政策工房 Public Policy Review

霞が関と永田町でつくられる“政策”“法律”“予算”。 その裏側にどのような問題がひそみ、本当の論点とは何なのか―。 高橋洋一会長、原英史社長はじめとする株式会社政策工房スタッフが、 直面する政策課題のポイント、一般メディアが報じない政策の真相、 国会動向などについての解説レポートを配信中!

January 2015

高橋洋一・株式会社政策工房 代表取締役会長】

 昨年末、出版社から急に依頼され、ピケティ本の解説本を書いた。2月上旬くらいに発売される予定だ。

 

 現代ビジネスに書いた「ピケティ本『21世紀の資本』は、この図11枚で理解できる」の延長で、「【図解】ピケティ入門 たった21枚の図で『21世紀の資本』は読める!」という本のタイトルだ。アマゾンではもう広告もでている。




 

 従来の解説本とかぶらないように、ピケティの最新論文を翻訳している。その箇所を一部紹介してみよう。

 


 ピケティの『21世紀の資本』は、出版されるや多くの注目を集めた。


 とりわけ学者たちの反応は機敏であり、経済学のみならず、社会学や政治学、人類学、歴史学など、社会科学系の学者にも広く読まれたようだ。


 ここに、『The British Journal of Sociology』(201412月号)というイギリスの社会学雑誌に寄稿された、ピケティの論文がある。これは、いわば、社会科学系の学者たちが書評などを通じて表した批評への、ピケティからの「返答集」だ。


 ピケティは、まず『21世紀の資本』が学問の枠を超えて広く読まれたことへの謝意を述べ、さまざまな批評に応える形で、みずからの研究の今後の展望を示している。


 

 その中で、累進課税に関する部分ついては、次の通りだ。


 

 格差と制度への私の歴史的アプローチは、いまだ探求の途上にあり、まだまだ未完の思索である。特に、今勃興している新たな社会運動や政治活動への参加動員が、今後、はたして制度改革にどのような影響を与え得るかなどについては、この著では十分に語ることができていない。

 
 また、私は累進課税に思索を集中させた一方、たとえば所有権制度の他の可能性など、多くの制度改革の様相や可能性については、十分に言及できなかった。

 
 累進課税がとりわけ重要であると考えたのは、この制度によって、企業の資産や口座の可視化が可能になるかもしれないからだ。そして可視化によって新たな形のガバナンスが可能になると考えている(たとえば企業での雇用機会を増やすなど)。

 
 Plachaudは、グローバルな課税提案に対する極端な論及は、その他、実行可能であるかもしれない社会発展から注意をそらしてしまう危険がある、と論じている。

 
 そういった指摘をしたのは、おそらく私が、富裕税の進歩と改善を一歩ずつ着実に推進することの重要性を、ことさら強く信じているということについて、十分に説明できていなかったからだろう(そのような税制が何百年にも渡って制度化されていたことも、過去にはあった)。

 
 富裕税を徐々に、純資産に対する累進課税へと変化させることは可能で、イギリスなどでは、すでにそういった動きが始まっている。さらに、この動きが仮に進歩したとして、それは資本主義を再び民主主義の手に取り戻すための、いくつもの可能性の一つに過ぎないということ。この点については、もっと明瞭に説明しておく必要があったのかもしれない。

 


 このほかにも、ピケティ本の効率的な読み方など、ピケティ本をさらに深く読むためのヒントも書いてある。ご興味があれば、ご一読いただきたい。
 

【26日、通常国会が開会】

今週26日、第189通常国会が召集された。イスラム教スンニ派過激組織「ISIL」によるとみられる日本人殺害脅迫を受け、与野党は、当面、4月の統一地方選をみすえての対決ムードを控え、政府の事件対応を後押しする協調路線で足並みをそろえた。自民党と民主党の国対委員長会談で、事件対応にあたっている安倍総理と菅官房長官、岸田外務大臣の審議出席について、事件の推移に応じて「柔軟に対応してほしい」との自民党の求めに、民主党が受け入れを表明。維新の党など野党も、事件解決に向けて政府に協力する意向を示した。

 ただ、野党側は、アベノミクスの是非とその問題点、後半国会で焦点となる集団的自衛権行使の限定容認を含む安全保障法制のあり方、今年発表する戦後70年談話を含む安倍総理の歴史認識などについて質すことで、攻勢を仕掛けていきたい考えだ。また、日本人殺害脅迫事件が収束した段階で政府側の事件対応について検証のうえ、問題があれば国会で質していく考えも示している。

