政策工房 Public Policy Review

霞が関と永田町でつくられる“政策”“法律”“予算”。 その裏側にどのような問題がひそみ、本当の論点とは何なのか―。 高橋洋一会長、原英史社長はじめとする株式会社政策工房スタッフが、 直面する政策課題のポイント、一般メディアが報じない政策の真相、 国会動向などについての解説レポートを配信中!

April 2015

高橋洋一・株式会社政策工房 代表取締役会長】

 ときどき、地方の政治家の話を聞いてびっくりすることがある。
 大阪の出来事であったが、大阪府の財政が橋下知事・松井知事時代に大きく悪化したというのだ。その証拠に、大阪府債の残高の推移をみると、橋下知事になった
2008年から、それ以前と比べて急増しているといい、下のような図を見せられたことがある。 

0430高橋さん
(表作成:政策工房) 


 少し地方財政をかじったことがあれば、近年、臨時財政対策債(臨財債)が、各自治体の債務残高を急増させている要因であることを知っている。そして、地方交付税の財源が不足して、従来であれば、補填国債で賄っていたものを臨財債として地方債に振り替えたことも知っているだろう。臨財債は形式的には地方債であるが、償還に要する費用は後年度の地方交付税で措置されるものであるので、通常の地方債とは別ものとして管理されている。

 

 つまり、臨財債は事実上国の押しつけであり、大阪府に固有なものではなく他の地方自治体にも存在する。そのため、各地方自治体の財政状況を把握するためには、地方債を臨財債とその他を分け、その他で見て、全国と比較して考えるべきものだ。

 

 まず、以下の図が大阪府債残高の推移だ。上の図を臨財債とその他を分けたものだ。

0430高橋さん② 
(表作成:政策工房)



 次の図は、全国ベースでの地方債残高の推移だ。

0430高橋さん③

                                                    


(表作成:政策工房) 

 これらを見ると、2008年以前、全国ではその他は減少しているが、大阪府は横ばいである。2008年以降になると、大阪府はやっと全国並に減少し始める。全国と比較すれば、2008年以前の大阪府は酷かったが、2008年以降やっと全国並になったのだ。


 

 

【与党、安全保障関連法案の主要条文案を了承】

先週24日、政府は、安全保障法制整備に関する与党協議会(座長:高村・自民党副総裁、座長代理:北側・公明党副代表)で、集団的自衛権行使の限定容認を含む安全保障関連法案の主要条文案を提示した。

関連法案は、速やかな国会審議・成立を図るねらいから改正する法律10本<武力攻撃事態対処法、自衛隊法、重要影響事態法案(周辺事態法改正案)、国連平和維持活動(PKO)協力法、船舶検査活動法、米軍行動関連措置法、特定公共施設利用法、海上輸送規制法、捕虜取扱法、国家安全保障会議設置法>を束ねた一括法案と、国際社会の平和と安全のために活動を行う他国軍隊に対する後方支援として自衛隊の海外派遣を随時可能にする恒久法「国際平和支援法」を加えた2法案になるという。政府は、緊急性の高い法案について、早ければ成立から半年をメドに施行していく考えも伝えた。

自民党と公明党は、焦点となっていた国際平和支援法にもとづく自衛隊の海外派遣は例外なく国会の事前承認とすることなどで正式合意した。そして、政府が提示した主要条文案について、3月20日にまとめた「具体的方向性」に概ね沿って法案化されていることが確認できたと強調した。

 

27日の与党協議会では、政府が「基本的な考え方」として(1)存立危機事態で集団的自衛権行使、(2)周辺の地理的概念削除、(3)他国軍の後方支援を目的に恒久法制定、(4)恒久法での自衛隊派遣は国会の事前承認義務付け、(5)PKOなどで駆け付け警護可能に、(6)グレーゾーンで米艦艇など防護可能に、(7)領域国の同意条件に在外邦人救出可能に、の解釈基準を盛り込んだ政府の統一見解を提示した。関連法案で条文化されない論点について、より具体的するよう求めた公明党の要請を受け入れ、政府が異例の統一見解を示すこととなった。

 

日本が集団的自衛権を行使する存立危機事態については、「攻撃国の意思、能力、事態の発生場所、規模などの要素を総合的に考慮し、国民が被ることとなる犠牲の深刻性などから客観的に判断する」とした。日本への武力攻撃が予測される「武力攻撃事態等」に該当することが多いとしたうえで、存立危機事態のみが認定される状況もあり得るとの認識を示した。

また、日本の平和と安全に重要な影響を与える重要影響事態で想定する地域について、「わが国周辺の地域における」や「周辺事態」といった文言を用いず、これまで自衛隊の活動範囲を地理的に制約する根拠としてきた「中東やインド洋は想定されない」との国会答弁も継続しない方針を明確にしたうえで、改正後の自衛隊による他国軍への後方支援の範囲には「これらの地域もあらかじめ排除できない」とした。

こうした政府の統一見解に異論は出ず、関連法案の主要条文案とともに了承された。5月11日の与党協議会に政府が安全保障関連法案の全条文提示を踏まえ、自民党と公明党は正式合意する予定だ。与党の正式合意、自民党と公明党それぞれの党内手続きを経て、政府は、5月14日または15日にも閣議決定のうえ国会に提出するという。

 

 

