政策工房 Public Policy Review

霞が関と永田町でつくられる“政策”“法律”“予算”。 その裏側にどのような問題がひそみ、本当の論点とは何なのか―。 高橋洋一会長、原英史社長はじめとする株式会社政策工房スタッフが、 直面する政策課題のポイント、一般メディアが報じない政策の真相、 国会動向などについての解説レポートを配信中!

May 2014

原英史・株式会社政策工房 代表取締役社長】
 
 政府は6月に成長戦略の改訂版を発表する予定だ。

 昨年6月の成長戦略のときは、発表した途端に株価が大きく下がる事態になった。規制改革などに取り組むとの決意を総論的には示したものの、各論がほとんど伴っていなかったことが失望された。
 今回は、どれだけ各論を詰めることができるのかどうかが問われる。

 すでに、新聞報道ではさまざまな各論が報じられつつある。法人税引下げ、GPIFの投資先拡大、外国人就労の緩和などのほか、農業改革や、労働時間規制などについても、大胆な改革プランが報じられている。
 例えば、農業改革では、規制改革会議から、以下の項目を柱とする包括的なプランが示されている。

1)農業委員会の見直し
・選挙制度を廃止し、選任委員に一元化。
・遊休農地対策、転用違反対策に重点化。 など
2)農業生産法人制度の見直し
・事業要件の廃止、役員要件の見直し(農作業に従事する役員は「1名以上」に)、構成員要件の見直し(2分の1未満の出資者には要件を設けない)。 など
3)農協の見直し
・中央会制度の廃止。
・全農の株式会社化。 など

 これは、農業制度について、従来指摘されてきた問題をほぼカバーしている。農業委員会制度は、従来から、閉鎖的な地域社会のしがらみで、外部からの参入が排除され、一方、耕作放棄などには有効な手を打てていないことが指摘されてきた。農業生産法人制度は、役員の多くに農作業従事要件を課し、出資者が農業関係者であることを求めるなど、多様な担い手の参入を妨げる仕組みとなっていた。また、農協は、農家からの買取り、機材等の販売、貸付などを一手に行なうことで、自立的な農業経営に対する足枷となってきた。
 こうした諸制度の改革を法核的に解決できれば、日本の農業は大きく変わるはずだが、問題は実現できるかどうかだ。

 現段階で報じられている内容は、上記の農業改革に限らず、こうした案が政府の会議で有識者から提案されているといった段階に過ぎない。これを確実に実施されるプランとして合意できるかどうかはこれからだ。

 来月の成長戦略では、単に課題を列挙し、その実現の道筋が示されていない段階にとどめてしまったのでは、「各論がない」というのと大差ない。いかに実現に向けた具体的な道筋を示すことができかが問われる。

 先週21日、在宅医療推進のための医療法改正や介護保険サービスの負担増につながる介護保険法改正など法案19本を一括りにして、地域医療と介護保険制度を一体で見直す「医療・介護総合推進法案」が、参議院本会議で審議入りする予定だった。しかし、田村厚生労働大臣の趣旨説明にあたって、厚生労働省が配布した事前資料にミスがあったとして審議が中断となった。厚生労働省は単純ミスを認めたが、労働者派遣法改正案で盛り込んだ罰則規定で「1年以下の懲役」とすべきところを「1年以上の懲役」と誤記するミスが今月上旬に発覚したこともあり、野党は「政府・与党の緩み、たるみ、おごり」「国会軽視か」などと批判・問題視し、趣旨説明に対する質疑を拒否した。田村厚労大臣が参議院議院運営委員会理事会で陳謝するも、野党はこれに納得せず、参議院本会議が流会となった。これにより、21日の参議院本会議で予定されていた電気事業法改正案の趣旨説明や、地方自治法改正案などの採決が見送りとなった。

 

 田村厚労大臣は、佐藤・厚労副大臣をトップに再発防止に向けた業務適正化推進チームを立ち上げて引き締めを図る方針だ。ただ、国会会期末が残り1カ月を切り、重要法案の審議が窮屈なものとなりつつあるなか、医療・介護総合推進法案の審議日程が決まらない。ミス発覚で国会審議のメドが立たずに成立そのものが危ぶまれていた、派遣労働者を企業が受け入れる期間の制約(最長3年)を事実上撤廃する労働者派遣法改正案を通常国会中の成立を断念する方針を固めたばかりだ。それだけに、与党内からは残る法案審議への影響を懸念する声も出始めている。

 

*衆参両院の本会議や委員会での審議模様は以下のページからご覧になれます。

 衆議院TVビデオライブラリ:http://www.shugiintv.go.jp/jp/index.php

 参議院インターネット審議中継:http://www.webtv.sangiin.go.jp/webtv/index.php

 

