政策工房 Public Policy Review

霞が関と永田町でつくられる“政策”“法律”“予算”。 その裏側にどのような問題がひそみ、本当の論点とは何なのか―。 高橋洋一会長、原英史社長はじめとする株式会社政策工房スタッフが、 直面する政策課題のポイント、一般メディアが報じない政策の真相、 国会動向などについての解説レポートを配信中!

October 2014

【山本洋一・株式会社政策工房 客員研究員】

 政府内で医療改革の議論が進んでいる。厚生労働省は負担の引き上げによって医療費の増加に対応する方針だが、それだけでは抜本的な解決にはならない。既得権益が抵抗する支出削減に取り組まなければ、日本の素晴らしい皆保険制度を維持することはできない。

 
 厚労省が社会保障審議会の医療保険部会に示した「療養の範囲の適正化・負担の公平の確保について」には、かかりつけ医からの紹介状を持たずに大病院を受診した際の5000円程度の追加負担や、入院患者の食費負担の引き上げ、75歳以上の保険料の軽減措置の廃止、月収121万円以上の高所得者の保険料引き上げなど、負担増のメニューがずらりと並んだ。

※厚労省の資料はこちら

http://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-12601000-Seisakutoukatsukan-Sanjikanshitsu_Shakaihoshoutantou/0000061515.pdf

 
 一方、同時に示した支出削減策「医療費適正化について」には健康づくりに向けたインセンティブの付与やデータ分析による医療費抑制などを盛り込んだが、目新しいものはない。

 例えば割安な後発医薬品(ジェネリック医薬品)を欧米並みに普及させれば医療費を7%削減できるとの調査もあるが、今回の厚労省案には「ジェネリック医薬品希望カード」の配布など中途半端な取り組みばかり。保険医療における後発薬の義務付けなど抜本策にはまったく触れていない。

※資料はこちら

http://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-12601000-Seisakutoukatsukan-Sanjikanshitsu_Shakaihoshoutantou/0000061516.pdf

 
 厚労省が支出削減に後ろ向きなのは、業界の反発を恐れているからだ。厚労省の政策は基本的に社会保障審議会やその関連部会で決めるが、そこには医師会や薬剤師会など各業界の代表者がずらりと並んでいる。彼らの反対する政策は打ち出せないようになっているのだ。

 
 例えばジェネリック医薬品の普及には製薬業界が否定的。ジェネリック医薬品は新薬の特許が切れた後に別の製薬会社が同じ成分で作った薬のことだが、当然ながら後発薬が売れれば新薬を開発した会社の高価な薬は売れなくなる。大メーカーが後発薬の普及に賛成するはずがない。

 
 レセプト(診療報酬明細書)や電子カルテなどのITを使った支出抑制策の検討が進まないのも、新たな投資や勉強が必要になる町医者や、それを束ねる日本医師会が反対しているからだ。本来は政治家がリーダーシップを発揮してそうした政策を前進させるべきだが、多くの与党議員が業界から金を受け取っているため、声高に主張しようとはしない。

 
 高齢化が進む限り、医療費の支出はこの先もどんどん膨らむ。ある程度の負担増はやむを得ないが、それだけでは際限なく負担が増えていき、いずれ国民は耐えられなくなる。支出の削減に取り組まなければ、日本の皆保険制度はやがて崩壊してしまう。

 
 厚労省が示した負担増のメニューも実は先行きが心もとない。特に高齢者の負担増は「選挙に行く有権者」の反発が大きく、政権基盤が安定していない限り法律の制定まで持っていくのは難しいからだ。厚労省は安倍政権の支持率が高いうちに実現しようと考えたのだろうが、小渕優子経済産業相の政治資金スキャンダルで支持率は暴落の危機。仮に安倍政権の求心力が低下すれば、法案の提出さえ危うくなる。

 
 世界に類を見ないスピードで少子高齢化が進む日本にとって、社会保障費の抑制は最大の政治課題である。この難しい課題の解決策を見出すのは役人ではなく、国民の代表である政治家の仕事。政治献金の受け取りを拒否してでも、支出削減に取り組む大政治家はいないものだろうか。
 

