政策工房 Public Policy Review

霞が関と永田町でつくられる“政策”“法律”“予算”。 その裏側にどのような問題がひそみ、本当の論点とは何なのか―。 高橋洋一会長、原英史社長はじめとする株式会社政策工房スタッフが、 直面する政策課題のポイント、一般メディアが報じない政策の真相、 国会動向などについての解説レポートを配信中!

June 2015

【個人情報流出問題が優先焦点に】

先週3日と5日、日本年金機構がサイバー攻撃を受け、約125万件の個人情報が流出した問題について、衆議院厚生労働委員会は集中審議を行った。9日には、参議院院厚生労働委員会でも集中審議を行われた。日本年金機構によると、保険加入者の4情報(基礎年金番号・氏名・住所・生年月日)の流出は約5.2万件で、対象者数は少なくとも約1.6万人<年金受給者約9000人、被保険者約7000人>となる見通しだという。

日本年金機構の水島理事長は、集中審議で「現場のセキュリティー対策が十分ではなかった」と情報管理の甘さを認めた。「さらに拡大する懸念がある」との認識を示したうえで、組織内の情報管理のあり方を見直し、再発防止策としてネットワーク上の共有フォルダでの保管や個人情報が入ったパソコン端末からのインターネット接続の禁止を検討する方針も表明した。情報が流出した加入者の基礎年金番号の変更については「3カ月余りの間で何とか完了させたい」と述べた。

*衆参両院の本会議や委員会での審議模様は、以下のページからご覧になれます。

  衆議院インターネット審議中継参議院インターネット審議中継

また、監督官庁である厚生労働省の塩崎大臣は、個人情報の流出を防ぐことができなかったことについて、日本年金機構を監督する立場から陳謝したうえで、「今後の年金支払いへの影響が絶対出ないよう指示」するとともに、「年金を守ることが最優先だ。情報管理のあり方を格段に強化しなければならない」と再発防止策に全力で取り組む意向を示した。

塩崎大臣は、4日、独立した立場から個人情報流出問題を検証する「日本年金機構不正アクセス事案検証委員会」(委員長:甲斐中辰夫・元最高裁判事)を設置した。8日には、第1回会合が開催され、水島理事長らによる経緯説明が行われた。今後、有識者6人の委員が日本年金機構の職員へのヒアリングなどを実施し、日本年金機構や厚生労働省の管理体制の問題点を中心に原因究明し、速やかに再発防止策をまとめ、厚生労働大臣に提言するようだ。

 

 集中審議では、日本年金機構で不正アクセスが確認された5月8日以降の日本年金機構や厚生労働省の対応などへの批判や追及が集中した。野党は、厚生労働省の対応の遅れや情報管理に対する認識の甘さ、危機感の欠如などが被害を拡大させたとして、塩崎大臣の責任追及もしている。厚生労働省への報告は日本年金機構が警視庁に捜査依頼した19日まで担当係長に留まっており、塩崎大臣が一報を受けたのは警視庁が流出事実を日本年金機構に連絡した5月28日、概要報告を受けたのは翌29日となっていたからだ。安倍総理に秘書官を通じて概要が伝わったのも、29日だった。

野党側は、「警察に捜査まで依頼しているのに、担当課長も審議官も局長も大臣も知らない。あまりにもずさんだ」(民主党の山井衆議院議員)などと批判し、個人情報の流出を把握した時点で公表して詐欺などに注意するよう喚起すべきだったと指摘した。これに対し、塩崎大臣らは「内容が分からないまま発表すれば国民に不安を与える」(3日の集中審議)ことから、5月31日まで流出状況の全容把握に努めたうえで6月1日に公表したと説明した。ただ、発覚から2週間以上も大臣らに伝わっていなかったことについて、塩崎大臣は「報告があがってなかったことも事実。反省すべき所は反省しないといけない」(5日の記者会見)と、初動対応に問題があったことを認めた。そして、報告の遅れなどを検証委員会で検証してもらったうえで、情報伝達などで新たなルールを設ける考えを強調した。

 

政府・与党は、問題の長期化を警戒して火消しに躍起だ。菅官房長官は「第1次安倍政権の時に年金問題で国民にご迷惑を掛けたことを踏まえて再出発したはずの新たな年金機構に、職員の守秘義務違反やセキュリティーに対する認識の甘さ、職員のモラルが問われる問題が生じている」「やるべきことをやっていない責任は免れない」と厳しく批判し、「組織として抜本的見直しをする必要がある。二度とこうしたことがないよう、厳しく対応するのは当然のことだ」(5日の記者会見)と述べ、検証委員会の結果を踏まえて関係職員の処分などを検討していく考えを示した。

 

