政策工房 Public Policy Review

霞が関と永田町でつくられる“政策”“法律”“予算”。 その裏側にどのような問題がひそみ、本当の論点とは何なのか―。 高橋洋一会長、原英史社長はじめとする株式会社政策工房スタッフが、 直面する政策課題のポイント、一般メディアが報じない政策の真相、 国会動向などについての解説レポートを配信中!

December 2014

【山本洋一・株式会社政策工房 客員研究員】

 政府・与党が来年度から、故郷の自治体などに実質的に納税できる「ふるさと納税」制度を拡充するという。適用上限額を2倍にするほか、手続きも簡素化する方向。ただ、自治体のプレゼント合戦という問題を放置したままでは、税収の無駄遣いに終わる可能性もある。

 
 

来年度から制度拡充、減税2倍に

 
 ふるさと納税とは実質的に、好きな自治体に納税することのできる制度。具体的には特定の自治体に寄付すると、2000円を超える部分が地方住民税や所得税から控除される仕組みだ。「ふるさと」と銘打っているが、生まれ育った地域でなくても構わない。

 
 例えば名古屋市に住んでいる私が、かつて勤務した大阪市に1万円納税したいと思った場合。私は大阪市に1万円寄付し、翌年の確定申告でそれを報告する。すると本来、国と名古屋市に納めるはずだった所得税と住民税の額が8000円減額となり、後日、還付金として戻ってくる。

 
 税金が控除される額には上限が決まっており、年収や家族構成によって異なる。例えば年収500万円、共働きで大学生の子どもが一人いる家庭では27000円。具体的には以下の表のように設定されている。

http://www.soumu.go.jp/main_content/000254926.pdf

 
 このふるさと納税制度を巡り、日本経済新聞は「ふるさと納税制度を拡充、減税額を2倍に」と報じた。先ほど紹介した税額控除の上限を2倍に引き上げるほか、確定申告しなくても自動的に居住地の住民税が軽減されるようにするという。菅義偉官房長官が第一次安倍内閣の総務相時代に提案した制度だけに、看板政策である「地方創生」の目玉にしたい考えだ。

 
 納税者の納得感を高めるためにも、納税先を選べるという制度はあっていい。しかし、自治体による「プレゼント合戦」が過熱し、本来の趣旨とかけ離れつつあることに留意する必要がある。

 


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万円寄付で5000円のステーキ

 
 北海道の十勝地方北部に位置する上士幌町。農業や畜産が盛んなこの町のふるさと納税「特典」が今、全国的に人気を集めている。1万円寄付すると、牛ステーキや鹿肉ジンギスカン、はちみつなどの中から好きな商品がもらえるのだ。あまりの人気に、品切れ商品も相次いでいる。

 
 例えばこの町に1万円寄付し、特典として十勝ハーブ牛のロースステーキ(400グラム)をもらったとしよう。ネットで調べたところ、ステーキの価格は5000円。先ほど紹介したように2000円を超えた部分、8000円が税額控除の対象になり、後で還付されるので、実質的には2000円の負担で、5000円のステーキを購入できたというわけだ。差し引き3000円の「得」になる。

 
 ネット上を探せば同様のお得な特典はたくさんある。自治体が寄付を集めるために、競い合って豪華な地元産品をプレゼントしているからだ。中には「宿泊券」のように、換金できそうな特典もある。上限額が決められているとはいえ、悪用すれば節税策として使うことだってできるだろう。

 
 自治体にとってはいいことしかない。上士幌町からすれば1万円の税収が増えたことになるため、5000円分の特典を送ったとしても差し引き5000円分の「得」になる。しかも、地元産品の販売促進やPRになる。自治体側からすれば制度の拡充は大歓迎、もっとやってくれというのは当然だ。

 
 しかし、誰もが得をする制度などない。この場合、上士幌町の税収が実質的に5000円増え、納税者が3000円得した反面、国と納税者の住む自治体は8000円を返す必要が出てくる。つまり税収が8000円減るのである。