高橋洋一・株式会社政策工房 代表取締役会長】 

 もし、ここ20年間の伸びのまま2050年まで行くとどうなるだろうか。今の日本の一人当たりGDP4万ドル程度で、世界で20位程度だ。先進国とは、基本的には一人当たりGDP1万ドル以上の国を言うので、日本は立派な先進国である。ところが、ここ20年間で日本の平均伸び率は0.8%で、世界でほぼビリ。そのまま2050年になると、日本の一人当たりGDP5万ドル程度だ。

 

 アメリカは3.6%の伸びなので、一人当たりGDPは今の5万ドルが19万ドルになる。ユーロでは3.8%の伸びなので、今の4万ドルが15万ドルになる。

 

 世界の平均の伸び率は4.3%程度である。となると、今の1万ドルは2050年には5万ドルになる。ということは、日本はもう先進国とはいえなくなっている。最貧国ではないが、中所得国以下になっている。 

141006高橋さん原稿①
                                             表作成:政策工房

どうしたら経済成長できるのだろうか。これがわかれば、経済学はなくなるとも言われている最難問である。

経済成長できる政策が簡単にわかれば、世界の貧困問題は解決できるので、ノーベル経済学賞は確実だと、かつてクルーグマン・プリンストン大教授は語っていたくらいだ。

このくらいの難問だから、すっきりした解はない。しかし、筆者としては部分的な答えらしきものの見当をつけている。

 

以下は、一人あたりGDP成長率と各種のデータとの相関係数を調べたものだ。相関係数が低ければ相関がないので、両者に因果関係はないといえる。もし相関関係があれば、因果関係を探ってみる。

 

こうした作業の結果、筆者が経済成長に最も関係していると思っているのが、マネーの力だ。

両者には相関関係がある。相関係数0.5という数字は決して強い相関とはいえないが、こうした関係は他にまずないから、経済成長を説明しうるものだ。

 

 もちろん、相関関係は因果関係を意味していないが、各国のデータを個別に調べると、マネー伸び率は12年程度のラグで、経済成長に影響していることがわかる。これは、因果律を示している。経済成長の結果という側面もあるが、マネーを刷って増やすことや減らすことは金融政策で簡単にできる。このように、人為的に操作できるものが原因となるのは自然な話である。

 

 経済成長に寄与するのがマネーだけとは思ってないが、なかなか相関関係のある要素を探し出せていない。

 最後に、マネー、その他の要因と一人あたりGDP成長率を掲げておこう。

 

141016高橋さん原稿②
                                       表作成:政策工房


141016高橋さん原稿③
                                         表作成:政策工房

141016高橋さん原稿④
                                        表作成:政策工房



 
141016高橋さん原稿⑤
                                       表作成:政策工房


 
141016高橋さん原稿⑥ 
                                     表作成:政策工房

141016高橋さん原稿⑦
                                         表作成:政策工房




【地方創生2法案が審議入り】

今週14日の衆院本会議で、人口減少抑制や東京一極集中の是正に向けた地方創生の基本理念と、平成32年までに取り組む具体策を定めた「総合戦略」を年内に策定することなどについて定めた「まち・ひと・しごと法案」、地域支援をめぐる各省への申請窓口を一元化するとともに活性化に取り組む自治体を支援するための「地域再生法改正案」の趣旨説明および質疑が行われた。その後に開かれた衆議院地方創生に関する特別委員会でも同2法案が付託され、審議入りとなった。

 

*衆参両院の本会議や委員会での審議模様は、以下のページからご覧になれます。

 衆議院インターネット審議中継参議院インターネット審議中継 

 

 地方創生2法案の審議日程をめぐっては、法案審議を集中的に行って早期に成立させたい与党側が、定例日に拘束されない特別委員会設置を9日の衆議院本会議で議決し、趣旨説明と質疑を同日中に行うよう提案していた。しかし、野党側は、特別委員会設置そのものが必要なのかと難色を示した。衆議院議院運営委員会理事会で協議を重ねた結果、9日の衆議院本会議では特別委員会設置を議決することとし、地方創生2法案の趣旨説明と質疑を14日の衆議院本会議で行うこととなった。