 一方、野党側は真相究明と再発防止を含め、徹底審議を求めている。民主党は、第1次安倍政権時の消えた年金問題に続く「漏れた年金問題」と位置付け、衆参両院の厚生労働委員会に留まらず、国会で徹底追及の構えをみせている。「政府全体としての情報セキュリティーは官房長官の責任だ」(枝野幹事長)として、日本年金機構や厚生労働省の責任問題だけでなく、安倍政権の政治責任も質していくとしている。

 維新の党も「個人情報の取り扱いについて、極めて意識が低いことが露呈した。組織のあり方そのものを見直さないといけない」(柿沢幹事長)と日本年金機構の体質を問題視しており、民主党と連携して日本年金機構と政府への追及を行っていく方針だ。また、柿沢幹事長は3日、民主党の枝野幹事長と会談し、国税と年金保険料の徴収を一元的に担う歳入庁の設置について検討するよう提起した。共産党など他の野党も足並みをそろえている。

 個人情報流出問題に関連して、日本年金機構の職員がファイル共有サーバーにデータを移し終えた後も手元で保管したり外部に持ち出したりできる状態にあるなど情報管理のずさんさや、情報流出問題が起こってもなお日本年金機構が22日の定例理事会で議題にしていなかったことなどが相次いで浮上している。また、9日に開かれた参議院厚生労働委員会での集中審議では、被害の拡大防止のためインターネット接続を遮断した時期について日本年金機構の答弁が食い違っていることで紛糾し、予定していた残りの質疑を行わないまま散会とった。野党は、こうした問題も徹底追及し、詳しい説明を求めていくとしている。

 

 

【法案審議・採決日程にも影響】

日本年金機構の個人情報流出問題で、与党ペースだった国会運営に乱れが生じている。与党は、4日の衆議院厚生労働委員会の理事懇談会で、労働者派遣法改正案の審議を5日から再開するよう提案した。しかし、野党側は個人情報流出問題の真相究明を優先すべきだとして拒否した。早期に沈静化を図りたい与党側も真相究明が必要だとして、ひとまず個人情報流出問題に関する集中審議を5日に開催することとなった。

「生涯派遣で低賃金の労働者が増える」「派遣の固定化、不安定化につながる」ことなどを理由に改正案の成立阻止をめざしている民主党などは、徹底した真相解明が終わるまで審議に応じず、可能な限り採決先送りをねらう構えをみせてきた。現行の労働者派遣法を改正することが必要と一定の理解を示しつつも、同じ職務を行う労働者は正規・非正規にかかわらず同じ賃金を支払う「同一労働・同一賃金」の環境整備が不可欠と主張する維新の党も、個人情報流出問題の真相究明を優先することで足並みを揃えたことで、改正案の審議・採決日程をめぐって不透明が漂いはじめていた。

 

改正案を強行採決すれば野党のさらなる反発を招きかねず、安全保障関連2法案の審議などに悪影響を及ぼしかねないとして、与党側は、維新の党との間で委員会採決への出席を探ってきた。5日、自民党と公明党は、維新の党が条件としてきた同一労働・同一賃金法案に「法律の施行後3年以内に法制上の措置を含む必要な措置を講ずる」との文言を盛り込んだ議員立法案を共同提出のうえ可決することを、維新の党に提案した。

この与党提案に、維新の党は、同一労働・同一賃金の実現に向けて前進があったとみて、衆議院厚生労働委員会での改正案の採決に応じるか否かを検討している。与党は、早ければ来週中にも委員会採決に踏み切る方針だという。

 

 また、国民一人ひとりに12桁の個人番号を割り当てて税・社会保障関連情報を一つの番号で管理する共通番号(マイナンバー)制度の適用範囲を預貯金口座などにも広げる「共通番号制度関連法改正案」と、個人情報を企業が活用しやすくする「個人情報保護法改正案」の採決日程にも影響が及んだ。与党は4日の参議院内閣委員会で採決し、5日の参議院本会議での成立を想定していたが、個人情報流出問題のあおりを受け、持ち越されることになった。

社会保障・税一体改革担当の甘利大臣は、マイナンバー制度全体の導入は「そのまま進めていく」として、今年10月に個人番号を通知して来年1月から順次運用スタートするスケジュールを変更しない考えを示した。ただ、年金分野での利用開始については「(個人情報流出問題の)検証を踏まえて、導入時期を考えたい」と、2017年7月に地方自治体が持つ所得情報などと結びつける予定が遅れる可能性を示唆した。

 

一方、野党は、個人情報流出問題を踏まえた十分な審議と慎重な対応が必要だと主張している。民主党の枝野幹事長は8日、衆議院では改正案に賛成したものの、参議院で「賛否が変わってもおかしくない。それだけの変化があった」と、反対に転じる可能性を示唆した。マイナンバー制度の導入も「国民の年金記録に対する不信と不安のなかで、本当に予定通り施行していいのか。延期を視野に入れた対応をしなければならない」と、延期も視野に再検討すべきだとしている。

