政策工房 Public Policy Review

霞が関と永田町でつくられる“政策”“法律”“予算”。 その裏側にどのような問題がひそみ、本当の論点とは何なのか―。 高橋洋一会長、原英史社長はじめとする株式会社政策工房スタッフが、 直面する政策課題のポイント、一般メディアが報じない政策の真相、 国会動向などについての解説レポートを配信中!

February 2015


高橋洋一・株式会社政策工房 代表取締役会長】

 参院は25日午前の本会議で、早稲田大学・政治経済学術院特任教授の原田泰氏を起用する政府の同意人事案を賛成多数で可決した。

 民主党は反対したが、その考え方は大久保議員が行った反対討議によく出ている。大久保氏の個人の意見というか、今の民主党の見解を表していると思うので、民主党の政策をみる上で、重要なものだ(http://www.dpj.or.jp/article/106253 ) 。

 大久保氏の反対討論は、3つの反対理由をあげている。これらの反対理由が妥当かどうか、きちんと検証しておこう。

 1点目は、原田氏が「日銀が国債を買えば政府債務を減らすことができる」と主張している点だ。大久保氏は「政府と日銀の統合バランスシートで見れば、日銀が国債を全部買えば、政府債務は日銀の資産だから、連結すれば相殺される。しかし日銀の負債、すなわち日銀券と準備預金という民間資産は相殺されない」と反論した。
この大久保氏の反論をみると、連結すれば相殺されるといっている。これは原田氏の意見と同じだ。原田氏は、経済学の統合政府という政府と日銀を連結させたバランスシートで見たときの話をしているだけだ。なぜ連結ベースのバランスシートを見るかというと、日銀が政府の子会社だからだ。通常の企業会計でみると、日銀は政府の連結対象である。この点、大久保氏は、日銀の負債を民間と書いているが、政府の連結バランスシートをみるのだから、単純に民間とみてはいけない。

 第二、原田氏が「日銀は国債を、コストをかけずにただで買っている。10兆円分の国債を購入して、仮に2割損しても、もうけは8兆円ある」といったことだ。大久保氏は、「複式簿記で日銀の会計処理を行えば、そのような打ち出の小槌的手法が不可能ことは、明白です。」と反論した。
原田氏の発言の元は、筆者が10年以上前に著書(岩田規久男編「まずデフレをとめよ」 http://www.amazon.co.jp/dp/4532355648/ )で書いたことなので、筆者から大久保氏の反論が誤っていることを言おう。

 まず、大久保氏は通貨発行益の本質を知らないようだ。通貨発行益はほぼ通貨発行額になる。原田氏が言ったのは、国債買い入れで通貨発行益が出る場合、通貨発行益は国債購入金額と同じなので、その一部で損失が出ても、まだ益が残ると言うことである。大久保氏は、日銀の通貨発行益は、購入した国債の金利収入相当だという財務省・日銀の説明を鵜呑みにして、2割の損失を金利収入ではまかなえないとして反論したはずだ。ところが、筆者の前掲書を見れば、毎年の国債金利収入の現在価値の総和は通貨発行額になると証明している。要するに、大久保氏の反論は1年だけを見ているだけで、複数年で考えると原田氏の意見は正しいことを見落としてしまったのだ。

 最後に、原田氏の「貸し出しをせず国債ばかりもっている銀行は、日本経済のためには役に立っていない銀行である。そのような銀行が破綻しても日本経済になんのマイナスにもならない。むしろ、このような銀行が破綻することこそが最大の構造改革である」という主張だ。大久保氏は金融機構局の運営や金融システム安定に大きな障害をもたらすと反対した。

 原田氏は、デフレ社会にしか対応できない金融機関は社会的な貢献がないという趣旨だろう。大久保氏は、デフレ社会こそがノーマルであると言いたいようで、政策論として違和感がある。大久保氏は、いわゆる「債券村」の意見を代弁しているだけではないだろうか。「債券村」の意見は、しばしばデフレ指向で、一般社会と逆なので、良く注意しなければいけない。(http://www.zakzak.co.jp/society/domestic/news/20150226/dms1502260830004-n1.htm

【西川大臣の辞任で、国会が一時空転】

 先週23日、西川農林水産大臣が、自身が代表を務める自民党支部が国の補助金交付を受けている業界団体や企業から献金を受けていた問題の責任を取って、安倍総理に辞表を提出した。安倍総理は、「自らの問題で国会や内閣に大変迷惑をかけ、大切な審議時間を費やしている」「国会審議は政策に集中すべきだ。自らの問題でそれがかなわない状況は変えたい。それには辞任しかない」と西川大臣の意思が固かったことから、最終的に西川大臣の辞任を了承した。

西川大臣の後任には、第2次安倍内閣で農林水産大臣を務めた林芳正・自民党農林水産戦略調査会長を起用した。安倍内閣が最重要課題に掲げる農協改革や環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)交渉への影響については、安倍総理は、「林氏は環太平洋経済連携協定(TPP)交渉、農協改革の現状、政策に十分精通している」「TPP交渉に当たり、農協改革は党で西川氏と一体的にやってきた。全く遅滞はない」と説明した。


