【野党反発で空転した国会が正常化】

先週22日、通常国会の会期を9月27日までの95日間延長することを衆議院本会議で議決した。しかし、平和安全法制整備法案と国際平和支援法の安全保障関連2法案を成立させるための大幅延長に、民主党など野党側が強く反発したことにより、23日から24日の国会審議がすべてストップした。


*衆参両院の本会議や委員会での審議模様は、以下のページからご覧になれます。

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24日に開かれた与野党国対委員長会談で、野党側は、国会正常化の条件として、参議院送付から60日経過しても関連法案が採決されない場合には衆議院本会議で3分の2以上の賛成により再可決することが可能となる「60日ルール」(憲法59条)を適用しないよう求めた。与党側は「(60日ルールの適用を)考えていない」と応じ、委員会審議を尽くしたうえで採決を行う考えを示した。これにより、与野党は、25日からの国会審議再開で折り合った。

これを受け、衆議院我が国及び国際社会の平和安全法制に関する特別委員会の理事懇談会では、安倍総理が出席しての集中審議を26日に開催することで合意した。また、衆議院農林水産委員会の理事懇談会でも、全国農業協同組合中央会(JA全中)の中央会制度を廃止や地域農協の経営状態などを監査してきた監査・指導権限を撤廃し、法施行から3年半後にはJA全中を特別認可法人から一般社団法人に完全移行することなどを柱とする「農業協同組合法等の一部を改正する等の法律案」に関する質疑を安倍総理出席の下で行い、同法案の採決を行うことを決めた。農業協同組合法等の一部を改正する等の法律案は、30日の衆議院本会議で与党と維新の党の賛成多数により修正可決し、参議院に送付された。

 

安倍総理は、26日の集中審議で「国会会期を過去最大幅延長し、十分な審議時間を取った」「国会での議論が不十分という意見が多いことは承知している。十分な審議時間をとり、国会での議論を通して国民に説明していきたい」との見解を示したうえで、「どこかの時点で議論が尽くされたと判断が委員会、議会でされれば、決めるときには決める」「熟議を尽くした上で、最終的に決めるときには決める。これは議会制民主主義の王道」などと、9月27日までの通常国会中の成立をめざす方針を改めて強調した。

 また、60日ルールの適用や強行採決を念頭に入れた大幅延長ではないかとの批判があることについて、「数の力と批判されるが、選挙の結果を無視しては民主主義が成り立たない」と強調したうえで、「参議院は良識の府だから、しっかりとした有益な議論が行われると確信している」と述べた。

 

 

【集団的自衛権行使をめぐって議論】

 再開された26日の特別委員会での集中審議では、主に安全保障関連2法案をめぐる憲法論争、集団的自衛権行使が可能か否かをめぐって議論となった。

憲法学者や元内閣法制局長官などが関連法案に盛り込まれている集団的自衛権の容認は違憲であり、砂川判決は日本の集団的自衛権が問われた判決ではないなどと批判があがっていることに対し、安倍総理は「憲法解釈を最終的に確定する権能を有する唯一の機関は最高裁」であり、日本の存立を守るために必要な自衛措置を認めた1959年の最高裁砂川事件判決は「明確に必要な自衛の措置は合憲であると認めた」と説明したうえで、「平和安全法制の考え方は砂川判決の考え方に沿ったもので、判決は自衛権の限定容認が合憲である根拠たりうるもの」「憲法との関係で、今回以上の解釈拡大、例えばわが国を守ること以外のための集団的自衛権を行使することができないのは明確」との認識を示した。そして、「必要な自衛の措置とは何か。まさに時々の世界の情勢や安全保障環境を十分に分析しながら、国民を守るために何が中に入るか考え続けなければいけない」とも説明した。

 

 朝鮮半島有事などを近隣諸国の紛争における集団的自衛権行使について、安倍総理は、米軍への武力攻撃が発生しただけで「直ちに集団的自衛権を行使できるわけではない」としたうえで、日本を攻撃するため一緒に行動する米軍の力をあらかじめ落とすため、自衛隊とともに弾道ミサイル防衛にあたっている米軍イージス艦に「ミサイルが発射されれば、これを撃沈した後に攻撃がこちらに向いてくる可能性」がある場合、存立危機事態と認定して集団的自衛権を行使することもあり得るとの見解を示した。

集団的自衛権の行使が想定されるケースについては、典型例が「近隣が紛争状況での米艦の防護」にあることを強調しつつ、その他の具体的事例については「政府が総合的に判断する。世界中で、細かくこういう状況であれば武力行使すると決めている国はない」と述べるにとどめた。中東・ホルムズ海峡での機雷掃海は、海外への自衛隊派遣の例外ケースとし、集団的自衛権の行使における典型例ではないと説明している。

