原英史・株式会社政策工房 代表取締役社長】 

 6月の成長戦略改訂で、農業改革については、重要な前進があった。
 これまで長い間、解決困難な難題とされてきた農協改革などにも手を付けたことは、大きな前進といってよい。
 他方、もちろん、これで安心といった状況では全くない。今回の成果と、今後に残された課題について、整理しておきたい。

 まず、農業改革で何をやるべきかについては、長い間、一定の共通認識があったといってよい。
 農業経営の生産性を高めることが根幹であり、経営能力と意欲のある農業者を伸ばしていかなければならない。そのためには、農地の集約化を図る必要があり、すべての農家に一律に補助金をばらまくような施策からは決別する必要がある。
 こうした問題意識は、1960年代から、農業基本法制定、大潟村の発足などの形で、すでに明らかにされていた。しかし、これを徹底することができないまま、数十年が経過し、今日の農業の状況に至った。
2000年代に入ってからも、「農業者全体を対象とした一律的な政策を見直し、意欲と能力のある経営体に施策を集中化」(骨太の方針2002)との方針のもと、
 1)農業への企業参入の拡大、
 2)一定規模以上の意欲ある農業者に限定した補助制度の創設、
などの施策が講じられた。一定の前進はあったが、再び「一律的な政策」への揺り戻しがあるなど、成果は十分に発現されなかった。

 こうした中、農業改革の課題は、整理すれば以下のようなことだ。
(1)企業的な農業経営の自由化
<農業生産法人要件の緩和>
現状では、農地所有のできる法人は農業生産法人に限られ、農業生産法人には、出資者構成・役員構成などにつき、厳格な要件が課されている。これが、企業的な農業経営への転換の大きな障壁となる。

(2)農地集積と有効利用のための改革
<農業委員会改革>
 現状では、地元の農業関係者のボスたちが、選挙により(実際上は無選挙状態となることも多い)農業委員となり、この委員会が 農地の権利移転・利用に関する権限を握る。この結果、外部からの参入を排除するといったことが起きがちだ。

<その他>
このほか、税制面などで農地の有効利用を促す仕組みを導入すべきとの議論も長くなされている。

(3)農協改革
 現状では、強くなる見込みのない多くの農家(零細な兼業農家など)が、農協依存の農業経営(農協から必要物資を購入し、農協から資金を借り、農協経由で補助金をもらい、農協の指導に従って産品をつくり、できあがったものは農協に納入)でなんとか存続し続け、他方で、自律的な農業経営は妨げられがちだ。

(4)生産調整と価格規制の改革
 米の生産調整、貿易障壁による価格競争排除などがこれにあたる。

 これら課題について、安倍内閣での取組は別紙1のとおりだ。
・2013年に、農地中間管理機構などの措置がとられたほか、
・2014年春からスタートした国家戦略特区の地域限定での改革もなされた。

 加えて、今回6月の成長戦略改訂で、さらなる前進がなされた・・ということだ。

 別紙1をみれば明らかなように、これまで長らく課題とされていた事項について、それぞれ、前進が図られており、大きな成果であることは疑いない。

0710 原さん 別紙1

 他方で、課題も残されていることを指摘しておきたい。

 

(1)まず、今回の成長戦略改訂は、まだ作文の段階であって、具体的な措置は今後に委ねられている。

 

(2)それぞれの成果(別紙2)についても、いくつかの課題が残されている。

 1)農業生産法人要件について、出資要件で「過半は農業関係者」とされている点は、今後に残された課題だ。このままでは、通常の企業が農地所有して参入することは困難であり(農業関係者とともに別法人を設けるとしても、出資規模が制約される)、また、農業ベンチャーが上場を目指すといったこともできない。


 2)農業委員会改革は、選挙制度を廃止し、市長が議会の同意を得て選任する仕組みに変えることとされているが、従来と同じ人たちがそのまま選任されるだけにもなりかねない。農業委員会の実際のあり様を変えるため、具体的な制度設計上の工夫が必要だ。

 

 3)農協改革では、全中・全農とも、どのような姿の組織形態になるのか(全農の場合も、「株式会社化」とはいっても、どのような株主構成の株式会社になるのか等)、今後の具体的な制度設計次第だ。

0710 原さん 別紙2

 次期通常国会に向けて、こうした点を十分ウォッチしていく必要がある。