*衆参両院の本会議や委員会での審議模様は、以下のページからご覧になれます。

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 西川氏の大臣辞任を受け、民主党など野党5党は、農林水産大臣が交代したことを理由に、24日に予定されていた一般質疑を見送るよう与党側に要請した。また、衆議院予算委員会の基本的質疑のやり直しなども求めた。与野党は、衆議院予算委員会での基本的質疑は23日に終え、24~26日に麻生財務大臣ら関係閣僚による衆議院予算委員会での一般質疑を、27日に安倍総理出席のもと集中審議を行う日程で合意していた。また、来年度予算関連の税制改正法案と地方税法改正案、地方交付税法改正案の趣旨説明と質疑を26日の衆議院本会議で行うことになっていた。しかし、西川氏の大臣辞任により、与党側も24日の委員会開催のとりやめはやむをえないと判断した。

 

これまで野党各党は、安倍総理はじめ全閣僚が出席のもと、19日から衆議院予算委員会でスタートしていた来年度予算案の基本的質疑でも西川氏の政治献金問題を追及してきた。西川氏は献金の事実を認めつつも、「脱法行為と位置づけるのは当たらない」と反論し、政治資金規正法上の問題はないとの認識を示した。安倍総理は「西川氏の答弁を聞いていたところ、説明責任を果たしている」と西川氏を擁護した。

また、「脱法的献金」(玉木・民主党議員)と野党の追及に、安倍総理が「日教組(日本教職員組合)はどうするんだ」などとヤジを相次いで飛ばした。翌20日の質疑で、民主党の前原議員が「答弁席からヤジを飛ばすのは言語道断だ」と批判すると、安倍総理は「日教組は補助金をもらっている」「献金をもらっている議員が民主党にいる」などと答弁した。民主党は、日教組が国の補助金を受けた事実も、日教組の関連団体が民主党議員に献金した事実もないと抗議し、安倍総理に訂正と謝罪を求めた。安倍総理は、23日の衆議院予算委員会で、20日におこなった答弁について「私の記憶違いにより正確性を欠く発言があったことは遺憾であり、訂正申し上げる」と撤回のうえ陳謝した。

 

こうした経緯もあり、野党は、大臣辞任による西川氏の政治資金問題の幕引きは許されないとの認識で一致している。引き続き西川氏の政治献金問題の全容解明に加え、安倍総理の任命責任も徹底追及していく方針だ。

与党は、来年度予算案審議への影響を最小限にとどめるべく、攻勢を強める野党と断続的に協議を重ねた。その結果、与党が野党の要求を受け入れ、衆議院予算委員会で25日に安倍総理はじめ全閣僚が出席して基本的質疑を4時間、要求閣僚のみが出席する一般的質疑を3時間行うことで合意した。また、26日に一般質疑、27日は集中審議を行うことも決めた。

 

 

【野党、安倍総理の任命責任も追及】

与野党が今後の国会日程について合意したことを受け、24日の衆議院本会議は、約4時間遅れで開催された。そして、政府が2月5日に衆参両院に提示した、15機関58人の国会同意人事案が採決となった。政府の同意人事案は、与党などの賛成多数により可決した。また、25日の参議院本会議でも採決され、与党などの賛成多数により可決し、すべての人事案が承認となった。

3月25日に任期を迎える日本銀行の最高意思決定機関「政策委員会」の審議委員に原田泰氏(早稲田大学政治経済学術院特任教授)が、預金保険機構理事長に三国谷勝範氏(東京大学政策ビジョン研究センター教授、元金融庁長官)が就任する。

 

衆議院予算委員会での審議は、25日から再開された。安倍総理は、西川氏を大臣に起用したことについて、「閣僚が能力を発揮し、国政を進める方向で内閣の一員として実績を残していくことができるかについて、全体として責任を負っている」「任命責任は私にある。閣僚が交代するという結果を招いたことは国民の皆さまに大変申し訳ない思いだ」と改めて陳謝した。

質疑では、野党側から西川氏の政治献金問題に集中した。民主党は、安倍総理が答弁席からヤジを飛ばしたことなどに触れて「問題に対し真摯に取り組む姿勢がない。首相自らが政治とカネの問題に目をそらしている」などと重ねて批判した。安倍総理は、「閣僚の任命責任は私にある」「内閣、与野党問わず政治家は自ら襟を正し、説明責任を果たすことが求められる」と同じ答弁を繰り返し、防戦に追われる場面が目立った。

26日の衆議院予算委員会理事会で、野党側の求めに応じて、西川氏が顧問を務めた企業に関する資料が提出される予定だ。内容次第によっては、野党側が全容解明を求めて、さらなる追及を行っていくようだ。

 

 

【政府、自衛隊派遣の法整備案を与党に提示】

集団的自衛権行使の限定容認を含む安全保障法制をめぐっては、政府が19日、自衛隊の海外派遣にあたって法整備が必要となる分野として、海外での他国の武力行使に対する後方支援と、国連平和維持活動(PKO)と異なる枠組みによる人道復興支援が軸となる「国際協力への支援」、日本周辺有事での米軍後方支援を定めた周辺事態法改正などによる「わが国防衛のための後方支援」について提示した。自衛隊の海外派遣について、「恒久法の制定」「周辺事態法改正」「PKO協力法改正」で対応する方針だ。

 

政府は、自民党・公明党に対し、周辺事態法やPKO協力法が適用できない事態で、テロ対策特別措置法など特措法を制定してきたこれまでの対応では、迅速な自衛隊派遣が難しいことから、「国際社会の平和と安定」に向けて活動する多国籍軍を含めた他国軍を後方支援できるよう、自衛隊の海外派遣を随時可能とする恒久法の制定を要請した。政府は、自衛隊の海外派遣や武器使用などの基準を定めた新原則策定にも着手する。