 これにより、9日の衆議院本会議で特別委員会設置が賛成多数により決定した。その後の特別委員会では、同委員長に元総務大臣の鳩山邦夫衆議院議員(自民党)を互選で選出した。

 

14日の衆議院本会議では、安倍総理出席のうえ、石破地方創生担当大臣が趣旨説明を行った。石破大臣は「各府省の縦割りを断固排除し、政策効果の検証がされていない予算措置などバラマキ型の対応を排除する」と強調するとともに、「市町村をはじめとする使う側のニーズにあった施策を整備していく」と述べた。また、自治体に策定を求める5カ年計画「総合戦略」について、来年度中を期限とする旨を表明し、自治体の取り組みを支援する目的で、若手の国家公務員らを市町村の補佐役として派遣するしくみも検討するとした。

 その後の質疑では、野党側が予算のバラマキや歳出増加への懸念などを相次いで追及した。これに対し、安倍総理は、政策目標の設定、事業重複の徹底排除、政策効果の厳格な検証などを実施する意向を示して、「地方の陳情に応えるバラマキ型の投資は断じて行わない」点を強調した。 

 

 

【政府、地方創生について論点整理】

人口減少対策や地域活性化など、地方創生の具体策づくりに向けては、10日、政府の「まち・ひと・しごと創生本部」(本部長:安倍総理)が会合を開催した。本部会合では、年内にも策定する、50年後を見据えて1億人程度の人口を維持するための「長期ビジョン」と、今後5年間の施策となる「総合戦略」の論点が提示された。

 

長期ビジョンでは、推計で2008年をピークに人口減少し続けており、今後、経済規模の縮小や国民生活の水準低下、東京圏への人口流入などが懸念されることや、出生率の早期改善が必要との認識が示された。そのうえで、基本方向を「将来にわたって活力ある日本社会の維持」とし、若い世代の就労・結婚・子育ての希望の実現などの中長期的な政策目標を提示することや、地方の自主的取り組みを国が支援する方針などを明示した。

 総合戦略では、こうした長期ビジョンを踏まえ、政策目標を設定して、省庁間の縦割り排除、厳格な政策効果の検証を実施することを基本姿勢として掲げた。省庁の縦割りを排除して、地方独自の取り組みを効果的に支援していくため、国の対応窓口を一元化する「ワンストップ型」で展開する方針だ。政策分野ごとの取り組み例として、地方移住希望者や若い世代の結婚や出産・子育てなどへの支援、地域産業基盤の強化、育児休業の拡充などの働き方改革、自治体の広域連携推進などに取り組むことが列挙されている。

 

安倍総理は、「地方のやる気を引き出す内容としてほしい。東京中心の経済政策とは異なる取り組みが必要だ」と、本社機能移転も含む企業の地方拠点強化や、地域活性化に向けた人材確保などについて検討するよう指示した。また、長期ビジョンと総合戦略の骨子を、来月に決定する意向も示した。そのうえで、「当面の地域活性化対策を年内の予算編成と合わせてとりまとめ、来年は中長期的な構造問題に取り組む」との決意を示した。

 

 創生本部は、自治体や有識者からの意見を踏まえ、11月中に長期ビジョン・総合戦略の骨子を策定する。地方創生の具体策は、(1)優遇税制、(2)交付金、(3)補助金、(4)規制改革を柱に検討していくようだ。

伊藤大臣補佐官を中心とする基本政策検討チームは、これまでの国の地域活性化策を検証して問題点を検証するべく、自治体や各府省へのヒアリングをテーマ別に7日間実施し、10日に終了した。自治体からは、本社機能を地方に移転した企業に対する法人税引き下げなどの地方向けの優遇税制、人口減少対策で地方が自由に使える交付金創設といった財源をめぐる要望が相次いだ。各府省は、来年度の予算概算要求に盛り込んだ事業などについての説明を行った。

