政策工房 Public Policy Review

霞が関と永田町でつくられる“政策”“法律”“予算”。 その裏側にどのような問題がひそみ、本当の論点とは何なのか―。 高橋洋一会長、原英史社長はじめとする株式会社政策工房スタッフが、 直面する政策課題のポイント、一般メディアが報じない政策の真相、 国会動向などについての解説レポートを配信中!

March 2015

【暫定予算が成立】

 先週27日、一般会計総額96.34兆円(前年度当初予算比0.5%増)の2015年度本予算の年度内成立が困難になったことを受け、政府は、国民生活に影響が及ばないよう、4月1日から11日間分の諸経費などを盛り込んだ暫定予算案を閣議決定のうえ、通常国会に提出した。

 暫定予算案には、地方自治体に年4回配る地方交付税交付金1回分(2.97兆円)や、年金や生活保護費など社会保障関係費(2.15兆円)を中心に、必要最小限の経費が計上されており、歳出総額は5.75兆円となった。東日本大震災復興特別会計では、303億円(除染費用など114億円を含む)が計上されている。

30日、衆参それぞれの予算委員会、衆議院本会議での質疑・採決を経て、参議院本会議に緊急上程され、与党などの賛成多数により可決・成立した。暫定予算は、2015年度本予算成立後、速やかに本予算へ吸収される。


*衆参両院の本会議や委員会での審議模様は、以下のページからご覧になれます。

  衆議院インターネット審議中継参議院インターネット審議中継

一方、本予算案は、4月第2週にも成立する見通しだ。26日、委員会採決の前提となる中央公聴会が開催された。中央公聴会に出席した有識者は、財政健全化への取り組み強化や雇用改善策、所得格差の是正などを求める意見を述べた。

27日には、経済・財政・国際問題をテーマにした集中審議が、安倍総理と関係閣僚が出席して開催された。違法な長時間労働を強いるなど、労働環境を軽視するブラック企業が問題となっていることを踏まえ、安倍総理は「社会的に影響力の大きい企業が違法な長時間労働を繰り返している場合には、是正を指導した段階で公表する必要がある」と、是正指導段階での企業名公表に前向きな考えを示した。労働基準法に違反した企業が労働基準監督署の是正指導に従わなかった場合、書類送検と同時に企業名公表が原則となっているが、是正指導段階で企業名を公表することで、違反の防止を徹底し、企業の自主的改善を促したいとしている。具体的な方法は、塩崎厚生労働大臣の下で検討される予定だ。

 

 与党は、4月9日にも本予算を成立させたい考えだが、統一地方選を意識して党のアピールなどを行いたい野党各党は、安倍総理の認識・発言を問い質したり、下村文部科学大臣の政治献金問題などを追及したりしている。ただ、衆議院の優越を定めた憲法規定により4月12日に本予算が自然成立することから、委員会審議はほとんど紛糾することなく、淡々と進められているようだ。

 

 

【国会監視機関が始動】

 昨年12月に施行された特定秘密保護法にもとづく特定秘密に関する政府の運用状況を国会が監視する常設機関「情報監視審査会」の参議院の委員人事(自民党4人、公明党1人、民主党2人、維新の党1人)について、25日、参議院本会議で与党などの賛成多数により選任された。

 30日には、衆参両院の情報監視審査会の初会合がそれぞれ開催された。初会合では、各委員が秘密を外部に漏らさないとの宣誓書に署名した後、衆議院側が額賀福志郎氏(自民党)を、参議院側が金子原二郎氏(自民党)を、それぞれの会長として互選した。

昨年末の衆議院解散・総選挙の実施に加え、審査会委員の割りあてなどをめぐって与野党の調整が難航して、審査会の運用開始が遅れていたが、ようやく始動するに至った。

 

 審査会は、特定秘密の指定・解除状況についての報告を政府から年1回は受けるとともに、国会側が必要と判断した特定秘密の提出を要求することができる。政府の運用が恣意的・不適切と判断される場合には、指定解除など運用改善を政府に勧告することができる。審査会開催には委員3分の1以上の要求が必要で、案件決定には過半数が原則となっている。会議内容も原則として非公開で、特定秘密を漏らした委員は処罰対象となる。
 

ただ、審査会の勧告には強制力がなく、政府側が勧告に従う義務もない。また、国の安全保障に著しい支障を及ぼすような情報について、政府側は国会からの要求でも提示を拒むこともできる。さらに、審査会の運営が与党ペース(衆参それぞれの委員8人のうち、与党が衆議院で6人、参議院で5人)で進む可能性が高く、監視体制が適切に機能するかも危惧されている。どこまできめ細かくチェックでき、どのように実効性を担保していくかが今後の課題だ。

審査会では、まず具体的な審査ルールづくりなど運営をめぐる協議からスタートするという。6月をメドに政府が国会への初回報告を行う見通しで、今後、審査会がどのように機能していくのかが問われることとなりそうだ。

 

 

【各党がめざす献金規制のあり方、出揃う】

国の補助金を受けた企業・団体からの政治献金のあり方をめぐって、与野党は、それぞれの主張を行っている。自民党や公明党は、国の補助金交付決定から1年以内の献金を禁じた政治資金規正法の趣旨とその内容を周知徹底することがまず重要で、現行法令下で運用改善、党内のチェック機能強化などにより対応すべきと主張している。