恒久法の原案では、自衛隊派遣の要件として国会の事前承認を原則とし、緊急時には国会で速やかに事後承認の手続きを取り、否決されたら即時撤収するとの規定も盛り込む。国連安保理決議は、一部の大国が拒否権を持つ決議を条件にすると自衛隊派遣ができない場合も出てくるとして、派遣要件として義務付けない。恒久法で定める自衛隊活動については、補給・輸送などの後方支援、戦闘行為によって遭難した戦闘参加者の捜索・救助、航空機や艦艇により行う情報収集活動などを挙げている。

当初、自衛隊の活動範囲の拡大に慎重な公明党が恒久法制定に難色を示してきたが、自衛隊の海外派遣ごとに特別措置法を制定するよう求めていた公明党内からも容認論が出始めている。ただ、国会承認の厳格化などの条件も掲げるなど、反対・慎重論も根強いことから、PKO協力法を改正し、同様の派遣規定を組み込む案も検討されている。

 

周辺事態法改正では、「周辺事態」という事実上の地理的制約を撤廃するため、法律名称の変更を行うとともに、定義から「そのまま放置すれば我が国に対する直接の武力攻撃に至るおそれのある事態等」や「我が国周辺の地域」といった表現を削り、「我が国の平和及び安全に重要な影響を与える事態」だけを残すとしている。また、日本の領域や日本周辺公海とその上空に限定し、輸送や医療支援などの後方支援の対象も日米安保条約を結ぶ米軍のみに限ってきたのを、日本の平和と安全のために活動する他国軍への後方支援を行う地理的範囲を拡大するとともに、支援対象を米軍以外にも拡大して弾薬提供や戦闘作戦行動のために発進準備中の航空機への給油・整備なども可能とする方針だ。

また、PKO協力法改正に伴って離れた場所で武装集団に襲われている他国部隊などを救援する「駆け付け警護」を可能にするほか、任務遂行のための武器使用を可能にして輸送任務などを妨害する武装集団排除や住民保護などの治安維持任務に参加できる規定も盛り込むという。公明党がPKO5原則の堅持を強く求めていることから、政府は、PKO5原則の枠組みを維持するようだ。

 

20日に開催された安全保障法制整備に関する与党協議会(座長:高村・自民党副総裁、座長代理:北側・公明党副代表)で、政府の法整備案が正式に提示され、国会承認手続きの厳格化など、自衛隊派遣への歯止めをどこまでかけるかなどについて議論となった。

 与党協議では、恒久法制定について、公明党から「いきなり一般法をつくるのはいかがか。特別措置法でやったほうがいい」などとの異論が出た。周辺事態法の改正により自衛隊の活動範囲や支援対象を広げることに一定の理解を示しつつも、「過去の答弁との整合性を取る必要がある」と指摘して、地理的制約がなくなることに難色を示したようだ。引き続き、与党間で検討・調整を行っていくという。

中東・ホルムズ海峡での機雷掃海については、状況に応じて個別的自衛権または集団的自衛権の発動、もしくは国際協力活動で対応すると整理した。集団的自衛権の発動による機雷掃海は、昨年7月に閣議決定した「新3要件」に合致しており、機雷を敷設した国が日本を攻撃対象にしていない場合に限り可能とした。政府は、自衛隊法改正案に集団的自衛権を行使可能にする条項を盛り込む方針で、掃海部隊の派遣にあたっては、事前または事後の国会決議を要件とすることも検討するようだ。

 

 

【国会論戦、与野党の駆け引きに注視を】

来年度予算案の審議日程が窮屈になっているなか、西川氏の大臣辞任と政治献金問題の影響により、予算案審議の日程がさらにずれ込み、政府・与党がめざす3月第1週の衆議院通過、年度内成立がより一層厳しいものとなっている。自民党と公明党は、25日に行った幹事長・国会対策委員長会談で、着実な経済再生と景気回復、統一地方選への影響も考慮して、引き続き年度内成立をめざす方針を確認した。予算案審議への協力を野党側に求めていく方針だ。

一方、民主党など野党は、政治献金問題の全容解明と安倍総理の任命責任を追及しようと足並みを揃える。閣僚の政治とカネをめぐる新たな疑惑が浮上しており、当面、政治とカネをめぐる問題追及も続くことになるかもしれない。今後の展開によっては、来年予算案・予算関連法案の審議・採決日程にも影響を及ぼしかねないだけに、国会論戦や与野党の駆け引き動向に注視することが重要だろう。 
 

【安倍総理、改革断行を強調】

先週12日、政府は、一般会計総額96.34兆円(前年度当初予算比0.5%増)の来年度予算案を通常国会に提出した。また、国会では、安倍総理の施政方針演説など政府4演説が衆参両院の本会議で行われた。
 

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「改革断行国会」と位置づける安倍総理は、施政方針演説で、経済再生や社会保障改革、地方創生、外交・安全保障法制整備などを挙げ、「いずれも困難な道のりで、戦後以来の大改革。ひるむことなく、進めなければならない」と決意を述べた。そして、「この国会に求められていることは単なる批判の応酬ではなく、改革の断行だ」と訴えた。

全国農業協同組合中央会(JA全中)の監査・指導権廃止を柱とする農協改革、混合診療の拡大などの医療制度改革のほか、法人実効税率を数年で20%台まで引き下げ、電力会社の発送電分離などの電力・エネルギー市場改革、労働改革などを改革メニューに盛り込み、成長戦略の着実な実行を強調した。また、2017年4月からの消費税率10%への引き上げを前に賃上げや改革の流れを加速して、「景気回復の風を全国に届ける」「経済再生と財政再建、社会保障改革の三つを同時に達成していく」と訴えた。