ただ、事業の重複や縦割り行政の実態、地方の拠点づくりにおける一体感の欠如などが明らかになったものの、各施策の明確な目標設定がないために、検討チームが当初めざした失敗事例を含む過去の関連事業の検証までには至っておらず、従来の延長線上にない政策の策定、厳格な予算査定ができるかは、いまのところ未知数だ。

 

 

【女性活躍推進法案、今月中にも提出】

 10日、女性活躍施策を検討する司令塔「すべての女性が輝く社会づくり本部」(本部長:安倍総理)の初会合が開催された。

安倍総理は「指導的立場で活躍する女性を育てることは大変重要だ」「女性が輝く社会をつくることは、政権発足以来の最重要課題の1つだ。子育ての不安解消、母子家庭の生活の安定、非正規を含めた働く女性の処遇改善など、すべての女性の活躍推進のため、施策の充実の推進に取り組んでほしい」と指示した。

 

初会合では、女性が働きやすい社会づくりに向けた雇用・職場環境の改善、出産・育児支援の強化など、来春までに実施する政策を集めた「すべての女性が輝く政策パッケージ」を決定した。政策パッケージでは、女性の職業生活における活躍の推進に関する法律案(女性活躍推進法案)の臨時国会への提出、非正規雇用労働者の処遇改善を促すプランの年内策定や、長時間労働を是正する法案を来年の通常国会への提出が明記されたほか、女性登用に積極的な企業への補助金付与や公共調達での優遇措置、子育て中の女性の再就職支援、妊娠・出産支援を後押し策、母子家庭向けの相談窓口の設置、ストーカー対策の強化、性犯罪被害者への支援などが盛り込まれた。

 

政策パッケージのうち、臨時国会に提出予定の女性活躍推進法案については、女性登用の取り組み加速を企業などに促すことを目的に、従業員301人以上の大企業に採用者や管理職に占める女性割合、勤続年数の男女差などを把握したうえで、各企業の自主判断で数値目標を設定し行動計画とともに公表するよう義務付けることとなった。従業員300人以下の企業は義務とせず、努力を求めるかたちとなった。同法案は、2016年度から25年度までの時限立法で、施行から3年後に、必要に応じて内容を見直すことも盛り込まれた。政府は、今月中にも同法案を提出し、臨時国会中に成立させたい考えだ。

 

 

【「地方創生」論戦に注目】

衆参両院の本会議で行われた安倍総理の所信表明演説に対する代表質問、衆参両院の予算委員会での基本的質疑では、安倍総理や関係閣僚が「地方創生」「女性活躍」の基本理念の抽象的説明などに終始したこともあり、野党側は、アベノミクス批判や看板政策の問題点を追及するも議論があまり深まらず、攻めあぐねてきた面があった。民主党や維新の党などは、松島法務大臣や江渡防衛大臣、山谷国家公安委員長ら新閣僚の資質問題に照準をあてて追及し始めている。

安倍総理が看板政策として掲げる「地方創生」をめぐる国会論戦がスタートしている。また、もう一つの「女性活躍推進法案」が、今月中にも閣議決定のうえ、国会提出される予定だ。これら政策をめぐる国会論戦がどこまで深まっていくのだろうか。まずは、特別委員会での審議動向に注目しておきたい。


原英史・株式会社政策工房 代表取締役社長】 

 安倍総理が「今後2年間で、少なくとも国家戦略特区では岩盤規制打破」を表明したのは、今年1月。すでに10か月近くが経過した。岩盤規制の多くが法律に根拠があり、法律改正を要することを考えれば、残された国会会期は限られる。この臨時国会、次の通常国会で、どれだけの岩盤規制を打破することができるかが問われる。

 
 国家戦略特区法は、2013年臨時国会で成立。その中で、容積率緩和、雇用ルール明確化(ガイドラインと相談センター)、病床規制など医療分野の一部規制緩和、農業委員会など農業分野の一部規制緩和がなされた。あわせて、総理主導で岩盤規制を切り崩す仕組みとして、「特区諮問会議」「区域会議」が設けられた。