一方、野党は、政治資金規正法改正による規制強化を主張する。維新の党は、企業・団体献金を全面禁止する政治資金規正法改正案を議員立法で国会に提出した。共産党も、政治資金パーティー券購入(実費分の徴収除く)も含めすべての企業・団体献金を禁止する法案を通常国会に提出する方針だ。次世代の党や社民党も全面禁止を掲げている。

 

 民主党は、26日、政治改革・国会改革推進本部(本部長:枝野幹事長)の総会で、政治資金規正法の改正を軸とした企業・団体献金の規制強化策をとりまとめた。

民主党の改正案では、災害復旧や試験研究・調査などの補助金を受け取る企業・団体からの政治献金を例外的に認める規定について削除し、独立行政法人など国以外の団体を経由した補助金も規制対象にしたうえで、補助金を受けた企業・団体に1年間の献金禁止を国が通知するよう義務づけるとともに、政治家側も企業・団体に補助金受給を確認する文書を出すことを義務としている。

違反者に対する罰金は、現行の「50万円以下」から「100万円以下」に引き上げる。また、租税特別措置による税の優遇措置を受けた企業・団体の献金を新たに規制することを検討するほか、寄付金の税額控除制度の拡大など個人献金の拡充を図るとしている。

 

ただ、他の野党が主張している全面禁止については「法案化を進める」と、今後の検討課題として明記するにとどめた。民主党内には、「改革政党をアピールするチャンス」として、パーティー券購入を含めた全面禁止に踏み込むべきとの声もあったが、全面禁止による政治活動への影響を懸念や、「自民党が乗らなければルールとして確立されない」(安住国対委員長代理)などの慎重論も根強くあり、将来的な全面禁止として先送りにした。また、違反した企業・団体の補助金全額返金についても検討されていたが、今回は見送った。

民主党は、4月中をメドに与野党協議を呼びかけたうえで、改正案を通常国会に提出するかどうかを判断する方針でいる。ただ、政治資金規正法の改正に否定的な与党、全面禁止を訴える他の野党それぞれ主張の隔たりがあるだけに、いまのところ他党の協力が得られるかは微妙な情勢だ。

 

 

【予算案の採決日程をめぐる攻防に注目】

 暫定予算が成立し、年度内に成立しないと国民生活に影響が出る日切れ法案の成立メドがほぼたちつつある。また、来年度予算は、遅くとも4月12日には成立する。安全保障関連法案や農協改革関連法案など重要法案の審議は、統一地方選後になる見通しだ。与野党は、26日に公示された統一地方選の前半戦に注力しており、国会審議は事実上、休戦状態へと向かいつつある。

 

当面の焦点は、2015年度本予算案の採決日程だろう。与党は4月9日の参議院本会議で可決・成立させたい考えだ。しかし、参議院外交防衛委員会の片山委員長(自民党)が30日の同委員会理事懇談会に遅刻したことで、野党側は、理事懇談会開催を見送り、徹底追及の構えをみせている。自民党の吉田参議院国対委員長が謝罪したが、野党側は片山委員長の遅刻は2度目で、再発防止を申し入れた経緯があるだけに、「あまりに配慮に欠ける」と反発している。

 これにより、31日の参議院外交防衛委員会で審議される予定だった日切れ法案のひとつ「在外公館の名称及び位置並びに在外公館に勤務する外務公務員の給与に関する法律の一部を改正する法律案」の年度内成立は、困難な情勢となった。与野党の参院国対委員長間で対応を話し合うこととなる見通しだが、今後の展開次第では、予算案の審議・採決に影響を与える可能性もある。水面下での与野党の駆け引きも含め、予算案の採決日程をめぐる攻防の行方に注目しておきたい。

高橋洋一・株式会社政策工房 代表取締役会長】


 2014年11月の沖縄県知事選以降、辺野古の埋め立て工事が順調にいっていない。
 
 ついに、翁長知事は、23日、辺野古移設について防衛省沖縄防衛局に対し、水産資源保護法の沖縄県漁業規則に基づく作業の中止を指示した。これに対し、防衛省は行政不服審査請求にでて、水産資源保護法を所管する農水省は沖縄県の指示の効力を止める方針だ。そして、農水省が、沖縄県と防衛省沖縄防衛局の両方の意見を聞き、知事の妥当性を判断する予定だ。
 
 
 ここで、辺野古埋立に関する沖縄県の関与について、制度を確認しておこう。一つは、公有水面埋立法に基づく県知事の承認である。同法では「国ニ於テ埋立ヲ為サムトスルトキハ当該官庁都道府県知事ノ承認ヲ受クヘシ」(第42条)とされ、国土利用上適正かつ合理的であること、環境保全・災害防止に配慮していることなどを条件としている。この県知事の承認は、当時の仲井真知事によって2013年12月に行われた。もちろん、法律上の要件を満たしているから、承認が行われたわけだ。その後、国からの一部変更申請も承認されている。これらの承認に基づき、国は既に埋め立て設計、水域生物等調査検討などの事業を行ってきた。
 
