政策工房 Public Policy Review

霞が関と永田町でつくられる“政策”“法律”“予算”。 その裏側にどのような問題がひそみ、本当の論点とは何なのか―。 高橋洋一会長、原英史社長はじめとする株式会社政策工房スタッフが、 直面する政策課題のポイント、一般メディアが報じない政策の真相、 国会動向などについての解説レポートを配信中!

January 2015

高橋洋一・株式会社政策工房 代表取締役会長】

 政府は14日、2015年度予算の政府案を閣議決定した。新聞各紙は、いつものように予算案を家計に例えると、という記事を書いている。
 
 政府を家計に例えることは正しいとはいえない。経済主体では、家計、企業、政府と分けるが、家計は貯蓄主体、企業は借り入れ主体が基本形だ。このため、家計の借り入れは多くない。政府は家計より企業に似ている。政府を家計に例えると、借り入れは悪ということになりかねない。しかも、政府の持つ巨額な資産が考慮されないで、負債の借り入れのみが悪者にされる。そして、お決まりの財政再建だから増税といういつものパターンになる。

 なぜ新聞各紙で同じような論調なのか。これは、財務省が事前に予算案の説明資料を新聞各社に配って、それを若干修正して記事を書いているからだ。いうなれば、簡単な「アンチョコ」資料をもらって、官僚からの「レク」を受けながら、記事を書かれているのだ。
 
 2015年度の政府予算案は総額96兆3420億円だが、歳入のうち税収は54兆5250億円、その他収入は4兆9540億円、公債金は36兆円8630億円だ。
 
 これを1兆円を10万円に置き換えて、家計に例えると、家の支出は963万円で、お父さんの収入545万円、お母さんの収入50万円となって、借金369万円となる。こんなに借金する家計はまずないので、借金の金額で国民を驚かせることになる。
 
 筆者は、家計に例えるのはいいと思わないが、あえていおう。実は、最近の円安で、政府の外貨準備は評価益がでている。ざっといえば、20兆円くらいだろう。これを例えでいえば、次のようになる。
 
 お母さんがお父さんに内緒で財テクしていて、200万円も儲かっていた。しかし、知らぬはお父さんだけでその恩恵を受けられずに窮乏で、お母さんだけがほくそ笑んでいた。その200万円は、どこにいったのだろうか。 

【経済対策を裏付ける補正予算案を閣議決定】

先週9日、臨時閣議で、消費喚起や地域創生などを柱とする経済対策(12月27日閣議決定)を財政的に裏付ける総額3.11兆円の補正予算案を決定した。

 

消費喚起関連では、地方自治体や商工団体などが発行するプレミアム商品券などへ助成する「地域消費喚起・生活支援型の地域住民生活等緊急支援交付金」(2500億円)のほか、環境に配慮した省エネ住宅の新築・リフォームにポイントを付与して商品などと交換できる住宅エコポイントの再開(805億円)などが盛り込まれた。

 地方創生関連では、各府省の計59事業、総額3275億円が盛り込まれた。総合戦略に沿って人口減少対策や少子化対策などを積極的に取り組む先行自治体に対して交付金を上乗せする「地方創生先行型の地域住民生活等緊急支援交付金」(1700億円)や、新規就農支援や創業時の設備購入費等に対する補助金支給など地方での雇用創出を目的とした36事業(計824億円)のほか、地方移住の情報を提供する「全国移住促進センター」の開設、子育て世代を対象にした総合的な相談窓口の整備などが盛り込まれている。

エネルギー対策関連では、蓄電池の導入支援など再生可能エネルギーの利用拡大(809億円)や、燃料電池車や電気自動車の購入補助(100億円)、省エネ機器を導入する場合の補助金など(930億円)のほか、円安進行で燃料費増に苦しむ中小企業対策も盛り込まれている。

 

補正予算の財源には、所得税や法人税の伸びによる税収上振れ分1.72兆円や、前年度の一般会計剰余金(1.06兆円)や復興財源剰余金(0.97兆円)などを充てている。2014年度当初予算で計画していた新規国債の発行額(41.25兆円)については、0.75兆円を減額した。国債の追加発行を回避することで、財政健全化に配慮した格好だ。

 

 

【安倍路線が反映された来年度予算案も閣議決定】

 政府は、14日の臨時閣議で来年度予算案を決定した。一般会計総額は96.34兆円(今年度当初比0.5%増)と、2年連続で過去最大となった。

 

