政策工房 Public Policy Review

霞が関と永田町でつくられる“政策”“法律”“予算”。 その裏側にどのような問題がひそみ、本当の論点とは何なのか―。 高橋洋一会長、原英史社長はじめとする株式会社政策工房スタッフが、 直面する政策課題のポイント、一般メディアが報じない政策の真相、 国会動向などについての解説レポートを配信中!

July 2014

【山本洋一・株式会社政策工房 客員研究員】

 「号泣会見」で注目された野々村竜太郎兵庫県議が711日、辞表を提出した。地方議員への信頼を失墜させた同氏の辞職は当然だが、これで幕引きにしてはならない。地方議会と国会における議員経費のあり方について、抜本的に見直す契機とすべきだ。

 騒動の発端は野々村氏が日帰り出張を名目に、多額の政務活動費を受け取っていたこと。兵庫県議会が2013年の収支報告書を公表したところ、195回の日帰り出張の経費として300万円を支出したと記載していたことが発覚。記者が疑惑を追及したところ、突然号泣して意味不明な言動を繰り返した、というのが話題となった記者会見の経緯である。

 政務活動費は税金から支給されるかつて政務調査費(政調費)と呼ばれたもので、地方議員に認められた経費のことだ。兵庫県の場合は月50万円、年間600万円の範囲で、事務所費や人件費、視察費などに充てることができる。

 野々村氏に支給されたのは当選初年度の2011年に484万円、12年と13年に600万円の計1684万円。余った分は返すのが決まりだが、野々村氏はきっちり全額使い切っていた。しかし、領収書によって使途が明らかなのは4分の1程度にとどまり、残りは何に使ったのかまったくわからないという。野々村氏本人も「記憶にない」を繰り返している。

 今回の問題で明らかになったのは、制度及びチェックの甘さだ。兵庫県議会では自動券売機で購入した場合や、急いでいて領収書を発行できなかった場合に領収書を添付しなくてもいいという規定を設けている。野々村氏はこれを悪用したとみられるが、今どき自動券売機にだって領収書の発行機能はある。添付しなくてもいい理由にはならないはずだ。

 野々村氏やその他の議員が大量の切手を購入していたことも明らかになったが、これにも問題がある。切手は金券としての価値があり、換金することが可能だからだ。郵便を使うのであれば料金別納などの制度を利用し、本当に使ったことを証明させるべきである。

 大半の支出先がわからないような収支報告書を受理していた議会事務局にも問題がある。民間企業でこんな報告書を出せば認められるはずがない。税金を使う立場である議会は本来、民間よりも厳しくチェックすべきであり、早急な改善が求められる。

 実は、地方議会はまだマシ。制度的な欠陥はあるにせよ、今回のように収支報告書が事後的にチェックされ、不適切な支出があれば問題視されるからである。国会議員に支給されている経費には使途についての報告義務すらなく、調査しようにもできない。

 衆参両院の議員に支給される文書通信交通滞在費は月100万円。一切の報告義務がなく、余った分は返すという規定もない。資金不足の若手は地元事務所や私設秘書などの経費に充てているが、資金が潤沢な大物議員は「第二の給与」としてポケットに入れているのが現実だ。

 さらに、このお金は本来、経費に使われることを想定しているので、税金がかからない。大物国会議員は年間2100万円の給料に加えて、1200万円の手取りが加算されているのだ。これを議員特権と呼ばず、なんと呼ぶのだろうか。

 問題だらけの制度だが、この金の問題点を指摘する国会議員の声はほとんど聞かない。東京都議会の野次問題ではここぞとばかりに騒ぎ立てた野党議員も、野々村氏の問題を巡ってはあまり大きな声をあげていない。自分たちに矛先が向かうのを恐れているからだ。

 だが、地方議会における政務活動費と同様、税金を充てているのだからすべての使途を国民に明らかにすべきである。すべての支出の内容を記載し、証明となる領収書とともに毎年報告させるべきだ。そして余った分は返還させなければならない。

 国会議員も地方議員も野々村氏の辞職により、事態が沈静化するのを期待している。そんなことではだめだ。国会と地方議会における議員経費を適正化するまで、この問題の真の解決はない。