 
 国家全体で考えると、上士幌町が5000円の増収になり、国と納税者の住む自治体の税収が8000円減れば差し引き3000円の損。3000円がどこに行ったかというと納税者である。減収分3000円の原資は国民や都市部の住人が支払う税金。1万円分の税金の納入先を変更するだけのために、それだけのコストをかけるべきだろうか。

 
 自治体の中には特典の豪華さではなく、政策のアイデアで競うところもある。広島県神石高原町は寄付額の5%を町の事業に使い、残りの95%を犬の殺処分を減らすNPOの活動に充てるという企画を打ち出した。ただ、真面目に工夫を凝らしている自治体は残念ながら少数派だ。

 
 総務省は一昨年、各自治体に過度な特典の贈呈を自重するよう求めたが、現在もプレゼント合戦は続いている。こうした状態を放置したまま、上限額を2倍に引き上げれば、一部の有権者や自治体へのバラマキを増やすだけ。抜本的な地域活性化につながるとは考えにくい。

 
 安倍政権は本気で財政再建に取り組むつもりであれば、もっと効果的、効率的な制度設計を考えるべきではないだろうか。

【第3次安倍内閣が発足】

今週24日、第188特別国会が召集(~26日)された。それに先立ち、同日午前の閣議で全閣僚の辞表を取りまとめ、第2次安倍改造内閣は総辞職した。その後に開かれた衆議院本会議で、伊吹前議長の後任に町村信孝・衆議院議員(自民党)を、赤松前副議長の後任に川端達夫・前国対委員長(民主党)が選出された。衆議院議院運営委員長には林幹雄・衆議院議員(自民党)が選出された。

また、衆参両院の本会議で首班指名選挙が行われ、与党多数(衆議院で328票、参議院で135票)により安倍総理が第97代総理大臣に指名された。野党各党は、それぞれの党首に投票した。海江田代表が衆議院選挙で議席を失い辞任した民主党は、来年1月に代表選を行うこととなっているため、岡田代表代行に投票することとなった。

 

首班指名後、安倍総理は直ちに組閣に着手し、総理大臣親任式と閣僚認証式を経て、第3次安倍内閣を発足させた。今回の閣僚人事では、防衛大臣兼安全保障法制担当大臣に安全保障法制に関する与党協議会の主要メンバーだった中谷元・元防衛庁長官を起用した。その他の閣僚17人と官房副長官、内閣法制局長官、総理補佐官らは再任となった。有村女性活躍担当大臣が所管していた消費者・食品安全担当大臣は、山口沖縄・北方担当大臣に移管された。 

安倍総理は、当初、政策の継続性を重視するとともに、緊急経済対策の策定や補正予算案・来年度予算案の編成を急ぐ観点から、全閣僚を再任させる予定だった。しかし、先の臨時国会で、政治とカネをめぐる問題で野党側から政治資金規正法違反にあたるとして追及された江渡前大臣が再任を固辞したため、交代することとなった。来年1月26日召集予定の通常国会に提出する安全保障関連法案十数本の国会審議や、来年前半に日米防衛協力ガイドラインの再改定が控えており、こうしたことへの影響を懸念してのことのようだ。

 

初閣議では、経済再生、地方創生、東日本大震災からの復興加速化など7項目からなる第3次安倍内閣の基本方針を決定した。安倍総理は、経済最優先の立場から、アベノミクスの推進に全力を挙げるよう指示した。延期となった消費税率10%への引き上げについては「2017年4月からは確実に引き上げ、経済再生と財政再建の同時実現をめざす」としている。

安倍総理は、新内閣発足を受けての記者会見で「内閣の総力を挙げて、総選挙で国民にお約束した政策を一つひとつ実現することに尽きる」「(デフレ脱却、社会保障改革、外交・安全保障など)困難な道のりで、私は全身全霊を傾け、戦後以来の大改革を進めている。賛否は大きく分かれ、激しい抵抗もあるが、内閣が一丸となって政策実現にまい進していく」と述べた。

経済最優先で政権運営を行っていくとし、「アベノミクスの成功を確かなものとしていくのが最大の課題だ。さらに進化させていきたい」「地方創生への取り組みを本格化させ、女性活躍推進法案の通常国会での早期成立をめざす」ことを強調した。消費税率10%への引き上げ延期に関連して「社会保障の充実を可能な限り、予定通り実施する」としつつも、財源不足を理由に社会保障サービスの一時的削減はやむを得ないとの認識を示した。 