■財政健全化目標、予算案段階では達成へ

 来年度の歳入については、消費税率10%への引き上げ延期するものの、消費税率8%への引き上げや、企業業績の改善による所得税の税収アップ(16.44兆円、今年度当初比11.2%増)などにより、約54.53兆円(今年度当初比9.0%増)の税収を見込んでいる。日本銀行納付金など税外収入4.95兆円と合わせた歳入総額は、59.48兆円としている。

 政府は、14日の閣議で、昨年12年30日にまとめた与党の税制改正大綱を踏襲した2015年度の税制改正大綱を決定した。また、税収見積もりの前提となる2015年度の経済成長率について、物価変動の影響を除いた実質成長率を1.5%、物価変動を反映した名目で2.7%とする政府経済見通しを閣議了解している。2014年4月の消費税率8%への引き上げによって落ち込んだ個人消費や設備投資が持ち直すなど、民間需要主導の景気回復を見込む。これにより、法人税の税収のみならず、給与アップによる所得税収増も期待できるとしている。

 

歳入不足を補う新規国債発行額については、約36.86兆円(赤字国債:30.86兆円、建設国債:6兆円)に抑えられた。これにより、歳入に占める国債発行額の割合を示す公債依存度は、38.3%(4.7ポイント減)に低下する。

また、新規国債発行をせずに政策経費(国・地方)をどれだけ賄えているかを示す基礎的財政収支(プライマリーバランス)赤字の対GDP比は3.3%となった。予算案段階の試算では、2015年度までにプライマリーバランス赤字の対GDP比を2010年度実績(6.6%)から半減するとの財政健全化目標を達成できる見通しとなっている。

ただ、依然として予算総額の4割弱を国債に依存する財政状況が続く。また、消費税率10%への引き上げの先送りなどにより、2020年度までにプライマリーバランスを黒字化させる財政健全化目標の達成は困難になっている。麻生財務大臣は、極めて難しい状況にあるとの認識を改めて示したうえで、「徹底した歳出面の改革が必要」(14日の閣議後の記者会見)と述べた。政府は、新たな財政健全化計画を今年の夏までに取りまとめる予定だという。

 

■社会保障費は過去最大

 歳出をみると、政策経費72.89兆円(今年度当初比0.4%増)のうち最も占めているのは、社会保障費31.53兆円(今年度当初比3.3%増)だ。高齢化の進展に伴う自然増(8300億円)を、介護報酬改定や生活保護の支給基準の見直しなどで1700億円分を圧縮した。ただ、子育て世帯臨時特例給付金を減額のうえ支給を継続することや、子ども・子育て支援の拡充の一部実施などが盛り込まれたことから、総額では過去最大だった2014年度当初を1.36兆円上回り、過去最大となった。

 

 焦点となっていた9年ぶりの介護報酬改定をめぐっては、介護サービスの公定価格「介護報酬」を3%程度の引き下げを求める財務省と、引き下げを最小限にしたい厚生労働省とのギリギリの攻防が続けられた。

麻生財務大臣と塩崎厚生労働大臣による最終折衝にもつれこみ、政治決着を図ることとなった。これにより、膨らむ介護費用を抑制するため、介護報酬を全体で2.27%引き下げる一方、障害福祉・介護職員の人手不足を解消するため、平均給与が月1.2万円増額となるよう別枠で確保(人件費に関する報酬はプラス1.65%)することなどが盛り込まれることとなった。

 

■安倍路線が反映された予算案に

 来年度予算案は、「地方創生」「女性の活躍推進」「国土強靭化」「外交・防衛予算の充実」などを掲げており、安倍内閣の政策路線が色濃く反映された内容となった。

 

 地方創生関連では、総合戦略に係わる分として7225億円を充てたほか、1兆円の予算枠(まち・ひと・しごと創生事業費)を新たに計上した。また、地方税収や交付税などを原資に自治体が自由に使える地方一般財源の総額は、過去最高の61.5兆円となった。地方への予算配分を手厚くし、地方創生を後押しする。

女性の活躍推進関連では、今年度当初比1000億円が増額され(9000億円)、政府が昨年10月に政府が策定した政策パッケージの一部を反映したものとなった。保育所運営のための施設型給付や、保育所の整備・改修、小規模施設に対する地域型保育給付など待機児童解消に7023億円を配分した。また、女性の貧困対策(生活困窮者の相談支援、就労支援を行う自立支援など)に400億円、正社員への昇格を希望する女性らを支援する「正社員実現加速プロジェクト」に321億円などを計上している。

