政策工房 Public Policy Review

霞が関と永田町でつくられる“政策”“法律”“予算”。 その裏側にどのような問題がひそみ、本当の論点とは何なのか―。 高橋洋一会長、原英史社長はじめとする株式会社政策工房スタッフが、 直面する政策課題のポイント、一般メディアが報じない政策の真相、 国会動向などについての解説レポートを配信中!

June 2015

【労働者派遣法改正案が衆議院通過】

先週、安倍内閣が重要課題と位置付ける「地方創生」や「電力自由化」の関連法などが成立したほか、与野党が激しく対立してきた「労働者派遣法改正案」も衆議院を通過し、参議院に送付された。

東京一極集中の是正を含む地方創生を推進するため、本社機能の地方移転などを促す税制優遇や、人口減少が著しい中山間地などで生活・福祉関連サービスを集約させる地域再生拠点づくりを支援する制度の創設などを柱とする「地域再生法の一部を改正する法律」と、農地転用許可など国から自治体への権限移譲を推進する「地域の自主性及び自立性を高めるための改革の推進を図るための関係法律の整備に関する法律」(第5次地方分権一括法)が、19日の参議院本会議で与野党の賛成多数により可決・成立した。政府は、着実な地域活性化につなげるべく、都道府県や市町村の取り組みを積極的に支援していく方針だ。


*衆参両院の本会議や委員会での審議模様は、以下のページからご覧になれます。

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また、法的分離による送配電部門などの中立性確保や小売料金の規制撤廃、2017年をメドに都市ガスの小売り全面自由化、電力・ガス・熱の取引監視を行う電力・ガス取引監視等委員会の設置など柱に、エネルギー分野の一体的なシステム改革を実施する「電気事業法等改正案」は、17日の参議院本会議で与党などの賛成多数により可決・成立した。

政府は、地域ごとに独占的に事業を行ってきた大手電力会社から送配電事業を切り離して別会社化する「発送電分離」を2020年4月に実施することをもって、東日本大震災後に進めてきた電力システム改革の総仕上げ(第3弾)と位置付けている。今後は、新規参入会社が大手電力と平等条件で送配電網を利用できるかなどの健全な競争環境の整備、電気・ガス料金の抑制と透明化などが図られるかが焦点となっていくだろう。

 

派遣労働者の柔軟な働き方を認めることを目的に、企業の派遣受け入れ期間の最長3年という上限規制を撤廃(一部の専門業務を除く)する一方、派遣労働者一人ひとりの派遣期間の上限は原則3年に制限して、派遣会社に3年経過した後に派遣先での直接雇用の依頼や、新たな派遣先の提供などの雇用安定措置を義務づける「労働者派遣法改正案」をめぐっては、19日の衆議院厚生労働委員会で採決されることとなった。

安倍総理出席のもと補充的な質疑を行ったうえで、与党の賛成多数により可決した。また、同じ職務を行う労働者は正規・非正規にかかわらず同じ賃金を支払う「同一労働・同一賃金推進法案」も修正のうえ、与党と維新の党の賛成多数により可決された。その後、両法案は衆議院本会議に緊急上程され、与党の賛成多数により可決した。

一方、「生涯派遣で低賃金の労働者が増える」「派遣の固定化、不安定化につながる」などを理由に廃案をめざしてきた民主党や共産党、社民党などは、渡辺・厚生労働委員長(自民党)が職権で緊急上程を決め、採決を強行したとして厳しく批判した。ただ、衆議院本会議での採決にあたっての対応は分かれた。改悪だと批判してきた共産党は採決で反対票を投じたが、民主党や社民党などは採決に入る直前に途中退席し、抗議集会を開催した。維新の党は、推進法案には賛成したが、改正案は「問題がある」として採決で反対した。

 

与党は、通常国会の会期を延長後、参議院の委員会審議を経て改正案と推進法案を成立させる方針で、両法案とも通常国会中に成立する見通しだ。ただ、野党側は、日本年金機構がサイバー攻撃で約125万件の個人情報が流出した問題の真相究明を優先すべきと主張している。また、衆議院厚生労働委員会では、柔軟な働き方を広げて労働生産性を高めるねらいから高度プロフェッショナル制度創設や企画業務型裁量労働制の対象を新商品開発・立案や課題解決型営業などへの拡大、年5日の有給休暇の取得ができるよう企業に義務づける過労対策などを柱とする「労働基準法等の一部を改正する法律案」の審議入りが控えている。民主党や共産党などは「残業代ゼロ法案」と位置付けて成立阻止に全力を挙げる方針で、今後も与野党攻防が繰りひろげられていくことになりそうだ。

 

 このほか、全国農業協同組合中央会(JA全中)の中央会制度を廃止や地域農協の経営状態などを監査してきた監査・指導権限を撤廃し、法施行から3年半後にはJA全中を特別認可法人から一般社団法人に完全移行することなどを柱とする「農業協同組合法等の一部を改正する等の法律案」について、16日、与党が維新の党が「農協に自主的な改革を促す」などの内容を盛り込む修正を行ったうえで、17日の衆議院農林水産委員会で採決することで大筋合意した。

ところが、与党・維新の党ペースで進むことを警戒した民主党が17日の衆議院農林水産委員会理事会で修正案の追加審議を求めたことにより、自民党は、改正案の修正ではなく、付帯決議で修正する意向を維新の党に打診した。維新の党は、約束を反故されたと強く反発し、17日の国会審議を全面的に拒否する事態となった。このことから、与党・維新の党による協議で、維新の党の主張を尊重して改正案を修正することで決着がついた。与党は、衆議院農林水産委員会で安倍総理出席のもと質疑が行ったうえで、早期の委員会採決にこぎつけたいとしている。

