政策工房 Public Policy Review

霞が関と永田町でつくられる“政策”“法律”“予算”。 その裏側にどのような問題がひそみ、本当の論点とは何なのか―。 高橋洋一会長、原英史社長はじめとする株式会社政策工房スタッフが、 直面する政策課題のポイント、一般メディアが報じない政策の真相、 国会動向などについての解説レポートを配信中!

July 2015

【安全保障関連法案、参議院で審議入り】

 先週24日、平和安全法制整備法案と国際平和支援法の安全保障関連2法案を審議する「わが国および国際社会の平和安全法制に関する特別委員会」を設置する議決が、参議院本会議で行われ、与党や民主党、維新の党などの賛成多数により決まった。

参議院本会議後に開かれた特別委員会で、鴻池祥肇・元参議院予算委員長(自民党)が互選により同委員長に選出された。筆頭理事には、佐藤正久・自民党国防部会長<与党側>が、北沢俊美・民主党安全保障総合調査会長がそれぞれ就任した。

 特別委員会は委員45人で構成し、与野党の全11会派から委員を出すことになった。自民党が20人(理事5人)、民主党が11人(理事2人)、公明党が4人(理事1人)、維新の党が2人(理事1人)、共産党が2人、その他6会派はそれぞれ1人が割りあてられることになった。

 

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特別委員会の開催日などをめぐって、与野党の協議は平行線のままだ。民主党など野党側は、定例日(月・水・金曜日)が設けられていた衆議院と同様に、参議院でも原則として週3回の定例日を設けて特別委員会を開催すべきと主張している。

これに対し、遅くとも9月前半には関連2法案を採決のうえ成立させたい自民党は、定例日を設けずに連日審議を行っていきたと主張している。参議院送付から60日経過しても関連2法案が採決されない場合には衆議院本会議で3分の2以上の賛成により再可決することができる「60日ルール」(憲法第59条)を適用してでも通常国会中に成立させる方針だが、衆議院で主要野党が欠席するなか採決を行ったことに世論が反発したこともあって、強引な国会運営はでき限り避けるべきとの声が与党内からでている。特別委員会の鴻池委員長も「衆議院の下請けでない審議をしっかりと行い、国民の理解を得ていきたい」と、60日ルールを適用せず、適用可能な9月14日より前に結論を出したいとしている。

 

与党は、参議院で与党にも十分に時間を確保して、政府側から安全保障法制の意義や抑止力を強化する必要性などに重点を置いて、国民に分かりやすい丁寧な説明を引き出していく方針だ。27日の特別委員会理事懇談会での協議で、週4日ペースで特別委員会を開催することを提案した。しかし、審議未了のまま廃案に追い込みたい民主党など野党側が、週3回の定例日を設けることを改めて主張しため、折り合うに至らなかった。

一方、野党側は徹底審議を求め、衆議院の審議時間(116時間30分)と同程度の審議を確保していきたい考えだ。共産党や社民党などと成立阻止で共同歩調をとる民主党は、蓮舫代表代行や福山幹事長代理のほか、大塚耕平・小川勝也・小川敏夫・大野元裕、小西洋之らベテラン勢が委員となって、引き続き集団的自衛権行使の違憲論などを前面に押し出して対峙する構えだ。維新の党は、政府案の対案をとりまとめた小野次郎・党安全保障調査会長を理事に充てたほか、片山虎之助参議院議員会長が委員として論戦に臨む。

 

 

【参議院での与野党論戦がスタート】

 27日、参議院本会議で趣旨説明と安倍総理らに対する質疑を行い、関連2法案は参議院で審議入りした。その後に開かれた特別委員会では、関連2法案の趣旨説明が行われた。本会議では、まず中谷防衛大臣兼安全保障法制担当大臣が「わが国を取り巻く安全保障環境の変化を踏まえ、米国軍への後方支援活動など、わが国が実施する措置を定める必要がある」と関連2法案の趣旨説明を行った。そのうえで、自民党と公明党、民主党、維新の党、共産党の5党が質問に立ち、安倍総理らがこれに答弁した。

 

安倍総理は「北朝鮮は日本の大半を射程に入れる数百発の弾道ミサイルを配備し核開発をしている。東シナ海では中国公船が領海侵入を繰り返し、南シナ海では埋め立てや施設建設を一方的に強行している」「わが国の安全保障環境は厳しさを増している。どの国も一国のみで自国を守れない」などと安全保障環境の変化などを指摘したうえで、「政府はあらゆる事態を想定し、切れ目のない備えを行う責任がある。平和安全法制はそのために必要不可欠」「憲法9条の範囲内で、国民の命と平和な暮らしを守り抜くために不可欠な法案」「国際法上、完全に合法で正当性がある。憲法の制約のもと、諸外国と比べ極めて抑制的な内容」などと、関連2法案の必要性を改めて強調した。

 

これに対し、民主党や共産党は、集団的自衛権行使の限定容認を盛り込んだ関連2法案は憲法違反であり廃案にすべきと主張した。北沢俊美・民主党安全保障総合調査会長は「憲法違反の法律案と、立憲主義を理解しない総理」「憲法解釈の変更という抜け道を選び、覇道をまい進している。憲法の法的安定性は大きく損なわれている」「あなたに未来の民意を独占する資格はない」「国民も政府説明のまやかしに気づいた」などと厳しく批判した。共産党の市田忠義副委員長も「クーデターともいうべき法体系の破壊」「集団的自衛権が戦争を未然に防ぐというのは欺瞞」などと批判した。

 維新の党の小野次郎安全保障調査会長は、衆議院採決を「強行採決」だとして政府・与党の姿勢批判で民主党や共産党と足並みをそろえつつ、集団的自衛権を行使できる日本の存立が脅かされる存立危機事態について「国際法の通説では自国防衛は個別的自衛権、他国防衛は集団的自衛権。自国防衛のための集団的自衛権の行使という考え方は、自己矛盾に陥っている」と訴えた。

 

こうした集団的自衛権行使の限定容認は違憲との批判に、安倍総理は、必要最小限度の自衛措置に言及した1959年の最高裁砂川事件判決を挙げて「判決と軌を一にする政府の憲法解釈の基本的論理の範囲内のものであり、憲法に合致したもの。法的安定性は確保されている」「法体系の破壊との指摘は当たらない」などと反論したうえで、自国への攻撃に反撃する個別的自衛権行使のみを認めた現行法について「もはやわが国の存立を全うするための対応はできない」とし、「存立危機事態における武力行使は、他国に対して発生した武力攻撃に対処するもので、国際法上は集団的自衛権が根拠となる場合がある」と述べた。

 

 集団的自衛権行使の具体例としてきた中東・ホルムズ海峡の機雷掃海がイラン核問題で関係国が合意したなかで現実的ではなくなっているとの指摘に対し、安倍総理は「特定の国がホルムズ海峡に機雷をまくことを想定しているわけではない。あらゆる事態に万全の備えを整えることが重要だ」と答弁した。

また、自衛隊の後方支援で「兵站活動を行えば相手の攻撃対象となることは明らかで、攻撃を受ければ応戦し戦闘になる。他国民を殺すことになれば日本国民も憎悪の対象となる」(共産党の市田副委員長)との批判には「後方支援は武力の行使に当たらない活動。日本国民が憎悪の対象となったり、国民が脅威にさらされたりするとの指摘はあたらない」と反論した。このほか、政府が改正案10本を一括した平和安全法制整備法案として提出したことが問題視されていることについて「一つの体系を形づくっており、10本にばらして出し直すなど再提出する考えはない」と明言した。

 

 

【礒崎総理補佐官の発言も焦点に】

 28日には特別委員会で、安倍総理出席のもと総括質疑が行われた。特別委員会での質疑時間の配分をめぐって、質疑時間を参議院の議席割合に応じて4対6程度にしたい与党側と、与党の質疑時間を増やすことに否定的な野党側との駆け引きが続いている。総括的質疑は、与党が野党に配慮して、与野党の時間配分を3対7で行うことになった。29日に特別委員会で総括的質疑を、30日に集中審議を開催する予定で、参議院の特別委員会を舞台に与野党論戦が本格化する。

 

安倍総理は、中国の強引な海洋進出、北朝鮮の弾道ミサイル・核開発などに警戒感を示したうえで、「あらゆる事態に対処するための十分な準備を行うため、一日も早い平和安全法制の整備が不可欠。それによって切れ目のない対応ができるようになる」「切れ目のない平和安全法制を整備し、日米同盟が揺るぎないものであることを内外に示すことで、日本の平和と安全を守り抜いていく」と、関連2法案の速やかな成立に改めて意欲を示した。そして、「野党も対案、独自案を提出してもらい、できる限り一致点を見いだす努力を重ねることが、与野党を問わず政治家に課せられた責務」と、民主党など野党に建設的な対応を求めた。

 中谷大臣は、中国による南シナ海の大規模な岩礁埋め立てについて「中国は軍事利用を公言しており、軍事施設を建設する可能性がある。わが国の安全保障への影響は否定できない」と説明した。また、東シナ海でのガス田開発について「レーダー配備やヘリ展開のため利用する可能性が考えられる」とし、「情報収集に支障を来さない範囲で公表できるものは公表していく」と述べた。

 

