政策工房 Public Policy Review

霞が関と永田町でつくられる“政策”“法律”“予算”。 その裏側にどのような問題がひそみ、本当の論点とは何なのか―。 高橋洋一会長、原英史社長はじめとする株式会社政策工房スタッフが、 直面する政策課題のポイント、一般メディアが報じない政策の真相、 国会動向などについての解説レポートを配信中!

August 2015

【野党、内部資料作成問題について追及】  先週19日、参議院わが国および国際社会の平和安全法制に関する特別委員会での安全保障関連2法案(平和安全法制整備法案、国際平和支援法案)に関する一般質疑冒頭、中谷防衛大臣兼安全保障法制担当大臣は、共産党が指摘・追及した防衛省統合幕僚監部作成の内部向けの説明資料<日米防衛協力のための指針(ガイドライン)および平和安全法制関連法案について>の作成目的とその経緯について説明した。民主党や共産党、社民党などが、内部資料作成問題で政府側を追及した。

 *衆参両院の本会議や委員会での審議模様は、以下のページからご覧になれます。

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中谷大臣は、同資料を「統合幕僚監部が日米防衛協力のための指針(ガイドライン)、平和安全法制関連法案について内容を丁寧に説明し、法案成立後に具体化すべき検討課題を整理し、主要部隊の指揮官などに理解してもらうことを目的に作成した資料」と、内部資料の存在と外部への流出を認めた。関連2法案が閣議決定された翌日(5月15日)、中谷大臣が防衛省幹部に関連2法案の内容について必要な分析・研究のうえ自衛隊内に周知するよう指示した。統合幕僚監部は、この指示を受け、内部向けの説明資料として作成し、月26日に開いた陸上自衛隊方面総監や自衛艦隊司令官ら主要部隊の指揮官ら約350人出席のテレビ会議で使用したという。  また、中谷大臣は、関連2法案の成立を前提に説明資料が作成されたのではないかと野党が指摘していることについて「作業スケジュールのイメージ化のため、仮の日程を置いて記述した。国会審議や成立時期を予断したものではない」と反論したうえで、「私の指示の範囲内のものであり、法案成立後に行うべき運用要領の策定や訓練の実施、関連規則などの制定は含まれておらず、シビリアン・コントロール(文民統制)上も問題はない」との認識を示した。そして、「秘密は含まれていないが、対外公表を前提としておらず、外部に流出したことは極めて遺憾」「流出の経緯などを鋭意調査している。強い危機感を持ち、情報保全の徹底を図りたい」と、文書取り扱い規則の徹底を指示し情報保全を強化していく考えを示した。
 安倍総理も、21日に開かれた参議院特別委員会の集中審議で「部隊運用を担当する統幕が法案の内容や政府の方針を分析・研究するのは当然だ。中谷防衛大臣の指示の下、その範囲内で資料が作成されたものであり、防衛政策局など法案担当部局とも調整のうえで作成された。問題があるとは全く考えていない」「法案内容や政府方針を現場の部隊指揮官に丁寧に説明し、今後、具体化すべき検討課題を整理すべく必要な分析や研究を行うことは当然のことだ」などと擁護し、シビリアン・コントロールは完遂されているとの認識を示した。  これに対し、同資料を提示して追及してきた共産党の小池副委員長らは、中谷大臣が今月11日の特別委員会で「国会審議中に法案の内容を先取りすることは控えるべき」と答弁していることや、通常国会の会期延長が決まる前に国会延長を予期して資料を作成されていることなどを挙げて批判するとともに、「自衛隊という実力組織をどう動かすかということを事前に検討している。国会軽視だ」「自衛隊幹部が勢ぞろいしている会議で、現在まで国会に示されていない内容も含めて詳細に報告されているのは極めて重大」などと反発した。
 資料内で自衛隊と米軍の平時からの協力措置として情報収集・警戒監視・偵察活動を例示して、その具体的項目に「南シナ海に対する関与のあり方について検討」と明記されていることについて、中谷大臣は「今後検討していくべき課題として記載したもの」と、南シナ海での日米共同の警戒監視活動を関連2法案成立後の検討対象に想定していることを認めた。小池副委員長は、南シナ海での日米共同の警戒監視活動について「新ガイドラインにも関連2法案にも書かれていない」として納得せず、河野統合幕僚長の証人喚問を要求した。  また、ガイドライン再改定を受けて、同資料で自衛隊と米軍の「軍軍間の調整所が設置される」と自衛隊を軍と明記されていることについても、政府側は「制服中心の組織を便宜的に表現している」(中谷大臣)、「あくまで便宜的表現で、問題があるとは考えていない」(安倍総理)と釈明したが、小池副委員長は「国民に向かっては軍じゃないといい、自衛隊の中では軍だと。こんなことが通用するのか」「軍を自認するに至った自衛隊がどんどん進めている。極めて重大な事態だ」などと批判した。 

【外交問題や戦後70年談話も議論】
 21日に参議院特別員会で、24日と25日に参議院予算委員会でそれぞれ安倍総理出席のもと集中審議が行われ、安全保障法制のほか、周辺国との外交問題や、今月14日に閣議決定・発表した戦後70年談話、
沖縄で起きた米軍ヘリコプター墜落事故などをめぐっても議論が行われた。

 また、「我が国を守るために必要な措置かどうかを問題にすべきで、法的安定性は関係ない」と発言し、その後の参考人招致で発言を撤回した礒崎総理補佐官について、民主党など野党は安倍総理に更迭を迫った。これに対し、安倍総理は「引き続き職務に当たってもらいたい」と、続投方針を改めて強調した。
 21日の集中審議では、民主党の蓮舫・代表代行が他国軍を後方支援できる重要影響事態がどんなケースかを質問した際、周辺事態において他国軍を後方支援できる事例をまとめた「野呂田6類型」(1999年)と、後方支援が他国の武力行使との一体化する基準を示した「大森4要素」(1997年)とを混同して、中谷大臣が「大森6事例」と答弁した。民主党の蓮舫・代表代行は、答弁の誤りを指摘して鴻池特別委員長(自民党)に議事停止を要求すると、安倍総理は「まあいいじゃないか。そういうことは」と自席からヤジを飛ばした。これに蓮舫・代表代行が「どうでもいいとはどういうことか」と抗議したため、質疑は一時中断する事態となった。  安倍総理は「本質とは関わりがないことだから申し上げた。どうでもいいとは言っていない」と反論したが、鴻池特別委員長から「自席での発言は控えていただきたい」と注意を受けると、「答弁の本質ではないので、答弁を続けさせてもらいたいという意味で申し上げたが、発言は撤回させていただく」と発言撤回に応じた。
 24日の集中審議で、安倍総理は「他国の領域で大規模な空爆や攻撃を行うことを目的に自衛隊を派遣するのは海外派兵で、武力行使の新3要件に反する」と、関連2法案が成立しても、朝鮮半島有事に日本が集団的自衛権を行使して北朝鮮や韓国の領域内で自衛隊が活動することは憲法上ありえないと、これまでの「武力行使の目的で武装した部隊を他国の領土、領海、領空に派遣する海外派兵は、一般に自衛のための必要最小限度を超えるもので、憲法上許されない」との政府見解を、安倍内閣でも維持している姿勢を重ねて強調した。  そのうえで、朝鮮半島有事における集団的自衛権行使の事例として「わが国のミサイル防衛の一翼を担う米艦への攻撃であれば、新3要件に該当する可能性がある」と原則、公海上で弾道ミサイルを警戒する米艦の防護、公海上での後方支援などに限られるとした。また、集団的自衛権行使の前提となる「密接な関係にある他国(への攻撃)」には韓国も含まれるとし、「どの国であろうと、新3要件にあてはまるかを総合的に判断する」と説明した。
 朝鮮半島で軍事的緊張が高まったことや、周辺国との関係改善に不透明感が漂っていることなどを踏まえ、安倍総理は「現在の朝鮮半島、ロシア、中国の動向を考えると、安全保障環境はますます厳しさを増している。戦争、紛争を未然に防ぐため、日ごろから備えをしていくことが求められている」と関連2法案の必要性を強調するとともに、「安全保障法制と外交の両面で対応するのが責任ある姿勢だ」と訴えた。また、「偶発的に何が起こるか分からないなかで、しっかりとした備えをしていく必要がある。日米同盟が機能することは、北朝鮮の暴発や冒険主義的な試みを抑止するのに有効だ」(
25日の集中審議)ととも強調した。

 ロシアのメドベージェフ首相の北方領土・択捉島入りしたことについて、安倍総理は「北方四島に関する日本の立場と相いれず、日本国民の感情を傷つけるもので極めて遺憾」と批判したうえで、「我が国の国益にとって重要なのは、北方領土の帰属問題を解決し、平和条約を締結すること」として「今後ともプーチン露大統領との対話を継続しつつ、日本の国益に資するよう粘り強く交渉を進めていく」と、年内来日を引き続き模索していく考えを示唆した。
 日中関係について、安倍総理は、国会状況、とりわけ安全保障関連2法案の審議を優先させることなど判断し、9月上旬で検討していた訪中を見送ると表明した。そのうえで、習近平国家主席と中国による東シナ海のガス田開発や尖閣諸島周辺での領海侵犯などについても意見交換することを視野に、「引き続き国際会議などを利用して首脳同士が率直に話し合う機会を設け、関係のさらなる発展に向け取り組んでいきたい」と、9月下旬の国連総会や、11月にフィリピンでのアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議などにあわせて日中首脳会談の実現をめざす考えを示した。  韓国とは「重要な隣国で、未来志向の日韓関係を構築すべくお互いに努力をしていきたい」とし、まずは「日中韓サミットの開催につなげ、日韓首脳会談につなげていきたい」との認識を示した。

