政策工房 Public Policy Review

霞が関と永田町でつくられる“政策”“法律”“予算”。 その裏側にどのような問題がひそみ、本当の論点とは何なのか―。 高橋洋一会長、原英史社長はじめとする株式会社政策工房スタッフが、 直面する政策課題のポイント、一般メディアが報じない政策の真相、 国会動向などについての解説レポートを配信中!

September 2014

高橋洋一・株式会社政策工房 代表取締役会長】 

 多くのマスコミは増税内閣というだろう。たしかに、消費増税の根拠となった3党合意の当事者である谷垣禎一氏が党幹事長になり、麻生財務相が留任である以上、12月に決める消費税増税について、政治的には増税の回避論議を封印した。谷垣幹事長は、年末の消費税引き上げの判断について、記者会見で「レールが敷いてある」と発言している。

 この見方は半分当たっているが、今回の党人事・内閣改造は、長期政権に向けた準備であり、その意味から、増税で景気を悪くすることはありえず、景気維持・回復の準備も怠っていないとみるべきだろう。

 もちろん、消費増税は、経済政策としては間違いだが、政治的には簡単にはひっくり返せない(下手をすると安倍下ろしになる)というのが、現実だ。

 実は、石破氏が無役になって、来年の総裁選に臨戦態勢になれば、消費増税スキップで年内解散・総選挙もあり得ると思っていた。しかし、最後の最後に石破氏がまったく腰砕けになり、地方創生担当相という内閣府大臣、つまり役人の人事権すらない大臣(人事権のある各省大臣より格下とみられている)におさまったので、わざわざ政治的なギャンブルをする必要がなくなった。

 もし政治的なギャンブルをすれば、どうなるか。
政権交代で長い間冷飯を食っていた自民党議員は、政権奪取のうまみを味わいたいので、消費増税を今かと待ち焦がれている。今年度予算は大盤振る舞いだったので、それなりに息がつけたが、政権交代の3年半の分はまだ取り戻していない。そこで、消費増税が予定通りできないと、困ってしまう。

 財務省を含め中央省庁の予算担当者も思わぬ余波を受ける。一応消費増税を前提として予算要求しているので、消費増税がスキップとなれば、年末の忙しい時期に、予算のやり直しになりかねない。消費税増税を見込むとは、機械的な手続きではなく、要求は気前よくやっていいというのが、役人の間で暗黙の了解なので、それをご破算にされたら、役人の間で大騒ぎになるだろう。

 各地方の自治体も割を食うことになるだろう。今回の地方創生大臣がでてき、地方へのバラマキがあると期待していたにもかかわらず、それもストップするだろう。なにより、新たな地方創生大臣になった石破氏の仕事がなくなるので、いったん矛を収めた石破氏が再び暴れ出すかもしれず、自民党のまとまりがなくなってしまう。

 経済界も法人税減税がお預けにある。というのは、消費増税と法人税減税はセットで語られるので、法人税減税もスキップされることなる。

 新聞業界も消費増税がスキップされると大変だ。というのは、新聞業界は軽減税率に賛成し、その実現を財務省に求めてきている。それは消費増税が前提である。今のところ、財務省もしたたかで、軽減税率に難色を示している。そこで、消費増税がなくなれば、軽減税率は自動的になくなる。それでは、ただですら購読部数が減少して経営難になっている新聞業界はさらに経営が難しくなる。

 石破氏を政治的に鎮圧した以上、安倍首相がこれらの政治リスクを引き受けるはずないと考えるのが合理的だろう。

 政治はポリティカル・キャピタルをどこに投入するかということであるので、社会保障改革のほか消費増税で後ろ向きな話は、谷垣幹事長の党で引き受けてもらうことにする。その一方、消費増税で景気が落ち込むので、それへの対策は、安倍政権がフリーハンドを持つようになり、かなりの規模の経済対策ということになる。おそらく、ある時点で、金融緩和と景気対策になるだろう。

 この改造内閣は、消費増税のほか、TPP、安全保障という当面の課題を処理するためにはうまくできた内閣だ。ただし、総選挙という顔ぶれではない。小渕優子経産相のような次期総選挙の顔になるような閣僚も含まれている。この意味で、ショートリリーフ的な内閣だが、長期政権へのテストも含む布陣だ。各閣僚はその実績を競争させられる。その際、新閣僚が今度新設される大臣補佐官に民間人を含め誰を選ぶかがカギになるだろう。

 先週8月29日、財務省は、来年度予算に係る各省庁からの概算要求を締め切った。一般会計における要求総額は約101.7兆円と過去最大になった。

国債の利払いなどに充てる国債費が25.8兆円(今年度当初比11%増)と増加傾向にあるほか、年金や医療費などの社会保障費が約31.7兆円(今年度当初比3%増、高齢化に伴う自然増は8155億円)に膨らんだ。公共事業関係費は、地方創生や成長戦略、防災・減災、インフラ老朽化対策などの名目で要求しており、6.1兆円(国土交通省、今年度当初比16%増)となった。防衛費は、中国の海洋進出など日本を取り巻く安全保障環境の悪化を反映して、5兆円(今年度当初比3.5%増、米軍再編などの地方負担分含む)となった。地方創生や成長戦略などに重点配分する「新しい日本のための優先課題推進枠」(上限3.9兆円)についても、要求額がほぼ上限に達した。