 昨年の臨時国会で成立した特定秘密保護法に基づく政府の秘密指定・解除の運用状況や指定妥当性について監視する国会設置の新機関のあり方をめぐっては、22日、自民党と公明党は、衆参各院に「情報監視審査会」(仮称)を設置して、政府の特定秘密の適否について審査・審議し、政府に運用改善を求める勧告権を付与することなどについて盛り込んだ国会法改正案をそれぞれ了承した。野党と調整しのうえ改正案を提出、通常国会中の成立をめざしたい考えだ。

 

 また、与党は野党に同法案の概要を個別に説明した。国会が政府から情報提供を受ける権限を強める法改正を優先させたい民主党は難色を示した。このため、23日、与党は日本維新の会、みんなの党、結いの党の5党による実務者協議を開催して協力を要請した。結いの党はこれに慎重姿勢を示したが、新機関設置で合意している日本維新の会とみんなの党は、与党案におおむね賛同する意向を示した。このため、30日に改正案を共同提出することを念頭に調整していくことを、結いの党を除く4党で大筋合意することとなった。

 日本維新の会は、「安全保障に著しい支障を及ぼす恐れがある」と判断される場合に特定秘密の審査会や各委員会への提供を拒否できるケースについて、「政府が情報提供者に第三者に渡さないと約束して得た情報などに限定すべき」と主張している。こうした点に、与党側はいまのところ難色を示している。みんなの党は、内部通報制度の充実を付帯決議に盛り込むよう求めた。30日の国会提出までに4党がどこまで詰めて合意できるかがポイントとなりそうだ。

 

 一方、共産党を除く野党7党は23日、森・特定秘密保護法担当大臣に対し、国会の監視機関とは別に、秘密の指定・解除の適否などをチェックする第三者的監視機関を政府内に設置することについて、法律にもとづく設置なのか、それとも政令による設置なのかなどについて、回答するよう申し入れた。いまのところ、政府は政府内の第三者的監視機関の詳細について明らかにしていない。民主党や日本維新の会などは、独立性の高い別の第三者機関の設置を検討するよう求めている。

 

 

 国会議員の定数削減を含む衆議院選挙制度改革について、与野党10党は20日、国対委員長会談を開催した。与野党8党は、有識者で構成する第三者機関を国会に設置することを確認した。一方、共産党や社民党は、「衆議院選挙制度改革を議論する前に、現行制度の検証を行うべき」「国会と政党の責任を放棄するもの」などと改めて反対意見を表明した。

 与野党8党で確認したを受け、自民党の佐藤・国対委員長は逢沢・衆議院議院運営委員長に、第三者機関の設置を申し入れた。今後、議院運営委員会理事会などで有識者の人選や諮問内容、提言に拘束力を持たせるかどうかなど、第三者機関のあり方について協議していく予定だ。そのうえで、議院運営委員会での設置議決を通常国会中にも行う方針だという。議院運営委員会での採決は、野党8党の賛成多数により可決される見通しだ。ただ、議員定数や選挙制度のあり方などをめぐって野党8党の主張に隔たりもあるだけに、第三者機関のあり方に関する与野党協議がどこまで詰めることができるかがポイントだろう。

 

 

 集団的自衛権の行使容認に向けた憲法解釈変更をめぐっては、20日、自民党と公明党が「安全保障法制の整備に関する与党協議会」での議論をスタートさせた。石破・自民党幹事長は、(1)武力攻撃に至ると直ちに判断できず個別的自衛権を発動するまでに至っていない「グレーゾーン事態」、(2)国連平和維持活動(PKO)などで自衛隊が民間人らを助ける「駆けつけ警護」などの国際協力、(3)集団的自衛権の行使容認を含む武力行使にあたる行動の順に、具体的な事例にもとづいて議論していくことを提案し、公明党もこれを了承した。

 今後の与党協議は、個別の事例ごとに、解釈変更の必要性やどのような法改正が必要かを話し合うという。今週27日の会合では、政府が検討材料として15の事例集を提示する予定だ。事例集は、(1)グレーゾーン事態が3例、(2)国連平和維持活動での武器使用や国際協力などが4例、(3)現在の憲法解釈・法制では支障が生じる集団的自衛権関連が8例となるようだ。このうち、27日の会合では(1)および(2)の計7例についての説明が行われるという。

 