 民主党など野党は、憲法解釈を変更して集団的自衛権行使を限定容認したことの是非や関連2法案の憲法9条との整合性、他国軍に対する後方支援を拡大し戦闘現場により近い場所で支援が可能となることで自衛隊のリスクが拡大することなどについて追及した。福山哲郎・民主党幹事長代理は、1972年見解の基本論理を維持しつつ見解あてはめを変更したとする政府側の答弁に「これが法的安定性を損なうことではないか」「ご都合主義のあてはめの論理」などと非難した。

 また、歴代法制局長官が過去の国会答弁で否定したことを紹介し、「戦後70年の法的安定性を崩す。憲法を改正して国民に堂々と国際環境の変化を訴えるべきだ」と追及した。横畠内閣法制局長官が衆議院で行った集団的自衛権行使に関する答弁は全部無効と断じ、「解釈変更を許したことは万死に値する。(横畠長官は)辞任した方がいい」とも述べた。

 

 さらに、礒崎総理補佐官が26日、関連2法案を違憲と主張している野党への反論として「我が国を守るために必要な措置かどうかを問題にすべきで、法的安定性は関係ない」と、野党が憲法解釈を変更した場合に法的安定性が保たれる必要は必ずしもないとの認識を示したことをめぐって、野党側は「法的安定性を軽視するような発言だ」と批判した。

安倍総理は「法的安定性を確保することは当然」としつつも、礒崎発言が平和安全法制を議論するうえで、憲法との関係とともに、わが国を取り巻く安全保障環境の変化を十分に踏まえる必要があるとの認識を示したもの」だったと説明した。民主党などが礒崎総理補佐官の更迭を求めているが、安倍総理は「菅官房長官から注意している」と述べるにとどめた。菅官房長官は「誤解される発言は慎まなければならない」としつつ、礒崎発言は「法的安定性を否定したものではない」「法制は憲法9条の範囲内で、法的安定性に何の問題もない」と説明し、野党が求める辞任要求は「全く当たらない」との考えを示した。

 

 野党側が27日の特別委員会理事懇談会で礒崎発言を問題として取り上げたため、鴻池委員長は、自民党理事に発言の真意などを礒崎総理補佐官から聴取のうえ、28日に報告するよう求めた。自民党は、礒崎総理補佐官が「私の発言で国民ならびに委員会運営にご迷惑をおかけし、心から反省をしおわび申し上げる」と謝罪するとともに、「いずれにしても法案の内容について十分議論することが大事だ」と述べたと、28日の特別委員会理事会で報告した。民主党は「余計なところから余計な言葉が出てきたから注意しているのに、審議の内容にまで言及するのは言語道断」「反省の色がない」などと批判して、反発を招いた。鴻池委員長は「もう一度、礒崎氏に注意を与えるように」と自民党理事に再度求めた。

 政府・自民党は、礒崎総理補佐官の陳謝で早期に沈静化を図りたい考えだ。しかし、「政府の説明を根底からひっくり返すようなこと。安倍総理の本音を代弁するか勘ぐりたくなる。徹底的に追及していきたい」(民主党の高木国会対策委員長)、「その時々で中身や解釈が変わる恣意的な法律があっていいわけがない。更迭した方がいい」(民主の榛葉参議院国対委員長)、「安倍総理がオウンゴールを繰り返す応援団と心中するならそれでいいが、そうでないなら任命権者として考えた方がいい」(維新の党の柿沢幹事長)などと批判を強めている。礒崎総理補佐官の参考人招致を民主党が要求するなど、野党各党は、引き続き国会で追及する構えだ。

 

 

【参議院選挙制度改革関連法案が成立】

 議員1人あたりの人口格差(1票の格差)是正に向けた参議院選挙区制度改革をめぐっては、23日、自民党と野党4会派(維新の党・次世代の党・日本を元気にする会・新党改革)が「10増10減」案を柱とする公職選挙法改正案を参議院に共同提出した。

同法案は、有権者数の少ない「鳥取・島根」「徳島・高知」を合区(定数4議席から定数2議席に)するほか、5選挙区(北海道、東京、愛知、兵庫、福岡)で定数を2議席ずつ増やす一方、3選挙区(宮城、新潟、長野)で定数を2議席ずつ減らす。合区される選挙区に県選挙管理委員会で構成する参議院合同選管を新たに設置するほか、選挙運動では特例を設けて選挙事務所数や新聞広告回数などを一般の選挙区の2倍分を認めるとしている。

また、大規模な合区に自民党が反対したことから、今回の改正案を抜本改革までのつなぎと位置付け、改正案付則に「2019年参院選に向け、選挙区間の議員1人あたりの人口の格差の是正等を考慮しつつ、選挙制度の抜本的な見直しについて引き続き検討し、必ず結論を得る」と明記された。

 

 24日、10増10減案は、公明党・民主党・無所属クラブ・生活の党が共同提出した、20選挙区を合区して10選挙区に再編し、その分を1票の価値が低い6選挙区(兵庫県や東京都など)に振り分ける公職選挙法改正案とともに参議院で審議入りした。参議院選挙制度改革を早期に実現させる必要があるとの判断から、参議院政治倫理・選挙制度特別委員会の審査を省略して参議院本会議に上程された。

参議院本会議では、公選法改正2案の趣旨説明と与野党による質疑が行われた。維新の党の片山参議院議員会長は、10増10減案の提出理由について「都道府県単位の選挙制度が地方の意見を国政に反映させる重要な役割を果たしたことを十分踏まえつつ、憲法が求める投票価値の平等の要請に応える」と説明した。自民党の鶴保参議院政策審議会長は、将来的に憲法改正で都道府県単位の選挙区に戻す必要性にも言及した。

一方、合区などにより最大格差1.95倍に縮小させる20県10合区案を国会提出した公明党と民主党は、10増10減案により昨年11月の最高裁判決で違憲状態とされた2013年参議院選挙の最大格差4.77倍から2.97倍に縮小するものの、直近の住民基本台帳人口(今年1月1日現在)では最大格差3倍を超えるとして、「憲法が求める投票価値の平等に応えるには不十分」(公明党の西田参議院幹事長)、「2倍を超える格差は許容されない」(民主党の羽田参議院幹事長)などと批判した。

参議院本会議での質疑後に行われた採決では、10増10減案が自民党と野党4会派の賛成多数により可決され、衆議院に送付された。10増10減案が先に可決されたことから、20県10合区案は採決されなかった。

 

衆議院では、28日、政治倫理・公選法改正特別委員会で10増10減案が審議・採決され、その後、衆議院本会議で自民党や維新の党などの賛成多数により可決、成立となった。合区に不満を示していた合区対象4県選出の4閣僚は、都道府県単位の選挙制度の維持を訴えつつも、10増10減案を憲法の要請に応える緊急措置と位置付けて賛成の立場を表明した。一方、1票の格差を2倍未満にすることを主張してきた公明党や民主党は、憲法の要請に応えていないとして、衆議院でも反対票を投じた。

 最大多数の議席を占める自民党が参議院選挙制度改革で後手に回り続けたことで、自民党と公明党が異なる採決となったことや、合区対象4県(鳥取、島根、徳島、高知)選出の自民党議員が本会議場を退席して棄権または欠席する事態を招いた。自民党と公明党の幹部らは、連立関係に影響しないと述べているものの、公明党内には自民党への不信感や不満が渦巻いている。また、自民党内で合区対象県の所属議員らを中心に合区への反発が出てもなお、自民党執行部は合区に反対する自民党議員を納得させるだけの具体策を提示することができず、党議拘束をかけて採決に踏み切った。

自民党執行部は、衆参両院で造反した所属議員の処分を見送る方針でいる。谷垣幹事長は、合区対象4県選出の自民党議員などが合区により候補が出せなくなる県の候補に対する救済策を早期に示すよう求めていることを踏まえ、「裏切るようなことはない」と、近く具体案を示すことを約束している。ただ、執行部が示す救済策によって、来年夏の参議院選挙を前に自民党内で再び紛糾する恐れもあり、どのように決着をつけるかが課題となりそうだ。

 

 

【引き続き与野党攻防の動向に注意を】

与野党は、幹事長・書記局長会談を27日に開き、与党が衆議院で安全保障関連2法案の採決に踏み切ったことで野党が反発し、空転のまま休止していた衆議院審議を28日に再開することで合意した。民主党の枝野幹事長などから「採決には納得できない。今後こうしたことがないよう円満な国会運営に努めてほしい」などの要求があったのに対し、自民党の谷垣幹事長は「できれば各党参加で衆議院採決をしたかった。参議院の議論が実りあるものになるようにしたい」と釈明した。

 

与野党の幹事長・書記局長会談では、野党の要求により、衆議院予算委員会で安倍総理が新国立競技場の建設計画を白紙撤回したことなどに関する集中審議を行うことでも合意した。野党側は「下村文部科学大臣の責任はかなり明確だ。事実関係によっては安倍総理の責任問題もあり得る」(民主党の枝野幹事長)として、総工費の膨張や、設計見直しの判断が遅れたことなどを追及するとともに、責任の所在を明らかにしていく方針だ。

これまで新国立競技場建設計画を担当してきた久保文部科学省スポーツ・青少年局長が8月4日付での辞職することになったことに関し、野党側は建設計画をめぐる混乱を受けた事実上の更迭だとして、「問題を放置した下村大臣の責任は大。役所のどなたかに責任をなすりつけることは決してあってはならない」(民主党の高木国対委員長)、「トカゲのしっぽ切りで済むと思うなら安倍政権の感覚が狂っている」(維新の党の柿沢幹事長)などと批判している。意思決定した下村大臣の責任を追及して辞任要求を強めたいようだ。