【野党は党見解の決定、対案づくりを急ぐ】

民主党は、PKOの駆け付け警護やグレーゾーン事態への対処など一部について容認しているが、政府提出の安全保障関連法案すべてに反対する方針だ。27日、安全保障法制に関する党見解を安全保障総合調査会(会長:北沢俊美議員)でとりまとめ、安全保障総合調査会などの合同会議で了承のうえ、岡田代表に提出した。28日の民主党「次の内閣」会合で党見解を正式に決定する。

 

 最大の焦点となっていた集団的自衛権の行使の是非については、「専守防衛に徹する観点から、安倍政権が進める集団的自衛権の行使は容認しない」とすることで決着した。

取りまとめの過程で、集団的自衛権をめぐって賛成派と反対派の認識の差が改めて浮き彫りになっていた。素案段階では、政府案への反対姿勢を明確にするため、「政府の新3要件にもとづく集団的自衛権の行使は容認しない」としていたが、党内から集団的自衛権の行使そのものを否定しかねない表現への反発も出たため、当面は容認しない点を強調しつつも、将来的な行使容認には含みを残す玉虫色の表現となった。

また、政府の武力行使の新3要件による憲法解釈の変更についても「便宜的、意図的で立憲主義に反する」と指摘し、「基準が曖昧で、歯止めがきかない」「専守防衛の根幹から明らかに逸脱している」などと批判する。民主党は、日本が武力行使を行えるのは「相手から攻撃を受けたとき」だけであり、昨年7月の閣議決定以前の政府解釈に戻すべきだとしている。

さらに、政府が示す事例についても「説得力ある説明がまったくなされていない」「行使の必要性を導く立法事実は認められない」と強調している。民主党は「ホルムズ海峡の海上封鎖が日本の存立を脅かす事態に相当するとは考えられない」「中東のシーレーン(海上交通路)の安全確保などを理由とした集団的自衛権の発動は認められない」「邦人輸送中の米艦防護やホルムズ海峡での機雷掃海は蓋然性や切迫性が低い」との立場だ。

 

政府の重要影響事態については、現行の周辺事態法の周辺概念を堅持すべきとしており、国会の関与を強める「議会関与法(仮称)」を検討するという。また、自衛隊の海外派遣を随時可能にする恒久法の制定には反対で、特別措置法で対応すべきとしている。武力攻撃に至らないグレーゾーン事態では海上警備行動の迅速化などを柱とする「領域警備法案」を、駆け付け警護などを可能にする「PKO協力法改正案」を通常国会に提出する方針だ。

このほか、近隣有事を想定した周辺事態法や海上輸送規制法の改正など必要な措置、現在は認められない他国軍の発進準備中の航空機への給油なども検討するとしている。

 

維新の党は、28日の執行役員会で安全保障法制に関する協議を行う予定で、党見解をまとめや対案づくりを急いでいる。

個別的自衛権の範疇に入る集団的自衛権については認める立場だが、存立危機事態を「密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生し、わが国の存立が脅かされる明白な危険がある事態」と定義する政府・与党案は「歯止めが不十分」と主張している。具体的には、「これを排除しなければ(そのまま放置すれば)、わが国に対する武力攻撃が発生し、もしくは発生する明白な危険が切迫し、または事態が緊迫してわが国に対する武力攻撃が予測されると認められるもの」との一文を付け加えて厳格化にする修正素案をとりまとめているという。また、経済危機などでの集団的自衛権の行使を認めず、「わが国に武力攻撃が予測される」場合などに限定するとしている。

 

 また、安全保障関連法案の早期審議入り・一括審議を求めている与党に対し、野党各党は安全保障法制の慎重な審議、十分な審議時間の確保を要求している。関連法案は、与党間調整で法体系などが複雑化しており、条文案でも曖昧なところが残っているだけに、「重い法案を一括して提出するのは非常に乱暴。国民に対して丁寧な説明にはなり得ない」(民主党の安住国対委員長代理)と批判するなど、改正法案を1本ずつ提出・審議するよう求めたいとしている。

 

 

【小型無人機の規制検討へ】

 首相官邸の屋上ヘリポートで小型無人機「ドローン」がみつかった事件を受け、24日、政府は、小型無人機の飛行制限や運用ルールなどについて協議する関係省庁連絡会議(議長:杉田官房副長官)の初会合を開催した。

 

 小型無人機は、災害対応や無人輸送、農薬散布など、さまざまな用途での有効活用を期待する声がある一方、爆発物・放射性物質・細菌・化学物質などを搭載したテロ行為や、盗撮・盗聴行為などに悪用される可能性も指摘されている。

現行の航空法で無線操縦の模型と同じ扱いとなっており、空港の半径約9キロメートル以内でなければ、原則として高さ250メートル未満の空間であれば自由に飛ばすことができる。このことから、昨年12月、運用規制に向けたルールづくりの検討会を国土交通省内に設置し、今月6日から議論をスタートさせたばかりだった。

また、政府の日本経済再生本部は成長戦略の観点から、今年2月にドローンの運用実態の把握や関係法令の検討を進めることについて決定していた。規制改革で地域を活性化する「地方創生特区」で、ドローンの実証実験をすることが決まっている。

 

 今回の事件を受け、与党内から「法的に無防備だったというそしりをうけることは、国家の安全を守るという面からも大変ゆゆしき問題だ。ただちに対処すべき」(自民党の二階総務会長)、「急速な普及を考えると、安全確保や利用内容を検討する早急な対応があるべきだ」「政府重要機関には危機管理でしっかりした対応が望まれる。監視カメラの整備など早急な対応が必要だ」(公明党の山口代表)、「当面の対応策をしっかり取り、重要施設の上空での無人飛行機の飛行について法規制を早急に検討し、今国会中に結論を出すべき」(公明党の井上幹事長)など、迅速な対応を求める意見が相次いだ。