 

公共事業費は5.97兆円で、今年度とほぼ横ばいとなった。公共事業費では、自治体によるインフラの老朽化対策や地震津波対策などに特化して財政支援する「防災・安全交付金」を増額(1.09兆円で1.0%増)のうえ、土砂災害対策として都道府県が危険箇所の地形などを調べる基礎調査の実施に優先配分する特別枠を新設(70億円)した。このほか、整備新幹線の延伸区間の前倒し開業決定で国費の追加費用なども盛り込んだ。

 

 外交予算では、首脳外交関連経費95.4億円のほか、日本の国連安全保障理事会常任理事国入りに向けた安保理改革関連費・非常任理事国選挙(今年10月)対策費として871.8億円、外交実施体制の拡充に62.9億円などを盛り込んだ。

 防衛関係費(在日米軍再編経費含む)は、海洋進出を活発化させる中国への対応を念頭に防衛力強化を図るべく、尖閣諸島などの領海警備・警戒監視体制の強化、島嶼防衛の強化・装備品調達などを盛り込んで、過去最大の4.98兆円(今年度比2%増)となった。

 

■暫定予算案の編成検討へ

安倍総理は、来年度予算案について「元気で豊かな地方の創生、子育て支援など社会保障の充実に最大限取り組むとともに、国債発行額を4.4兆円減額し、6年ぶりに40兆円を切ることができた。経済再生、財政健全化を同時に達成するために資する予算になった」と強調した。政府は、補正予算案と来年度予算案、消費税率引き上げの先送りなどを盛り込んだ税制改正関連法案を1月26日召集予定の通常国会に提出し、早期成立をめざす。そのうえで、切れ目のない予算執行を着実に進めていく方針だ。

ただ、通常国会では、補正予算を2月中旬までに成立させた後、来年度予算案が審議入りとなる。通常、予算審議には衆参両院で1カ月半~2カ月程度はかかることから、来年度予算の年度内成立は微妙な状況だ。与党は、地方統一選が控えているだけに、なるべく丁寧な国会運営に心がけていく構えだが、野党の追及で予算委員会での審議が紛糾すれば、成立そのものが4月にずれ込むこともありうる。

このことから、政府・与党は、統一地方選前半戦の投票日となる4月12日までに来年度予算の成立をめざす方針だ。財務省は、来年度予算が年度内成立しなかった場合に備え、10日程度の暫定予算案の編成も検討していくという。

 

 

【衆参両院に情報監視審査会の発足へ】

9日、政府は、昨年12月10日に施行された特定秘密保護法に基づき、昨年末現在の特定秘密に係る指定状況について公表した。特定秘密に指定(事項別)された情報は、政府の10省庁の計382事項となった。文書数では40万件前後とみられる。

指定された特定秘密情報は、防衛(247事項すべてが防衛省指定)、および外交(外務省、内閣官房、海上保安庁など113事項)の関連情報が中心だ。このほかは、警察庁・公安調査庁が指定したスパイなどの防止関連(18事項)と、テロ防止関連(4事項)の情報となっている。

 省庁別でみると、防衛省(暗号85事項、自衛隊の装備関連情報54事項など計247事項)が最も多く、次いで内閣官房(暗号23事項、情報収集衛星関連21事項など計49事項)、外務省(インテリジェンス関連11件など計35事項)、警察庁(18事項)、海上保安庁(15事項)、公安調査庁(10事項)が続く。経済産業省(4事項)や総務省(2事項)、国家安全保障会議(1事項)、法務省(1事項)でもそれぞれ特定秘密の指定があった。

 

 一方、特定秘密保護法の運用が適正か否かをチェックする情報監視審査会を国会に設置することが、特定秘密保護法に明記されていることから、与野党は、今月26日召集予定の通常国会で早期に発足させる方針だ。衆参それぞれ会長および委員の計8名で構成する審査会は、非公開の秘密会で政府から運用状況について報告を受け、指定が不適切と判断した場合は指定解除を政府に勧告することができる。

与党は、衆参両院の情報監視審査会の初代会長に、衆議院は額賀元防衛庁長官・前衆議院国家安全保障特別委員長を、参議院は金子前参議院決算委員長を充てる方針だ。当初、施行に従って、昨年末の特別国会において発足させる方向で進められていた。しかし、人選が難航したため、発足そのものが見送られることとなった。両名は、通常国会で選任される見通しだ。審査会委員の人選については、与野党で協議・調整を進めているという。

