政策工房 Public Policy Review

霞が関と永田町でつくられる“政策”“法律”“予算”。 その裏側にどのような問題がひそみ、本当の論点とは何なのか―。 高橋洋一会長、原英史社長はじめとする株式会社政策工房スタッフが、 直面する政策課題のポイント、一般メディアが報じない政策の真相、 国会動向などについての解説レポートを配信中!

September 2014

 今週29日、第2次安倍改造内閣発足後、初めての国会となる第187臨時国会が召集された。

  *衆参両院の本会議や委員会での審議模様は、
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【臨時国会の日程をめぐって】

24日に開かれた衆議院議院運営委員会理事会で、臨時国会の日程について協議した。与党側は、安倍総理の所信表明演説に対する各党代表質問を翌30日から10月2日に衆参両院本会議で行い、安倍総理はじめ全閣僚が出席する予算委員会を10月3日と6日に衆議院で、7日と8日に参議院で開催する案を、野党側に打診した。民主党など野党は慣例通り所信表明から1日空けるよう主張したため、結論は持ち越しとなった。

一方、野党側は、25日に国対委員長会談、幹事長・書記局長会談を開催して、(1)政府・与党が提示した臨時国会の会期11月30日までの63日間は「十分な審議を行ううえで不十分」との認識で一致したほか、(2)与党側の打診は日程として窮屈なものであり、質疑時間を十分確保して充実した審議を行うよう与党側に申し入れること、(3)各党代表質問は10月1日から行うべきだとして反対することについて確認した。

野党各党の一任を取り付けた民主党は、26日、自民党・公明党と国対委員長会談を行って、国会日程について協議した。この結果、与党側の打診を受け入れる代わりとして、衆議院予算委員会での集中審議を10月中に開催することで折り合った。

 

 

【安倍総理、経済最優先を改めて表明】

開会日29日、安倍総理は、衆参両院本会議で所信表明演説を行った。

 *安倍総理の所信表明演説(官邸)

 安倍総理は、「成長戦略を確実に実行し、経済再生と財政再建を両立させながら、経済の好循環を確かなものとする」「景気回復の実感を全国津々浦々に届けることが、安倍内閣の大きな使命」と、今年4月の消費税率8&への引き上げや燃料価格の高騰などによる景気への影響にも慎重に目配りしながら、引き続きデフレ脱却に取り組んでいく決意を示して、経済最優先の政権運営を行う姿勢を改めて強調した。

そして、地方の豊かな個性をいかすとともに、女性が活躍しやすい社会環境の整備を進めることで、まだまだ成長できるとして、こうした政策実現に全力を挙げていく方針を表明した。

 

臨時国会を「地方創生国会」と位置づける安倍総理は、「人口減少や超高齢化など、地方が直面する構造的な課題は深刻だ」と訴えた。そして、「大きな都市をまねるのではなく、個性を最大限にいかしていく発想の転換が必要」「若者こそが危機に歯止めをかけるカギ」などと強調したうえで、若者にとって魅力のある町づくり・人づくり・仕事づくりを進めるため、まち・ひと・しごと創生本部を創設して「これまでと次元の異なる大胆な政策を取りまとめ、実行していく」と表明した。

魅力的な町づくりや新事業に挑戦しやすい環境の整備を進めるため、政府調達での地方ベンチャー企業優遇や、融資基準の見直しなど具体策を講じていくとしている。また、地方を軸とした観光立国をめざして、増加傾向にある外国人観光客をさらに増やすべく、ビザ緩和や免税店の拡大などに戦略的に取り組んでいく考えを示した。

 

成長戦略の柱の一つに据えている「女性の活躍」については、「女性の活躍は社会の閉塞感を打ち破る大きな原動力となる」「改革すべきは社会の意識そのもの」と訴え、国・地方・企業が一体となって、女性が輝く社会を構築するよう呼びかけた。上場企業に女性役員数の公開を義務付ける制度を導入する方針などを明らかにした。

