考えを示すとともに、日本が攻撃される明白な危険がない中東・ホルムズ海峡での機雷掃海などで国会の事前承認を求めるしくみや、自衛隊が他国軍を後方支援する地域を「現に戦闘が行われていない地域」としている点について「活動期間を通じて戦闘行為が行われることがないと認められる地域」と実施地域を定める閣議決定に盛り込むことなどを提案した。

維新の党は、党内で協議するとして持ち帰ったが、要求との隔たりが大きいとして、与党側の提案に応じないようだ。これにより、与党と維新の党による修正協議は、事実上、決裂した格好だ。

 

 一方、日本を元気にする会・次世代の党・新党改革とは、16日の党首会談で、自衛隊の海外派遣にあたって国会の関与を強めることなどについて正式合意した。

 野党3党が要求した「自衛隊の海外派遣を例外なく国会の事前承認とする」点は、集団的自衛権の行使が可能になる存立危機事態に該当するが、日本が直接攻撃を受ける武力攻撃事態にあたらない防衛出動は「例外なく事前承認を求める」とし、米軍など他国軍の後方支援が可能となる重要影響事態でも「一部の例外を除いて事前承認を求める」とするなど、政府案より事前承認の幅をひろげることとなった。 また、自衛隊の海外活動を常時監視・事後検証するための組織を国会に設置することについては、成立後に協議会を設置して引き続き検討のうえ結論をえることで一致した。このほか、自衛隊の海外派遣時には「180日ごとに国会に報告する」こととし、当初定めた期間を延長する場合は国会承認を求めることで決着した。自衛隊派遣後に国会が撤退を求める決議を行った場合には、国会の意思を尊重して、すべての活動を中止する枠組みを設ける。いずれも条文修正は行わずに附帯決議で対応し、「附帯決議の趣旨を尊重して適切に対処」と盛り込んだ文書を閣議決定することとなった。  

 野党3党は、与党と正式合意したことを受け、参議院に提出していた修正案を取り下げ、関連2法案に賛成する方針だ。

 
【安全保障法制をめぐる与野党動向に注意を】

 安全保障関連2法案の参議院採決をめぐって与野党の攻防が激しさを増しており、最終局面を迎えている。16日、民主党・維新の党・共産党・社民党・生活の党・参議院1会派(無所属クラブ)は、特別委員会での締めくくり総括質疑を前に党首・代表会談を開き、(1)採決を前提とした締めくくり総括質疑は認めない、(2)採決を強行すれば、内閣不信任決議案や問責決議案などを提出することも含め成立阻止を図ることなどについて確認した。
 その後、国会では、多数の
野党議員が理事会室・委員会室前を占拠して鴻池特別委員長の入室を阻止するなど緊迫した状態が続いた。また、野党理事は、特別委員会理事会で「委員長職権で決めた締めくくり総括質疑を撤回してもらいたい」と要求するとともに、与党が野党3党が合意した国会関与の強化策について「法案内容に変化があるなら説明を求める」などと資料提出を要求するなどした。野党側による特別委員会開会の阻止で、16日に開催するはずだった締めくくり総括質疑は行われなかった
 与野党は、
特別委員会理事会を断続的に開いて協議しているが、いまだ折りあっていない。17日中に関連2法案の採決をめざす与党と、鴻池特別委員長の解任動議を特別委員会提出をちらつかせて徹底抗戦する野党側とが激しく対立しており、予断の許さない状況だ。

 

 こうした与野党対立の影響で、他の法案審議も不透明なものとなってきている。与党は、衆議院を通過した社会福祉法改正案や、確定拠出年金法改正案などの通常国会中の成立を見送るようだ。安全保障法制をめぐる動向を注視しつつ、その他の法案処理の動向についても適宜、チェックしておいたほうがいいだろう。


【労働者派遣法改正案が参議院で修正可決、成立へ】

今週8日、派遣労働者の柔軟な働き方を認めることを目的に、企業の派遣受け入れ期間の最長3年という上限規制を撤廃(一部の専門業務を除く)する一方、届け出のみで認められてきた派遣事業を、すべて許可制にして国の指導・監督を強化するとともに、派遣労働者一人ひとりの派遣期間の上限は原則3年に制限して、派遣会社に3年経過した後に派遣先での直接雇用の依頼や、新たな派遣先の提供、派遣社員のキャリアアップ支援などの雇用安定措置を義務づける「労働者派遣法改正案」が、施行予定日を9月30日に修正するなどしたうえで、参議院厚生労働委員会で与党の賛成多数により可決した。「生涯派遣で低賃金の労働者が増える」「派遣の固定化、不安定化につながる」ことなどを理由に改正案に反対してきた民主党や共産党など野党は、修正改正案に反対した。