与野党が9日の参議院内閣委員会の理事懇談会で協議した結果、個人情報流出問題の原因究明なしにマイナンバー制度導入に対する国民の不安が払拭されないとして、当面、改正2法案の採決を先送りすることを決定した。検証委員会の調査状況をみながら採決時期を改めて協議するという。

 

 

【安全保障関連法案の合憲性が問題に】

平和安全法制整備法案と、国際社会の平和・安全の確保に資する他国軍の取り組みを後方支援するために自衛隊の海外派遣を随時可能にする「国際平和支援法」の安全保障関連2法案を審議する衆議院我が国及び国際社会の平和安全法制に関する特別委員会を委員長職権で3日に開催することを決めていた。これに野党側が「与党の強引な進め方に対抗していく」と猛反発して委員会審議に応じない構えをみせたことから、自民党は3日の特別委員会開催を見送った。

 

4日に開催された衆議院憲法審査会で、立憲主義や憲法制定過程などをテーマに各党推薦の憲法学者3人を招いて参考人質疑が行われた。政府が提出した安全保障関連2法案に関する見解を、民主党の中川正春議員が参考人に質すと、小林節・慶應義塾大学名誉教授(民主党推薦)や笹田栄司・早稲田大学教授(維新の党推薦)が憲法違反と主張した。

与党と次世代の党が推薦した長谷部恭男・早稲田大学教授も「従来の政府見解の基本的な論理の枠内では説明がつかないし、法的な安定性を大きく揺るがす」「個別的自衛権のみ許されるという論理で、なぜ集団的自衛権が許されるのか」「外国軍隊の武力行使と一体化する恐れが極めて強い」「他衛まで憲法が認めているという議論を支えるのは難しい」などと批判的見解を示した。

 この件に関し、菅官房長官は「自国の平和を維持し、その存立を全うするために必要な自衛措置を禁じられていない」「必要最小限の武力の行使は許容されるという、以前の政府見解の基本的な論理の枠内で合理的に導き出すことができる」「憲法解釈として法的安定性や論理的整合性が確保されている」など(4日の記者会見)と説明した。

 一方、野党側は「自民党が推薦した先生まで違憲だと明言している。いかにでっちあげの論理で法案ができているか、自ら認めているようなものだ」(民主党の枝野幹事長)、「違憲性がより明瞭になった」(共産党の志位委員長)などと語り、特別委員会で政府の矛盾を徹底追及する方針を示した。

 

翌5日に開催された特別委員会での一般質疑でも、野党側は、与党が招致した参考人までもが違憲との見解を示したことを踏まえ、「政府は法案を一回撤回した方がいい」(民主党の辻元衆議院議員)、「安保法制の根幹が違憲では法案を通す前提が整っていない。いったん廃案にすべきだ」(民主党の細野政調会長)と法案撤回を求めた。

これに対し、中谷防衛大臣兼安全保障法制担当大臣は「従来の憲法の基本的論理は維持しており、憲法違反にはならない」「あくまでわが国を守るためのやむを得ない自衛措置としての必要最小限という前提の武力行使であり、国際法上の集団的自衛権とは違う」「行政府における憲法解釈としての裁量の範囲内で、違憲の指摘は当たらない」などと反論した。また、横畠内閣法制局長官も「憲法学者の方々の意見は伝統的に、自衛隊は9条2項で保持が禁じられた戦力にあたり、違憲とするものが多い」と述べたうえで、自衛隊を「戦力に至らない必要最小限の実力」と位置付けてきた政府の立場とはそもそも異なると指摘した。

 

政府・与党は、憲法解釈の変更による集団的自衛権行使の限定容認などを与党推薦の参考人が違憲との見解を示したことで、今後の法案審議に与える影響を強く懸念している。関連2法案が合憲か否かをめぐる論争を早期に終止符を打ちたい政府・与党は、野党の要求に応じて、9日、安全保障関連2法案の合憲性に関する政府見解を提示した。

政府見解では、「これまでの憲法解釈との論理的整合性および法的安定性は十分保たれて」おり、憲法の基本的な論理を維持していると結論付けている。また、集団的自衛権の行使容認については「あくまでもわが国の存立を全うし、国民を守るため、わが国を防衛するためのやむを得ない自衛の措置として一部限定された場合の武力の行使を認めるもの」であり、他国軍への後方支援も「現に戦闘を行っている現場」では活動しないことなどを挙げて「一体化の回避という憲法上の要請は満たす」などと説明している。