 

 

【安全保障関連法案をめぐる憲法論争が最大焦点に】

政府が提出した「平和安全法制整備法案」と「国際平和支援法」の安全保障関連2法案をめぐる憲法論争が続いている。17日に行われた民主党の岡田代表、維新の党の松野代表、共産党の志位委員長が安倍総理・自民党総裁に論戦を挑む党首討論でも、中心的な議論となった。違憲との批判に、安倍総理は、日本の存立を守るために必要な自衛措置を認めた1959年の砂川事件最高裁判決に言及して、「憲法の範囲内にあるからこそ法律として提出している。解釈変更の正当性、合法性には完全に確信を持っている」と反論した。また、集団的自衛権の行使容認が憲法上許されないとする1972年の政府見解について「あの段階の国際状況では必要最小限度を超えると考えた」としたうえで、「必要な自衛措置がどこまで含まれるか、常に国際状況を見ながら判断しなければならない」と、安全保障環境の変化を踏まえて集団的自衛権行使の原点容認に踏み切った正当性を強調した。

これに対し、岡田代表は「何が憲法に合致し、何が違反するかが法律で決められていない。時の内閣に武力行使の判断を丸投げしている」「武力行使の判断を政府に白紙委任している。そんな国はどこにもない」「歴代内閣が認めなかったことを閣議決定で決めた。首相のやったことは罪が重い」などと厳しく批判した。また、民主党が領域警備法や周辺事態法の充実を提案しており、周辺有事への対応に「集団的自衛権はいらない」と反論した。

 共産党の志位委員長は、自衛隊による米軍など他国軍への後方支援に関し「兵站は武力行使と一体不可分で、軍事目標とされるのは世界と軍事の常識だ。武力行使と一体でない後方支援という議論は世界で通用しない」と、憲法が禁じる武力行使の一体化にあたると主張した。これに対し、安倍総理は「兵站は極めて重要だ。大切な物資を届けるからこそ、安全な場所で相手に渡す。これがいまや常識だ」と反論した。

 

18日の衆議院予算委員会で行われた年金・安全保障をテーマとする集中審議でも、安倍総理は、核ミサイル開発を進める北朝鮮を念頭に「我が国近隣にたくさんの弾道ミサイルを持ち、大量破壊兵器、核兵器を載せる能力を開発している」など日本周辺の安全保障環境が悪化している現状を示したうえで、「日本は迎撃するミサイル防衛能力を持ったが、これを使うには日米の協力が必要だ。国際情勢に目をつぶって、従来の憲法解釈に固執するのは政治家としての責任の放棄」「大きく状況が変わる中で必要な自衛の措置とは何か。国民の安全を守るために突き詰めて考える責任がある」と、憲法の解釈変更は妥当と改めて強調した。また、憲法解釈による過剰な制約や法制上の未整備などが自衛隊に無理な運用を強いてきたことを念頭に「自衛隊員に必要以上に負荷をかけたり、判断をさせたりしてはならない。立法府や行政が考えなければならない問題」とも指摘した。

これに対し民主党は、2002年6月6日の衆議院憲法調査会で自民党の高村副総裁が「現実の問題としてそういう解釈を政府は取ってこなかった。必要だからパッと変えてしまうのは問題がある」「集団的自衛権を認めるような形で、国民的議論のもとで憲法改正をしていくのが本筋」と、憲法の解釈変更を問題視する発言を取り上げて追及を強めた。民主党の玉木雄一郎・衆議院議員は、高村副総裁が行った過去の発言について「限定された集団的自衛権が必要というなかで、解釈改憲は法的安定性や権力を拘束するという原則から問題があると言っていた。極めて正論だ」と評価し、関連法案の違憲性を強調した。

 

 

22日の衆議院我が国及び国際社会の平和安全法制に関する特別委員会では、参考人質疑を行い、元内閣法制局長官2人を含む有識者5人への意見聴取がなされた。西修・駒澤大学名誉教授(自民党推薦)と森本敏・元防衛大臣(公明党推薦)が理解を示した一方、阪田雅裕・元内閣法制局長官(維新の党推薦)は慎重論を、野党が推薦した宮崎礼壹・元内閣法制局長官と小林節・慶應義塾大学名誉教授は憲法違反と断じて廃案を求めた。

阪田元長官は「従来の政府解釈と、集団的自衛権の行使を整合させようとする政府の姿勢には一定の評価ができる。論理的に全く整合しないものではない」と一定の理解を示しつつも、1972年の政府見解の基本的論理を変更するもので「憲法を順守すべき政府自ら憲法の縛りを緩くなるように解釈を変えるということ」との認識を示した。また、武力行使の新要件について「解釈の余地が残る表現はやめ、すっきりした表現に改めてもらいたい」と法案修正を要求した。政府が想定する中東・ホルムズ海峡での機雷掃海への自衛隊派遣については「日本の存立が脅かされる事態に至るはずがなく、従来の政府見解を明らかに逸脱している」と疑問を呈した。