 

 

【与野党の発言・動向に注目を】

 政府・与党は、補正予算案・来年度予算案の編成を終えた。18日にも新体制が発足する民主党など野党は、地方統一選を前に、政府・与党との対決姿勢を鮮明にしたい考えで、早くも政府の予算案に対し「弱者切り捨て」「社会保障改革が骨抜きにされている」などとの批判もあがっている。また、第三次安倍内閣が第二次安倍改造内閣の閣僚をほぼ留任させたことから、昨年の臨時国会で紛糾した閣僚の政治とカネをめぐる問題の徹底追及もすべきとの声もあがっているようだ。

 来週末にかけて、26日召集予定の通常国会を前に、与野党の水面下での駆け引きや協議が進められていくこととなっていくだろう。通常国会がどのような性格をもった国会になるのかを見極めるためにも、政府や与野党の主張をチェックしていくとともに、召集前の与野党動向などを把握しておくことが大切だろう。

【山本洋一・株式会社政策工房 客員研究員】


 政府・与党は8日、北海道と北陸、九州で建設中の整備新幹線について、開業時期を前倒しすることで合意した。追加費用の大半は「国費以外から調達」するとしたが、間接的には国民負担につながる可能性がある。国家全体にとって何が優先課題か、冷静に判断しなければならない。

 
 整備新幹線は国の計画に基づいて建設する北海道、東北、北陸、九州新幹線のこと。現在は国が3分の2、地元自治体が3分の1の費用を負担して独立行政法人が建設し、JR各社に有償で貸し出す仕組みだ。JR東海が自前で建設しようとしている中央新幹線(中央リニア)は含まない。

 
 現在、建設中なのは北海道の札幌―新函館北斗間、北陸の金沢―敦賀間、九州の武雄温泉―長崎間の3区間。政府・与党は8日の作業部会で北海道を2035年度から2030年度に、北陸を2025年度から2022年度に、九州を2022年度から「できる限り」前倒しすることで合意した。

 
 北陸新幹線は2020年の東京五輪に間に合わせるため、金沢から敦賀に向かう途中駅である福井までの路線のみ、さらに前倒しする方向で、今夏までに結論を出すという。

※前倒しが決まった整備新幹線の路線(日経より)

http://www.nikkei.com/news/image-article/?R_FLG=0&ad=DSXMZO8173185008012015PP8001&bf=0&dc=1&ng=DGXLASFS08H6E_Y5A100C1PP8000&z=20150108


 建設の前倒しには当然、費用がかかる。現在は復興需要や関東圏でのマンション建設ラッシュにより建設費が高騰しているため、なおのことだ。国土交通省は3路線の前倒しで少なくとも5400億円の追加費用が必要としており、このうち900億円を国費で負担し、残り4500億円を国費以外から捻出するとしている。

 
 日本経済新聞によると、国費以外の費用ねん出策は次の三つ。一つ目は建設主体である独立行政法人、鉄道建設・運輸施設整備支援機構(鉄建機構)が線路や駅を担保に金融機関から借り入れる。二つ目はJR各社が独法に支払う負担金の一部を建設費に回せるようにする。三つ目は独法の金利負担の想定を引き下げるというものだ。

 
 借り入れと負担金の使途変更でそれぞれ2000億円、想定金利の見直しで300億円生み出せるとしている。

 
 ただ、気を付けなければならないのは、財源ねん出策のいずれも、鉄建機構の負担となることだ。借り入れを増やせば当然、金利負担が増す。さらにその2000億円はいずれ鉄建機構の利益から返済しなければならない。負担金の使途変更も本来は違う用途に使えるはずの金を建設費用に回すわけだし、想定金利の引き下げも、本来浮くはずの金利負担の差額がなくなるだけだ。

 
 鉄建機構の負担は、間接的には国民の負担になる。鉄建機構は独立行政法人であり、基本的には政府の一部。鉄建機構の資産は国民の資産であり、過去には積み上がった利益剰余金を国庫に戻したこともある。機構の負担が増えれば国民に還元されるはずの利益が減ることになる。

 
 そもそも鉄建機構の前身の一つは国鉄清算事業団であり、国鉄を民営化する際に債務を切り離すために作った組織。国鉄民営化の際には国が24兆円もの借金を穴埋めした経緯があり、鉄建機構が稼いで国民に返すというのは当然のことである。鉄建機構の財政が窮乏すれば、機構から施設を借りるJR各社の負担が増し、乗車料を通じて国民が間接的に負担することにもなりかねない。