集団的自衛権行使の限定容認を含む安全保障法制の整備については、「国民の命を断固守り抜く決意は揺らいでいない」「国民を守るための切れ目のない安全保障法制の整備を進めている」「国民の理解を得る努力を続けながら、来年の通常国会で成立を図る」としている。

 

 

【経済対策を27日に閣議決定】

景気回復の足取りが芳しくないことから、経済対策を27日の閣議で決定する。経済対策は、3.5兆円規模とする方向で、政府与党内で協議・調整を進めている。

経済対策の目玉として、個人消費の喚起や地方創生を目的とする総額4200億円規模の「地域住民生活等緊急支援交付金(仮称)」を創設する。交付金は、地方自治体や商工団体などが発行する地域商品券などへ助成する「地域消費喚起・生活支援型」(2500億円規模)と、地方創生総合戦略に沿って人口減少対策や少子化対策などを積極的に取り組む「先行自治体」に対して交付金を上乗せする「地方創生先行型」(1700億円規模)の2種類となるようだ。

 

また、低所得者・寒冷地・中小企業などへのガソリン・灯油購入費の助成、急速な円安に伴う燃料・原材料高や輸入コスト増に苦しむ中小企業の資金繰り・事業再生支援(日本政策金融公庫の低利融資や信用保険業務の拡充など)、米価下落対策など農林水産業者への緊急支援、運送業者向けに高速道路料金割引の1年延長などを行う。

住宅市場活性化策として、住宅金融支援機構の住宅ローン金利の引き下げ幅拡大や、環境に配慮した省エネ住宅の新築・リフォーム(2015年3月末までの売買、請負契約が対象)にポイントを付与して商品などと交換できるポイント制度(住宅エコポイント)の実施なども盛り込んだ。

このほか、東日本大震災復興特別会計に1兆円規模の繰り入れ、災害・危機などへの対応策として「学校施設等の災害復旧」「火山観測の研究基盤整備・体制強化」などを進める。

 

経済対策を裏付ける補正予算案については、来年1月9日に閣議決定する方向で編成作業が進められている。企業業績の改善などで法人税や所得税などが見込みより増える見込みで、国の今年度の一般会計税収見通しが当初予算時の想定(50兆円)を約1.7兆円上回ることから、経済対策・補正予算の財源にする方針だ。また、2013年度決算剰余金1.4兆円なども財源にするという。

 

 

【与党税制改正大綱は30日に決定】

来年度予算案の編成については、27日の閣議で「2015年度予算編成の基本方針」を決定し、来年1月14日の閣議で予算案を決定する。一般会計歳出を97~98兆円規模になるとみられている。

政府は、新規国債発行額を今年度より1.3兆円抑えて40兆円程度にする方針で、国・地方の基礎的財政収支(プライマリーバランス)の赤字を、2015年度GDP比で2010年度(6.6%)から半減させる財政健全化目標について、基本方針に「着実に達成するよう最大限努力する」と明記し、財政再建を堅持する姿勢を堅持する考えだ。

安倍総理は「社会保障関係費の自然増も含めて聖域なく見直し、歳出の徹底的な重点化・効率化に取り組んでいく」としており、概算要求(101.68兆円)を下回る水準に抑制する姿勢を強調している。

 

予算案の前提となる与党税制改正大綱は、30日にまとめる。焦点となっている法人実効税率(34.62%。東京都の場合35.64%)の引き下げをめぐっては、当初、自民党税制調査会が「財源確保が原則」として引き下げそのものに消極的だったが、安倍総理の強い意向で、初年度の下げ幅を「2%台前半」とすることで調整が進められている。政府・与党は、給与総額など企業規模に応じて課税する外形標準課税の拡充、研究開発への政策減税縮小、持ち株比率が25%未満の関連会社から受け取る株式配当の非課税制度縮小(現在の5割から2割に)などにより、代替財源にメドを付けている。