 しかし、野党側は「これまでの説明を文書にしたに過ぎない」「ひどい論理展開」(民主党の長妻代表代行)、「閣議決定以来の論理をただひたすら繰り返しているだけだ」(維新の党の柿沢幹事長)、「ヘリクツをこねくり回し、非論理的で暴走した憲法解釈」(共産党の赤嶺衆議院議員)などと批判を強めており、納得していない。野党側は、10日に開かれる特別委員会の一般質疑で徹底追及する方針だ。

 

 特別委員会の審議日程をめぐっては、8日の特別委員会理事懇談会で、与党は10日の一般質疑だけでなく12日の一般質疑の開催も提案したが、野党側は安倍総理が出席する集中審議の開催を求めたことから、折り合うことができないまま再協議となった。

当初、与党は来週中にも審議時間80時間に達し、衆議院での委員会採決が可能になるとみていたが、審議・採決日程は先行き不透明な展開となっている。与党内には、会期内通過にこだわって強硬な国会運営を行えば、野党のさらなる反発を招くとともに、世論の批判が強まりかねないとの警戒も強まっている。このことから、与党は、通常国会会期末(6月24日)までに衆議院通過させることを断念し、会期延長後も衆議院で審議を継続する方針を固めた。このまま衆議院通過が遅れれば、参議院での審議入りは7月からとなり、関連2法案の成立も8月上旬以降にずれ込むことになるだろう。

 

 

【引き続き与野党動向に注視を】

日本年金機構の個人情報流出問題で、労働者派遣法改正案や共通番号制度関連法改正案・個人情報保護法改正案の委員会審議が進んでいない。また、安全保障法制も関連2法案の合憲か否かをめぐって、与野党が対決しており、委員会審議は波乱含みの展開となっている。

 

一方、女性の採用・昇進機会を増やす取り組み加速を促すため、従業員301人以上の大企業、国・地方自治体に、採用者や管理職に占める女性割合、勤続年数の男女差などを把握したうえで、自主判断で最低1項目の数値目標を盛り込んだ行動計画の作成・公表を義務化することを柱とする「女性の職業生活における活躍の推進に関する法律案」について、3日、自民党・公明党は、政府案は「実効性がない」との批判していた民主党の求めに応じ、企業に計画達成の努力義務も負わせる修正を行うことで合意した。3党で合意した修正案は、同日の衆議院内閣委員会で全会一致により可決された。その後、4日の衆議院本会議で可決となり、参議院に送付された。通常国会中に成立する見通しだ。

 

法案審議が各委員会で粛々と進められている一方、安全保障法制や労働法制など重要法案をめぐっては、野党が攻勢を強めており、与野党攻防が激しくなっている。今後の展開によっては、与党側の戦略の練り直しも迫られるかもしれない。与野党の国会論戦と水面下での審議・採決日程をめぐる攻防が、今後の国会運営や他の法案審議にも影響を及ぼしかねないだけに、引き続き与野党動向を注視しておきたい。
 

 
【高橋洋一・株式会社政策工房 代表取締役会長】


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27日、衆議院我が国及び国際社会の平和安全法制に関する特別委員会で安保法制が審議入りした。

 

 なかなか、政府と野党側の質疑はかみ合わない。例えば、野党側は、自衛隊の後方支援の活動範囲が「非戦闘地域」から「現に戦闘が行われている場所」以外に拡大することで自衛隊員が標的となるリスクが増大すると、批判する。

 一方、安倍首相は、「法整備で国全体のリスクが下がる効果は非常に大きい」「日米同盟の強化は国民全体のリスクを低減させることにつながる」と反論する。

 

 このかみ合わない理由は、それぞれが同じ「リスク」という言葉を使っているが、意味が違っているからだ。「リスク」という以上、確率を意味するわけであるので、考えられる場合を列挙して、数値例で説明したほうがいい。特に、マスコミは、ただ議論がかみ合わないというだけではなく、どういう点がかみあっていないのかを国民に説明する必要がある。

 

 確率論でならう「条件付き確率」という概念を使うと、両者の違いが納得できる。

 

 野党のいうリスクが増大するという意味は、不測の事態においては、個別的自衛権の行使のみの場合とそれに集団的自衛権の行使を含めた場合のどちらのリスクが高くなるかといえば、集団的自衛権を含めた場合といっているのだろう。

 

 一方、安倍首相のいうリスクが下がるという意味は、個別的自衛権の行使のみの場合とそれに集団的自衛権の行使を含めた場合、それぞれに於いて、不測の事態になる確率は、集団的自衛権の行使を含めた場合のほうが小さくなることであろう。

 

 こうした議論は、数値例で議論するほうがいい。あえて単純化して、両者の言い分を満たすような仮想的な数値例を考えることができる(下図)。

 

0605高橋さん
(表作成:政策工房) 

 