集中審議の開催日程は今後、与野党で協議することになっているが、与党は、8月7日の衆議院予算委員会で、参議院予算委員会でもその同時期に開催する方向で調整するとみられている。

 

安全保障関連2法案が参議院で審議入りしたが、冒頭から与野党が全面対決する様相を呈している。また、派遣労働者の柔軟な働き方を認めることを目的に、企業の派遣受け入れ期間の最長3年という上限規制を撤廃(一部の専門業務を除く)する一方、派遣労働者一人ひとりの派遣期間の上限は原則3年に制限して、派遣会社に3年経過した後に派遣先での直接雇用の依頼や、新たな派遣先の提供などの雇用安定措置を義務づける「労働者派遣法改正案」も、通常国会中の成立は確実だが、廃案を求める民主党など反発や、日本年金機構の個人情報流出問題の影響などにより、参議院厚生労働委員会での審議が進まず、採決見通しの立たない状況が続いている。

 

こうした与野党対決法案の国会審議のほかにも、新国立競技場見直し問題や環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)交渉、戦後70年談話、原発再稼働問題など重要な政策課題が目白押しだ。また、政府が24日の閣議で来年度予算の概算要求基準を了解したことを受け、来年度予算編成にむけた作業も本格化する。9月には自民党総裁選や安倍総理らの外交日程も控えており、総裁選後の内閣改造も取り沙汰されている。

このようななか、新たな問題が浮上し、攻勢を強める野党の要求に応じて党首討論や集中審議などが追加されれば、通常国会の会期末(9月27日)まで期間があるとはいえ、より窮屈な審議日程となっていくことは間違いない。引き続き国会運営や与野党対決法案をめぐる与野党攻防などに注意しながら、国会論戦をウォッチしていくことが重要だ。
 

【与党、安全保障関連法案を単独採決】

先週15日、衆議院我が国及び国際社会の平和安全法制に関する特別委員会で、平和安全法制整備法案と国際平和支援法の安全保障関連2法案の採決が行われ、与野党攻防のヤマ場を迎えた。

 

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関連2法案を9月27日までの通常国会中に成立させたい与党が採決に踏みきったのは、参議院送付から60日経過しても関連2法案が採決されない場合には衆議院本会議で3分の2以上の賛成により再可決することができる「60日ルール」(憲法第59条)を適用する可能性を残しておきたかったからだ。また、特別委員会での審議時間116時間30分を要しても議論が堂々めぐりとなっているうえ、与野党勢力が拮抗する参議院での審議入りに時間を要することが避けられないだけに、参議院の審議時間を可能な限り確保しておきたいとの事情もある。

さらに、対決姿勢を強める野党だけでなく、石破地方創生担当大臣が「国民の理解が進んできたと言い切る自信があまりない」と述べるなど、政府内から国民理解が進んでいないことを認める声も上がっている。それだけに、衆議院での審議を早々に切り上げて安倍内閣の求心力低下を最小限にとどめたいとの思惑もあったようだ。

 

特別委員会の採決に先立って行われた締めくくり総括質疑では、安倍総理が、北朝鮮の核・ミサイル開発や中国の東シナ海や南シナ海への強引な進出など日本を取り巻く安全保障環境の変化を挙げて「国際情勢は大きく変わり、もはやどの国も一国のみで自国を守ることはできない」「新しい事態になる中、武力行使の新3要件の下で集団的自衛権の行使ができると判断」「切れ目のない対応を可能とする法制が必要」と、法整備の意義を強調した。

そして、「残念ながら、まだ国民の理解は進んでいる状況ではないのも事実」と認めたうえで、「必要な自衛の措置とは何かを考え抜く責任は我々にある。責任から逃れることは、国民の命や幸せな暮らしを守り抜く責任を放棄するのと同じだ。批判もあるが、批判に耳を傾けつつ、確固たる信念があればしっかり政策を前に進めていく必要がある」「これからさらに国民の理解が進むように努力を重ねていきたい」と採決の妥当性を訴えた。

一方、野党側は「本当に国民への説明を尽くしたのか。国民の理解が十分に得られていないなか、強行採決は到底認められない。質疑を終局しないよう強く抗議する」(民主党の長妻代表代行)、「議論していない論点は山ほどある。審議を打ち切らないでほしい」(民主党の大串博志・衆議院議員)、「国民に充実した審議ではないと解釈されてもしようがない」(維新の党の下地幹郎・衆議院議員)などと批判し、関連2法案の採決方針の撤回と審議継続を安倍総理に要求した。

 

 質疑終了後、野党側が提出した質疑継続を求める動議を与党の反対多数で否決、与党が提出した審議打ち切りの動議を賛成多数により可決された。これを受け、浜田靖一委員長(自民党)が質疑終局を宣言すると、民主党議員たちが離席し、「強行採決反対」「自民党感じ悪いよね」などと記したプラカードを一斉に掲げて「採決は認められない」「審議不十分」などと声を張り上げるなどの抗議行動に出た。

委員会室に「強行採決やめろ」「数の横暴」などと怒号が飛び交うなか、まず維新の党が単独で国会提出した対案2案の採決が行われ、与党などの賛成少数により否決された。民主党と維新の党が共同提案した「領域警備法案」は、採決が見送られた。その後、維新の党が退席、民主党議員が採決を阻止しようと委員長席を取り囲んで浜田委員長の議事進行に激しく抵抗するなか、政府提出の関連2法案の採決に移り、与党の賛成多数により可決となった。民主党と共産党は、採決に加わらなかった。

 

 

【衆議院通過で空転、国会正常化へ】

特別委員会での可決を受け、自民党の佐藤国対委員長は「批判も承知のうえで採決に至ったが、現場の議論はどう見ても出尽くした感がここ数日あった。決して私どもに瑕疵があるとは考えていない」と述べた。浜田委員長は「少々質疑と答弁がかみ合わないところもあったのは事実」としつつ、「100時間を超える議論をした。与党として責任を持ってやった」と強調した。そのうえで、個人的見解として「わかりやすくするためにも、法律10本を束ねたのはいかがなものかなと思っている」と述べた。

これに対し、野党側は「国民の声に耳を傾けず採決するのは政権政党として恥ずかしい。撤回して審議をやり直すべき」「違憲の疑いが極めて濃い法案が強行採決されたことに強く抗議する」(民主党の岡田代表)、「まだ審議が足りない。国民の理解が足りない。ひどい強行採決だ」(維新の党の松野代表)、「国民多数の反対を踏みにじって採決を強行した。国民主権の蹂躙だ」(共産党の志位委員長)、「民意を踏みにじる暴挙」(社民党の吉田党首)などと一斉に反発した。

 

 次世代の党を除く野党が「議論が尽くされていない」などと強く反発するなか、15日の衆議院議院運営委員会理事会で、林幹雄委員長(自民党)が職権で16日の衆議院本会議で関連2法案の採決を行うことを決定した。16日の衆議院本会議では、浜田委員長による審議結果の報告後、自民党と公明党が賛成の立場で、民主党・維新の党・共産党がそれぞれ反対の立場で、それぞれ意見表明する討論が行われた。

民主党の岡田代表は「戦後70年間、歴代内閣と国会が積み上げてきた憲法解釈を一内閣の独断で変更したことは大きな間違い」「強行採決は戦後日本の民主主義にとって大きな汚点だ。いま首相がなすべきことは、政府案が国民の理解を得ることができなかったことを率直に認め、直ちに撤回することだ。それしか道はない」と主張し、法案撤回を求めた。維新の党の松野代表も「国民の理解が得られていないなか審議を打ち切り、強行採決を行ったことは言語道断の暴挙」「専守防衛の原則を守ってきた自衛隊のあり方を根本的に変える」などと批判した。

 その後の採決では、野党5党が退席・欠席したまま、関連2法案が与党と次世代の党などの賛成多数により可決し衆議院を通過、参議院に送付された。強行採決に抗議の意思を示すため、民主党・共産党・社民党は討論終了後に、維新の党が独自に国会提出した対案が否決された後に退席したほか、生活の党が本会議を欠席して、政府案の採決に応じなかった。

 

 衆議院通過を受け、安倍総理は「日本を取り巻く安全保障環境は厳しさを増している。国民の命を守り、戦争を未然に防ぐために絶対に必要な法案だ。国会での議論の場は参議院に移るが、良識の府ならではの深い議論を進めていきたい」「国民の理解が深まっていくように党を挙げて努力をしていきたい。丁寧な説明に力を入れていきたい」などと成立への意欲を示した。また、菅官房長官は、民主党など野党が強行採決と批判していることについて「野党全党が本会議場に入って、自ら政府案に討論した。これは強行採決ではない。採決するのが政党としての責務だ」と反論し、採決の正当性を訴えた。

 関連2法案の衆議院通過で、60日ルールが9月14日以降に適用可能となり、通常国会中の成立は確実な情勢となっている。政府・与党は、参議院で早期に審議入りし、丁寧な説明を通じて国民への理解浸透をより一層図っていきたい考えだが、衆議院の採決に反発する野党側は衆参両院すべての審議に応じず、国会が空転した。