また、法人向けには、賃金を3%以上増額した企業を対象に、賃上げ分を法人事業税で非課税(2017年度までの3年間)にすることや、東京など大都市圏から地方に移転した企業を対象に、設備投資額に応じて数%の税額控除または4分の1程度の前倒し償却を受けられるようにするなどの法人税優遇制度を設けることなどが盛り込まれる方針だ。このほか、2014年度末に期限を迎える中小企業の優遇税制を2年間延長するとともに、商業地などにかかる固定資産税(市町村税)を軽減する据え置き特例を3年間延長する。

 

 個人向けには、消費税率10%への再引き上げが延期されたことを受けた措置として2017年末までとなっている住宅ローン減税の適用期限を1年半延長するとともに、今年末に期限を迎える住宅資金の贈与税の非課税枠を、延長のうえ2016年10月に3000万円へ拡大する方向で検討されている。

 また、2017年末までの3年間、祖子や孫への結婚・出産・子育ての費用の贈与(1人あたり1000万円まで)が非課税となる制度を2015年度に導入するほか、住宅資金や教育資金の贈与に対する非課税措置の延長などが盛り込まれる予定だ。

 このほか、脱税や生活保護の不正受給などを防ぐねらいから、社会保障と税の共通番号(マイナンバー)を、2018年から金融機関の預金口座に適用する方向で検討されている。政府・与党は、与党税制改正大綱に盛り込み、来年の通常国会へのマイナンバー法改正案提出をめざしているという。

 

 

【地方創生の長期ビジョン・総合戦略、27日にも閣議決定】

2060年に人口1億人程度の維持を見据えた展望を示す「長期ビジョン」と、地方での魅力ある雇用創出や結婚・出産・育児の環境整備などを着実に実施するよう客観的指標を盛り込んだ2020年までの5カ年計画「まち・ひと・しごと創生総合戦略」を取りまとめ、27日にも閣議決定する。

 

 長期ビジョンでは、合計特殊出生率(2013年1.43)を、2030年までに1.8(希望出生率)に、2040年までに2.07まで上昇すれば、政府目標の「2060年に1億人程度の人口維持」が達成できるとの推計値を示す予定だ。政府は、人口規模が長期的に安定・維持される人口置換水準の2.07を回復の「必須条件」と位置付けている。ただ、「個人の選択である出産に国が介入すべきでない」といった批判もあることから、出生率を「数値目標」とするような表現は避けるようだ。

 また、出生率が上昇していけば、高齢化率が2050年の35.3%をピークに低下し、2110年に2010年(23%)とほぼ同じ水準の26.6%まで下がって安定すると試算する。これにより、2050年代の実質GDP成長率も1.5~2%程度が維持できるとしている。

 

今後5年間の国の施策の方向性や基本目標を示す総合戦略では、

○地方での若者の雇用創出を2015年度は2万人、2020年までに累計で30万人

 (ベンチャー企業・地域の中核企業・海外からの投資支援などで11万人、
農林水産業の成長産業化・サービス業の労働生産性向上・観光拡大などで19万人)

○2020年までに東京圏から地方への転出者を3~4万人増、
 地方から東京圏への転居者を6~7万人減(2013年比)

などの数値目標を明記するという。東京一極集中を是正するとともに、若者が希望通りに結婚・出産・子育てをしていけるようにするためには、子どもが持てるような年収水準を確保する安定的雇用が必要だとしている。

これら目標を達成するため、地方版総合戦略を策定した自治体に客観的目標の設定・効果検証などを踏まえて交付し、自治体の裁量で使える自由度の高い新たな交付金制度の創設のほか、企業の地方移転を促す優遇税制、勤務地を限定した正社員制度を導入するなどの「キャリアアップ助成金」拡充などを実施するという。

 

 

【閣議決定の内容に注目】

 政府・与党は、今週27日に経済対策と予算編成の基本方針のほか、地方創生の長期ビジョン・総合戦略などが閣議決定される。30日には、与党税制改正大綱がまとまる。重要施策が相次いで決定されるのを前に、政府・与党内では、水面下のギリギリの攻防が続いている。

