政策工房 Public Policy Review

霞が関と永田町でつくられる“政策”“法律”“予算”。 その裏側にどのような問題がひそみ、本当の論点とは何なのか―。 高橋洋一会長、原英史社長はじめとする株式会社政策工房スタッフが、 直面する政策課題のポイント、一般メディアが報じない政策の真相、 国会動向などについての解説レポートを配信中!

November 2014

【山本洋一・株式会社政策工房 客員研究員】

 年内の衆院解散・総選挙がにわかに現実味を帯び始めた。新聞各紙は一斉に「消費増税を先送りし、早期の衆院解散に踏み切る案が浮上」と報道。「122日公示、14日投開票」という具体的な日程まで取りざたされている。ただ、報道を見る限りはなぜ増税の判断と解散がリンクするのかわかりづらい。
「増税先送り解散」の意味、意義とは。

 
 読売新聞は11日付朝刊で「安倍首相が帰国する17日から数日以内に解散する方向で検討を始めた」と踏み込んで報道。「1214日投開票」を軸に調整しており、翌週の「21日投開票」の案もあるとした。「与党は早期解散を容認する構え」とも書いている。

 
 読売は以前からフライング気味で解散説を報じていたが、ここにきて他紙も追随し始めた。11日付朝刊各紙には「早期解散、広がる憶測」(朝日)、「早期解散論が浮上」(日経)、「年内解散、臨戦モード」(産経)と似たような見出しが並んだ。

 
 慎重で知られるNHKも「首相 解散排除せず政権運営を総合的に検討」と報じ、永田町で解散風が急激に吹き始めたことを認めている。

 
 
 恐らくネタ元は同じなのであろう、各紙とも書いている内容はほぼ同じだ。①首相は17日に発表される79月期の国内総生産(GDP)を踏まえて増税の是非を判断するが、想定以上に悪い数字が出る可能性がある②数字が悪い場合は増税の先送りもやむを得ない③先送りするのであれば「国民に信を問わなければならない」――という論理である。

 
 前半はわかる。世論の過半数が反対する中、景気指標の悪化を無視して再増税に踏み切れば、安倍内閣の支持率が急低下しかねないからである。安倍首相が目指すのは「安定した長期政権」。消費税の判断によって政権の座を譲り渡すわけにはいかないと考えているだろう。

 
 しかし、増税を先送りした場合に、なぜ解散しなければならないのか。解散・総選挙によって増税の是非の判断を国民に委ねるというのであれば理解できるが、そうではないという。そこには「増税賛成派をねじ伏せなければならない」という政府・与党内の事情がある。

 
 
 実は消費税率を来年10月に10%に引き上げるということは、法律上、すでに決まっている。20128月に民主、自民、公明の3党合意に基づいて成立させた消費税増税法案は、5%だった消費税率を今年4月に8%、来年10月に10%に引き上げることを規定している。

 
 反対派に配慮して「経済状況等を総合的に勘案した上で、その施行の停止を含め所要の措置を講ずる」という景気弾力条項が盛り込まれたものの、実際に引き上げを停止するには、この法律を改正する必要がある。この改正作業が非常に困難とみられているのだ。

 
 改正案を作る際には党内の増税賛成派から突き上げをくらうし、具体的にいつまで先送りするかも決めなければならない。国会では野党から「景気悪化を招いたアベノミクスは失敗だった」と追及されるのは必至で、国会運営に行き詰まる可能性もある。

 
 こうした難局を打開するには、解散・総選挙で勝利し、「国民の信を得た」という錦の御旗をかざして反対派を黙らせるしかないーー。これが増税を先送りした場合に、解散しなければならない最大の理由である。

 
 野党の選挙準備が整っていないという事情もある。民主党の衆院候補予定者は現職を含めて133人。野党間の候補者調整の余地を残しておくため、前回選挙から約2年がたった今も全295小選挙区の半分も埋まっていない。野党同士がつぶし合う選挙区も多数残っており、与党にとっては非常に戦いやすい状況だ。だからこそ「与党も早期解散を容認する構え」なのだろう。

 
 安倍首相にとって喫緊の課題は
10日の日中首脳会談だっただろう。成果はともかく、無事に終了した今、頭の中は解散・総選挙のタイミングのことでいっぱいかもしれない。 

【地方創生関連2法案、参議院で審議入り】

先週6日、地方創生の基本理念などを定め、地方での魅力ある雇用創出や結婚・出産・育児の環境整備などを着実に実施するよう客観的指標を盛り込んだ平成27年度からの5カ年計画「総合戦略」の策定を国・地方自治体に努力義務を課している「まち・ひと・しごと法案」、地域支援をめぐる各省への申請窓口を一元化するとともに活性化に取り組む自治体を支援するための「地域再生法改正案」が、衆議院本会議で与党などの賛成多数により可決し、参議院に送付された。次世代の党は、道州制の検討を着実に進めることを条件に、地方創生関連2法案に賛成票を投じた。