 自民党の二階総務会長は、航空法や電波法改正などの法規制整備を通常国会中に行うよう求める緊急提言を自民党国土強靱化総合調査会(二階会長)でとりまとめ、24日、菅官房長官との会談で手渡した。二階総務会長と菅官房長官は、政府・与党が連携して立法措置を急ぐことを確認したようだ。

 

国土交通省・経済産業省・総務省・警察庁の局長級で構成する政府の連絡会議では、(1)航空法など関係法令改正を含む小型無人機の法規制と運用ルールの見直し、(2)重要施設の警備態勢の強化について検討する2つの分科会を設置することになった。

小型無人機の法規制では、重要施設上空の飛行制限だけでなく、小型無人機の購入者に免許取得の義務づけや購入時の登録制導入の是非、定期的な整備・点検の義務付けの有無のほか、規制対象となる小型無人機の大きさや性能、人口や建物の密集度に応じた飛行可能エリアとその高度の設定方法なども検討課題として挙がっている。政府は、外国での規制状況なども参考に、大型連休明けまでに対応策の方向性をまとめる方針だ。

 

 一方、自民党は、「政府提出法案だけでは議員の職責を果たせない。国会側が態度を示すことで、内閣も機敏な行動が取れる」(二階総務会長)として、24日に治安・テロ対策調査会などの合同部会を開催して、対応策の議論をスタートさせた。二階総務会長は、24日の菅官房長官との会談で、皇居・総理官邸・中央官庁・国会議事堂・大使館・発電所など重要施設の上空を小型無人機の飛行禁止空域として指定し、違反者には罰則を科すことを柱とした法案を議員立法で準備する意向を伝えている。

府作業会長)として、与党側」(二階総務会長)として、与党側でも28日には、小型無人飛行機の規制を検討する小委員会(委員長・古屋圭司前国家公安委員長)を開催し、法案の骨子案を提示した。5月中にも議員立法で法案をとりまとめたいとしている。今後、政府と調整しながら、最終的に政府提出法案に一本化するようだ。

 

 

【野党、危機管理の甘さを追及する方針】

これに対し、野党各党は、政府の危機管理体制の甘さを追及していく構えをみせている。政府のドローン問題への対応について、安倍内閣が進める安全保障法制に絡め、「極めて深刻な事態だ。自衛隊の海外派遣などにうつつを抜かしている前に対応をしっかりやるべきだ」(民主党の枝野幹事長)、「集団的自衛権うんぬんの議論の前に、自らの国家の中枢を守れないようでは話にならない」(維新の党の江田代表)などと批判している。

 

 また、民主党は、24日の衆議院安全保障委員会で、首相官邸の屋上でドローンを発見した直後に放射性物質を検出したことを直ちに発表しなかったことを挙げて「爆発物の可能性や放射性の強さは直ちに判明していなかった。官邸周辺やオフィス、行き来する人たちに注意喚起する必要があったのではないか」(民主党の小川淳也衆議院議員)などと、政府の初動対応の甘さなどを追及した。

これに対し、加藤官房副長官は「官邸警備にかかわる」として政府対応の詳細説明を避けつつ、「警察がただちに調査し、状況を総合的に判断して周辺への注意喚起が必要な段階にはないと判断した」と答弁した。小川議員は「官邸の警備にかかわるは便利な言い回し」「責任の所在、実効性ははなはだ疑問が多い」などと批判した。

 

民主党・維新の党・共産党は、今回のドローン事件で明らかとなった警備体制などの問題をテーマに集中審議を5月の大型連休明けに開催するよう、23日に開催された衆議院内閣委員会理事懇談会で与党側に要求した。23日の懇談会では、警察庁が事件概要を報告し、総理官邸の上空・周辺の警備や、各重要施設の対策を強化する方針について説明した。与党側は持ち帰えることとしたため、連休明けに再協議することとなった。

 

 

【安全保障法制をめぐる与野党の政策・主張に注目を】

日米両政府は、外務・防衛担当閣僚による安全保障協議委員会(2プラス2)を開催し、安全保障法制と連動する日米防衛協力の指針(ガイドライン)の再改定について合意した。新ガイドラインは、平時から有事までの「切れ目のない日米協力」の確立、日本の集団的自衛権行使を前提に島嶼防衛での共同対処、武器等防護・ミサイル防衛・後方支援・海上作戦(機雷掃海や艦船防護など)の協力などの例示など、安全保障関連法案で規定する自衛隊の活動拡大を先取りした内容でまとめられた。

政府の安全保障関連法案の全文案提示を踏まえ、大型連休明けの5月11日にも自民党と公明党で正式合意する。また、民主党や維新の党での党見解・対案づくりも大詰めを迎える。安全保障法制をめぐる与野党動向を抑えつつ、各党の政策・主張を整理してみていったほうがいいだろう。
 

【衆議院議長に大島前予算委員長が就任】

先週20日、体調不良で4月15日から検査入院し、16日と17日の衆議院本会議を欠席していた町村衆議院議長が、川端衆議院副議長に辞表願を提出した。町村氏は、軽い脳梗塞が再発との診断を受けたことを明らかにしたうえで、「議長の責務の重さを考えたとき、いささかなりとも議長の仕事に悪影響が出る恐れがあることは避けなければならない」と辞任理由を説明した。通常国会の後半は、安倍内閣が重視する法案審議が目白押しだ。早期の体調回復が難しく、議長不在により今後の審議への影響・国会運営の停滞は避けるべきと、議長辞任を決断したとみられている。

