政策工房 Public Policy Review

霞が関と永田町でつくられる“政策”“法律”“予算”。 その裏側にどのような問題がひそみ、本当の論点とは何なのか―。 高橋洋一会長、原英史社長はじめとする株式会社政策工房スタッフが、 直面する政策課題のポイント、一般メディアが報じない政策の真相、 国会動向などについての解説レポートを配信中!

カテゴリ: 政策レポート

高橋洋一・株式会社政策工房 代表取締役会長】


 2014年11月の沖縄県知事選以降、辺野古の埋め立て工事が順調にいっていない。
 
 ついに、翁長知事は、23日、辺野古移設について防衛省沖縄防衛局に対し、水産資源保護法の沖縄県漁業規則に基づく作業の中止を指示した。これに対し、防衛省は行政不服審査請求にでて、水産資源保護法を所管する農水省は沖縄県の指示の効力を止める方針だ。そして、農水省が、沖縄県と防衛省沖縄防衛局の両方の意見を聞き、知事の妥当性を判断する予定だ。
 
 
 ここで、辺野古埋立に関する沖縄県の関与について、制度を確認しておこう。一つは、公有水面埋立法に基づく県知事の承認である。同法では「国ニ於テ埋立ヲ為サムトスルトキハ当該官庁都道府県知事ノ承認ヲ受クヘシ」(第42条)とされ、国土利用上適正かつ合理的であること、環境保全・災害防止に配慮していることなどを条件としている。この県知事の承認は、当時の仲井真知事によって2013年12月に行われた。もちろん、法律上の要件を満たしているから、承認が行われたわけだ。その後、国からの一部変更申請も承認されている。これらの承認に基づき、国は既に埋め立て設計、水域生物等調査検討などの事業を行ってきた。
 
 
 もう一つは、今回話題になっている水産資源保護法の沖縄県漁業調整規則に基づく県知事の岩礁破砕許可。県漁業調整規則では、「漁業権の設定されている漁場内において岩礁を破砕し、又は土砂若しくは岩石を採取しようとする者は、知事の許可を受けなければならない。」(第39条第1項)とされ、「知事は、第1項の規定により許可するに当たり、制限又は条件をつけることがある。」(第39条第3項)とされている。この県知事の許可は、条件が付されて、当時の仲井真知事によって2014年8月に行われた。その際、許可条件として、「公益上の事由により県が指示する場合は従わなければならず、条件に違反した場合には許可を取り消すことがある」とされた。今回、この許可条件に基づく県知事の指示が行われた。
 
 
 日米両政府が普天間返還に合意した1996年以降5回の知事選において、翁長知事は、辺野古移設反対を掲げて初めて勝利した知事だ。だが、逆にいえば、それまで反対しなかったので、辺野古埋立への既成事実が積み上げられてきた。

 2014年11月の沖縄知事選で、辺野古移設反対を政治的に実行できる可能性はほとんどないのに、それを公約としても、現実問題として実行するのはかなりの無理筋といわざるをえない。
 
 
 沖縄知事選中、翁長氏は、承認決定をひっくり返すために、「過程を検証し、法的問題があれば承認を取り消せる」と主張していた。沖縄県は、今年2月に検証するために第三者委員会を立ち上げて、6月までに結論を出す予定だった。
 
 
 しかし、今回、それを待てずに、上記の許可条件を強引に使ってきた感じだ。これからの行政不服審査の審理の中で、従来の許可条件の実行の事例などと照らして、今回の指示が正当なものであるのか、裁量権の乱用なのかがが慎重に議論されるだろう。
 
 
 行政不服審査の審理は数ヶ月かかる予定なので、政府対沖縄県の辺野古騒動は水入りである。ただし、行政不服審査は政府が勝つだろうから、それを待たずに、沖縄県は裁判所に行政事件訴訟を起こすだろう。
 

 もっとも、この場合においても、裁判所は、案件が高度な政治性を有するといい、いわゆる「統治行為論」から判断を下さない場合もある。司法手続きでも、沖縄県が勝つ可能性は少ないといわざるをえない。

 政府としては、今後、県民感情を害しないためにも不測の事故を起こさないように、慎重に手順を進めていくだろう。場合によっては、次の沖縄県知事選までゆっくり進めて、辺野古移設に拒否反応が少ない知事の誕生を待つくらいの我慢強さが必要だろう。
 