 一方、民主党・維新の党・みんなの党・生活の党が政府案の対案として共同提出した「国と地方公共団体との関係の抜本的な改革の推進に関する法律案」は、5日の衆議院地方創生に関する特別委員会と、6日の衆議院本会議で、それぞれ野党の賛成少数により否決された。
 

*衆参両院の本会議や委員会での審議模様は、以下のページからご覧になれます。

  衆議院インターネット審議中継参議院インターネット審議中継  


 翌7日、参議院本会議で、まず地方創生関連法案を審議する特別委員会の設置を、与党などの賛成多数により議決した。その後、安倍総理や石破・地方創生担当大臣出席のもと、関連2法案の趣旨説明と質疑が行われ、審議入りとなった。

安倍総理は、「国が枠をはめる従来のやり方を転換し、個性あふれる地域づくりに政府を挙げて取り組む」と、地方の自主性を尊重しながら施策を進めていく方針を改めて強調した。これに対し、民主党や維新の党などは、「具体策がない」「上から目線の政策」「地方分権に消極的」などと批判し、反対姿勢を示している。

関連2法案は、10日に参議院地方創生に関する特別委員会(委員長:関口参議院議員・自民党)での質疑がスタートした。安倍総理が臨時国会の最重要課題に位置付けているだけに、与党は、今月末の臨時国会会期末までに成立させる方針だ。

 

 

【委員長職権で審議が進む労働者派遣法改正案】

 派遣労働者の柔軟な働き方を認めるため、企業の派遣受け入れ期間の最長3年という上限規制を撤廃(一部の専門業務を除く)する一方、派遣労働者一人ひとりの派遣期間の上限は原則3年に制限して、派遣会社に3年経過した後に派遣先での直接雇用の依頼や、新たな派遣先の提供などの雇用安定措置を義務づける「労働者派遣法改正案」が、5日、衆議院厚生労働委員会で実質審議入りとなった。

 

 廃案に追い込みたい民主党など野党側の主張を取り込んで同法案の成立に道筋をつけるねらいから、公明党が修正案骨子を厚生労働委員会理事会で提示したことで、「法案に問題点があることを認めた」「野党の質疑も一巡していないのに修正案の提示はおかしい」「修正するなら政府が法案を出し直すべき」などと野党側が反発した。公明党が修正案撤回をしてもなお、与野党の協議が平行線をたどったため、渡辺博道委員長(自民党)は、職権で5日の委員会質疑を決定した。

 民主党の枝野幹事長は「重要法案であれば、政府・与党が一致して提出すべきだ。とても正常な審議過程とは言えない」と、与党間で足並み揃っていない状況で法案審議がスタートした点も問題視して、「審議に応じないなら粛々と採決する」と強気の姿勢をちらつかせて強行に審議を進めようとする与党側の姿勢を批判した。

 

厚生労働省は、6日の衆議院厚生労働委員会理事懇談会に、労働局が指導する条件として、労働組合が反対するなかで企業が派遣労働者の受け入れ期間延長についての対応方針を説明しなかったような場合とする文書を提出した。これは、企業が労働組合に事情を説明すれば、派遣の受け入れ期間の自由な延長が事実上可能となるような内容で、塩崎厚生労働大臣が5日の衆議院厚生労働委員会で答弁した「企業内の民主主義が成り立たず、労働局が指導をすることは当然」について事実上、訂正するものだった。これに野党側は、猛反発した。

 そのうえ、今週中の衆議院通過をめざす与党は、採決の前提となる安倍総理出席の質疑を7日に行うよう野党に提案した。これに、民主党など野党各党は、与党の強引な国会運営や、大臣答弁と厚労省が提出した資料に齟齬が生じている問題などに反発して、与党提案を拒否した。折り合うことができないまま、渡辺委員長は、ふたたび職権で7日の委員会開催を決定した。

 

 これにより、7日の衆議院厚生労働委員会は、野党が一斉に審議拒否するなか、与党単独で審議が進められていく事態となった。安倍総理は、民主党などが主張している「派遣労働者の固定化」「派遣労働者の増加」「格差拡大」につながるとの指摘について、「生涯派遣法案との指摘はあたらない。レッテル貼りは不毛だ」と強く批判した。