それぞれの閣議決定事項について、どのような内容で仕上げられるのだろうか。焦点となっている政策が最終的にどのように決着するのかも含め、みておいたほうがいいだろう。


【山本洋一・株式会社政策工房 客員研究員】

 総選挙が終わった。与党が公示前より1増の325議席を獲得し、全議席の3分の2の勢力を維持。民主党は伸び悩み、維新の党は微減となった。選挙結果について様々な論評がなされているが、一つだけはっきりしていることがある。憲法改正の現実味が増した、という事実である。

 
 与党の自民党は公示前より3減の290議席、公明党は4増の35議席を獲得。自民党の追加公認1人を加えると与党の勢力は公示前より2議席増え、326となった。圧勝した前回2012年衆院選並みの勢力を維持し、引き続き3分の2超を占有することとなった。

 
 自民党の谷垣禎一幹事長は衆院選の勝因について「安定した政治への期待」と分析してみせたが、それだけではないだろう。客観的に見れば、最大の勝因は野党の準備不足。想定外の解散により、野党第一党の民主党ですら定数の半分以下である198人しか擁立できなかったからだ。野党の中には選挙直前になって出馬を表明したり、国替えしたりした候補者も多かった。

 
 読売新聞が選挙直後に行った世論調査によると、与党が圧勝した選挙結果を「よくなかった」と考える人が46%で、「よかった」の38%を上回った。この調査から読み取れる有権者の本音は「与党の候補者以外に有力な選択肢がなかった」というもの。同じ調査で「自民党に対抗できる野党が必要」と考える人は82%に上った。

 


首相が会見で「憲法改正は悲願」

 
 安倍晋三首相は今回の勝利により、4年間の「フリーハンド」を得た。政府・与党内における発言力は増し、早くも来年秋の総裁選には「誰も出馬できないだろう」との観測が漏れる。私の知人である、某紙の政治記者は「与党の発言力は限りなく低下し、首相官邸の主導権が強まる」という。

 
 その首相が意欲を示すのが憲法改正だ。首相はかねて積極的な改憲論者として知られ、選挙後の記者会見でも「憲法改正は悲願であり、自民党結党以来の目標だ。そのためには国会の3分の2以上の議席に加え、国民の理解が重要。憲法改正の必要性を訴えていきたい」と意気込んだ。

 
 改憲には衆参両院で「総議員」の3分の2以上の賛成が必要だが、今回の与党圧勝により、衆院におけるハードルはクリアした。与党の勢いが続けば、2年後の参院選で参院のハードルも越えられる可能性もある。共同通信がシミュレーションによって今回の衆院選の投票結果を次期参院選に当てはめてみたところ、改憲勢力が3分の2を上回ることがわかったのである。

 
 参院の定数は242。このうち改憲に前向きな与党と維新の党、次世代の党の議員数は現在、152人を占めている。さらに今回の衆院選の投票結果を次期参院選に当てはめると自民党が大勝し、単独で参院の過半数を占めるほか、改憲勢力全体で3分の2である162議席を上回るという。これまで「現実的に不可能」と言われてきた憲法改正が、ぐっと現実味を帯びる。

 
 このまま行けば2016年夏の参院選は、改憲の是非が最大の争点となるかもしれない。その時には、今回の衆院選のように2人に1人しか選挙に行かないなんてことがあってはならない。たった半数の国民によってこの国の行く末が決まれば、後に大きな禍根を残すことになる。

高橋洋一・株式会社政策工房 代表取締役会長】 

 アベノミクスの第一の矢と第二の矢は、世界で標準的なマクロ経済政策だ。これをやれば、雇用増、倒産減になるのは、民主党政権時代のマクロ経済政策があまりにデタラメだったので、事前に予想でき、そのとおりになった。

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                                                                              (表作成:政策工房)


 倒産数は民主党時代も減少していたが、安倍政権になってから減少が加速した(傾向線の傾きが違う)。

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                                                                             (表作成:政策工房)

 
 やるべきことがわからなかった民主党が、雇用増、倒産減に反論するのはあまりに子供みたいな話だったので、先の総選挙ではまったく経済論争できなかった。自民党の大勝を、野党の準備不足のためといっているが、マクロ経済政策の理解において、安倍政権と民主党では天と地ほどの差がある。もっと、民主党はマクロ経済政策を勉強しないと、安倍政権には勝てない。