 

自民党と民主党は、7月上旬から参議院国対委員長会談を断続的に開催して特別委員会設置について協議してきた。しかし、委員定数や設置時期などで対立し、与野党は折り合うことができずにいた。17日になって特別委員会設置が決まり、22日の会談で民主党の要求を受けいれて委員数を45人とし、少数野党を含む全11会派で構成することで合意した。

早ければ24日の参議院本会議で特別委員会の設置が議決され、27日の参議院本会議で関連2法案の趣旨説明と質疑を行って審議入りする見通しだ。ただ、与党は、衆議院での質疑時間における与野党比率が1対9程度と、早期成立を急ぐあまり野党側に攻撃機会を与えてすぎたとの反省から、与党の質疑時間の割合を増やしたいとしている。一方、野党側は与党の質疑時間を増やすことに否定的だ。むしろ、衆議院と同程度の審議時間を参議院でも確保するよう、与党側に求めるべきだとの声も上がっている。当面、審議日程や時間配分などをめぐる与野党攻防が展開されていきそうだ。

 

なお、審議拒否で足並みを揃える野党側も、今後の対応をめぐって温度差が生じている。関連2法案の成立阻止をめざす民主党や共産党などは、野党共闘で徹底抗戦を呼び掛けているが、維新の党は、与党との修正協議再開を念頭に、衆議院で否決された対案を手直ししたうえで、参議院に改めて提出する方針だ。

民主党も21日、対案となる周辺事態法や国連平和維持活動(PKO)協力法の改正案取りまとめを了承して法案化作業を急ぐ。民主党案では、日本周辺地域で日本の平和と安全に重要な影響を与える周辺事態が起きた場合には自衛隊が非戦闘員の退避を支援・援護できる「退避民保護措置」を新設するとともに、一定区域内での監視や避難民を乗せた船舶の援護などを可能にする。また、武器使用権限の拡大や、弾薬などを除く物品提供や訓練業務、宿泊提供などの後方支援策も追加する。ただ、あくまで政府案の廃案をめざす民主党執行部は「成立に手を貸すようなことはあり得ない」(民主党の安住国対委員長代理)と対案の国会提出に慎重で、今後の対応が不透明なままとなっている。

 

 

【参議院選挙制度改革関連法案、参議院通過へ】

 民主党の榛葉参議院国対委員長が議員1人あたりの人口格差(1票の格差)是正策に向けた参議院選挙区制度改革への速やかな対応を、国会正常化の条件の一つとして求めていることもあって、与党側は、公職選挙法改正案の審議入りを優先することで、空転している国会の正常化を図りたい考えだ。参議院選挙制度改革の国会審議の状況もにらみながら、安全保障関連2法案の審議入りを調整していきたいとしている。

 

自民党と野党4会派(維新の党・次世代の党・日本を元気にする会・新党改革)は、21日、有権者数の少ない「鳥取・島根」「徳島・高知」を合区(定数4議席から定数2議席に)するほか、5選挙区(北海道、東京、愛知、兵庫、福岡)で定数を2議席ずつ増やす一方、3選挙区(宮城、新潟、長野)で定数を2議席ずつ減らす「10増10減」案を柱とする公職選挙法改正案で最終合意した。改正案付則に「2019年参院選に向け、選挙区間の議員1人あたりの人口の格差の是正等を考慮しつつ、選挙制度の抜本的な見直しについて引き続き検討し、必ず結論を得る」と明記されることとなった。

自民党内では、合区対象県選出の国会議員らを中心に反対していたが、22日、安倍総理が最小限の合区を容認したことを受け、党総務会の了承を取り付けて党内手続きを終えた。自民党と野党4会派は、23日に参議院に共同提出する。

 

10増10減案を柱とする公職選挙法改正案は、24日にも参議院本会議で賛成多数により可決され衆議院に送付、週明けにも成立する。一方、公明党・民主党が共同提出した、隣接県のうち人口の少ない地域を合区することで20選挙区を10選挙区に再編し、その分を1票の価値が低い6選挙区(兵庫県や東京都など)に振り分けて最大格差を1.953倍に抑える公職選挙法改正案は、賛成少数により否決される見通しだ。

 

 

【国会運営をめぐる駆け引きに注意を】

与党が15日の特別委員会で採決に踏み切ったことで、野党側が「このような乱暴な採決を行った以上、参院ではこの問題以外の委員会でも審議に応じるわけにはいかない」(民主党の榛葉参議院国対委員長)と反発して、16日に予定されていた参議院の厚生労働委員会と農林水産委員会が流会となった。

これにより、派遣労働者の柔軟な働き方を認めることを目的に、企業の派遣受け入れ期間の最長3年という上限規制を撤廃(一部の専門業務を除く)する一方、派遣労働者一人ひとりの派遣期間の上限は原則3年に制限して、派遣会社に3年経過した後に派遣先での直接雇用の依頼や、新たな派遣先の提供などの雇用安定措置を義務づける「労働者派遣法改正案」と、全国農業協同組合中央会(JA全中)の中央会制度を廃止や地域農協の経営状態などを監査してきた監査・指導権限を撤廃し、法施行から3年半後にはJA全中を特別認可法人から一般社団法人に完全移行することなどを柱とする「農協法等改正案」の成立がずれ込むこととなった。

 

参議院選挙制度改革に一定のメドが立つとともに、通常国会最大の焦点となっている安全保障関連2法案の審議入りも道筋がついた。また、民主党が国会正常化の一環として求めた、安倍総理が2020年東京オリンピック・パラリンピックのメイン会場となる新国立競技場の建設計画を白紙撤回したことなどに関する集中審議の開催も、自民党が受け入れた。これにより、近く集中審議が開催される予定だ。

民主党など野党は、これまで「間に合わないから変更できない」と答弁していた安倍総理や、事業主体である日本スポーツ振興センターを所管する下村文部科学大臣の責任などを追及していく方針でいる。

 

これにより、国会が正常化されることとなったが、新国立競技場見直し問題や7月末に閣僚会合が開かれる環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)交渉、戦後70年談話、原発再稼働問題などをめぐって、野党側が集中審議の開催を求めて攻勢を強めていくとみられているだけに、与党は当面、厳しいかじ取りが迫られそうだ。

ひとまず、国会運営をめぐる与野党の駆け引きに注意しながら、重要法案それぞれの審議動向をみていくことが大切だろう。
 

【高橋洋一・株式会社政策工房 代表取締役会長】


ギリシャ問題を理解するには、国際政治・経済の標準理論を学ぶといい。

長期的な視点からは、ユーロの問題やEU・NATOの関係から、ユーロ離脱・EU残留という道が見えてくる(詳しくは、76日付け「国民投票実施でも混乱は必至!ギリシャ経済危機「唯一の解決策」を教えよう」 http://gendai.ismedia.jp/articles/-/44049 参照)。

 

短期的には、緊縮財政でギリシャが再建できるかという問題である

ギリシャ危機はこれまでに何回もある。これまで200年間で100年くらいの間はデフォルト期間であるので、危機は珍しいものでない。最近でも、2010年あたりから財政危機になって、年金のカットや付加価値税増税などの緊縮政策がとられた。

 

ただし、この緊縮策は成功したとはいえない。たしかに、財政赤字は減少したが、経済成長率はマイナス成長が続き、経済の落ち込みは酷くなった。2000年代の後半には、失業率は一桁であったが、2010年に入ると二桁となって、最近では25%程度にも高くなっている。


0716高橋さん①
0716高橋さん②
0716

ちなみに、この現象は、ギリシャを例にして日本に対して財政再建を説く財政再建至上主義者にとって強烈な皮肉になる。そうした人たちは、財務省の口車に乗って、財政再建しないと、金利が上昇し経済成長を阻害するといってきた。逆をいえば、緊縮策をとれば、財政の信認が増して、金利が下がり経済成長するというのが、財務省の財政赤字はケシカランというロジックだ。

 

ところが、前回の危機のギリシャでは、緊縮策をしたら、経済成長しなくなって、失業率が高くなったのだ。財務省がいってきたこととまったく逆の結果である。ギリシャは、緊縮策をとる前のマクロ経済パフォーマンスのほうが、失業率をとってみてもわかるが、はるかによかった。

 

今回も、ギリシャは、年金制度の改革や付加価値税の税率引き上げなどを含む緊縮策を示している。数年間の財政危機の時と同じ流れである。このままで行けば、ギリシャか前回の緊縮策の失敗を再び繰り返すことになるだろう。無理な緊縮策が、経済成長を阻害すると、財政は経済の一部門なので、最終的には財政再建もできないのではないか。何によりも、経済がしっかりして、失業が少なく、その後に財政がよくなればいい。「国破れて財政あり」というのでは、国民にとって本末転倒である。

 

【委員会採決の前提となる中央公聴会が開催】

 今週13日、平和安全法制整備法案と国際平和支援法の安全保障関連2法案を審議する衆議院我が国及び国際社会の平和安全法制に関する特別委員会では、憲法や政治学、外交・安全保障の専門家5人を参考人招致して、委員会採決の前提となる中央公聴会を開催した。

 これまでの委員会論議や意見陳述と同様、与党推薦の参考人が軍事的脅威に対処という現実的な安全保障の観点から関連2法案への賛同を示したのに対し、野党推薦の参考人が憲法論などの理論的な原則論の観点から関連2法案に反対・慎重な意見陳述となった。