 25日の集中審議では、民主党が、存立危機事態で集団的自衛権を行使する際、自衛隊員の安全確保策に関する規定が
、米軍などを後方支援する「米軍行動関連措置法改正案」に規定されていないことを指摘し、過去の答弁との整合性を追及した。中谷大臣は、当初、「安全確保に必要な措置は法案に明記されている」と答弁していたが、その後に法案に規定さえていないことを認めたうえで、「運用で安全を確保する」「必要な安全措置は、法案にもとづいて策定する指針に盛り込む」と軌道修正した。質問した民主党の福山参議院議員は「審議をやり直した方がいい」などと反発して審議が一時紛糾する事態となった。中谷大臣は「これからは、分かりやすく説明に努めたい」と釈明した。
 安倍総理は「安全確保の規定がないのは承知していた」と答弁し、同法案が自衛隊の支援活動を「合理的に必要と判断される限度を超えてはならない」と制限していることに言及し、「隊員の安全確保にも配慮する趣旨を含む」と強調した。

 戦後70年談話をめぐっては、民主党など野党が安倍総理本人の歴史認識などを質した。安倍総理は、先の大戦をめぐる日本の行為について、満州事変から太平洋戦争に至る経過のなかで「(懇談会)報告書にもある通り、中には侵略と評価される行為もあったと私も思っている」との認識を改めて示した。そのうえで、「先の大戦における痛切な反省と心からのおわびを表明した歴代内閣の認識は私の内閣でも揺るぎない」と強調した。  安倍総理は、戦後70年談話を総理大臣の私的諮問機関「21世紀構想懇談会」(座長:西室泰三・日本郵政社長)の「報告書を前提に談話を作成した」とし、「何を反省し、何を教訓として今後いかしていくかを明確にすることに力を置いた」と説明した。そのうえで、「談話全体が一つのメッセージになっている。一つひとつを切り取って議論するのは、より幅広い国民とメッセージを共有する観点から適切でない」「談話がすべてで、この中からくみ取ってほしい」と述べるとともに、米国・英国・豪州・フィリピン・インドネシアなど各国政府の反応も紹介して、「多数の国々から歓迎または評価するコメントが出されている」点を強調した。また、「平和は唱えるだけでは実現しない。積極的平和主義の考え方のもと、地域や世界の平和と安定の確保に、より一層積極的に貢献していくことが必要だ」とも述べた。

【対案提出で与野党が修正協議入りへ】
 安倍総理と関係閣僚出席のもとで行われている25日の集中審議を終えれば、参議院特別委員会での審議時間は約57時間と、約116時間審議した衆議院の半分程度となる。民主党など野党が攻勢を強めるなか、与党は、政府提出の関連2法案を野党提出の対案と並行審議していくとともに、野党と修正協議を重ねることで、早期に参議院の採決環境を整えたい考えだ。
 20日、維新の党は、存立危機事態の概念ではなく「武力攻撃危機事態」にのみ個別的自衛権を拡大して自衛隊の武力行使ができることとし、国民保護法の対象にすることを盛り込んだ「武力攻撃危機事態に対処するための自衛隊法等の一部を改正する法律案」、自衛隊の活動範囲を非戦闘地域の公海とその上空に限定して国連決議なしには自衛隊派遣できないことなどを盛り込んだ「国際平和協力支援法案」のほか、在外邦人の救出規定や、米軍に対する武器弾薬以外の物品・役務提供の拡充、武器を不正使用した自衛官の処罰規定などをそれぞれ盛り込んだ自衛隊法等改正案の5法案を、関連2法案の対案として参議院に提出した。  自民党と公明党は、野党一部の協力を取り付けるべく、特別委員会で審議入り後にも衆議院側で中断していた維新の党との修正協議を再開させるとともに、今週中にも修正案を共同提案する方針の日本を元気にする会・次世代の党・新党改革とも修正協議入りする方針だ。ただ、維新の党の対案では、集団的自衛権行使の要件を厳格に定めているほか、自衛隊による米軍などへの後方支援活動の範囲を日本周辺に限定していることについて「特定の地域をあらかじめ排除することは困難」(中谷大臣)と、政府・与党側が受け入れ難い内容も含まれている。こうした隔たりもあるだけに、関連法案の修正で合意できるメドはいまのところ立っていない。
 維新の党がまとめた対案8本のうち、民主党と衆議院に共同提出した「領域警備法案」、駆け付け警護を可能とする「国連平和維持活動(PKO)協力法改正案」、民主党が要綱としてとりまとめた「周辺事態法改正案」について、維新の党は民主党と参議院に共同提出することをめざして協議を継続していく方針だ。  このうち、武力攻撃に至らないグレーゾーン事態に対処するため、武装集団による不法行為が起きた場合に本土からの距離などの事情で対処に支障を生じかねない区域を「領域警備区域」として指定して、自衛隊が領域警備行動できるとした「領域警備法案」は、新たに国会の例外なき事前承認を義務づけるほか、領領域警備区域の指定要件を厳格化して指定期間を5年から1年に短縮するなど6項目を、新たに変更する。民主党と維新の党は、同法案を近く参議院に共同提出する方針だという。  ただ、残り2法案について合意できるメドが立っていないうえ、民主党内には政府提出の関連2法案の廃案を優先すべきとの慎重論もある。維新の党は、参議院に共同提出するか否かを近日中に明確にしてもらいたいと民主党に要求しており、早期合意ができなければ「単独で出すことも考えざるをえない」(今井政調会長)との構えをみせている。
 一方、日本を元気にする会と新党改革は19日、自衛隊の海外派遣は例外なく国会の事前承認とすることや活動継続には90日ごとに国会の再承認をえること義務づけるほか、自衛隊の海外活動を国会が常時監視・事後検証するための組織を国旗に設置することなどを盛り込んだ修正案を参議院に共同提出することで合意し、維新の党や次世代の党に共同提出を呼びかけた。次世代の党は、21日に開いた日本を元気にする会・新党改革との国対委員長会談で共同提出に加わることを決めた。一方、維新の党は、日本を元気にする会・新党改革の共同提出呼びかけには応じないことを決めた。  24日、3党は修正案を参議院に共同提出することで正式合意し、鴻池特別委員長に修正案の取り扱いに協力を要請した。鴻池特別委員長は「議論を通じてより良い方向に収めていきたいので、お出しいただくことは大歓迎だ」と、3党による修正案の共同提出を歓迎する考えを示した。3党は、修正案の提出時期について、与党との協議状況を踏まえつつ、改めて与野党に賛同を呼びかけたうえで今週中にも判断する方針でいる。
 ただ、安倍総理は「緊急時の事後承認を認めないと、我が国の平和と安全に支障をきたしたり、国際社会の期待に応えられないことが想定される」(21日特別委員会・集中審議での答弁)、「他国への武力攻撃が事前に察知されずに突発的に発生し、間を置かずに我が国の存立が脅かされることは否定できない」
「本当にやむを得ない場合は事後承認があり得るが、できる限り、原則として事前承認となるよう努力したい」(25日特別委員会・集中審議での答弁)と、例外なく事前承認を義務付けることに慎重な考えを示している。また、中谷大臣は、国会承認をえる際に政府が国会提出する対処基本方針について「我が方の手の内を明らかにするおそれがある場合には情報保全を図る」とし、具体的な作戦や部隊編成・展開状況の詳細などは「特定秘密保護法に該当し、特定秘密として指定されることはありえる」と、国会への詳細報告を避ける可能性も示唆した。

 与党は、野党との協議には積極的姿勢をみせているが、主張の隔たりもあるだけに、修正要求に応じるかどうかは慎重に検討していくようだ。このため、与野党の修正協議が進展をみるかは、いまのところ不透明だ。

【法案の絞り込み動向も注目を】
 通常国会後半の最大焦点となっている安全保障法制をめぐっては、参議院の特別委員会を舞台に連日質疑が行われている一方、与野党間の修正協議が近くスタートする見通しだ。自民党は、参議院送付から60日経過しても関連法案が採決されない場合には衆議院本会議で3分の2以上の賛成により再可決することが可能となる「60日ルール」(憲法第59条)の適用を視野にいれていないことを強調しているが、9月14日以降には60日ルールが適用可能となるだけに、9月前半には大詰めを迎えるとみられている。自民党は、21日の特別委員会理事懇談会で、28日に参考人質疑を行うことを提案したが、野党側は回答を避けたため、引き続き協議することとなった。
 このほか、国会では、女性の採用・昇進機会を増やす取り組み加速を促すため、従業員301人以上の大企業、国・地方自治体に、採用者や管理職に占める女性割合、勤続年数の男女差などを把握したうえで、自主判断で最低1項目の数値目標を盛り込んだ行動計画の作成・公表を義務化することを柱とする「女性の職業生活における活躍の推進に関する法律案」は、28日にも参議院本会議で可決・成立する見通しとなっている。安倍内閣は、指導的地位に占める女性の割合を2020年度までに30%に引き上げることを目標としており、同法成立後、女性登用を促進するための具体策が問われることになりそうだ。  派遣労働者の柔軟な働き方を認めることを目的に、企業の派遣受け入れ期間の最長3年という上限規制を撤廃(一部の専門業務を除く)する一方、派遣労働者一人ひとりの派遣期間の上限は原則3年に制限して、派遣会社に3年経過した後に派遣先での直接雇用の依頼や、新たな派遣先の提供などの雇用安定措置を義務づける「労働者派遣法改正案」は、同じ職務を行う労働者は正規・非正規にかかわらず同じ賃金を支払う「同一労働・同一賃金推進法案」とともに、参議院厚生労働委員会でいまだ審議が続いている。通常国会中の成立は確実とみられているが、民主党など野党が廃案を求めて抵抗しているほか、日本年金機構の個人情報流出問題の影響などもあって、委員会採決のメドがついていないようだ。
 一方、柔軟な働き方を広げて労働生産性を高めるねらいから高度プロフェッショナル制度創設や企画業務型裁量労働制の対象を新商品開発・立案や課題解決型営業などへの拡大、年5日の有給休暇の取得ができるよう企業に義務づける過労対策などを柱とする「労働基準法等の一部を改正する法律案」などの会期内成立を、すでに断念している。  また、自民党は、日本維新の会・生活の党とともに共同提出した、カジノ解禁を含む統合型リゾート(IR)の整備を促す「特定複合観光施設区域整備推進法案」(カジノ推進法案)も通常国会中の成立を断念する方針を固めた。会期の大幅延長を受け、推進派は「経済成長や雇用、観光振興の面で必要不可欠」(推進議員連盟会長の細田自民党幹事長代行)と、通常国会中の成立に強い意欲をみせていた。維新の党も早期審議入りを自民党に要請した。しかし、公明党や民主党などはギャンブル依存症への懸念や、マネーロンダリングなどの犯罪対策が不十分などを理由にカジノ解禁に慎重な姿勢を崩さず、審議入りにも応じない姿勢をとってきた。安全保障関連2法案の成立時期が見通せない状態が続くなか、賛否の分かれるカジノ推進法案の審議入りを強行すれば、安全保障関連2法案の審議にも影響しかねないとして、臨時国会以降への先送りもやむをえないと判断したようだ。これにより、2020年の東京オリンピック・パラリンピックにあわせて完成させる考えだったが、間に合わない可能性が高くなっている。
 通常国会の会期末(9月27日)まで残り1カ月となった。与党内では、通常国会中に審議する法案の絞り込み作業が進められている。重要法案はじめ各法案のうち、どの法案を審議入りのうえ成立させ、どの法案を先送りとするのだろうか。安全保障関連2法案の審議や与野党の水面下での攻防に注意を払いつつ、与党が各法案の扱いをどう決めるのかもチェックしておきたい。
 