 

*衆参両院の本会議や委員会での審議模様は、以下のページからご覧になれます。

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 21日、衆議院本会議で町村氏の議長辞職が許可され、新議長に大島理森・前予算委員長(自民党)、新予算委員長に河村建夫・衆議院議員が選出された。大島新議長は「職責の重大さを痛感している。歴代議長の思いを引き継ぎ、公正円満な運営に全力を傾ける」「大いなる議論と結論を出せる国会が国民の期待と信頼に応える姿だ」「少数意見や野党の議論を受け止めながら議論する環境作りが大事で、結論を出すことも立法府の責任だ」などと抱負を述べた。

 

安倍総理や与党は、自民党国対委員長の在任が歴代最長で、公明党や野党に幅ひろく太いパイプを持つ大島氏を新議長に起用することで、通常国会を円滑に乗り切っていきたい考えだ。

大型連休明けの通常国会後半は、集団的自衛権行使の限定容認を含む安全保障関連法案など与野党対決法案の審議入りが控えており、激しい与野党論戦が予想されている。大島氏が昨年5月に安全保障法制整備に関する与党協議会をスタートさせるにあたり、高村座長(自民党副総裁)と北側座長代理(公明党副代表)の間をとりもち、協議を円滑に導いてきた経緯もあるだけに、与党内から大島氏の調整力と安定感に期待する声があるようだ。

大島新議長は「議論することだけが国会の役割ではない」「いかなる法案でも賛成した方、反対した方は有権者への説明責任が大事だ。とりわけ安保法制はそういうことが重要だ」との認識を示した。

 

 また、衆議院議長の諮問機関「衆院選挙制度に関する調査会」(座長:佐々木毅元東京大学長)を軸に、与野党それぞれの主張が異なる1票の格差是正を含む衆議院選挙制度改革のとりまとめも引き継ぐこととなる。大島新議長は「最後は国会で議論し結論を出さなければならない。現実性を踏まえた答申を期待している」と述べた。与野党それぞれが納得のいく改革案を提示できるのか、大島新議長の調整力が問われることとなりそうだ。

 

 

【安全保障法制の与党協議、最終調整へ】

安全保障法制をめぐっては、17日と21日に安全保障法制整備に関する与党協議会(座長:高村・自民党副総裁、座長代理:北側・公明党副代表)を開催して協議を行った。政府は、17日の与党協議で関連法案の概要についてまとめた「安全保障法制の検討状況」を提示した。

 

日本の平和と安全のために活動する他国軍に給油や輸送、弾薬提供などの後方支援するため、現行の周辺事態法を大幅に改正する「重要影響事態安全確保法案」について、政府は、事実上の地理的制約となっている目的規定の「我が国周辺の地域」を削除する一方、「日米安全保障条約の効果的な運用に寄与することを中核とする」と明記することで自衛隊による後方支援目的を絞っていると説明した。適用範囲が無制限にひろがることを懸念して地理的制約を残しておきたい公明党に配慮しつつ、中東・ホルムズ海峡のシーレーン(海上交通路)封鎖により日本への原油輸送が滞る場合などの日本周辺以外の地域の有事も重要影響事態に認定したい政府側の思惑により、「中核」との曖昧な表現になったようだ。

後方支援の対象国として「国連憲章の目的達成に寄与する活動を行う外国の軍隊、その他これに類する組織」を盛り込み、これまで米軍に限定していた支援対象を拡大する。国会関与については、原則として国会の事前承認を要するが、緊急時には事後承認を認めるとしている。 

 

 国際社会の平和と安全のために活動を行う他国軍隊に対する後方支援として自衛隊の海外派遣を随時可能にする恒久法「国際平和支援法案」について、政府は、他国軍との共同活動であることを明確にする意図から、他国軍の後方支援を行うケースを「国際平和共同対処事態」と規定し、その要件を(1)支援対象国が国際連合決議や関連する国連決議にもとづいて活動していること、(2)国会の事前承認を基本とすることと説明した。

 また、国会承認を得る前に政府が閣議決定する基本計画については、「事態の経緯や国際社会の平和と安全に与える影響」「国際社会の取り組みの状況」「日本の対応が必要である理由」について明記することとし、自衛隊派遣の正当性について、政府が説明する枠組みを設けた。基本計画には、活動内容や大まかな活動範囲、部隊の規模・装備、自衛官の安全確保策などについても盛り込まれるという。

 

国際的な平和協力活動については、有志国による人道復興支援や治安維持など国際連合が統括しない活動もできるよう、国連平和維持活動(PKO)協力法を改正して「国際平和協力法案」とする。政府は、PKO以外の自衛隊が行う治安維持や停戦監視活動、人道復興支援などを「国際連携平和安全活動」と規定し、活動内容を「紛争による混乱に伴う切迫した暴力の脅威からの住民の保護」「武力紛争後に行われる民主的な手段による統治組織再建の援助」「武力紛争の再発防止に関する合意の順守の確保」などを挙げている。

PKO以外で自衛隊を派遣する条件について、政府は、国連決議がなくても、欧州連合(EU)や国際司法裁判所、国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)、活動する国の要請がある場合は可能との方針を示した。ただ、UNHCRやEU以外の対象機関について明示せず、対象機関を「政令で定める」として先送りになった。

