【原英史・株式会社政策工房 代表取締役社長】
医薬品のインターネット取引について、過去数年にわたる議論を経て、今年6月から解禁された・・と言われているが、実際には、決して「解禁」とは言えない。
・安倍首相は、当初は、一般用医薬品につき「全面解禁」と表明していたが、結局、処方薬からスイッチした直後の品目など28品目については引き続き禁止。
・さらに、その裏側で、あまり争点とはされなかったが、処方薬についても引き続き禁止とされた。
禁止が続く理由は、「インターネットを利用するとリスクが高い」とされるが、論拠は明確ではない。
・たしかに、リスクが高い品目については、購入に際して、副作用情報を伝えたり、本人に既往症を確認するといったことが必要だ。しかし、数多くの確認事項がある場合、店頭よりむしろ、インターネットで行なう方が確実なはずだ。
・また、「薬剤師が対面して、五感を用いて判断することが大事」という主張(2013年10月29日の産業競争力会議分科会で紹介された五十嵐座長メッセージ)もあるが、五感を用いてどういう事項を判断するのかははっきりしない。
結局、安全性の問題を隠れ蓑に、伝統的な薬局の利権温存が図られたと捉えざるを得ない。
同様の議論が、不動産取引について現在進行中だ。
争点となっているのは、宅地建物取引業法に基づく「重要事項説明」。
現行制度では、
・契約の中の重要事項について、宅地建物取引主任者が対面で説明すること、
・その際、「書面」を交付すること(電子メールなどでは不可)、
が求められ、インターネットを利用した重要事項説明は認められない。
不動産取引の場合、「ふつう現地で物件確認するはずで、インターネット利用のニーズは小さいのでは」と思われるかもしれませんが、そうとは限らない。
例えば、遠方に転勤する場合や、時間のないビジネスパーソンが引っ越す場合など、物件候補は現地に見にいくとしても、最終的に選んだあとの重要事項説明などの手続きは遠隔で済ませられれば・・といったニーズは少なくない。
また、近距離の引越しであっても、「家族でシェアしたいのでテレビ電話で説明してほしい」「文字に残すため対面ではなくメールで質問に回答してほしい」などの理由で、インターネットでの重要事項説明を望む場合もある。
しかし、こうしたことは認められず、重要事項説明の際は必ず「対面」しなければならない・・というのが現行制度だ。
こんな規制は見直すべきではないか・・ということで、2014年4月、国土交通省で、「ITを活用した重要事項説明等のあり方に係る検討会」という会議が設置され、検討がスタートした。
http://www.mlit.go.jp/totikensangyo/const/sosei_const_tk3_000092.html
しかし、検討会での議論の様子を議事録でみると、以下のような理由で、「インターネット利用には問題がある」との主張が少なくない。
・テレビ電話による場合、相手が(書面をみるため)下を向いてしまうので、表情が読み取りづらく、理解できているかどうかの確認が難しい、
・取引主任者証が、テレビ電話でははっきり見えないので、偽造されても分からないおそれがある、など。
考えてみれば、
・「下を向いてしまう」場合があるのは、「対面」であっても同じことであり、
・「取引主任者証」は、多くの消費者はそんなに見たことがないので、「対面」であっても偽造かどうかの区別はつかないことが多いはず(偽造や詐欺への対策は、別途講じられるべきこと)。
医薬品の議論の際の「五感を用いて・・」といった議論と同様の話ではないだろうか。
現在、この検討会での「中間とりまとめ」について、パブリックコメントの募集(8月22日まで)がなされているが、こうした否定的な主張を受けて、インターネット利用の解禁は限定的なものにとどめる(消費者側の同意があったとしても、遠隔地間の賃貸契約等以外は認めないなど)方向のようだ。
http://www.mlit.go.jp/common/001048355.pdf
まだ「中間とりまとめ」の段階であり、さらに議論が明確にされていくことを期待したい。