 

 *衆参両院の本会議や委員会での審議模様は、以下のページからご覧になれます。

衆議院インターネット審議中継参議院インターネット審議中継

 

 元外交官の岡本行夫氏(自民党推薦)は、海外で外国軍隊が日本人を救出した事例を紹介して、「各国の善意と犠牲で国民の生命、財産を守ってもらい、それでよしとしてきた日本のあり方を転換する歴史的な分岐点」と評価した。また、シーレーン(海上交通路)防衛強化の必要性を挙げて「膨大な海域で日本人の命と船舶を守ることは日本単独では無理」であることや、国際紛争やテロ組織の勢力拡大などを挙げて「一国で生命と財産を守り抜くことは不可能」としたうえで、「世界が助け合っているときにわれ関せずの態度を取り続けるのは、日本人を守る負担を他国に押しつけることを意味する」「平和安全法制の大きな意義は、外敵の暴力から身を守り合う仲間のコミュニティーに日本も参加することだ」などと主張した。

村田晃嗣・同志社大学学長(公明党推薦)も「日米同盟の強化は理にかなったこと」と述べるとともに、「法案は憲法上の問題を含んでいるが、同時に安全保障上の問題でもある。安全保障の専門家からなる学界で意見を問われれば、多くの安全保障専門家は今回の法案にかなり肯定的な回答をするのではないか。学者は、憲法学者だけではない」と、関連法案を支持した。

 

一方、野党推薦の有識者は「専守防衛を逸脱し憲法違反だ。あまりにも空想的な希望的観測の上に法制が構築されている」「日本が他国の戦争に巻き込まれずに済んだのは日米同盟のおかげではなく、憲法9条で集団的自衛権行使を禁止していたからだ」(山口二郎・法政大学教授)、「法案は歯止めのない集団的自衛権行使につながりかねず、憲法9条に反する」「このような欠陥法案を成立させることは政治の責任の放棄だ」(小沢隆一・東京慈恵会医科大学教授)と批判した。

木村草太・首都大学東京准教授は「(集団的自衛権の行使容認は)日本への攻撃の着手がない段階で武力行使を根拠付けるもので、明白に違憲」と指摘したうえで、「法律家の大半が一致しており、裁判所も同様の見解をとる可能性は高い」と指摘した。そして、「自衛のための必要最小限の武力行使と認められるのは、あくまで個別的自衛権の行使に限られる」「集団的自衛権行使が政策的に必要ならば、憲法改正の手続きを踏み、国民の支持を得ればいい」とも主張した。

 

 

【与党・維新の党による修正協議がスタート】

維新の党は、8日、政府提出の関連法案の対案として、「平和安全整備法案」と「国際平和協力支援法案」を単独で国会提出した。一方、武力攻撃に至らないグレーゾーン事態に対処するため、武装集団による不法行為が起きた場合に本土からの距離などの事情で対処に支障を生じかねない区域を領域警備区域として指定して、自衛隊が領域警備行動できるとした「領域警備法案」の共同提出をめぐっては、民主党と維新の党との間で迷走した。

6日の民主党・維新の党の政調会長会談ではで大筋合意していたが、7日の幹事長会談ではあらかじめ採決日程を決めて与党側と交渉するか否かをめぐって対立し、共同提出が白紙となっていた。ところが、8日に岡田・民主党代表と松野・維新の党代表の会談で、内容が類似する法案をバラバラに提出するのはよくないとの認識で一致し、再び共同提出で合意した。党首会談では、与党に十分な審議を求めることや、参議院送付から60日経過しても関連法案が採決されない場合には衆議院本会議で3分の2以上の賛成により再可決することが可能となる「60日ルール」(憲法59条)の適用を阻止することで一致した。これを受け、維新の党と民主党は、領域警備法案を共同提出するに至った。

 

維新の党などが国会提出した3対案は、8日の特別委員会で趣旨説明を行い、10日から政府案と並行して審議された。10日に安倍総理出席のもと行われた特別委員会での集中審議で、安倍総理は、維新の党案が「自国防衛」と「日米の防衛協力の強化」を重視している点を挙げて、「我々と全く考え方が同じだ。日本の防衛のために警備をしている米国艦船を日本が守る、というのも同じだ」と一定の評価を示した。

その一方で、安倍総理は、グレーゾーン事態への対処について「いかなる不法行為にも切れ目のない十分な対応を確保するため、海上警備行動、治安出動などの発令手続きの迅速化を閣議決定した」と強調したうえで、「現下の安全保障環境では十分対応できる体制を整えており、現時点では新たな法整備が必要だとは考えていない」と、維新の党と民主党が共同提出した領域警備法案に否定的見解を示した。中谷防衛大臣兼安全保障法制担当大臣も「警察や海保の対応能力の向上など、必要な取り組みを強化していく」と、現行法のもとで対応していく考えを示した。

 

また、維新の党案が存立危機事態の概念ではなく、「条約にもとづき、わが国周辺の地域においてわが国の防衛のために活動している外国の軍隊に対する武力攻撃が発生し、これによりわが国に対する外部からの武力攻撃が発生する明白な危険があると認められるに至った事態(武力攻撃危機事態)」にのみ自衛隊の武力行使ができるとしている点について、安倍総理は「国際法的には集団的自衛権だ」と指摘した。

8日の特別委員会で質疑に立った公明党の北側副代表は、日本周辺有事で日本防衛のために活動する米軍艦船が攻撃を受けた場合を挙げて「個別的自衛権で対処できるという立場があるが、国際法上は集団的自衛権を根拠にしなければいけない」と批判。自民党の小野寺衆議院議員も「日本が独善的に個別的自衛権と強弁すれば、国際社会から先制攻撃をする国だと評価される」「政府案と同様に、限定的な集団的自衛権を認めたものではないのか」と追及した。これに対し、維新の党は「軍事技術の発展により個別的自衛権と集団的自衛権が重なり合う部分が出てきており、他国への攻撃が次の瞬間、わが国への攻撃に転化、波及し得る」(柿沢幹事長)と、集団的自衛権か個別的自衛権かの表現にとらわれない「自衛権の再定義」によるべきと反論した。そのうえで、「国際法上は集団的自衛権と評価されることを否定しない」(小沢鋭仁・衆議院議員)、「個別的自衛権か集団的自衛権にあたるかは、国際法の世界で問題になるかもしれない」(柿沢幹事長)との認識も示した。

 

 維新の党が対案を国会提出したことを受け、安倍総理は「80時間を大幅に超える政府案の審議を通じ議論が深まったからこそ、維新案が出てきたのだと思う。十分な審議がなされたという判断をいただければ、決める時には決めていただきたい」「今日の審議で相当理解が深まったのではないか」と、採決環境が整いつつあるとの認識を示した。

自民党と公明党、維新の党の修正協議は、9日からスタートしている。強行採決に踏み切ったとの印象を回避したい与党は、特別委員会での採決に向け、維新の党の協力を取り付けたい考えだが、政府案と維新の党案では集団的自衛権行使の限定容認をめぐって隔たりがあるだけに、修正の余地があるとする領域警備法案や、関連法案の附則や付帯決議に維新の党の主張を盛り込む以外の受け入れは原則しないとしている。一方、維新の党は、「つまみ食いのような形では認められない」「本質的な部分に入らずに与党側と合意することはない」(柿沢幹事長)と、維新の党案の大幅な受入れを求める立場を崩していない。

 

 修正協議では、維新の党が「行使容認の要件もあいまいで拡大解釈の余地が大きい」と政府案を批判したのに対し、公明党が維新案を「国際法上は集団的自衛権の行使とみなされる」と反論するなど、互いに譲らなかった。協議後、自民党の高村副総裁は「どこに隔たりがあるかをお互いに理解し、出発点に立った」としつつも、「画然とした差があるから、埋めるのは大変だ」と、政府案修正に否定的な見解を改めて示した。

 2度目の修正協議が14日に行われたが、遅くとも来週までに衆議院を通過させたい与党が「日程的に法案を修正するのは難しい」と述べたことで、3党は現時点での歩み寄りが困難との認識で一致、関連2法案の参議院送付後も修正協議を継続することを確認した。

 

 

【15日に委員会採決、16日にも衆議院通過へ】

採決日程をめぐる与野党の駆け引きは激しさを増している。与党は、維新の党との修正協議の行方にかかわらず、15日に特別委員会で締めくくりの質疑のうえ採決、16日に衆議院通過・参議院に送付させる方針だ。衆議院では委員会審議を優先し、政府案と維新の党案の同時採決に持ち込みたいとしている。

 

 一方、与党と協議を進める維新の党も含めた野党側は、60日ルールの適用をできないよう、衆議院通過の事実上の期限となる7月24日までは衆議院の採決を認めず、徹底審議を与党側に要求する姿勢を崩していない。民主党の岡田代表による呼び掛けに、維新の党や共産党、社民党、生活の党の党首が応じ、10日に野党党首会談を行った。野党の5党首は、採決環境は整っていないとの認識で一致し、与党が特別委員会で強引に関連2法案の採決に踏み切った場合には結束して反対することを確認した。

野党側は、「到底採決なんかできる状況じゃない。各地で安保法制止めろというのが大きなうねりになっている」(民主党の枝野幹事長)、「今週中に強行しようとしているのは言語道断だ。憲法違反の法案はいくら審議しても憲法違反で合憲に変わることはない」(共産党の山下書記局長)などと、与党側が強行採決に踏み切らないよう強く牽制する声をあげている。