 

 通常国会の前半は、来年度予算が年度内に成立するか否か大きな焦点となっている。政府・与党は補正予算の早期成立と来年度予算の年度内成立をめざしているが、野党側は徹底審議を求めている。予算成立後の後半国会では、農協改革や医療保険制度改革などの関連法案を国会に提出予定のほか、集団的自衛権行使の限定容認を含む安全保障関連法案をめぐる論戦などが行われる。

安倍総理は、通常国会を「改革断行国会」と位置付け、「農業、医療、雇用、エネルギー分野での岩盤規制改革をさらに強力に進める法案を出す」と述べている。
 農協改革では、農家の自由度を高めるため、全国の農協組織を束ねる全国農業協同組合中央会(JA全中)による地域農協への監査・指導権限を法施行後3年以内に撤廃・任意団体へ転換するとともに、地域農協が「組合員に事業の利用を強制してはならない」という規制も新設する方向で、与党内の議論が進められている。また、農協の設立目的に「農業者の所得の増大」という表現も盛り込むほか、農業者以外の准組合員による農協事業利用の制限、JA全中や農産物を販売する全国農業協同組合連合会などを分割や株式会社化ができる規定も新設する。与党内には政府の農協改革案に慎重・反対論も根強く、政府・与党間の綱引きが行われているようだ。政府は、3月下旬までに農協法改正案を閣議決定のうえ国会提出する方針でいる。

医療保険制度改革については、実質的な混合診療拡大を盛り込んだ健康保険法改正案を国会提出するという。このほか、昨年11月の衆院解散により臨時国会で廃案となった女性活躍推進法案や労働者派遣法改正案なども再提出する。

 

 後半国会の最大焦点と目されている安全保障関連法案をめぐっては、関連法案を遅くとも5月の大型連休明けまでに国会提出することをめざして、2月から安全保障法制整備に関する与党協議会(座長・高村正彦自民党副総裁)を再開し、法案全体像や具体化について固めていく方針だ。

一方、民主党は、「従来の憲法解釈の範囲でやることには賛成の余地がある。しかし、明白な恐れで武力行使することには反対だ。大方針は決まっている」(枝野幹事長)と、政府が提出する安全保障関連法案が昨年7月の閣議決定にもとづく内容ならば関連法案に反対する姿勢を表明している。また、民主党としてのスタンスを明確にするため、集団的自衛権をめぐる党内議論を進めて意見集約を図るとともに、独自の対案を提示したいとしている。ただ、民主党内での意見の隔たりが大きく、細野政調会長が主張する安全保障基本法制定も党内に異論がでている。このため、民主党内でどこまで意見集約ができるかはいまのところ未知数だ。

 

 

【補正予算案の国会審議がスタート】

通常国会が召集により、第三次安倍内閣発足後として初めての国会論戦がスタートした。新内閣発足後は所信表明演説を行うのが恒例だが、国会日程が窮屈なものになっていることから、与党の提案により、安倍総理の演説は、来年度予算案の国会提出後に行う施政方針演説に一本化することとなった。予算の年度内成立をめざす政府・与党は、まず補正予算の成立に全力を挙げ、その後、来年度予算案を2月12日に国会へ提出して、同日中に安倍総理による施政方針演説など政府4演説を行う方針を固めている。


*衆参両院の本会議や委員会での審議模様は、以下のページからご覧になれます。

  衆議院インターネット審議中継参議院インターネット審議中継  


政府は、26日、生活者支援や地方活性化などを柱とする「地方への好循環拡大に向けた緊急経済対策」を裏付ける補正予算案(総額3.11兆円)を国会に提出し、麻生財務大臣が補正予算案に関する財政演説を衆参両院の本会議で行った。

麻生財務大臣は、補正予算案について「地域の実情に配慮しつつ消費を喚起すること、仕事づくりなど地方が直面する構造的な課題への実効ある取り組みを通じて地方の活性化を促すこと、災害復旧等の緊急に対応を要することや復興を加速化することに重点を置いた」「経済の脆弱な部分に的を絞り、スピード感を持って対応することで経済の好循環を確かなものとするとともに、その成果を地方に広く早く行き渡らせることをめざしている」と説明した。そのうえで、「長引くデフレ不況からの脱却を確かなものとし、経済の好循環を拡大していくためには、本補正予算の一刻も早い成立が必要」と予算成立への協力を呼びかけた。