 

岩盤規制打破の象徴と位置付ける農協改革については、「農家の所得を増やすための改革」「農政の大改革は待ったなし。これからは農家、地域農協が主役」などと強調したうえで、地域農協を主体として「意欲ある担い手と地域農協が力を合わせ、ブランド化や海外展開など農業の未来を切り拓く」と、競争力ある農業・強い農業を創っていく決意を述べた。

 地方創生については、「地方にこそチャンスがある」「地方こそ成長の主役」「熱意ある地方の創意工夫を全力で応援」と地方の取り組みに期待を示すとともに、地方創生特区の創設や本社機能の地方移転を促す税制、地方で就職する学生への奨学金返済免除、農地転用許可の権限移譲、名産品の商品化・販路開拓への支援などで、地方での雇用創出・地域活性化なども進めると述べた。

 

4月の統一地方選を前に、「アベノミクスにより格差がひろがった」と批判して、再分配政策・格差是正を訴える民主党などを意識して、安倍総理は、「行き過ぎた再分配は社会の活力を奪う」「批判だけを繰り返しても何も生まれない」などと牽制した。

そして、若者雇用対策の抜本強化やブラック企業対策、子ども・子育て新制度の実施など社会保障の充実のほか、将来に格差が再生産されるのを防ぎ、誰にでもチャンスがある社会を実現するため、義務教育改革やフリースクールなど多様な学び支援、低所得世帯の幼児教育の負担軽減や高校生への奨学給付金の拡充などの子どもの貧困対策も言及した。

 

 外交・安全保障については、施政方針演説の冒頭で、イスラム教スンニ派過激組織ISILによる日本人殺害事件に触れて「日本人がテロの犠牲となったことは痛恨の極みだ」「非道かつ卑劣極まりないテロ行為を断固非難する」と述べたうえで、「日本がテロに屈することは決してない。テロと戦う国際社会において、日本としての責任を毅然として果たす」と国際社会と連携してテロに屈しない姿勢を強調、中東への人道支援の継続・拡充や邦人の安全確保の徹底も改めて示した。

 戦後70年談話を念頭に「これまで以上に世界の平和と安定に貢献する。その強い意志を世界へ発信する」「我が国は先の大戦の深い反省とともに、ひたすら自由で民主的な国をつくりあげ、世界の平和と繁栄に貢献してきた。その強い意志を世界に向けて発信する」と戦後の歩みを今後も堅持していく考えを示し、積極的平和主義や地球儀を俯瞰する外交を引き続き推進するとした。核不拡散や国連改革などで日本の役割拡大をめざすという。

集団的自衛権行使の限定容認を含む安全保障法制の整備については、公明党に配慮して、昨年7月1日の閣議決定を踏まえて「あらゆる事態に切れ目のない対応を可能とする安全保障法制の整備を進めていく」と述べるにとどめた。

 

 

【与野党の本格論戦がスタート】

こうした施政方針演説に対し、野党各党は「中身がよく分からない、言葉が躍る演説」(民主党の岡田代表)、「戦後以来の大改革とは笑止千万」「国民にとって大事なのは改革の中身」(維新の党の江田代表)、「(安保法制は)説明抜きで暴走姿勢」(共産党の志位委員長)などと批判した。

 

政府4演説に対する各党代表質問は、衆議院(16~17日)と参議院(17~18日)それぞれの本会議で行われ、与野党の本格論戦がスタートした。

民主党の岡田代表は「経済成長と格差是正を両立させることで、先進国の中でも格差の小さい国をつくりあげる」ことを掲げ、安倍内閣との対決姿勢を鮮明にする方針で代表質問に臨んだ。非正規労働者の増加や貧困率上昇などを挙げたうえで「日本社会の格差が近年拡大している」「短期的に株価を上げる政策に重点が置かれ、本質的な成長戦略には見るべき実績がない」と指摘して、「最大の問題は、成長の果実をいかに分配するかという視点が欠落していること」などと批判した。そして、非正規雇用の増加などで格差が拡大しているとして、労働者派遣法改正案などの労働法制見直しを「誤り」とし、所得課税・資産課税の課税範囲拡大や税率引き上げ検討、給付付き税額控除の実施などを訴えた。

これに対し、安倍総理は、格差が近年拡大していることについて「一概には言えない」と前置きしつつ、「税や社会保障による再分配後の所得の格差はおおむね横ばいで推移している」「国民の中流意識は根強く続いており、格差が許容できないほど拡大しているとの意識変化は確認されていない」「非正規に不本意でついている人の割合は低下している」との認識を示し、目立った格差拡大はないと反論した。

 

 西川農林水産大臣が代表を務める政党支部が国の補助金交付を受けている業界団体や企業から献金を受けていた問題が浮上したことで、民主党など野党は、17日の参議院本会議で行われた代表質問で安倍総理を質した。政治資金規正法では、国の補助金の交付決定から1年間、その団体・企業からの政治献金を禁じている。

安倍総理は「政治資金については、政治家としての責任を自覚し、国民に不信を持たれないよう、常に襟を正し、説明責任を果たしていかなければならない」と前置きしたうえで、西川大臣の献金受け取りは「政治資金規正法上、問題ない」との認識を示した。そして、「農林漁業者の所得を向上させ、農山漁村のにぎわいを取り戻す大目標に向かって、農協改革をはじめとする諸課題について、引き続き職務にまい進してもらいたい」と述べ、西川大臣の辞任について否定した。