 
 そもそも今回、開業を前倒しする3路線の「収益力」には限界がある。いずれも全国から航空路線や特急列車で行くことができ、新幹線に置き換わったとしても効果が限られるからだ。いずれの路線も国土交通省は投下した費用に対し、得られる効果は同等程度としているが、その試算も怪しい。甘い採算見通しで建設した後、借金が雪だるま式に増えた公共事業の例は数知れない。

 
 北海道と北陸の前倒しが確定したことを受け、次なる焦点は金沢―福井間のさらなる前倒しや、九州の具体的な前倒し期間の検討となる。ただ、金沢―福井間を先行開業するには福井駅に車両基地が必要となるなど、前倒しだけのために追加投資が必要となる。慎重に検討すべきだ。

 
 アベノミクスによる企業業績の回復や消費増税による税収の増加を受け、政府・与党内には財政規律に対する“緩み”が散見される。国民は見た目の「国費」だけにとどまらず、総合的な「国民負担」に目を光らせ、国家にとっての優先課題を見極めなければならない。

原英史・株式会社政策工房 代表取締役社長】 


岩盤規制改革 成果と課題                           (図表作成:政策工房)

 

岩盤規制改革 主な課題

この1年間の成果

次期通常国会の課題

<「これからの成長分野」を阻む岩盤規制>

農業

農協改革

△: 6月成長戦略で方向は決定

法案提出予定 ⇒法案の内容は?(改革完遂か骨抜きか?)

株式会社の農地保有解禁

-: 前進は限定的

予定なし ⇒踏み込めるか?

医療

患者申出療養(混合診療)

△: 6月成長戦略で方向は決定

法案提出予定 ⇒法案の内容は?(改革完遂か骨抜きか?) 

医学部新設

-: 2013年から議論継続しているが、前進は限定的

現時点でスケジュール不明 ⇒実現できるか?

介護

株式会社参入・イコールフッティング

-: 前進なし

予定なし ⇒踏み込めるか?

エネルギー

電力改革

○: 第二弾改革法案(小売参入自由化)成立

第三段(送配電分離)提出予定 ⇒法案の内容は?(改革完遂か骨抜きか?)

教育

公設民営学校解禁

△: 臨時国会に法案提出(国家戦略特区法)したが廃案

法案再提出予定?

<分野横断的な岩盤規制>

労働

労働時間規制改革

△: 6月成長戦略で方向は決定

法案提出予定 ⇒法案の内容は?(改革完遂か骨抜きか?)

外国人

就労資格拡大

△: 臨時国会に法案提出(国家戦略特区法)したが廃案 

法案再提出予定?

交通インフラ

インフラの民間開放(道路コンセッション解禁など)

△: 臨時国会に法案提出(特区法)したが廃案

法案再提出予定?

 

  安倍首相は2014年1月のダボス会議で「今後2年間で、残された岩盤規制をすべて打ち抜く」ことを宣言した。この方針は、その後6月に政府が公表した成長戦略(「日本再興戦略改訂版」)や、年末の総選挙での自民党公約でも踏襲された。

 
 現政権の成長戦略、つまりアベノミクス「第三の矢」の最大のポイントは、この「岩盤規制改革」を主軸に据えたことだ。過去の歴代政権も毎年のように成長戦略を公表してきた。いずれも「これからの成長分野」として農業、健康・医療、環境・エネルギーなどの分野を掲げ、政策的な支援・誘導を図ってきた。しかし、残念ながらいずれの分野も、いまだ「これからの成長分野」のまま。理由は、これら分野はいわゆる岩盤規制の宝庫で、新規参入や新たな創意工夫が厳しく制約され、ここに手をつけられずにきたからだ。

 
 規制改革というと、「大企業に便宜を図り、消費者や労働者の利益は置き去り」といったステレオタイプ的な批判がありがちだ。筆者は、政府の内部、自治体、民間などさまざまな立場で規制改革に関わってきたが、その経験からすれば全く見当はずれな批判だと思う。規制は、往々にして利権を生み出す。例えば、新規参入規制と参入済みの既得権者との関係を考えればわかりやすい。経済社会状況が変わって規制の必要性がなくなっても、規制が「岩盤」のように維持されたり、更に強化されたりするのは、こうした規制利権のためだ。大企業はしばしば規制利権の恩恵を受ける立場にあり、むしろ規制改革を阻む側にいることがよくある。