 政府・自民党は、年末に予定する日米防衛協力の指針(ガイドライン)再改定を見据え、集団的自衛権行使を限定的に容認する解釈見直しも含めた3分野一体で、夏までに閣議決定したい考えだ。一方、集団的自衛権の行使容認に慎重な姿勢を崩していない公明党は、テーマごとの徹底かつ詳細な検討作業・協議を要求したり、合意できた箇所から法制化作業に入ってもらう先行処理を主張するなどして、期限ありきで進めようとする自民党を牽制している。憲法解釈変更を伴わない「グレーゾーン事態」への対応や駆けつけ警護などの議論などで時間を稼ぎ、憲法解釈変更を伴う議論を来春の統一地方選以降に先送りしたい思惑がある。いまのことろ、自民党と公明党は出口政策でも意見が食い違っており、落とし処が見えていない状態にある。早くも与党内で主導権争いが始まっており、今後、思惑含みの駆け引きへと発展する可能性もありそうだ。

 

 

 今週、集団的自衛権行使容認など安全保障政策に関する集中審議が、安倍総理や関係閣僚などが出席して、28日に衆議院予算委員会で、29日に参議院外交防衛委員会で行われる予定だ。集団的自衛権問題が終盤国会の主要争点に浮上しているだけに、6月11日に行われる党首討論の前哨戦ともいえる。集団的自衛権論議の展開によっては、与党協議の行方に影響する可能性もある。特に、行使容認に前向きな安倍総理・自民党と、慎重な公明党との議論についてしっかり押さえておくべきだろう。
 

【高橋洋一・株式会社政策工房 代表取締役会長】

 自衛権の行使容認に反対する人が決まって口にするものとして「憲法9条の護持」がある。護憲の主張はおろか、近年では「憲法9条にノーベル平和賞を」実行委員会なる組織が活動を行なっているという。国会議員の福島瑞穂氏はこの運動に賛同して、憲法九条に対する「推薦文」をノルウェーのオスロにあるノーベル平和賞委員会宛てに送付した。

 国際常識を知る者から見れば、顔から火が出るほど恥ずかしい。なぜなら9条にある戦争放棄は、べつに日本の憲法だけにある規定ではないからだ。
 韓国、フィリピン、ドイツ、イタリアの憲法には、日本国憲法九条の戦争放棄に相当する条文がある。たとえば、フィリピンの憲法には「国家政策の手段としての戦争を放棄」と書いてある。「憲法9条にノーベル平和賞を」授与しなければならないとしたら、フィリピンにもあげなければならない。希少性のないものを顕彰する理由はないので、日本の憲法9条にノーベル平和賞が授与されることは、まずないだろう。

 筆者はプリンストン大学で国際関係論を勉強した。マイケル・ドイル(プリンストン大学教授、現在はコロンビア大学教授)という国際政治学者が私の先生で、カントの『永遠平和のために』を下敷きにDemocratic Peace Theoryを提唱した人物である。「熟した民主主義国のあいだでは戦争は起こらない」という理論で、たしかに第二次世界大戦後の世界を見れば、朝鮮戦争やベトナム戦争、湾岸戦争やイラク戦争など二国間ないし多国間で戦争が起きる場合いずれかの国が軍事政権あるいは独裁政権であった。
 イギリスとアルゼンチンとのあいだで生じたフォークランド紛争でも、アルゼンチンは独裁政権だった。
 ドイル先生のいうように、民主主義国の価値観や手続きのなかで戦争が勃発する事態は現代の世界において考えづらい。彼の理論を日本と中国に当てはめれば、日本は民主主義国家だが、共産党一党独裁国家の中国はそうではない。この一点を見れば、なぜ日本とアメリカがともに民主主義国として同盟を結んでいるのか、根本的な理由を知ることができる。
 私がドイル先生に国際政治学を学んでいた1998年当時から、日本の平和憲法は特別ではないという点、自衛権の行使を妨げる議論がおかしいことは聞いていた。たいへん説得力のある話で、日本で巷間いわれる平和論がいかに論理を欠いているかを理解することができた。

 たとえば国際法をわずかでも勉強すると、集団的自衛権が国連憲章51条に規定されていることに気付く。「国際連合加盟国に対して武力攻撃が発生した場合には、安全保障理事会が国際の平和及び安全の維持に必要な措置をとるまでの間、個別的又は集団的自衛の固有の権利を害するものではない」
 つまり武力攻撃に対しては最終的には国連の安保理によって解決するのが最も望ましいが、それに至る過程でその国が占領支配されないように、個別的・集団的の別を問わず自衛権で対処するという発想である。もちろん安保理が機能して対応を図るのが最善だが、そうならない局面も現実には起こりうる。
 場合によっては中国のような国連常任理事国が紛争当事者となり、拒否権を発動するケースも考えられる。実際に2014年3月、国連の常任理事国であるロシアがクリミアをロシアに併合した際、国連は何もできなかった。万が一、日本が他国からの武力攻撃を受けた際は当面、自衛権でしのぎ、安保理に報告を行ないつつ最終的な解決に結びつけるというのが、最も現実的な選択である。
 その際、日本一国で中国のような軍事国家の侵攻に持ち応えられるか、という問題が生じる。だからこそ日本は他国と「正当防衛」をともに行なえる関係を構築すべきである。