また、安倍総理は、農業・雇用・医療・エネルギーなどの岩盤規制改革にも、国家戦略特区を突破口に2年間であらゆる岩盤規制を打ち抜きたいとして、果敢に挑戦する決意を述べた。創業や家事支援などでの外国人労働者受け入れ促進・環境整備や、多様な価値に対応した公教育など改革メニューの充実を図るとともに、特区制度のさらなる拡充を進めるという。

 

当面の最大焦点である消費税率10%に引き上げるか否かについては、12月8日発表の「7~9月期国内総生産(GDP)2次速報値」などを見極めたうえで判断する方針だが、所信表明演説での言及は避けた。急激な円安進行や燃料高騰などの懸念要因が顕在化しつつあるだけに、臨時国会冒頭からの争点化を回避したい思惑があるようだ。

 

 

【復興加速、原発再稼働、災害に強い国づくりへ】

東日本大震災から復興については、除染加速で福島再生を成し遂げるとともに、農地の集積・多角化・6次産業化で農業者の所得を増やして地域のにぎわい創出、仮設住宅への巡回訪問など精神ケアも重視した支援などを進めていく考えを示した。

原子力規制委員会により安全性が確認された原発については、再稼働に向け、立地自治体をはじめ関係者の理解を得るべく丁寧な説明を行って、避難計画の充実支援などに取り組むと述べた。その一方で、徹底した省エネルギーと再生可能エネルギー導入で、できる限り原発依存度を低減させていくとしている。

 また、全国各地で甚大な被害が発生していることを踏まえ、土砂災害警戒区域の指定や国民への情報提供が、より万全な体制で行えるよう制度の見直しを進めるとともに、災害時に救助活動に支障を来しかねない放置車両を移動できるよう災害対策基本法を改正するという。また、インフラ整備、避難計画の作成・周知、訓練実施など、国土強靱化も図るとしている。

 

 

【中国・韓国との関係改善をめざす】

 外交面では、引き続き「地球儀を俯瞰する外交」「積極的平和主義」を、より積極的に展開していくスタンスを述べた。環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)交渉、EUや東アジアとの経済連携協定(EPA)交渉など戦略的に進めていくという。

懸案となっている中国、韓国との関係改善への決意を新たにした。日中関係では、経済的な結び付きを重視した戦略的互恵関係を発展させ、安定的な友好関係を構築していくことをめざしていくと述べた。習近平国家主席との日中首脳会談を、11月に北京で開催されるアジア太平洋経済協力会議(APEC)を念頭に早期に実現する意欲を示している。日韓関係については、韓国を「基本的な価値や利益を共有する最も重要な隣国」と位置付け、「関係改善に向け、一歩一歩努力を重ねる」と表明した。

 沖縄基地問題については、現行の日米合意に従い、抑止力を維持しつつ、沖縄の基地負担軽減に向けて取り組む決意を示した。集団的自衛権行使の限定容認を含む7月の閣議決定を踏まえた安全保障法制整備については、「切れ目のない安全保障法制の整備に向けた準備を進める」と述べるにとどめた。

 

 

【地方創生関連2法案を国会提出】

政府は、安倍総理が看板政策に掲げる「地方創生」や「女性活躍」に関する推進関連法案をはじめ、約30本の法案が臨時国会に提出予定でいる。

 

 政府は、29日、地方創生の基本理念などを定めた「まち・ひと・しごと創生法案」と、地域支援をめぐる各省への申請窓口を一元化するとともに、活性化に取り組む自治体を支援するための「地域再生法改正案」を閣議決定し、臨時国会に提出した。まち・ひと・しごと創生法案は、総理大臣が本部長を務める「まち・ひと・しごと創生本部」を司令塔として法制化するとともに、地方創生の目標や施策の基本的方向を示す「総合戦略」策定、都道府県と市町村にも総合戦略を踏まえて地域の実情に応じた基本計画の策定を求めることなどが明記されている。

 

女性の活躍を後押しする「女性活躍推進法案(仮称)」については、出産や育児、女性の職場環境の改善などに関連する政策パッケージをとりまとめ、法案化を急いでいる。

また、24日に開かれた厚生労働大臣の諮問機関「労働政策審議会」分科会で、女性の登用状況についての情報開示を企業に義務付けるとともに、目標達成に向けた行動計画の策定を求める方向で一致した。厚生労働省は、10月上旬までに議論をまとめ、関連法案を国会提出する方向で進められている。