 
 もう一つは、今回話題になっている水産資源保護法の沖縄県漁業調整規則に基づく県知事の岩礁破砕許可。県漁業調整規則では、「漁業権の設定されている漁場内において岩礁を破砕し、又は土砂若しくは岩石を採取しようとする者は、知事の許可を受けなければならない。」(第39条第1項)とされ、「知事は、第1項の規定により許可するに当たり、制限又は条件をつけることがある。」(第39条第3項)とされている。この県知事の許可は、条件が付されて、当時の仲井真知事によって2014年8月に行われた。その際、許可条件として、「公益上の事由により県が指示する場合は従わなければならず、条件に違反した場合には許可を取り消すことがある」とされた。今回、この許可条件に基づく県知事の指示が行われた。
 
 
 日米両政府が普天間返還に合意した1996年以降5回の知事選において、翁長知事は、辺野古移設反対を掲げて初めて勝利した知事だ。だが、逆にいえば、それまで反対しなかったので、辺野古埋立への既成事実が積み上げられてきた。

 2014年11月の沖縄知事選で、辺野古移設反対を政治的に実行できる可能性はほとんどないのに、それを公約としても、現実問題として実行するのはかなりの無理筋といわざるをえない。
 
 
 沖縄知事選中、翁長氏は、承認決定をひっくり返すために、「過程を検証し、法的問題があれば承認を取り消せる」と主張していた。沖縄県は、今年2月に検証するために第三者委員会を立ち上げて、6月までに結論を出す予定だった。
 
 
 しかし、今回、それを待てずに、上記の許可条件を強引に使ってきた感じだ。これからの行政不服審査の審理の中で、従来の許可条件の実行の事例などと照らして、今回の指示が正当なものであるのか、裁量権の乱用なのかがが慎重に議論されるだろう。
 
 
 行政不服審査の審理は数ヶ月かかる予定なので、政府対沖縄県の辺野古騒動は水入りである。ただし、行政不服審査は政府が勝つだろうから、それを待たずに、沖縄県は裁判所に行政事件訴訟を起こすだろう。
 

 もっとも、この場合においても、裁判所は、案件が高度な政治性を有するといい、いわゆる「統治行為論」から判断を下さない場合もある。司法手続きでも、沖縄県が勝つ可能性は少ないといわざるをえない。

 政府としては、今後、県民感情を害しないためにも不測の事故を起こさないように、慎重に手順を進めていくだろう。場合によっては、次の沖縄県知事選までゆっくり進めて、辺野古移設に拒否反応が少ない知事の誕生を待つくらいの我慢強さが必要だろう。
 

【政府、暫定予算案の編成着手へ】

先週16日、一般会計総額96.34兆円(前年度当初予算比0.5%増)の来年度予算案が、参議院予算委員会で実質審議入りとなった。委員会採決の前提となる中央公聴会をめぐっては、18日の参議院予算委員会理事懇談会で、26日に行うことで与野党が合意した。また、27日に安倍総理と関係閣僚が出席して集中審議を開催することも決まった。テーマなど詳細については、改めて協議するという。


*衆参両院の本会議や委員会での審議模様は、以下のページからご覧になれます。

  衆議院インターネット審議中継参議院インターネット審議中継

来年度予算は、参議院で採決に至らなかった場合でも、衆議院の優越を定めた憲法規定により4月12日に自然成立する。与党が年度内成立を事実上、断念していることから、政府は、国民生活に影響が及ばないよう、地方交付税交付金や社会保障関係費など、来年度4月1日から11日間分の必要最小限の諸経費を盛り込んだ暫定予算案の編成に着手する。政府・与党は、5.7兆円規模とする方向で調整している。27日までに暫定予算案を編成のうえ閣議決定・国会提出する見通しで、今年度末までの成立をめざす。

 

 一方、民主党・維新の党など野党6党は、20日、各事業年度最終日の資本金額が100億円超の国内に本店などのある企業法人(約1000社)に対し、確定申告書等に記載されている所得金額や法人税額などを公表するよう政府に義務付ける「法人税法の一部を改正する法律案」を参議院に共同提出した。法人税法改正案は、参議院財政金融委員会に付託された。

高額納税者(個人・法人)の公示制度は個人情報保護などを理由に2006年に廃止されていたが、民主党は「法人の公示制度の廃止は隠ぺいを助長」しかねないなどと反対してきた。高額納税者の公示制度の廃止にあたっての附帯決議に「今後の税制改革に資するため、税務に関する統計情報の在り方について検討すること」とある点を根拠に、主要企業に限って法人税額などの公表を義務付ける法案を議員立法で提出したという。

 

 

【与党、安全保障法制の骨格を正式合意】

 自民党と公明党は、20日に開催された安全保障法制整備に関する与党協議会(座長:高村・自民党副総裁、座長代理:北側・公明党副代表)で、集団的自衛権行使の限定容認を含む新たな安全保障関連法案の骨格をとりまとめ、共同文書「安全保障法制整備の具体的な方向性について」として正式に合意した。それに先立って、自民党と公明党は、19日、それぞれ党内手続きを経て、合意文書案への了承を取り付けた。23日には、与党協議の高村座長と北側座長代理が、安倍総理らと会談し、与党合意の報告を行ったうえで、4月中旬までに条文案を策定するよう政府に要請した。

 

 共同文書では、公明党が自衛隊海外活動の3原則として求めた「国際法上の正当性」「国民の理解と民主的統制」「自衛隊員の安全確保」を、法整備の前提として冒頭に明記した。そのうえで、自衛隊があらゆる事態に切れ目なく対応できるよう、以下の法整備の方向性について示している。