 2014年5月、中国がベトナムの排他的経済水域(EEZ)を公然と侵し、石油掘削作業を進めようとしてベトナムと衝突した。南シナ海では中国に加えて台湾、ベトナム、フィリピン、マレーシア、ブルネイが領有権を主張している。2002年にASEAN(東南アジア諸国連合)が中国と結んだ自制と協調をめざす行動宣言はあっさりと無視され、ベトナムが面と向かって中国と対
峙せざるをえない状況が生まれた。中国の台頭と膨張により、南シナ海における中沙諸島・西沙諸島・南沙諸島と同じ領土危機が日本の尖閣諸島に起こりうる事態はいっそう切実なものになっている。いま安倍総理が感じている危機意識と「緊迫性」をわれわれも共有すべきではないか。 

 先週15日、安倍総理の私的諮問機関「安全保障の法的基盤の再構築に関する懇談会」は、日本国憲法第9条が禁じる武力の行使は自衛のための措置を禁じていないとし、「自衛のための措置は必要最小限度」の範囲に集団的自衛権の行使も含めるよう、政府の憲法解釈を変更するよう求めた報告書を安倍総理に提出した。

 これを受けて、政府は、国家安全保障会議(日本版NSC)4大臣会合を開催して、懇談報告書と政府の立場との共通点および相違点について整理のうえ、政府の「基本的方向性」をとりまとめた。当初、集団的自衛権の行使容認に向けた憲法解釈見直し原案としての「政府方針」を発表する考えだったが、公明党が「与党協議を始める前に政府方針として提示されると、すでに集団的自衛権の行使容認が決定事項であるかのような印象を与える」として反発したため、具体的な結論を示さない「政府の基本的方向性」として提示することで決着が図られた。

 

 その後に開かれた記者会見で、安倍総理は、現行の憲法解釈では困難とされている事例として、(1)周辺有事において在留邦人らを日本に輸送する米軍艦船の自衛隊艦船による防護、(2)海外活動中に武装集団に攻撃された国連平和維持活動(PKO)要員や非政府組織(NGO)への自衛隊部隊による駆け付け警護を取り上げ、集団的自衛権の限定的な行使を容認するための憲法解釈見直しに理解を求めた。また、相次ぐ日本の領海侵入や北朝鮮による核・ミサイル開発、サイバー攻撃の脅威など、日本を取り巻く安全保障環境が厳しさを増している現状を踏まえ、必要な法令整備を急ぐべきと訴えた。安倍総理は「これまでの憲法解釈で十分か検討が必要」「内閣法制局の意見も踏まえつつ、政府の検討を進めるとともに、与党協議に入りたい。協議結果に基づき、憲法解釈の変更が必要と判断されれば、その点を含めて、改正すべき法制の基本的方向を、国民の命と暮らしを守るため、閣議決定していく」との決意を述べた。

 安倍総理は、公明党などに進め方や表現などで配慮しつつも、年内に再改定する日米防衛協力のための指針(ガイドライン)に反映させることも視野に、今年秋の臨時国会前に集団的自衛権の行使容認のための政府方針を閣議決定、臨時国会に関連法案を提出する路線を貫くようだ。

 

 自民党と公明党の協議は、20日からスタートした。座長の高村・自民党副総裁、副座長の北側・公明党副代表のほか、石破自民党幹事長、井上公明党幹事長ら幹部らで構成する。与党協議は、週1回のペースで行う予定だという。

 自民党は、集団的自衛権の行使容認に慎重な公明党の理解を得たうえで、通常国会中にも政府が閣議決定できる環境を整えたい考えだ。ただ、公明党は、警察権や個別的自衛権の行使で対応できるところも相当あると強調して、慎重姿勢を維持している。このため、与党協議では、武力攻撃に至ると直ちに判断できず、個別的自衛権を発動するまでに至っていない「グレーゾーン」事態や、国連平和維持活動(PKO)に参加する自衛隊の武器使用権限の拡大などの国際協力に対処できるようにする法整備といった憲法解釈の変更を必要としないテーマから協議を始める。具体事例で与党合意できれば、政府は、必要な法整備の準備に速やかに入るという。