 

27日の衆議院本会議と28日の参議院本会議で行われた財政演説に対する各党代表質問で、野党は、「行きすぎた円安や実質賃金の減少など、国民生活を苦しめている」(民主党の前原議員)と、アベノミクス批判を展開して政策転換を迫った。消費税率10%への引き上げの1年半延期はアベノミクスの失敗が原因だとも指摘した。こうした批判に対し、安倍総理は「消費税率8%への引き上げにより、個人消費などに弱さが見られたことから延期を判断した」と説明したうえで、有効求人倍率や賃上げ率が高水準にある点などを示して「好循環が着実に生まれ始めている」と反論した。そして、「社会保障を次世代に引き渡していく責任を果たし、国の信認を確保するため、10%への引き上げは景気判断条項を付すことなく確実に実施する。そうした経済状況をつくり出す決意で、三本の矢の政策をさらに前へ進めていく」決意を述べた。

 また、新規国債発行をせずに政策経費(国・地方)をどれだけ賄えているかを示す基礎的財政収支(プライマリーバランス)を2020年度までに黒字化させる財政健全化目標の達成が困難になっていることについて、安倍総理は「歳出全般にわたり聖域なく徹底的に見直す」と強調した。麻生財務大臣も「2016年度予算の概算要求基準に間に合うよう、夏までのできるだけ早い時期に策定したい」と述べた。

このほか、野党側からは、補正予算案に盛り込まれている地方自治体向け交付金などはバラマキ施策だとの批判や、国会議員の定数削減や公務員人件費などの削減など「身を切る改革」の実行を求める意見も出された。さらに、日本人殺害脅迫事件への対応と中東情勢などについても安倍総理らを問い質した。

 

28日、衆議院予算委員会で補正予算案の趣旨説明が行われた。与党は、2日間の質疑を経て30日の衆議院本会議で可決、参議院送付をめざしている。参議院予算委員会での審議を経て、2月3日にも参院本会議で可決・成立させるシナリオを描いている。

一方、野党側は、統一地方選をみすえ、徹底審議を求めていく構えだ。27日に開催された野党9会派の国対委員長らによる会談で、「巨大与党にしっかりした審議を求めるには野党の協力が欠かせない」として、徹底審議に向けて野党間の連携を深める考えで一致した。また、来年度予算案の審議も十分な審議時間の確保を要求し、成立を急ぐ政府・与党を牽制していく考えだ。

 

補正予算案の審議日程をめぐっては、27日の衆議院予算委員会理事懇談会で、今週中にも衆議院を通過させたい自民党が委員会質疑を2日間程度とすることを主張したのに対し、民主党は5日間の開催を要求した。民主党は、「緊急性がなく、2014年度に前倒しすることで15年度の見かけ上のプライマリーバランスを確保しようという思惑も透けてみえる」(細野政調会長)と、補正予算案に反対する方針だ。維新の党も来年度予算案を提出する2月12日まで国会日程に空白をつくるのは望ましくないとして、民主党に同調した。

28日の理事懇談会で再協議した結果、29日と30日に安倍総理はじめ全閣僚出席のもと質疑を行い、30日に委員会採決することで合意に至った。30日、衆議院本会議に緊急上程され、同日中に衆議院通過・参議院送付となる見通しだ。

 

 

【予算委員会での論戦、国会日程をめぐる与野党攻防に注目を】

補正予算の早期成立の見通しがたちつつあるが、野党側は、衆議院予算委員会に舞台を移し、格差拡大や地方の疲弊などアベノミクスの問題点や、予算案に盛り込まれたバラマキ施策などに焦点をあてて安倍総理に論戦を挑む方針でいる。今後、予算委員会だけでなく、集中審議や党首討論の開催を与党に求め、国会論戦など通じて攻勢を強めることも視野にいれているようだ。

野党がどのようなテーマ・政策争点で論戦を仕掛け、議論をどの程度、深めていくことができるのか。国会日程などをめぐる与野党攻防とあわせて、ウォッチしていくことが重要だ。