 自衛隊を海外派遣する際の国会承認については、国会閉会中や衆議院解散時に国会での事後承認も認めることについて、公明党は、これまで例外なき事前承認を主張していたが、人道目的であることから緊急時の事後承認を認める方針だという。

 

集団的自衛権行使の限定容認する武力攻撃事態対処法改正案について、政府は、他国に対するあらゆる武力攻撃と区別するねらいから、存立危機事態(日本と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生し、日本の存立が脅かされ、国民の生命などの権利が根底から覆される明白な危険がある事態)に及ぶ攻撃を新たに「存立危機武力攻撃」と定義すると説明した。

武力行使の新3要件(昨年7月の閣議決定)の第2要件の明記については、当初、「閣議決定したことをあえて法律に書き込む必要はない」と政府・自民党が慎重だったが、他にとりうる手段がないかを探る努力が不可欠と主張する公明党に譲歩して、政府が国会承認を得る際に提出する事態対処の基本方針(武力攻撃事態法第9条)の記載事項に「日本の存立を全うし、国民を守るために他に適当な手段がなく、武力の行使が必要である理由」と盛り込まれた。

 

 

【恒久法、国会の事前承認は例外なしで大筋合意】

 21日の与党協議会では、国際平和支援法での国会関与のあり方について、「事前承認に例外は設けない」ことで自民党と公明党が大筋合意した。当初、政府・自民党は、緊急時の迅速な対応派遣を可能にするため、国会閉会中や衆議院解散時は事後承認を認める例外規定を盛り込むよう主張していたが、自衛隊の海外派遣拡大に歯止めをかけるべく、「例外なく事前承認」を求めた公明党に譲歩した。

 

これにより、政府は、自衛隊への派遣命令前に、閣議決定した基本計画を添えて国会承認を得なければならないとし、総理大臣から承認要請があれば、衆参両院は、国会閉会中または衆議院解散時においても国会を直ちに召集するなど所要の手段を尽くし、承認要請から7日以内に派遣可否を議決するよう努めなければならないとの努力義務を規定することとなった。派遣が長期にわたった場合には、(1)原則2年ごとに国会承認を要請、(2)国会閉会中または衆議院解散時は例外として事後承認を認めるとしている。 

 

国連平和維持活動(PKO)協力法改正案をめぐっては、「陸上自衛隊がイラク南部サマワで行った人道復興支援のような活動が可能になるため、特別措置法の新たな制定は不要」とする政府・自民党に対し、公明党は、イラク派遣当時の政府は停戦合意の認定が困難と判断しており、紛争当事者の間で停戦合意や自衛隊の受け入れ同意などの参加5原則を満たしていないとして「改正後も同様の活動はできない」と主張した。このため、自民党と公明党は「特措法が必要か否かは今後の判断」として棚上げする方針で一致したという。

 

 自民党と公明党との間で最大の焦点となっていた国会関与のあり方などについて決着したことで、24日の与党協議会での主要条文に関する最終調整を行う。日米両政府が外務・防衛担当閣僚による安全保障協議委員会(2プラス2)を27日に米国で開催して安保法制と連動する日米防衛協力の指針(ガイドライン)の再改定で合意、28日に安倍総理が訪米してオバマ大統領との首脳会談に臨む予定であることから、自民党と公明党は、27日にも安全保障関連法案要綱について了承する予定だ。

その後、5月11日の与党協議会に政府が安全保障関連法案の全条文を提示し、与党は具体的な条文で最終確認のうえ正式合意する方向で進める。政府は、5月14日または15日にも関連法案を閣議決定のうえ国会に提出するようだ。

 

 22日、自民党の谷垣幹事長と公明党の井上幹事長ら与党幹部が会談し、関連法案の審議日程について協議し、5月19日または21日の衆議院本会議で審議入りすることをめざすことを確認した。ただ、与党は、すでに国会提出している労働者派遣法改正案・労基法改正案や農協改革関連法案の審議入りを優先させる方針で、21日の審議入りになる公算だ。民主党は「政府案が出てきて党内議論なしで議論しろというのは乱暴だ」(安住国対委員長代理)だとして、性急な審議入りに反対する考えを示していることから、26日以降にずれ込む可能性もあるという。

関連法案の閣議決定・国会提出後、与党は、与野党国対委員長会談を開催し、連日審議することが可能な特別委員会を衆参それぞれに設置することを野党に呼び掛ける方針だ。自民党は、衆議院に設置される特別委員会の委員長に、防衛大臣や衆議院安全保障委員長などを歴任した浜田靖一衆議院議員を充てる人事を内定している。浜田氏は与党協議会のメンバーではないことから、一定の中立性を保つ観点から人選されたようだ。特別委員会は、少なくとも40人規模の委員で構成する大型の委員会になるとみられている。

 

 

【安全保障法制をめぐる動向に注目を】

国会では、法的分離による送配電部門などの中立性確保や小売料金の規制撤廃、電力・ガス・熱の取引の監視を行う電力・ガス取引監視等委員会の設置など柱に、エネルギー分野の一体的なシステム改革を実施するための「電気事業法等改正案」や、独立行政法人改革の総仕上げとして、厚生労働省や国土交通省、文部科学省などが所管する独立行政法人の組織見直しなどを盛り込んだ「独立行政法人制度改革関連法案」などが審議入りしている。