 

 一方、野党側は、16日に野党8党の幹事長・国対委員長会談を開催し、衆参両院で全会派が参加して十分な審議機械を設けるよう、与党側に求めることで一致した。松原・民主党国対委員長が、佐藤・自民党国対委員長と会談し、野党8党の要求を伝えた。また、集中審議の複数開催、衆議院外務委員会・安全保障院会の合同開催も申し入れた。ひとまず、集団的自衛権に関する集中審議は、安倍総理や関係閣僚出席のもと、28日に衆議院予算委員会で、29日に参議院外交防衛委員会で行う方向で調整が進められている。

 

*衆参両院の本会議や委員会での審議模様は以下のページからご覧になれます。

 衆議院TVビデオライブラリ:http://www.shugiintv.go.jp/jp/index.php

 参議院インターネット審議中継:http://www.webtv.sangiin.go.jp/webtv/index.php

 

 昨年の臨時国会で成立した特定秘密保護法に基づく政府の秘密指定・解除の運用状況や指定妥当性について監視する国会設置の新機関のあり方をめぐっては、自民党と公明党が、19日の「国会および政府の情報機能の強化に関するプロジェクトチームの会合で、与党案について合意した。

 与党案は、(1)衆参各院に常設の「情報監視審査会」(仮称)を設置して、各会派の議席に応じて委員数(8人)を割り当てて構成すること、(2)政府が国会に提出する特定秘密保護法運用に係る年次報告をもとに、政府による特定秘密の指定・解除をおこなった行政機関の長から説明聴取などにより、特定秘密の適否について審査・審議すること、(3)それにより不適切と判断すれば政府に運用改善を求める勧告権を付与すること、(4)審査会は非公開の秘密会とし漏洩対策を万全に講じることなどを柱としている。秘密を漏洩した国会議員は、秘密保護法の罰則(5年以下の懲役、500万円以下の罰金)に該当するが、憲法51条に基づく国会議員の免責特権が優先する場合には、衆参各院が懲罰の対象とするとしている。

 当初、自民党は、「特定秘密の指定の適否について新機関では判断しない」との方針だったが、特定秘密の指定・解除の適否について常時監視すべきと主張する公明党に譲歩して、強制力を伴わない勧告権を付与することで折り合うこととなった。自民党と公明党は、近く与党案をもとに、新機関設置で合意している日本維新の会やみんなの党などとも協議を行って、通常国会中の国会法改正をめざす方針だ。

 

 

 国会議員の定数削減を含む衆議院選挙制度改革をめぐっては、共産党・社民党を除く与野党8党の幹事長が、伊吹・衆議院議長に有識者で構成する第三者機関を伊吹衆議院議長の下に設置するよう正式に求めた。議長直属機関として設置することに難色を示す伊吹議長は、15日、石破・自民党幹事長と大畠・民主党幹事長と会談し、「議院運営委員会の議決を経て国会に第三者機関を設置すれば、設置に反対した党も議論に参加しやすくなる」と述べ、議院運営委員会の議決にもとづく第三者機関の正式な設置をめざすよう求めた。与野党8党は、伊吹議長の要請を受け入れる見通しで、通常国会中の設置も視野に、国会対策委員長会談などで調整に入るという。ただ、議員定数や選挙制度のあり方などについて、各党の主張に隔たりも大きいだけに、今後の意見集約は難航も予想されている。

 

 議員1人あたりの人口格差(1票の格差)是正策に向けた参議院選挙区制度改革をめぐって、参議院自民党は、参議院各会派でつくる「選挙制度協議会」の脇座長(自民党参議院幹事長)が提示した、議員1人あたりの有権者が少ない隣接選挙区同士をあわせて1選挙区とする「合区」案に対するヒアリングを、16日から当選回数別に開始した。自民党内でのヒアリングでは、「合区では地域の声が届かなくなる」と懸念が示されたほか、座長案への異論が相次いだ。また、比例代表定数を削減して選挙区に配分することで格差縮小を図る案なども提起されている。

 参議院自民党は、今月30日までにヒアリングを計7回開催して、党内の意見集約を図り、作業チームで対案づくりを進める方針だ。ただ、溝手・参議院議員会長が「脇氏の原案はわが党としての案ではない。党内の意見集約の期限は8月末だ」と述べているほか、改革案に慎重姿勢をみせるグループなどが独自の対案づくりも視野に勉強会をスタートさせるなどしており、脇座長が要請した今月末までの意見集約・取りまとめは困難な情勢となっている。

 

 