 一方、宮崎元長官は、集団的自衛権について「本質は他国防衛で、恣意的、過剰な武力行使を招きかねない」とし、自国防衛に限って集団的自衛権の行使が可能とする政府の主張は「虚構であり、歴史を歪曲している。従来の政府見解とは相いれず、法案は憲法9条に違反しており、速やかに撤回されるべき」「憲法9条の下で認められないことは、我が国において確立した憲法解釈で、政府自身がこれを覆すのは法的安定性を自ら破壊するものだ」と厳しく批判した。また、1972年の政府見解の基本的論理は個別的自衛権への言及であり、1959年の最高裁砂川判決も「他国防衛たる集団的自衛権の話が入り込む余地はない」と述べ、集団的自衛権の行使容認の根拠に「どうして使えるのか」と疑問を呈した。

 

 

【戦後最長の会期延長に】

6月24日までの通常国会の会期を9月27日までの95日間延長することを、22日の衆議院本会議で与党や次世代の党などの賛成多数で議決した。

終盤国会の最重要焦点となっている安全保障関連法案の確実な成立を期すため、与党は、8月上旬まで会期を延長することを念頭に国会運営を行ってきた。戦後70年談話を発表する8月15日前に通常国会を閉会して野党の追及をかわすとともに、8月下旬から9月にかけて安倍総理らの外交日程や自民党総裁選に備えるシナリオを描いていた。しかし、衆議院での関連法案の審議に遅れが生じ、維新の党が予定していた23日の対案とりまとめを来週以降に先送りしたことなどもあって、7月上旬の衆議院通過が微妙な情勢となっている。

政府側は、8月お盆前まで延長して会期内に成立させるシナリオを模索していた。しかし、民主党など野党のさらなる抵抗による審議難航が予想されるとして、参議院自民党などが9月までの大幅延長を求めた。また、憲法59条規定にもとづき、参議院送付から60日経過しても関連法案が採決されない場合には衆議院本会議で3分の2以上の賛成により再可決する「60日ルール」の適用をめぐっても賛否が出ていた。

 

安倍総理は、参議院での十分な審議時間を確保する必要があるとして、戦後最長となる会期延長を判断するに至った。22日の衆議院本会議後、安倍総理は「最大の延長幅をとって徹底的に議論し、最終的に決めるときには決める。議会制民主主義の王道を進んでいくべきだと判断した。丁寧な説明を心掛けながら、成立をめざしたい」と、通常国会中の関連法案成立に決意を改めて示した。

安全保障関連法案を成立させるための大幅延長に、野党各党は「安保法制はまだ議論の入り口だ。国会を閉じて、もう一度仕切り直しをすべきだ。延長自体が非常識」(民主党の枝野幹事長)、「非常識な長さの延長だ。60日ルールを適用するだけの幅を入れており、議会に対して失礼な話」(維新の党の松野代表)などと反発し、党首会談で反対方針を確認した。ただ、衆議院本会議で採決にあたっての野党の対応は分かれた。民主党・社民党・生活党が与党への抗議意思を示すため、22日の衆議院本会議を欠席したのに対し、維新の党と共産党は本会議に出席して反対票を投じた。

 

 

【国会運営や与野党対決法案をめぐる攻防に注意を】

労働者派遣法改正案が衆議院を通過したことで、衆議院での重要焦点は「安全保障関連法案」や「労働基準法等の一部を改正する法律案」などに絞られることとなった。

野党が安全保障関連法案を成立させるための大幅延長に反発を強めているなか、与党は、維新の党との修正協議を国会正常化のきっかけにしたい考えだ。ただ、維新の党内では、与党との修正協議に前向きな意見がある一方、慎重論も根強くある。党内融和を優先する松野代表は「(政府提出法案の修正を前提とした)修正協議には応じない」とし、対案とりまとめ・国会提出の先送りを示唆している。このことから、修正協議がどのように展開するか見通せない状況にあるだけに、先行きに不透明感が増している。

与党が強引に進めれば、野党が他の委員会審議も含め拒否する可能性がある。安全保障関連法案はじめ与野党対決法案をめぐる与野党攻防、国会運営をめぐる駆け引きに、国会が大きく左右される状態がしばらく続きそうだ。

【山本洋一・株式会社政策工房 客員研究員】  


 ほとんど毎回居眠りする議員に、30分間携帯電話を操作し続ける議員――。市民団体がこのほど公表した仙台市議会の「通信簿」。そこには市民の代表として市政について真剣に議論する役目を負う議員たちの、目を疑うような実態が記されている。

 
 通信簿をまとめたのは市民団体「議会ウオッチャー・仙台」。8月に仙台市議選を控え、現職議員の任期である20119月定例会から20152月定例会まで、計15定例会の本会議全105日間を複数のメンバーが実際に傍聴し、評価を集計した。

 
 中身は2部構成。第一部は「本会議場での議員の態度についての評価」、第二部は「質問内容についての評価」となっている。中でも特に注目すべきは第一部だ。

 
 評価対象は離席、居眠り、私語の3項目。離席については全55議員のうち、9人が10回以上記録。最も多かった議員は77回、離席率は73.3%にのぼった。この最多議員の離席のうち6回は50分から一時間程度という長時間。生理現象は仕方ないにしても、本当にすべてが「やむを得ない理由での離席」だったのか、疑問が残る。


 居眠りはもっとひどい。全議員のうち約半数が10回以上記録。居眠り率が50%を超えた議員が9人おり、最も多かった議員は80回、居眠り率が76.2%だった。「開始直後から終了まで熟睡」していたこともあったという。これには選んだ有権者もがっかりだろう。

 
 私語については10回以上が14人いたが、半数以上はゼロだった。当選回数の多いベテラン議員に多く見られ、当選回数の少ない新人議員はほとんどなかった。当選を重ねるにつれ、緊張感が薄れている様子がみてとれる。