 西川大臣は、疑念を持たれてはならないと判断して、当団体・企業に返金したという。ただ、野党側は、「献金を返せばいいわけではない。首相の任命責任も含め追及する」(民主党の羽田参議院幹事長)、「西川氏は謝罪して辞任すべきだ。辞任しないなら首相の任命責任は重大で罷免すべきだ」(社民党の吉田党首)などと批判しており、予算委員会審議などで西川大臣の政治とカネをめぐる問題を追及する構えをみせている。

 

 

【安全保障法制に関する与党協議会が再開】

 13日、通常国会の後半で焦点となる、集団的自衛権行使の限定容認を含む安全保障法制の整備について、自民党と公明党は、内容の具体化に向けて「安全保障法制整備に関する与党協議会」(座長:高村・自民党副総裁、座長代理:北側・公明党副代表)を再開させた。昨年7月1日の閣議決定にもとづき、自衛隊法改正案など安全保障関連法案を5月の大型連休明けに通常国会へ提出する方針で、3月下旬にも与党間で安保法制の基本方針を取りまとめるべく、毎週金曜日に協議を重ねていくという。

 

 13日の与党協議では、政府側から(1)武力攻撃に至らない侵害への対処、(2)国際社会の平和と安定への一層の貢献、(3)憲法9条の下で許容される自衛の措置、について与党側に検討を要請した。自民党と公明党は、まず武力攻撃に至らない「グレーゾーン事態」に関する法整備をめぐって議論を行った。

他国の武装集団による離島上陸・占拠や、公海上で民間船舶が襲撃された場合、外国軍艦が日本領海に侵入した場合のグレーゾーン事態で海上保安庁などが対応不可能なとき、警察権の範囲内で自衛隊による治安出動・海上警備行動を迅速に実施できるよう、発令時の手続きを簡略化するべく電話による閣議決定を認めることを大筋合意した。

また、昨年7月の閣議決定では明記されていなかった米軍以外の関係国の艦船などを防護の対象としたい政府・自民党は、日本も準同盟国と位置づけているオーストラリアなどが日本周辺海域での自衛隊との共同演習に参加することを念頭に、自衛隊や米軍とともに活動する他国軍隊も防護対象にするよう、公明党に理解を求めた。しかし、自衛隊の活動範囲の拡大に慎重な公明党が、自民党の提案に難色を示したため、次回以降に持ち越しとなった。

 

 次回会合以降の協議では、グレーゾーン事態のほか、後方支援を行うため自衛隊の海外派遣を随時可能にする恒久法制定や、集団的自衛権を行使する際の地理的範囲などについて検討される予定だ。

国際貢献分野では、国連平和維持活動(PKO)に参加した自衛隊が他国軍隊の援護に向かう「駆け付け警護」や、任務を妨害する者を排除するための「任務遂行のための武器使用」を可能にするPKO協力法改正のほか、朝鮮半島有事など周辺事態が発生した場合に米軍や関係国の軍隊を防護するための周辺事態法改正などが対象となる。また、集団的自衛権の限定行使を可能にするため、自衛隊法や武力攻撃事態法、米軍行動関連措置法などの改正も検討項目にあがっている。

 

一方、野党側は、民主党が12日、安全保障総合調査会役員会を開催し、安全保障関連法案をめぐる党内論議に着手した。今後、(1)グレーゾーン事態、(2)自衛権、(3)集団安全保障、(4)後方支援と武力行使の一体化、(5国連平和維持活動(PKO)の5項目に分けて、週1回以上のペースで議論を重ね、民主党としての見解をまとめていく方針だ。政府が5月の大型連休明けに安全保障関連法案の提出をめざしていることから、その前までに意見集約を図りたいとしている。

維新の党も13日、安全保障調査会を開催し、党内論議をスタートさせた。週1回のペースで会合を重ね、有識者から意見を聴きつつ、議論を深めていくという。

 

 

【衆議院予算委員会での論戦に注目】

 今週後半から衆議院予算委員会を舞台に、与野党の本格論戦がスタートする。18日の衆議院予算委員会で来年度予算案の提案理由説明を行ったうえで、19~20日と23日までの3日間、安倍総理はじめ全閣僚が出席のもと基本的質疑が行われる。

政府・与党は、来年度予算の年度内成立をめざしており、3月10日前後には衆議院を通過させたい考えだ。一方、野党各党は、安倍総理が掲げる改革メニューとその具体策について質すほか、西川大臣の政治とカネをめぐる問題などについても徹底追及する方針だ。

各党は、4月の地方統一選を前に、安倍総理との対決姿勢を鮮明にしようと躍起となっているだけに、質疑に誰がたち、どのようなテーマで論戦を仕掛けていくのだろうか。西川大臣の政治とカネをめぐる追及が長引けば、予算委員会の審議が混沌とする場合もある。引き続き、各党の政策や主張などについて整理しながら与野党論戦をウオッチすることが大切だ。

高橋洋一・株式会社政策工房 代表取締役会長】

 前回のコラムで「ピケティ本の解説を出します」(http://seisaku-koubou.blog.jp/archives/%E3%83%94%E3%82%B1%E3%83%86%E3%82%A3%E6%9C%AC%E3%81%AE%E8%A7%A3%E8%AA%AC%E3%82%92%E5%87%BA%E3%81%97%E3%81%BE%E3%81%99.html )と書きながら、まだ書店に並んでいない。私のところには現物が既に届いているので、1週間以内で全国の書店に行き渡るだろう。アマゾンでは、予約中だ。
 