 

【高橋洋一・株式会社政策工房 代表取締役会長】

 

 46月期のGDP一次速報は年率換算▲1.6%だった。民放のニュース番組でも取り上げられていたが、某テレビ局の解説は酷かった。今回のマイナス成長について、エコノミストはすべて的中していたといい、そのエコノミストの説明を紹介していた。

 

 
 エコノミストの3ヶ月前の予想は全くあてにならない。今回の場合も、3ヶ月前にはやはりプラス予想をしている人も多かった。しかし、8月になれば46月の各種統計が出そろい46月期のGDPはほとんど予想できるので、直前の予想は当たるに決まっている。それをわざわざテレビで取り上げた。

その解説で、消費と輸出が落ち、輸出の減少は、中国などの景気後退ということだった。ここまではいい。年率換算▲1.6%は前期比▲0.4%だが、消費減少と純輸出減少の寄与度は、それぞれ▲0.4%と▲0.3%だった。


 しかし、問題は消費減少の理由だ。将来不安で消費が伸びないというものだった。消費の低迷は、20144月からの消費増税であるのに、消費増税とは一言もふれない。その一方で、将来不安で消費低迷と、財務省のよくいうセリフそのものと同じだった。漠然とした将来の不安より、増税によって可処分所得が減少した目先の不安のほうが大きいのだ。

 
 

 消費の低迷を示すのが、7月末に公表された家計調査による8月分の消費の大ブレーキだ。6月の実質消費は前年比2.0%減、4-6月期の実質消費水準6数は前期比1.0%減だった。1年前の消費増税の影響が長引いているのだ。消費増税は恒久的な増税であり、そのマイナス効果は1年限りではなく永続的である。消費はそのマイナス影響をまだ飲み込めていない。


 家計調査で消費が減少した理由を見てみよう。大きなマイナスの寄与度になっているのは、「その他の消費支出」0.93%減少と「被服及び履物」0.59%減少の2項目で、これらで実質消費の減少の大半を説明できる。さらに詳しく見ると、「その他の消費支出」は交際費、「その他の消費支出」は男子用上着・ズボンが目立っている。この点から、百貨店がセールを7月に後ろ倒しした効果が大きかったことが指摘されている。もしそうであれば、7月は盛り返すはずだが・・・。

 
 

 将来不安で消費が伸びないといういいぶりは、2013年秋頃にも、多くのエコノミストやマスコミ関係者がいっていた。そして、将来不安を消すために、消費増税がいいと推奨した。その大合唱の末、20144月からの消費増税が決められ、実行された。その結果、2014年度のGDP成長率は▲0.9%。消費増税を推奨した人たちは、増税の影響は軽微といっていたが、まったくウソだった。


 将来不安で消費が伸びないというのは、20174月からの10%への再増税を目論んでいる人たちだ。消費増税で落ち込んだ消費なのに、その消費増税の悪影響をいわずに、再増税への落とし穴になるような解説を、テレビで垂れ流すのは、あまりに酷いだろう。

 
 

 景気の落ち込みへの対策は、消費増税の失敗であるので、それを取り返すためには財政政策、できれば消費増税の悪影響を除去するためには、消費減税と同じような効果がある減税や給付金政策が望ましい。


 ちなみに、GDPギャップを計算すると10兆円近くになる。この分、景気対策で戻そうとすれば、510兆円規模の対策がいい。

 

 




0821高橋さん

(表作成:政策工房) 

 


 財政政策というと財源が気になる人もいるが、心配ない。アベノミクスの円安によって、政府は儲けている。外債投資をしている外為特会では含み益は20兆円もあるので、それを国民に還元すればいい。そうすれば、増税による可処分所得減少は補われて、消費の落ち込みは避けられ、成長路線に乗るだろう。

【安倍総理、戦後70年談話を発表】

先週14日、政府は臨時閣議を開き、戦後70年にあたっての内閣総理大臣談話を決定した。安倍総理は、臨時閣議後に記者会見を行って談話を発表した。

内閣総理大臣談<全文>

 

談話では、総理大臣の私的諮問機関「21世紀構想懇談会」(座長:西室泰三・日本郵政社長)の報告書を踏まえ、1931年の満州事変以降の日本が国際社会の犠牲の上に築こうとした「新しい国際秩序への挑戦者」となって、「進むべき進路を誤り、戦争への道を進んだ」「何の罪もない人々に、計り知れない損害と苦痛を、我が国が与えた」と大戦に至った経緯と結果を盛り込んで、「国内外に斃れたすべての人々の命の前に、深く頭を垂れ、痛惜の念を表すとともに、永劫の哀悼の誠を捧げる」と表明した。

そのうえで、「二度と戦争の惨禍を繰り返してはならない」「自らの行き詰まりを力によって打開しようとした過去を、この胸に刻み続ける」などと深い悔悟の念とともに、「事変、侵略、戦争。いかなる武力の威嚇や行使も、国際紛争を解決する手段としては、もう二度と用いてはならない。植民地支配から永遠に訣別し、すべての民族の自決の権利が尊重される世界にしなければならない」「いかなる紛争も法の支配を尊重し、力の行使ではなく、平和的・外交的に解決すべきである。この原則をこれからも堅く守る」と、日本の不戦の誓いと平和国家としての歩みを「戦後日本の原点」「不動の方針」として堅持する考えを示した。

 

また、「我が国は、先の大戦における行いについて、繰り返し、痛切な反省と心からのお詫びの気持ちを表明してきた」「戦後一貫して、その平和と繁栄のために力を尽くしてきた」ことに触れ、「こうした歴代内閣の立場は、今後も揺るぎない」と強調した。中国や韓国などが謝罪を明確にするよう求めていることを踏まえ、戦後50年の村山談話や60年の小泉談話に言及するかたちで「侵略」「植民地支配」「痛切な反省」「心からのお詫び」の表現が盛り込まれた。

さらに、中国や韓国などへの配慮から「戦争の苦痛をなめ尽くした中国人や、日本軍によって耐え難い苦痛を受けた元捕虜のみなさんが寛容であるためには、いかほどの努力が必要だったか、思いを致さなければならない」としたほか、慰安婦問題を念頭に「戦時下、多くの女性たちの尊厳や名誉が深く傷つけられた過去を、この胸に刻み続ける」と言及した。

 

安倍総理は、「未来志向」「感謝」「積極的平和主義」などの言葉も盛り込んで独自性を打ち出した。戦後生まれの世代が人口の8割を超える現状に触れ、「何ら関わりのない私たちの子や孫、その先の世代の子どもたちに、謝罪を続ける宿命を背負わせてはならない」と、戦後70年談話を機にアジア諸国へ謝罪し続ける状態に区切りをつけたいとの思いをにじませる一方、国民に「世代を超えて、過去の歴史に真正面から向き合わなければならない。謙虚な気持ちで過去を受け継ぎ、未来へと引き渡す責任がある」と呼び掛けた。

そして、敵として戦った国々や人々の寛容の心、恩讐を越えて善意と支援の手が差しのべられたおかげにより戦後日本が国際社会に復帰できたとして、「和解のために力を尽くしてくださった、すべての国々、すべての方々に、心からの感謝の気持ちを表したい」と表明した。そのうえで、繁栄こそ平和の礎との考えのもと未来志向の姿勢を鮮明にして、「歴史の教訓を深く胸に刻み、より良い未来を切り拓いていく、アジア、そして世界の平和と繁栄に力を尽くす」「自由、民主主義、人権といった基本的価値を揺るぎないものとして堅持し、その価値を共有する国々と手を携えて、積極的平和主義の旗を高く掲げ、世界の平和と繁栄にこれまで以上に貢献していく」と、今後も積極的平和主義の下で国際貢献を進めていく方針を打ち出した。

 

 

【野党、安倍談話を批判】

 安倍総理は、戦後70年談話の作成にあたり、21世紀構想懇談会報告書を「歴史の声」と評価し、「その提言のうえにたって歴史から教訓をくみ取り、今後のめざすべき道を展望した」「多くの国民と共有できる」談話をめざしたと説明した。そして、「事実を率直に反省し、これからも法の支配を尊重し、不戦の誓いを堅持していくということが、今回の最も重要なメッセージ」と位置付けた。そして、「アジアの国々、多くの国々とともに未来への夢を紡ぎ出していく、そういう地盤にしていきたい」と、各国の理解に期待を示した。