 
 このほか会議中に携帯電話やスマートフォンを操作する議員も複数、指摘された。中には「30分ほど」操作し続けた例もあったという。議員としての業務に関わる情報収集だったのか、それともただの時間つぶしだったのかは知る由もない。

 
 今回、調査対象となったのはもっとも格式の高い「本会議」だけだが、議会には本会議の下に各種委員会が設置され、日々開催されている。「委員会はもっとひどいのでは」と想像するのは私だけではないだろう。

 
 議会ウオッチャー・仙台では、居眠りや私語について「議論に集中していないことを示す指標で、いずれも議論 の場としての議場でとるべき態度ではない」と指摘。学校に例えて「度が過ぎれば学級崩壊となる」と断じている。

 
 仙台市議選は724日に告示、82日に投開票される。議員の個人名が明記された今回の「通信簿」は、有権者が投票先を選ぶ際の貴重な資料になるに違いない。

 


議会ウオッチャー・仙台HP

http://gikai-watcher.net/

 


【高橋洋一・株式会社政策工房 代表取締役会長】


 韓国MERSは、日本としてもかなり心配なので、マスコミ報道をフォローしている。日本語で読めるということで、聯合ニュース(http://japanese.yonhapnews.co.kr/)が役に立つ。筆者がこれまで注目しているのは、韓国保健福祉部が毎日発表している感染者数である。死者数も関心事であるが、まずは感染者数の推移をみている。

 

 610日、「まだまだ安心できない。9日の予測値は92人でまだ指数関数的増加傾向。10日、11日の予測値は112人、136人。これを下回るかどうかで勢いがわかる」と、ロイター記事「韓国MERS感染者95人に、香港は「渡航自粛」勧告」(http://jp.reuters.com/article/topNews/idJPKBN0OO2MO20150609)にツイートした。

 

 同時に、「韓国MERS。このまま指数関数的に患者数が拡大すると、あと2ヶ月で韓国国民すべてが感染してしまうという計算。ここ1,2週間で感染拡大が抑えられるかどうかが勝負でしょう 」と書き、下図を添付した。

  

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(表作成 : 政策工房) 

 これに対して、1000以上のツイートがあったので、「韓国MERS2ヶ月で韓国民全員というのは、あくまで「指数関数的な拡大」が続ければという前提。普通の感染症モデルでは、拡大の逆のフィードバックもあるので、そうならない。発生当初だけ「指数関数的な拡大」。かつて統数研で勉強したこと http://www.ism.ac.jp/editsec/toukei/pdf/54-2-461.pdf」と注釈した。

 

 その後、毎日データを追加していたが、14日「韓国MERS。データ追加。とりあえずネズミ算的なところからは出たような。といっても沈静化にはかなり先だろうけど」とツイートし、下図を添付した。


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                                                                                         (表作成 : 政策工房)


 
 翌15日、「韓国MERS。ネズミ算からは脱出したと思うが、下図はあくまで希望的な観測」とツイートして、ネズミ算モデルではなく、「ロジスティック飽和モデル」に変更し、下図を添付した。

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(表作成 : 政策工房)

 

 


 18日には「韓国MERS。データ追加、希望的予測。韓国保健福祉省の目標からみて似たような希望的観測をもっているのでしょう」と、NHKニュース「今月末には感染者出ないように」(http://www3.nhk.or.jp/news/html/20150618/k10010118431000.html)にツイートして、下図を添付した。


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(表作成 : 政策工房)


 

 

  

 飽和感染者数(上限)が250人から190人に下がってきており、沈静化の兆しは見えている。ただし、予断は禁物である。

 

 この「ロジスティック飽和モデル」は毎日新しいデータで修正している。こうすれば、より実態把握でき、先が読めると思う。実際、当初は感染者数の急増がニュースであったが、最近ではその他の死者数などの話題が前面に出てきた。これは、予想通りに感染者数が低減しているからだ。

 マスコミ報道は、韓国MERSでは過度におどろおどろしく扱うので、それに過剰に反応しないためである。

 

 

【労働者派遣法改正案の採決をめぐって対立】

先週10日から12日、派遣労働者の柔軟な働き方を認めることを目的に、企業の派遣受け入れ期間の最長3年という上限規制を撤廃(一部の専門業務を除く)する一方、派遣労働者一人ひとりの派遣期間の上限は原則3年に制限して、派遣会社に3年経過した後に派遣先での直接雇用の依頼や、新たな派遣先の提供などの雇用安定措置を義務づける「労働者派遣法改正案」をめぐって、与党や維新の党と、民主党など他の野党が激しく対立した。

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 衆議院厚生労働委員会の渡辺博道委員長(自民党)が、10日の質疑と11日の個人情報流出問題に関する集中審議の開催を職権で決めたことから、早期採決に反発する民主党と共産党は、日本年金機構がサイバー攻撃で約125万件の個人情報が流出した問題の審議を優先するよう主張するとともに、「強引な委員会運営」「一方的な採決ありきの運営」など批判して委員会を退席、審議中断のまま散会となった。

 個人情報流出問題の長期化を警戒する政府・与党は、被害防止策などを徹底することで早期の沈静化を図りたい考えだが、野党側は、二転三転する日本年金機構や厚生労働省の説明や、日本年金機構のずさんな管理が相次いで発覚していることなどを問題視し、真相が究明されるまで徹底追及の構えをみせている。日本年金機構がインターネット接続を遮断した時期について、これまで個人情報の流出を確認した翌日にはすべてのネット接続を遮断したと説明していたが、流出確認後も1週間にわたり別回線をメール専用として使い続けていたと日本年金機構が説明を変更した。これに、野党側は「虚偽説明だ」などと反発し、引き続き追及していくとしている。