原英史・株式会社政策工房 代表取締役社長】 

 6月の成長戦略改訂で、農業改革については、重要な前進があった。
 これまで長い間、解決困難な難題とされてきた農協改革などにも手を付けたことは、大きな前進といってよい。
 他方、もちろん、これで安心といった状況では全くない。今回の成果と、今後に残された課題について、整理しておきたい。

 まず、農業改革で何をやるべきかについては、長い間、一定の共通認識があったといってよい。
 農業経営の生産性を高めることが根幹であり、経営能力と意欲のある農業者を伸ばしていかなければならない。そのためには、農地の集約化を図る必要があり、すべての農家に一律に補助金をばらまくような施策からは決別する必要がある。
 こうした問題意識は、1960年代から、農業基本法制定、大潟村の発足などの形で、すでに明らかにされていた。しかし、これを徹底することができないまま、数十年が経過し、今日の農業の状況に至った。
2000年代に入ってからも、「農業者全体を対象とした一律的な政策を見直し、意欲と能力のある経営体に施策を集中化」(骨太の方針2002)との方針のもと、
 1)農業への企業参入の拡大、
 2)一定規模以上の意欲ある農業者に限定した補助制度の創設、
などの施策が講じられた。一定の前進はあったが、再び「一律的な政策」への揺り戻しがあるなど、成果は十分に発現されなかった。

 こうした中、農業改革の課題は、整理すれば以下のようなことだ。
(1)企業的な農業経営の自由化
<農業生産法人要件の緩和>
現状では、農地所有のできる法人は農業生産法人に限られ、農業生産法人には、出資者構成・役員構成などにつき、厳格な要件が課されている。これが、企業的な農業経営への転換の大きな障壁となる。

(2)農地集積と有効利用のための改革
<農業委員会改革>
 現状では、地元の農業関係者のボスたちが、選挙により(実際上は無選挙状態となることも多い)農業委員となり、この委員会が 農地の権利移転・利用に関する権限を握る。この結果、外部からの参入を排除するといったことが起きがちだ。

<その他>
このほか、税制面などで農地の有効利用を促す仕組みを導入すべきとの議論も長くなされている。

(3)農協改革
 現状では、強くなる見込みのない多くの農家(零細な兼業農家など)が、農協依存の農業経営(農協から必要物資を購入し、農協から資金を借り、農協経由で補助金をもらい、農協の指導に従って産品をつくり、できあがったものは農協に納入)でなんとか存続し続け、他方で、自律的な農業経営は妨げられがちだ。

(4)生産調整と価格規制の改革
 米の生産調整、貿易障壁による価格競争排除などがこれにあたる。

 これら課題について、安倍内閣での取組は別紙1のとおりだ。
・2013年に、農地中間管理機構などの措置がとられたほか、
・2014年春からスタートした国家戦略特区の地域限定での改革もなされた。

 加えて、今回6月の成長戦略改訂で、さらなる前進がなされた・・ということだ。

 別紙1をみれば明らかなように、これまで長らく課題とされていた事項について、それぞれ、前進が図られており、大きな成果であることは疑いない。

0710 原さん 別紙1

 他方で、課題も残されていることを指摘しておきたい。

 

(1)まず、今回の成長戦略改訂は、まだ作文の段階であって、具体的な措置は今後に委ねられている。

 

(2)それぞれの成果(別紙2)についても、いくつかの課題が残されている。

 1)農業生産法人要件について、出資要件で「過半は農業関係者」とされている点は、今後に残された課題だ。このままでは、通常の企業が農地所有して参入することは困難であり(農業関係者とともに別法人を設けるとしても、出資規模が制約される)、また、農業ベンチャーが上場を目指すといったこともできない。


 2)農業委員会改革は、選挙制度を廃止し、市長が議会の同意を得て選任する仕組みに変えることとされているが、従来と同じ人たちがそのまま選任されるだけにもなりかねない。農業委員会の実際のあり様を変えるため、具体的な制度設計上の工夫が必要だ。

 

 3)農協改革では、全中・全農とも、どのような姿の組織形態になるのか(全農の場合も、「株式会社化」とはいっても、どのような株主構成の株式会社になるのか等)、今後の具体的な制度設計次第だ。

0710 原さん 別紙2

 次期通常国会に向けて、こうした点を十分ウォッチしていく必要がある。

先週1日、政府は、臨時閣議を開き、従来の憲法解釈の変更による集団的自衛権行使の限定容認などの新たな安全保障法制整備の基本方針「国の存立を全うし、国民を守るための切れ目のない安全保障法制の整備について」を決定した。