 

 

【与野党全面対決でも衆議院通過へ】

 与党側は、改正案の採決の前提は整ったとの立場で、12日に委員会採決を行い、翌13日にも衆議院を通過させたい考えでいる。臨時国会の会期延長しない場合、今週中に法案を参議院に送付しないと会期内成立が困難になるからだ。改正法案の審議時間は労働者派遣法成立時を上回るほど十分に確保してきたとして、強行採決も辞さない姿勢をみせている。

 

一方、民主党など野党側は、審議が不十分であり、公聴会または参考人質疑を行わずに委員会採決に持ち込むことがあれば「野党7党が一致して反対する」と強く牽制している。

また、民主党・維新の党・みんなの党・生活の党は、正社員や非正規労働者などの雇用形態にかかわらず職務に応じた同等の給与・待遇を義務付けて、同一労働・同一賃金を推進する「労働者の職務に応じた待遇の確保等のための施策の推進に関する法律案」を6日に衆議院へ共同提出しており、政府提出の改正案とともに審議を行うよう与党側に求めている。

野党4党が提出した同一労働・同一賃金推進法案には、派遣元事業者への規制を講じることで、派遣労働者の均等待遇の実現を図ることなどが盛り込まれている。政府案の廃案をめざす民主党などは、政府案の対案として位置付ける。ただ、政府案の賛否をめぐっては、共同提出した4党でも、民主党・生活の党と、維新の党・みんなの党とで温度差が生じているようだ。

 

労働者派遣法改正案の審議日程をめぐる与野党攻防が激しくなっているが、野党側は委員会審議そのものを拒否しない方針だという。このため、早ければ今週中にも政府案が衆議院を通過するのではないかとみられている。

 

 

【衆議院内閣委員会では審議案件が山積】

臨時国会の会期末まで1カ月を切ったが、閣僚の政治とカネをめぐる問題で、法案審議が順調に進んでいるとは言い難い状況だ。自民党は、現時点で会期延長は考えておらず、会期内にすべての重要法案を成立させたい考えだが、審議日程はいままで以上に窮屈なものとなりつつある。

 特に、審議案件は多く抱えている衆議院内閣委員会での日程調整は難航しているようだ。衆議院内閣委員会では、7日、女性の採用・昇進機会を増やす取り組み加速を企業などに促すための「女性の職業生活における活躍の推進に関する法律案」の趣旨説明が行われ、実質審議入りとなった。同法案は臨時国会中にも成立する見通しとなっているが、風営法改正案などその他の法案処理がどの程度進むのか微妙な情勢となっている。

 

 また、自民党は、安倍総理が成長戦略の目玉の一つとして位置づけている「統合型リゾートの整備を促す法案」(カジノ推進法案)の臨時国会中の成立を断念した。同法案は、自民党が日本維新の会・生活の党とともに今年の通常国会に共同提出し、衆議院内閣委員会で継続審議となっている。

ただ、同法案の審議スタートは会期最終盤になる見通しで、内閣委員会で審議日程を確保するのは極めて困難な状況となっている。また、公明党、さらに足元の自民党内からも反対・慎重論が出始めている。このことから、自民党は、臨時国会で最低限の審議時間を確保したうえで継続審議とし、来年の通常国会で成立をめざすこととなった。

 

 

増税判断に絡む駆け引き、与野党攻防に要注意】

 政府・与党内では、低迷する個人消費の刺激策や急激な円安対策などの経済対策を盛り込んだ補正予算案の編成に向けた議論などが行われている。安倍総理は、11月17日発表の7~9月期の国内総生産(GDP)1次速報値や、18日にも終了する、2015年10月からの消費税率10%引き上げによる日本経済への影響などを検証する「今後の経済財政動向等についての点検会合」の有識者らの議論などを見極めたうえで、18日にも補正予算案の編成を指示するようだ。

景気を下支えする経済対策として、生活支援策を促す新たな交付金をつくることなどが検討されている。新交付金制度では、地元商店街で使える商品券の配布や、漁業や運輸業など地方の一部業界や寒冷地の低所得者などを対象とした燃料費補助、子育て世帯や低所得者世帯への給付金など、政府が用意する複数メニューから、自治体が地域事情に沿った生活支援策を選択できるようにするという。ただ、バラマキ施策とならないよう所得制限を設けて、中・低所得者などが支援対象となるよう要件などを定めるようだ。

 