 逆に、そうした岩盤規制によって最も不利益を蒙るのが、消費者や一般国民だ。これも、過度な新規参入規制によって、商品・サービスの選択の余地が奪われている状態を思い浮かべればわかりやすい。岩盤規制改革は、「これからの成長分野」のくびきを解き放ち、国民全体・経済社会全体に利益が行き渡るようにするため、避けて通れない課題なのだ。

 
 6月の「日本再興戦略改訂版」では、「2年間で岩盤規制改革」の方針のもと、農協改革、保険外診療(混合診療)など、何十年も課題とされ続けてきた「岩盤中の岩盤」にも手を付けることを決定した。また、そのための切り札として「国家戦略特区」を活用し、いきなり全国一斉には難しい難題では、意欲ある地域(自治体・民間)と首相官邸が直結して改革を進める方針も示した。これらは、過去の成長戦略とは異なる画期的なことといってよい。

 
 一方で、懸念材料にも触れておく必要があろう。本当に実行できるのかどうかだ。


1)まず、6月に公表された「日本再興戦略改訂版」や「規制改革実行計画」では、まだ手のついていない岩盤規制がいくつも残されている。例えば農業分野では、「一般の株式会社は農地を所有できない」という規制などだ。


2)また、農協改革なども、6月時点ではあくまで、改革を進めるという方向性を決定した段階にすぎない。こうした改革は法案化・具体的な制度化が鍵だ。下手をすれば、法案化までの段階で骨抜きされてしまうおそれも否めない。


3)「国家戦略特区」もまだまだこれからだ。2013年の制度創設時に設けられた規制改革メニュー(容積率緩和、病床規制緩和など)に加え、秋の臨時国会で追加規制改革メニュー(外国人在留資格拡大、公設民営学校解禁など)を盛り込んだ法案が提出されたが、解散のため通常国会に先送りとなった。

 
 総じていえば、この1年間で法案として実現した岩盤規制改革はほぼ皆無(通常国会で成立した電力改革第二弾ぐらい)。安倍首相が「今後2年で・・」と約束してから、すでに1年が経過してしまった。約束は果たすために残された時間はあと1年しかない。2015年1月からの通常国会で、どれだけの岩盤規制改革を実現することができるかどうか。大いに注目する必要がある。

    

 先週1日、安倍総理は、2015年の年頭所感で、重要課題としてデフレ脱却・経済再生や、安全保障などを挙げ、「さらに大胆に、さらにスピード感を持って改革を推し進める。日本の将来を見据えた改革断行の1年にしたい」との抱負を明らかにした。

安倍総理は、今月26日召集予定の通常国会を「改革断行国会」と位置付ける。通常国会の前半は、経済対策を裏付ける補正予算や来年度予算などの早期成立に全力を挙げる。その後、集団的自衛権行使の限定容認を含む安全保障関連法案などが審議入りする予定だ。政府・与党は、関連法について通常国会中の成立をめざしている。

 

【補正予算案、9日に閣議決定へ】

安倍総理は、引き続き経済最優先で取り組む姿勢を示したうえで、「アベノミクスをさらに進化」「経済最優先で政権運営にあたり、景気回復の暖かい風を全国津々浦々に届けていく」と、成長戦略や経済対策を前進させる決意を述べた。

 政府は12月27日、日本経済再生本部(本部長:安倍総理)を開催して、昨年6月に策定した改定成長戦略の早期実行に向けた基本方針について確認した。基本方針では、2017年4月からの消費税率10%への引き上げを前提に「一刻も早い経済状況の好転を目指し、前例のないスピード感で改革を進める」とし、農業や雇用、医療、エネルギーなどの岩盤規制分野について「一歩も後退することなく改革を進め、新たな市場とビジネスチャンスを生み出す」としている。

政府は、今年初めにも成長戦略の改定実行計画をまとめ、法制化や事業化などを推進めていくようだ。

 

 また、景気回復の足取りが鈍く、後退懸念が出ていることを受け、政府は、12月27日の臨時閣議で、総額3.5兆円の経済対策を決定した。このうち1.2兆円を生活者・事業者支援、0.6兆円を地方活性化関連、1.7兆円を災害復旧・復興関連に振り分けた。政府は、これら対策により、実質国内総生産(GDP)0.7%程度の引き上げる効果を見込んでいる。