また、同じ職務を行う労働者は正規・非正規にかかわらず同じ賃金を支払う「同一労働・同一賃金推進法案」も採決され、与党や維新の党などの賛成多数により可決した。


 *衆参両院の本会議や委員会での審議模様は、以下のページからご覧になれます。

衆議院インターネット審議中継参議院インターネット審議中継

8日の参議院厚生労働委員会では、質疑終了後、与党が質疑終結の動議を提出したが、民主党など野党が強く抗議したため、同委員会は一時休憩となった。その後に開かれた同委員会理事会で、参議院でも強行採決に踏み切れば、安全保障関連2法案の審議などに影響しかねないことを懸念した与党が、(1)原則3年の派遣期間を延長する際に必要な労働組合などへの意見聴取を「誠実に行う」とする規定を労働者派遣法改正案に明記すること、(2)附帯決議に野党側が主張する39項目を盛り込むこと、とした譲歩案を野党側に提示した。これを受け、民主党など野党が委員会採決そのものには応じることを決めたことから、委員会が再開して2法案の採決が行われることとなった。

 そして9日、参議院本会議で労働者派遣法改正案と、同一労働・同一賃金推進法案の採決が行われ、与党などの賛成多数により可決された。このうち、参議院で修正した労働者派遣法改正案は、衆議院で改めて採決する必要があるため、衆議院に回付となった。与党は、11日の衆議院本会議で可決・成立させる日程を描いており、成立する見通しだ。

 

2012年労働者派遣法改正に伴う「労働契約申し込みみなし制度」が10月1日からスタートするが、派遣期間の制限がない専門26業務で本来の業務と関係ない業務などをさせている派遣先の企業が、直接雇用を希望する派遣労働者を雇用しなければならなくなる事態を回避するため、派遣社員の契約を9月で打ち切る事態もありうる。政府は、こうした混乱が生じないよう、異例のスピードで同法を施行する方針だ。改正案には、派遣労働者が増えた場合、速やかに対応を検討するとの規定も盛り込まれている。今後、政府は、今回の制度改正等により労働者に与える影響なども注視しながら、必要な対策などを講じていくこととなるだけに、引き続き施行後の動向をみていくことが大切だろう。

 また、柔軟な働き方を広げて労働生産性を高めるねらいから高度プロフェッショナル制度創設や企画業務型裁量労働制の対象を新商品開発・立案や課題解決型営業などへの拡大、年5日の有給休暇の取得ができるよう企業に義務づける過労対策などを柱とする「労働基準法等の一部を改正する法律案」は、通常国会中の成立を断念しているが、政府・与党は次期国会にも成立させる方向で強い意欲を示している。一方、民主党や共産党など野党は、残業手当を支払うなどの労働時間規制が外れることなどを懸念して「残業代ゼロ法案」と批判を強めているだけに、与野党対決法案として持ち越されることとなりそうだ。

 

 このほか、国民一人ひとりに12桁の個人番号を割りあてて税・社会保障関連情報を一つの番号で管理する共通番号(マイナンバー)制度の適用範囲を、預貯金口座や年金分野、特定健康診査情報などにも広げることのほか、個人情報保護の観点から蓄積された膨大な個人情報をビッグデータとして活用する際の利活用環境の整備、情報の漏洩や不正利用に対する罰則の新設などを柱とする「個人情報の保護に関する法律及び行政手続における特定の個人を識別するための番号の利用等に関する法律の一部を改正する法律案」が、3日の衆議院本会議で、与党や民主党などの賛成多数により可決、成立した。

個人情報流出問題がおきた日本年金機構の情報管理体制などへの懸念から、来年1月に予定していたマイナンバーと基礎年金番号の連結を最長2017年5月まで、年金機構がマイナンバーを使って情報を提供したり照会したりすることも最長2017年11月まで延期することなどが参議院で修正されたため、衆議院で再可決となった。

 

 政府は、今年10月からマイナンバーの通知を始め、来年1月から税金・社会保障、災害関連の3分野を中心とした行政手続きで番号活用をスタートさせる。また、企業などの個人情報の取り扱いやプライバシー保護などを監視するとともに、行政機関や独立行政法人も検査して個人情報の漏洩や不正利用を防ぐ第三者機関「個人情報保護委員会」は、改組前の組織より権限を強めて来年1月に発足させる。

4日、政府は、インターネット空間の安全確保に向けた新たな指針「サイバーセキュリティ戦略」を閣議決定し、マイナンバー制度への対策強化を進めるとともに、サイバー攻撃被害の監視対象を政府機関から独立行政法人や一部の特殊法人にもひろげるとした。今後は、自治体の情報セキュリティー対策も含め、マイナンバー制度の円滑かつ安全な運用に向けてどのような具体策を政府が講じていくかだろう。

 

 

【安全保障法制、国会最終盤の最大焦点に】

労働者派遣法改正案の成立メドがたったことで、安全保障関連2法案(平和安全法制整備法案、国際平和支援法案)が通常国会最終盤の最大焦点となった。参議院わが国および国際社会の平和安全法制に関する特別委員会では、共産党が2日、防衛省の河野統合幕僚長が2014年12月に渡米して、オディエルノ陸軍参謀総長との会談で安全保障法制整備が2015年夏までに終了するとの見通しを伝えていたのではないかとされる内部報告書「統幕長訪米時における会談の結果概要について」を示して、防衛省を追及した。中谷防衛大臣兼安全保障法制担当大臣は「資料を確認できないので言及を控える」と答弁するにとどめた。