 
 しかし、2014年1月からの通常国会では、規制改革メニューの追加はなされず、1回お休みとなってしまった。その後、9月の内閣改造があって、新たな体制のもと、この臨時国会で追加されるメニューが、10月10日の特区諮問会議で概ね固まった。

 項目は、以下のとおり(詳細は以下のサイト参照)。

http://www.kantei.go.jp/jp/singi/tiiki/kokusentoc/dai9/shiryou1.pdf


1.ビジネス環境の改善・グローバル化 

・外国人を含む起業のための各種申請ワンストップセンターの設置

・公証人の公証役場外における定款認証

・外国人家事支援人材の活用

・創業人材等の多様な外国人の受入れ促進

・外国での弁護士資格取得者の日本国内での活動推進

 

2.公的インフラ等の民間開放 

・公立学校運営の民間開放(公設民営学校の解禁)

・官民の垣根を越えた人材移動の柔軟化


3.持続可能な社会保障制度の構築 

・医療法人の理事長要件の見直し

・農業等に従事する高齢者の就業時間の柔軟化

・「地域限定保育士」(仮称)の創設


4.新たな地方創生モデルの構築 

・NPO法人の設立手続きの迅速化

・国有林野の民間貸付・使用の拡大

 

 グローバルなビジネス拠点の創設(=都市)、地方創生モデルの構築(=地方)のほか、公的資本の有効活用、社会保障改革の実験という、岩盤規制と深く関わる難題領域も含め、いくつかの前進がなされた。

 
 ただ、「今後2年で・・」という目標を考えれば、決して百点満点とはいえない。特に、

・「地方創生」の最大の切り札となるべき農業分野での改革(企業参入など)、

・成長分野への人材流動を促すための雇用制度改革の更なる前進、

・介護・医療・保育分野の改革、

など、十分に着手されていない領域も少なくない。

 
 まずは秋の臨時国会で決定された事項を処理しきるとともに、通常国会に向けて更なる取組が求められる。
 

 先週9月30日から10月2日、29日に行われた安倍総理の所信表明演説に対する各党代表質問が衆参両院本会議で行われ、国会論戦がスタートした。また、3日と6日には、衆議院予算委員会で基本的質疑も開催された。

 

*衆参両院の本会議や委員会での審議模様は、以下のページからご覧になれます。

衆議院インターネット審議中継参議院インターネット審議中継

     

【民主党がアベノミクス批判を展開】

民主党の海江田代表は、アベノミクスについて「企業がもうけるのが最優先の考え方だ。一時的な成長のために格差の固定化、拡大を容認する政策は国民の暮らしを守るという政府の責務を放棄するものだ」と批判した。また、急激な円安による物価上昇などはアベノミクスの副作用と指摘し、「中小企業の収益悪化や実質賃金低下にどう対処するのか」と迫った。民主党の前原議員も、名目賃金から物価変動の影響を除いた実質賃金が伸びていないことなど、マイナス面の経済指標を取り上げてアベノミクスの成果に疑問を呈した。

 

こうした民主党のアベノミクス批判に対し、安倍総理は、国内総生産(GDP)成長率が政権交代後にプラスに転じたことや、賃上げが過去15年で最高水準となっていることなどを示して「経済の好循環が生まれ始めている」と反論した。そのうえで、「成長戦略の確実な実施で、家計や中小企業にも広げていく」「政労使会議での議論を通じ、経済の好循環拡大に向けた環境整備を図り、賃金が毎年しっかり増えていく状況を実現していく」と述べた。

 

 

【野党が看板政策の問題点を指摘】

安倍総理が看板政策として掲げる地方創生については、民主党や維新の党などが「予算概算要求で、各府省は地方創生関連という特別枠をねらって縦割りの要求を行っており、方針が全く矛盾している」「相変わらずのお上意識で、中央から地方を見下ろす上から目線で地方創生をしようとしている」などと批判し、政府方針「バラマキ型の投資をしない」との整合性を追及した。