 個別的自衛権のみの場合とそれに集団的自衛権を加えた場合をあげる。個別的自衛権のみの場合において不測の事態になる場合が2ケース、通常の場合が98ケースとする。集団的自衛権を加えた場合には測の事態になる場合が4ケース、通常の場合が396ケースとする。全体では500ケースである。

 

 野党の主張は、集団的自衛権を加えた場合、不測の事態が起こるリスクは、個別的自衛権の場合の2633%から、4667%に高くなることだ。

 

 一方、安倍首相の主張は、個別的自衛権のみの場合において不測の事態になるリスクは21002%だが、集団的自衛権を加えた場合には44001%と下がることだ。

 

 こうした分析からわかることは、野党は、集団的自衛権によって安全になる場合を考えていないことだ。

一方、安倍首相の発言意図である2%から1%への低下の妥当性であるが、これまでの世界歴史から絶対的な数値水準は別としても、方向性は正しいだろう。

【安全保障法制が審議入りも、たびたび紛糾】

先週27日、衆議院我が国及び国際社会の平和安全法制に関する特別委員会で、安倍総理や関係閣僚の出席の下、武力攻撃事態対処法や周辺事態法、自衛隊法など法律10本の改正案を束ねた一括法案「平和安全法制整備法案」と、国際社会の平和・安全の確保に資する他国軍の取り組みを後方支援するために自衛隊の海外派遣を随時可能にする「国際平和支援法」の安全保障関連2法案の総括質疑を行い、実質審議入りした。その後、28日に安倍総理らが出席しての総括質疑、29日に関係閣僚が出席しての一般質疑が行われた。


*衆参両院の本会議や委員会での審議模様は、以下のページからご覧になれます。

  衆議院インターネット審議中継参議院インターネット審議中継


 特別委員会での審議では、序盤から与野党が衝突しており、波乱含みとなっている。27日に武器使用と武力行使の違いについて問い質した柿沢幹事長に対し、中谷防衛大臣兼安全保障法制担当大臣が「その違いが分からないなら議論ができない」と答弁したことに、「失礼な発言だ」などと維新の党が反発した。このことから、28日の特別委員会で、中谷大臣は「大変不適切だった。おわびする」と陳謝した。

 また、閣内不一致や過去の政府答弁の違いを浮き彫りにして論戦を有利に進めたい民主党は、自衛隊の運用などについて中谷大臣を繰り返し追及した。こうした中谷大臣への質問に安倍総理が率先して答弁に立ったが、野党側は、安倍総理らが質問に直接答えることが少ないうえ、答弁に時間をかけすぎだとして与党側に抗議した。

28日の特別委員会の冒頭、浜田委員長(自民党)は、「国民に分かりやすい簡潔な答弁をお願いする」と、政府側に要請した。安倍総理は、「国民に分かりやすく丁寧に答弁しているつもりだが、今後とも簡潔に答弁することの大切さに留意したい」と述べた。

 

 28日の特別委員会では、機雷掃海を実施することで日本がテロに狙われ、自衛隊にも死傷者が出るリスクが高まるのではないかと、3分間あまり質問していた民主党の辻元議員に、安倍総理が「早く質問しろよ」とヤジを飛ばした。民主党の抗議により、委員会審議が一時中断となった。安倍総理は「延々と自説を述べて私に質問をしないのは答弁をする機会を与えないということから、早く質問をしたらどうだと言った」と釈明したうえで、「言葉が少し強かったとすれば、おわび申し上げたい」と陳謝した。

しかし、民主党など野党は安倍総理の釈明に納得せず、改めて正式の謝罪を要求した。6月1日の特別委員会の冒頭、浜田委員長(自民党)が「議論が白熱するのは大変結構だが、出席大臣は法案を提出し審議をお願いしている立場に鑑み、不必要な発言は厳に慎むようお願いする」と政府側を注意したのを受け、安倍総理は「重ねておわび申し上げるとともに、ご指示を踏まえて真摯に対応して参ります」と改めて謝罪した。

 

さらに、29日の特別委員会で、現行の周辺事態法が定める周辺事態の適用範囲をめぐって、民主党の後藤議員が岸田外務大臣に対し、1998年の衆議院予算委員会で当時の外務省局長が、日本経済に大きな影響があっても軍事的な波及がない中東での紛争は周辺事態に該当しないと答弁した点を指摘して「現在もこの答弁は維持されているか」について度々質した。これに対し、岸田大臣は「政府委員(外務省局長)の答弁の後、政府見解を示した。その考え方は今日まで維持されている」「軍事的な観点が全くなく経済面での影響だけで重要影響事態になることは想定していない」などと明言を避け続けた。