ただ、経済界や企業経営者らの強い反発を受けて、開示義務の対象から従業員300人以下の中小企業を外し、大企業に限定されることとなった。また、女性管理職の登用比率の公表や目標設定も企業に義務づけない方向で答申案をまとめるようだ。現状の情報開示については、女性の管理職比率や採用比率など複数項目から企業に選択する方向で検討されている。

女性管理職比率の公表が義務づけられなくなることで、女性登用がどの程度進むのかが見通せなくなる恐れも指摘されている。安倍内閣は「2020年までに女性管理職を3割に増やす」との目標達成を掲げているが、女性管理職比率の公表義務づけについて政府としてどのように判断を下すのかが注目ポイントとなるだろう。

 

このほか、臨時国会では、

・安倍総理が所信表明演説で言及した「土砂災害防止法改正案」

・創業10年未満の中小企業の商品・サービスの政府調達を促進するため、

官公需法など3法を一括して改正する「中小企業需要創生法案」

・通常国会で継続審議となった「特定複合観光施設整備推進法案」(議員立法)

・通常国会で廃案となり、政府が再提出する予定の「労働者派遣法改正案」

・テロリストなど国際連合安全保障理事会決議などに基づく資産凍結対象者の国内金融取引などを規制して資産凍結も可能にする法案

などが審議される予定となっている。

 

 

【各党代表質問に注目】

政府・与党は、「地方創生」「女性活躍」を全面に打ち出す一方、与野党対決が不可避とみられる法案提出をなるべく控えるとともに、消費税率10%への引き上げ是非の判断を臨時国会閉会後に行うなど野党の追及を封じることで、無難に臨時国会を乗り切りたい考えだ。

これに対し、野党側は与党との対決姿勢を強め、存在感を示そうとしている。民主党は、執行部を一新して、消費税率10%への引き上げに伴う増収分の使途、アベノミクスの国民生活や景気に与える影響、労働・雇用政策、安全保障などについて徹底追及したい考えだ。野党色を強める維新の党は、消費税率10%への引き上げに反対、審査制度に欠陥がある以上原発再稼働は容認できないとの立場から追及する構えで、安全保障法制も重要テーマと位置付けている。

 

30日から3日間、衆参両院本会議で安倍総理の所信表明演説に対する各党代表質問が行われ、いよいよ国会論戦がスタートする。野党各党はどのようなテーマで論争をしかけ、安倍総理はどのような答弁を行うのだろうか。どのような臨時国会になるかを見極めるためにも、序盤でどのような与野党論戦が繰りひろげられるのかを抑えておくことが重要だ。
 

【山本洋一・株式会社政策工房 客員研究員】

 国会議員たちの長い夏休みが終わり、29日から臨時国会が始まる。審議が予定される法案の中で、最も注目されそうなのがカジノの国内解禁に向けた「統合型リゾート(IR)整備推進法案」だ。与党内でも賛否両論が渦巻いており、党派の壁を超えた激しい議論が予想される。

 与野党のカジノ推進派議員は昨年の臨時国会にIR法案を提出。通常国会では本格的な審議まで辿り着かず、臨時国会への宿題として残った。臨時国会は重要法案が少なくなる見通しのため、官民問わず、成立への期待が高まっている。

 ただ、法案を提出したのは超党派で作る議員連盟。与党内でも意見がまとまっているわけではない。自民党内にも慎重派はいるし、公明党内には反対派議員が多い。民主党などその他の野党でも賛否が割れており、いざ採決となった場合には各党が党議拘束を外す可能性がある。

 党議拘束とは、国会で議案を採決する際に、党が「賛成」「反対」の方針を決め、全議員に方針に従うよう求めること。米国ではほとんど適用されないが、日本の場合はこの党議拘束が非常に強い。各政党は基本的にほぼすべての案件で党議拘束をかけ、違反すれば罰則の対象となる。