 

これに対し、安倍総理は、「従来の延長線上にない政策を実行する。地方に住みたい、子供を産みたいという国民の意欲を実現する」「地方の発意に基づく自主的な取り組みを国が後押しする」と強調し、地方へのバラマキとならないよう、事業を厳しく精査していくことを表明した。

また、地方創生の関連施策を着実に進めていくため、「地方のリーダーと意見交換の場を持つなど、地域の声に耳を傾けていきたい」と、安倍総理や石破地方創生担当大臣が参加して、地方自治体の首長と協議する場を設ける意向を示した。

 

女性の活躍推進については、民主党は「輝きたくても輝けない、生活に追われて苦しんでいる女性に、どのような施策を講じるのか」と、非正規雇用やシングルマザーなどの女性支援・貧困対策に具体策を示すよう要求した。みんなの党の行田女性局長も、社会的地位の高い女性に偏りがちな点を提起した。

 

 

【消費税率引き上げ是非:明確な答弁を回避】

来年10月から予定している消費税率10%に引き上げについて、野党側は、円安や消費低迷といった経済運営のマイナス面に焦点をあて、「消費増税できる状況にない」「アベノミクス失敗の引き金」(維新の党の江田共同代表)、「景気回復が遅れる現下の状況において、税率を上げる判断が正しいとは思えない」(次世代の党の平沼党首)、「景気対策と言うなら、増税凍結をしたらいかがか」(みんなの党の浅尾代表)などと牽制した。また、維新の党の松野議員は、消費税再増税の前提として国会議員定数の大幅削減など「身を切る改革」を先行させるべきとも主張した。民主党を除く野党各党は、消費税率再引き上げに反対で足並みをそろえている。

 

これに対し、安倍総理は「経済状況等を総合的に勘案しながら、本年中に適切に判断」「マクロ経済専門家による議論を早めにスタートしたい」と改めて表明し、12月の最終判断が縛られないようかわす答弁をし続けた。

景気悪化で税収増が見込めない事態に陥ることは絶対に避けなければならない点を強調したうえで、7~9月期の国内総生産(GDP)など経済指標や、燃料価格の高騰などの影響も踏まえるべく、冷静な経済分析を行って慎重に見極めたいとしている。また、今年4月の消費税率8%への引き上げに伴う景気腰折れを防ぐため実施した5.5兆円規模の経済対策について「どういう成果を上げたか分析したい」と、効果を検証する意向を示した。 

 

民主党の海江田代表は、「安倍政権とは異なる選択肢を国民に示す」と社会保障・税一体改革の自公民3党合意の破棄にも含みを持たせつつ、増収分2割相当を社会保障の充実にあてるよう確約を求めた。

安倍総理は、2015年度は1.8兆円強になるとの試算を示しつつ、消費税率引き上げ後も「2割程度を社会保障の充実に充てることとなる」と述べた。「国の信認を維持し、社会保障制度をしっかりと次世代に引き渡すためのもの」と説明し、子ども・子育て支援の充実、年金制度の改善などに振り向ける方針であることを強調した。

 

 公明党の井上幹事長が「予定通り実施できる環境整備を優先すべき」と発言し、生活必需品の税率を低く抑える軽減税率の導入を求めた。また、山口代表も「税率の引き上げ判断に際しては、必要に応じて補正予算の編成も含めた対策を講じる」よう求めた。安倍総理は、これらの点にも具体的な答弁を避けた。

 

 

【経済運営、雇用・労働改革にも言及】

 このほか、急激な円安進行や燃料費高騰などのコスト増が、地方経済や中小企業、消費者への悪影響が懸念されていることについて、安倍総理は「円高が行き過ぎれば、ものづくり企業は海外への移転を決断する。国内への設備投資を行わずに海外への設備投資を行うことになり、根っこから仕事がなくなるという問題もある」との認識を示した。

そのうえで、10月3日に経済産業省が発表した中小企業支援策などを念頭に適切に対応するとともに、「燃料価格の高騰を含め、経済の状況等に慎重に目配りしていく」意向を明らかにした。