そして、安全保障法制をめぐる与党協議が大詰めを迎えており、来週27日にも自民党と公明党が法案要綱について実質合意する予定でいる。一方、民主党や維新の党でも意見集約を進めており、野党側の検討作業もヤマ場を迎えつつあるようだ。与党協議や野党側の検討状況、各党の政策・主張などを抑えつつ、通常国会後半の主要争点となる安全保障関連法案がどのような内容に仕上がるのかについて見極めておいたほうがいいだろう。

【2015年度本予算が成立】

 先週9日、参議院予算委員会で、一般会計総額96.34兆円(前年度当初予算比0.5%増)の2015年度本予算案に関する締めくくり質疑と採決が行われ、与党などの賛成多数により可決した。その後、参議院本会議に緊急上程され、2015年度本予算は可決、成立となった。

これにより、3月30日に成立した、4月1日から11日間分の諸経費などを盛り込んだ暫定予算は失効し、本予算から執行されたとみなされることとなった。

 安倍総理は「地方の創生、被災地の復興、子育て支援、難病対策。そうした政策を力強く進めることができる。景気回復の暖かい波をしっかりと全国津々浦々に届けるため、全力を尽くしたい」と述べ、円滑かつ着実な予算執行で景気を下支えしたい考えだ。 

 一方、本予算に反対した野党は、「本当に地方が元気になるのか疑問」(民主党の細野政調会長)、「財政再建はあまり考慮されず、身を切る改革や行財政の抜本改革もない」(維新の党の片山総務会長)、「消費税を増税しながら社会保障を切り捨て、大企業に減税をばらまき、軍拡に走る悪い予算」(共産党の山下書記局長)、「働く者、国民生活を犠牲にした予算」(社民党の吉田党首)などと批判した。

 

*衆参両院の本会議や委員会での審議模様は、以下のページからご覧になれます。

  衆議院インターネット審議中継参議院インターネット審議中継

 

2015年度本予算は、「地方創生」「女性の活躍推進」「防衛予算の充実」など、安倍内閣の政策路線が色濃く反映された内容となっている。

地方創生関連では、総合戦略に係わる分として7225億円を充てたほか、1兆円の予算枠(まち・ひと・しごと創生事業費)を新たに計上した。また、地方税収や交付税などを原資に自治体が自由に使える地方一般財源の総額は、過去最高の61.5兆円となった。

 女性の活躍推進関連では、今年度当初比1000億円を増額し、待機児童解消(7023億円)、女性の貧困対策(就労・自立支援などに400億円)、正社員への昇格を希望する女性らを支援する「正社員実現加速プロジェクト」(321億円)などを盛り込んだ。

 

政策経費72.89兆円(今年度当初比0.4%増)の約4割を占める社会保障費は、高齢化の進展に伴う自然増を介護報酬改定や生活保護の支給基準の見直しなどで圧縮したものの、子ども・子育て支援の拡充などが盛り込まれたことで、総額31.53兆円(今年度当初比3.3%増)と過去最大になった。

また、防衛関係費に尖閣諸島などの領海警備・警戒監視体制の強化や島嶼防衛の強化・装備品調達などを盛り込み、4.98兆円(在日米軍再編経費含む、今年度比2%増)と過去最大となった。このほか、公共事業費は前年度当初予算比で横ばいに、文教・科学振興費は前年度当初予算比1.3%減に抑えた。

 

 歳入面では、企業業績の改善などにより約54.53兆円(今年度当初比9.0%増)の税収を見込んでいる。これにより、歳入不足を補う新規国債発行額は、約36.86兆円(赤字国債:30.86兆円、建設国債:6兆円)に抑えられた。

歳入に占める国債発行額の割合を示す公債依存度は38.3%(4.7ポイント減)に低下、新規国債発行をせずに政策経費(国・地方)をどれだけ賄えているかを示す基礎的財政収支(プライマリーバランス)赤字の対国内総生産(GDP)比は3.3%程度となる見込みだ。

 

 ただ、依然として予算総額の4割弱を国債に依存する状況が続いている。また、消費税率10%への引き上げの先送りなどにより、2020年度までにプライマリーバランスを黒字化させる財政健全化目標の達成の道筋がついていない。

新たな財政健全化計画を今年の夏までにまとめる方針で、政府・与党は議論を本格化させる。政府の経済財政諮問会議(議長:安倍総理)は、税収増や国有財産の活用などの「歳入改革」、社会保障や地方財政などの「歳出削減策」を健全化計画に盛り込む方向で検討しているようだ。自民党も、独自の計画策定に乗り出している。

今後、経済の好循環を確かなものにしつつ、「社会保障関係の歳出をいかに抑制するか」(麻生財務大臣)も含め、実効性のある具体策を示せるかが焦点となるだろう。

 

 

【安全保障法制整備に関する与党協議会が再開】

 通常国会後半の主要争点となる安全保障法制をめぐっては、政府が5月14日または15日にも関連法案を閣議決定のうえ国会に提出する方針で、3月20日の与党合意に即して法案化作業を進めている。14日、自民党と公明党は、安全保障法制整備に関する与党協議会(座長:高村・自民党副総裁、座長代理:北側・公明党副代表)を再開し、政府が提示する法案条文にもとづく最終調整に入った。

 