 

 11日、自民党と公明党、維新の党の3党は、維新の党を含む野党で共同提出していた、同じ職務を行う労働者は正規・非正規にかかわらず同じ賃金を支払う「同一労働・同一賃金推進法案」について、「職務に応じた待遇の均等の実現を図る」を「職務等に応じた待遇の均等および均衡の実現を図る」に、法制上の措置を含む必要な措置を講ずる時期を施行後1年以内から「施行後3年以内」に変更し、「その後の実施状況を勘案し、必要があると認めるときは、所要の措置を講ずる」との文言を盛り込むなどしたうえで、修正案を共同提出することで合意した。

これを受け、与党は、11日の衆議院厚生労働委員会理事会で、12日の衆議院厚生労働委員会で労働者派遣法改正案の締めくくり質疑を行ったうえで委員会採決を行うよう提案した。維新の党は「あくまで委員会、本会議に出てきちんと議論するのが国会議員の正しい姿」(馬場国対委員長)と委員会採決に応じたが、改正案を廃案に追い込みたい民主党など他の野党は、採決を強行すれば全面的な審議拒否・日程協議にも応じないと徹底抗戦の姿勢をとった。

 

安全保障関連2法案<平和安全法制整備法案、国際平和支援法>の審議にも影響を及ぼすことを懸念した自民党は、12日の衆議院厚生労働委員会理事会で、12日に審議を終局させるものの、委員会採決は見送る考えを野党側に伝えた。しかし、民主党が委員長職権で12日の質疑を決めたことに抗議して質疑打ち切りの撤回を求めたことから、委員長職権で委員会開会に踏み切った。

委員会開会を阻止しようと民主党議員約35人が委員室前に陣取って安倍総理を取り囲んだり、渡辺委員長の入室を妨害したりと、一時もみ合いとなる事態が生じた。また、早期の審議終了に反発する民主党議員らが立ったままヤジを飛ばすとともに、約15分遅れで始まった質疑も拒否し続けた。

さらに、民主党と共産党は「不正常な状況」だとして、12日に開かれる予定だった衆議院我が国及び国際社会の平和安全法制に関する特別委員会など他の委員会も欠席した。

 

渡辺委員長は、民主党議員ともみ合うなかで首を絞められたこと(全治2週間の頸椎捻挫)を明らかにし、「暴力で思いを成し遂げようとしたのは、言論の府としてあるまじきことで、激しい憤りを感じる」と批判した。民主党は12日の衆議院厚生労働委員会理事会で陳謝したが、自民党は、渡辺委員長が質疑終局を宣言した際に詰め寄って議事進行を妨げた民主党衆院議員3人(山井和則氏、中島克仁氏、阿部知子氏)に対する懲罰動議を衆議院事務局に提出した。

 

 

【改正案、19日にも衆議院通過へ】

 労働者派遣法改正案などをめぐって混乱した国会の正常化に向け、与野党協議を行った。12日の国家基本政策委員会両院合同幹事会で、安倍総理に民主党の岡田代表、維新の党の松野代表、共産党の志位委員長が論戦を挑む党首討論を17日に開催することで基本合意した。

15日には、与野党国対委員長会談を開き、自民党の佐藤勉・国対委員長が「野党の一部と合意できない状況で進めたことは遺憾だった。野党の意見を真摯に受け止めることを約束するので協力をお願いしたい」と述べ、民主党なども「強行的な運営は極めて問題だ。今後、波風を立てないようにしてほしい」(高木国対委員長)と丁寧な国会運営を求めるとともに、労働者派遣法改正案の補充質疑などの環境整備を条件に国会審議に復帰する考えを示した。そして、15日に衆議院我が国及び国際社会の平和安全法制に関する特別委員会で一般質疑、17日に衆議院厚生労働委員会での質疑、18日に安倍総理はじめ関係閣僚の出席のもと衆議院予算委員会で個人情報流出問題や安全保障政策をテーマとする集中審議をそれぞれ行うことで合意した。

 

 表向きは関係修復で足並みを揃えた与野党だが、労働者派遣法改正案の早期採決を阻止したい民主党などは、個人情報流出問題などで引き続き追及を強めていく方針であるのに、労働者派遣法改正案の衆議院の早期通過をめざす与党は、19日の衆議院厚生労働委員会や衆議院本会議での採決は譲らない方針だ。与党は、16日に開かれた衆議院厚生労働委員会の理事懇談会で、19日の衆議院厚生労働委員会で、補充質疑をおこなったうえで採決を行うよう野党側に提案した。共産党は反対を表明したが、民主党は即答を避けた。

 

 また、渡辺委員長に負傷した件で、厚生労働委員会理事の西村智奈美衆議院議員(民主党)が妨害を指示する作戦メモをあらかじめ準備し、それを実行していたことが判明したことで、自民党は、民主党衆院議員3人に対する懲罰動議を衆議院懲罰委員会に付託するよう、15日の衆議院議院運営委員会理事会で提案した。16日の衆議院厚生労働委員会理事懇談会では、与党が民主党に対し「実力行使を肯定する発言があった」として、党としての正式な見解を示すよう求めた。