 

派遣労働者の期間上限(最長3年)を事実上撤廃して条件付きで無期限派遣を認める労働者派遣法改正案に反対の民主党などが批判を強めている。これに対し、安倍総理は、「派遣労働者の正社員化を含むキャリアアップを支援するもので、非正規雇用を増やすのではない」「さまざまなニーズに応えていくための法律で、派遣労働者を増やすための法律ではない」などと反論した。

 また、労働時間に関係なく、成果に応じて報酬を払う新たな労働時間制度について、「長時間労働を強いられることがあってはならない」「対象となる勤労者の健康確保を前提として制度を構築できるよう関係審議会で議論を進めていく」と、過重労働などの弊害を招かないよう配慮する意向を示した。制度設計にあたって、(1)希望しない労働者には適用しないこと、(2)職務の範囲が明確で、高い職業能力を持つ人材に絞ること、(3)賃金が下がらないようにすることを挙げている。

 

 

【安全保障法制:臨時国会での論戦に応じる意向】

集団的自衛権行使の限定容認に向けた7月の閣議決定を踏まえての安全保障法制について、海江田代表は、安倍総理が所信表明演説で言及しなかった点を指摘して「見事に論議拒否の姿勢を貫いている。国民の理解が進まなくても国会で絶対多数だからかまわないという奢った態度」「国会の議論を先送りするやり方は立憲政治を根底から否定する」などと厳しく批判した。江田共同代表も、集団安全保障に積極的な自民党と、消極的な公明党の説明に齟齬がある点を指摘して、「看過できない」と指摘した。

 

これに対し、安倍総理は「議論拒否の発想は毛頭ない。臨時国会でもそれぞれの立場を国民の前に明らかにし、建設的な議論を行いたい」と反論し、野党との論戦に応じる姿勢を示した。そして、「国家国民のため、建設的な議論を行い、結果を出すことが私たち国会議員の使命だ。それぞれの立場を国民の前に明らかにしながら、建設的な議論を行っていきたい」と述べた。

 

新3要件に照らして武力行使を決める際、特定秘密保護法にもとづき判断の根拠が特定秘密に指定され、恣意的に隠される懸念もあることについて、安倍総理は「防衛出動、武力行使には、国会の事前・事後の承認が必要になる。そういう法律になっていく」と、現行法と同様、国会承認が必要との認識を示した。また、「政府として、ある事態が新3要件を満たすとの判断にいたった場合には、事実を含めた情勢認識などの情報を国会や国民に適切に公開していくことが極めて重要だ」とも述べた。

 

 

【地方創生2法案、9日にも審議入り方針】

政府が9月29日に国会提出した、地方創生の基本理念などを定める「まち・ひと・しごと法案」、および地域支援をめぐる各省への申請窓口を一元化するとともに、活性化に取り組む自治体を支援するための「地域再生法改正案」について、与党は、3日に開かれた衆議院議院運営委員会理事会で、関連2法案を審議する特別委員会の設置を9日の本会議で議決し、趣旨説明と質疑を行うことを提案した。特別委員会委員長には、地方行政に通じる鳩山邦夫衆議院議員(自民党)を充てる方針だ。

これに対し、野党各党は、特別委員会を設置する必要性そのものに疑問を呈している。このため、与野党で結論が出ず、今週中に再協議することとなった。

 

 石破地方創生担当大臣は「具体的に何がどうなるかを論戦で示したい」と述べているが、地方自治体の創意と自主性に委ねるのが政府の基本スタンスで、いまのところ浮上しているのは構想段階のものばかりで、具体的な施策が明らかとなっているわけではない。

政府内では、石破大臣を軸に検討作業がハイペースで進められている。石破大臣自ら地域の特色を生かした事業などに携わる民間企業やNPO関係者らと懇談したり、伊藤大臣補佐官を中心とする基本政策検討チームが、これまでの国の地域活性化策を検証して問題点を検証するべく、自治体や各府省へのヒアリングに着手したりしている。