経済対策の目玉として「地域住民生活等緊急支援交付金」(総額4200億円)を創設し、地方自治体や商工団体などが発行するプレミアム商品券などへ助成する「地域消費喚起・生活支援型」(2500億円)と、地方創生総合戦略に沿って人口減少対策や少子化対策などを積極的に取り組む「先行自治体」に対して交付金を上乗せする「地方創生先行型」(1700億円)の2種類により、個人消費の喚起と、地方創生の推進・支援していく。新たな交付金制度では、各地の実情に応じて柔軟に支出できるようにし、低所得者向けに灯油購入費の助成や、子どもの多い家庭に対する子育て支援、地方での就業・創業支援などにも使うことが想定されている。

 

交付金以外の対策については、以下の通り。

■生活者・事業者支援

○急速な円安に伴う燃料・原材料高や輸入コスト増に苦しむ中小企業の資金繰り・事業再生支援

○省エネや耐震性能の高い住宅購入者に対し、低利で長期融資する住宅ローン「フラット35S」の金利の引き下げ幅拡大

○環境に配慮した省エネ住宅の新築・リフォーム(2015年3月末までの売買・請負契約が対象)にポイントを付与して商品などと交換できる住宅エコポイントの復活

○従業員の賃金をアップした中小企業への助成事業の拡充

○運送業者など向けに高速道路料金割引措置(最大5割)を来年3月末まで延長

○農業機械の共同購入など、生産コスト削減に取り組む稲作農家への支援

■地方活性化関連

○人材・企業の地方移転支援

○若者の農林漁業就業・研修支援

■災害復旧・復興関連

○東日本大震災復興特別会計への繰り入れ(1兆円)

○東京電力福島第1原発事故に伴う汚染土を保管する中間貯蔵施設の建設を受け入れた福島向けの交付金(0.25兆円)

○災害・危機などへの対応

(学校施設等の災害復旧、火山観測の研究基盤整備・観測態勢強化など)

 

 これら経済対策を裏付ける2014年度補正予算案は、今月9日にも閣議決定のうえ通常国会に提出する。補正予算案の規模は3.1兆円で、財源は、税収の上振れ分や剰余金などを充てる。政府は、2014年度当初予算で計画していた新規国債の発行額(41.25兆円)を0.75兆円減額する方針で、補正予算案の編成でも「(新たな)国債発行は行わない」(菅官房長官)としている。

 

 

【来週には、来年予算案が閣議決定】

 来年度予算案の編成に向けては、12月27日に経済財政諮問会議(議長:安倍総理)と臨時閣議を開き、「2015年度予算編成の基本方針」を決定した。

 基本方針では、財政健全化と経済再生が相互に寄与する「好循環を作り出す」路線を明示し、国・地方の基礎的財政収支(プライマリーバランス)の赤字を、2015年度に国内総生産(GDP)比で2010年度(6.6%)から半減させる財政健全化目標について「着実に達成するよう最大限努力する」とし、2020年度の黒字化目標についても「堅持する」とした。高齢化に伴い増大する社会保障費については「自然増も含め聖域なく見直す」とし、消費税率10%への引き上げ時に実施する予定だった子育て支援や医療など社会保障充実策の優先順位付けを行ったうえで、「可能な限り、予定通り実施する」とした。その一方で、中長期的な経済発展のため、地方創生、女性の活躍推進などは「強力に推進する」との方針を打ち出した。

政府・与党は、一般会計総額を96~97兆円規模とする方向で調整が進めている。来週、来年度予算案が閣議決定される予定だ。

 

 12月30日、予算案の前提となる来年度の税制改正大綱を、自民党と公明党が決定した。政府は、近く2015年度税制改正大綱を閣議決定し、通常国会に税制改正関連法案を提出する予定だ。

また、2015年度予算における税収見積もり前提となる「2015年度の経済見通し」については、民需主導による景気回復・個人消費の持ち直しなどを想定して、物価変動の影響を除いた実質成長率を2%前後とする方向で最終調整を行っている。

 