 全議員が出席する本会議の前には「代議士会」(衆議院の場合)を開き、国対幹部が議案の賛否を確認するのが習わし。「このA法案は賛成で、B法案は反対、C法案は棄権です」というように、丁寧にレクチャーするのだ。それでもたまに間違える議員がいるのだが。

 かつて各党が党議拘束を外した、珍しい例が2009年の臓器移植法改正だ。

 以前の臓器移植法は、移植元の対象年齢を15歳以上と限定していた。そのため深刻な病を抱えた幼い子どもに合う臓器が国内で見つからず、臓器を求めてアジアなどに出向く例が多かった。このことが海外から「日本人が臓器を買いあさっている」と批判され、対象年齢の引き下げが課題となっていた。

 しかし、脳死となった子どもの臓器を摘出し、息の根を止めることには根強い反対がある。家族の判断で心臓が動き、体もあたたかい子どもを「殺して」しまっていいのかーー。反対意見の中には「臓器を売るために子供を虐待し、脳死に追い込む親が出るのではないか」といった声もあった。

 こうした問題に、明確な「答え」はない。それぞれの死生観や宗教観、倫理観によって様々な正解がありうるだろう。各政党内でも賛否が割れ、最終的に推進する立場のA案や慎重な立場のC案、中間派のB案、折衷案のD案という4つの案に収束された。そして棄権した共産党を除く各党は党議拘束を外し、全国会議員が自由な立場で採決に臨んだ。

 2009年6月18日、今も忘れないが、本会議場は緊張感に包まれていた。マスコミの事前調査では態度を明確にしない議員が多く、採決の行方は読めなかった。各議員は自分の持つ1票で結果が変わるかもしれないと考え、苦悩の表情を浮かべながら投票に向かった。記者席にいた私も、その様子を固唾を飲んで見守った。

 結果はA案が賛成263票、反対167票、棄権56票で可決。残る3案はすべて否決された。参院でも党議拘束を外した採決でA案が可決し、成立。2010年に施行され、幼い子どもたちへの臓器移植の道が開けた。

 採決結果はともかく、あの時ほど国会議員が一つの法案に向き合った瞬間を私は知らない。普段は投票行動が党によって決められているので、半ば適当に票を投じる議員が多いのだ。特に与党は政府が提出した法案にすべて賛成するからなおさらである。ここに国会改革のヒントが隠されているのではないか。

 政局につながるような対決法案はともかく、一般的な「軽い」法案であれば、党議拘束を外して採決してみてはどうか。議員提出法案も自由投票に適しているだろう。投票行動を支持されなければみんな、真剣に考える。そうでなければ有権者にも行動理由を説明できないからだ。

 与党による「事前審査」制度も再考の余地がある。事前審査とは政府が法案などを国会に提出する前に、与党の政策調査会などで議論すること。これを通ったものは与党が「お墨付き」を与えたことになり、国会の審議で賛成する理由となる。逆に与党がお墨付きを与えたものに、与党議員が反対するのは論理矛盾となってしまう。

 そのことが国会における審議を空洞化させている。最初から結論が決まってしまっているので、与野党ともに真剣に議論しないのだ。国会審議を活性化させ、国民のために議論するようにするには、与党の事前審査と党議拘束のあり方を見直さなければならない。

 さて、IR法案の行方やいかに。

原英史・株式会社政策工房 代表取締役社長】 

 国家戦略特区に関して、今週は、「関西圏」「福岡市」の区域会議が相次いで開催された(9月24日、25日)。

 
 区域会議には、新たに特区担当大臣となった石破大臣ほか政府関係者、関係自治体の知事・市長らのほか、筆者も国家戦略特区WG委員として参加した。会議を通じ、大きな課題として浮かび上がったのが、「区域会議」という枠組みの強化の必要性だ。

 
 区域会議は、国(担当大臣)、自治体(首長)、民間の3者で構成し、いわば特区のミニ独立政府として制度化したものだ。今春の6区域の指定を受け、順次立ち上げが進み、6月以降本格稼働に入っている。だが、この区域会議が、まだ必ずしも十分に機能しきれていない。