 施行4年後に改憲に必要な国民投票年齢を現行の20歳以上から18歳以上へ引き下げることなどを定めた国民投票法改正案が、14日、参議院憲法審査会で提案理由説明を行い、審議入りした。21日に発議者への質疑、26日と6月4日に参考人への質疑を行う予定だ。また、参議院での審議では、改正案に反対している共産党や社民党に質問時間を多く割り当てるという。与党は、6月11日の審査会採決をめざしている。改正案は、共同提出した与野党7党のほか、新党改革などの賛成多数により、6月中旬にも成立する見通しとなっている。

 

 在宅医療推進のための医療法改正や介護保険サービスの負担増につながる介護保険法改正など法案19本を一括りにして、地域医療と介護保険制度を一体で見直す「医療・介護総合推進法案」について、全野党が審議不十分と反対するなか、与党は、14日の衆議院厚生労働委員会で強行採決に踏み切った。同法案は、(1)国が904億円を投入して各都道府県に基金を設置し、医療・介護サービスへ財政支援するほか、(2)要支援者向けの事業を3年後までに市町村に移管、(3)2015年8月から、年金収入280万円以上の高齢者の介護保険の自己負担割合を現行の1割から2割に引き上げることなどを柱としている。与党の賛成多数により、14日の衆議院厚生労働委員会、15日の衆議院本会議で可決し、参議院に送付された。通常国会中にも成立する見通しとなっている。

 

 このほか、教育行政に対する自治体首長の権限を強化する「地方教育行政法改正案」が、16日、衆議院文部科学委員会で、与党や生活の党などの賛成多数により可決した。一方、教育委員会を地方教育行政の最終責任者(執行機関)として存続させる政府案の対案として民主党・日本維新の会が共同提出した、教育委員会を廃止のうえ教育行政の権限を首長に一本化する「地方教育行政法改正案」は否決された。政府案は、20日の衆議院本会議で可決のうえ参議院に送付される予定で、通常国会中にも成立するとみられている。

 

 通常国会の会期末(6月22日)まで残り1カ月あまりとなった。重要法案の会期内成立のメドがたちつつあることから、14日に開催された与党の幹事長・国対委員長会談で、会期を延長しない方針を確認した。会期を延長しない理由として、集団的自衛権の行使容認に向けた与党協議への配慮などもあるとみられている。

 

 

 集団的自衛権の行使容認をめぐる与党協議がいよいよ始まる。グレーゾーン事態など憲法解釈の変更を伴わないテーマから協議されていく予定だが、自民党・公明党の主張に隔たりがある集団的自衛権の行使容認をめぐっての駆け引きも水面下で進められる可能性もあるだろう。

 国会では、集団的自衛権に関する集中審議が来週にも行われる予定だ。集団的自衛権をめぐっては、野党それぞれ独自の主張を展開している。集中審議や6月11日の党首討論でどのような論戦となるかを見極めるためにも、安倍総理や各党の言動をきめ細かくみておくことが重要だろう。
 

【原英史・株式会社政策工房 代表取締役社長】
 
 今国会では、昨年秋の臨時国会で成立した「第一弾・電力システム改革法案」に続き、第二弾として、小売参入全面自由化などを内容とする法案が提出されている。
 成立すれば、すでに自由化されていた大口部門に加え、家庭まで含めて、すべての電力小売市場が自由化される。これに伴い、通信業界など異業種からも関心が示されているが、課題は少なくない。

 以下では、5月7日の衆議院経済産業委員会で、筆者が参考人として陳述した意見の概要をお示しする。


1、電力自由化とアベノミクス第三の矢(成長戦略)

 アベノミクスについて、内外関係者の目は、残念ながら、決して好意的なものばかりではない。特に、「第三の矢(成長戦略)はどうなっているのか」「もう飛ばないのでないか」といった声が少なくない。
 その中で、世界の期待をつなぎとめているのが、安倍総理の強いコミットメント、とりわけ、今年1月にダボス会議の場で、世界に向けて意欲的な方針と決意を示したことだ。

スピーチで、安倍総理は、第三の矢に関して以下6つの方針を示した。
1)岩盤規制の改革
2)TPP、EPAの推進
3)GPIF改革による成長への投資
4)法人税改革
5)女性活用、雇用市場改革
6)コーポレートガバナンス改革

 成長戦略においては、民間部門がいかに活動しやすい環境を作るか、不合理な制約を取り除くかが重要であり、規制改革は最も重要な柱だ。この観点で、安倍総理が、第一にいわゆる「岩盤規制の改革」を掲げたことは的確だ。
 その第一の柱の中で、安倍総理がまっさきにとりあげたのが電力自由化だった。