野党側は、「政府案も決まっていない段階での発言だ。シビリアン・コントロール(文民統制)を逸脱している」(民主党の枝野幹事長)などと批判し、防衛省の資料かどうかを早急に確認するよう要求している。成立時期に言及するような発言を自衛隊制服組トップが本当におこなっていたとすれば、政府として河野統合幕僚長の罷免を含め厳正に対処するよう求めている。こうした野党の追及に、中谷大臣は「防衛省で作られたかどうか確認中。公表を前提に行われた会談ではなく、相手方との信頼関係にもかかわるため慎重に調査している」(4日の特別委員会答弁)と説明した。

鴻池特別委員長(自民党)が3日以内に内部報告書の存否について報告するよう、防衛省に求めたことを受け、防衛省は7日、鴻池特別委員長に「共産党が提示した資料と同じものはなかった」と報告した。河野統合幕僚長は、10日の記者会見で「(共産党が提示した報告書と)同じ題名の文書は存在した」と認めつつも、内容真偽の説明を避けながら「同一のものはなかったということでご了解いただきたい」と述べた。資料の存否や内容の真偽を明らかにするよう求めてきた民主党や共産党は、防衛省側の説明に納得できず、むしろより疑惑が深まったとして、さらに追及する方針だ。

 

 8日の特別委員会では、有識者4人を招いて安全保障関連2法案に関する参考人質疑を実施した。元外交官の宮家邦彦・立命館大学客員教授(与党推薦)は「あらゆる事態に対応できる枠組みを準備しておかなければいけない」「本当に現行法制だけで日本を守れると思っているのか」と法案支持を表明するとともに、憲法論にもとづいた批判について「安全保障の本質を理解しない観念論と机上の空論」「憲法があるから国家があるのではなく、国家を守るために憲法がある」と強調し、「違憲、合憲の最終的判断を下すのは最高裁。憲法学者、内閣法制局長官にその権限はない」と述べた。

安全保障論が専門の神保謙・慶應義塾大学准教授(与党推薦)は、日本の安全保障に不可欠だと法案に賛同しつつも、武力攻撃に至らないグレーゾーン事態への対応において自衛隊の柔軟な運用や海上保安庁の権限・能力の拡大も議論すべきであり、武力行使の新3要件も「範囲が限定されすぎ」と指摘して、「切れ目のない態勢を確保できているかという点では十分でない」「仮に成立しても不断の態勢整備が必要」と、さらなる改善を求めた。

 

 一方、大森政輔・元内閣法制局長官(野党推薦)は、集団的自衛権の行使を認める憲法解釈を変更した昨年7月の閣議決定について「国際環境や安全保障環境を考慮しても、内閣の独断であり、許容できない」と内閣の権能を超えるもので違憲・無効と断じるとともに、政府が合憲性の根拠として1959年の最高裁砂川事件判決を挙げている点について「全くの暴論」と批判した。また、伊藤真・弁護士(野党推薦)も「どのような安全保障・外交政策でも憲法の枠内で実行することが立憲主義の本質的要請だ。憲法あってこその国家」「法案は国民主権、民主主義、憲法9条、平和主義、立憲主義に反する。直ちに廃案にすべきだ」と訴えた。 

米軍への後方支援を定めた現行の周辺事態法の制定に関わった大森元長官は、当時、周辺事態法で「発進準備中の航空機への給油」が支援対象より除外されたことについて、内閣法制局は憲法上疑義があるとの認識から「武力行使との一体化の典型的事例で認められない」と繰り返し主張してきたが、政府内の協議で「ニーズがない」ということだったので収めた経緯があったと証言した。

 

 

【中央公聴会を15日開催、来週中に成立へ】

 参議院特別委員会で参考人質疑が行われたことで、与党は、中央公聴会や集中審議など速やかに採決環境を整えたうえで、16日までに特別委員会で採決し、18日までに参議院本会議で可決・成立させたい考えだ。与党が採決を急ぐのは、今月19日から23日まで大型連休で、26日からは安倍総理の訪米も控えているだけに、会期末(9月27日)までの日数が実質残りわずかになっていることがある。関連2法案の採決が遅れて不測事態により廃案に追い込まれることがないよう、事実上のタイムリミットは18日とみている。審議日程を短縮するため、地方公聴会開催を見送るようだ。

 一方、民主党など野党側は「丁寧に国民に説明するといってきたのに、うそつきだ」(民主党の枝野幹事長)などと採決・成立に急ぐ与党側を批判するとともに、地方公聴会や安倍総理出席のもとでの集中審議の開催を与党に求める意向を示すなど、強くけん制する。また、4日、民主党・維新の党・共産党・社民党・生活の党・日本を元気にする会の野党6党と参議院会派・無所属クラブの党首・代表らが会談を行い、与党が参関連2法案の採決を強行するとみて、強引な採決入り阻止に向けて連携・協力していくことを確認した。会談では、与党が参議院でも強行採決に踏み切れば、内閣不信任決議案の衆議院提出、安倍総理や中谷大臣・岸田外務大臣ら関係閣僚の問責決議案を参議院に提出すべきだとの意見が出され、共同提出に前向きな意見が大勢を占めたようだ。