閣議決定に先立って開かれた「安全保障法制の整備に関する与党協議会」での正式合意を踏まえ、自民党・公明党は、それぞれの了承手続きを行った。その後、安倍総理・自民党総裁と山口公明党代表による与党党首会談、国家安全保障会議(日本版NSC)の9大臣会合などが相次いで開催された。自民党総務会では、憲法改正を求めて政府の閣議決定案に反対する所属議員もいたが、野田総務会長が圧倒的多数の賛成を根拠に了承を取り付けた。

 

基本方針では、1972年に政府が参議院決算委員会へ提出した集団的自衛権と憲法との関係に関する資料中の「国民の権利を守るための必要最小限度の武力行使は許容される」を基本論理とし、今後とも維持されなければならないと位置付けている。

そのうえで、集団的自衛権を含む自衛のための措置として憲法上許容される「武力行使の新3要件」として、(1)我が国に対する武力攻撃が発生した場合のみならず、我が国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生し、これにより我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある場合に、(2)これを排除し、我が国の存立を全うし、国民を守るために他に適当な手段がない時に、(3)必要最小限度の実力を行使すること、としている。そして、「国際法上は集団的自衛権が根拠になる場合がある」と盛り込んだ。政府が3要件に該当すると判断した場合、自衛隊の出動命令を含めた「対処基本方針」などを策定して閣議決定、その後に国会に諮って承認が得られれば、総理大臣が自衛隊出動を命じる。

 このほか、武力攻撃に至らないグレーゾーン事態や国連決議に基づく多国籍軍支援、国連平和維持活動(PKO)などで自衛隊活動を拡大するための法整備を進めていく方針が示された。PKOに参加する自衛隊が離れた場所の他国部隊や国連職員などを助ける「駆け付け警護」を可能とするための武器使用基準を緩和する方向だ。国連安保理決議に基づく多国籍軍への後方支援では、従来の「非戦闘地域」に限る制約は撤廃することとなった。

 

安倍総理は、閣議決定後の記者会見で「武力行使が許されるのは、自衛のための必要最低限度。現行の憲法解釈の基本的な考え方は今回の閣議決定でも何ら変わるところはない。海外派兵は一般に許されないという従来の原則も全く変わらない」「憲法が許すのはわが国の存立を全うし国民を守るための自衛の措置だけだ。外国の防衛自体を目的とする武力行使は今後も行わない」と断言し、日本が戦後一貫して歩んできた平和国家の歩みは変わることはないことや、日本が再び戦争をする国になるというようなことは断じてあり得ないことを強調した。

また、中国の軍拡や北朝鮮の核・ミサイル開発などで緊迫する東アジア情勢を踏まえ、「万全の備えをすること自体が、日本に戦争を仕掛けようとするたくらみをくじく」抑止力となりうるとも述べた。安倍総理は、年末に日米で策定する「日米防衛協力のための指針(ガイドライン)」再改定による日米同盟の強化により、「日本が戦争に巻き込まれる恐れは一層なくなっていく」との認識だ。

 

1日の閣議決定後、政府は、検討チームを国家安全保障会議(日本版NSC)事務局「国家安全保障局」に設置するなどして、関連法制の整備をスタートさせた。関連法案の全体像を策定する検討チームは、官房副長官補をトップに約30名規模で組織された。内閣府や防衛省など関係府省は、全体像を踏まえ法案化を進めていく。自民党・公明党は、与党協議会を継続して、政府が策定する改正案や集団安全保障措置など残された課題について協議していくとしている。

自衛隊法や武力攻撃事態法、国連平和維持活動協力法など改正案十数本を一括で来年の通常国会に提出、来年4月の統一地方選後に審議入りする方向で検討されているという。また、安倍総理は、9月上旬に予定している内閣改造で安全保障法制を担当する大臣を新設し、同担当大臣を中心に関連法案の国会審議にあたらせる考えを示した。

 

閣議決定に関する集中審議(閉会中審査)が、安倍総理・関係閣僚出席のもと、14日に衆議院予算委員会で、15日に参議院予算委員会で開催される予定だ。集中審議では、自衛権行使における歯止めの実効性、政府が想定する具体的な自衛隊活動など主な焦点になるとみられている。