【山本洋一・株式会社政策工房 客員研究員】 
 

 2014
年の政治ニュースで最も国民の注目を集めたのは集団的自衛権でも衆院選でもなく、「号泣記者会見」だったのではないか。その主役である野々村竜太郎元兵庫県議は19日、詐欺などの疑いで書類送検された。この問題は政治家の質とともに、政治資金に関する3つの非常識を明らかにした。

 
 兵庫県警は220万円余りをだまし取ったとして、詐欺と虚偽有印公文書作成・同行使の疑いで野々村氏を書類送検した。警察の聴取に対し、野々村氏は虚偽の出張報告や、金券ショップでギフトカードを購入しておきながら切手代として報告するなどの手口で、政活費をだまし取ったことを認めた。

 
 野々村氏は3年間で受け取った政務活動費1684万円のほとんどが不正支出だったとしているが、警察は確認のとれた220万円分に限って立件した。野々村氏は警察の調べに対し、「選挙費用がかさんで、一度受け取った金を返したくなかった」などと供述したという。

 
 この問題で明らかになった一つ目の非常識は、経費の先渡しである。兵庫県議会は議員の政治活動に充てる経費として、毎月50万円の政務活動費を支給。先に全額を渡し、使い道を報告させたうえで、余った分は返還させる仕組みとしている。

 
 野々村氏に限らず、一度受け取った金は使いきりたいと思うのが人間の性。全国市民オンブズマン連絡会議の2013年度の調査によると、全国の都道府県議会のうち、31議会で給付額の9割以上を使い、返還額は1割未満だったという。使い切り主義は全国に蔓延している。

 
 一般の企業ならば使った分だけ後から申請し、認められれば後日振り込まれる、というのが常識。議会でも一般常識に合わせ、使った分だけ後から支給するという仕組みに改めるべきである。

 
 
 二つ目の非常識は、チェック機能の欠如である。一般の企業であれば経費を申請すると、経理担当者の厳しいチェックが入る。業務と関係ないモノを購入したり、必要以上に高級な店での会合費を申請したりすれば、認められないこともあるだろう。経理をすり抜けたとしても、会計士や税理士のチェックが控えている。

 
 ところが兵庫県議会では年間100回以上の日帰り出張と言う明らかに不自然な報告を問題視することはなかった。号泣県議の問題が発覚して以降、全国の議会でも相次ぎ不正支出が明らかになった。事務局が使途の中身までチェックしておらず、外部のチェックもなかったからである。

 
 本来ならば具体的な運用ルールを定めたうえで、ルールに沿った内容かどうか議会事務局が厳しくチェックすべきだ。さらに会計士や税理士など外部の専門家によってダブルチェックの体制を整えるべきだろう。政務活動費の元は税金であり、一般の企業よりも厳しい仕組みで当然である。

 

 三つ目の非常識は政務活動費の使途の公開方法だ。野々村氏は2011年の当選直後からカラ出張を繰り返していたが、問題が明らかになったのは昨年6月。それまでは不自然な出張を報告しておきながら、議会事務局どころか、外部からも問題視されることはなかった。

 
 政務活動費が何に使われているか調べようと思ったら、兵庫県の場合は兵庫県庁に出向き、議会事務局で閲覧カードに必要な事項を記入した後、「指定された場所」で閲覧しなければならない。多くの議会が同様の仕組みを採用しているが、一般の市民にとっては非常にハードルが高い。これではマスコミが報道しない限り、問題が露見することはないだろう。

 
 本気で公開する気があれば、インターネットにすべて掲載すればいい。その方が議会事務局も手間が省ける。国会議員の政治資金使途報告書についてはすでに総務省や多くの都道府県がネット公開を始めており、できない理由もない。消極的な公開方法の裏には「なるべく見られたくない」という議員の本音が見え隠れする。

 
 とはいえ、いくら制度を整えても、結局は議員の意識が変わらなければ政治とカネの問題は尽きない。今年4月には全国で首長や地方議員を選ぶ統一地方選挙が行われる。有権者は政策だけでなく、その候補者の倫理観も見極めなければならない。

【所信表明演説の省略に野党が反発】

 先週16日、衆参両院の議院運営委員会理事会で、菅官房長官は、通常国会を1月26日に召集する日程を伝達した。また、経済対策を裏付ける補正予算案を26日に提出する方針も伝えた。野党から異論がでなかったことから、通常国会は6月24日までの150日間に確定した。

 