高橋洋一・株式会社政策工房 代表取締役会長】
 

 予算時期なので、三つの特別会計を紹介しよう。

 まず、国債整理基金特別会計。一般会計又は特別会計からの繰入資金等を財源として公債、借入金等の償還及び利子等の支払いを行う経理を一般会計と区分するために設置された特別会計である。定率繰入れ等の形で一般会計から資金を繰り入れ、普通国債等の将来の償還財源として備える「減債基金」の役割もある。
この「減債基金」は、先進国で日本しかない。他の先進国では昔はあったが、公債市場が大きくなって整備されると償還財源はその都度借換債で調達するので、「減債基金」はなくなった。そういえば、民間会社で社債の「減債基金」もない。将来の借金償還のために、さらに借金をする必要がないわけだ。

 この観点から見ると、2015年度予算の11.6兆円の定率繰入は過大な計上であり、不要である。
また、利払費が9.7兆円ある。しかし、この積算金利は1.8%と過大だ。おそらく2兆円くらいは過大計上だろう。

 次に労働保険特別会計。労災保険と雇用保険を経理するために設置された特別会計である。労災保険は、業務上の事由等による労働者の負傷等に対して迅速かつ公正な保護をするための保険給付及び被災労働者の社会復帰の促進等を図るための社会復帰促進等事業を行うもの、雇用保険は、労働者の失業中の生活の安定、再就職の促進等を図るための失業等給付及び雇用機会の増大等を図るための雇用保険二事業を行うものである。

 2013年度の労働保険特別会計財務書類をみると、雇用勘定のバランスシートで7.1兆円の資産負債差額がある。いわゆる埋蔵金である。これは、高めの雇用保険料にもかかわらず失業保険給付が少ないために生じたものである。国民に還元すべきであろう。

 最後に、外国為替資金特別会計。政府が行う外国為替等の売買に関し、その円滑かつ機動的な運営を確保するため外国為替資金が設置されるとともに、その運営に伴って生じる外国為替等の売買、運用収入等の状況が区分経理するために設置された特別会計である

 外為資金として127.9兆円(2013.3末)。このうち外貨債権は103兆円(証券は99.5兆円、貸付3.5兆円)である。ちなみに、外貨証券の満期は1年以下1割、1年超5年以下6割、5年超3割)となっている。一方、外貨負債はない。ということは、円安は資産を膨らませるだけであり、政府財政にとっては確実にプラスである。ざっくりみると、外為資金での円安による評価益は20兆円程度ありそうである。

 かつて、「母屋(一般会計)ではおかゆで、離れ(特別会計)ではすきやき」といわれたことがある。これは今でも妥当しているようだ。
  

原英史・株式会社政策工房 代表取締役社長】 

 地方議会はこのままでよいのでしょうか?

 
 昨年は、号泣議員やセクハラ野次問題など、地方議員の質が問われる事案が続きました。「あまりに低レベル」と感じられた方が多いことでしょう。しかし、そんな議員たちを選んだのは、私たち有権者です。ただ、「ダメだ」と言っているだけでは、問題は解決しません。

 
 4月の統一地方選挙が近づく中で、どうしたらよいのか、改めて考えるべきではないでしょうか。

 
 

 2月26日、「地方議会を変える国民会議」という団体を、筆者も参画し、立ち上げました。

26日夕方に半蔵門で行なわれたキックオフ会合には、堺屋太一氏(作家、元経済企画庁長官)、屋山太郎氏(政治評論家)、佐々木信夫氏(中央大学教授)、岸博幸氏(慶應義塾大学教授)、藤原里華氏(プロテニスプレーヤー)らが参加。また、ビデオメッセージを寄せた竹中平蔵氏(慶應義塾大学教授、元総務大臣)ほか、20人を超える発起人が名を連ねました。


 

 ポイントは、結論から先にいえば、地方議会の「土日・夜間開催」です。


 欧米各国の地方議会は、「土日・夜間開催」で、普通の人が仕事をもったまま議員になることが当たり前です。一方、日本の場合は、「議員=特殊な仕事」です。議員になるといったら、勤めていた会社は退職し、すべてをなげうって立候補することが一般的です。これは決して世界標準ではありません。そして、「議員=特殊な仕事」となっているが故に、議員になる人材の幅がごく限られ、多様性や質を損なっているのではないか、ということです。