 

 14日の特別委員会で安倍総理出席のもとで一般質疑が行われたが、民主党と共産党は委員会審議を原則週3回とした与野党の取り決めから逸脱しており、15日の委員会採決を前提とした審議には応じられないと反発し、委員会に欠席した。その後に開かれた特別委員会理事会で、与党は、15日の特別委員会で、安倍総理出席のもと締めくくりの質疑を行ったうえで採決を行うよう正式に提案した。民主党と共産党は反対し、維新の党は事前折衝の段階で自民党が譲らなかったことから抗議の意思を示すべく欠席した。このことから、浜田靖一委員長(自民党)は、職権により15日の特別委員会で締めくくりの質疑を行ったうえで採決することを特別委員会理事会で決定した。

維新の党の松野代表は、大島衆議院議長に「15日採決の声が上がっていることは全く理解しがたい」として、政府案と維新の党案の並行審議の続行と委員会採決の延期を申し入れた。大島議長は、自民党の谷垣幹事長ら与党幹部と断続的に協議したが、与党方針は変わらず、最終的に大島議長が与党の判断に任せるとして15日の委員会採決を容認した。

民主党と維新の党、共産党は、15日の委員会採決に欠席または退席する方針だが、与党単独の賛成多数により関連2法案が可決される見通しとなっている。与党は、16日の衆議院本会議でも、与党単独で関連2法案を可決させ参議院に送付する構えだ。

 

 

【参議院選挙制度改革、合区導入を前提に進展】

議員1人あたりの人口格差(1票の格差)是正策に向けた参議院選挙区制度改革をめぐっては、参議院自民党が9日、維新の党・次世代の党・日本を元気にする会・新党改革が主張した、有権者数の少ない「鳥取・島根」「徳島・高知」を合区(定数4議席から定数2議席に)するほか、5選挙区(北海道、東京、愛知、兵庫、福岡)で定数を2議席ずつ増やす一方、3選挙区(宮城、新潟、長野)で定数を2議席ずつ減らす「10増10減」案を受け入れて合意するに至った。5党が合意した10増10減案では、参議院の定数は242議席が維持され、昨年11月に最高裁が「違憲状態」と指摘した2013年参院選の最大格差4.77倍(2010年の国勢調査人口確定値)から2.97倍に縮まる。

 

 当初、参議院自民党は、隣り合う県の人口の少ない地域から選出された自民党所属議員らの反発への配慮や、自民党が人口の少ない県に強固な支持基盤を持っていることなどを理由に、現行の都道府県単位の選挙区を可能な限り維持する「6増6減」案を主張してきた。これに対し、最大格差4.31倍の6増6減案は定数是正にすぎず、「抜本改革にならない」「不誠実で、与党の責任を果たしていない」などと、合区に賛成する野党各党のみならず、連立パートナーである公明党からも強い反発を招いた。

 その自民党が合区容認に傾いたのは、公明党が独自案を発表し、民主党が丸のみするかたちで合意したからだ。与野党各党の意見の隔たりが埋まらないまま、選挙制度改革検討会(議長:山崎参議院議長)での全党協議が5月29日に打ち切りとなったことで、自民党と公明党は合意案取りまとめをめざして協議入りした。しかし、合区による格差2倍以内をめざすべきと主張する公明党に対し、自民党が格差2倍以内とするのは難しいとの認識を示して、与党協議は平行線のまま決裂した。これを受け、公明党は、参議院の定数を維持したまま、隣接県のうち人口の少ない地域を合区することで20選挙区を10選挙区に再編し、その分を1票の価値が低い6選挙区(兵庫県や東京都など)に振り分けて最大格差を1.953倍に抑える案を発表して野党各党に賛同を呼び掛けた。そして、7月2日、公明党案を受け入れることで公明党と民主党が合意、生活の党などもこれに賛同した。

 

 自民党内には、合区対象となる選挙区の議員などを中心に「人口減という理由だけで切り捨てるのか」「数合わせに過ぎない」「都道府県が地域の意思を集約する単位として重要」「合区容認は地方軽視。地方創生を掲げる自民党が賛成していいのか」「自民党の強い選挙区を減らすことになりかねない」などと反対・慎重論が根強くある一方、公明党と民主党の接近に焦りを募らせる参議院自民党の執行部は、最低限の合区容認が必要との認識を強める。

 煮え切らない自民党に、維新の党など野党4党が10増10減案を受け入れるか否かを早期に結論を出すよう求めた。10増10減案を受け入れない場合には公明党・民主党案に賛同する可能性も示唆する。追い詰められた自民党は、ようやく重い腰を上げ、合区がもっとも少なくて済む野党4党の「10増10減」案の受け入れを決めた。参議院での安全保障関連2法案の審議がスタートすれば、安全保障論議一色となり参議院選挙制度改革案の取りまとめがさらに困難になりかねないだけに、その前に決着を図るべきとの判断もあったようだ。

 

 

【10増10減案への批判、自民党内からも】

参議院選挙制度改革案の一本化をめざして、10日、自民党・公明党・民主党・維新の党・共産党の参議院幹事長が会談を行った。自民党の伊達参議院幹事長が、「10増10減」案を提示して協力と理解を求めたが、格差2倍以内をめざすべきと主張する公明党と民主党は、格差2.974倍までしか縮小せず、住民基本台帳人口(今年1月1日現在)では3.02倍となる「10増10減」案は不十分だと批判した。そして、公明党と民主党が求める合区のさらなる上積みに対し、自民党は難色を示し続けた。13日も5党の参議院幹事長会談で協議したものの、自民党と公明党・民主党それぞれ主張を譲らず、改革案の一本化を事実上断念することとなった。

公明党と民主党は、14日、生活の党や無所属クラブとともに、隣接する20選挙区を合区して10選挙区にすることを柱とする公選法改正案を参議院に共同提出した。一方、参議院自民党と野党4党も、今週にも10増10減案を盛り込んだ公職選挙法改正案を共同提出するべく作業を進めている。これにより、与党の自民党と公明党が別々の改正案を提出し、審議・採決でも対峙する異例の事態となる見通しだ。

 

一方、自民党も一枚岩になりきれていない。9日の参議院議員総会で溝手参議院議員会長に対応を一任することを了承したものの、合区受け入れに反対する自民党所属議員が反発しており、今後さらに合区対象が拡大するのではと懸念する声もひろがっている。

合区対象の4県選出の閣僚は、「議論が成熟したとは思えず、納得していない」(石破地方創生担当大臣)、「地方自治の大前提である都道府県制を壊す。反対は譲れない」(竹下復興担当大臣)、「都道府県が一番明確な行政単位で、長年の文化の積み重ねたアイデンティティーがある。それを無視して、単に数字だけでやるのはいかがなものか」(山口消費者政策担当大臣)、「都道府県は固有の文化圏、生活圏であり、少なくとも都道府県から1名、代表者を出すべきだ。合区には賛成しかねる」(中谷防衛大臣)などと反対を表明した。

 

合区対象の自民党議員16人(衆・参)も、合区導入の見直しを求める要望書を谷垣幹事長に提出した。合区導入する条件として、関連法案の採決時に党議拘束を外すことや、参議院比例代表に「選択的拘束名簿式」を導入して合区対象選挙区の候補者を比例名簿の上位で処遇することなどを求めた。

さらに、抜本的改革案として10選挙区の5合区案などを提唱して、党内からの反発で更迭された脇・前参議院幹事長は、10増10減案は違憲の可能性があるとして「自民党の中にも反対する人がいることを示す」として、10日、溝手参議院会長に会派離脱届を提出した。脇氏は、公明党・民主党案に賛成する可能性も示唆している。

 

自民党と野党4党で参議院の過半数(122議席)を超えることから、関連法案を参議院の委員会質疑を省略して17日の参議院本会議で採決、衆議院に送付して7月末にも「10増10減」の公職選挙法改正案を成立させる見通しだ。ただ、関連法案の採決時に自民党議員が造反する可能性もあるとして、自民党執行部は、党議拘束をかけて引き締めを図っている。合区導入をめぐって、ひと波乱起こってもおかしくない状況が続きそうだ。

 

 

【安全保障関連法案をめぐる与野党動向に注意を】

国会では、8日の参議院本会議で、待機児童問題の解消に向けて首都圏の都市公園内で保育所の設置解禁や、地域の医師不足対策として外国人医師の参入規制緩和、国の認定を受けた事業者が家事代行する従業員として外国人を雇えるようにするなど、地域限定で規制を緩和する国家戦略特区で実施する新たな規制緩和策を盛り込んだ「改正国家戦略特区法」が可決・成立した。

 

また、与党・維新の党・次世代の党が衆議院に共同提出した「国会議事堂、内閣総理大臣官邸その他の国の重要な施設等及び外国公館等の周辺地域の上空における小型無人機の飛行の禁止に関する法律案」が、8日の衆議院内閣委員会で民主党提案の修正が施されたのち可決、9日の衆議院本会議で与野党の賛成多数により可決し参議院に送付された。飛行禁止空域の対象としている重要施設に原子力事業所や危機管理機能・業務を担う行政機関などが新たに加えたほか、規制対象の機体に無線で操縦する模型飛行機やパラグライダー、ハンググライダーなども含めることとなった。