 
<安全保障関連法案の方向性(要旨)>

武力攻撃に至らない「グレーゾーン事態」への対処<自衛隊法改正>

  • 警戒監視など日本の防衛に資する活動をしている米軍の艦船・武器などの防護
  • 日本の防衛に資する活動に限り、米軍以外の他国軍防護も検討

日本の平和と安全に資する活動を行う他国軍隊に対する支援活動<周辺事態法改正>

  • 事実上、地理的制約している周辺事態を「日本の平和と安全に重要な影響を与える事態(重要影響事態)」と再定義
  • 日米安保条約の効果的な運用に寄与し、重要影響事態に対応して活動する米軍および米軍以外の他国軍に、給油や輸送などの後方支援を随時可能に
  • 原則、国会の事前承認

国際社会の平和と安全への一層の貢献

 国際社会の平和と安全のために活動を行う他国軍隊に対する支援活動<恒久法制定>

  • 法整備にあたって、他国の武力行使と一体化しない枠組みで設定
  • 自衛隊の海外派遣は国際連合決議にもとづくもの、または関連する国連決議等があることが前提
  • 弾薬提供などは可能だが、武器提供は禁止
  • 国会の事前承認を基本
  • 隊員の安全確保に必要な措置

 国際的な平和協力活動<国連平和維持活動(PKO)協力法改正>

  • 有志国による人道復興支援や治安維持など、国連が統括しない国際平和協力活動は、PKO5原則と同様の厳格な新5原則のもとで自衛隊参加を可能に。
  • 自衛隊の海外派遣は、国連決議にもとづくか、関連する国際決議等があることが前提
  • 国会の事前承認を基本
  • 隊員の安全確保に必要な措置
  • 停戦監視や領域国の警察権の代行といった治安維持任務治安任務などPKOで実施できる業務の拡大。これまで正当防衛などに限定されていた武器使用権限は任務遂行の武器使用も可能に

憲法9条の下で許容される自衛の措置:集団的自衛権行使の限定容認<自衛隊法、武力攻撃事態法の改正>

  • 日本の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される事態などの「武力行使の新3条件」(昨年7月の閣議決定)、その後の国会質疑で示された政府の考え方を過不足なく条文化
  • 武力攻撃事態法に、集団的自衛権を行使できる新3要件を満たした「新事態」の名称や定義を明記
  • 新事態に対応して自衛隊の防衛出動も可能に。防衛出動は原則、国会の事前承認

その他関連する法改正事項

 自衛隊による在外邦人の救出<自衛隊法改正>

  • 領域国の受け入れ同意があり、その権力が維持されている範囲で、武器使用を伴う在外邦人の救出も可能に
  • 自衛隊の海外派遣手続きには総理大臣の承認が必要

 船舶検査の拡大<船舶検査活動法改正>

  • 日本周辺有事に限定していた任意の船舶検査に係る地理的制約を外し、「国際社会の平和と安全に必要な場合」にも実施可能に

 日米の情報収集や警戒監視での物品提供などの検討

 


【残された課題、4月中旬にも再開の与党協議で検討】

 与党合意に至ったとはいえ、曖昧な点も多く残っている。周辺事態法改正により再定義される重要影響事態をめぐっては、公明党が概念を明確にするよう求めたが、共同文書にはその説明が盛り込まれなかった。政府・自民党は、周辺事態から重要影響事態に再定義にすることで、これまでの地理的制約が事実上の撤廃となるとの認識だが、公明党は、周辺事態法改正でも一定の地理的制約が維持されると主張している。

また、重要影響事態に対応して活動する米軍以外の他国軍への支援をめぐっても、対象を米軍に限定したい公明党と、なるべく限定を回避したい政府・自民党とで主張が食い違っていた。このことから、共同文書では「日米安保条約の効果的な運用」に寄与するかどうかを判断基準とし、拡大対象を豪州軍に絞ることで大筋合意している。ただ、判断基準を条文にどう書き込むかが曖昧で、今後の焦点になっている。

 

新たな恒久法で定める自衛隊海外派遣の国会関与のあり方については、自衛隊の海外派遣への歯止めを厳格にしたい公明党が「例外なく国会事前承認」の義務づけを主張しているのに対し、政府・自民党は強い制約を設けることを避けたいと主張している。このことから、衆議院解散中や国会閉会中以外は事前承認が必要とする方向で調整されているが、合意文書では「事前承認を基本」との曖昧な表現にとどめた。

PKO以外での人道復興支援活動について、政府・自民党は、国連以外の国際機関や地域機関、国連主要機関の要請・支持などでも自衛隊の海外派遣を可能にしたい考えだ。しかし、国際法上の正当性を明確にするよう求める公明党が「範囲が不明確」と難色を示したため、合意文書では派遣要件を「国連決議等」との表記にとどまった。また、国連決議も法的拘束力を持つ安保理決議のほかに、総会決議や報道声明などさまざまな意思表示の形態があり、何が該当するのかは曖昧なままだ。今後、自衛隊派遣の要件としてどこまで認めるのか、具体的に議論していくこととなるようだ。

 