集中審議をめぐっては、民主党など野党8党は、議論が不十分であることなどを理由に、衆参両院で最短でも2日間ずつの開催を求めている。公明党の山口代表は「国会論議の機会を最大限生かし、政府が野党の皆さんにも丁寧に説明していく必要がある」と述べ、野党側が求める徹底審議に一定の理解も示しているが、自民党は、野党側の要求に応じない構えだ。

 

 

政府内では、来年度予算の編成や成長戦略改訂版などの具体化に向けた作業が進められている。3日、政府は、2015年度予算の概算要求基準の大枠を固めた。7月下旬にも概算要求基準を閣議了解する方針だ。

日本再興戦略・改定版に盛り込まれた地方活性化や中小企業振興、農業分野など重要施策の「特別枠」を4兆円規模とする一方、各省庁が政策判断に応じて柔軟に増減できる「裁量的経費」を今年度予算比で1割程度抑制するよう各府省に求める。歳出抑制を促しつつ、成長戦略の重要施策に重点配分して、メリハリのある予算編成、財政再建と経済成長の両立をめざすという。なお、2015年10月から消費税率10%への引き上げをするか否かについて、年末までに安倍総理が判断することから、今回の概算要求基準では、歳出上限総額を定めないという。

 

(参考)Yahoo!みんなの政治「国の予算ってどうやってつくられるの?(前編)」 

 
 

来週14~15日、政府が閣議決定した新たな安全保障法制整備の基本方針に関する集中審議が予定されている。閣議決定は拙速だったのではないかなどとの批判もあるなか、政府・与党は、今後の国会審議などを通じて国民に丁寧に説明し理解を求めていきたいと述べている。集中審議で、野党各党はどのような質問を行い、安倍総理らはそれにどう答えていくのだろうか。まずは、集中審議での論戦をみておきたい。

高橋洋一・株式会社政策工房 代表取締役会長】 

 最近、東欧経済の調子がいいらしい。ポーランドは、2014年の経済成長率は3%以上となる見通しだ。チェコも、201416年の経済見通しは成長率23%だ。ともに、ウクライナのマイナス成長が懸念材料だが、その中では頑張っている。一方、ギリシャ経済は相変わらずさえない。

 同じヨーロッパでもユーロ加盟国では低成長の国が目立ち、ユーロ非加盟の国では成長している例が多い。筆者にとって、これらの出来事は偶然とは思えない。というのは、有名な国際金融理論から、こうした現象は予測されていたからだ。

 

 それは、ノーベル経済学賞を受賞した経済学者マンデルによる最適通貨圏理論だ。そのエッセンスを簡単にいえば、ユーロのような共通通貨を適用するために必要な経済諸条件を示したものだ。

 

 第一に、共通通貨を適用するには、それぞれの国の景気やインフレ率の変動などが一致している必要がある。第二に、各国の景気を平準化するためには、各国間の貿易相互依存が高い必要がある。第三に景気の好不況に合わせて人々が各国を移動できたり、構造調整が容易になるような労働市場の開放性や経済構造の柔軟性も必要だ。

 

 共通通貨の下では、各国に同じ金利が適用されるのだから、景気やインフレ率がバラバラでは一つしかない金融政策がワークしない。そのため、マクロ政策として重要な金融政策をワークさせるためには、上記の三つの条件が必要とも言える。

 

 こうした条件から見ると、ドイツやフランスなどの中心国だけが、同じユーロ通貨であれば問題ないが、無理にギリシャなどの周辺国を同じユーロ通貨にすれば、経済パフォーマンスが低下する。

 

 ところが、フランスやドイツがユーロの拡大において、こうした経済原理を無視して、政治的に参加国を次々と増やし結果、現実のユーロはマンデルの「最適通貨圏」より拡大してしまった。

 

 なお、ギリシャについてはイスラム国家への砦として支援する政治的な意図もあった。ギリシャはトルコと軍事的に向き合い、多額の軍事費を負担してきた。北アフリカからは不法移民が押し寄せており、ギリシャは欧州中に移民が広がるのを防ぐ役割もあった。こうした政治的なユーロ拡大志向がギリシャの悲劇の根本にある。

 

 しかし、このユーロは、フランスやドイツというユーロの中心国では、周辺国が増える「うまみ」もあった。ECBの政策金利は、ユーロの物価指数に占めるフランスやドイツのウェイトが高いため、フランスやドイツに合わせて過去低めに設定されている。このため、ギリシャなどの南欧の景気が過熱し、そこのインフレ率はECBが域内の物価安定の目安とする「2%未満」を上回ってきた。