2015年10月からの消費税率10%への引き上げ是非をめぐっては、安倍総理が引き上げを先送りした場合、衆議院解散・総選挙に踏み切るのではとの見方が浮上し、様々な憶測も飛び交っている。

もっとも安倍総理は、11月17日発表の7~9月期の国内総生産(GDP)1次速報値や、18日にも終了する有識者らによる点検会合の結果などを見極めて慎重に判断すると述べており、現時点では衆議院解散を否定している。菅官房長官も、安倍総理は11月17日発表の1次速報値と12月8日発表の改定値(2次速報)の二つの指標も見極めたうえで最終判断をするのではないかとの認識を示している。
 

今後、安倍総理の消費税率引き上げ判断に絡む駆け引き、国会運営や審議日程をめぐる与野党攻防に注意しながら、それぞれの法案審議の行方を見極めていくことが重要だろう。
 

原英史・株式会社政策工房 代表取締役社長】 


 「地方創生」の戦略を検討する「まち・ひと・しごと創生会議」(民間人有識者12名で構成)では、年内に「長期ビジョン」と「総合戦略」を策定することになっており、11月6日、それらの骨子案が提示された。

 「地方創生」に関する重要論点のひとつが人口問題だ。このまま推移すれば、人口縮小、地方からの人口流出によって、相当数の自治体が消滅してしまうというのが、政府の問題意識の出発点のひとつだ。
 

 今回の「長期ビジョン」骨子案では、この人口問題について、以下の「目指すべき将来の方向」が示された。

1)「50年後1億人」を確保すべく、人口減少に歯止めをかける。このため、出生率1.8程度(OECD諸国の半数以上が実現している水準)への改善を目指す。

2)東京一極集中を是正する。

 

 ここで、2)の「東京一極集中の是正」が出てくるのは、「東京一極集中が出生率低下を招いている」との認識に基づく。

 だが、現状ではたしかに都市部での出生率が地方を下回るが、各国との比較からも、「都市部では出生率が低い」という必然性はない。むしろ、都市部で適切な少子化対策を講じれば、人口問題の解決は可能なはずであり、「東京一極集中」が是正すべきことなのかどうかは、別問題だ。

 
 「東京一極集中」の問題については、改めて論ずることとし、本稿では、「出生率」の問題を取り上げたい。

 

 フランス(2.01)、イギリス(2.00)、スウェーデン(1.98)、アメリカ(1.93)など(いずれも2010年データ)、多くの国で出生率1.8以上がクリアされており(特にフランス・イギリス・スウェーデンでは、この10~20年で相当程度の改善)、我が国(1.4程度)に改善の可能性があることはそのとおりであろう。

(参考)内閣府資料(19ページ)

http://www.kantei.go.jp/jp/singi/sousei/souseikaigi/dai1/sankou.pdf

 ただ、問題は、いかにして実現するかだ。

 

 現状のデータを分析すると、

(1)結婚した夫婦の理想の子供数・現実の子供数は、ここ30-40年ほど大きな変化はない(図1)。      

【図1】理想の子ども数・現実の子ども数
                                            【図1】            
                  (出所:平成26年版少子化社会対策白書)

 

(2)一方、30代未婚率は、ここ30年で平均7%程度から30%程度まで急増(図2)。
   これが、少子化を進行させている大きな要因である。

【図2】年齢別未婚率の推移(女性) 
                         【図2】
                    (出所:平成26年版少子化社会対策白書)

 

 これを踏まえ、少子化対策としては、以下の2点の解決を図ることが有効と考えられる。

(1)理想の子供数を、多くの夫婦が経済的理由であきらめていること(図3)。

                            【図3】     
              (出所:平成26年版少子化社会対策白書)



(2)不安定であるが故に結婚に踏み切れない人(特に男性)が、未婚率を高めている
こと(図4)。

【図3】理想の子ども数を持たない理由
                                         【図4】 
                    (出所:平成26年版少子化社会対策白書)
                    

 具体的には、

・子育て給付拡大、税制などを通じ、育児のコスト低減、

・待機児童解消など、保育環境の整備(株式会社と社会福祉法人のイコールフッティング、保育士配置基準の見直しなど)、

・雇用改革(同一労働同一賃金を軸として若者の雇用環境改善、いちど出産で仕事をやめても復帰して活躍できる環境整備など)

といった対策が必要だ。

 とりわけ、予算措置だけにとどまらず、「保育」「雇用」の分野で、いわゆる岩盤規制に切り込むことができるかどうか。「出生率1.8」を口先だけの目標にとどめず、実現できるかどうかの試金石だ。