 

 日本を防衛する米艦船防護は、秋山内閣法制局長官(当時)の「日本を防衛する米国の軍艦に対する攻撃が、状況によっては我が国に対する武力攻撃の着手と判断されることがあり得る」との2003年見解を踏まえれば個別的自衛権でできるのではないか(民主党の長島衆議院議員)との指摘に対し、中谷防衛大臣兼安全保障法制担当大臣は「そういう場合もあり得る」(29日の特別委員会答弁)と説明したうえで、その判断基準は「非常にあいまい」であり、集団的自衛権行使を容認する必要性について強調した。

 一方、中東・ホルムズ海峡での機雷掃海が武力行使の新3要件を満たすのかどうかをめぐっては、「他の国も掃海艇を持っており、他に手段があると言えるのではないか」(民主党の後藤衆議院議員)と、海峡封鎖の影響が及ぶ他国が機雷掃海を行う可能性を念頭におけば、必ずしも「日本の存立を全うするために他に手段がない」との状況にはあてはまらないのではとの指摘に、岸田外務大臣は「国民の命や暮らしが危機にさらされているので、他国と同時に対応することが当然」「わが国には高い能力があり、他国が掃海するのをじっと見守ることはあり得ない」と反論した。後藤議員は、岸田大臣の「当然」との発言が積極的な集団的自衛権行使を想起させとして「大変怖い話で、歯止めになっていない」と批判した。

 

与野党は、26日の特別委員会理事会で、7月6日までの安全保障関連2法案に関する審議日程について決定した。1日には柳沢協二・元官房副長官補らを招致しての参考人質疑と一般質疑を、3日には安倍総理と関係閣僚が出席の下で集中審議を開催する。また、6日は沖縄県と埼玉県で参考人質疑を行う。3日には特別委員会での採決目安としている審議時間80時間に到達する見通しで、与党は7月10日にも採決に踏み切りたい考えだ。

 一方、民主党などは「国会会期が95日間延長され、80時間の前提は崩れた。国民理解を深める議論が私たちの役割だから、150時間はかかる」(高木国対委員長)と、早期採決に反対する考えを強調するとともに、強行採決することがないよう与党側を牽制している。

 

 

【報道規制発言問題が浮上】

採決をめぐって与野党攻防が激しくなるなか、安倍総理を支持する自民党の中堅・若手議員の有志37人が出席した25日の「文化芸術懇話会」で、出席議員から報道規制につながる圧力ととられかねない発言やメディア批判が相次いだ。

作家の百田尚樹氏による講演後の質疑応答で、安全保障関連2法案への理解が広がらない現状を念頭に「マスコミを懲らしめるには広告料収入がなくなるのが一番だ。民間人には経団連などに働きかけてもらいたい」(大西英男・衆議院議員)、「スポンサーにならないことが一番こたえることが分かった。子どもたちに悪影響を与えている番組のワースト10を発表し、出している企業を列挙すればいい」(井上貴博・衆議院議員)との発言があった。

また、米軍普天間飛行場の移設問題で政権に批判的な沖縄タイムスと琉球新報を挙げ、「沖縄の特殊なメディア構造をつくったのは戦後保守の堕落だ。沖縄のゆがんだ世論を正しい方向に持っていくために、どのようなアクションを起こすか。左翼勢力に完全に乗っ取られている」(長尾敬・衆議院議員)との発言もあったという。

 

 野党側は、「情報統制は小さなところから始まる。メディアを自由に左右できるというおごりの結果」「自民党のメディアに対する締め付けがあらわになってきた」「安倍政権の本質的な問題」(民主党の岡田代表)、「大変由々しき問題。言論統制をする独裁政党と言わざるを得ない」(維新の党の今井政調会長)、「言論の自由に対する乱暴な挑戦」(共産党の志位委員長)などと一斉に批判した。

26日の特別委員会での一般質疑では、民主党など野党が積極的に取り上げて、「党議員のことに関して責任を感じないのか」(民主党の寺田衆議院議員)などと安倍総理・自民党総裁らの責任を激しく追及した。安倍総理は「事実なら大変遺憾だ」と述べたうえで、「報道の自由は民主主義の根幹であり、当然尊重されなければならない」との姿勢を強調して、「自民党が誤解されることがないようにしっかりと襟を正し、報道の自由は守りながら主張すべきことは主張し、反論には耳を傾け、政策を推進していきたい」と述べた。野党が求める謝罪に対し、「その場にいないのに勝手におわびはできない。発言する人物のみが責任を負うことができる」と明言を避けた。