 この解説本は、できるだけ私の意見を述べないで、書いた。既にでている解説書が、解説といいながら、なぜかピケティ本の虎の威を借りて、個人の意見表明しているモノが多い。

 
 格差という言葉に、日本のへたれ左翼が飛びついたようだ。ピケティ氏の来日もあったので、そうした人たちは、アベノミクス批判をするので、ピケティ本を利用したようだ。しかし、ピケティ本を読めばわかるが、ピケティ自身はマルクス経済学者ではない。それに成長を否定するのでなく、インフレも許容し、なにしろデータで経済を語ろうとしている。こうした姿勢は、へたれ左翼と正反対の姿勢なので、そうした人々がピケティ本を利用しようとする意図は空振りだった

 
 また、アベノミクスの金融政策や消費増税スキップを批判しようとする人たちも、ピケティ本を利用したかっただろう。しかし、ピケティは、アベノミクスの金融政策を評価し、消費増税に反対姿勢を示して、そうした人たちの期待を裏切った。

  
 筆者のピケティ本の解説は、筆者の個人的意見を入れないようにしたが、出版者から少し書いてくれと言う要請もあり、本文ではなくコラムの形で書いている。その部分を紹介しよう。

 
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コラム ピケティが見た「日本の経済」
 
 図2-5で述べたように、ピケティは今後の世界のGDP成長率を1.5パーセントくらいと予測している。
しかし、日本だけで言えば、このままいくと1.5パーセントの予測よりずっと低くなると見るべきだろう。なぜなら、ここ二十数年間、日本のGDP成長率は、世界最低水準にあるからだ。

 図2-5でも示されているが、2012年の世界GDP成長率は3.5パーセントくらい。しかし日本は、2014年の時点で1パーセントにも満たない。

 勘違いしないでほしいのだが、どこか急速に成長している国が世界GDP成長率を引き上げているのではない。大半の先進国や新興国がこの水準で、日本だけが低いというのが実情である。

 そんな日本を、ピケティはどう見ているのだろうか。2014年12月22日の日本経済新聞に掲載されたインタビューでは、こんなふうに答えている。

 「安倍政権と日銀の物価上昇を起こそうという姿勢は正しい。2~4パーセントの物価上昇を恐れるべきではない。4月の消費増税はいい決断とはいえず、景気後退につながった」

 政府と日銀がインフレ目標を立て、それを断固としてやり遂げる意思と確実に達成できる手段を示すと、ると、人々のマインドがデフレからインフレ予想に変わり、実際にインフレになるという経済論理がある。信頼を得た中央銀行に従う方が合理的だからだ。

 こうしてデフレ脱却することは、GDP成長率を高める第一歩となるのだが、安倍政権は、第一二次政権発足直後に、この方式をとった。ピケティが言うように、惜しむらくは、その後、消費増税が実行され成されたことだが、最初の姿勢は正しかったのだ。

 格差を正すために、累進課税を強化するのもいいだろう。しかし、特に日本の場合は、まず、もっと景気を回復させ、世界最低水準のGDP成長率を上げることが前提急務なのである。さらに累進課税をやるにも、しっかりとした番号制度と歳入庁(社会保険料と税の一体徴収)という先進国では当たり前の税インフラを日本でも整備しないと、累進課税すらうまく出来なくなってしまう。日本ではまだやるべきことが多い。

 なお、ピケティ氏の見解を曲解して、アベノミクスの金融政策批判に使う人もいるので、要注意だ。
ピケティ本を読んでも、インフレ目標2%に関連したところはあるが、評価をしても否定的ではない。前述した日経新聞のピケティ氏へのインタビューでも、アベノミクスを評価している。

 なぜ、曲解するのか。それは、格差の是正策として、資産課税かインフレかを質問して、その答えをアベノミクスの金融政策批判として、「編集」するからだ。
確かに、ピケティ氏は、格差是正対策としては、インフレも効果があるとしながら、資産課税の方が優れていると考えている。しかし、それはマクロ経済政策としての金融政策を批判したものではない。

 アベノミクスの金融政策は、インフレ目標2%での量的緩和策だ。アメリカ、イギリス、カナダ、ユーロで採用されている国際標準だ。これが間違いなら、世界の先進国すべてが間違いになる。ピケティ氏のようなまともな経済学者なら、いうはずない。

【補正予算が成立】

 先週3日、昨年4月の消費税率8%への引き上げで落ち込んだ個人消費の回復や、地方活性化、生活者支援などに重点を置いた緊急経済対策を裏付ける「補正予算」(総額3.11兆円)が、参議院本会議で自民党・公明党などの賛成多数により可決、成立した。参議院本会議への緊急上程に先立って行われた参議院予算委員会でも、安倍総理はじめ全閣僚出席のもと締めくくり質疑を行ったうえで、与党などの賛成多数により可決した。「消費効果が限定的で経済成長にも格差や貧困の解決にも資するものではない」(藤田参議院議員)などと批判した民主党のほか、維新の党、共産党なども反対した。

 