このうち、関係改善の兆しが出始めている日中関係について、安倍総理は、戦略的互恵関係の考え方に基づいて改善していくことで一致しているとして「中国のみなさんには戦後70年にあたっての我が国の率直な気持ちをありのまま受け止めていただきたい」「首脳会談についても機会があれば、そういう機会を生かしていきたいと思う。日本の対話のドアは常にオープンだ」と、習国家主席との再会談に意欲を示した。その一方で、「東シナ海など、世界のどこであろうとも力による現状変更の行為は、決して許すことはできない」と釘を刺すのも忘れなかった。日中両政府は、9月上旬に北京で開催する方向で調整に入った。日中韓首脳会談の早期実現に向けた調整も加速させていく方針で、日韓首脳会談開催の模索も続いている。

 

 安倍総理の戦後70年談話を受け、与党側は談話の内容を高く評価したのに対し、野党各党は、間接的な表現が目立っており曖昧な内容だと、批判的見解を一斉に示した。

自民党は、「20世紀が世界と日本にとってどういう時代であったかというなかで、先の大戦でのわが国の失敗がどこにあり、戦後、その失敗を克服し、国際法の進化の下で、わが国が努力してきた成果を分析したうえで、今後の我が国が取るべき方向性を示した非常にバランスのとれた談話」(谷垣幹事長)、「戦後70年の節目に歴史の何を直視し、何を反省し、それをどう生かすかが重要だ。満州事変以降戦争へと進んだ日本について何を反省すべきかを世界の中の日本という視点で直視し、その教訓を抽象的な言葉の羅列ではなく、具体的に記載し、将来の日本のあるべき姿として国際協調主義にもとづく積極的平和主義を掲げたことに意義がある。談話は安倍首相の平和への思いと世界貢献への決意の表れ」(稲田政調会長)などと支持するコメントを発表した。

 過去の談話との整合性を重視した公明党も、安倍総理が公明党の要求を受け入れて歴代内閣の立場を引き継いだ内容を閣議決定したこともあって、「歴代内閣の立場を同じ言葉で繰り返さなくても、むしろより強い意志が込められている」「今後、歴史的な意義を見いだしていくに違いない」などと談話を高く評価した。また、「先の大戦に対する深い悔悟の念とともに不戦の誓いをしている」「侵略あるいは事変、戦争など区別せず、いかなる武力の行使や威嚇も二度と繰り返してはならないという誓いを述べていることは明確だ」として、積極的平和主義が貫かれているとも強調した。

 

 これに対し、野党各党は、安倍総理の歴史認識や、反省とアジア諸国へのお詫びについて認識が伝わりにくく本音が覆い隠されているのではないかなどと批判している。安倍総理は当初、村山談話を見直して「過去に対する痛切な反省」「戦後の歩み」「未来志向」の3本柱を軸にした談話にする方針だった。しかし、安全保障関連2法案の審議への影響、公明党や周辺国などへの配慮、内閣支持率の低下など政権基盤の不安定化などを背景に、独自色を抑制的にし、過去の談話を引用するなどして歴代内閣の立場がゆるぎないことを印象付けることにしたようだ。

 こうした談話に、民主党の岡田代表は「専門家や歴史家の議論を踏まえたものになっている」「全体としてのトーンは必ずしも否定的なものではない」としつつ、4つのキーワードが「いずれも引用のかたちで述べられている。首相がどう考えているのかが伝わってこない」と批判した。また、「反省とおわびは歴代政権が表明した事実に言及しただけで、自らの言葉として反省とおわびを一切述べていない。欺瞞的な内容」(共産党の志位委員長)、「歴代内閣の立場を踏襲しているとは全く感じられない。戦前の行動を全て肯定するかのような本音が、垣間見える」(生活の党の小沢共同代表)「首相本人の言葉として語られていない。村山談話よりも大きく後退していると言わざるを得ない」(社民党の吉田党首)などと断じた。

 

 このほか、維新の党の松野代表が「戦後50年の村山談話以後、10年ごとに毎回、同様な談話が発表されていることに疑問を感じざるを得ない」「特に、今回は国の安全保障法制を根底から変えるような法案審議をしている最中に、これまでの歴史認識を変える意図があるのではないかと疑われて国際的な混乱を招き、国益を損ねかねない事態になったことは残念というほかない」と、戦後70年談話を出したこと自体に疑問を呈した。

次世代の党の平沼党首は「未来志向の内容や、次の世代に謝罪を続ける宿命を背負わせてはならないと発言したことは評価する」としつつ、「現在、アジア太平洋の平和を乱す動きがあることへの批判も入れるべきだった」と注文を付けた。

 

 

【安全保障関連法案、19日から審議再開】

与野党は、参議院で審議中の安全保障関連2法案(平和安全法制整備法案、国際平和支援法案)の是非に言及した、終戦記念日にあたっての談話・声明をそれぞれ発表した。

通常国会中の成立をめざす自民党は、「国際情勢が複雑に変化するなか、平素からの備えを万全にし、国民の命と幸せな暮らしを守り抜かなければならない」と、関連2法案の必要性を改めて訴えた。

公明党も「粘り強い外交努力と隙間のない安全保障の備えが不可欠」としたうえで、関連2法案が「わが国を取り巻く安全保障環境が厳しさを増すなか紛争を未然に防止し、戦争を起こさせない仕組みをつくること」にあり、「憲法の平和主義、専守防衛を堅持している」などと強調した。山口代表は「紛争を呼び起こす出来事を国際社会と連携して抑え込まなければいけない。専守防衛に徹したしくみを整えることが外交の推進力になる」と述べ、安全保障関連2法案が「中国や韓国にも理解されると確信する」との認識を示した。

 

一方、野党は「戦後70年の日本の歩みを支えた国のあり方を、安倍政権は大きく変えようとしている」(民主党)、「安倍政権は戦後70年の平和の歩みを断ち切り、歴代内閣の憲法解釈を覆し、戦争法案を強行し、日本を米とともに海外で戦争をする国につくりかえようとしている。憲法破壊の暴走」(共産党)、「憲法解釈をねじ曲げて、戦争できる国に突き進む安倍独裁政治を断じて許すわけにはいかない。未来志向の行く末が戦争できる国では、国際社会からも信用されるはずがない」(社民党)、「戦前の歴史的事実を冷静に見つめ、謝るべきは謝り、正すべきは正す。歴史と正面から向き合おうとしないから、中国や韓国から歴史問題を常に蒸し返される」(生活の党)などと批判し、関連2法案を廃案に追い込む決意を示した。

 関連2法案に概ね賛成する意向を示す次世代の党は「南シナ海や東シナ海で中国による侵略が顕著」と指摘したうえで、「協働防衛という新たな理念にもとづき、同盟国・友好国との安全保障体制を構築するべき」などと注文をつけた。

 

 参議院わが国および国際社会の平和安全法制に関する特別委員会での審議をめぐっては、11日、中谷大臣出席のもと野党のみが質問に立った一般質疑で、防衛省統合幕僚監部が安全保障関連法案成立を前提に今年5月末に作成されたとする内部向けの説明資料「日米防衛協力のための指針(ガイドライン)および平和安全法制関連法案について」を、共産党が提示した。

資料には、関連2法案の8月成立・来年2月施行を前提としたスケジュール表が添付されており、成立後の方向性について掲載されていたようだ。今月7日に閣議決定された南スーダンの国連平和維持活動(PKO)の派遣期間延長を前提に、来年からの新法制にもとづく運用が可能だとして自衛隊の具体的な部隊編成や行動計画などが明記されているほか、今後の検討事項として、現法下で認められていない南スーダンでの駆けつけ警護・宿営地共同防衛の実施、米軍による南シナ海での情報収集活動への自衛隊の関与なども記載されているという。

 

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 共産党の小池晃・参議院議員が、防衛省内で秘密裏に作成された内部資料の存在を認めるよう迫ったが、中谷防衛大臣兼安全保障法制担当大臣は「いかなるものか承知していない」「(資料の)真贋や位置付けを即答するのは困難」などと具体的な答弁を避けた。小池議員は「国会審議の真っ最中に、法案成立を前提とした計画が議論されている。大臣が知らないとは大問題」と反発して質疑が紛糾した。

審議再開後も、中谷大臣は「同じ表題の資料は存在する」と部分的に認めたうえで、「国会での審議中に法案の内容を先取りすることは控えなければならない」と釈明するにとどめた。小池議員は中谷大臣の答弁に納得せず、「防衛省幹部の暴走。戦前の軍部独走と同じだ。絶対に許されない」と批判して関連2法案の撤回を要求するとともに、「これ以上議論できない」と質問を取りやめた。その他の野党も共産党に同調したため、鴻池特別委員長(自民党)が予定されていた散会を宣言し、質疑が途中で打ち切られる事態になった。

 

野党側は、防衛省統合幕僚監部が関連2法案の成立を前提に内部資料を作成していた問題で「一般的なシミュレーションのレベルを超えている」(民主党の枝野幹事長)などとして、中谷大臣の監督責任も含め追及する構えだ。また、沖縄本島沖で墜落した米軍ヘリコプターに自衛隊員が同乗していた経緯も問い質す意向を示している。野党側は、参議院特別委員会での集中審議や河野統合幕僚長の証人喚問のほかにも、衆議院予算委員会や党首討論などの開催も要求すべきとの声も出ている。

 着実に審議を積み重ねて採決環境を整えたい自民党は、特別委員会での審議再開を求めたのに対し、民主党・維新の党・共産党は、特別委員会で内部資料作成問題に関する集中審議を開催するよう求めた。18日の特別委員会理事懇談会で再協議した結果、特別委員会を19日から再開し、委員会冒頭で中谷大臣が内部資料について説明することとなった。また、野党側が求めていた「我が国を守るために必要な措置かどうかを問題にすべきで、法的安定性は関係ない」と発言した礒崎総理補佐官の参考人再招致は実施せず、その代わりとして21日に安倍総理出席のもと集中審議を行うことでも合意した。