 

維新の党は3日、政府の関連2法案の対案として、現行法の骨格は維持したうえで周辺事態発生時に対応措置を取る自衛隊員の安全確保規定などを追加した「周辺事態法改正案」と、駆け付け警護を限定的に認めることなどを柱とする「国連平和維持活動(PKO)協力法改正案」を参議院に単独提出した。また、4日には、武力攻撃に至らないグレーゾーン事態に対処する「領域警備法案」を民主党と参議院に共同提出した。

与党と維新の党との間で修正協議が行われているが、3日に行われた協議でも集団的自衛権行使の要件など「基本的なところでぶつかった」(自民党の高村副総裁)として溝が埋まらなかったようだ。10日に開かれた修正協議でも歩み寄りは見られなかった。与党は、維新の党が事実上の分裂状態に陥ったことなどを理由に修正合意は難しいとの見方をすでに示しており、近く協議が決裂する見通しだ。日本を元気にする会・次世代の党・新党改革との修正協議では、3党が3日に国会提出した修正案のうち、自衛隊の海外活動を国会が事後検証するための組織を国会に設置することなどについて、衆議院への回付が必要な条文変更はせず、附帯決議へ盛り込む方向で調整を進めている。

 与党との修正協議が不調に終わる見通しが強まっていることを踏まえ、維新の党の松野代表は「我々の対案を全く飲み込まないままに参議院で強行採決、違憲の法案に関して強行採決をしたということであれば、十分内閣不信任に値する。共同提出するのかなど、やり方に関してはこれから党内に諮りたい」(4日の野党会談)と、安倍内閣との対決姿勢を強める民主党などと歩調をあわせて内閣不信任決議案の共同提出に前向きな姿勢を示して、与党側を牽制している。

 

 8日の特別委員会理事会で、16日の特別委員会で安倍総理出席のもと締めくくりの質疑を行って関連2法案を可決させる方針を固めた与党は、15日の中央公聴会開催を提案したが、野党側は「審議が尽くされていない」「地方公聴会を先にやるべきだ」などと拒否した。参考人質疑終了後の理事懇談会で与野党協議を再開しようするも民主党などが欠席して協議に応じなったため、鴻池特別委員長(自民党)が特別委員会を再開し、中央公聴会15日開催の採決に踏み切った。与党と修正協議を行っている野党3党の賛成多数により議決された。採決に強く反発する民主党の委員らが鴻池特別委員長に詰め寄って抵抗したほか、維新の党や共産党は議決に加わらなかった。

 野党側は「こうした暴挙は許されるものではない」(民主党の枝野幹事長)などと反発しており、野党6党と無所属クラブによる幹事長・書記局長会談で、中央公聴会の議決に抗議するとともに、地方公聴会開催や河野統合幕僚長の参考人招致、安倍総理出席のもと衆議院予算委員会の開催など、徹底審議を与党側に求めることで一致した。これを受け、民主党は、9日の特別委員会理事懇談会で、地方公聴会を与党が特別委員会で採決する16日に開催するよう提案したが、与党側はこれに応じなかった。民主党の長妻代表代行は、地方公聴会を経ず採決をめざす与党に対し「全国的に反対の声が燎原の火のごとく広がっている。全国の皆さんに法案の課題、問題点を聞いてもらうことが不可欠だ」(10日の記者会見)と批判した。

 なお、同日の参議院議院運営委員会では、中央公聴会を15日に開催することを正式に決定した。また特別委員会理事会では、11日と14日に安倍総理が出席のもと集中審議を行うことが決まった。

 

 

【政局含みの攻防動向に注意を】

自民党は、8日、安倍総裁(総理)の9月末の任期満了に伴う総裁選を告示した。安倍総裁以外に立候補の届け出がなく、安倍総裁の無投票再選が事実上決まった。当初、2012年総裁選に出馬した石破地方創生担当大臣や岸田外務大臣らが出馬するのではないかとみられていたが、安倍総理と対立することで野党から閣内不一致との批判を招くほか、安全保障関連2法案の審議にも影響が出かねないとして、安倍総裁の続投を相次いで支持し立候補しない意向を明らかにした。また、党内全7派閥が安倍総裁の再選支持を表明したほか、安全保障関連2法案の審議への影響を懸念する自民党執行部や派閥領袖クラスなどから対抗馬擁立を牽制する意見も相次いだ。

このようななか、「自民党が責任与党として期待に応えているか、国民と心が離れていないか見続けている」と安倍総理の政権運営に不満をにじませていた野田聖子前総務会長が「総裁選で無投票であってはならない」「ありとあらゆる議論ができる場所を提供することが必要」と、自身の出馬を含め模索し続けた。しかし、立候補に必要な国会議員20人の推薦確保ができず、野田前総務会長は告示日当日に出馬断念を表明した。

 