 

 ところが、マスコミもマクロ経済を不勉強で知らないので、安倍政権が、2012年総選挙、2013年参院選、今回の総選挙と3回も民主党を破った理由がわからない。経済運営をうまくなっておけば、そう簡単には国政選挙で負けないのだ。

 

 ただし、今回の総選挙は、今年からの消費増税をやってしまったので、ギリギリのところだった。来年10月からの消費増税を決めたら、来年統一地方選では自民党は惨敗しただろう。そして、安倍政権は崩壊し、財務省の使い捨てにされただろう。

 

 こうした構図のわからない識者は、倒産減になっているのを、アベノミクスの経済効果とみないで、ゾンビ企業の温存とネガティブにみる。

 

 そうした人たちは、マクロ経済がわからないので、アベノミクスの第三の矢ばかりに目がいく。実は、第三の矢の効果は、5年くらいたたないと出てこないので、今の段階では、下手な「矢」を数打つだけしかない。そのうち百に三つか、千に三つくらい当たるのが出る程度の話だ。

 

 第三の矢の重要性を語るだけなら、人畜無害であるが、倒産減をゾンビ企業の温存といいだすと、有害無益になる。そのような人たちを、「しばきあげ・清算論者」という。経営コンサルでよくみられるタイプで、個々の企業ベースで話をしている限り、その害悪は限定的なのだが、マクロや産業ベースになると問題だ。しばきあげ・清算論者は、マクロ経済に関心がなく無知で、常に完全雇用状態という前提だ。だから、デフレで失業増や倒産増になっていることが理解できずに、失業・倒産は怠け者とみてしまうので困った人たちである。倒産減をゾンビ企業の温存と見るわけで、雇用の改善も労働者を甘やかすからいけないと言いがちだ。 

【与党、衆院選で3分の2以上の議席を維持】

今週14日、第2次安倍内閣の約2年間の政権運営などをめぐって与野党が争った第47回衆議院選挙の投開票(小選挙区295議席、比例代表11ブロック180議席)が行われた。今回の衆院選では、一票の格差を是正するため、小選挙区定数5議席(山梨、福井、徳島、高知、佐賀)が減った。

 

自民党は、291議席(無所属の当選者1名の追加公認を含む)を獲得した。公示前勢力から4議席減らしたが、国会運営で主導権を握ることができる絶対安定多数(266議席)を引き続き単独確保した。議席数に応じて野党に委員長を割り振るのが慣例となっているが、単独で絶対安定多数を確保することで、衆議院常任委員会(17)の委員長職を独占し、全常任委員会の委員職も過半数を送り込むことができる。

与党では、公明党の35議席(+4議席)を合わせて326議席となり、全議席の3分の2以上を維持した。これにより、参議院で否決された法案などを衆議院で再可決・成立させることができる。

 

これにより、安倍内閣の継続が事実上、確定した。安倍総理は、15日、谷垣幹事長ら自民党執行部を留任させる意向を表明した。また、山口・公明党代表と党首会談を行って、連立政権の継続を確認のうえ、与党としてめざすべき政策の優先事項を列挙した連立政権合意文書に署名した。アベノミクス推進による経済再生や、地方創生や女性活躍などへの取り組み、軽減税率を消費税率10%へ引き上げる2017年度から導入することをめざすなど、8項目19点の政策を優先事項としている。

 

 一方、自民党優位の「1強多弱」打破を訴えた野党側は、準備不足や低投票率などが影響して、各党とも議席を積み上げることができなかった。野党間の候補者をすみ分ける選挙区調整も一部でしか実現できず、過半数以上の対立候補を擁立することができなかった。

民主党は、73議席(+11議席)を獲得したが、海江田代表が議席確保できなかったうえ、総理・閣僚経験者も小選挙区で落選するなどしたため、敗戦ムードに包まれた。15日、落選した民主党の海江田氏が代表職を辞任した。これを受け、民主党は、党員・サポーターも投票する代表選を、来年1月下旬までに行う実施する予定でいる。