 政府・与党は当初、26日に安倍総理が所信表明演説を行い、来年度予算案を2月13日に国会提出のうえ、改めて安倍総理が施政方針演説を行う日程を描いていた。しかし、来年度予算案の審議入りが補正予算の成立後(2月中旬)と国会日程が窮屈なものとなるため、今年度内成立は困難な情勢となっている。このことから、来年度予算の年度内成立をめざす方針を確認した政府・与党は、安倍総理の所信表明演説を省略し、来年度予算案の審議日程を少しでも繰り上げたい考えだ。所信表明演説を省略した場合、補正予算の成立が2日程度の前倒しになる可能性があるとみられている。

 

 これに対し、民主党など野党は、総選挙により新内閣が発足した以上、所信表明演説を行うのが恒例と反発した。

与野党は、16日の衆議院議院運営委員会理事会で、26日に麻生財務大臣による財政演説を行うことで合意した。与党側は、与野党合意を根拠に、安倍総理による演説は来年度予算案の提出後に行う施政方針演説に一本化することが事実上決まったと説明する。強行突破も辞さない構えだ。一方、野党側は「所信表明演説をしないとは決めていない」と、補正予算案の早期審議入りを求める与党を牽制する。議院運営委員会理事会を21日に改めて開催するよう要求する方針だが、野党内にも、施政方針演説は行われるので、所信表明演説の実施にこだわるのは得策ではないとの声もある。

 

 

【当面、綱渡りの国会運営に】

安倍総理は、通常国会を「改革断行国会」と位置づけ、当面、景気を下支えする補正予算、および地方創生・女性の活躍推進、成長戦略の断行などを裏付ける来年度予算の早期成立に全力を挙げていく方針でいる。

 

 4月の統一地方選を前に、来年度予算を安倍内閣の掲げる「地方創生」の財政的な裏付けをアピールしたい与党は、3月上旬までには衆議院を通過させ、来年度予算の成立を確実にさせたい考えだ。また、後半国会の目玉法案とされている集団的自衛権行使の限定容認を含む安全保障関連法案の審議への影響も最小限にとどめたいとの思惑もある。来年予算の成立が次年度にずれ込んだ場合でも、統一地方選の前半戦の告示が終了する4月3日までには成立させることをめざす方針を固めている。

 

政府・与党は、衆議院予算委員会での審議日数を14日程度と見込み、順調に進めば、3月10日までに衆議院通過・参議院送付できるとしている。送付日から30日以内に参議院側で議決に至らなかったり、否決された場合、憲法第60条第2項で定める衆議院優越の規定もとづいて自然成立することが可能となる。このことから、政府は、年度内成立しない場合に備え、数日から10日程度の暫定予算案の編成準備に入っている。

16日に行われた与野党国対委員長会談で、佐藤・自民党国対委員長は補正予算の早期成立や来年度予算の今年度内成立、雇用改革や農業改革、岩盤規制改革などを進める関連法案などの速やかな審議への協力を求めた。これに対し、安住・民主党国対委員長代理は「丁寧な国会運営をお願いしたい」と与党側をけん制した。

 

野党側は、地方統一選を前に、政府・与党との対決姿勢を鮮明にしたいとの思惑がある。政府の予算案について、介護報酬の切り下げや子育て世帯への給付金減額を行ったことなどを踏まえ「弱者切り捨て」「社会保障改革が骨抜きにされている」などと批判しているほか、地方創生の具体策を欠いたままでの予算付けなど「バラマキでメリハリがない」とも批判しており、政府側の見解を徹底的に質していきたい考えだ。また、十分な審議日程を求めるなど、早期成立をめざす与党を強く牽制したいとしている。

さらに、民主党などは、政府が再提出する予定の「労働者派遣法改正案」などを対立法案として位置付けるとともに、集団的自衛権行使の限定容認を含む「安全保障関連法案」でも主張の違いを浮き彫りにしていきたいようだ。

 

与党は、統一地方選が控えているだけに、強硬路線をとって野党と全面対決に突入することはなるべく回避したいとしている。とはいえ、予算委員会の審議が紛糾したり、野党の要求などが相次げば、来年度予算の成立が大きくずれかねない。当面、政府・与党は綱渡りの国会運営が余儀なくされそうだ。

 

 