 集団的自衛権行使の限定容認をめぐっては、公明党が、昨年7月の閣議決定で定めた武力行使の新3要件のうち「他に適当な手段がない」ことを明記するよう求めていた。結論は先送りとなり、共同文書では新3要件を「条文に過不足なく盛り込む」とするにとどまった。一方、物品役務相互提供協定(ACSA)の締結に伴う自衛隊法改正を省略する政府案は採用を見送った。自衛隊員の安全確保については、公明党が政府案の「防衛大臣は自衛隊の安全確保に配慮」では弱いと主張したが、「隊員の安全確保のための必要な措置を定める」として、具体的な措置内容については事実上の先送りとなった。

 

こうした論点は、4月中旬以降にも再開される与党協議での課題となる。公明党は「論点はまだたくさんある。法案の一つひとつの文言についても審査を経ることになる」(山口代表)、「残された課題は実際の条文案をみて議論しなければならない」(北側副代表)、「法案審査が最後の関門」(漆原中央幹事会長)などと述べており、政府・自民党を牽制している。いずれの課題も、政府・自民党と公明党の間で主張に隔たりがあるだけに、与党間調整は難航する可能性もありそうだ。

 

 

【訪米前に関連法案を固める方針】

政府は、合意文書にもとづいて具体的な法案化作業を進める。与党は、政府の法案原案および要綱の提示に伴い、4月中旬にも協議を再開して与党審査に入る。大型連休前にも与党の了承を取り付け、5月中旬に関連法案を一括で通常国会へ提出することをめざす。政府・与党は、安倍総理の4月26日からの訪米を前に、関連法案を固める方針だ。

また、4月下旬にとりまとめる日米防衛協力の指針(ガイドライン)にも反映する。日米両政府は、米国内で外務・防衛担当閣僚による安全保障協議委員会(2プラス2)を開催してガイドライン改定について最終合意する段取りを描く。その後、安倍総理とオバマ大統領が会談し(28日)、日米同盟の深化について確認する方針だ。

 

安全保障関連法案を通常国会中に成立させるため、自民党内では、国会対応についても検討が進められている。関連法案の審議にあたっては、曜日に縛られずに審議できる特別委員会を衆参両院それぞれに設置する方針でいる。民主党の岡田代表が「安全保障政策の大転換を行おうとしている。一会期の国会における拙速な議論で行おうとすることは、国民軽視、国会軽視だ」とする談話を発表して、通常国会での成立に反対する考えを表明している。自民党は、こうした野党の反発に加え、慎重姿勢の公明党への配慮も欠かせないことから、十分な審議時間の確保が必要とみているようだ。

 ただ、通常国会の中盤以降、労働者派遣法改正案など与野党の対決法案の審議・採決が立て込む見込みだ。安全保障関連法案に十分な審議時間を確保するとしても、窮屈な日程とならざるをえない。このことから、自民党は、通常国会の会期(6月24日まで)を延長する方向で調整に入った。延長幅は、お盆前の8月10日までの47日間とする案が浮上している。通常国会での会期延長は1回限りであるため、他の法案審議に影響が出ないよう、余裕をもって延長幅を確保しておきたいようだ。

 

 

【自民党、農協法改正案骨子を了承】

 自民党の農協改革に関するプロジェクトチーム(吉川貴盛座長)は、19日、全国農業協同組合中央会(JA全中)の中央会制度を廃止や地域農協の経営状態などを監査してきた監査・指導権限を撤廃し、法施行から3年半後にはJA全中を特別認可法人から一般社団法人に完全移行することなどを柱とした農協法改正案の骨子を了承した。

法案骨子では、農協について「農業所得増大に最大限の配慮をしなければならない」と規定するほか、政府にはJA全中から分離する監査法人の業務運営や、地域農協の監査コストの増加などに「適切な配慮」をすることなどが盛り込まれている。

 

JA全中の一般社団法人への移行期限について、2月10日に決定した政府・与党の改革案では2016年4月1日の法施行から3年後の2019年3月末となっていたが、2019年9月末とすることになった。これに伴い、地域農協への公認会計士監査の導入、下部組織の都道府県中央会を地域農協への指導権限を持たない連合会への移行についても期限延期となる。

JA全中は、地域農協への監査導入に時間がかかることなどを理由に、与党に半年間延期するよう要求していた。公明党は、組織改編に伴う痛みを和らげるよう、2年間の先延ばしを提案した。自民党は、党内に「改革後退につながりかねない」との慎重意見があったものの、最終的にJA全中や公明党に一定の配慮を示して、移行期限を半年間先延ばすことで折り合った。 

 

政府は、4月3日までに農協法改正案を閣議決定のうえ、通常国会に提出する方針だ。こうした政府案に、野党は「現場を知らない組織いじりだけの的外れな内容」(民主党)、「とても改革とは呼べない。農協の金融部門がメガバンク、メガ生命保険になっている」(維新の党の江田代表)などと批判している。

 民主党は20日、政府・与党の農協法改正案に対する基本的考え方をとりまとめ、農林水産部門会議で大筋了承した。農協に「不断の自己改革」を求めつつ、「地域に根差した協同組合として、持続可能な農業を実現する」との規定を農協法に盛り込むことなどを提言している。また、戸別所得補償制度を復活させる法案やふるさと維持3法案を、26日にも通常国会に提出するようだ。

 維新の党も18日、減反の廃止や専業農家への直接支払などを柱とした農政改革の基本方針を発表して、抜本的な農協改革と農業委員会改革、農業生産法人の要件緩和などを盛り込んだ対案を通常国会に提出する意向を示している。

