【山本洋一・株式会社政策工房 客員研究員】

 衆院選が14日に投開票される。新聞やテレビは与党優位の情勢を伝えているが、報道通りに与党が3分の2以上の議席を確保したとしても選挙前の状況と変わらない。むしろ注目すべきは野党の獲得議席。結果次第では、野党再編の行方が大きく揺れ動く可能性があるためだ。

 
 各報道機関の世論調査を総合すると、自民党が300議席を超える勢いで、公明党も選挙前の31議席を上回るのは確実だという。与党が国会運営を主導できる絶対的多数の266議席を優に超え、参議院で否決されても衆院で再可決することのできる全議席の3分の2、つまり317議席を超える可能性が高い。

 
 与党は前回2012年の総選挙でも大勝しており、選挙前は324議席を確保していた。今回の選挙でさらに議席を伸ばしたとしても、状況はさほど変わらない。自民党単独で317議席を超えれば公明党の存在感が低下する可能性もあるが、そこまでの勢力増は難しいとみられる。

 
 与党の絶対優位が揺るがないとすれば、今回の選挙で注目すべきポイントは何か。どの野党がどの程度の議席を獲得するか、そして野党の誰が議席を獲得するか、である。

 
 公示前の野党勢力は民主党が62、維新の党が42、次世代の党が19、共産党が8、生活の党が5、社民党が2だった。この中で野党再編に絡みそうなのは民主と維新、次世代、生活の4党。情勢調査によれば次世代と生活はほとんど議席獲得のめどがたっていないことから、民主と維新がどれだけ議席を取れるかが注目点となる。

 
 報道によると民主は70議席台、維新は30議席台と予測されている。民主は議席を伸ばすとの予測だが、伸び幅は小幅にとどまる。海江田万里代表が獲得目標として掲げている「3桁」には到底及ばない。

 
 維新も54議席を獲得した前回選挙のような勢いがなく、今回も公示前から議席を減らすと予測されている。選挙が終われば民主の前原誠司元外相や細野豪志元幹事長、維新の江田憲司氏ら野党再編論者たちが動き出すとみられているが、民主と維新の獲得議席数によって誰が主導権を握るのかが変わってくる。

 
 さらに、民主党の代表選も絡んでくる。民主が目標を大幅に下回れば執行部の責任論が浮上するのは確実で、海江田氏自身が落選する可能性も浮上している。どちらにしても代表選となれば党内の勢力抗争が活発化し、野党再編の行方にも影響を与える。

 
 民主党内の再編論者たちがなかなか動き出さないのは、民主党の金庫に多額の金が眠っているからだ。2009年の衆院選で大勝した結果、民主党には多額の政党交付金が舞い込んだ。その後の選挙で使ったとはいえ、今も100億円を超える資金が残っているとみられる。だからこそ彼らは民主党を核とした野党再編にこだわっているのである。

 
 今回の総選挙に際しては共倒れを防ぐために民主と維新が候補者調整に動いたが、それでも21の選挙区で両党の候補者がバッティングした。どちらの候補者が生き残るかによってその後の選挙区事情が変わってくる。仮に両者が当選すると再編の障害にもなりかねない。

 
 与党圧勝ムードを受けて、国民の関心が盛り上がらない今回の総選挙。与党ではなく、野党に注目してみれば、少しは興味が増すのではないだろうか。