政策工房 Public Policy Review

霞が関と永田町でつくられる“政策”“法律”“予算”。 その裏側にどのような問題がひそみ、本当の論点とは何なのか―。 高橋洋一会長、原英史社長はじめとする株式会社政策工房スタッフが、 直面する政策課題のポイント、一般メディアが報じない政策の真相、 国会動向などについての解説レポートを配信中!

October 2014

【山本洋一・株式会社政策工房 客員研究員】

 来年度予算の編成に向け、自民党の行政改革推進本部が概算要求の精査を始めた。財務省による予算の絞り込みを前に、無駄な事業を洗い出す狙いだ。ただ、企業業績の回復や増税による税収増で党内の族議員たちは勢いづいている。歳出拡大圧力を抑え込むのは容易ではない。

 
 来年度予算を巡り、各省庁が提出した概算要求は総額101兆円。来春の統一地方選対策として首相が旗をふる「地方創生」や社会保障の充実などを名目に要求額が膨らみ、過去最大の規模となった。

 
 各省庁の背中を押しているのがそれぞれの業界の意向を受けた族議員たち。建設族は地方を中心に公共工事の積み増しを求め、厚労族は社会保障の充実を求め、商工族は各業界への補助金の拡充を求めている。各省庁は有力族議員と結託し、首相官邸や財務省に働きかけている。

 
 行革本部の動きに、すかさず反発した「元」族議員がいる。「行革本部はなぜ新国立競技場を目の敵にしなければいけないのか。こんなんだったら議員を辞めるんじゃなかった」。東京五輪・パラリンピック組織委員会会長の森喜朗元首相は2日、超党派議員連盟の会合で不満をぶつけた。

 
 2012年に政界を引退した森氏は現役時代、文教族議員の重鎮として知られた。日本体育協会や日本ラグビー協会の会長を長年務めるなど、特にスポーツ界に大きな影響力を発揮した「スポーツ族議員」でもある。

 
 森氏にとっては2019年のラグビーW杯や2020年の東京五輪・パラリンピックの成功こそが最優先課題。そのためにはいくら金をかけてもいいという立場である。森氏の目には「1300億円の建設費は高すぎる」として見直し議論を始めた行革本部の対応が不満に映る。

 
 確かに東京五輪の成功のためにも国立競技場の整備は重要な課題だが、財政がひっ迫している我が国においては建設費をいかに圧縮するかという視点も必要だ。森氏の考え方は「木を見て森を見ず」という自民党的な族議員政治の典型例。結果はともかく、見直しはあってしかるべきだ。

 
 ここにきて族議員たちが勢いづいているのは税収の増加が一因である。円安によって大企業の業績が回復しているほか、消費税率が今春に8%に上がった。首相が地方創生を掲げたことで、地方への公共事業の積み増しも主張しやすくなった面もある。典型例が地元選出議員による整備新幹線の前倒し建設要求である。

 
 しかし、税収が増えたと言って、この国に予算をバラマく余裕はない。公債発行を除いた国の基礎的収支は2016年度予算案ベースで18兆円の赤字。消費税の1%引き上げで約2兆円の増収が見込めるが、10%に上げたところで2020年度の黒字化という政府目標にはほど遠い。

 
 そこで首相官邸が白羽の矢を立てたのが無鉄砲で知られる河野太郎氏。行革推進本部長に据え、概算要求を「仕分け」させることとした。森氏のように大物族議員が予算削減に抵抗しても、河野氏ならはねのけられるとの目算だ。行革本部は公共工事や社会保障給付などを聖域なく見直す。

 
 気になるのは補正予算である。政府は消費税率の再引き上げをにらみ、年内に2014年度補正予算案を編成する方向で検討している。せっかく来年度予算で無駄をあぶりだしても、補正予算で復活してしまっては意味がない。行革本部は補正予算の中身にまで目を光らせる必要がある。