 

 

【暫定予算案などが優先審議・採決へ】

 来週にかけて年度末の最終週となることから、国会では、年度内に成立しないと国民生活に影響が出る日切れ法案や、政府が今週27日までに国会へ提出する暫定予算案などを優先的に審議・採決していくこととなる。水面下での与野党攻防も含め、予算案・関連法案の処理をめぐる動向をウォッチすることが大切だ。

 また、来年度予算の成立メドがつきつつあるなか、政府は、順次、法案を国会提出していくこととなる。野党側も、対案を国会提出するべく、立法作業を加速させるだろう。予算成立後、どのような与野党対決法案が審議され、どのような論戦が繰りひろげられていくのかを見極めていくためにも、まずは与野党それぞれの政策対応について抑えておきたい。
 

 【来年度予算案、参議院で審議入り】

 先週13日、一般会計総額96.34兆円(前年度当初予算比0.5%増)の来年度予算案が、衆議院本会議で与党などの賛成多数により可決、参議院に送付された。また、同日の衆議院本会議で、税制改正関連法案4案が与党などの賛成多数により可決、民主党が提出した対案「格差是正及び経済成長のために講ずべき税制上の措置等に関する法律案」は反対多数により否決された。


*衆参両院の本会議や委員会での審議模様は、以下のページからご覧になれます。

  衆議院インターネット審議中継参議院インターネット審議中継


 衆議院本会議への緊急上程に先立って行われた衆議院予算委員会での締めくくり総括質疑で、安倍総理は「景気回復の動き、デフレ脱却を確実にする。成長戦略を進めることにより、好循環を実感できる経済をつくる」「賃金や地方のみなさんの所得で実感できる経済をつくっていきたい」などと述べ、来年度予算の早期成立を呼びかけた。

 一方、来年度予算に関する衆議院本会議での討論で、民主党は「格差に立ち向かう熱意がまったく感じられない」(小川淳也・衆議院議員)、「弱い立場の方の生活や命を脅かす予算削減が含まれている」(山井和則・衆議院議員)などと批判して、予算案に反対した。「身を切る改革の観点から切り込みが不十分で、公共事業費などが膨張している」(松野頼久幹事長)などと批判する維新の党は、国会議員歳費や公共事業費など約4.5兆円を減額して子育て支援の拡充や国債減額などに回す組み替え動議を提出した。共産党も組み替え動議を提出したが、いずれも反対多数により否決された。


 来年度予算案の衆議院通過を受け、仮に参議院で議決に至らなくても、衆議院の優越を定めた憲法規定により4月12日には自然成立することとなる。与党は、年度内成立をすでに断念しているが、統一地方選前半戦の投開票日(4月12日)より前の成立をめざしている。政府は、国民生活に影響が及ばないよう、来年度4月1日から予算成立までの必要経費に関する暫定予算案を11日間程度で編成する方針だ。

 16日、参議院で実質審議入りし、論戦の舞台は参議院予算委員会に移った。16日と17日には、安倍総理はじめ全閣僚が出席して基本的質疑が行われた。18日には安倍総理と関係閣僚が出席して一般質疑、19日には麻生財務大臣ら関係閣僚が出席して一般質疑が行われる。与党は、16日の参議院予算委員会理事懇談会で、委員会採決の前提となる中央公聴会を24日に行うよう提案したが、民主党など野党は「集中審議の日程も併せて提示してほしい」として回答を留保した。来年度予算案の審議日程について、17日にも改めて協議することとなった。



【献金規制のあり方をめぐって議論】

 来年予算の早期成立をめざす与党は、国会審議の遅れを最小限に食い止めたい考えだ。一方、野党は、下村文部科学大臣の任意団体「博友会」をめぐる献金問題など閣僚の政治とカネ問題を引き続き追及する。また、政治資金規正法改正に否定的な見解を示す安倍総理との質疑を通じて、自民党は企業・団体の献金規制に後ろ向きとのイメージ付けも試みているようだ。


 16日、参議院予算委員会での基本的質疑で、民主党の羽田参議院幹事長は、政治資金パーティーの自粛などを定めた閣僚・政務三役の服務基準を規定する「大臣規範」を改正して在任中の企業・団体献金受け取りを禁じるよう提案した。これに対し、安倍総理は「各閣僚は法にのっとり政治資金に適正に対処している。大臣規範もしっかり順守されている」と国の補助金交付企業からの献金をめぐる問題の違法性を否定したうえで、大臣規範の改正は現時点で必要ないとの認識を示した。

 安倍総理は「企業・団体献金をすべて禁止するとの考え方はとっていない。そもそも企業・団体献金が間違っているという考えではない」(12日、衆議院予算委員会での答弁)と明言している。そのうえで、企業・団体献金の規制強化は政治資金規正法の運用改善でまず対応すべきだとして、野党が求める規正法改正による規制強化にも否定的な見解を示した。


 ただ、野党側も、規正法改正による企業・団体献金の全面禁止に積極的な維新の党、共産党、次世代の党、社民党などに対し、全面禁止に二の足を踏んでいる民主党と、一枚岩になりきれていない。民主党は、企業・団体献金の全面禁止(パーティー券購入含む)は「将来的に」としており、維新の党が宣言した自主的な全面禁止も否定的姿勢だ。「法改正で同じ土俵にしていくことが重要」(12日、長妻代表代行の記者会見)と、潤沢な企業・団体献金を受け続ける自民党などが賛同して法改正が実現しない限り、民主党も企業・団体献金を受け続ける意向を示している。