 このほか、石破大臣は、まち・ひと・しごと創生本部の事務局に地域の経済・金融を専門に担当するチームを設置した。担当チームには、地方銀行などから金融実務に精通した人材を登用する方針だという。

 

このほか、地方創生を進める一環として、政府は3日、創業10年未満の中小企業から商品・サービスの政府調達を促進するため、政府調達での中小企業への配慮を定めた官公需法など3法を一括して改正する「中小企業需要創生法案」を閣議決定し、臨時国会に提出した。中小企業需要創生法案では、新規中小企業者との契約目標を政府が定めることなどを規定している。

 

 

【女性活躍推進:数値目標設定は義務付けへ】

 政府は、女性が働きやすい社会づくりに向けた雇用・職場環境の改善、出産・育児支援の強化など、来春までに実施する政策を集めた「政策パッケージ」を近く決定する予定でいる。また、政府は3日の閣議で、全閣僚で構成し女性活躍施策を検討する司令塔「すべての女性が輝く社会づくり本部」(本部長は安倍総理、副本部長は菅官房長官、有村女性活躍担当大臣)の設置を決めた。今月10日にも本部初会合を開く予定だ。

 

2日、政府は安倍総裁直属「自民党女性活躍推進本部」の初会合で、女性登用に積極的な企業への補助金付与や、専業主婦世帯に有利な税制・社会保障制度の見直しを検討する方向性などについて検討する「すべての女性が輝く政策パッケージ(骨子案)」を提示した。

骨子案では、「2020年までに指導的地位にある女性の比率を30%に高める」との政府目標の達成に向け、出産・育児で退職した女性の正社員採用の支援、切れ目のない妊娠・出産支援、小学生以上の子どもの一時預かり体制の拡充、テレワークの導入促進や妊娠・出産の不利益が起きない職場づくりなどに取り組むとしている。

 

 また、有村大臣は、臨時国会に提出予定の「女性の職業生活における活躍の推進に関する法律案」の概要を示した。同法案は、国や地方自治体に女性登用の数値目標を課す方針が明示されたほか、従業員301人以上の民間企業に対し採用者の女性比率や勤続年数の男女差、管理職の女用比率などを把握のうえ、女性の登用促進に向けた取り組み内容や実施時期をまとめた行動計画の策定・公表を義務付ける内容となっている。また、施行から10年間の時限立法とする方針も盛り込まれた。

 

 女性登用比率などの数値目標設定を企業に義務付けることをめぐっては、法案に義務規定を設ける方向で調整が進められている。9月30日、厚生労働大臣の諮問機関「労働政策審議会」は、経済界の慎重論に配慮して、数値目標の設定が「望ましい」としつつ「各社の実情に配慮が必要」と義務化に慎重な見解を示した報告書を、塩崎厚生労働大臣に提出した。ただ、政府内から進捗状況の把握や政策効果の検証を行うためにも義務化が必要との意見も踏まえ、各企業が実情に応じて数値や達成時期などを設定できるようにする折衷案でとりまとめていくようだ。

 

 

【法案審議入りをめぐる攻防にも注目を】

先週3日から衆参両院の予算委員会での本格論戦がスタートした。今週7日と8日には、参議院予算委員会で総括質疑が行われる。地方創生関連2法案が、早ければ9日にも衆議院本会議で審議入りとなる見通しだ。

安倍総理との対決色を強める野党は、衆議院予算委員会で、地方創生や消費税率引き上げ是非、安全保障法制、エネルギー政策、雇用政策などで安倍総理はじめ主要閣僚の認識を質すとともに、新閣僚の資質を問うべく、新閣僚に照準を合わせて政府方針とのズレをあぶり出そうと試みている。しかし、いまのところ新閣僚を窮地に追い込むには至っていない。

野党がどのように論戦を挑み、安倍総理や閣僚からどのような言質を引き出すのだろうか。引き続き与野党論戦を見極めつつ、法案の審議入りをめぐる与野党攻防もあわせてみておくことが大切だろう。

 

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