総裁任期は平成30年9月までで、安全保障関連2法案成立後にも開催される自民党両院議員総会で正式に決定される予定だ。野田前総務会長の出馬で自民党総裁選の選挙戦に突入すれば、安倍総理の政権運営に不満をもつ勢力の受け皿となり、安全保障関連2法案の審議にも影響が出かねないと警戒する向きもあった。しかし、安倍総裁の無投票再選が決まったことで安堵した与党幹部は、関連2法案を来週中には確実に成立させる方針を改めて確認した。

これまで与党は、参議院送付から60日経過しても関連法案が採決されない場合には衆議院本会議で3分の2以上の賛成により再可決できる「60日ルール」(憲法第59条)を適用せず、参議院での採決で決着を図っていく方針だった。しかし、委員会採決に踏み切れば、民主党など野党側が内閣不信任決議案などの提出を連発し、徹底抗戦にでることも予想され、参議院本会議の採決がずれ込む可能性もある。採決日程で野党に譲歩しても好転が望めない情勢だけに、自民党執行部は、16日に参議院本会議へ緊急上程できない場合は60日ルール適用も視野に早期成立に努めるべきと主張しているが、参議院自民党側は、緊急上程には全会一致が原則だとして、あくまで与野党決着に向け18日まで努力すべきだと抵抗している。自民党内での協議によっては、参議院本会議の採決が17日または18日にずれ込む可能性もあるようだ。

 

 これに対し、民主党や維新の党、共産党、社民党、生活の党は、与党が強行採決に踏み切れば、内閣不信任決議案などを共同提出する方向で検討に入っている。11日にも野党6党の党首会談を開き、今後の一致した対応をとることを確認するという。

ただ、民主党が描くとおりに野党が足並みを揃え、共闘できるかはいまだ不透明のままとなっている。事実上の分裂状態となる維新の党が一致結束した対応できるかが曖昧となっているからだ。安倍内閣に是々非々で臨む橋下前最高顧問(大阪市長)らの新党に参加意向を示している所属議員らが共同提出に反対している。民主党と共闘していく方針の松野代表は、内閣不信任決議案などの採決にあたって「首相指名に次いで重要だ。党議拘束をかけるのがあたり前」と、造反に厳しく臨む方針を示して、新党参加組を牽制している。
 また、松野代表は8日、新党参加の公言した馬場国対委員長と片山総務会長、新党参加組が辞任を求めていた柿沢幹事長に、それぞれ役職を辞するよう通告した。分裂騒動に伴う事実上の解任とみられている。後任の幹事長に今井政調会長、国対委員長に牧副幹事長、総務会長に小野幹事長代理、今井政調会長の後任に井坂政調会長代理をそれぞれ起用した。松野代表は、新執行部のもと安全保障関連2法案の採決や内閣不信任決議案への対応にあたって党内結束を呼び掛けたが、新党参加組らは、橋下前最高顧問に近い議員を新執行部から排除して野党再編路線へ舵をきったことに反発しており、双方の亀裂がより一層深まりつつある。

民主党内でも、維新の党の分裂に現実味が増したことを踏まえ、いったん民主党を解党して与党に対峙できる野党勢力の結集を図っていくべきとの求める声が、中堅・若手議員らから出ている。ただ、岡田代表ら執行部は、民主党を軸に野党勢力を結集していきたい考えで、野党再編の方向性をめぐって食い違いも生じ始めているようだ。

 

 終盤国会の最大焦点となっている安全保障関連2法案は、来週末にかけて大きなヤマ場を迎える。国会会期末をにらみ、与野党入り乱れた攻防や、水面下の駆け引きがより一層激しくなっていく見通しで、政局含みの緊迫した局面にも入るだろう。引き続き関連2法案採決をめぐる情勢に注意しながら、終盤国会の行方をみていくことが重要だろう。
 

【締めきられた各省庁の概算要求】

今週8月31日、財務省は、2016年度予算編成に向けた各省庁の概算要求を締め切った。7月24日の閣議で了解した来年度予算の概算要求基準では、政策経費のうち自由に使える裁量的経費を2015年度予算より1割減らす一方、4兆円規模の特別枠「新しい日本のための優先課題推進枠」を設けて、安倍内閣の重点施策に配分することが打ち出された。社会保障関係費は2015年度予算から約6700億円増を要求上限としたが、要求総額の上限設定は、デフレ脱却を確実にするねらいから3年連続で見送られることとなった。

 

各省庁が要求している一般会計の総額は、2015年度予算の要求総額(101.68兆円)を上回り、102.40兆円超となった。高齢化に伴う医療・年金・介護などの社会保障関係費(30.9兆円)に加え、国債の償還や利払いにあてる国債費(26.05兆円、2015年度当初予算比11.1%増)が膨らんでいる。

また、国債費を除いた政策経費の要求額も76兆円超と、今年度予算を約5%上回った。公共事業関係費6兆円(同16.1%増)、防衛省予算5.09兆円(同2.2%増)、外務省予算0.75兆円(同10.4%増)のほか、スポーツ庁発足やスポーツ関連予算などを盛り込んだ文部科学省予算(5.85兆円、同9.8%増)や、政府の事態対処能力・情報収集能力・サイバー攻撃への対応能力などの強化、セキュリティー対策などの費用を計上した内閣官房予算(0.13兆円)の要求額も増えた。一方、景気回復に伴って地方税収の伸びが見込まれることから、地方交付税額(16.42兆円、同2.0%減)は少ない見積もりとなった。