 こうした問題提起は、かなり以前からなされています。例えば、政府の地方制度調査会(総理大臣の諮問機関)では、2005年に、「休日、夜間等に議会を開催」「勤労者が議員に立候補でき、また、議員として活動できるような環境の整備」を進めるべきとの答申が出されました。しかし、10年経っても、何も進んでいません。


 「議会は平日昼間にやらないといけない」と法律で決まっているわけでも何でもありません。それぞれの議会で、「土日・夜間開催」と決めればできることです。しかし、現実の地方議会では、これがなかなかできないのです。


  

 できない理由は、地方議員の現状をみればわかります。


「地方議会を変える国民会議」の資料で、現状を整理していますが、簡単にご紹介しておきましょう(資料は以下のサイトでご覧いただくことができます)。

http://www.chihougikai-kaikaku.com/


 

 日本の地方議員は、総数34,879人(都道府県:2,739人、市・特別区:20,425人、町村:11,715人)です。議員たちに報酬などの形で支払っている総額は、試算してみると、2,690億円(報酬、期末手当、政務活動費、費用弁償・諸経費の合計)に達します。例えば、ゲームソフトや携帯電話向けゲームの市場規模は0.2~3兆円ですから(経済産業省ホームページより)、これに匹敵する、かなりの規模の“産業”なわけです。

 
 また、一人あたりの報酬等の合計額(年額)は、試算によれば、都道府県:2,026万円、市・特別区:833万円、町村:370万円です。これは、多くの国の地方議会と比べると、かなり突出しています。例えば、イギリスの地方議会は一人あたり支払が73万円、ドイツは50万円程度、フランスの基礎自治体はほぼ無報酬です。アメリカも、100万人以上の都市を除けば、交通費や日当程度(50万円程度)とされています。(いずれも佐々木信夫『地方議員』PHP新書より。)もちろん、こんな金額で生活はできませんから、ふつうの仕事をもったまま議員を務めることが当たり前なのです。

 
 

 世界的に異常な金額を支払っていても、金額に見合う成果があがっているならば、まだよいでしょう。現実はどうでしょうか? 


 議会の平均会期日数をみると、都道府県:98日、市・特別区:85日、町村:44日です。キックオフ会合で佐々木教授も指摘されていましたが、一日当たりこれだけの金額を稼げる人は、日本にそう多くいません。

 
 もちろん、仕事の成果は、日数がすべてではありません。そこで、実質的な活動ぶりはどうかというと、


・議員提案の政策条例が一つもない「無提案」議会が91%、

・首長が提出した議案を全く修正・否決していない「丸のみ」議会が50%、

(2011年朝日新聞アンケートによる)

などといった状態です。つまり、到底機能を果たしているとはいえない議会が大半なのです。


 

一方で、90日程度とはいえ、これが平日昼間に開催されますから、ふつうの仕事をもった人の兼職は難しくなります。「議員専業」が多くを占めるわけです。


 この結果、日本では、地方議員になることは、多くの場合は仕事をやめ、高いリスクを背負って、「政治」という特別な世界に飛び込むことを意味します。これは、ほとんどの人にとって、およそとりえない人生の選択肢です。「議員=特殊な人」になってしまうわけです。


 もし、多くの国でなされているように、地方議会は「土日・夜間開催」にし、ふつうの仕事のある人が地域貢献の一環として(いわばPTA活動や地域活動などのように)、ふつうに務めることが当たり前になったら、どうでしょうか。もっと多様な知識・経験・能力のある人材が参画し、議会の機能を高めることができるのでないでしょうか。


 一方で、ふつうの仕事のある人が兼務するならば、報酬等の額はずっと少なくてよいのでないでしょうか。

 
 これが私たちの問題提起です。(提案の詳細は、前記のウェブサイトをご覧ください。)

 

 
 議論しているだけでは、10年経っても進みません。どこかでまず、具体的に実現してみることが必要です。

 
 そこで、私たちは、まず日本のど真ん中の千代田区で、区議会の「土日・夜間開催」を実現することを提案しています。

 
 千代田区には、永田町・霞が関・丸の内・大手町はじめ、日本の政治・経済・文化の中心がすべて集まっています。こうした特別な場所だからこそ、先端的な変革を実現できる可能性が十分あります。そして、キックオフ会合で岸教授も強調したように、こうした特別な場所だからこそ、その効果と意義も極めて大きいと考えられます。これまでならば決して議員にはならなかったような人たちが、「土日・夜間開催」を前提に参画することで、議会と地方行政を大きく転換できるはずです。

 