 12日に開かれた民主党の政治改革・国会改革推進本部(本部長:枝野幹事長)の総会では、(1)補助金を受けた企業・団体に1年間献金を禁じる条文の周知徹底、(2)補助金受給企業の政治家側への情報開示義務付け、(3)国以外の団体を経由した補助金も禁止、(4)違反者に対する罰金の引き上げや補助金返還などの罰則強化などを柱とする政治資金規正法改正案の骨子をまとめた。改正案を20日までに取りまとめたいとしている。

 民主党案がまとまり次第、野党は協議を行う予定でいる。ただ、規正法改正で野党が一致結束できるかは、いまのところ微妙な情勢だ。



【安全保障関連法案、全体像を提示】

 政府は13日、安全保障法制整備に関する与党協議会(座長:高村・自民党副総裁、座長代理:北側・公明党副代表)で、安全保障関連法案の全体像や、集団的自衛権行使の限定容認を除く6分野で法案に盛り込む派遣要件などについて一括提示した。


 焦点となっている自衛隊の海外派遣については、「周辺事態法改正案」「国連平和維持活動(PKO)協力法改正案」「新たに制定する恒久法案」の3法案で対応する。

 日本の平和と安全のため活動する他国軍への後方支援を可能にするため、周辺事態法を改正する。事実上の地理的制約がある「周辺事態」という概念を、わが国の平和および安全に重要な影響を与える事態「重要影響事態」という新たな概念を設けて置き換えるとしている。これにより、日本への原油輸入ルートであるシーレーン(海上交通路)などでも後方支援が可能となる。


 武器使用権限の拡大や人道復興支援も行えるようにするため、PKO協力法を改正では、PKO派遣の要件を定めた「PKO参加5原則」などを改正する。5原則のうち「武器使用は要員の生命等の防護のための必要最小限を基本」に「受け入れ同意が安定的に維持されていることが確認されている場合、業務の遂行に当たり、自己保存型及び武器等防護を超える武器使用が可能」を加え、停戦監視や安全確保など治安維持活動や駆け付け警護ができるよう、「任務遂行を妨害する行為を排除」にも武器使用権限を認める。

 また、PKO以外の人道復興支援については、PKO参加5原則に準じた5原則を別途策定する。派遣の要件として、(1)国連決議、(2)国際機関や地域的機関からの要請、(3)領域国の要請があり、国連主要機関が支持または称賛する場合のいずれかを満たせば可能とした。政府は、自衛隊の海外派遣に慎重な公明党に配慮して、海外新たな5原則を厳格に運用することで、自衛隊活動の歯止めとするとしている。治安維持活動を実施する場合は、原則として国会の事前承認が義務づけられるが、それ以外の人道復興支援活動には事前承認が不要となる。


 一方、国際社会の平和と安全のため活動する他国軍への後方支援については、新たに恒久法を制定する。国際紛争に対処する他国軍への後方支援に限定し、その3原則を(1)現に戦闘行為を行っている現場では支援活動を実施しない、(2)領域国政府等が活動の実施に同意、(3)これらが満たされない状況となった場合は撤収するとした。

 他国軍の活動については、(1)国連決議、(2)国連決議で「国際の平和と安全に対する脅威」があると認められている場合のいずれかを根拠としている場合としている。政府は、国連決議がない場合でも、「国際機関・地域的機関からの要請」「国連総会など主要機関の支持・称賛」を得て実施される活動であれば、他国軍への後方支援を行うことできるようにすることも検討するとしている。

 恒久法にもとづく後方支援は、医療、燃料などの補給、輸送支援、修理・整備、弾薬の提供などが可能で、武器の提供については引き続き除外となった。当初、政府は、他国軍と物資を融通し合う物品役務相互提供協定(ACSA)を締結ごとに行っている自衛隊法改正を省略することを検討してきたが、慎重な公明党に配慮して見送ることとなった。また、戦闘参加者の遭難者捜索・救助も可能にし、救助は戦闘行為を行っている現場であっても活動の継続が許容される場合があるとの見解が示された。

 自衛隊の海外派遣する際の国会の関与については「事前に国会承認を得ることを基本」とし、具体的な活動を盛り込んだ基本計画を国会に提示することも明記するとしている。


 このほか、在外邦人救出のための自衛隊派遣について、政府は、派遣先の国家で武力紛争が起きていないことや、当事国の警察など治安機関が治安維持活動をしていることが前提とした。そのうえで、(1)在留邦人の安全確保の義務を負う領域国政府に代わり日本が安全確保を行う相応の事情があるか、(2)任務を遂行するための武器使用を含め自衛隊活動への領域国の同意があるか、(3)必要最小限度の武器使用で対応できるか、(4)領域国の治安機関による協力・支援が得られるかが、派遣可否の判断材料になるとしている。

 自衛隊による船舶検査活動については、対象船舶が帰属する国の同意があれば船長の同意がなくても検査できるよう要件を緩和するため、船舶検査活動法の改正が検討されていたが、公明党が難色を示すとともに、憲法が禁じる海外での武力行使にあたる恐れがあるとして見送ることとなった。