 安倍内閣が重視する政策に重点配分する優先課題推進枠は、約3.9兆円の上限に達したようだ。また、地方創生を目的に「地域再生戦略交付金」「地域再生基盤強化交付金」を再編して新たに創設する自治体向け新型交付金は、内閣府などが計1080億円を要求している。

 

 2016年度税制改正に向けた各省庁の要望も出揃った。このうち、法人税実効税率(国税+地方税)の引き下げは、2015~16年度で3.29%引き下げて31.33%とすることが決まっているが、経済産業省が法人税収の大幅な上振れなどを背景に「下げ幅のさらなる上乗せを図る」と、20%台の早期実現に向けてさらなる税率引き下げを求めている。経済産業省は、税収減分の確保よりも減税を優先する方針を打ち出しているが、財務省は恒久財源の確保を伴わない減税に慎重姿勢を示している。

また、政府は、地域活性化に取り組む自治体を財政面から後押しするねらいから、企業が地方創生関連の事業計画をまとめて国から認定を受けた自治体に寄付すれば、その一定割合を法人税(国税)・法人住民税(地方税)から差し引く「企業版ふるさと納税制度」の創設をめざしている。企業が自治体などに寄付した場合には寄付全額が損金として認められ課税されないことになっているが、新制度を導入することで、企業の積極的な寄付を促すとともに、自治体間で行政サービスの向上を競いあう環境を創出するとしている。東京など大都市に偏りがちの法人税収を地方に配分する観点から、東京都や特別区など財政力が高い自治体や、企業が本社を置く自治体への寄付は新制度の対象外とするようだ。

今後、与党の税制調査会を舞台に、税制改正をめぐる議論が本格化する。自民党と公明党は、政府との調整を踏まえ、今年12月には税制改正大綱を取りまとめる。与党間で懸案となっていた2017年4月の消費税率10%への引き上げを念頭に生活必需品などの消費税率を低く抑える軽減税率の導入をめぐっても、近く対象品目や代替財源の確保など制度案詳細を検討する与党協議を再開するという。

 

 

2016年度予算は、2020年度に地方分を含めた基礎的財政収支(プライマリーバランス)の黒字化をめざす政府にとって、経済成長と財政再建の両立を前提とする財政健全化計画の初年度にあたる。政府は、歳出改革の徹底するため、経済財政諮問会議(議長:安倍総理)を軸に評価指標と工程表を今年末までに策定するとともに、経済財政運営の基本指針「骨太の方針」に盛り込まれた改革の具体化・進展度合いを点検していく方針だ。

 財務省は、年末の予算案決定に向けて査定作業に入る。今年度と同水準までに抑えるべく厳しく査定する方針だが、世界経済の先行き不透明感・警戒感が増すとともに、来年夏には参議院選挙も控えているだけに、自民党内から「(災害対策やインフラ整備を進める国土強靱化施策などを念頭に)それなりの財政措置をしなければいけない」(二階総務会長)など、景気を下支えする経済対策・補正予算の編成や、来年度予算の増額などを求める声も出ており、秋以降の景気情勢次第では、例年以上に厳しい編成・予算折衝となりそうだ。

 

 

【農協改革関連法や女性活躍推進法が成立】

国会では、安倍総理が重要視する法案に動きがあった。「農業協同組合法等の一部を改正する等の法律案」と「女性の職業生活における活躍の推進に関する法律案」の採決が、8月28日の参議院本会議で行われ、与党などの賛成多数により可決・成立した。

 

 *衆参両院の本会議や委員会での審議模様は、以下のページからご覧になれます。

衆議院インターネット審議中継参議院インターネット審議中継

 

政府・与党は、全国農業協同組合中央会(JA全中)の中央会制度を廃止や地域農協の経営状態などを監査してきた監査・指導権限を撤廃し、法施行から3年半後にはJA全中を特別認可法人から一般社団法人に完全移行することなどを柱とする「農業協同組合法等の一部を改正する等の法律」を岩盤規制打破の象徴のひとつと位置付けて、国内農業の成長力強化を図るべく農業改革の実現に力を注いできた。改正法には、市町村の農地利用の認可事務などを行う農業委員会制度の見直しも盛り込まれ、委員の選出方法をこれまでの選挙・団体推薦から市町村長の任命制に変えることとなる。

与党は、維新の党と衆議院側で「農協に自主的な改革を促す」などの内容を盛り込む修正を加えることで大筋合意していたが、安全保障関連2法案をめぐる与野党攻防の煽りなどをうけ、同法案の成立がずれ込んでいた。同法案は、27日の参議院農林水産委員会、28日の参議院本会議で与党と維新の党の賛成多数により可決、成立することとなった。

 