 

 同じユーロ国でも、インフレ率が相対的に低いフランスやドイツの輸出製品価格は低く抑えられる一方、インフレ率の高いギリシャなどの輸出製品は価格競争力を失っていく。このため、フランスやドイツの輸出は急増し、その果実を謳歌してきた。ギリシャ問題では、フランスやドイツは援助国、ギリシャは非援助国という構図であるが、それまではフランスやドイツはユーロ拡大の最大の受益国であったのだ。

 

 こうして、「最適通貨圏」を越えたユーロは、全体としては経済成長の鈍化におちいる。一方で、ユーロに加盟しなかった欧州諸国の経済成長は高くなったのだろう。

 

 これをデータで確認しよう。OECD国の欧州諸国中で、ユーロ加盟と非ユーロ加盟の国について、ユーロができた1999年からのそれぞれの平均経済成長率の推移が以下のグラフである。

 

 

0704高橋さん

 ほとんどの年で、非加盟目の成長率のほうが高い。どうも、最適通貨圏を越えたユーロに加盟するのは得策ではないようだ。

 


 先週6月24日、政府は、「経済財政運営と改革の基本方針(骨太の方針)」「日本再興戦略改訂版」「規制改革実施計画」を閣議決定した。

 

 基本方針では、日本経済について「力強さを取り戻しつつある。もはやデフレ状況ではなく、デフレ脱却に向けて着実に前進している」と認識を示したうえで、1)消費税率引き上げに伴う駆け込み需要の反動減への対応、2)経済の好循環のさらなる拡大と企業の主体的行動、3)日本の未来像に向けた制度・システム改革の実施、4)経済再生と両立する財政健全化、の4点を今後の課題として挙げた。

 好循環に向けた施策として、国と地方を合わせた法人実効税率を来年度から引き下げを開始して数年で20%台とすることのほか、株式持合いの解消や独立社外取締役などのコーポレートガバナンス強化、女性の活躍推進と働き方の改革、国家戦略特区での実施を含めた規制改革の集中実施、イノベーションの促進などが明記された。また、2020年をメドに人口急減・超高齢化に向かう流れを変えるとともに、50年後に1億人程度の安定的な人口構造を維持するためには、東京への一極集中傾向に歯止めをかけるとともに、出産や育児の支援を充実させるなどの総合的な政策が重要と指摘する。

経済再生にあたっては、財政健全化も不可欠として、健全化目標の着実な達成をめざすとしている。消費税率10%への引き上げについては、税制抜本改革法附則18条に則って経済状況などを総合的に勘案し、2014年中に判断する。

 

 成長戦略改定版では、日本経済全体としての生産性を向上させ、「稼ぐ力(収益力)」を取り戻すことを目標に掲げている。基本方針で示した施策の具体策が列挙されたほか、農業・雇用・医療の3分野を中心とした規制改革、年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)など公的・準公的資金の運用見直し、輸出戦略の推進などが盛り込まれた。

 また、規制改革実施計画では、新成長戦略を実行するため、「健康・医療」「雇用」「創業・IT」「農業」「貿易・投資」の5分野249項目の規制緩和策の内容や実施時期について明記された。保険適用と適用外の治療を併用する混合診療については、「患者申し出療養」(仮称)を創設して拡大する。農業分野では、全国農業協同組合連合会の株式会社化を可能にすることや、農業生産法人への企業の出資比率を現行の25%以下から50%未満に緩和することのほか、全国農業協同組合中央会を頂点とする中央会制度を自律的な新制度に移行する具体像を今年度中に結論を得ることなどが明記された。

 

安倍総理は、24日の記者会見で「日本経済が持つ可能性を開花させるため、いかなる壁も打ち破っていく」「安倍内閣の成長戦略にタブーも聖域もない。あるのはただ一つ。どこまでもやり抜く強い意志だ」と決意を述べた。経済の好循環を力強く回転させるとともに、「成長の主役は地方」と全国津々浦々まで届けることが安倍内閣の使命と強調し、地方の経済構造改革を推進するため「地方創生本部」を新設する意向も明かした。

今後、政府は、成長戦略や規制改革を着実に実行するため、来年度の予算編成や税制改正大綱に反映していくとともに、関連法案を今秋の臨時国会または来年の通常国会に提出することをめざすこととなる。