【与野党攻防の行方に注視を】

来週26日の通常国会召集を前に、国会日程などをめぐって与野党の駆け引きが行われている。当面の予算審議・採決の行方を左右しかねないだけに、国会運営をめぐる与野党攻防にも注視しておくことが大切だろう。

 

なお、与党内では、様々な検討作業がスタートしている。今週20日から、地域農協に対するJA全中の指導・監査権限を廃止して公認会計士による監査に切り替えるなどの農協改革案に関する自民党内の議論がスタートする。

来月からは、集団的自衛権行使の限定容認を含む安全保障関連法案に関し、その全体像の協議を自民党と公明党が再開させるほか、政府が今年の夏までに取りまとめる予定の新たな財政健全化計画に関連して、2020年度のプライマリーバランス(基礎的財政収支)黒字に向けた歳入・歳出改革に関する自民党内の議論がスタートするという。

こういった政策争点が、通常国会前半の論戦に急浮上する可能性もある。与野党攻防の行方と予算審議・採決への影響だけでなく、与党内の検討動向も並行してチェックしておいたほうがいいだろう。
 

【山本洋一・株式会社政策工房 客員研究員】

 政府は14日の閣議で、2015年度予算案を決定した。今朝の新聞各紙は政健全化の遅れを批判しつつ、家計の負担増にも批判的な目を向けている。財政も家計の負担も国民の関心事だが、同時達成が困難なのも事実。安易な批判は国民の「ないものねだり」を助長する可能性がある。

 
 中日新聞が15日付の朝刊で組んだ予算案の特集面。真ん中の折り目を挟んで二つの見出しが左右のページに並んでいる。右面は「赤字縮小 なお遠く」、左面は「負担拡大 支援薄く」。一方で財政再建の遅れを批判しておきながら、もう一方で家計の負担増を批判している。

 
 ここまであからさまな例は珍しいが、多くの新聞は多かれ少なかれ、財政再建の遅れと家計の負担増の両者を批判している。ある日の紙面で財政再建にもっと取り組めと書いておきながら、翌日の紙面では家計の負担増で苦しむ低所得者を「可哀そう」に取り上げることもある。

 
 確かに今回の予算編成で「経済再生、財政健全化の二つを同時に達成」(安倍晋三首相)と言っておきながら、膨張する社会保障給付抑制への取り組みは不十分。介護保険料の値上げや相続税の対象拡大などで家計の負担が増えるのも事実である。

 
 しかし、苦しい財政状況の中で財政再建を重視すれば家計負担は増すし、家計の負担軽減を重視すれば財政再建が遠のくというのは誰でもわかる話。景気が劇的に回復しない限り、ほとんどの家庭で負担が減りながら、財政規律も改善するということはあり得ないのである。

 
 マスコミがこうして安易な批判を続ければ、国民もないものねだりをするようになる。財政再建を進めつつ、家計の負担も減らせというようになる。増税せずに、社会保障を充実せよというようになる。野党も国民受けのいいことばかり言うようになり、マスコミのように「何でも批判」、「何でも反対」になる。こうなると国家にとって負の連鎖でしかない。

 
 国家運営に「この道しかない」ことはない。財政規律を重視する考えもあるだろうし、家計負担の軽減を重視する考えもあるだろう。前者には小さな政府志向の保守層が多いだろうし、後者には大きな政府志向のリベラル層が多い。政党でいえば前者が維新の党、後者が民主党、その中間が自民党と言ったところだろう。

 
 マスコミに求められているのは、政党や国民が議論する際に、材料を提供することだ。日本の財政状況はどうなっており、今回の予算案によってどう変わるのか。今回の予算案によって社会保障サービスや、家計の負担はどう変わるのか。こうした事実を客観的に伝えることだろう。

 
 特定の思想や考えに基づいて断定的に論じるべきではないし、ましてや今回のように相矛盾する論調を並べたりするべきではない。

 
 近年、マスコミによる誤報や偏向報道が批判されるようになったが、今でも国民の新聞への信頼度は高い。新聞通信調査会が2014年に行った調査によると、新聞の信頼度は約70点。ほとんどの国民は特定の一紙しか読んでいないので、自宅で購読する新聞の書いていることを信じているのである。

 
 新聞もテレビも、自分たちの報道の影響の大きさを自覚すべきだ。そして安易な批判ばかりしていないか、特定の考えを読者に押し付けていないか、常に自問自答しながら紙面を作るべきである。
 
 

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