女性の採用・昇進機会を増やす取り組み加速を促すため、従業員301人以上の大企業、国・地方自治体に、採用者や管理職に占める女性割合、勤続年数の男女差などを把握したうえで、自主判断で最低1項目の数値目標を盛り込んだ行動計画の作成・公表を義務化することを柱とする「女性の職業生活における活躍の推進に関する法律」をめぐっては、与党が衆議院側で、「実効性がない」との批判していた民主党の要求に応じて、企業に計画達成の努力義務も負わせるなどの修正を行った。

これにより、参議院でも与党と民主党などの賛成多数により可決、成立した。参議院内閣委員会では、衆議院と同様、「賃金の男女格差の把握と是正」「非正規労働者の待遇改善のためのガイドライン策定」などを求める付帯決議も行った。

 

安倍内閣は、女性活躍を成長戦略の核のひとつに掲げ、指導的地位に占める女性の割合を2020年度までに30%に引き上げることをめざしている。ただ、同法では、女性登用の数値目標を含めた行動計画の策定・公表を実施しない企業などに報告を求めることができるほか、虚偽報告には罰則も設けられているが、実施しない企業などに対する罰則規定がなく、企業の自主性を重んじて一律の数値目標も設けられていない。また、従業員300人以下の企業は、数値目標を盛り込んだ行動計画の作成・公表について努力義務にとどまっている。

政府は、同法施行にあわせて、「女性活躍の推進に関する基本方針」を閣議決定するとともに、行動計画の策定を支援するためのガイドラインも策定する。また、行動計画の内容・達成度などによって優良企業を認定し、国・自治体の公共事業や備品購入などで優遇できるようにもするようだ。今後、女性活躍を推進ため、社会全体の意識変革も含め、実効性をどのように確保し、どのような具体策を打ち出していくのかが焦点となりそうだ。

 

 日本年金機構の個人情報流出問題を受け、委員会採決が見送られていた「個人情報の保護に関する法律及び行政手続における特定の個人を識別するための番号の利用等に関する法律の一部を改正する法律案」が、年金機構の情報管理体制などを懸念する民主党などの提案を受け、来年1月に予定していたマイナンバーと基礎年金番号の連結を最長2017年5月まで、年金機構がマイナンバーを使って情報を提供したり照会したりすることも最長2017年11月まで延期と修正された。同法案は、国民一人ひとりに12桁の個人番号を割りあてて税・社会保障関連情報を一つの番号で管理する共通番号(マイナンバー)制度の適用範囲を預貯金口座や年金分野、特定健康診査情報などにも広げることのほか、個人情報保護の観点から蓄積された膨大な個人情報をビッグデータとして活用する際の利活用環境の整備などが盛り込まれている。

与野党の修正合意を受け、27日の参議院内閣委員会、28日の参議院本会議で与党と民主党などの賛成多数で可決した。衆議院ではすでに審議・採決されているが、参議院側で修正が加えられたことから、3日の衆議院本会議で改めて採決され、成立する見通しだ。安倍総理は27日、サイバー攻撃による情報漏えいを防止するため、自治体の情報セキュリティー対策を講じるよう、高市総務大臣に指示した。総務省は、各自治体に既存の住民基本台帳システムとインターネット用端末を完全に分離するよう要請するなど、自治体の情報セキュリティー対策をマイナンバーの通知カード送付が始まる10月5日までに徹底するという。

 

 

【与党、安全保障関連法案採決の環境整備を急ぐ】

安全保障関連2法案(平和安全法制整備法案、国際平和支援法案)の採決日程をめぐる調整が大詰めを迎えている。与党側は「60日未満で結論を出すのが参議院のあるべき姿」(公明党の山口代表)と、9月11日までに関連2法案を採決させることをめざしてきた。

 しかし、特別委員会の審議がはかどっておらず、野党側との修正協議も始まったばかりだ。野党一部が出席できる環境を整えて採決を強行したとの批判をかわしたい与党は、28日、修正案を共同提出する方針の日本を元気にする会・新党改革・次世代の党との協議をスタートさせた。また、同日の特別委員会で維新の党が提出した対案5案の提案理由説明を聴取し審議入りしたことで、与党と維新の党は修正協議を再開した。

 

与党は野党各党と修正協議を続けているが、自民党の高村副総裁が「野党との差を埋めるのは難しい」と関連2法案の骨格の修正に慎重な考えを示すなど、修正合意に向けた糸口がつかめていないのが現状だ。

日本を元気にする会など野党3党は、自衛隊の海外派遣を例外なく国会の事前承認とすることや活動継続には90日ごとに国会の再承認をえることを義務づけるほか、自衛隊の海外活動を国会が常時監視・事後検証するための組織を国旗に設置することなどの修正を求めている。このうち、与党は「例外なき国会の事前承認」について、与党は「緊急時の事後承認の余地を残すべきだ」と難色を示している。その一方で、常時監視・事後検証のための組織を国会に設置することには前向きに検討する意向も伝えた。与党は、野党3党との協議に柔軟に応じる方針だが、修正合意となれば条文は変更せず付帯決議などで対応することを検討している。

 