最大の焦点だった法人税実効税率(34.62%。東京都の場合35.64%)については、企業の国際競争力向上などを図るねらいから、来年度は2.51%、翌年度までの2年間は累計3.29%引き下げることとなった。税収減の穴埋め財源は、3年かけて、給与総額など企業規模に応じて課税する「外形標準課税」(地方税)を2年間で2倍に拡大することや、過去の赤字と黒字を相殺して法人税額を減らせる「欠損金繰越控除」の段階的縮小、持ち株比率が25%未満の関連会社から受け取る株式配当の非課税制度縮小(現在の5割から2割に)などにより、2.5%分の1.2兆円程度を確保して税収中立を実現するとしている。ただ、最初の2年間は、外形課税の拡充を1.5倍にとどめるなどにより、減税規模が増税分を上回る「実質な先行減税」としている。今後も、「数年で20%台へ引き下げ」を達成するべく、財源を捻出して税率引き下げ幅のさらなる上乗せをめざすという。

 このほか、企業向けとして、給与支給額を増額した企業(2012年度比で中小企業は3%以上、それ以外は4%以上)を対象に、期限付きで賃上げ分を法人事業税で非課税とすることや、企業・人材の地方移転を促す「地方拠点強化税制」を新たに創設した。地方拠点強化税制では、本社機能を三大都市圏以外(東京・中部・近畿)に移転した企業を対象に建物などの取得費用の最大25%の特別償却か最大7%分の税額控除かを選択できるほか、地方で雇用を増やせ1人あたり50万円を税額控除、本社移転は30万円を上乗せすることができる。

 

 個人向けでは、経済の活性化につなげるねらいから、消費税率10%への再引き上げが延期されたことを受けた措置として2017年末までとなっている住宅ローン減税の適用期限を1年半延長する。

また、2017年末までの3年間、子・孫への結婚・出産・子育ての費用の贈与(1人あたり1000万円まで)が非課税となる制度を2015年度に導入するほか、住宅資金や教育資金の贈与に対する非課税措置の延長なども盛り込まれた。住宅資金に対する贈与税は、非課税の対象に来年度から太陽光発電・地中熱ヒートポンプ・家庭用燃料電池などの設備設置も含め、非課税枠を最大3000万円(現行1000万円)に拡大したうえで、段階的に縮小し2019年6月末に廃止することとなった。

 さらに、少額投資非課税制度(NISA)に、未成年の子または孫の名義で年80万円までの投資ができ、その運用益には課税しない子供版「ジュニアNISA」を新設した。ただし、名義人が18歳となった年の前年12月31日までの間、払い出しできない。また、若年層による投資促進・裾野拡大を図るねらいから、NISAの年間投資上限額を120万円(現行100万円)に引き上げた。

 このほか、環境性能の高い自動車に適用される「エコカー減税」(自動車取得税、自動車重量税)はより厳しい燃費基準に移行したうえで、2年間続ける。軽自動車税も新たに適用対象となった。

 

 消費税率10%への引き上げについては、2017年4月1日から行うとし、消費税増税法の付則(景気判断条項)については削除とするとした。これに引き上げ延期に伴い、消費税転嫁法の期限も2018年9月30日に延期することとなった。食料品などの消費税率を低く抑える軽減税率については、「2017年度からの導入をめざす」とし、「早急に具体的な検討を進める」と盛り込んだ。与党は、来年1月下旬をメドに与党税制協議会の下に検討委員会を設置し、対象品目の範囲や、事業者が複数の税率を経理処理しやすくする仕組みなど具体化の検討作業を開始する方針だ。遅くとも2015年秋までに制度案を決定することをめざしているという。

 地方創生の一環として、個人が故郷の自治体などに寄付すると減税が受けられる「ふるさと納税」について、手続きを簡素化するとともに、個人住民税特例控除の限度額を個人住民税所得割り額の2割(現行1割)に拡大した。

 

 

【予算編成をめぐる動きに注目】

昨年末、経済対策はじめ、予算編成の基本方針、与党税制改正大綱、地方創生の長期ビジョン・総合戦略などを相次いで決定された。これらを踏まえ、予算案の編成・調整作業が急ピッチで進められている。

今週9日には補正予算案が、来週には来年度予算案が閣議決定される。経済再生と財政健全化の両立を掲げる安倍内閣は、来年度予算案について、聖域なく歳出を見直すことで概算要求(101.68兆円)を大幅に抑制し、新規国債の発行額を37兆円に抑制するとしている。また、景気の下支えを図るため、補正予算案とともに切れ目のない予算執行を進めるとしている。

限られた時間のなかで、政府・与党は、どこまでメリハリをつけた予算案に仕上げることができるのだろうか。政府与党内での水面下での駆け引き、政治折衝などの動向も含め、予算編成の最終局面を見極めておくことが大切だろう。

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