 

 

 議員1人あたりの人口格差(1票の格差)是正策に向けた参議院選挙区制度改革をめぐっては、参議院各会派でつくる「選挙制度協議会」が26日に開催された。

脇座長(自民党参議院幹事長)は、現行制度を維持しながら議員1人あたりの有権者が少ない隣接選挙区同士をあわせて1選挙区とする合区修正案として、20選挙区を10区に統合する案を再提示した。これにより、人口格差が当初案(2010年の国勢調査ベース)の1.83倍から1.93倍になる。また、人口格差を約2.4倍に緩和して、合区対象をさらに減らす案についても説明した。

これに対し、日本維新の会・結いの党は、現行の比例代表に加え、選挙区を全国11ブロックの大選挙区制に再編して、議員定数を24減らす対案を提示した。

各党は座長修正案を持ち帰って検討することになったが、参議院自民党などには合区そのものに反発しているだけに、今後、協議が進むか微妙な情勢だ。1票の格差を2倍以内に収めるべきか否かが焦点となりそうだ。

 

 

 集団的自衛権行使を限定的に容認に向けた憲法解釈変更などをめぐっては、与党内調整が大詰めを迎えた。

24日に開催された安全保障法制の整備に関する与党協議会で、政府・自民党は、自衛権発動に歯止めを強化するよう求めた公明党に配慮して、自衛権発動の第1要件「わが国に対する武力攻撃が発生したこと、または他国に対する武力攻撃が発生し、これにより我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆されるおそれがあること」の「おそれ」を「明白な危険」に変更した。「明白な危険」として(1)放置すれば戦禍が日本にも及ぶ蓋然性が高い場合、(2)日本国民に深刻で重大な犠牲を及ぼす場合と定義することとなった。

また、「他国に対する武力攻撃」も「我が国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃」と対象を絞ることや、武力行使は「自衛の措置」の場合に限ることの明確化などが図られた。第2要件の武力行使の目的については、「我が国の存立を全うし、国民を守るために他に適当な手段がないこと」と修正することとなった。

 

27日の協議会会合で政府が提示した閣議決定最終案を大筋で了承したことを受け、それぞれの党内調整を経て正式合意する最終調整に入った。公明党内では、集団的自衛権の行使容認そのものへの慎重・反対論も相次いだが、30日の関係部会合同会議で集団的自衛権行使を限定容認する方向でとりまとめ、党執行部に対応を一任することが了承された。

 そして7月1日、自民党と公明党は、閣議決定案について協議会会合で正式合意した。党内(自民党は総務会、公明党は中央幹事会)でそれぞれ最終了承のうえ、与党党首会談も開催する。これを受け、政府は、同日中に臨時閣議を開催して、集団的自衛権の行使容認などを含む憲法解釈の変更について決定する。閣議決定後、安倍総理は記者会見を行い、憲法解釈変更の意義や今後の取り組みなどについて説明し、国民に理解を求めるという。今後、政府は、与党合意や閣議決定を踏まえ、今秋の臨時国会以降に具体的な安全保障の法整備に取り組んでいく方針だ。

 

26日、野党8党の幹事長・国会対策委員長が会談し、憲法解釈の変更に関する閣議決定について、衆参両院の予算委員会で閉会中審査を行うよう与党に求める方針で一致した。その後、松原・民主党国対委員長が佐藤・自民党国対委員長に、衆参両院の予算委員会を開催するよう要求した。佐藤国対委員長は、7月14~15日に、安倍総理・関係閣僚出席の下、衆参両院で1日ずつ閉会中審査に応じる意向を示した。これに対し、松原国対委員長は、衆参両院で2日ずつ開催するよう求めたため、今後、与野党間で日程を調整していくこととなった。

 

 

 基本方針や成長戦略改訂版などが策定され、集団的自衛権の行使容認などを含む憲法解釈の変更について7月1日に閣議決定される。これにより、安倍内閣として大きな節目を迎えたといっていいだろう。安倍総理は、9月上旬にも内閣改造と9月末に任期満了を迎える自民党役員人事を断行する考えだ。内閣改造でどのような布陣になるかも含め、安倍総理が進める経済・財政政策や安全保障政策をどのように具体化、実行していくのかについて注視していくことが重要だろう。
 

↑このページのトップヘ