 一方、維新の党との協議をめぐっては、維新の党が集団的自衛権行使の要件を厳格に定めているほか、自衛隊による米軍などへの後方支援活動の範囲を日本周辺に限定するよう求めていることについて、与党側は受け入れがたいとの認識を示している。

また、維新の党と修正合意したとしても、事実上の分裂状態に陥っている維新の党が一致して採決する保証がないことへの警戒感もある。安倍内閣に是々非々で臨む橋下最高顧問(大阪市長)と松井顧問(大阪府知事)が27日に維新の党を離党し、10月1日にも新党構想を正式発表する意向を明らかにする一方、野党再編を念頭に民主党との共闘姿勢を強めたい松野代表が、31日、民主党の岡田代表と会談して関連2法案の成立阻止に向けて、4日にも野党5党の党首会談を開催することを呼び掛けることでも合意したからだ。

 

民主党は「安全保障関連法案などでの政府・与党の対応によって、十分、党の対応として<内閣不信任決議案を提出する可能性が>出てくる」(安住国会対策委員長代理)と、通常国会会期末(9月27日)までに衆議院へ共同提出することも視野に入れており、野党5党の党首会談で、不信任決議案の共同提出も含めた野党共闘を確認するとみられている。維新の党は、松野代表らが民主党の提案に同調する可能性が高い一方、新党に参加する議員らが不信任決議案提出に慎重だ。党内の亀裂が深まれば、特別委員会での採決対応や決議案採決時に対応が分かれるのではないかとみられている。

なお、民主党と維新の党は、維新の党と衆議院に共同提出した「領域警備法案」の修正案を3日、維新の党と参議院へ再提出する。駆け付け警護や人道的な地雷除去などを可能とする「国連平和維持活動(PKO)協力法改正案」や、核兵器の輸送を事実上禁止する内容などを盛り込んだ「周辺事態法改正案」も共同提出を検討されていたが、維新の党は3日に単独で提出することとなった。

 

 与党は、維新の党が事実上の分裂状態となり、野党共闘に向けた動きも加速し始めたことで、維新の党との修正協議で合意することは困難と判断し、衆議院で可決した原案のまま採決に踏み切る方針を固めた。また、11日の特別委員会採決を断念し、14~18日の間に成立させるべく採決環境の整備を急ぐ。特別委員会での参考人質疑を8日に実施することとなり、与党は、採決の前提となる公聴会も来週中に開催したいようだ。

いまのところ参議院送付から60日経過しても関連法案が採決されない場合には衆議院本会議で3分の2以上の賛成により再可決できる「60日ルール」(憲法第59条)を適用しない方針で、16日の参議院特別委員会、17日の参議院本会議でそれぞれ採決する方向で調整している。ただ、民主党など野党が関連2法案の採決に反発して、徹底抗戦に入る可能性が高い。その場合、与党が参議院で採決を強行するか、18日までに衆議院で再可決に踏み切ることもありうるようだ。

 

 

【対決法案の採決をめぐる駆け引きに注意を】

与野党対決法案は、安全保障法制や労働者派遣法改正案などに絞られてきた。参議院での審議日程が窮屈になりつつあるなか、与野党による水面下の駆け引きが続いている。

派遣労働者の柔軟な働き方を認めることを目的に、企業の派遣受け入れ期間の最長3年という上限規制を撤廃(一部の専門業務を除く)する一方、派遣労働者一人ひとりの派遣期間の上限は原則3年に制限して、派遣会社に3年経過した後に派遣先での直接雇用の依頼や、新たな派遣先の提供などの雇用安定措置を義務づける「労働者派遣法改正案」は、同法案で施行日に定めている9月1日を迎えても成立しない異例事態となっている。同じ職務を行う労働者は正規・非正規にかかわらず同じ賃金を支払う「同一労働・同一賃金推進法案」も、労働者派遣法改正案とともに審議中だ。

 

与党は、3日の参議院厚生労働委員会理事会で、同法案の施行予定日を9月30日に修正することを提案する。

政府・与党は、2012年労働者派遣法改正に伴う「労働契約申し込みみなし制度」が10月1日からのスタートで、派遣期間の制限がない専門26業務で本来の業務と関係ない業務などをさせている派遣先の企業が、直接雇用を希望する派遣労働者を雇用しなければならなくなる事態を回避すべく派遣社員の契約を9月で打ち切る事態も想定されることから、10月1日前の施行にこだわっている。通常、周知期間として法律公布から施行までに半年程度を空けるが、労働者派遣法改正案では1カ月程度と異例のスピード施行となる見通しだ。

これに対し、「生涯派遣で低賃金の労働者が増える」「派遣の固定化、不安定化につながる」ことなどを理由に改正案の成立阻止をめざす民主党など野党側は、与党の要求に「周知期間が短すぎる」「廃案にして出し直すべき」などと強く反発している。

 

 通常国会の会期末まで残すところ1カ月弱となったが、早くも政局含みの様相を呈している。当面、安全保障法制や労働者派遣法改正案などの採決日程をめぐる攻防が激しくなっていくだろう。与野党それぞれの動きや発言などに注意を払いながら、終盤国会の行方を見極めていくことが大切だ。
 

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