 
 特に関西圏の区域会議では、国・自治体・民間の3者の間での問題意識の共有、課題整理が十分になされておらず、議論がかみあわない場面が散見された。

 
 会議の場でも議論になったが、ミニ独立政府として機能させるためには、月に1回、関係者が集まって会議するだけでは到底無理で、しっかりした事務局体制が必要だ(これは役所組織を新たに膨張させようという話ではなく、国・関係自治体などから人員を集めつつ、共通の事務局として機能させることが重要だ)。

 

 
 これと関連して、大阪市議会で特区事業(旅館業法の特例により、賃貸住宅等を宿泊用に活用する事業)関連の条例が否決され、事業がストップしたことも話題となった。

 
 この事業に関しては、特例対象となる宿泊日数の下限(7-10日)を条例で定めることになっていたが、条例審議の過程で、周辺住民対策などへの対処が問題とされ、条例否決。その結果、特区事業そのものがストップされたものだ。

 
 大阪市議会では、これ以外でも市長提案がなかなか通らない状態・・という政治の事情はさておき、この問題は実は特区制度の本質にも関わる。

 
 国家戦略特区は、規制改革を地域限定で実験的に行うものであり、実験的に講ずる特例措置は国家戦略特区法の中で規制改革メニューとして定め、これを各区域では区域会議(国・地方・民間)のもと国・地方・民間が一緒になって実行する、という仕組みだ。

 
 今回の事態は、国会ですでに議論された規制改革メニューについて、地方議会でいわば否定されたわけだが、プロセス論として、こうした形で、国・地方の議会で二重・三重に改革メニューの是非を審議していたのでは、国家戦略特区の本質、すなわち「規制改革の実験」をスピーディに進めるということからはかい離しかねない。

 
 区域会議を機能強化しつつ、国会、地方議会、区域会議が特区でそれぞれどのような役割を果たすのかについても、特区制度の目的・本旨にそって、さらに整理を進めることが課題だ。

 
 

 秋の臨時国会では、追加の規制改革メニューを定めるべく(6月の改訂成長戦略で定められた、外国人就労資格、公設民営学校など)、国家戦略特区法改正が提出される見通しだ。あわせて、区域会議の機能強化を十分に実現していけるかどうか。国家戦略特区の正念場だ。

  

 先週19日、政府は持ち回り閣議で、今月29日に臨時国会を召集することを決定した。そして、同日、衆参両院の議院運営委員会理事会に菅官房長官が出席して、29日の国会召集を正式に伝えた。臨時国会の会期を11月30日までの63日間とし、召集日29日に安倍総理が所信表明演説を、翌30日~10月2日に衆参両院本会議で各党代表質問を行う案を示したという。
 当初、政府・与党は、12月6日までの69日間で調整していたが、来年度度予算編成のほか、2015年10月に消費税率10%へ引き上げるかどうかの判断を12月上旬に行うことなどを考慮して、日程上の余裕を持たせる判断をしたようだ。

 

 

 政府は18日、地方創生の観点から、8月末までに各府省が提出した来年度の予算概算要求を全般的に見直す方針を決めた。概算要求は、第2次安倍改造内閣発足後の人口減少対策や地域活性化策に関する方針が明確に反映されていないことや、複数の省が類似事業への予算要求、バラマキへの懸念なども指摘されている。このことから、政府は、省庁横断的に地域振興策を策定する「まち・ひと・しごと創生本部」(本部長:安倍総理、副本部長:菅官房長官、石破地方創生担当大臣)で12日に決定した基本方針に基づき、地方創生などに重点配分する「新しい日本のための優先課題推進枠」(約3.8兆円)を中心に概算要求を見直すこととした。予算のムダ排除や効果性の高い政策への重点配分などの予算精査を要求官庁に要請し、必要に応じて再提出も求めるという。

 

 19日には、地方創生策について関係閣僚が有識者と意見交換するため、創生本部の下に発足した「まち・ひと・しごと創生会議」(議長:安倍総理)の初会合が開催された。会合では、有識者から人口減少の抑制や東京一極集中の是正のため、企業経営に精通した人材を地方に呼び込むしくみや、地方の雇用対策、地方大学の魅力向上策などの意見が出された。石破地方創生担当大臣は、これまでの地域活性化策や少子化対策について検証するチームを創生本部事務局に設ける意向を示した。創生会議メンバーの有識者らを招いて、省庁間の縦割りなどの問題点などを洗い出すほか、自治体関係者からもヒアリングを行っていくという。