 

 

先週10月28日には派遣労働者の柔軟な働き方を認める「労働者派遣法改正案」が、31日には女性の採用・昇進機会を増やす取り組み加速を企業などに促すための「女性の職業生活における活躍の推進に関する法律案」が、衆議院本会議での趣旨説明と質疑が行われ、審議入りとなった。


*衆参両院の本会議や委員会での審議模様は、以下のページからご覧になれます。

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【派遣法改正案、委員会審議入りでも混乱】

労働者派遣法改正案は、一部の専門業務を除き企業の派遣受け入れ期間の上限規制(最長3年)を撤廃する一方、派遣労働者一人ひとりの派遣期間の上限は原則3年に制限し、派遣会社には3年経過した後に派遣先での直接雇用の依頼や、新たな派遣先の提供などの雇用安定措置を義務づける内容だ。

 

28日の衆議院本会議で行われた質疑では、同法案に反対する民主党や共産党、社民党などは「企業が派遣を使い続けることができるようになり、雇用が不安定な派遣労働者が増える」「格差が固定化され、低賃金労働者を増大させかねない」などと批判して徹底抗戦の構えをみせた。

これに対し、安倍総理は、正社員になるための教育訓練を派遣元企業に義務づけていることや、正社員になったり別の会社で働き続けられたりする措置を同法案で義務付けていることなどを挙げて「派遣就労への固定化を防ぐ措置を強化している」と説明し、「派遣労働者の雇用の安定を図り、多様な働き方の実現をめざすものだ」と理解を求めた。

 

臨時国会中に成立させたい与党は、安倍総理がアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議出席など海外出張する前の7日にも、安倍総理出席のもと衆議院厚生労働委員会で締めくくり総括質疑を行う方針だ。参議院での審議入りは、安倍総理が外遊から帰国する19日以降になるとみられている。

ただ、閣僚の「政治とカネ」問題で審議入りがずれ込んで国会日程が窮屈なものとなっているうえ、衆議院厚生労働委員会での審議も遅れが生じている。

31日の衆議院厚生労働委員会で実質審議入りする予定だったが、野党側が強く反発しため、委員会が流会となった。公明党が、廃案に追い込みたい野党側の主張を取り込んで同法案の成立に道筋をつけるねらいから、派遣就業が臨時的・一時的なものとの原則を考慮するよう厚生労働大臣に求めると明記した修正案骨子を、厚生労働委員会理事会で提示したからだ。民主党などが「法案に問題点があることを認めた」「修正するなら政府が法案を出し直すべき」「野党の質疑も一巡していないのに修正案の提示はおかしい」などと抵抗したのである。

 

野党の反発により実質審議入りが持ち越されたことで、4日、公明党が円滑な国会審議を優先して、修正案撤回を厚生労働委員会理事懇談会で申し出た。しかし、野党側がこれに納得せず「欠陥法案は出し直すべき」などと主張したため、協議は平行線をたどった。このことから、渡辺博道委員長(自民党)は、労働者派遣法改正案の質疑を5日に行うことを職権で決定した。

野党側は、委員会開催を職権できめたことに5日の厚生労働委員会理事会で抗議するものの、5日の審議には応じるという。ただ、衆議院での審議・採決日程は流動的で、これまで以上に、会期内成立が危うくなっている。

 
 

【女性活躍推進法案ではその実効性が焦点に】

女性の職業生活における活躍の推進に関する法律案<2016年度4月1日から10年間の時限立法>は、従業員301人以上の大企業、国・地方自治体に、採用者や管理職に占める女性割合、勤続年数の男女差などを把握したうえで、各企業の自主判断で最低1項目の数値目標を盛り込んだ行動計画を作成・公表するよう義務付ける内容となっている。国に虚偽報告などを行った場合の罰則が設けられており、国は必要に応じて助言や指導、勧告はできるとしている。

 

ただ、同法案は数値目標を設定・公表しない企業への罰則はなく、企業の自主性を重んじて一律の数値目標が設けられていない。また、従業員300人以下の企業は、数値目標を盛り込んだ行動計画の作成・公表について努力義務にとどまっている。野党は、こうした点に注目して、実効性が担保されるかどうかについて追及していく方針だ。また、女性の正社員化などの施策がないことについても取り上げるという。

 

 