今後、財務省が概算要求の査定を本格化させる。歳出圧力が強まるなか、年末の政府予算案の閣議決定に向け、財務省と各省との間で攻防が繰りひろげられていくこととなるだろう。

 

 

 急激な人口減少と超高齢化、地方経済の低迷などの課題に対応するため、省庁横断的に地域振興策を策定する「まち・ひと・しごと創生本部」(本部長:安倍総理、副本部長:官房長官、地方創生担当大臣)の立ち上げを前に、地方自治体首長や経済界、学者などの有識者から地方対策や人口問題について直接意見を聴くための懇談会を26日と27日に開催した。会合には安倍総理のほか、麻生副総理兼財務大臣、菅官房長官ら9閣僚が出席した。

 安倍総理は「経済政策の成果を全国隅々まで届け、人口減少、超高齢化社会という構造的な問題に正面から取り組んでいく必要がある。地域の特性に配慮しながら、地域の課題を解決する」「人口減少や超高齢化は地方でより緊急かつ深刻な問題だ。若者たちが将来に夢や希望を持てる、誰もが安心して暮らせる地域づくりに本腰を入れて取り組んでいきたい」と述べ、全力で取り組む考えを示した。

有識者からは、地方の危機感が示されたほか、結婚・出産、育児へのサポート強化などの具体的対策、縦割り行政の撤廃などが提言された。政府は、ヒアリング結果を踏まえ、3日の内閣改造後に発足する創生本部で具体的な検討に入るという。

 

 

 内閣改造・自民党役員人事をめぐっては、26日の自民党役員会で、安倍総理・総裁が9月3日に内閣改造と党役員人事を行う方針を表明した。当初、党役員人事を2日に行う意向だったが、外交日程があることや、人事調整が難航する可能性も想定して、2日に党執行部の辞表を取りまとめたうえで党総務会にて党人事の一任を取り付け、翌3日の党総務会で新役員の了承を取り付けて発表することとした。副大臣・政務官人事は、4日にも終える方向で検討している。

 

焦点となっていた石破幹事長の処遇をめぐっては、29日、安倍総理が石破茂幹事長と会談した。安倍総理が幹事長交代と新設する安全保障法制担当大臣への就任を求めていることに対し、石破幹事長は、担当大臣就任を固辞するとともに幹事長続投を希望する発言を行ってきた。これに安倍総理が石破氏を無役とすることも辞さない姿勢をみせ、両者の亀裂はより深まっていた。

ただ、会談を前に安倍総理が、挙党態勢を維持し安定した政経運営を行うためにも、石破氏を新設する地方創生担当大臣兼総務大臣など他の重要閣僚で処遇する方向に傾いた。また、石破サイドも、自民党内で「石破氏の発言は安倍総理の人事権侵害だ」との批判が噴出していることも踏まえ、安全保障法制担当大臣以外であれば入閣要請を受け入れる意向を示した。石破幹事長は、このまま入閣を拒んで党内亀裂が生じることとなれば、孤立を深めていくことになりかねないことも危惧したようだ。

会談後、石破幹事長は「組織人として首相の決定には従う」「首相との間で亀裂が走ったことなどは一切ない。政府を全力で支える」と述べ、3日の内閣改造時に入閣要請があれば受け入れる考えを表明した。これにより、幹事長交代と石破氏入閣が濃厚となった。

 

焦点は、後任の幹事長人事に移った。細田博之幹事長代行が浮上している。安倍総理は、現在の党四役体制(幹事長・総務会長・政調会長に、選対委員長を加えた体制)から「三役体制」に戻す方針で、これにより河村建夫選対委員長が退くことになる。このことから、河村氏も幹事長候補として挙がっている。

 党役員人事では、高村副総裁の留任が決まっており、新政調会長には稲田行政改革担当大臣、新総務会長に二階俊博衆議院予算委員長らが有力視されている。また、谷垣法務大臣を党要職で、小渕優子衆議院議員を閣僚または党要職で処遇する方向で検討されている。

 

 閣僚人事では、これまでに菅官房長官、麻生副総理兼財務大臣、岸田外務大臣、公明党の太田国土交通大臣の留任がほぼ確定した。甘利経済再生担当大臣や下村文部科学大臣も留任させる方針だという。

また、高市政調会長が経済産業大臣などで入閣が有力視されているほか、新設の安全保障法制担当大臣に安全保障に精通する江渡聡徳衆議院安全保障委員長が防衛大臣との兼務で、復興担当大臣に大島前副総裁・党東日本大震災復興加速化本部長が環境大臣との兼務で起用されるとみられている。江渡議員は、集団的自衛権行使の限定容認について政府・与党内でとりまとめた高村副総裁と調整にあたっていたこともあり、自民党内からも適任との声がでている。

 このほか、北朝鮮拉致問題に取り組んできた山谷えり子参議院政審会長を拉致問題担当大臣に、環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)対策委員長として党内の集約に尽力し、農協改革でも党内や業界団体との調整に奔走した西川公也衆議院議員が農林水産大臣に起用する方向で調整が進められているようだ。

 

 

 今週、安倍総理は内閣改造・自民党役員人事を断行する。どのポストにどのような人材を配するのだろうか。そして、安倍総理は内閣改造人事のねらいをどのように説明するのだろうか。今後の政策的方向性について把握するためにも、安倍総理の説明と閣僚らの陣容を見極めることが大切だ。


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