26日の特別委員会理事会でも、民主党・維新の党・共産党が強く抗議した。自民党の江渡聡徳筆頭理事が陳謝したほか、浜田靖一委員長(自民党)が26日の特別委員会冒頭で「確認したところ、そのような趣旨の発言があったことが分かった。私としては、はなはだ遺憾であると存じている」と発言した。

 

 当初、安倍総理は発言した自民党議員の処分について「党の私的な勉強会だ。発言をもって処罰することがいいのか」(26日の特別委員会答弁)と否定的な見解を示していた。しかし、野党のみならず、政府・与党内からも懸念・批判の声が相次いだことから、関連法案の審議への影響を最小限に抑えたい自民党執行部は、早期の幕引きが必要として関係者処分に踏み切った。谷垣幹事長は、安倍総理と調整のうえ、27日付で懇話会代表の木原稔・自民党青年局長を更迭し1年間の役職停止処分に、問題発言を行った衆議院議員3名を厳重注意処分とした。

これに対し、野党側は「官房副長官や総裁特別補佐も出席しており、青年局長の首を切れば済む話ではない」(民主党の岡田代表)、「トカゲのしっぽ切りでは収まらない」(民主党の福山幹事長代理)などと批判し、今後も厳しく追及する考えを強調した。一方、自民党内では、若手議員を中心に「更迭はやりすぎ」「非公開の勉強会の発言で責任をとらせるのか」などと不満もくすぶり始めている。

 

安倍総理の陳謝などを引き出したい民主党は、29日の特別委員会の一般質疑で、懇話会に出席した加藤勝信官房副長官に照準を合わせて「発言をいさめなかった責任は感じていないのか」(長妻代表代行)や「報道機関を威圧し、沖縄を侮辱する数々の暴言は許し難い」(長島昭久衆議院議員)などと責任を追及した。

加藤官房副長官は「私が出席したのは百田氏の講演部分で、私の記憶では講演でマスコミや沖縄に関する話があったとは認識していない」と、問題発言があった質疑応答に入る前に退席していたと釈明したうえで、「大変残念な事態だった。こうした事態に至らないため、先輩として何かできなかったのかとの思いだ」と述べた。岸田外務大臣も「沖縄の苦難の歴史に思いをめぐらし、負担軽減に汗をかいてきたわが党の先輩方の努力が誤解を受ける事態になったなら、大変残念だ」と答弁した。

 

 

【安全保障関連法案をめぐる与野党攻防や修正協議の行方に注視を】

 早期採決に反対する民主党など野党側は、「総理の鈍感な姿勢、態度が最大の問題」(民主党の枝野幹事長)、「首相の責任は免れない。しっかり謝罪をすべき」(社民党の吉田党首)などと批判を強めている。報道規制発言問題の余波は今後も続きそうで、特別委員会での採決の足かせにもなりかねない情勢だ。

 

関連2法案をめぐっては、維新の党の柿沢幹事長が29日、自民党・公明党・民主党それぞれの幹事長を訪ね、維新の党が取りまとめている安全保障関連2法案の対案に関する協議を申し入れた。維新の党は、(1)武力攻撃に至らないグレーゾーン事態に対処する「領域警備法案」、(2)存立危機事態の概念を外し、集団的自衛権行使を「条約にもとづき、わが国の周辺で日本の国の防衛に資する活動を行う他国軍」への攻撃を排除する場合に限定するなどの「平和安全整備法案」、(3)国連の武力行使容認決議なしには自衛隊派遣できないことなどを盛り込んだ「国際平和協力支援法案」を決定し、7月3日に3党へ詳細説明する予定だ。

 関連法案の採決に向けた環境整備を図りたい与党は、維新の党との修正協議に前向きだ。週内にも修正協議がスタートする見通しだが、修正協議に時間がかかれば、衆議院通過がずれ込む可能性がある。与党関係者は、衆議院通過を遅くとも7月中旬になることを想定しているが、それ以上の遅れは認めない方針でいる。

一方、維新の党が与党に協力するのではないかと警戒する民主党は、本格的な修正協議に慎重で、領域警備法案が維新の党と共同提出も視野に実務者レベルで概要をまとめていた法案だとして、与党と共同提出しないよう牽制している。民主党と維新の党は、安全保障法制の方向性や対応でも大きな隔たりがあるだけに、修正協議が進展しないとみられている。

 

 安全保障関連2法案の衆議院採決をにらみ、与野党の攻防が激化している。当面、安全保障関連法案をめぐる与野党攻防とともに、与党と維新の党、民主党と維新の党それぞれの修正協議の行方と水面下での駆け引きなどについて注視しておいたほうがいいだろう。