【地方創生関連2法案は衆議院通過へ】

安倍内閣が最重要課題と位置付ける、地方創生の基本理念などを定めた「まち・ひと・しごと法案」、地域支援をめぐる各省への申請窓口を一元化するとともに活性化に取り組む自治体を支援するための「地域再生法改正案」は、11月5日の衆議院地方創生特別委員会で締めくくり質疑と採決を、翌6日の衆議院本会議で採決を行うこととなった。地方創生2法案は、委員会および本会議でそれぞれ与党の賛成多数により可決され、参議院に送付される見通しだ。

 

 これに対し、野党側は、政府が提出した地方創生関連2法案について「中身がなく取り組みとして不十分」「地域主権の理念を欠いている」などと批判しており、採決を急ぐ与党側を牽制している。

31日には、民主党・維新の党・みんなの党・生活の党は、政府案の対案として「国と地方公共団体との関係の抜本的な改革の推進に関する法律案」を共同提出した。同法案は、民主党が主張する地方自治体への一括交付金の復活や、維新の党・みんなの党が求める道州制導入に向けて権限・財源の移譲など法制上の措置を講ずることや、国の出先機関の統廃合なども含めた国・地方の役割分担の見直しなどが盛り込まれている。交付金のバラマキとならないよう、各省庁に分かれていた申請窓口を内閣府に一元化することや、自治体に事業の目標設定や効果の検証を求めることなども明記されている。

 

 このほか、土石流や地滑りなどで住民の命に危険が生じる場所を土砂災害警戒区域に指定に先立って基礎調査を実施し、その結果公表を都道府県に義務付ける「土砂災害防止法改正案」が4日の衆議院本会議で全会一致により可決した。
 また、東京電力福島第一原発事故の除染で発生した汚染土などを保管する中間貯蔵施設に関することや、安全確保など国の責任を明記して30年以内に福島県外で最終処分を完了させることなどについて規定した「日本環境安全事業株式会社法の一部を改正する法律案」も賛成多数により可決した。両案とも参議院での審議を経て臨時国会中に成立する見通しだ。

 

 

【参院選改革案、一本化できない自民党に批判続出】

 議員1人あたりの人口格差(1票の格差)是正策に向けた参議院選挙区制度改革をめぐっては、31日、参議院の各党代表者で構成する選挙制度協議会(座長:伊達・参議院自民党幹事長)の会合が開催された。自民党と民主党は、それぞれ参議院選挙制度改革案を提示した。

 民主党は、脇前座長が示した隣接22府県を11選挙区に合区する案をベースに、東京選挙区を2選挙区に分割(23区内が改選数4、23区外が改選数2)するなど、23都府県を13選挙区に再編する案を提示した。

 

一方、自民党は、(1)改選2人区のうち人口の少ない3県(宮城・新潟・長野)を1人区にし、北海道・東京・兵庫の改選議席を1議席増やす「6増6減」および比例代表の定数を削減して選挙区の定数を割り振る組み合わせ案、(2)人口の多い選挙区の一部を人口の少ない選挙区に加える選挙区域調整案、(3)人口の少ない隣接選挙区を統合する「合区」案、(4)「6増6減」案および人口の少ない選挙区同士を合区する組み合わせ案、の4案を提示した。

29日、自民党の溝手議員会長は、党所属参議院議員の総会で4案を提示して、理解を求めた。出席者からは「抜本改革案を示すべき」「4案の提示は無責任」といった意見も出されたが、最終的な対応を溝手議員会長に一任することとなった。当初、選挙区域調整案や合区案について対象地域を明示することも検討されていたが、党内からの反発に押されて見送った。

 

 こうした自民党案に、民主党など野党各党から、31日の協議会会合で「なぜ一つの案ではないのか。議論が進まない」「自民党にはまとめる気がない。第一党としての責任で一案にすべき」などの批判が続出した。議論が紛糾したことから、伊達座長は、次回会合(11月14日)までに再検討するよう自民党に要請して、その場をおさめた。

協議会は年内に意見集約し、来年の通常国会で関連法を成立させることをめざしている。しかし、参議院自民党執行部は「一本にまとめるのは困難」(溝手議員会長、29日の参議院議員総会)とみているうえ、与野党の歩み寄りも期待できない状況にある。今後の調整作業は、難航しそうだ。

 

 

【消費税率引き上げ判断のための点検会合がスタート】

 2015年10月に消費税率10%への引き上げを実施するか否かを安倍総理が最終判断するのを前に、政府は、11月4日から日本経済に与える影響などを検証する「今後の経済財政動向等についての点検会合」をスタートさせた。

 