民主党の長妻代表代行が「数の力でほとんど議論なしに採決するとき、野党がお行儀よく座って見過ごし、法律を通すことが国益にかなうのか」と妨害行為を正当化したことについても、自民党は「民主党の組織的、計画的な暴力による議事妨害、委員長への暴力を正当化する代表代行の発言は、言論の府である国会を妨害するゆゆしい問題」(谷垣幹事長)などと強く非難し、関係者の責任を追及する構えもみせている。

 

 維新の党が労働者派遣法改正案に反対ながらも採決には応じるとしており、改正案は19日にも与党などの賛成多数により衆議院を通過する見通しだ。自民党は、野党の賛同を少しでも多く得て強行採決との批判をかわすねらいから、維新の党と共同提出する同一労働・同一賃金推進法案についても次世代の党に賛同を要請した。採決を前に、再び与野党の激しい攻防が展開されることもありそうだ。

 

 

【安全保障関連法案の合憲性をめぐって議論】

政府が提出した安全保障関連2法案をめぐる憲法論争が続いた。憲法論争に早期の終止符を打ちたい政府は、1972年に国会提出した政府見解と、日本の存立のために必要な自衛措置は国家固有の権能の行使として認められるとの見解を示した1959年の最高裁の砂川事件判決を踏まえ、武力行使の新3要件の下で認められる集団的自衛権の行使は「あくまでも我が国を防衛するためのやむを得ない必要最小限度の自衛の措置にとどまる」とし、従来の憲法解釈との論理的整合性が保たれているからこそ安全保障関連法案は合憲とする見解を文書で改めて示した。これに対し、野党側は、4日の衆議院憲法審査会で憲法学者3人が政府の解釈変更は違憲との見解を示したことを盾に、政府への追及を強めた。

 

10日の特別委員会の一般質疑で、憲法違反と批判する野党側に対し、中谷防衛大臣兼安全保障法制担当大臣は「従来の憲法の基本的論理は全く変えていない。集団的自衛権の一部容認は、わが国の存立を全うし、国民を守るためのやむを得ない自衛の措置として初めて容認されるもので、他国に対する防衛を目的とした集団的自衛権ではない。決して論理的整合性や法の規範から逸脱する内容ではないと私は確信を持っている」と反論した。

また、横畠内閣法制局長官も「憲法9条は自衛のための武力行使を禁じ、その結果、国民が犠牲になることもやむを得ないと命じているものではない」と説明したうえで、「個別的自衛権を超える部分が確かにある。ただ、その実態はわが国に明白な危険が及ぶ場合に限定しており、憲法9条の下でも許容される。国際法上の集団的自衛権一般を許容するものでは決してない」「他国を防衛するための武力行使は憲法を改正しないとできない。政府としてその考えは維持している」と、憲法解釈変更による集団的自衛権の行使容認は限定的で安全保障関連法案は合憲であると強調した。

 

 11日に開催された衆議院憲法審査会に、高村・自民党副総裁と、枝野・民主党幹事長、公明党の北側副代表らが出席し、意見表明した後、安全保障関連法案の憲法論争を中心に自由討議が行われた。

高村副総裁は、関連法案について「従来の政府見解における憲法9条解釈の基本的な論理、法理の枠内で合理的な当てはめの帰結を導いた」と憲法や過去の政府見解などとの整合性が取れていると強調したうえで、「合理的な解釈の限界を超えるものではなく、違憲との批判は全く当たらない」と主張した。集団的自衛権行使の限定容認の論拠として砂川事件最高裁判決を挙げ、「自国の平和と安全を維持し、存立を全うするために必要な自衛の措置を取りうることは、国家固有の権能の行使として当然と言っている。個別的自衛権の行使は認めるが、集団的自衛権の行使は認めないと言っていない」と訴えた。また、憲法学者の主張を根拠に違憲論を主張する野党に対し、「最高裁判決で示された法理に従い、国民の命と平和な暮らしを守り抜くために、自衛のための必要な措置が何であるかを考え抜くのは、憲法学者ではなく政治家」「憲法の番人は最高裁であり、憲法学者ではない」と述べた。公明党の北側副代表も、高村副総裁と足並みをそろえた。

 

これに対し、民主党の枝野幹事長は「論理的整合性が取れないことを専門的に指摘」した憲法学者3人の見解を支持し、「国内を代表する憲法学者がそろって憲法違反と述べたのは重大だ。こうした声を軽視するのは国会の参考人質疑の軽視につながる」「専門家の指摘を無視して、憲法解釈を一方的に都合よく変更する姿勢は、法の支配とは対極そのもの」「論理は専門家に委ねるべきだ。論理の問題と政治判断が含まれる問題の峻別もできないのでは、法を語る資格はない」と、政府・与党の姿勢を非難した。

また、高村副総裁が集団的自衛権の行使容認の根拠としている点について、「砂川判決で論点になったのは個別的自衛権行使の合憲性であって、集団的自衛権行使の可否は裁判で全く問題となっていない」「判決は行使容認には到底結び付かない」と指摘し、「論理の一部をつまみ食いして行使が可能だと導くのは、法解釈の基本に反する」と反論した。

 

 維新の党は、集団的自衛権行使が限定的に容認される場合はあるとしながらも「関連法案は憲法上疑義なしとは言えない」(井上英孝・衆議院議員)と述べた。また、関連法案で自衛隊による後方支援任務が拡大することについて「他国の紛争に加担することになる」(小沢鋭仁憲法調査会長)、「武力行使との一体化と解される可能性がある」(井上英孝・衆議院議員)との懸念を表明した。