 一方、政府は、14日の閣議で、小型無人機の飛行ルールなどを定める「航空法改正案」を決定した。改正案は、人口密度1平方キロあたり4000人を目安とする人口密集地域での飛行や夜間飛行、危険物輸送・物品投下などを原則として禁止するとともに、空港周辺や人口密集地で飛行させるには、操縦者の研修や機体の管理などを通じて安全確保のための対策を講じた企業・団体に国土交通大臣が許可することなどを柱としている。政府・与党は、両法案とも通常国会中に成立させる方針でいる。

 

 このほか、8日の参議院本会議で、派遣労働者の柔軟な働き方を認めることを目的に、企業の派遣受け入れ期間の最長3年という上限規制を撤廃(一部の専門業務を除く)する一方、派遣労働者一人ひとりの派遣期間の上限は原則3年に制限して、派遣会社に3年経過した後に派遣先での直接雇用の依頼や、新たな派遣先の提供などの雇用安定措置を義務づける「労働者派遣法改正案」の審議が行われた。ただ、参議院厚生労働委員会では、野党側が日本年金機構の個人情報流出問題への追及を続けている。日本年金機構の水島理事長の説明が二転三転したことで野党側が反発し、予定されていた改正案の趣旨説明は先送りとなった。安全保障関連2法案が近く参議院に送付されることもあり、与党側は、労働者派遣法改正案の参院審議が進まないことに懸念を強めている。

 

安全保障関連2法案の衆議院通過をめぐって、与野党対立がますます激化していくだろう。場合によっては国会が空転することもあり、他の法案審議にも影響を与えかねない。それだけに、当面、安全保障関連2法案をめぐる与野党動向に注意することが大切だ。
 

【安全保障関連法案をめぐって参考人質疑】

先週7月1日、平和安全法制整備法案と国際平和支援法の安全保障関連2法案を審議する衆議院我が国及び国際社会の平和安全法制に関する特別委員会では、識者5人を招致して、参考人質疑を行った。また、今週6日には、地方(沖縄県、埼玉県)での参考人質疑が行われた。

 

*衆参両院の本会議や委員会での審議模様は、以下のページからご覧になれます。

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1日に開かれた特別委員会での参考人質疑では、与党推薦の参考人が「安全保障環境は大きく変動している。自衛隊がさまざまな脅威に切れ目なく活動することをねらいに、活動、基盤となる制度を整えることで抑止力の向上が図られる」(折木良一・元統合幕僚長)、「(集団的自衛権行使の限定容認は)憲法に反する部分はない」「日本国の安全を確立しようとする点で高く評価する」(小川和久・静岡県立大特任教授)と、安全保障法制の整備を支持する考えを表明した。

一方、野党推薦の参考人は「わが国の存立を脅かされるとは納得できない。存立危機事態の概念に無理がある。説明できない概念をつくったとの印象」「軍隊を対峙させることによる抑止が、逆に緊張を高める要因にもなる」(柳沢協二・元官房副長官補)、「自衛隊が中東地域で自衛隊が米軍の後方支援などを行えば、日本もイスラム教の敵と認識され、テロの標的になる可能性がある」(ジャーナリストの鳥越俊太郎氏)などと批判した。

 また、伊勢崎賢治・東京外国語大大学院教授(野党推薦)は、国連平和維持活動(PKO)で武器使用を迫られる可能性が高まっているとの認識を示したうえで、「最終的に国家が全責任を取るという法整備なしに、自衛隊員が国防以外に命を懸ける大義は生まれない」との認識を示した。

 

 1日と3日に行われた委員会審議では、中東・ホルムズ海峡での機雷掃海や、朝鮮半島有事などにおいて、集団的自衛権の行使で対処すべきか否かなどについて議論となった。

岸田外務大臣は、他国の掃海艇で機雷掃海が可能なら他に手段が存在し、武力行使の新3要件の「他に適当な手段がない」を満たさないのではないかとの民主党の主張に対し、他国が実施している掃海活動は他の適当な手段にはあたらないとの認識を示したうえで、「機雷掃海は多くの国の協力が必要で、わが国が他国と協力して掃海にあたることも当然考えられる」(1日、特別委員会の答弁)と、他国軍隊が主体的に掃海活動に当たっている場合でも自衛隊を派遣して協力することができるとの見解を示した。

また、個別的自衛権で日本を防衛できるとの野党側の主張について、岸田大臣は「他国からの要請も同意もない、わが国に対する武力攻撃もないなかで(個別的自衛権を発動すれば)武力攻撃をしたと認定されることにつながりかねない」(1日の答弁)、「他国が同様の主張をすることを認めざるを得なくなる」「進んで自衛権乱用の恐れを惹起すべきではない」(3日の答弁)などと否定的な見解を示した。日本防衛のため活動している米艦船が公海上で攻撃を受けたケースでも、個別的自衛権で対応できるのは極めて例外的な場合であり、基本的に集団的自衛権で対処すべきだとの認識を示した。

 

安倍総理も3日の特別委員会で、「存立危機事態は必ず(武力攻撃)切迫事態の後に生じるという関係にあるものではない」「公海上にある米艦艇に対する武力攻撃が発生したといって、それだけで我が国に対する武力攻撃の発生と認定できるわけではない。攻撃の着手と認定するのは難しい。一般的には集団的自衛権の行使とみなされる」と説明したうえで、「個別的自衛権の対応に限界があるので(武力行使の)新3要件を満たす場合は、武力行使して米国艦艇を守る必要がある」と、改めて集団的自衛権を行使する必要性を訴えた。

 朝鮮半島有事などを近隣諸国の紛争での集団的自衛権の行使が可能か否かについては、民主党が「北朝鮮が日本に弾道ミサイルを発射する兆候がなければ、存立危機事態を認定できないのではないか」(後藤衆議院議員)と追及したのに対し、安倍総理は「ミサイルだけでなく、潜水艇で特殊部隊を日本に派遣し、首都で大規模なテロを行うことも考え得る」(3日の答弁)と、存立危機事態に該当しうるとの認識を示した。

 

 

【修正協議をめぐって与野党の駆け引きが活発に】

また、野党側は、安倍総理を支持する自民党の中堅・若手議員出席した「文化芸術懇話会」で、出席議員から報道規制につながる圧力ととられかねない発言やメディア批判が相次いだ問題について、引き続き安倍総理・自民党総裁の認識などを質した。

 こうした野党の追及に安倍総理は、3日に開かれた特別委員会の総括的集中質疑で「大変遺憾だ。非常識な発言、国民の信頼を大きく損なう発言であり、看過できない」「報道、言論の自由を軽視する発言で、沖縄県民の思いに寄り添って負担軽減、沖縄振興に力を尽くしてきたわが党の努力を無に帰するかのごとき発言だ」と厳しく批判したうえで、「自民党本部で行われた勉強会であり、最終的な責任は当然、総裁としての私にある。谷垣幹事長と相談のうえ、関係者をただちに処分した」と述べ、「党を率いる総裁として国民に心からおわびしたい。沖縄県民の気持ちも傷つけたとすれば申し訳ない」と陳謝した。

 

 安倍総理が野党の謝罪要求を委員会審議で回避し続けたにもかかわらず、3日になって総裁としての責任を認めて陳謝したのは、沖縄での参考人質疑で自民党への批判が集中することを回避し、早期に衆議院特別委員会での採決環境を整えたいとの思惑があるからだ。与党は、委員会採決の目安としていた80時間を超えたことで、早ければ15日にも委員会採決し、16日の衆議院通過をめざしている。

8日に一般質疑を、10日に安倍総理が出席しての集中審議を行い、委員会採決の前提となる中央公聴会を13日に開催する日程を、3日の特別委員会で与党と維新の党の賛成多数により議決した。これにより、衆議院での採決日程をめぐって、与野党の攻防が激化している。早期採決に踏み切る考えを示している自民党に対し、民主党は「国会審議をすればするほど反対が広がるなかで、民意を無視する姿勢は民主制の本旨に反する」「歴代自民党政権が確立した憲法解釈を国民の圧倒的反対の中で変更することは立憲主義に明確に反する」(枝野幹事長)などと強く批判している。民主党とともに廃案をめざす共産党だけでなく、自民党が協力を期待する維新の党も「採決は時期尚早」として審議継続を求める。

6日に開催された自民党・民主党の参議院国対委員長会談でも、吉田参議院国対委員長(自民党)が、関連2法案の衆議院通過後を想定して参議院の特別委員会設置を提案したが、榛葉参議院国対委員長(民主党)は「法案を理解していない国民は8割を超える。我々が受け皿をつくることは到底できない」と、提案を拒否した。

 

 また、修正協議をめぐっても、与党と民主党、維新の党の三つ巴の駆け引きを繰りひろげている。維新の党は、2日の臨時執行役員会で、関連2法案の対案を正式決定した。3日には自民党、公明党、民主党それぞれに以下の維新の党3案を示し、修正協議入りを要請した。

○武力攻撃に至らないグレーゾーン事態に対処するため、武装集団による不法行為が起きた場合に本土からの距離などの事情で対処に支障を生じかねない区域を「領域警備区域」として指定して、自衛隊が領域警備行動できるとした「領域警備法案」、