18日の特別委員会理事懇談会で、防衛省が内部資料の存在を認めたうえで「課題整理と理解を深めるのが目的で、法案成立を先取りしたものでも秘密指定の資料でもない」などと説明したが、北沢俊美・野党筆頭理事(民主党)は「(成立後の運用について)法案成立前に防衛省が検討していることが問題」と批判した。自民党は、野党の追及・批判に「法律ができた時に何の準備もしていませんでした、というわけにはいかない。できた時にどう動くかは考えていかなくてはいけない」(谷垣幹事長)と反論しているものの、関連2法案への国民の理解が深まるよう丁寧に説明し疑念を払拭していくことが重要だとして、野党側が要求を受け入れることにしたようだ。

 

 

【水面下では与野党が綱引き】

安全保障法制の委員会審議が進まないなか、与野党それぞれが協議に向けて動いており、綱引きが水面下で始まっている。

参議院での採決に向けた環境を整えたい自民党と公明党は、野党一部の協力を取り付けるべく、自衛隊の海外派遣は例外なく国会の事前承認することや、海外派遣の事後検証を義務化することなどを盛り込んだ修正案の共同提案をめざしている日本を元気にする会や新党改革と、近く修正協議に入る予定だ。また、維新の党との修正協議を参議院でも継続する考えで、維新の党が参議院に対案を提出した後にも再開するとしている。

 

一方、維新の党は、12日、民主党と政調会長会談を行って、維新の党が提出予定の対案8本のうち、民主党と衆議院に共同提出した「領域警備法案」、駆け付け警護を可能とする「国連平和維持活動(PKO)協力法改正案」、民主党が要綱としてとりまとめた「周辺事態法改正案」を参議院に共同提出することを念頭に、協議入りすることで一致した。

民主党は、日本に退避する邦人らを支援する「退避民支援活動」を新設、避難民を乗せた船舶への燃料補給や医療・食糧の提供容認、後方支援や捜索救助での武器使用基準拡大など、周辺事態で米軍と「米軍とともに活動し、日本と物品役務相互提供協定を締結している国の軍隊」への後方支援を充実させる独自の周辺事態法改正案要綱を11日に決定している。政府案が可能としている弾薬の提供は認めず、自衛隊による核兵器や化学兵器の運搬も除外するとした。

 

ただ、民主党内には、参議院への対案提出よりも政府提出の関連2法案の廃案を優先すべきとの慎重論があるほか、与党との修正協議にも意欲をみせている維新の党への不信感もあって、いまのところ領域警備法案を除いて合意できる見通しは立っていない。

維新の党は、18日の執行役員会で対案8法案の取り扱いを片山参議院議員会長に一任することを決めた。民主党との協議の進捗をみて、今週中にも参議院に提出するようだ。民主党との協議に時間がかかる場合、存立危機事態の概念ではなく「武力攻撃危機事態」にのみ個別的自衛権を拡大して自衛隊の武力行使ができることを盛り込んだ改正案や、自衛隊の活動範囲を非戦闘地域の公海とその上空に限定して国連決議なしには自衛隊派遣できないことなどを盛り込んだ「国際平和協力支援法案」、海外派遣した自衛隊員が武器を不正使用した際の処罰規定などを盛り込んだ「自衛隊法改正案」など、協議対象以外の5法案を維新の党単独で20日にも参議院へ提出することも含め、最終判断するとみられている。

 

 

【安全保障法制をめぐる与野党動向に注意を】

安全保障関連2法案の審議が19日から再開される。野党各党は、国会審議を通じて、防衛省の内部資料作成問題や、米軍ヘリコプターの墜落事故問題、戦後70年談話と安倍総理の認識などを質して、攻勢を強めたい考えだ。また、与野党間の協議を念頭に入れた動きも活発となりつつあり、今後、与野党入り乱れた攻防戦となっていきそうだ。

 

さらに、野党側は、国会で審議されている安全保障法制などのほか、原子力発電所の再稼働問題や経済問題、新国立競技場の建設計画見直し問題などでも追及するとしている。

原子力発電所の再稼働問題をめぐっては、11日に九州電力川内原発1号機が再稼働したことを受け、野党各党が一斉に批判している。重大事故の際の避難対応が自治体に委ねられ国が責任を持つ態勢になっていないことや、避難計画の実効性、高レベル放射性廃棄物の最終処分場が決まっていないことなどを指摘して、「住民の懸念が払拭されたとは言いがたい。政府が万一の場合に責任を取る姿勢すら見えていないなかでの再稼働には到底納得できない」(民主党の枝野幹事長)、「最終処分の方法のメドも立たないまま再稼働を進めるのは無責任のそしりを免れない。結論ありきで原発再稼働に突き進むかのような政府の姿勢に危惧を覚える」(維新の党の松野代表)、「福島原発事故の原因究明さえ行われないまま、国民多数の民意を真っ向から踏みにじって再稼働を強行したことは断じて許されない」(共産党の志位委員長)などと、原発再稼働に反対や懸念などを表明した。原発再稼働に世論の反発が強いことなどを背景に、野党各党は、追及を強める構えをみせている。

 

17日に内閣府が発表した2015年4~6月期の国内総生産(季節調整済み)速報値で、物価変動の影響を除いた実質GDPが前期比0.4%減、年率換算1.6%減と、3四半期ぶりにマイナス成長となったことを受け、民主党は「安倍政権は安全保障法制にかかりきりになっている。国民が最も求める景気、生活の改善に全力を傾けるべきだ」(枝野幹事長)、「消費、設備、輸出など民需が総崩れだ。政府がこれまで喧伝してきた所得増が実現できていないのが原因の一つ」(細野政調会長)などと批判している。

政府側は、日本経済の足踏み要因としてアジアや米国向けの輸出低迷や、天候不順などで個人消費も振るわなかったことなどをあげており、あくまで一時的との見方をしているが、自民党内からは「先を見通しての経済対策を打ち出していくことが必要だ」(谷垣幹事長)と、編成作業が本格化する来年度予算案の中身も含め、景気浮揚につながる何らかのてこ入れが必要との声も出始めている。7~9月期のGDP速報値の結果次第では、経済対策が重要課題として急浮上することもありそうだ。

  

 こうした重要課題が山積するなか、通常国会の会期末(9月27日)は残り1カ月あまりとなっている。いまのところ、安全保障関連2法案の審議が紛糾するたび、他の法案審議にも影響が及び、順調に進んでいるとは言い難い状況にある。引き続き、安全保障法制をめぐる与野党の駆け引きや、与野党間の協議の行方などに注意しながら、国会論戦をみていくことが大切だろう。

【安倍総理、下村大臣の責任を否定】

先週7日と今週10日、衆参両院それぞれの予算委員会で、安倍総理・関係閣僚出席のもと、2020年東京オリンピック・パラリンピックのメイン会場となる新国立競技場の建設計画見直しなどをテーマにした集中審議が開催された。

 

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安倍総理は、新国立競技場の建設計画を白紙撤回したことに伴い、デザイン監修業務や設計会社4社の共同企業体との設計業務など約62億円が無駄な支出となることについて、「白紙撤回の前に締結した契約による支出は、その当時は適正な支出だったが、結果として白紙撤回したものに貴重な公的資金を使用したことは、国民の皆様に対して申し訳ない思いだ」と陳謝した。そして、「できる限りコストを抑制し、現実的にベストな計画を作ることが重要だ。責任を果たすため新国立競技場を2020年の開催までに間違いなく完成させるように内閣全体で責任を持って取り組んでいく決意」と改めて表明した。

安倍総理が新国立競技場の建設計画について白紙撤回を表明したのが、衆議院で平和安全法制整備法案と国際平和支援法案の安全保障関連2法案の採決を与党単独で行った翌日だったとして、民主党は「批判をかわすための政治利用」(小川淳也・衆議院議員)と批判した。これに対し、安倍総理は「この問題は、安全保障関連法案は全く別だ」と反論した。

 

また、民主党による「計画の見通しが甘い」「新国立競技場の問題は集団的無責任体制だ。既存の競技場の改修も含めた真剣な検討をしていない」との追及に、安倍総理は、キールアーチ構造などの旧デザインを選んだのは民主党政権下であり、日本オリンピック委員会(JOC)が国際オリンピック委員会(IOC)に提出した立候補ファイルに「必要であれば日本政府が財政支援をする」などと記載された野田総理名入りの保証書が添付されていたことを踏まえ、「国立競技場を壊して新しいものを造ると決めたのは民主党」であり、「デザインそのものに予算を膨らませる大きな原因があった」「我々はそれを受け継いだが、IOCとの関係もあり、いきなり白紙撤回するような無責任なことはしなかった」と、民主党にも責任があると反論した。

こうした反論に、民主党は、総工費をめぐる迷走は自民党政権下で起きたことで「責任転嫁も甚だしい」などと反発している。2013年10月に建設費が1300億円から約3000億円に膨らむ見通しが表面化していたものの、事業主体である日本スポーツ振興センター(JSC)が2014年5月に基本設計の概算工事費を1625億円と過少に見積もったことで、2015年6月末に政府が発表した総工費は2520億円に膨らむ結果となったからだ。JSCが正確な額を公表していれば計画見直しが早まった可能性もあるだけに、「デザインを決めたことで我々の責任がないとは言わないが、きちんと早く対応していればこういう混乱はなかった」(民主党の岡田代表)と批判した。

 

民主党など野党は、JSCを管轄する下村文部科学大臣に政治責任があるとして、下村大臣が引責辞任するか、安倍総理が更迭すべきと主張している。これに対し、安倍総理は「世界の人々を感動させる大会にする責任は政府にあり、最終的な責任は総理大臣である私にある」として下村大臣の辞任は不要との認識を示しつつ、文部科学省に設置された第三者による検証委員会で「客観的な立場で検証が行われると期待している。経緯と併せて責任の所在についても議論してもらうと考えている」と述べた。