共産党は「砂川判決は最高裁が統治行為論をとって、憲法判断を避けたもの」であり、「政府が9日に発表した見解はまったく反論になっていない」(赤嶺政賢・衆議院議員)と批判した。そして、「明確に憲法に違反する法案は廃案にすべきだ」と訴えた。一方、次世代の党は「国会審議を通じて立憲主義は担保される」(園田博之・衆議院議員)と関連法案を支持した。

 

 15日に開かれた特別委員会の一般質疑では、砂川事件最高裁判決が集団的自衛権の行使容認を合憲と判断する根拠になるか否かについて、中谷大臣が「直接の根拠としているわけではない」と1972年の政府見解が基本的論理であるとしたうえで、「砂川判決はこの基本的な論理と軌を一にするもの」と説明した。一方、横畠内閣法制局長官は、他国防衛のための全面的行使までは認められないが、「国際法上は集団的自衛権とされるものでも、わが国を防衛するためにやむを得ない措置は含んでいると解釈できる」「自国防衛に限定するなら含まれるという理解が可能」と、集団的自衛権の限定的行使は砂川判決で認められる点を強調した。民主党は、中谷大臣と、高村副総裁・横畠内閣法制局長官の発言に食い違いがあるとして、引き続き追及する構えを示している。

 また、関連法案の成立後に最高裁判所が違憲判決を行った場合について、違憲との立場を取る民主党は、「これだけ議論になりながらそれを強行的に採決して作り、違憲となれば、大きな責任を負う」「その時の内閣が安倍内閣かどうかわからないが、内閣総辞職に値する」(岡田代表)と主張している。これに対し、中谷大臣は「これまでの最高裁判決や基本的論理に導かれた結果なので、違憲無効となるものとは考えていない」との見解を示したうえで、一般論として「法治国家なので最高裁の判断が出たときには、適切に従っていきたい」と述べるにとどめた。

 

 

【与党、会期延長の検討へ】

 与野党の対立で関連法案の審議が進んでいない状況を踏まえ、自民党と公明党は、めざしていた通常国会の会期末(6月24日)までの衆議院通過・参議院送付、そして会期を40日程度延長して8月上旬までに成立させることが困難との認識で一致し、会期延長の期間について検討に入った。会期延長の期間をめぐっては、関連法案の審議状況を見極めて判断するとしている。8月15日までに戦後70年談話を発表する予定であり、8月下旬から9月にかけて安倍総理らの外交日程や自民党総裁選も控えていることを理由に、当初、8月上旬までに通常国会を閉会するシナリオを描いていた。

しかし、個人情報流出問題の余波で審議が停滞し、攻勢を強める野党を相手に十分な審議時間を今後も確保していくことが難しくなりつつある。6月中の衆議院通過も微妙な情勢で、自民党内では、8月下旬や9月上旬までの大幅延長もやむを得ないとする意見がある一方、野党側の反発で強行採決となるのは避けられないだけに、憲法59条規定にもとづき、参議院送付から60日経過しても関連法案が採決されない場合には衆議院本会議で3分の2以上の賛成により再可決する「60日ルール」の適用も含め、8月10日までの延長期間内に成立させるべきとの意見も出ている。

 

また、なるべく与党だけで関連法案を採決して「強行」と批判されるのを避けたい政府・与党は、「政府は最良の案として提出したが、国会審議の中でより良い考え方が出てくれば耳を傾ける。どのような政党でも修正が出てきた場合は真摯に対応させていただきたい」(菅官房長官)、「真摯な提案があれば受ける用意はある」(公明党の山口代表)と、修正協議に柔軟に応じる姿勢を示している。これに対し、次世代の党は「不十分なところがあるので修正協議を歓迎したい」(松沢幹事長)と、前向きの姿勢を示している。

 

維新の党の松野代表は「現段階での修正協議は全く考えていない」と述べているが、安全保障関連法案の対案を6月中にも国会提出する方針を固めていることから、修正協議も視野にいれているのではないかとの見方も出ている。

党内では、(1)武力攻撃に至らないグレーゾーン事態に対処する「領域警備法案」、(2)他国軍への後方支援で弾薬の提供禁止を盛り込むことなどの「国際平和協力支援法案」、(3)集団的自衛権行使を限定容認しつつ、経済危機を理由とした集団的自衛権の行使は認めないとする「平和安全整備法案」の3法案とりまとめを急いでいる。これまで民主党と共同提出する方向で模索されてきた領域警備法案は、維新の党単独で国会提出する方針だ。また、新たに「特定地域機雷掃海特別措置法案」の提出も検討している。

維新の党を修正協議に引き込んで野党間の分断を図りたい自民党は、落とし処を探っている。関連法案の根幹に関わる修正は難しいとしつつも、維新の党との修正協議を念頭に、領域警備などの法制化は今後の検討課題と位置付け、関連法案の附則や付帯決議、政党間の合意文書などに盛り込む案が浮上しているようだ。

 

 

【当面、与野党動向に注意を】

通常国会の会期末まで1週間を切った。「安全保障法制」「労働法制」「電力自由化」「農協改革」「女性活躍推進」など、安倍内閣の重要法案がいまだ審議中だ。通常国会の会期延長は1度しか行うことができないだけに、近く安倍総理と与党は、難しい判断を迫られることとなりそうだ。

また、こうした法案の多くが与野党対決法案でもあるだけに、野党が反対するなか、与党単独で採決を強行すれば、世論の批判も免れない。このことから、自民党は、農協法改正案などについて、維新の党などとの修正協議をスタートさせている。