*衆参両院の本会議や委員会での審議模様は、以下のページからご覧になれます。

  衆議院インターネット審議中継参議院インターネット審議中継
 

 安倍総理は、5日に行われた参議院予算委員会での集中審議で、有効求人倍率が22年ぶりに高水準にあることや、15年ぶりに賃金が平均で2%以上アップなどを示して、「アベノミクスによって経済は好循環に入っている。雇用でも賃金でも、間違いなく経済はよくなっている」との認識を示した。そのうえで、「景気回復の好循環を全国津々浦々にひろげなければならない」「地方に仕事をつくり、地方への人の流れをつくらなければならない」と強調し、補正予算と来年度予算案の一体執行で経済効果の地方への波及をめざす意欲を示した。

 

また、新規国債発行をせずに政策経費(国・地方)をどれだけ賄えているかを示す基礎的財政収支(プライマリーバランス)を2020年度までに黒字化させる財政健全化目標について、安倍総理は「わが国に対する市場や国際社会からの信認を確保するため、経済再生と財政健全化の両立をめざしている」「しっかり堅持し、達成に向けてまずはデフレから脱却し、経済を再生させていく」(6日の参議院決算委員会での答弁)などと決意を改めて示した。

自民党は、前日(5日)に、党税制調査会幹部や民間有識者らで構成する「財政再建に関する特命委員会」(委員長:稲田政調会長、座長:塩谷政調会長代行)を発足し、財政健全化策の検討作業をスタートさせた。歳出の抜本改革のほか、改革年1兆円規模で増え続ける社会保障関係費のスリム化・効率化を柱とする社会保障制度全体の改革も検討するという。政府が今夏までに策定する新たな財政健全化計画や、経済財政運営の基本指針「骨太の方針」に反映させるべく、自民党は、健全化案を6月メドにとりまとめる方針だ。

 

 

【12日から政府4演説と各党代表質問】

 補正予算が成立したことを受け、政府は、来年度予算案を12日に国会提出し、来年度予算の年度内成立に全力を挙げていく方針でいる。衆議院予算委員会での実施審議は、19日からになる見通しだ。 
 

与党は、12日の衆参両院本会議で安倍総理による施政方針演説など政府4演説を行い、13日から政府4演説に対する各党代表質問を実施する案を、野党側に打診した。野党は、12日の政府4演説については受け入れたが、13日からの代表質問については政府4演説と代表質問の間に1日空ける慣例に反しているとして、与党側の求めに応じなかった。与野党で引き続き協議した結果、与党側が譲歩し、代表質問を16日から行うこととなった。 

 安倍総理は、施政方針演説で「経済最優先」「地方創生」の姿勢を改めて打ち出し、農協改革など岩盤規制打破に取り組んでいく決意をアピールする。また、イスラム教スンニ派過激組織ISILによる日本人殺害事件を踏まえ、テロとの戦いに国際社会と連携して対応していくことや、中東への人道支援の拡充、邦人の安全確保に万全を期していく方針などを示すという。

 

 一方、攻勢を強めたい民主党は、アベノミクス推進による格差拡大、異次元金融緩和や円安のリスクなどについて追及している。衆議院本会議での代表質問に岡田代表が立ち、民主党が考える経済政策の考え方などについてアピールしたい考えだ。

民主党は、政府・与党との対抗軸を明確にするため、3日、格差の是正と経済成長を両立させる経済政策を策定する「共生社会創造本部」(本部長:岡田代表)を発足させた。党所属のすべての国会議員(132人)が参加できるかたちで議論を進め、意見集約を図る。また、民主党幹部が地方行脚を行って国民の声を聴いて回るようだ。来年夏に行われる参院選の公約に盛り込むため、今年10月をメドに中間報告をまとめるという。

 

 

【安保法制に関する与党協議が再開へ】

 通常国会の後半で焦点となる、集団的自衛権行使の限定容認を含む「切れ目のない安全保障法制」の整備に向け、自民党と公明党は、内容の具体化に向けた与党協議会(座長:高村副総裁)を13日から再開する。政府は、昨年7月1日の閣議決定にもとづき、通常国会に自衛隊法改正案など安全保障関連法案9本程度を提出する予定でいる。

 

安倍総理は、現行法で不可能な自衛隊による保護・邦人救出について「邦人が危険な状況に陥ったときに救出も可能にする議論を行いたい」(5日の参議院予算委員会での答弁)と、関連法案の整備に意欲を示した。ただ、ISILによる日本人殺害事件と邦人保護・救出の法整備を関連付ける議論が浮上していることを憂慮して、今回の事件のようなケースは、昨年7月の閣議決定で「受け入れ国の同意」「国に準ずる組織がいない」ことを邦人保護・救出の条件として掲げていることから、新たな法的枠組みの下でも自衛隊は投入できないとの見解を示した。

 また、安倍総理は、国際協力を目的とした多国籍軍への後方支援など自衛隊の海外派遣について「恒久法を検討している」(5日の参議院予算委員会での答弁)と、迅速な派遣を可能にするためには、事案ごとに特別措置法(時限立法)では不十分であり、恒久的な一般法の制定が望ましいとの見解を示した。そのうえで、自衛隊派遣の要件として「国会の決議を検討するのが通例」と述べ、原則として国会承認を義務付ける考えも示した。

 

安倍総理は、与党協議を前に、慎重な公明党を意識して、自らの見解を明確にしておくねらいがあったようだ。政府・自民党は、自衛隊の海外派遣を恒久法で制定するとともに、朝鮮半島など日本周辺有事で米軍の後方支援を行うことを想定した周辺事態法を廃止して、自衛隊の活動範囲に地理的な制約を設けないことをめざしていた。