下村大臣も、様々な批判を謙虚に受け止めるとともに、第三者委員会での検証結果を踏まえて対応していく意向を示したうえで、「大会開催に確実に間に合わせ、できるだけコストを抑制し、現実的にベストなものにすることで、国民に歓迎してもらえる対応をすることが最も責任を果たすことになる」と強調して、続投に意欲を示した。

 

 

【核兵器運搬は政策的にありえないと説明】

中谷防衛大臣兼安全保障法制担当大臣が、安全保障関連2法案の法文上、核兵器はあえてあてはめれば弾薬と整理することができ、他国軍への後方支援で自衛隊による運搬も法理論的には排除されないと答弁したことについて、民主党など野党が問題視して集中審議でも追及した。中谷大臣は、5日に開かれた参議院わが国および国際社会の平和安全法制に関する特別委員会で、非核三原則の存在を理由に「(米国から)要請があってもありえない」と強調したが、野党側は、法的な歯止めがない以上、時の政権の判断で核兵器運搬が可能になる余地が残るとして猛反発していた。

こうした野党側の追及に、安倍総理は、核兵器運搬を排除する規定がないのは現行の周辺事態法でも同じことであり、非核三原則や、核兵器を運ぶ能力が自衛隊にないことなどを理由に、「核弾頭の運搬は政策的に全くありえない。純粋法理論上の机上の空論に対して答えたにすぎない」「国是として非核三原則を表明している。国是のうえに法律を運用するのは当然」などと強調した。そして、「そもそも選択肢としてないものを議論すること自体、意味がない。ありえるかのごとく議論するのは間違っている」と、批判を強める野党側を牽制した。

 

 民主党の岡田代表は「非核三原則と、核の国外での運搬は直接関係ない。非核三原則を分かっているのか」と批判したうえで、「論理的にはありえるのだから、机上の空論と片付けるのは間違い。法理上明確にするべき」と、関連法案に核兵器運搬の排除を明記する修正が必要であり、政府はこうした訂正を行ったうえで関連法案を出し直すべきと訴えた。

7日の集中審議で質問に立った山井・衆議院議員は、6日の広島市での原爆死没者慰霊式・平和祈念式の挨拶で安倍総理が非核三原則の堅持に触れなかったとして「その国是をいわなかったのはあなたではないか」と非難した。こうした批判に、安倍総理は「非核三原則は当然のことで、その考え方に全く揺るぎはない。当然の前提として核兵器のない世界の実現に向けて国際社会の取り組みを主導していく決意を表明」と述べた。長崎の平和記念式典で非核三原則の堅持に言及したことについては、「さまざまな指摘があったので、誤解を招くことがないように言及した」(10日の集中審議)と説明した。

 

安全保障関連2法案の審議をめぐっては、与野党が10日の特別委員会理事懇談会で協議した。与党側が審議に向けた日程協議を提案したものの、野党側は「我が国を守るために必要な措置かどうかを問題にすべきで、法的安定性は関係ない」と発言した礒崎総理補佐官を再び参考人として招致するよう求めた。与党側は、礒崎総理補佐官の再招致に消極的姿勢を示して「別途、何らかのかたちで解決策を提示させていただきたい」(自民党の佐藤正久与党筆頭理事)と回答するに留めた。このことから、11日に中谷大臣出席のもとで野党が質問する一般質疑のみが決まり、礒崎総理補佐官の再招致をめぐる結論は持ち越しとなった。

自民党は、関連2法案の審議の行方に不透明感を増し、採決への道筋を描きにくくなりつつあるなか、着実に審議を積み重ねていきたい考えだ。順調にいけば、9月上旬にも採決の目安とする100時間程度の審議時間に到達するとみている。一方、成立を急ぐ与党を牽制したい野党側は、礒崎総理補佐官の再招致を引き続き求めていくとともに、関連2法案の違憲性や矛盾点などを浮き彫りにして、対決姿勢を強めたい考えだ。

 

 

【野党、対案などの提出へ】

 野党側は、安全保障関連2法案の対案または修正案を参議院に提出する方向で準備を進めている。

維新の党は、衆議院で否決された関連2法案の対案を一部修正のうえ、早ければ18日にも党内手続きを終えて参議院に提出する方針でいる。これまで党執行部内では、衆議院での採決直前に修正協議の継続を与党と合意していることもあり、対案を参議院に提出して修正協議を再開すべきとの声がある一方、与党に再び利用されかねないと対案提出に慎重な意見もあり、対応が定まらない状態が続いてきた。

しかし、与党幹部らが修正協議入りを念頭に野党側に対案の早期提出を呼びかけ、安倍総理も「政党間の協議が進んでいけば謙虚に耳を傾けたい」と柔軟姿勢を示しているほか、礒崎総理補佐官の発言などにより「我々の案との差がはっきり出る環境ができた」(松野代表)とみて、対案の提出方針を固めた。

 

 維新の党が修正のうえ提出する予定の対案は、自衛隊の活動範囲を非戦闘地域の公海とその上空に限定して国連決議なしには自衛隊派遣できないことなどを盛り込んだ「国際平和協力支援法案」や、武力攻撃に至らないグレーゾーン事態に対処するために領域警備区域を指定して自衛隊が警備行動できるとした「領域警備法案」など計8本としている。

政府が改正案10本を束ねた一括法案にして国会提出したことに批判・苦言などがでていることや、他の野党から法案ごとに提出した方が審議しやすく賛成もしやすいとの声が出ていることも踏まえ、これまで政府案に合わせて改正案を束ねていた「平和安全整備法案」を、存立危機事態の概念ではなく「武力攻撃危機事態」にのみ個別的自衛権を拡大して自衛隊の武力行使ができることを盛り込んだ改正案や、駆け付け警護を可能とする国連平和維持活動(PKO)協力法改正案など6本に分割することにした。維新の党は、他の野党との共同提出も視野にいれ、法案の分割を決めたようだ。

逆風に苦慮する与党は維新の党との修正協議の再開に前向きな姿勢を示しており、維新の党の片山参議院議員会長も「法案は修正した方がいい。違憲だと集中攻撃を受けるような法案を強行したらダメだ」と与党側に柔軟に対応するよう求めている。ただ、政府案と維新案の隔たりが大きく、維新の党内には「維新案の丸のみが(採決で賛成する)条件」(小野・安全保障調査会長)といった声も出ているだけに、協議の行方は見通せないままだ。

 

 また、日本を元気にする会は、自衛隊を海外派遣する場合に、例外なく国会の事前承認することや、海外派遣の事後検証を義務化することなどを求める修正案の提出を検討している。新党改革も同様の主張をしており、お盆休み明けにも共同提案をめざしている。

 一方、周辺事態法改正案などの要綱案を関連2法案の対案として作成することを決定した民主党は、参議院への提出をめぐって意見が分かれている。党内の保守派らが対案提出すべきと主張しているのに対し、「違憲法案に対案は出せない」(蓮舫・代表代行)と、岡田代表ら党執行部らは、違憲性などにこだわって安保関連2法案の廃案を求めていくべきだとしており、対案提出に慎重姿勢を示している。

 

 

【戦後70年談話の内容とその反応に注目を】

11日に参議院で開催された安全保障関連2法案を審議する特別委員会と、労働者派遣法改正案などを審議している厚生労働委員会を除き、今週の審議は行われない見通しだ。国会審議が再開するのは来週以降となる。

 

派遣労働者の柔軟な働き方を認めることを目的に、企業の派遣受け入れ期間の最長3年という上限規制を撤廃(一部の専門業務を除く)する一方、派遣労働者一人ひとりの派遣期間の上限は原則3年に制限して、派遣会社に3年経過した後に派遣先での直接雇用の依頼や、新たな派遣先の提供などの雇用安定措置を義務づける「労働者派遣法改正案」は、同じ職務を行う労働者は正規・非正規にかかわらず同じ賃金を支払う「同一労働・同一賃金推進法案」とともに、通常国会中の成立は確実だ。ただ、日本年金機構の個人情報流出問題の影響などにより、参議院厚生労働委員会での採決見通しが立たない状況のままとなっている。

審議の遅れから、政府・与党は、関連政省令の整備などに一定の期間がかかることから、労働者派遣法改正案に明記した施行日の9月1日では間にあわないと判断して、9月末に修正する方針を固めている。通常、周知期間として法律公布から施行までに半年程度を空けるが、労働者派遣法改正案では1カ月程度と極めて短くなる見通しだ。当初、政府・与党は周知徹底するために十分な期間を空ける考えだったが、成立の遅れから異例のスピード施行となる。民主党政権下で成立した2012年労働者派遣法改正に伴う労働者保護策「労働契約申し込みみなし制度」が10月1日からスタートすることで、派遣期間の制限がない専門26業務で本来の業務と関係ない業務などをさせている派遣先の企業は、派遣労働者が希望すれば直接雇用しなければならなくなり、直接雇用を回避すべく派遣社員の契約を9月で打ち切るといった事態も想定されるからだ。

政府・与党は、こうした雇用現場の混乱を回避するべく、10月1日前の施行にこだわっている。ただ、施行日を修正すれば衆議院での再可決が必要となるため、成立阻止を掲げている民主党など野党が衆議院での再審議を求めれば、成立が大幅にずれ込む可能性もあるようだ。

 

 与党は、9月27日までの通常国会中に審議する法案の絞り込み作業を加速化させており、柔軟な働き方を広げて労働生産性を高めるねらいから高度プロフェッショナル制度創設や企画業務型裁量労働制の対象を新商品開発・立案や課題解決型営業などへの拡大、年5日の有給休暇の取得ができるよう企業に義務づける過労対策などを柱とする「労働基準法等の一部を改正する法律案」などの会期内成立を断念した。