<安倍総理のダボススピーチより(抜粋)>
昨年終盤、大改革を、いくつか決定しました。できるはずがない――。そういう固定観念を、打ち破りました。
 電力市場を、完全に自由化します。2020年、東京でオリンピック選手たちが競い合う頃には、日本の電力市場は、発送電を分離し、発電、小売りとも、完全に競争的な市場になっています。
 日本では、久しく「不可能だ!」と言われてきたことです。
・・・(中略: 医療、農業について)・・・
既得権益の岩盤を打ち破る、ドリルの刃になるのだと、私は言ってきました。
 春先には、国家戦略特区が動き出します。
 向こう2年間、そこでは、いかなる既得権益といえども、私の「ドリル」から、無傷ではいられません。

 今後2年間という期限を切って、少なくとも国家戦略特区ではすべての岩盤を打ち破るとの大胆な宣言をしたことは、世界で大きな期待をもって受け止められている。
 ただ、その約束の前提となるのが、先頭を切って進行中の電力自由化だ。万一にも、これが失敗する、つまり「2020年に、日本の電力市場は、完全に競争的な市場になっている」という総理の宣言に疑いが生ずるような事態になれば、これは、電力分野だけの問題にとどまらず、アベノミクス全体に対する、世界の信頼を損なうことにつながりかねない。


2、法案の課題

 電力自由化の合理性・必要性は、簡単にいえば、こういうことだ。
・かつては、規模の経済の働く構造だったため、世界中どこでも、電力分野は、公営または独占形態での規制がなされていた。
・しかし、技術革新によって、送電部門を除いて、規模の経済が消失し、従来の規制の合理性はなくなった。
・ところが、すでに合理性を失った規制が、そのまま維持され、世界の多くの国々と比べ、二歩も三歩も遅れて、ようやく完全自由化に取り組んでいる。

 こうした事象は、我が国のいわゆる岩盤規制と言われる分野で、しばしばみられる典型的なものだ。
 今回、第二弾の法案で示されている、小売参入の全面自由化は、これに取り組むステップであり、方向に何ら異論ない。

 ただ、その際に、留意しておくべき課題を3点あげておきたい。

(1)自由化によって現実に競争が生ずるか?

 第一に、自由化によって現実に競争が生ずることが重要だ。
 すでに多く関係者から指摘がなされているとおり、これまでの大口部門を対象とした小売自由化では、自由化という制度改革はなされたが、残念ながら、現実の新規参入はごく限定的だった。「事実上の独占という市場構造は基本的に変わっていない」と、電力システム改革専門委員会報告書でも指摘される状態だ。こうした結果に終わらせてはならない。
 現実に新規参入する事業者が現れ、活発な競争がなされることが必要だ。特に、これまでの垂直一貫の電力供給という制度的制約が取り払われることにより、「電力事業」や「ガス事業」といった縦割りを越えて、新たな参入、業界再編が起こっていく可能性に注目すべきだ。
 さらに、エネルギーという枠も超えて、通信、上下水道などの領域ともまたがって、新たなサービス、インフラ企業が生まれる可能性もあろう。例えば、フランスのヴェオリアは、水道事業の会社として知られるが、実際には、エネルギー、廃棄物処理なども扱う、総合インフラ企業だ。
 このように、業種の枠を超え、共用できる設備・技術を共用して効率化する、消費者向けにセットメニューを提示するなど、さまざまな形で、新たなサービスや業態が生まれていく可能性がある。

 今回の電力自由化は、こうしたインフラ産業全体の進化・再編に向けた、出発点となるものであり、また、そうなってはじめて、十分な実効性を伴うはずだ。
 他方、業種を超えた展開を本格化していくうえでは、電力自由化以外の制度的な課題も出てくる。例えば、ガスシステム改革、熱供給システムの改革も必要だ。また、上下水道など公営インフラの民間開放については、産業競争力会議の立地競争力分科会で、今年2月以降、集中的に議論している。2011年PFI法改正で、いわゆるコンセッション方式での民間開放が可能になったが、実際上の課題は少なからず残されている。
 これらの課題は、日本では、電力部門などがたまたま歴史的に「公営」でなく、上下水道などは「公営」だったため、別のカテゴリーの課題として扱われがちだが、「インフラ部門への競争導入」という意味では共通課題だ。
 こうした「インフラ部門への競争導入」に関わる課題を一体的に解決していくことにより、部門を超えた相互参入・競争促進、新たな総合インフラ事業の創出、さらに将来的には、新たなインフラシステムの輸出・世界展開にもつながっていくと期待できる。
 ただ、多様な領域にまたがる改革を一斉に進めることには、困難が伴うかもしれない。この場合、まずは、国家戦略特区のような枠組みを活用し、地域を限った実験を先行することも一案だろう。