岸田大臣の答弁は不服として民主党の委員たちが退席した。これに維新の党や共産党も同調し、7時間を予定していた審議が1時間程度で打ち切りとなった。与党は、理事協議で審議再開を野党側に申し入れたが、野党側は鹿児島・口永良部島での噴火が発生したことを理由に散会を提案した。特別委員会の再開直後に野党側が再び退出したことから、結局、散会となった。その後、与党は、野党側が審議正常化の条件としている岸田大臣の再答弁を受入れ、安倍総理らが出席する総括的集中質疑を6月1日に開催することが決まった。

 

民主党は、2日に開かれた特別委員会理事懇談会で、1998年の外務省北米局長の見解が維持されているかも含め、現行の周辺事態の定義に関する政府の統一見解を文書で示すよう要求したが、政府は「軍事的な観点をはじめとする種々の観点から見た概念」と提示するのみにとどまったことから、納得しなかった。また、与党が提案した3日や5日の委員会審議の開催、来週の参考人質疑についても、野党側が反対して折り合わなかった。

このことから浜田委員長は、職権で3日の特別委員会開催を決めた。与党は、丁寧な審議を印象付けることに腐心しつつも、通常国会の会期末(6月24日)までに衆議院での審議時間の目安80~90時間をクリアのうえ、衆議院を通過させることをめざしている。一方、対決姿勢を強める野党側は、委員長職権で特別委員会開催を決めたことに強く反発しており、3日の委員会審議にも応じない方針でいる。

 

 

【集団的自衛権の行使をめぐって】

 特別委員会での審議で、野党側は、集団的自衛権を行使する基準や、自衛隊による後方支援の活動範囲、自衛隊が負うリスクなどについて追及したが、政府側の答弁は公式の政府見解を繰り返したものが多く、質疑はなかなかかみあわない場面が多くみられた。

 

<専守防衛は維持されるのか>

憲法9条の下で日本の防衛態勢を規定し、先制攻撃を排除してきた安保政策の基本方針「専守防衛」について、野党側は今回の関連法案により「専守防衛の定義を変えたとはっきり言うべき」(民主党の長妻代表代行)、「専守防衛からずれてきている」(維新の党の松野代表)と批判した。これに対し、安倍総理は「今回の整備にあたり、専守防衛の考え方は全く変わりない。基本的論理は一切変更していない」「我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由、幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険。これを防衛するのはまさに専守防衛だ」などと、武力行使の新3要件にもとづく集団的自衛権の限定的な行使であれば専守防衛を逸脱していないと反論した。

 

横畠内閣法制局長官は「誘導弾等の基地をたたく以外に攻撃を防ぐ方法がない場合、他国の領域における武力行動は許されないわけではない」と、個別的自衛権を発動して敵国のミサイル基地などを攻撃できるとする政府見解が武力行使の新3要件でもあてはまるとし、新3要件を満たせば、憲法上、敵基地攻撃など海外での集団的自衛権の行使は認められるとの見解を示した。

 日本と密接な関係にある国が先制攻撃を行った場合については、安倍総理が「外形的に他国が攻撃を受け、防御する場合は間違いなく集団的自衛権になる。それを個別的自衛権と言い張ることは、先制攻撃との批判すら浴びかねない。国際的に認められている集団的自衛権と定義するのは当然」と述べた。岸田外務大臣も「予防攻撃、先制攻撃は国際法上違法だ。集団的自衛権で支援することはあり得ない」と否定した。

 

<存立危機事態の認定基準>

集団的自衛権を行使できる「存立危機事態」の認定基準については、法律上、地理的範囲が限定されないとしたうえで、「単なる経済的影響にとどまらず、国民の生死に関わる深刻、重大な影響が生じるかどうかで判断する。必ずしも死者が出ることを必要としない」「そのままでは日本が武力攻撃を受けた場合と同様の被害が及ぶのが明らかな状況」(中谷大臣)と、判断時点で被害がなくても、将来的に燃料が不足し、凍死者が出るなど人的・物的被害が出ることが確実視されれば、認定されうるとの認識を示した。

これに対し、野党側は、認定基準がこのまま曖昧だと、国内で実際の被害が出ていない段階でも集団的自衛権の行使が可能になりかねず、集団的自衛権の行使範囲が無限定となる恐れがあるとして批判を強めている。

 

他国領域で集団的自衛権を行使することができるかについて、安倍総理は「武装部隊を他国の領土、領海、領空へ派遣する海外派兵は、一般に自衛のための最小限度を超えるもので、憲法上許されない」と、原則として認められないと改めて説明した。

そのうえで、日本が輸入する原油の8割が通るシーレーン(海上交通路)上の中東・ホルムズ海峡における機雷除去は、他国領域での集団的自衛権行使ができる例外ケースにあたると説明した。安倍総理は、機雷除去のための自衛隊派遣について「実際のオペレーションは政策的な判断で、戦闘が行われていない時しか実施しないだろう」と、停戦合意前に実施する場合でも停戦に向けた話し合いを始めている場合になるのではないかとの見解を示した。