点検会合は、11月18日までの間に計5回開催する予定で、政府からは麻生財務大臣や黒田日銀総裁、甘利経済再生担当大臣らが出席する。ヒアリング対象の有識者には、経済界・消費者団体・労働組合の各代表のほか、中小企業の経営者、自治体首長、学者や民間エコノミストら計45人が出席する予定だ。有識者は、経済の現状評価のほか、消費税率引き上げの場合と引き上げない場合のそれぞれの影響、再増税時の景気対策などについて意見を述べる。

4日の初会合では、須田善明・宮城県女川町長、三村明夫・日本商工会議所会頭、古賀伸明・連合会長、荻上チキ・シノドス編集長、河野康子・全国消費者団体連絡会事務局長、伊藤隆敏・政策研究大学院大教授、加藤淳子・東京大学大学院教授、安倍総理の経済ブレーンの浜田宏一・内閣官房参与から意見聴取した。三村会頭や古賀会長、伊藤教授ら5人が再増税に賛成・容認(条件付き含む)、浜田氏や荻上氏、河野事務局長の3人が慎重(先送り)・反対を表明した。

 

安倍総理は、17日に内閣府が発表する7~9月期の国内総生産(GDP)速報値などの経済指標のほか、点検会合でのヒアリング結果も踏まえ、12月上旬にも最終決断する予定だ。

消費低迷の長期化や円安などに伴ってエネルギー価格が高騰していることもあり、政府内では、景気を下支えするための補正予算案の編成が浮上している。点検会合と経済指標を踏まえつつ、安倍総理が、11月中旬にも経済財政諮問会議などの場で、経済対策を盛り込んだ補正予算案の編成を麻生財務大臣ら関係閣僚に指示する方向で調整中だという。安倍総理が消費税率10%への引き上げを決断した場合には、2015年当初予算で駆け込み需要の反動減対策を盛り込むことも検討しているようだ。

 

 一方、消費税率引き上げの凍結を主張している維新の党・みんなの党・生活の党は、11月4日、消費税増税凍結法案(社会保障の安定財源の確保等を図る税制の抜本的な改革を行うための消費税法の一部を改正する等の法律及び社会保障の安定財源の確保等を図る税制の抜本的な改革を行うための地方税法及び地方交付税法の一部を改正する法律の一部を改正する法律案)を衆議院に共同提出した。自民党・公明党と消費税率引き上げで合意した民主党は、共同提出への参加を見送った。

同法案は、2012年に成立した消費税増税法を改正して増税条件を厳しくすることで、消費税率引き上げを事実上延期するよう政府に求める内容となっている。消費税率の引上げにあたり、「経済状況の好転」を判断する指標として「経済成長率」「物価動向」「実質賃金」「完全失業率」などを確認することを求めるほか、引き上げの新たな条件として、(1)国会議員の定数削減、(2)国会議員の歳費及び期末手当の削減、(3)歳入庁の設置、(4)特別会計の見直し及び国の不要な資産の売却その他歳出の削減及び歳入の増加を図るため必要な措置を講ずることの「身を切る改革」も明記している。

 

 消費税率引き上げをめぐっては、政府・与党内でも賛否が分かれる。また、閣僚の政治とカネ問題の追及などで共闘を模索する民主党や維新の党なども、政策的な溝が横たわっている。安倍総理の12月上旬の最終判断を前に、賛成・容認派と慎重・反対派の論戦、水面下での駆け引きなどが活発になっていきそうだ。

 

 

【主要法案の審議の行方に注目を】

 10月30日に開かれた衆議院予算委員会での集中審議や、11月4日に開かれた参議院予算委員会での集中審議、衆参両院の本会議・委員会審議で、民主党などが、江渡防衛大臣や宮沢経済産業大臣、西川農林水産大臣、望月環境大臣、有村女性活躍担当大臣らの「政治とカネ」問題や閣僚の資質問題、安倍総理の任命責任を追及し続けた。

 その一方で、民主党の枝野幹事長、大畠前幹事長、政治とカネ問題を追及してきた近藤衆議院議員のほか、維新の党の江田共同代表ら野党側でも、政治資金収支報告書での不適切な記載・不明瞭な会計処理などが発覚し、収支報告書の訂正が続いた。与野党が国会内外で議員スキャンダルを追及しあう、引く引けない応酬合戦となっている。

 

 臨時国会の会期(11月30日) が残り1カ月を切った。限られた審議時間のなかで、安倍総理が最重要法案と位置づける「地方創生関連2法案」「女性活躍推進法案」や、与野党対決法案の代表格である「労働者派遣法改正案」などの主要法案が、今度、どのように審議・採決が進んでいくのだろうか。水面下での与野党の駆け引きも含めたそれぞれの審議状況をみておくことが大切だ。

