原英史・株式会社政策工房 代表取締役社長】
 
 安倍総理は6月に入って、「来年度から法人税引下げ」を明言している。
 自民党政権では、税制に関しては伝統的に、政府よりも党税調が強い力を持つ。昨年末の予算編成プロセスでも、安倍総理が法人税引下げに意欲を見せていたものの、結果的には、すでに決定済みの引き下げ(復興法人特別税分の前倒し引き下げ。つまり、実効税率ベースでは38%から35%へ)にとどまった。
 今回は、6月下旬の骨太方針・成長戦略改訂を見据えて、このタイミングで総理が対外的に発言していることを考えると、おそらく、すでに党との間でも、何らかの引き下げを行なうことはすりあわせた上でのメッセージと考えるのが自然であり、月内に一定の決定がなされることになろう。

 ただ、問題は、どの程度の引き下げがなされるかだ。
 日本の35%に対し、OECD諸国(日本を除く)の平均は25%。近隣国をみても、香港16.5%、シンガポール17%、韓国24%と、近隣国との間には大きな差がある。
 これだけの違いあれば、グローバルに活動する企業が事業拠点を海外に移すのは自然であり、結果として最も困るのは、国内で雇用機会を奪われる人たちだ。
 安倍総理は1月のダボス会議で、法人税を「国際的に競争可能な水準」に引き下げることを表明しているが、これを文字通り実行できるかどうかが問われる。

 ただ、これまでの政府会議などから垣間見えるところでは、そうした大胆な引下げがなされるのかは定かでない。
 例えば、5月15日の経済財政諮問会議で民間議員が提出した資料では、「世界で最も企業が活動しやすい国」を目指すため、「法人税の実効税率について、将来的には25%を目指しつつ、当面、数年以内に20%台への引き下げを目指すべき」と提案されている。
http://www5.cao.go.jp/keizai-shimon/kaigi/minutes/2014/0515/shiryo_01_2.pdf


「20%台」というのは「29.・・%」という意味だから、この提案の意味は、
・数年かけて5~6%程度の引き下げ、
・その先の将来に25%へ、
ということだ。「世界で最も企業が活動しやすい国」になるのは、かなり先のことになる。
 この種の会議では、民間議員が思い切った改革提案を行ない、調整を経て、もう少し穏やかな案に落ち着くことが一般的。民間議員提案の段階でこれでは、どうなってしまうのか・・と思われなくもない。「数年で5~6%の引き下げ」では、民主党政権下で表面税率5%引下げ(実効税率35%へ)よりかなり小幅ともいえよう。

 一方、地方自治体からは、より大胆な提案もなされている。
 例えば、国家戦略特区に選ばれた大阪府や福岡市は、特区内に限るなどの一定の限定を課しつつ、よりスピーディに大胆に法人税を引き下げることを提案している。特に大阪府・市の場合は、すでに総合特区内で一定企業に対し、地方税(地方法人税、固定資産税など)をゼロにしてきた実績を踏まえての提案だ。

 海外に流れつつある事業拠点を国内に呼び戻し、さらに世界の企業・人材を呼び寄せようと本気で考えるのであれば、少なくとも特区限定といった措置でも、スピーディで思い切った引き下げを検討すべきかもしれない。