 
 安倍晋三首相は河野氏という飛び道具を使って、族議員の壁を乗り越えることができるかどうか。規制改革の先行きを占う意味でも注目したい。
 

高橋洋一・株式会社政策工房 代表取締役会長】 

 筆者は、文系が多い霞ヶ関の中で、理系出身だ。理系の中でも数学なので文系からいれば、とんでもなく「理系」だろう。その理系から見た経済政策での不思議を述べよう。

 自然科学の典型的な論法は、仮設をたてて実験でそれを証明するというパターンだ。管理された実験で出来なければ、自然界の事象を利用し予測することで仮説の正しさを示そうとする

 もっとも筆者がやっていた数学の場合、実験はなくロジックのみを使って証明する。もちろん証明が出来なければ仮説命題は正しいとはいえず、反証された場合には間違いとなる。
 ところが、社会科学の場合、形式的には自然科学の手続きに似ているようだが、何かしっくりこない。例えば、経済学の場合、過去のデータを収集し、仮説を実証するというスタイルであるが、実際の政策決定において、実証された理論を予測に生かさないことがしばしばだ。予測をすれば、それが当たったかどうかで、その理論の妥当性は外部の人でもわかる。

 エコノミスト、経済学者はこうした試練になる予測をあまり行わない(やっても個人が特定できないようにする)が、まれに予測せざるを得ないときもある。昨年10月に決定され、今年4月から実施された消費増税だ。消費増税した場合、経済がどのようになるかを予測するのは、これまでの経済理論で十分にできるので、これはエコノミスト、経済学者の力量を測るいい機会だ。。

 
 昨年、政府に呼ばれて意見を述べた人の氏名や資料は、ここ(http://www5.cao.go.jp/keizai-shimon/kaigi/special/tenken/にある。おそらく日本を代表する学者も含まれている。ところが、彼らの予測は、消費増税しても経済に対する影響は軽微ということだったがほとんど当たっていない。それが意味するところは、経済理論を使わずに単なる願望を述べただけか、予測するまでに経済理論を使いこなせてないか、正しく経済理論を理解していないかだろう。

 経済予測を商売とするエコノミストの予測能力も低い。興味のある方は、ここ(http://gendai.ismedia.jp/articles/-/40156をご覧いただきたい。3ヶ月先の予測について、デタラメにサイコロを振ったのと大差ないくらいだ。この人たちのの多くも消費増税賛成であるが、やはり1年前には消費増税しても経済への影響は軽微であると言っていた。結果としては間違いだった。

 こうして予測を通してみると、
今政府がしばしばいう今の景気の落ち込みは天候不順のせいというのは、後ツケの言い訳にすぎないのもわかる。というのは、予測をするとき、モデルを使うので、条件は数値化されている。となれば、天候の悪化という前提条件が不味かったのだが、事後的にも天候悪化による悪影響は定量的にいえる。それがいえなければ、単なる後付けの言い訳にすぎない。

 筆者の知る限り、天候を織り込んだ予測モデルはないわけでない。
筆者が役人時代に、税収予測を依頼されて、ビールの消費量予測に夏の平均気温を盛り込んだことがある。ただし、これはあくまでビールという特定商品のみの話で、マクロ経済全体ではない。市場経済はよくできていて、天候不順を儲けにも利用する人がいる。だから、結果として天候不順は特定業界に影響を与えてもマクロ経済への影響は少なくなる。

 また、自然現象は事前予知が難しいというのが政府の立場のはずだ。想定内の天候不順なら、災害で被害が出たときに政府は知っていて必要な措置を取らなかったことになるからだ。

 いずれにしても、予測を外した人たちの意見をきいたところで、
間のむだ使いだ。
 ところが、政府は、来年10月からの消費増税を決断するために、再び昨年意見を聞いた有識者に聞こうとしている。

 間違った有識者の意見を聞けば、再び間違う可能性は高い。そのとき、政府はどう言い訳するのだろうか。一度間違った人の意見の逆をした方が、ひょっとしたらいい結果になるかのしれない。ということは、有識者に意見を聞くというのは、消費増税を見送るサインかもしれない。これはちょっと楽観的すぎるかもしれないが

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