 

他国領域での集団的自衛権行使ができる例外ケースは、いまのところホルムズ海峡における機雷除去以外は念頭にないとしつつも、他国のミサイル発射を防ぐ敵基地攻撃や、他国領海上での邦人輸送中の米艦防護など複数の事例で、武力行使の新3要件を満たせば状況によって実施する場合もありうると説明した。ただ、南シナ海のシーレーンでの機雷掃海については、「安全保障上の対応は事細かに事前に設定し、柔軟性をすべて失うことは避けた方がいい」と前置きしたうえで、「様々な迂回路がある」ことを理由に現時点では想定しにくいと述べるにとどめた。

 

安倍総理は「新3要件から論理的、必然的に導かれるもので、私の意思や政策判断ではない」と、内閣によって見解・解釈が変わることはないと述べた。しかし、民主党など野党は、機雷除去を必要最小限の武力行使として認めれば、機雷除去のために敵国の船舶や基地への攻撃を加えることも必要最小限の武力行使として拡大解釈されかねず、安倍総理の想定を超えて例外ケースが増えていく恐れもありうると警戒を強めている。

 

 

【重要影響事態、リスクなども議論】

<重要影響事態の判断基準>

 日本の平和のため活動する米軍や友好国の部隊への後方支援を可能にする「そのまま放置すれば我が国に対する直接の武力攻撃に至るおそれのある事態」(重要影響事態)について、安倍総理は(1)紛争当事者の意思や能力、(2)事態の発生場所や規模、(3)米軍など他国軍隊の活動内容、(4)日本に戦禍が及ぶ可能性、(5)国民に及ぶ被害の重要性などを判断基準に、事態の個別・具体的な状況、事態の規模・態様・推移などに即して総合的に勘案し、客観的・合理的に判断すると説明した。武力紛争が発生または差し迫っている場合、我が国に戦禍が及ぶ可能性や国民に及ぶ被害の重要性から判断するとした。

また岸田大臣は、「軍事的な観点がまったくなく、経済面のみの影響が存在することは想定していない」と答弁し、日本に与える影響が経済的なものにとどまる場合、重要影響事態にあたらないとの見解を示した。

 

中谷大臣は、周辺事態の事例として政府が1999年に示した政府見解(①日本周辺の地域において、武力紛争の発生が差し迫っている、②武力紛争が発生した、③停止したが秩序の回復・維持が達成されていない、④ある国で内乱・内戦が発生し国際的に拡大している、⑤ある国で大量の避難民が発生し日本への流入の可能性が高まっている、⑥ある国の行動が国連安全保障理事会で侵略行為などと決定されて安保理決議で経済制裁の対象となる)が「重要影響事態でもあてはまる」と説明した。

その後、安倍総理は「中東、インド洋などの地域で武力衝突が発生し、我が国に物資を運ぶ日本船舶に深刻な影響が及ぶ可能性があり、かつ米国などが対応のため活動している状況が生じれば重要影響事態に該当することはありえる」(6月1日の特別委員会での答弁)との考えを示した。そして、法律上は地理的制約がないものの、政策判断として慎重な検討が不可欠とも強調した。

 

 民主党など野党は、条文から「我が国周辺の地域」の文言が削除して事実上の地理的制約を撤廃されることにより、「適用範囲が無制限に広がりかねない」などと批判している。政府側が具体的な認定基準を示していないことから、野党側は、重要影響事態にあたる局面をより具体的に説明するよう求めている。

 

<自衛隊のリスク>

 自衛隊の海外派遣を判断する際の基準として、安倍総理は、(1)日本の主体的に判断すること、(2)自衛隊が能力・装備・経験にふさわしい役割を果たすこと、(3)前提として外交努力を尽くすことの3点を重視する方針を掲げた。そして、「法律をつくったとしても、やらなければいけないということではない。慎重な政策判断がある」とし、法案に盛り込まれていない判断基準を表明した。

 

自衛隊の後方支援の活動範囲が「非戦闘地域」から「現に戦闘が行われている場所」以外に拡大することで自衛隊員が標的となるリスクが増大すると、野党側は追及した。これに対し、安倍総理は「極小化する措置を規定しているが、リスクは残る」と説明したうえで、「法整備で国全体のリスクが下がる効果は非常に大きい」「日米同盟の強化は国民全体のリスクを低減させることにつながる」と、リスクは高まらないとの認識を改めて示した。