 10月に有識者会議で論点整理を行い、創生本部がそれをもとに50年後に人口1億人程度を維持するための「長期ビジョン」と、今後5年間に実施する「総合戦略」を年内に取りまとめて決定する予定だ。予算査定基準となる総合戦略づくりが開始されたが、今後、予算獲得を狙う各省との綱引きが展開されていくこととなりそうだ。

 

 

消費税率10%への引き上げ判断について、菅官房長官は、20日、消費税率8%への引き上げで後退した景気の回復状況について示す「7~9月期国内総生産(GDP)2次速報値」<12月8日発表予定>を見極めたうえで、安倍総理が12月上旬にも最終判断するとの見通しを示した。11月17日発表の7~9月期GDP速報値を待たずに、マクロ経済分析の専門家など有識者による集中点検会合を開始して、消費税率引き上げ時の必要な処方箋も含め、再増税の是非について徹底的な議論を重ねていくという。

 

安倍総理は、「引き続きデフレ脱却を目指し、経済最優先で取り組んでいく」と重ねて表明し、「増税により景気が悪化し、税収もままならなくなるようでは元も子もない。7~9月期に経済がどの程度回復軌道に乗るか、注意深く見ていく必要がある」と慎重に見極めて判断する姿勢をとっている。

ただ、政府・与党内からは、予定通りの消費税率を10%に引き上げるべきとの声が上がり始めている。谷垣自民党幹事長が、来年10月の消費税率引き上げは既定路線であり、必要な経済対策を講じたうえで実施すべきとの認識を示したほか、麻生副総理兼財務大臣らも再増税に積極的な立場をとっている。財政制度等審議会財政制度分科会で、消費税引き上げは不可避との前提にたって、2015年度に国・地方の基礎的財政収支赤字を対GDP比で2010年度から半減させるなどの財政再建目標を順守すべきとの声が委員から相次いだ。消費税率引き上げ時には大型補正予算を編成し、来年の通常国会で成立をめざすことが、政府・与党内で検討されているようだ。

 消費税率10%への引き上げ是非は、臨時国会で主要争点の一つになる見通しで、政府・与党関係者の動向のほか、与野党論戦も注視していくことが大切だ。

 

 

 来週には臨時国会が召集される。29日には安倍総理の所信表明演説が行われる。安倍総理は、デフレ脱却と経済再生への道筋を示すことを最優先で取り組む決意を改めて示しており、臨時国会を「地方創生国会」と位置付ける。人口減少・地方対策を進める地方創生関連法案の処理を最優先で取り組んでいく方針だ。こうした点も踏まえ、安倍総理が所信表明演説でどのようなことを語るのかについて見定めることが重要だろう。
 


高橋洋一・株式会社政策工房 代表取締役会長】 

 今、スコットランドの独立問題が話題だ。
918日の住民投票を前に、イギリス公共放送BBCを見ると、この話題で持ちきりだ。

投票の調査によれば、独立賛成か残留維持も拮抗していて、予断を許さない。

かつて、1995年にカナダのケベック州でも、独立か否かの住民投票があった。事前の調査では独立に賛成のほうが若干多かったが、最終的な投票では残留維持がわずかに上回った。今回のスコットランドも、エリザベス女王の「懸念」発言やキャメロン首相らの必死の説得工作で、残留維持になるのではないかという希望的な観測もある。

 

そもそもイギリスとはどういう国か。イギリスはイングランド、ウェールズ、スコットランド、北アイルランドという四つの「国」から成り立っている。サッカーのワールドカップ予選では、それぞれが参加し、本大会には、イギリスではなくイングランドが参加している。

このあたりの事情は、実際にイギリスに行ってみるとよくわかる。筆者はかつてワールドカップ期間中にイギリス・ロンドンに滞在していたことがあり、そのときスコットランドにも行ったが、そこで、ワールドカップに参加しているのはイングランドのチームでスコットランドではないことを留意し、軽々しくイギリス(ブリティッシュ)と言わないように、と友人から注意された。