 
 「地方議会を変える国民会議」は、特定の政党や党派に与するものではありません。政党・党派を超えて、問題意識を共有できる方々とともに、「土日・夜間開催」を実現したいと考えています。当面は、


・これまでならば決して議員にならなかったような人たちに、議員兼務という可能性の検討を呼びかける、

・企業の経営者などに、自社の役職員の議員兼務を認める(さらには、地域貢献の一環として奨励する)よう呼びかける、

・現職の地方議員を含め、できるだけ多くの方々との意見交換の場を設ける、

といったことを進めていくつもりです。


 

 ぜひ、一人でも多くの方々に、この運動にご賛同・ご参画いただければ幸いです。

 
 具体的な活動予定などは、「地方議会を変える国民運動」のウェブサイ<http://www.chihougikai-kaikaku.com/>をご覧いただければと思います。
 


高橋洋一・株式会社政策工房 代表取締役会長】

 参院は25日午前の本会議で、早稲田大学・政治経済学術院特任教授の原田泰氏を起用する政府の同意人事案を賛成多数で可決した。

 民主党は反対したが、その考え方は大久保議員が行った反対討議によく出ている。大久保氏の個人の意見というか、今の民主党の見解を表していると思うので、民主党の政策をみる上で、重要なものだ(http://www.dpj.or.jp/article/106253 ) 。

 大久保氏の反対討論は、3つの反対理由をあげている。これらの反対理由が妥当かどうか、きちんと検証しておこう。

 1点目は、原田氏が「日銀が国債を買えば政府債務を減らすことができる」と主張している点だ。大久保氏は「政府と日銀の統合バランスシートで見れば、日銀が国債を全部買えば、政府債務は日銀の資産だから、連結すれば相殺される。しかし日銀の負債、すなわち日銀券と準備預金という民間資産は相殺されない」と反論した。
この大久保氏の反論をみると、連結すれば相殺されるといっている。これは原田氏の意見と同じだ。原田氏は、経済学の統合政府という政府と日銀を連結させたバランスシートで見たときの話をしているだけだ。なぜ連結ベースのバランスシートを見るかというと、日銀が政府の子会社だからだ。通常の企業会計でみると、日銀は政府の連結対象である。この点、大久保氏は、日銀の負債を民間と書いているが、政府の連結バランスシートをみるのだから、単純に民間とみてはいけない。

 第二、原田氏が「日銀は国債を、コストをかけずにただで買っている。10兆円分の国債を購入して、仮に2割損しても、もうけは8兆円ある」といったことだ。大久保氏は、「複式簿記で日銀の会計処理を行えば、そのような打ち出の小槌的手法が不可能ことは、明白です。」と反論した。
原田氏の発言の元は、筆者が10年以上前に著書(岩田規久男編「まずデフレをとめよ」 http://www.amazon.co.jp/dp/4532355648/ )で書いたことなので、筆者から大久保氏の反論が誤っていることを言おう。

 まず、大久保氏は通貨発行益の本質を知らないようだ。通貨発行益はほぼ通貨発行額になる。原田氏が言ったのは、国債買い入れで通貨発行益が出る場合、通貨発行益は国債購入金額と同じなので、その一部で損失が出ても、まだ益が残ると言うことである。大久保氏は、日銀の通貨発行益は、購入した国債の金利収入相当だという財務省・日銀の説明を鵜呑みにして、2割の損失を金利収入ではまかなえないとして反論したはずだ。ところが、筆者の前掲書を見れば、毎年の国債金利収入の現在価値の総和は通貨発行額になると証明している。要するに、大久保氏の反論は1年だけを見ているだけで、複数年で考えると原田氏の意見は正しいことを見落としてしまったのだ。

 最後に、原田氏の「貸し出しをせず国債ばかりもっている銀行は、日本経済のためには役に立っていない銀行である。そのような銀行が破綻しても日本経済になんのマイナスにもならない。むしろ、このような銀行が破綻することこそが最大の構造改革である」という主張だ。大久保氏は金融機構局の運営や金融システム安定に大きな障害をもたらすと反対した。

 原田氏は、デフレ社会にしか対応できない金融機関は社会的な貢献がないという趣旨だろう。大久保氏は、デフレ社会こそがノーマルであると言いたいようで、政策論として違和感がある。大久保氏は、いわゆる「債券村」の意見を代弁しているだけではないだろうか。「債券村」の意見は、しばしばデフレ指向で、一般社会と逆なので、良く注意しなければいけない。(http://www.zakzak.co.jp/society/domestic/news/20150226/dms1502260830004-n1.htm