【山本洋一・株式会社政策工房 客員研究員】

 女性閣僚の「ダブル辞任」に始まった政治とカネの問題が野党にも飛び火し、泥仕合となっている。疑惑の中身は政治資金収支報告書の意図的な虚偽記載や単純ミスなど様々だが、収支報告書が間違いだらけだということははっきりした。このままでは政治への信頼が落ちゆくばかり。実効的な対策を考えなければならない。

 
 
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月の内閣改造後、うちわの配布や政治資金のSMバーへの支出、外国人企業からの献金など様々な失態が取りざたされ、臨時国会はさながら「スキャンダル国会」の様相を呈している。中でも最も多いのが後援会などの収支を毎年報告する政治資金収支報告書の記載ミスだ。

 
 小渕優子前経済産業相の場合は観劇会に関する収入が、劇場などに払った支出に比べて数千万円単位で少なかったことが判明。実際に受け取った収入よりも少ない額を記載した、虚偽記載の疑いが持たれている。観劇会を開いたにもかかわらず、収支ともに記載していない年もあった。

 
 後援会などの会計を担当していた元秘書の折田謙一郎・前中之条町長は「実務上のミスだが、(外形的には)虚偽記入に当たる」(日本経済新聞より引用)としているが、故意に収入を少なく記載した疑いもある。「裏金になっていた」と指摘する声も根強い。

 
 東京地検特捜部は何らかの理由で故意に収入を少なく記載した疑いがあるとみて、30日に後援会事務省や折田氏の自宅などを家宅捜索した。故意だったことがはっきりすれば、小渕氏の議員としての立場も危うい。

 
 望月義夫環境相が追及されている問題はもう少し複雑だ。2008年と2009年分の収支報告書に記載していた賀詞交歓会への支出計660万円が、実際には別で支出した会費や会合費だったというのである。

 
 会食や会合費への支出が「当時、社会的に批判されていた」ことから、額の見合った賀詞交歓会への支出を計上していたという。一般企業でいえば、関係のない領収書を提出して経費を架空請求していたというのに近い。しかし、望月氏は「亡くなった妻が会計を担当していた」として、具体的な中身の説明を避け、自分に法的責任はないと主張し続けている。

 
 収支報告の記載ミスは野党にも見つかっている。民主党の枝野幸男幹事長は2011年の政治資金収支報告書に、新年会の収入約240万円を記載していなかったことを公表。維新の党の江田共同代表は2008年から2012年までの5年間、政治資金収支報告書にイベントの収入を記載していたにもかかわらず、支出を記載していなかったと表明し、報告書を訂正した。

 
 
 兵庫県の「号泣県議」の一件以降、地方議会における政務調査費の収支報告書の訂正も相次いでいる。国会、地方議会ともに、なぜこれだけのミスが発生するのだろうか。これ以上、政治への信頼を落とさないために、どうすればミスを防げるようになるのだろうか。

 
 実は国会にはミスを防ぐための仕組みが設けられている。20084月に始まった政治資金監査制度は、国会議員に関係する後援会などの政治団体が収支報告する際に、特別な研修を受けた政治資金監査人の監査を受け、報告書を添付するよう義務付けている。

 
 それにもかかわらずミスを防げないのは、この制度が一部で形骸化しているからだ。政治資金監査人は弁護士や公認会計士、税理士なら誰でもなることができるが、実際には後援会の中の税理士などに研修を受けてもらい、形だけの監査をしているという例が少なくない。

 
 さらに小渕氏の問題のように、複数の団体で分散して計上していると、一つ一つの収支報告は正しくても、全体として不正を見過ごしてしまう可能性がある。これを防ぐには政治家が自ら監査人を選べないようにするとともに、それぞれの団体だけでなく、各団体をまとめて監査する制度に変えるべきである。

 
 企業であればこんな杜撰な経理が許されるはずもない。政府は投資家保護のために上場企業に厳密な決算の管理を義務付けており、企業側も当たり前のように受け入れている。政治資金には税金も含まれているのだから、なおさら厳しく管理すべきだ。そもそも企業に比べてカネの出入りは非常に少ないので、そこまで大変な作業ではない。

 
 
 「国会でスキャンダル合戦は見たくない」という国民もいるだろうが、実際に不祥事が明らかになっている以上、野党も追及せざるを得ないというジレンマがある。国会をスキャンダル追及ではなく、政策論争の場に変えるには、制度改革によって政治資金問題を撲滅するしかない。

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