 

今のイギリス国旗には、イギリスの複雑な歴史が刻まれている。イングランドは白地に赤十字、スコットランドは青地に白クロス、アイルランドは白地に赤クロス。これらを合わせて、今のイギリス国旗が出来ている。

筆者がスコットランドの独立問題に注目するのは、地方分権の観点からだ。地方分権を理論的に支える経済学の「分権化定理」では、市場メカニズムが官僚制による資源配分に対し基本的には優れているように、中央集権より地方分権のほうが効率的になっている。ただし、この場合、国防、財政政策や金融政策は国でやることが前提である。

 

こうした観点から、政府の役割は、民で出来ることは民がやり、残りを政府が引き受ける。その上で、地方政府で出来ることは地方政府が行い、残りは中央政府が行う、というニア・イズ・ベターの原則が出てくる。

 だが、実際のイギリスをみると、資本主義経済発祥の地なので「民が出来ることは民でやる」はかなり徹底しているが、政府内の役割分担では、地方政府の出番はほとんどなく、ほとんど中央政府なのだ。

イギリスは地方分権がほとんどなく、世界でも希な中央集権の国だ。イギリス以外のアングロサクソンの国では地方分権が進んでいるが、イギリスだけがまったく違うのには、地方分権の各国比較を勉強していると、ちょっと驚いてしまう。実際、イギリスに行くと、地方議会も地方税もほとんどない。各地方自治体はほとんど中央政府からの補助金で運営されている。地方税がないので課税負担を決める住民代表の議会も不要というわけだ。

 

ただ、ブレア政権になって、地方分権の動きが出て、スコットランド、ウェールズ、北アイルランドに地方議会を作った。これがスコットランドにもともとある独立機運を高めることになった。

スコットランドの独立を求める声が大きいのは、若い層と比較的貧しい層だ。いわゆる経済的弱者がそのはけ口がなく、独立運動へと駆り立てている。

 

こうした状況は、筆者から見ると、地方分権を強制的に押さえつけてきて、地方経済の運営がうまくいかなかった、そのひずみが独立運動へ転化してきたものとみえる。

 

しかし、地方分権が進んでこなかったので、行政インフラも未整備だ。スコットランドに地方税はほぼなく、中央政府からの補助金に地方財政は9割方依存している。またスコットランドの地方債は、中央政府へのものであると推測できる。このため、もしスコットランドが独立すれば、従来の中央政府からの借入額分、今の中央政府が抱える国債との債務の交換がなされるだろう。となると、そもそも税収基盤がないうえに、債務を負うわけなので、スコットランドにはただちに財政危機が訪れるかもしれない。

 

もちろん、スコットランドが独立すれば、中央政府からの支援は受けられなくなるその代替財源としては北海油田をスコットランドの支配下にして、その石油代金を当て込んでいるようだ。だが北海油田も先細りなので、将来のスコットランドの国家運営は容易でない。スコットランド領土内にある核施設の管理も悩ましい問題だ。

 

独立すれば、通貨も自前になる。英ポンドは、イングランド銀行が発行している通貨であるが、実はイングランドとウェールズにおける法定通貨であって、スコットランドの商業銀行であるスコットランド銀行等も、歴史的には通貨を発行できる。このため、スコットランドにも独立したら新通貨を発行できる仕組みはある。だが、実際に金融政策を行うノウハウはない。このため、独立派は、イングランド銀行を共通の中央銀行とした通貨同盟を結ぶ、という虫のいい主張をしている。

 

こうした予想される将来のごたごたを避けるために、スコットランドからの資本逃避があるだろう。それはイギリスからも予想されることだ。このため、政治的な野心は、目の前の経済混乱と裏腹の関係になるだろう。スコットランドの独立は、イギリス国内の保守勢力の相対的な地位アップとなるので、イギリスの右傾化、ひいてはイギリスのEUからの離脱も引き起こしかねないイギリス経済にとって悪いことばかりだ。

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