 グレーンゾーン事態(自衛隊法改正案)や集団的自衛権(武力攻撃事態法改正案、自衛隊法改正案)については、与党間の意見調整がほぼ終えている。



【安全保障法制の方向性、20日にも合意へ】

 こうした政府側の説明・提案に関し、自衛隊の海外派遣拡大を極力抑えたい公明党は、いまだ疑問点が残っているとし、事態の性質が理解できるよう詳細な内容を規定するよう要望した。

 重要影響事態という新たな概念に置き換わる点について、地理的制約がなくなることへの警戒から「概念が広すぎる」と批判しているほか、支援対象を米国以外の外国軍隊に広げることにも慎重姿勢をとっている。


 自衛隊の海外派遣の要件として国連安全保障理事会決議が絶対条件とする公明党は、恒久法で国連決議がない場合でも後方支援が実施できるよう検討項目に加えていることも問題視する。「武力行使をしている多国籍軍の後方支援をするなら、国際法上の正当性が強く求められるのは当然」(北側副代表)などとして、さらなる議論が必要としている。

 また、恒久法にもとづく後方支援について「事前に国会承認を得ることを基本」としている点について、公明党は、見直しを要求している。国会承認に手間取れば、迅速な自衛隊派遣ができなくなるため、政府・自民党は、緊急時であれば事後承認も可能とすべきではないかと主張したが、国会関与を強く求める公明党は、例外なく事前承認にすべきと主張している。


 自民党と公明党は、20日に予定される次回協議で正式合意する方針だ。それに先立って、18日に臨時会合を開催し、高村座長・北側座長代理がとりまとめた共同文書原案「安全保障法制整備の具体的な方向性について」を示して協議する。20日の与党合意に沿って、政府は、4月中旬までに法案化作業を進めていくようだ。その後、与党協議での審査などを経て、5月中旬にも閣議決定のうえ国会提出するという。


 

【主要法案の国会提出動向にも注目を】

 参議院予算委員会での来年度予算案審議がスタートした。いまのところ、安倍内閣のスキャンダルや閣僚の資質問題への追及、献金規制のあり方をめぐる議論が主な焦点となっている。来年度予算案に係わる経済再生や規制改革、地方再生など安倍内閣の重要政策に関する議論はあるものの、あまり深まっていないようだ。審議日程をめぐる与野党攻防を抑えつつ、今後、統一地方選を意識して、野党がどのようなテーマで論戦をしかけていくのかをみておきたい。

 また、統一地方選後の論戦がどのようなテーマでおこなわれることになるのかを見極めるためにも、まずは政府が提出する主要法案、野党の対案づくりなどの動向もあわせてみておいたほうがいいだろう。

高橋洋一・株式会社政策工房 代表取締役会長】
 

 予算時期なので、三つの特別会計を紹介しよう。

 まず、国債整理基金特別会計。一般会計又は特別会計からの繰入資金等を財源として公債、借入金等の償還及び利子等の支払いを行う経理を一般会計と区分するために設置された特別会計である。定率繰入れ等の形で一般会計から資金を繰り入れ、普通国債等の将来の償還財源として備える「減債基金」の役割もある。
この「減債基金」は、先進国で日本しかない。他の先進国では昔はあったが、公債市場が大きくなって整備されると償還財源はその都度借換債で調達するので、「減債基金」はなくなった。そういえば、民間会社で社債の「減債基金」もない。将来の借金償還のために、さらに借金をする必要がないわけだ。

 この観点から見ると、2015年度予算の11.6兆円の定率繰入は過大な計上であり、不要である。
また、利払費が9.7兆円ある。しかし、この積算金利は1.8%と過大だ。おそらく2兆円くらいは過大計上だろう。

 次に労働保険特別会計。労災保険と雇用保険を経理するために設置された特別会計である。労災保険は、業務上の事由等による労働者の負傷等に対して迅速かつ公正な保護をするための保険給付及び被災労働者の社会復帰の促進等を図るための社会復帰促進等事業を行うもの、雇用保険は、労働者の失業中の生活の安定、再就職の促進等を図るための失業等給付及び雇用機会の増大等を図るための雇用保険二事業を行うものである。

 2013年度の労働保険特別会計財務書類をみると、雇用勘定のバランスシートで7.1兆円の資産負債差額がある。いわゆる埋蔵金である。これは、高めの雇用保険料にもかかわらず失業保険給付が少ないために生じたものである。国民に還元すべきであろう。

 最後に、外国為替資金特別会計。政府が行う外国為替等の売買に関し、その円滑かつ機動的な運営を確保するため外国為替資金が設置されるとともに、その運営に伴って生じる外国為替等の売買、運用収入等の状況が区分経理するために設置された特別会計である

 外為資金として127.9兆円(2013.3末)。このうち外貨債権は103兆円(証券は99.5兆円、貸付3.5兆円)である。ちなみに、外貨証券の満期は1年以下1割、1年超5年以下6割、5年超3割)となっている。一方、外貨負債はない。ということは、円安は資産を膨らませるだけであり、政府財政にとっては確実にプラスである。ざっくりみると、外為資金での円安による評価益は20兆円程度ありそうである。

 かつて、「母屋(一般会計)ではおかゆで、離れ(特別会計)ではすきやき」といわれたことがある。これは今でも妥当しているようだ。
  

↑このページのトップヘ