14日の協議会では、政府が関連法案の全体像を示した。日本の平和と安全のために活動する他国軍を後方支援するため、現行の周辺事態法を大幅改正して名称を「重要影響事態安全確保法」に変更して、事実上の地理的制約となっている周辺事態を「日本の平和と安全に重要な影響を与える事態(重要影響事態)」へと再定義し直す。また、日米安保条約の効果的な運用に寄与し、重要影響事態に対応して活動する米軍および米軍以外の他国軍に、給油や輸送、弾薬提供などの後方支援を随時可能にする。

国際社会の平和と安全のために活動を行う他国軍隊に対する後方支援として自衛隊の海外派遣を随時可能にする恒久法の名称を「国際平和支援法」とし、有志国による人道復興支援や治安維持など国際連合が統括しない活動もできるよう、国連平和維持活動(PKO)協力法の名称を「国際平和協力法」に変更する。国連が関与しない人道復興支援活動について、欧州連合(EU)や国際司法裁判所などの要請でも自衛隊派遣が可能とするよう提案した。

自衛隊の海外派遣に慎重な公明党が歯止めの一つとして求めている国会の関与については、「事前承認を基本」としつつも、国会閉会中や衆議院解散時は事後承認を認める例外規定を盛り込むよう提案した。国会承認にあたっては、派遣理由や活動内容、大まかな活動範囲、部隊の規模・装備、自衛官の安全確保策などを盛り込んだ「基本計画」を閣議決定のうえ国会報告(詳細な活動地域を盛り込んだ実施要項は非公表)を義務付ける。

事後承認を認める例外規定を設ける点について、例外なく事前承認とするよう主張してきた公明党は「解散時は参議院で緊急集会を開くことも可能で、事後承認の規定は本当に必要なのか」と疑問を呈したため、引き続き協議することになった。

 

憲法9条の下で許容される集団的自衛権については、日本の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される事態などの「武力行使の新3要件」(昨年7月の閣議決定)にあてはまる事態を「存立危機事態」と位置づけ、武力攻撃事態法に武力行使が可能な事態の定義などを盛り込む。

公明党は、自衛隊が武力行使しうる集団的自衛権の行使はより限定的にすべきと主張し、第2要件「国民を守るために他に適当な手段がない」を自衛隊法改正案や武力攻撃事態法に明記するよう求めていたが、結論は先送りとなっている。当初、政府・自民党は、条文に明記する必要はないとしていたが、集団的自衛権の行使に慎重さを求める公明党に配慮して条文に明記する可能性がでてきた。

 

 

【野党も安全保障法制の対案づくり】

自民党と公明党は、日米両政府が外務・防衛担当閣僚による安全保障協議委員会(2プラス2)を27日に米国で開催して安保法制と連動する日米防衛協力の指針(ガイドライン)の再改定で合意、28日に安倍総理が訪米してオバマ大統領との首脳会談に臨む予定であることから、今月末までに関連法案の要綱をとりまとめて大筋合意することをめざして、協議会を週2回ペースで開催して作業を加速させることを確認している。

 とはいえ、政府・自民党と公明党の間で主張に隔たりから、積み残された課題もある。今後の与党協議では、自衛隊海外活動の3原則(国際法上の正当性、国民の理解と民主的統制、自衛隊員の安全確保)を関連法案の条文でいかに担保するかを中心に、以下のような点が主な争点となるようだ。

○重要影響事態の概念をどこまで明確にするのか(公明党が主張する一定の地理的制約が維持されるか否かも含め)

○恒久法で定める自衛隊の海外派遣手続きとして、国会の事後承認を認めるか否か

○国連が関与しない人道復興支援活動で他の国際機関の派遣要請を容認するか否か

○武力行使の新3要件をどこまで条文に書き込むのか

 

一方、民主党や維新の党は、国会論戦に備えるべく、安全保障法制の対案づくりをそれぞれ進めている。

民主党は、恒久法の整備に反対で、武力攻撃に至らないグレーゾーン事態に対処する「領域警備法」の整備、自衛隊の駆け付け警護や任務を遂行する際に妨害を排除するための武器使用を容認する「国連平和維持活動協力法」の改正などを検討している。集団的自衛権の行使をめぐっては、限定容認論と反対論とが混在しており、いまのところ意見集約には至っていない。

 維新の党は、領域警備法の整備を民主党とともに検討しており、国際社会の平和と安全のために活動を行う他国軍隊に対する後方支援として自衛隊の海外派遣を随時可能にする恒久法については独自案を提出する方向で検討しているという。

 

こうした法案内容とあわせて注目されているのが、国会での審議時間をめぐってだ。安倍総理は、通常国会中の成立に強い意欲を示していることから、与党は、連日審議することが可能な特別委員会を衆参それぞれに設置して法案審議に臨む方針でいる。

当面の国会日程は、与党ペースで進む可能性が高いが、後半国会は与野党対決法案が目白押しで、野党側も対決姿勢を強めていくことも考えられる。すでに、民主党などが関連法案の成立を急ぐ与党の姿勢について批判している。また、与党内からも、安全保障法制の整備にあたって「丁寧な審議に応じる姿勢を示すべきではないか」と、強引な国会運営は避けるべきとの声が上がっている。

このことから、自民党は、十分な審議時間を確保する点から、通常国会の会期を8月上旬まで延長する方向で検討している。ただ、通常国会の会期延長は1回しかできないことから、他の法案審議への影響も踏まえ、会期末(6月24日)近くに延長幅を判断するようだ。

 