このほか、維新の党は41議席(-1議席)、次世代の党は2議席(-17議席)、生活の党は2議席(-3議席)へと後退した。社民党は、辛うじて公示前の2議席を維持した。

 

 他の野党が苦戦したなかで、自共対決を前面に打ち出した共産党は、21議席(+13議席)と倍増させた。無党派層を含めて政府・与党批判の受け皿となり、比例票を幅ひろく集めたほか、18年ぶりに選挙区(沖縄1区)でも勝利した。21議席を獲得したことで、党単独で予算を伴わない法案提出権を確保することとなった。経済政策や原発政策などで安倍政権との対決姿勢をさらに強めていく構えで、国会での野党共闘にも意欲を示している。

 

 

【経済対策の策定、補正予算案の編成に着手】

来週24日には、特別国会(~26日)が召集される。第2次改造内閣の総辞職、衆議院本会議での正副議長選出後、衆参両院本会議で首班指名選挙が行われ、安倍総理が第97代総理大臣に指名される予定だ。同日中に第3次安倍内閣が発足する見通しだ。

安倍総理は、第2次改造内閣発足から約3カ月しかたっていないことや、政策の継続性を重視する観点から、全閣僚を再任させるようだ。また、個人消費の底上げと地方の負担軽減などを柱とする緊急経済対策の策定と、それを裏付ける補正予算案の編成、衆院選で大幅にずれ込んだ来年度予算の編成などの作業を遅滞なく進めていくためにも、内閣改造・党役員人事で政治空白をつくるべきではないと判断したようだ。

 

当面、1年半延期した消費税率10%への引き上げにも耐えられる経済の好循環をいかにつくっていくことができるかが、安倍内閣の最重要課題となっている。安倍総理は、約2年間の政権運営とアベノミクス継続が衆院選で信任されたとの認識で、引き続き経済最優先の政権運営を行い、デフレ脱却とアベノミクス推進に全力を尽くす姿勢を打ち出している。そして、「景気回復の暖かい風を全国津々浦々に届ける」としている。

 ただ、景気回復の足取りが芳しくない状況だ。このことから、今月26日にも緊急経済対策、来年1月9日にも補正予算案を閣議決定する方向で、一連の作業が進められている。

 

 緊急経済対策は、当初、低所得者向けの現金給付ガソリン・灯油購入費の助成、子育て世代の家計支援、急速な円安に伴う燃料・原材料高に苦しむ中小企業の資金繰り支援、エコポイントの復活も含めた住宅購入促進策、学校や橋の耐震化・災害対策などを柱に、約2兆円規模とする方針だった。

アベノミクスの恩恵が地方に行き届いていないとの声に配慮して、安倍総理が重要課題に位置付ける「地方創生」分野を充実させるべく、3兆円規模に上積みすることが検討されている。地方創生分野の施策として、自治体が自由に使える交付金創設と地方自治体が配る地域商品券の財源手当てなどが盛り込まれるようだ。

 

 

【並行して来年予算案の編成も】

また、景気を下支えするためにも補正予算案と一体で切れ目のない予算執行を進めるべく、来年度予算案の編成も並行して進められている。今月30日にも来年度予算案の前提となる与党税制改正大綱を決定し、来年1月14日に来年度予算案を閣議決定する予定だ。そして、1月下旬に召集される通常国会に、補正予算案と来年度予算案を提出する。また、予算関連法案として、消費税率10%への引き上げ時期を1年半先送りするための税制改正法案も提出する予定だ。

当初、自民党・公明党の税制調査会は、与党税制改正大綱を1月9日に決定することで合意していた。ただ、来年4月12日・26日に統一地方選(都道府県・政令市の首長、地方議員)が控えていることもあり、与党候補を後押しするためにも、遅滞なく執行ができるよう予算の年度内成立は必須との見方が出たため、決定時期を前倒すこととなった。

 

 与党税制改正大綱では、法人実効税率(現在、約35%)の引き下げ幅について焦点となっているほか、2014年末に期限を迎える不動産取得税の軽減特例の延長、ふるさと納税制度の控除上限額の倍増と手続き簡素化のほか、若手世代への資産移転を後押し消費促進・子育て支援の強化を図るための贈与に係る新制度の導入などが検討されている。