(2)独立性と専門性を有する規制組織への移行

 第二に、現実に競争を起こすためには、市場が正常に機能しているか、競争阻害的な行為がなされていないかなど、的確に監視する規制機関の機能が重要だ。
 この点、昨年成立した第一弾の改正法の附則で、「平成27年を目途に、独立性及び高度の専門性を有する新たな行政組織に移行」というプログラム規定が定められているが、早急に検討・準備が進められるべきだろう。
 その際、「独立性」の観点では、従来、独占的な地位を有していた電力会社からの影響を十分に排除できるようにすることが何より重要だ。このためには、電力会社との密接な関係が指摘されてきた、政治と経済産業省からの独立性も、避けては通れない。独立行政委員会の形式は、合理的な解決策となろう。
 また、「専門性」の観点では、金融規制などでの例も参考に、専門性ある人材を確保・育成できるように設計することが重要だ。
 さらに、今後「インフラ部門への競争導入」が全般的に進むとすれば、今回設けられる規制機関は、おそらく電力だけにとどまらず、より広範な競争規制機関に発展していく可能性がある。こうした可能性も視野に、検討がなされるべきだろう。

(3)自由化プロセスの停止・逆行を生じさせないために

 最後に、自由化プロセスの停止・逆行を生じさせてはならない。
 何よりまず、第三段階として積み残しになっている、発送電分離、料金規制の撤廃まで、確実に、十分な措置が実行すべきだ。
 また、今後、例えば、「一時的に電気料金が上昇した」、「たまたま停電が発生した」、「原発に関する何らかの事情変更があった」など、本質的ではない理由をつけて、自由化プロセスを停止・逆行させようとする動きが生ずる可能性は否めない。こうしたことを防がなければならない。

 参考までに、過去の他分野での規制改革の経験について述べておきたい。

まず、航空自由化について。
 航空分野は、かつては、国際線と国内線でのすみわけ、同一路線には一社だけといった競争回避措置がなされていた。1980年代以降、これが徐々に緩和・撤廃され、運賃規制についても規制緩和がなされた。
 規制緩和がなされた初期段階の頃の文献をみると、「規制緩和がなされてから、むしろ運賃が上昇した」といった指摘もあった。しかし、現時点で振り返ってみれば、こうした規制改革の成果として、多様な運賃メニュー、LCCの登場などが実現した。もちろん、すべて順風満帆ではなく、解決すべき課題はあろうが、少なくとも今、「やはり、かつての競争回避体制を維持しておけば
よかった」と考える人はまずいないはずだ。

次に、タクシー規制について。
 こちらは、90年代から2000年代はじめに規制緩和が進み、その後、「行き過ぎた規制緩和」で、運転手さんたちの労働環境悪化や事故が起きているという議論がでてきた。再び、需給調整と厳格な運賃規制の方向へとかじが切られつつある。
 この問題を詳細に論ずることは別の機会にしたいが、本来、労働環境悪化や安全上の問題は、労働規制、安全規制で対処すべき問題であり、これらを理由に、需給調整や運賃規制の復活が必要というのは筋違いだ。現在なされている議論は、規制効果の成果が十分にあらわれていない(つまり、運賃は決して下がっておらず、このために供給過剰が生じている)段階で、「行き過ぎた規制緩和」という誤った事実認識に基づき、再規制強化に向かおうというものだ。

 以上2分野の経験から言えることは、自由化プロセスにおいては、その成果が即座に十分あらわれるとは限らず、その前の段階で、何らかの理由をつけて停止・逆行させようという動きが生じうることだ。これに気をつけなければな
らない。

 これを防ぐ一つの方策は、所管省とは切り離し、改革プロセスにつき提案・監視する機能を設けることだ。例えば、かつて、道路公団民営化推進委員会、郵政民営化委員会など、担当省とは切り離し、別の担当大臣のもとに第三者機関を設けた例があった。
 こうした議論を経済産業省の人たちにすると、「自分たちは、改革反対の役所とは正反対で、むしろ自分たちこそ自由化推進派だ」と言うだろうし、そういう人ががんばっていることはそのとおりだ。だが、仮に今後、逆向きの動きがあらわれ、自由化プロセスが迷走する事態が想定されるとすれば、政府内でチームを2つにわけることは、過去にもこの種の難度の高い改革プロセスでとられてきた、ひとつの知恵だ。

 ともかく、第三の矢の先頭バッターである電力自由化が、迷走することなく前進していくことを期待したい。

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