しかし、公明党が「自衛隊の活動範囲が際限なくひろがりかねない」として、周辺事態法の維持を求めるとともに、国会のチェック機能を重視して特別措置法での制定を主張している。また、自衛隊の邦人保護・救出を可能にするための法整備についても、「冷静で慎重な議論が必要だ」(公明党の山口代表)と、政府・自民党を牽制している。

このことから、政府・自民党は、公明党への配慮から周辺事態法を維持し、同法を改正して自衛隊の海外派遣の手続きなどを盛り込むことで調整を進めている。これにより、恒久法の制定について公明党の理解を得たい考えだ。ただ、公明党は恒久法制定そのものに否定的で、「国会承認の時期は事前か事後か」「後方支援は国連安保理決議を前提とすべきか否か」といった論点も含め、与党協議で調整していく見通しだ。

 

 このほかにも、シーレーン(海上交通路)、とりわけ輸入原油の8割が通過する中東ホルムズ海峡での自衛隊による機雷掃海活動をめぐって、集団的自衛権を行使して海上自衛隊が掃海活動をできるようにしたい安倍総理・自民党に対し、公明党は慎重姿勢を崩していない。政府・与党は、関連法案を5月連休明けに通常国会へ提出することをめざしているが、政府・自民党と公明党との間で、激しい駆け引きが展開されていくこととなりそうだ。

 

 一方、維新の党は、集団的自衛権行使の限定容認を含む自衛権行使の範囲を適正化など、安保政策全般を示した一般法「安全保障基本法案(仮称)」の国会提出を検討している。与党協議の動向をにらみつつ、党内議論を深めていくという。独自の対案を示すことで、安倍内閣に論戦を挑んでいくとともに、存在感をアピールしたい考えだ。また、細野政調会長ら民主党の一部にも賛同を促し、集団的自衛権の行使に慎重な岡田代表ら民主党執行部を揺さぶるとともに、維新の党主導で野党再編を仕掛けたいとの思惑もあるのではないかとみられている。

 

 

【農協改革、決着へ】

安倍総理の掲げる岩盤規制打破の試金石とみられている「農協改革」をめぐっては、9日、政府・自民党が全国農業協同組合中央会(JA全中)の改革案をとりまとめ、それを了承した。政府・自民党がJA全中の一般社団法人化や監査部門の分離独立を維持しつつもJA全中に一定の配慮を示したことを受け、これまで政府案に強硬な反対姿勢をとっていたJA全中も、最終的に改革案を受け入れた。

 

農協改革案では、農家の自立や単位農協の自由な経営を確保するため、全国約700の農協組織を束ねるJA全中を農協法にもとづく特別認可法人から一般社団法人へ2019年3月までに完全移行し、地域農協の経営状態などを監査してきた監査・指導権限を撤廃する。下部組織の都道府県中央会は、農協法にもとづく連合会として存続することになるが、地域農協への指導権限を持たない。また、農産物の集荷・販売を担う全国農業協同組合連合会(JA全農)などは、自主判断で株式会社へ組織変更できる規定を新設する。

JA全中が一般社団法人になることで、地域農協などから集めている年約80億円の負担金がなくなる。今後、JA全中は、運営費を任意の会費によって賄っていくこととなる。また、監査・指導権限の撤廃に伴い、JA全中の監査部門を分離・独立させたうえで新たな監査法人として設立するとともに、農協監査士が担ってきた監査業務を民間の公認会計士も行えるようにする。これにより、地域農協は、監査法人を選択できるようになる。

 

一方、農協利用者のうち農業に携わっていない「准組合員」の扱いについては、当初、「金融事業ばかりに力を注ぐ農協の体質改善が必要」として、農協が実施する金融・共済などの利用を制限する方針だった。しかし、自民党内やJA全中から「地域農協の経営への影響が大きい」などと反発したため、政府側が譲歩し、「一定の利用制限が必要」との文言を盛り込みながらも、具体的な制限内容は「政令で定める」と事実上、見送ることとなった。准組合員の利用制限は、今後5年間の利用実態を調査したうえで可否を判断するようだ。

 

 政府・与党で農協改革案がまとまったことを受け、10日、正式に政府・与党案として決定した。政府は、3月末までに農協法改正案を閣議決定のうえ、通常国会に提出する予定だ。

 政府・自民党の農協改革案について、民主党は「農協の組織的な部分に手を付けることが農業の活性化にどういう効果があるのか全く不明だ。ピント外れなことをやっている」(枝野幹事長)などと批判している。ただ、関連法案の賛否は国会提出後に議論するとしつつも、「マイナスがないなら賛成の余地があるかもしれない」と賛成に含みを残している。

 

 

【安倍総理の施政方針演説に注目】

 今週後半から来週前半にかけて、衆参両院の本会議で、政府4演説とそれに対する各党代表質問が行われる。

通常国会を「改革断行国会」と位置付ける安倍総理は、12日に行う施政方針演説で、農協改革などの岩盤規制改革や安全保障法制、テロ対策と危機管理などについてどのように語り、与野党にどう協力を呼びかけるのだろうか。そして、代表質問では、各党がどのようなテーマで論戦を仕掛け、安倍総理ら主要閣僚からどのような答弁を引き出すのだろうか。

通常国会前半の国会論戦の行方や政策争点を見極めるためにも、衆参両院の本会議での与野党論戦を通じて、主要政策別に各党の主張・立ち位置などについて把握しておいたほうがいいだろう。
 

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