民主党や共産党など野党が「残業代ゼロ法案」と位置付けて成立阻止を掲げているだけに、強引に審議を進めれば、安全保障関連2法案や労働者派遣法改正案の審議にも影響を与えかねないと判断したようだ。与党は、成立しやすい法案の審議を優先し、労働基準法改正案などは、衆議院で審議入りのうえ継続審議とする方針だ。これにより、秋の臨時国会以降に持ち越される公算が高まっている。

 

 今週14日に政府は、戦後70年談話を臨時閣議で決定のうえ発表する予定だ。現在、政府・与党内では、総理大臣の私的諮問機関「21世紀構想懇談会」(座長:西室泰三・日本郵政社長)が6日に提出された報告書を参考に、談話に盛り込む内容をめぐって調整が続けられている。公明党は、「植民地支配と侵略」「痛切な反省」「心からのおわび」について言及した戦後50年の村山談話や戦後60年の小泉談話で受け継がれている歴史認識、少なくともその趣旨を全面的に継承するよう求めている。

安倍総理は、戦後70年談話にあたって「過去に対する痛切な反省」「戦後の歩み」「未来志向」の3本柱を打ち出す一方、7日の集中審議では「歴史認識に関する歴代内閣の立場を全体として引き継ぐ。戦後70年談話はそれを前提として作成する」と述べている。談話では、先の大戦に対する痛切な反省や戦後日本の国際貢献の実績、積極的平和主義の推進などを強調するとともに、戦後日本の歩みに多くの国が理解を示していることにも感謝の意を表すようだ。また、今後も政府開発援助(ODA)による経済支援や、国連平和維持活動(PKO)などで、国際社会の安定に貢献していく方針も盛り込む。焦点となっているアジア諸国へのおわびについては、直接的表現を避けつつも、近隣諸国にお詫びと受け止めてもらえるような表現にする方向で検討されているという。

 

14日に安倍総理がどのような談話で発表し、閣議決定後に開かれる記者会見でどのような説明をおこなうのだろうか。そして、与野党各党やアジア諸国などがどのような反応をみせるのか。戦後70年談話の内容によっては、お盆明けの国会審議にも影響を与えかねないだけに、一連の動きを注意深くみておいたほうがいいだろう。
 

【礒崎総理補佐官を参考人招致】

 今週3日、平和安全法制整備法案と国際平和支援法の安全保障関連2法案を審議する参議院わが国および国際社会の平和安全法制に関する特別委員会で、「我が国を守るために必要な措置かどうかを問題にすべきで、法的安定性は関係ない」と発言した礒崎総理補佐官を参考人として招致した。

 

 *衆参両院の本会議や委員会での審議模様は、以下のページからご覧になれます。

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礒崎総理補佐官の参考人招致をめぐっては、与野党が特別委員会理事懇談会を7月29日と30日に開いて協議を重ねた。早期の幕引きを行いたい与党側は、まずは礒崎総理補佐官を非公開の理事会または理事懇談会に出席して弁明のうえ、与野党理事が質疑する方式を提示した。これに対し、「法の支配という観点から、行政に携わる資格がない」「立憲主義の否定であり、安倍内閣の本音」「国会に来て国民の前で謝罪すべき」「関連法案は法的安定性を欠いていると認めた」などと批判する野党側は、礒崎総理補佐官の特別委員会招致を譲らないことで足並みを揃えて、「この問題が解決しなければ審議に応じられない」「扱いによっては委員会開催に影響を及ぼすこともあり得る」と迫った。

30日の特別委員会理事懇談会で、鴻池特別委員長(自民党)が委員会出席で折り合うよう提案したことを踏まえ、8月3日の特別委員会に礒崎総理補佐官を参考人として招致することになった。野党が要求する参考人招致を受け入れなければ今後の特別委員会での審議に影響を及ぼしかねない情勢となっていることや、公明党を中心に与党内からも不快感や批判、丁寧な説明の要求などが相次いだほか、「進退は自ら判断するのが政治家の基本」(公明党の井上幹事長)と礒崎総理補佐官の進退問題にも言及し始めたことから、礒崎総理補佐官の陳謝・釈明で影響を最小限にとどめたい参議院自民党の幹部らは、野党への譲歩を決めた。

 

 3日の特別委員会では、冒頭に礒崎総理補佐官が発言の真意などを説明したうえで、15分間の参考人質疑が行われた。

礒崎総理補佐官は「私の軽率な発言により特別委員会の審議に多大な迷惑をかけた」「発言を取り消し、関係者に心よりおわび申し上げる」と謝罪した。そして、「もとより法的安定性が重要であることを認識している。あくまでも合憲性、法的安定性を当然の前提とした発言」「安全保障環境の変化も議論しなければならないと述べる際に、本来なら法的安定性とともに国際情勢の変化にも十分配慮すべきと言うべきところを、法的安定性は関係ないとの誤った表現を使ってしまった。大きな誤解を与えてしまった」と法的安定性全体を否定する意図がなかったと釈明のうえ、発言を撤回した。

また、関連2法案については「必要最小限度の武力行使しか認めないとの従来の政府見解での憲法解釈の基本的論理は変わっておらず、合憲性と法的安定性は確保されている」との認識を示した。野党の辞任要求については「法案の審議に迷惑を与えることなく、総理補佐官としての職務に精励していく」と否定した。

 

 これに対し、鴻池特別委員長は、礒崎総理補佐官が「(関連2法案の審議を)9月中旬までに終わらせたい」と発言したことを参議院軽視のような内容だと問題視して、「9月中旬にこの法律案を上げたいという発言はいかがかと思う。参議院は衆議院の下部組織ではない。官邸の下請けではない」と、礒崎総理補佐官に苦言を呈した。礒崎総理補佐官は「いわずもがなの時期的なこと申し上げたことは、首相補佐官発言として極めて不適切だったと考えている。今後は不適切な発言のないよう努力し、参議院の価値について私自身見直し、しっかりと考えたい」と述べた。

参考人質疑で野党を代表して質問に立った福山哲郎・民主党幹事長代理は、礒崎総理補佐官が「法的安定性で国を守れるか。そんなもので守れるわけない」などとも発言していたことも紹介して、「安倍総理はじめ政府が、法的安定性は維持しながら集団的自衛権を限定容認したと強弁してきた。それがよりにもよって、総理補佐官が法的安定性は関係ないと言い放った。ちゃぶ台をひっくり返したのも同然」として、礒崎総理補佐官に辞任を求めた。また、「安倍政権の考えと礒崎総理補佐官の考えが同じだということではないか。総理補佐官を任命し続ける安倍総理の責任は非常に大きい」と、礒崎総理補佐官の更迭を否定し続ける安倍総理の任命責任について言及するとともに、「任命責任という指摘はあたらない」と述べた菅官房長官も批判した。

 

 通常国会中に成立させるべく、関連2法案の審議時間を積み上げていきたい政府・与党は「(礒崎総理補佐官が発言撤回したことは)潔くてよかった」(自民党の高村副総裁)、「明確に真意を説明された」(自民党の谷垣幹事長)、「特別委員会で陳謝し、発言を取り消した。深い反省のもとに2度と同じ言動を繰り返さないという本人の国会における誓いだと受け止めている」(公明党の山口代表)などと評価・擁護して、幕引きに躍起となっている。

 これに対し、野党側は、礒崎総理補佐官の釈明は不十分であり、「到底納得できない。礒崎氏をかばう総理も同じ考え方と受け止めざるをえない」「総理の任命責任というより安倍内閣の責任だ」(民主党の枝野幹事長)、「今の政権は緩んでいると同時にある意味本音が出た」(維新の党の松野代表)などと反発を強めており、引き続き礒崎総理補佐官の辞任または安倍総理による罷免を求めるとともに、安倍総理の任命責任を徹底追及する構えだ。

民主党・維新の党・共産党は、4日の特別委員会理事懇談会で、礒崎総理補佐官の再度の参考人招致を要求し、北沢俊美・野党筆頭理事(民主党)も「来週の審議に礒崎氏を呼ばなければ、審議に支障をきたすかもしれない」と迫った。しかし、参議院自民党は「引き続き検討する」と述べるにとどめた。与野党は理事懇談会で改めて協議するが、与党内には、礒崎総理補佐官の姿勢を批判する声や、総理補佐官の続投を疑問視する声が出ているものの、「陳謝をして取り消した。参考人として呼ぶことは控えていいんじゃないか」(公明党の山口代表)などと、再度の参考人招致に否定的だ。鴻池特別委員長も「総理補佐官の参考人招致は異例の対応で、次の招致は極めて難しい」と慎重姿勢を示している。

 

 

【安倍総理、中国や北朝鮮の脅威に言及】

特別委員会の開催日をめぐっては、遅くとも9月前半には関連2法案を採決のうえ成立させたい自民党が週4日ペースで特別委員会を開催することを提案したのに対し、審議未了のまま廃案に追い込みたい民主党など野党側が、定例日が設けられていた衆議院と同様、参議院でも原則として週3回の定例日を設けて特別委員会を開催すべきだと主張し、平行線をたどっていた。断続的に協議を行った結果、与野党は、29日の特別委員会理事懇談会で、原則として週3日(火・水・金曜日)の開催とし、特別委員会の予備日を月曜日とすることで合意した。

 

 関連2法案に関する特別委員会の審議では、安倍総理が29日の総括的質疑で、安全保障環境が変化している一例として(1)国防費の大幅な伸び、(2)尖閣諸島周辺での公船による相次ぐ領海侵入、(3)東シナ海での一方的な資源開発と軍事転用の恐れなどを挙げて、「既存の国際秩序とは相いれない、力による現状変更」と、中国の軍拡路線に対する懸念を表明するとともに、日米同盟などを念頭に「パートナー国との関係を深めることで紛争を未然に防ぎたい」と、米国など関係国との連携強化を図る必要性を示した。

 中国との関係改善については「外交を通じて平和を構築することが重要」としたうえで、「戦略的互恵関係の考え方に立ち関係を改善していくとともに、中国の力による現状変更の試みには事態をエスカレートすることなく、冷静かつ毅然と対応していく」「さまざまなレベルで対話を積み重ねながら、安定的な友好関係を発展させていきたい」と、外交努力を続ける考えを強調した。