【献金規制、野党が実務者協議開催で合意】

通常国会前半で焦点の一つになっていた国の補助金を受けた企業・団体の政治献金問題について、野党側は、政治資金規正法の改正に消極的な安倍総理や自民党に対し、「閣僚に政治とカネの問題があるのに、自民党には反省し、制度改正する姿勢が見えない」(民主党の細野政調会長)、「イニシアチブを取ろうという考えがない」(維新の党の片山総務会長)、「企業団体献金は政治を金の力で変える賄賂性を持っている。全面禁止に踏み切るべきだ」(共産党の山下書記局長)などと批判している。引き続き、より厳しい再発防止策や企業・団体献金の規制策を求めていきたいとしている。

 

民主党は、10日、国が補助金を受けた企業・団体に1年間の献金禁止を通知することや、政治家側に企業・団体に補助金受給を確認する文書を出すことの義務づけなどを柱とする政治資金規正法改正案を衆議院に提出した。民主党の改正案では、災害復旧や試験研究・調査などの補助金を受け取る企業・団体からの政治献金を例外的に認める規定を削除し、独立行政法人など国以外の団体を経由した補助金も規制対象としている。例外とする場合、個別の立法措置によって定めるとしている。違反者への罰金は、現行の「50万円以下」から「100万円以下」に引き上げる。

当初、民主党は、他の野党と協議のうえ政治資金規正法改正案を一本化して国会に共同提出する道を模索していたが、14日の野党国対委員長会談で他の野党に協力を呼びかかることとなったため、すでに企業・団体献金を全面禁止する政治資金規正法改正案提出している維新の党や共産党の同様、単独提出することにした。

 

企業・団体献金の全面禁止を主張する維新の党、政治資金パーティー券購入(実費分の徴収除く)も含め企業・団体献金の全面禁止を主張する共産党に対し、与党と協議できる状況をつくることを優先したい民主党は、企業・団体献金の全面禁止を企業・団体によるパーティー券購入禁止と併せて検討する将来的課題としている。

このことから、野党間で規制強化などについて一致点を探るべく、14日の野党国対委員長会談で、野党5党の実務者協議を近く開催することで合意した。また、民主党・維新の党・共産党それぞれの改正案を衆議院政治倫理・公職選挙法改正特別委員会で審議入りするよう、与党側に求めていくことでも確認している。

 

 

【委員会付託・審議入り状況の確認を】

予算成立を受け、安倍総理は、通常国会の後半について「この国会を私たちは改革断行国会と位置づけている。農政や働き方、電力、医療制度など戦後以来の大改革を進めていく。国民の命を守るための安全保障法制もしっかりと取り組んでいきたい」と述べ、通常国会中の成立に強い意欲を示した。今後の焦点は、柔軟かつ多様な働き方へと広げる「労働者派遣法改正案・労働基準法改正案」、集団的自衛権行使の限定容認を含む「安全保障関連法案」、農業・農協改革を推進する「農業関連法改正案」などに移る。

衆参両院の各委員会で審議され始めている。今後、どのような法案が付託・審議されていくのかなどについて、まず確認しておいたほうがいいだろう。
 


高橋洋一・株式会社政策工房 代表取締役会長】

 先般の大塚家具の父娘のバトルでは驚いたことが多かった。その一つに、上場会社なのに同族会社のような株主構成だ。日本では、上場は一種の社会ステータスを獲得するために行うことが多く、大塚家具のような事実上同族会社であっても、上場されているところは少なくない。
 
 これほどの極端な同族会社とはいわないまでも、日本では安定株主が多く、浮動株主が少ない。これは、コーポレートガバナンスの上でも問題ではないだろうか。こうした株主構造では、客観的な財務諸表分析はあまり重要視されないで、内輪のロジックが優先しがちであろう。

 日本のか浮動株主比率は、先進国の中では高いほうとはいえない。アメリカ、イギリス、スイス、オーストラリアなどの市場は、浮動株主比率が9割程度もあって、開かれた市場である。一方、中国などの新興国は、上場していても政府や関連会社が大株主となっており、浮動株主比率は2~4割程度で低い。世界の市場は、先進国と新興国があるので、平均の浮動株主比率は7割程度である。日本は先進国の中では最低ランクだ。

 浮動株主が少ない日本では、先進国ではまずみられない「親子上場」がある。そういえば、日本郵政の上場は、親子上場で今年最大の上場劇としてすでに話題になっている。

 日本郵政は、親子上場のみならず、途上国のような政府が大株主だ。もちろん、はじめの上場では仕方ないのであるが、問題なのは、将来にわたって金融2社に対しても、政府が実質的に株を保有し続けるという点だ。

 筆者が役人時代に担当した小泉政権での郵政民営化では、金融2社は政府が株を持たない完全民営化とされていたが、その後の政治情勢で覆されたわけだ。つまり、民主党への政権交代の後に郵政民営化法が改正された結果だ。

 その際、政策投資銀行と商工中金でも、同じように、政府が株式を保有しないという完全民営化方針が覆され、政府が株式を保有し続けるという制度改正が行われている。そして、そうした制度に基づいて、最近天下りが復活している。

 残念ながら、そうした制度改正を元に戻すような政治的なパワーは今のところあまり感じられない。
民営化路線を敷いた小泉氏が、今や反原発の運動家のようになっているが、政治家の感性にはこれも微妙に影響している。金融会社に対して政府が株主になるという現在の途上国のような状況は明らかにおかしいが、それを政治的リスクをかけてまで元に戻すようなパワーがなかなかでにくいのが現状である。 

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