 また、運用面で安全確保に万全を期す観点から「現在、戦闘行為が行われていないというだけでなく、自衛隊が活動を行う期間に戦闘行為が発生しないと見込まれる場所を実施区域に指定する」と明言した。そして、戦闘行為が発生する恐れが浮上すれば、「部隊の責任者が判断して一時休止、退避するという判断は当然行わなければならない」「指揮官の正しい判断で、危険な状況になる前に柔軟に違う地域へ移すことができる」と、運用面で回避できると説明した。そして、安全確保のために必要な措置を定めるとともに、「情報や装備、教育、訓練、運用面での施策も十分に実施する」と強調した。中谷大臣も「大切なのは派遣決定後の運用」と述べ、適切な部隊運用でリスクを減らせるとしている。

 

政府は、法制面と運用面の取り組みを車の両輪と位置付け、自衛隊員の安全確保を図っていくとしている。ただ、これまで自衛隊のリスク懸念を追及してきた野党のみならず、与党議員からも「自衛隊の活動の範囲、内容は確かに増えていく。従ってリスクが増える可能性があるのは事実」(岩屋毅・自民党安全保障調査会副会長)と、リスクが高まる可能性を率直に認めるべきとの声も出ており、引き続き論点となりそうだ。 

 

<グレーゾーン事態への対応>

 武力攻撃に至らない「グレーゾーン事態」では、武装集団による離島への不法上陸、占拠や外国軍艦が日本領海に侵入したケースなどを想定して、迅速な自衛隊の治安出動や海上警備行動を発令するべく、電話による閣議決定や関係省庁間の連絡体制強化などで対処としている政府案に対し、民主党は新たな法整備が必要と主張した。民主党と維新の党は、政府があらかじめ指定した地域でグレーゾーン事態が発生すれば閣議決定がなくても治安出動などができることを柱とする「領域警備法案」を共同提出する方針でいる。

民主党の長島議員が「与野党で真剣に考えてもらえないか」と迫ったが、安倍総理は「警察力で対処できないとなれば直ちに自衛隊が対処することが一番大切だ。閣議決定が速やかにできれば問題ない」「あらかじめ自衛隊が海上保安庁に代わって警察権を持って併存する形では、軍対軍の衝突が直ちに起こる危険がある。速やかなスイッチが可能になることが大切」と反論した。

 

 

【与野党攻防の動向に注意を】

6月24日の通常国会会期末まで残り1か月を切った。「安全保障法制」「労働法制」「電力自由化」「農協改革」「女性活躍推進」などが同時進行で審議されており、重要法案が目白押しの状況にある。

 

労働者派遣法改正案をめぐっては、会期末までに成立させたい与党が、今週5日にも衆議院を通過させるタイミングを探っていた。一方、「生涯派遣で低賃金の労働者が増える」「派遣の固定化、不安定化につながる」などを理由に廃案をねらう民主党や共産党、社民党などは「審議が不十分」などを理由に、採決阻止の構えをみせている。

採決日程をめぐって与野党の綱引きが激しくなっているなか、6月2日、日本年金機構の個人情報流出問題が浮上した。民主党は「機構と厚生労働省の責任は極めて重大」「この問題の区切りがつくまで通常の法案審議はできない。政府を厳しくただす」(高木国対委員長)としており、維新の党や共産党など野党各党と連携して、政府を徹底追及する方針だ。衆議院厚生労働委員会で審議されている労働者派遣法改正案の審議を一時中断し、3日に個人情報流出問題をテーマにした集中審議を開催する。野党側からは「集中審議は1日では足りない」との声が上がっているほか、与党が改正案の強行採決に踏み切ったら安全保障関連法案の審議ストップも辞さないとしており、波乱含みの展開となっている。

 

全国農業協同組合中央会(JA全中)の中央会制度を廃止や地域農協の経営状態などを監査してきた監査・指導権限を撤廃し、法施行から3年半後にはJA全中を特別認可法人から一般社団法人に完全移行することなどを柱とする農業協同組合法等の一部を改正する等の法律案農協法等改正案をめぐっても、与野党の駆け引きが激しくなっている。与党は、6月上旬にも衆議院を通過させ、会期末までに成立させたいとしている。一方、安倍総理が主張するほどの大改革には値しないなどと批判する民主党は、独自の対案を提出して対決姿勢を強めている。

 また、法的分離による送配電部門などの中立性確保や小売料金の規制撤廃、電力・ガス・熱の取引の監視を行う電力・ガス取引監視等委員会の設置など柱に、エネルギー分野の一体的なシステム改革を実施するための「電気事業法等改正案」は、参議院で審議入りした。

 

重要法案それぞれの審議・採決日程をめぐり、与野党の攻防が激化している。また、安全保障法制の審議は波乱含みの展開で、日本年金機構の個人情報流出問題への追及も始まる。こうした動向が今後の国会運営や法案審議にどのような影響を及ぼすのかの見極めが大切だろう。

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