 

また、北朝鮮の核ミサイル開発などについては、懸念を改めて表明したうえで、「自衛の措置としての武力の行使は最後の手段であり、紛争の平和的解決のために外交努力を尽くすことが前提だ」と強調した。中谷防衛大臣兼安全保障法制担当大臣は、30日の特別委員会で、今年10月にも北朝鮮が弾道ミサイル発射実験を実施する可能性が指摘されていることについて「仮に発射されれば累次の国連安保理決議に違反し、北朝鮮の弾道ミサイル能力増強につながる。日本の安全保障上、強く懸念すべきものだ」と警戒感を示した。

安倍総理は、日米両国がイージス艦で分担して追尾・迎撃する共同対処態勢を敷いており、「法制が成立すれば米艦護衛が可能になり、ミサイル防衛システムはより効果を発揮する。しっかりと国民の命を守ることができる」と強調した。また、4日の特別委員会でも「弾道ミサイルの脅威に切れ目ない対応を行うことが可能になり、日米同盟の抑止力、対処力は一層強化される。相手国にも同盟の絆はより強化されていると認識させることができる」と意義を強調した。

 

 これまで政府は、外交的配慮から脅威が想定される国名を提示することに慎重だったが、関連2法案への国民的理解を広げるねらいから、現実の脅威を提示して強調する答弁を行うようになっている。こうした政府答弁に、成立阻止をめざす民主党や共産党、社民党、生活の党などは「日中首脳会談を模索している状況で、特定の国名を出すことがトータルのわが国の外交安全保障戦略上、適切だとは到底思わない」(民主党の枝野幹事長)、「中国の脅威論をさまざま言い立てて、防戦にかかっている」(共産党の穀田国対委員長)などと批判している。

概ね賛成の立場を表明している次世代の党は「現代に侵略行為をしているのは中国だ。中国への抑止力を持つための安保法制にしなければならず、首相が中国の脅威を言うのは正しい」(松沢幹事長)と擁護している。日本を元気にする会の松田代表も「外にある危機が明確だから、名前を出してもいい」と理解を示した。

 

 

【集団的自衛権行使をめぐって議論】

 野党が集団的自衛権行使を限定容認することで「米国の戦争に巻き込まれるのではないか」との懸念を表明していることについて、安倍総理は、30日に特別委員会で行われた集中審議で、「フルスペック(全面的な集団的自衛権)となれば、専守防衛の範囲から外に出る」としつつ、「あくまでも自衛のための必要最小限の措置」「(武力行使の新3要件は)他国を防衛すること自体を目的としていない」と強調したうえで、日本の安全や国民の命に関わりがない状況であれば他国の「戦争に巻き込まれることは絶対にない」と明言した。そして、憲法第9条にもとづく専守防衛は「日本の防衛の基本方針であることに変更はない」とし、関連2法案が成立後も当然維持されるとの認識を示した。

 また、安倍総理は「武力行使の新3要件にあてはまらなければ明確にノーだ。あてはまっても自主的に政策判断するのは当然で、国会承認という歯止めもかかっている」(4日の特別委員会での答弁)と強調し、「米国の戦争に巻き込まれることは全くない」と主張した。

 

 国際協力のための自衛隊派遣について、安倍総理は、(1)国益に資するか、(2)日本の防衛に支障がないか、(3)現地や国際社会から評価されるか、(4)国民に支持されるかなどを判断基準とし、「こうした要素を考慮し、国際社会の一員として積極的な役割を果たせるようにしたい」と説明した。

 質問した水野賢一参議院議員(無所属クラブ)が、海外派遣中に自衛隊員が武器を不正使用した際の罰則規定が関連法案に盛り込まれていないと言及すると、中谷大臣は、刑法の国外犯処罰規定が事実上3年以上の懲役となる罪に限定していることとの兼ね合いから現時点では罰則規定を盛り込んでいないと説明したうえで、「今回の法制とは別途、不断の検討を行っていく」(29日の特別委員会)と説明した。そして、「自衛官は法令に基づく適正な武器使用が求められ、派遣に際して徹底した訓練を行っており、海外で違法な武器使用を行うことは想定されない」と理解を求めた。

これに対し、水野議員は「甘過ぎる。一発の銃声から泥沼の戦争になることもある。特に海外での武器使用には厳しい視点が必要」と批判して法案を出し直すべきだと反発した。審議が一時中断する事態となったことから、鴻池委員長が政府側に答弁の再検討を求めた。

 

このほか、自衛隊による他国軍への後方支援について定めた関連2法案で補給対象となっている弾薬と、提供が認められない武器との違いについても議論となった。中谷大臣は、3日の特別委員会で、弾薬を「一般的に武器とともに用いられる火薬類を使用した消耗品」、武器を「直接人を殺傷するなどを目的とする機械で消耗品でないもの」と定義したうえで、「手榴弾は武器とともに使わないが、直接、人を殺傷することなどを目的とする火薬類を使用した消耗品であり、弾薬として提供可能」と説明した。そして、現に戦闘行為が行われている現場以外であれば「提供を行ったとしても、他国の武力行使と一体化するものではない」との認識を示した。

また、中谷大臣は「ミサイルは提供の対象として想定していない。あえてあてはめれば弾薬だと整理できる」(4日の集中審議)との認識を示した。核ミサイルや生物兵器、劣化ウラン弾、クラスター爆弾なども理論的には弾薬に含まれるとして、「法文上は排除していない」(5日の特別委員会)と説明した。核ミサイルや劣化ウラン弾・クラスター爆弾などの輸送業務について「個々の要請に基づき主体的に判断する」としつつ、非核三原則や生物兵器・クラスター爆弾の禁止条約などを理由に「要請があっても断固拒否」されるべきと強調している。

ただ、こうした政府側の説明に、野党各党は、殺傷能力の高いミサイルは武器に分類されるべきで、ミサイルの提供を法律で認めることになりかねないと批判している。また、法文上でミサイルなどの輸送が禁じられていない以上、政策判断で可能になる余地を残すことになりかねないだけに、「大量破壊兵器は除くなどと条文に明記すべき」「非人道的な兵器を使う片棒を担ぐのか」などの批判も出ている。

 

 

【集中審議での論戦に注目を】

 安全保障関連2法案が参議院で審議入りし、特別委員会を舞台に、与野党の本格論戦が続いている。自民党は、慣例にもとづいて全審議時間を80時間強と見込み、お盆休み直前の8月11日まで特別委員会での審議を着実に積み重ねていきたいとしている。ただ、野党側は、礒崎総理補佐官の発言問題や、関連2法案の違憲性や矛盾点などを浮き彫りにし、世論を味方につけて、関連2法案の成立を急ぐ与党を強く牽制したい考えだ。

 このほか、7月31日の参議院本会議で、女性の採用・昇進機会を増やす取り組み加速を促すため、従業員301人以上の大企業、国・地方自治体に、採用者や管理職に占める女性割合、勤続年数の男女差などを把握したうえで、自主判断で最低1項目の数値目標を盛り込んだ行動計画の作成・公表を義務化することを柱とする「女性の職業生活における活躍の推進に関する法律案」の趣旨説明と質疑が行われ、審議入りした。

 

国会が正常化し、衆参両院で審議が進められるなか、今週7日には衆議院予算委員会で、来週10日には参議院予算委員会で、新国立競技場の建設計画を安倍総理が白紙撤回したことや、環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)交渉などをテーマにした集中審議が、安倍総理や関係閣僚が出席して開催される予定だ。

 野党側は、新国立競技場の建設計画見直し問題について、設計見直しの判断が遅れたことや膨張する総工費の実態などを質すとともに、一連の責任の所在について追及していく方針だ。建設計画を担当してきた久保文部科学省スポーツ・青少年局長は事実上の更迭とみて、「政治のレベルで責任を取るべきだ。事務方が責任を取って終わりというわけにはいかない」(維新の党の松野代表)などとして、所管官庁のトップであり決定などを行ってきた下村文部科学大臣の辞任、さらに事実関係によっては安倍総理の責任問題も追及する構えをみせている。

 

 大筋合意が見送りとなったTPP交渉をめぐっては、政府側が「残された課題は相当、絞り込まれた」「今回の会合の成果を踏まえながら、我が国の国益を確保しつつ、交渉の早期妥結に向けた努力をしていきたい」(菅官房長官)と意欲をみせる。これに対し、野党各党は、これまでの交渉経過が不明確だとして「交渉内容が明らかにならないと断定的な評価はできない」(民主党の枝野幹事長)、「日本が得られるものと失うものがどれだけあるのか。情報がない中でとても判断できない」(維新の党の柿沢幹事長)などと述べて、交渉の情報開示を政府に求めている。今後、賛否それぞれの立場から集中審議だけでなく、衆参両院の関係委員会で質していきたいとしている。

また、TPP交渉に慎重・反対の野党は、低関税の輸入枠が拡大するなど、政府が早期妥結を優先するあまり大幅に譲歩するのではないかと警戒感も募らせている。「漏れてきている経緯からすると、どうもわが国が守らなければならない部分が守れていない。取るべき部分が取れていない」としたうえで「日本が一方的に妥協を余儀なくされている内容なら逆にまとまらず、よかったのかもしれない」(民主党の枝野幹事長)と皮肉ったり、「(合意見送りは)国民生活より多国籍企業の利益が優先させるTPPに各国で反対の世論が広がった結果」(共産党の山下書記局長)などと譲歩案の撤回や交渉離脱を求めたりしている。

 

 衆参両院の予算委員会で開かれる集中審議で、野党各党は、新国立競技場の建設計画見直し問題やTPP交渉問題などについてどのように追及し、安倍総理や関係閣僚からどういった答弁を引き出すことができるのだろうか。与党対決法案や重要法案の審議動向や、関連委員会での審議内容も抑えつつ、集中審議での与野党論戦に注目しておきたい。
 

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