○存立危機事態の概念ではなく、「条約にもとづき、わが国周辺の地域においてわが国の防衛のために活動している外国の軍隊に対する武力攻撃が発生し、これによりわが国に対する外部からの武力攻撃が発生する明白な危険があると認められるに至った事態」(武力攻撃危機事態)にのみ個別的自衛権を拡大して自衛隊の武力行使ができることなどを柱とした「平和安全整備法案」、

○自衛隊の活動範囲を非戦闘地域の公海とその上空に限定し、国連総会か安全保障理事会の決議なしには自衛隊派遣できないことなどを盛り込んだ「国際平和協力支援法案」

 

 維新の党の協力を引き出して強行採決に踏み切ったとの印象を回避したい与党は、維新の党との協議入りに前向きだ。ただ、集団的自衛権行使の限定容認や領域警備法案などをめぐって、政府案と維新の党案の隔たりは大きい。このことから、自民党内では、「国会に提出して審議するのが本筋」(自民党の高村副総裁)など、維新の党との修正協議よりも国会審議を優先すべきとの考えが出ている。対案が国会提出されれば、政府案との並行審議・委員会での同時採決となり、委員会採決に維新の党も出席させざるをえなくなる可能性があるからだ。

これに対し、維新の党は、7日の執行役員会で対案の衆議院提出を正式決定し、8日に提出する方針を決めた。早ければ10日の特別委員会から政府案と並行して審議される見通しだが、維新の党は「7月末までは政府案と並行審議してほしい」(柿沢幹事長)、「1回か2回の審議だけなら、とても採決に応じられるものではない」(松野代表)と、十分な審議時間の確保を与党側に求める考えだ。

参議院送付から60日経過しても関連法案が採決されない場合には衆議院本会議で3分の2以上の賛成により再可決することが可能となる「60日ルール」(憲法59条)が適用できる事実上の期限が6月24日で、政府・与党がその適用ができないよう牽制する思惑がある。また、十分な審議が行われない場合や、与党が今月中旬に強行採決に含みきった場合には、「乱暴な国会運営や国民の理解が得られないことをすれば審議拒否の選択肢もある」(松野代表)と採決拒否も辞さない構えもみせている。

 

 一方、民主党と維新の党は、6日、維新の党との実務者協議で概要をとりまとめた「領域警備法案」について共同提出で大筋合意していたが、7日に行われた民主党と維新の党の幹事長会談で、同法案を共同提出しないこととなった。民主党は、維新の党と共同提出することにより、与党と協議入りを進める維新の党を牽制するとともに、強行採決や60日ルール適用の阻止に向けて維新の党と共同戦線ができると判断していた。しかし、民主党と維新の党は、安全保障法制の方向性や対応で大きな隔たりもあるため、正式に合意するには至らなかったようだ。

 

 

【ドローン飛行規制関連法案が審議入り】

 4月に首相官邸の屋上ヘリポートで小型無人機「ドローン」がみつかった事件を受け、7月1日、与党・維新の党・次世代の党が衆議院に共同提出した「国会議事堂、内閣総理大臣官邸その他の国の重要な施設等及び外国公館等の周辺地域の上空における小型無人機の飛行の禁止に関する法律案」が衆議院内閣委員会に付託された。

 同法案は、「重要施設に対する危険を未然に防止し、国政の中枢機能の維持」を図ることを目的に、皇居や赤坂御用地、官邸・中央省庁、国会・議長公邸・議員会館、最高裁判所、外務大臣が指定する各国在日大使館、総務大臣が指定する政党事務所など重要施設周辺の上空とその周囲300メートルで小型無人機の飛行を原則禁止する内容となっている。防衛省など危機管理を担う重要施設や、国宝・重要文化財などについては、法施行後、政府内で速やかに検討のうえ必要性が認められれば対象施設に指定するよう求めている。

飛行禁止の対象施設や敷地の上空で無断に飛行させた場合、違反者に「1年以下の懲役または50万円以下の罰金」を科す一方、対象施設の周辺約300メートルの地域での無断飛行については、まず警察官が管理者に退去命令を出し、それでも従わない場合には飛行の妨害や破壊などの対応が取れるようにするとともに、処罰対象にすることができるとしている。

 

 ドローンのあり方をめぐっては、政府内でも立法作業が進められている。2日、航空法の規制対象外となっている小型無人機のあり方について検討している政府の関係省庁連絡会議(議長:杉田官房副長官)は、小型無人機の運用ルール骨子を策定した。

骨子には、(1)空港周辺や住宅密集地、人混みでの飛行は、原則として安全確保の体制をとった事業者に限定するほか、(2)日中以外の飛行禁止、(3)機体の性能や操縦者の技量などを確保するための制度の具体化、(4)事故に備えた保険の加入などが盛り込まれた。今後、空港周辺や住宅密集地などの上空や夜間の飛行を禁じることを柱とする航空法改正案を通常国会に提出し、今秋の臨時国会には、小型無人機の具体的な規制策を盛り込んだ「航空法改正案」を国会提出する方向で検討するとしている。

 

2日の自民党国土交通部会では、国土交通省が通常国会に提出する予定の「航空法改正案」を示して了承を得た。政府は、近く関連法案を閣議決定のうえ、通常国会に提出する。

改正案では、無人航空機を「構造上、人が乗ることができないもののうち、遠隔操作または自動操縦により飛行させることができるもの」ものと定義し、ドローンや模型飛行機などほぼ全てを規制対象とした。具体的な飛行禁止空域は国土交通省令により指定するとしているが、飛行禁止とする人口密集地域については人口密度1平方キロ当たり4000人の区域を目安とする方向で調整している。

また、飛行可能な地域での飛行にあたっては「日の出から日没までの間に飛ばす」「無人機や周囲の状況を目視で常時監視する」「祭礼や縁日、展示会など人が多く集まる場所で飛ばさない」「危険物や爆発物を搭載しない」「物を投下しない」などのルールが明記された。違反者には50万円以下の罰金を科す。ただし、公的機関が事故・災害時の捜索や救助などに使用する場合はルール適用の対象外としている。このほか、操縦者の研修や機体の管理などを通じて安全確保のための対策を講じた企業・団体には、国が一括して許可を出すという。

 

小型無人機の具体的な規制策をめぐっては、12日に開かれる連絡会議から議論を本格化させるようだ。いまのところ、操縦者の身元把握をしやすくするとともに、所有者に一定の知識や技能を要求することで事故防止につなげるねらいから、20~30キログラム以上の小型無人機の購入者に機体登録を課すことや、航続距離5キロメートル以上の高性能ドローンの操縦に無線従事者の国家資格取得を義務付けるなどが浮上している。また、重要施設への侵入を探知する装置や、探知・捕獲する警備用の機材の研究・導入なども必要ではないかとの声も挙がっている。

今後、国内での使用実態や海外の規制状況、産業分野での活用期待や技術開発の進展具合なども踏まえつつ、有識者などの意見を聴いて制度化を検討していくようだ。

 

 

【対決法案をめぐる与野党攻防に注意を】

安全保障関連2法案の採決日程をめぐって、与野党攻防が本格化している。与党・維新の党による修正協議の行方が今後の焦点となっているが、一筋縄にはいかない可能性が高い。自民党と公明党は、維新の党との修正協議に一定時間を割く方針で、修正協議に伴って7月下旬に採決・衆議院通過がずれ込む可能性も視野に入れている。ただ、60日ルールを適用する可能性も残しておきたいのが本音で、事実上の期限となる7月24日までに結論が出せるかが一つのポイントになるだろう。

 

 このほか、派遣労働者の柔軟な働き方を認めることを目的に、企業の派遣受け入れ期間の最長3年という上限規制を撤廃(一部の専門業務を除く)する一方、派遣労働者一人ひとりの派遣期間の上限は原則3年に制限して、派遣会社に3年経過した後に派遣先での直接雇用の依頼や、新たな派遣先の提供などの雇用安定措置を義務づける「労働者派遣法改正案」が、8日の参議院本会議で趣旨説明と質疑を行い、審議入りすることとなっている。

政府・与党は8月初旬の成立をめざしているが、成立阻止を掲げる民主党など野党が反発しているほか、日本年金機構の個人情報流出問題で相次ぐ不手際が続出していることもあって、審議日程に不透明感が増している。野党による個人情報流出問題の追及が優先され続けば、成立がお盆明け以降にずれ込む可能性もあるようだ。

また、与党は、柔軟な働き方を広げて労働生産性を高めるねらいから高度プロフェッショナル制度創設や企画業務型裁量労働制の対象を新商品開発・立案や課題解決型営業などへの拡大、年5日の有給休暇の取得ができるよう企業に義務づける過労対策などを柱とする「労働基準法等の一部を改正する法律案」の審議入りを模索し続けているが、民主党や共産党など野党が労働者派遣法改正案以上に反対しているだけに、衆議院での審議入りのメドはたっていない。安倍総理が成長戦略の目玉に位置付けているだけに、政府側は通常国会中の成立をめざして早期の審議入りを求めているが、自民党内では、安全保障関連2法案の審議にも影響しかねないとして、早期の審議入りに慎重となっている。

 

 与野党が対決する安全保障法制や労働関連法制をめぐる与野党攻防が続いている。今後の国会運営や法案審議にも影響を及ぼしかねないだけに、当面、これらの与野党攻防に注意しながら国会審議をみていくことが大切だ。

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