会期末をにらんだ与野党入り乱れた対立となっており、水面下での駆け引きも活発となっている。来週24日にかけて流動的な様相を呈しており、与野党の出方が終盤国会の行方などを左右しかねないだけに、よくよく注意してウォッチすることが大切だ。
 

【原 英史・株式会社政策工房代表取締役社長】 

 
 

 通常国会は、6月に入ってから大荒れ模様となりました。

 

 まずは、日本年金機構の125万件の個人情報流出問題。与野党間で争点となっている重要法案が山積の厚生労働委員会は、この問題一色となり、労働者派遣法改正はじめ、法案審議の見通しは不透明になりました。

 

 そして、さらに強烈だったのが、6月4日の衆議院憲法審査会で、参考人の憲法学者3名がそろって、審議中の安全保障関連法案につき「違憲」と発言した問題です。

 

 言うまでもなく、憲法に違反する法律を作ることができないのは大原則ですから、法案審議に重大な影響を与えることになりました。

 

 ただ、ここで、憲法9条という条文の特殊性は踏まえておく必要があると思います。

 

 憲法9条を巡っては、一般的な法解釈学の世界とは別次元で、政策の現場でリアルな憲法解釈論が組み立てられてきた歴史があります。

 

 そもそも、憲法9条は、条文だけをみれば、「戦力」と「交戦権」を認めないというのですから、集団的自衛権どころか、自衛隊の存在そのものに疑いがあります。

実際、憲法学の通説では、近年に至るまで、自衛隊は警察力を超える実力保持にあたるので違憲、とされてきました。

  

 一方、現実の規範となってきたのは、これとは別に、政策現場で作られてきた憲法解釈論です。

 政府は、戦後直後は、通説的見解に近い解釈(「戦力」=「近代的戦争を遂行する能力」)をとっていましたが、国際情勢の変化から、1954年に「自衛隊」を設け、「自衛のための必要最小限度」の実力は認められるという憲法解釈が確立されました。

 ただ、自衛権の行使には厳密な要件を課し、「わが国への武力攻撃」その他の3要件が憲法上求められるとしてきました。

 

 リアルな憲法解釈は、条文の字句解釈というよりは、「国際情勢の中で、どれだけの実力を保持し、どのような活動を認め、どのような制約を課すべきか」という情勢判断・政策判断と表裏一体で形作られてきたわけです。

 

 その後、湾岸戦争以降に自衛隊の海外派遣がさまざまな制約のもとで認められ、周辺事態法で米軍への後方支援ができるようになり、イラク特措法で「非戦闘地域」という概念が導入されました。

いずれにおいても、情勢・政策判断と表裏一体で、憲法上ギリギリ認められる範囲が確定され、法制度が作られてきました。

 

 こうした憲法解釈のあり方にはもちろん賛否あるでしょうが、こちらが現実の規範として機能してきたことは疑う余地がありません。

 

 そして、リアルな憲法解釈を作ってきたのは、誰でしょうか。

 内閣法制局を中心とした政府が勝手に作ってきた、と捉えられることも多いですが、決してそうではありません。

 リアルな憲法解釈が作り上げられた主要な場は、国会です。

 過去の安全保障関連の法案審議などでは、長時間にわたって野党からの厳しい追及がなされ、しばしば修正協議の対象ともなりました。その中で、国会質問に対する答弁などの形をとって、憲法解釈が積み上げられてきたのです。

 そうした意味で、憲法9条の解釈は、政府関係者と、与野党を超えた国会議員たちが作り上げてきたといってもよいでしょう。「合作」のような言い方をすると、結論に反対の立場をとってきた野党の方々には怒られてしまうかもしれませんが、彼らの厳しい質問があったからこそ、精緻で厳格な憲法解釈ができあがったことは否めません。

 

 こうした歴史を踏まえるに、今回、野党から「憲法学者が違憲と言っているので、法案撤回すべき」といった声があがっていることには、違和感があります。

これまで憲法9条のリアルな解釈を作り上げてきたのは、憲法学者ではなく、政策の現場のプロたち(国会議員、政府関係者)です。

 ここにきて憲法学者の名を必要以上に振りかざすようなことはせず、国会の場で自ら、「国際情勢の中で、自衛隊にどのような活動を認めるべきか、どのような制約を課すべきか」という議論をしっかりと行なってほしいと思います。

 

 なお、誤解のないよう申し上げれば、憲法学者の方々の意見がとるに足らないといっているわけでは全くありません。

 6月4日の憲法審査会に出席された3人の憲法学者の方々は、自衛隊違憲論のような条文解釈論を言われたわけではなく、リアルな憲法解釈を前提として「違憲」との主張をされています。これは、国会審議の中でも、大いに耳を傾け参考にすべきです。

 ただ、情勢判断や政策判断と表裏一体での憲法解釈を責任もって議論すべき立場にあるのは、憲法学者以上に政治家たちのはずです。

 

 5月末にスタートした衆議院平和安全特別委員会の法案審議では、こうした観点で、よい議論がなされつつあります。

 例えば、江田賢司議員(維新の党)が「立法事実」(改正が必要な理由)などを明快に問いただした質問(5月28日)、飲酒事件でみそをつけてしまいましたが後藤祐一議員(民主党)が集団的自衛権を発動するケースが広がる可能性を問いただした質問(同)など、聞いていて大変参考になるものでした。

 また、志位和夫議員はじめ共産党の方々からは、「武力行使」との関係などの論点を精緻に詰めていく質疑がなされています。

 

 ぜひ引き続き、こうした議論を国会の場で積み重ねていってほしいと期待しています。

 

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