贈与関連では、2014年末に期限を迎える住宅資金贈与の非課税枠を最大1500万円に拡大のうえ延長する。また、再生可能エネルギー関連機器の購入費用の贈与を非課税にする「緑の贈与税制度(仮称)」の2015年度から導入される予定だ。さらに、2015年度から3年間、祖父母や親が信託銀行などの金融機関で子や孫の名義で口座開設して結婚・出産・子育て用の資金を一括で預け、子や孫が使用した分の贈与税(1人あたり1000万円まで)が非課税となる制度を2015年度に導入することなども検討されている。

 

政府・与党は、2月中旬に補正予算を成立させ、年度内に来年度予算と予算関連法を成立させるシナリオを描いている。ただ、予算審議の日程は窮屈なものとなる見通しで、国会審議の行方次第では来年度予算の成立が4月以降にずれ込む可能性もある。

特に、消費税率10%への引き上げ時期を1年半延期するための税制改正法案をめぐって、与野党が対決しかねないからだ。安倍総理は、経済情勢が悪いときに消費税率引き上げを先送りできる景気弾力条項(付則18条)を削除する意向を示しているが、民主党や維新の党などは同条項の削除に強く反対している。

政府・与党は、来年度予算の年度内成立ができなかった場合でも、暫定予算を編成したうえで、4月12日までには成立させる方向で国会審議を進めていきたいとしている。

 

 

【地方創生の長期ビジョンと総合戦略、年内取りまとめへ

このほか、政府は、「まち・ひと・しごと創生本部」(本部長:安倍総理、副本部長:菅官房長官、石破地方創生担当大臣)を27~29日の間に開催して、2060年に人口1億人程度の維持を見据えた展望を示す「長期ビジョン」と、地方での魅力ある雇用創出や結婚・出産・育児の環境整備などを着実に実施するよう客観的指標を盛り込む平成27年度からの5カ年計画「総合戦略」を12月中に取りまとめる方向で調整する。

当初、12月上旬にも総合戦略と長期ビジョンを取りまとめる予定だったが、衆議院解散・総選挙によりスケジュールがずれ込んだ。その影響を最小限に抑えるべく、年明け以降に取り組みを加速させていくとしている。

 

今後5年間の国の施策の方向性や基本目標を示す総合戦略には、地域活性化や少子化対策など自治体の取り組みを支援する新たな交付金創設の検討を明記するほか、企業の地方移転を促す法人税の優遇措置なども盛り込まれる予定だ。

 新たに創設する交付金は、2015年度中に都道府県・市町村が策定する「地方版総合戦略」に盛り込まれた事業を財政面で後押しするもので、補正予算案でその財源を計上する予定となっている。自治体に交付金の自由な活用を認める一方、その事業の政策効果を検証するしくみを導入するよう求めている。

 このほか、地方移住の関連情報を一元的に提供する全国地方移住促進センター設置、政府関係機関の地方移転促進、都市住民が過疎地などの活性化に取り組む地域おこし協力隊の隊員を2020年までに4000人に拡大なども盛り込まれるという。

 

 

【政府・与党内での検討動向に注目】

 来週24日の第3次安倍内閣発足を前に、政府・与党は、緊急経済対策の策定とそれを裏付ける補正予算案の編成、与党税制改正要綱の取りまとめ、来年度予算案の編成などの作業が急ピッチで進められている。また、地方創生の長期ビジョン・総合戦略の取りまとめに向けた動きも加速している。

このほか、今年7月に閣議決定した憲法解釈変更による集団的自衛権の限定行使容認を含む安全保障法制の整備に向けた動きも本格化する。自民党と公明党は、近く与党協議を再開し、議論を加速させていく方針だ。

 予算編成と経済対策の策定のほか、地方創生、安全保障法制など重要課題の検討・取りまとめ作業が政府・与党内で活発に進められている。どのような政策が検討されており、最終的にどう決まるのか。それぞれの政策動向についてきめ細かくウォッチしておくことが重要だろう。

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