高橋洋一・株式会社政策工房 代表取締役会長】

 前回のコラムで「ピケティ本の解説を出します」(http://seisaku-koubou.blog.jp/archives/%E3%83%94%E3%82%B1%E3%83%86%E3%82%A3%E6%9C%AC%E3%81%AE%E8%A7%A3%E8%AA%AC%E3%82%92%E5%87%BA%E3%81%97%E3%81%BE%E3%81%99.html )と書きながら、まだ書店に並んでいない。私のところには現物が既に届いているので、1週間以内で全国の書店に行き渡るだろう。アマゾンでは、予約中だ。
 



 この解説本は、できるだけ私の意見を述べないで、書いた。既にでている解説書が、解説といいながら、なぜかピケティ本の虎の威を借りて、個人の意見表明しているモノが多い。

 
 格差という言葉に、日本のへたれ左翼が飛びついたようだ。ピケティ氏の来日もあったので、そうした人たちは、アベノミクス批判をするので、ピケティ本を利用したようだ。しかし、ピケティ本を読めばわかるが、ピケティ自身はマルクス経済学者ではない。それに成長を否定するのでなく、インフレも許容し、なにしろデータで経済を語ろうとしている。こうした姿勢は、へたれ左翼と正反対の姿勢なので、そうした人々がピケティ本を利用しようとする意図は空振りだった

 
 また、アベノミクスの金融政策や消費増税スキップを批判しようとする人たちも、ピケティ本を利用したかっただろう。しかし、ピケティは、アベノミクスの金融政策を評価し、消費増税に反対姿勢を示して、そうした人たちの期待を裏切った。

  
 筆者のピケティ本の解説は、筆者の個人的意見を入れないようにしたが、出版者から少し書いてくれと言う要請もあり、本文ではなくコラムの形で書いている。その部分を紹介しよう。

 
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コラム ピケティが見た「日本の経済」
 
 図2-5で述べたように、ピケティは今後の世界のGDP成長率を1.5パーセントくらいと予測している。
しかし、日本だけで言えば、このままいくと1.5パーセントの予測よりずっと低くなると見るべきだろう。なぜなら、ここ二十数年間、日本のGDP成長率は、世界最低水準にあるからだ。

 図2-5でも示されているが、2012年の世界GDP成長率は3.5パーセントくらい。しかし日本は、2014年の時点で1パーセントにも満たない。

 勘違いしないでほしいのだが、どこか急速に成長している国が世界GDP成長率を引き上げているのではない。大半の先進国や新興国がこの水準で、日本だけが低いというのが実情である。

 そんな日本を、ピケティはどう見ているのだろうか。2014年12月22日の日本経済新聞に掲載されたインタビューでは、こんなふうに答えている。

 「安倍政権と日銀の物価上昇を起こそうという姿勢は正しい。2~4パーセントの物価上昇を恐れるべきではない。4月の消費増税はいい決断とはいえず、景気後退につながった」

 政府と日銀がインフレ目標を立て、それを断固としてやり遂げる意思と確実に達成できる手段を示すと、ると、人々のマインドがデフレからインフレ予想に変わり、実際にインフレになるという経済論理がある。信頼を得た中央銀行に従う方が合理的だからだ。

 こうしてデフレ脱却することは、GDP成長率を高める第一歩となるのだが、安倍政権は、第一二次政権発足直後に、この方式をとった。ピケティが言うように、惜しむらくは、その後、消費増税が実行され成されたことだが、最初の姿勢は正しかったのだ。

 格差を正すために、累進課税を強化するのもいいだろう。しかし、特に日本の場合は、まず、もっと景気を回復させ、世界最低水準のGDP成長率を上げることが前提急務なのである。さらに累進課税をやるにも、しっかりとした番号制度と歳入庁(社会保険料と税の一体徴収)という先進国では当たり前の税インフラを日本でも整備しないと、累進課税すらうまく出来なくなってしまう。日本ではまだやるべきことが多い。

 なお、ピケティ氏の見解を曲解して、アベノミクスの金融政策批判に使う人もいるので、要注意だ。
ピケティ本を読んでも、インフレ目標2%に関連したところはあるが、評価をしても否定的ではない。前述した日経新聞のピケティ氏へのインタビューでも、アベノミクスを評価している。

 なぜ、曲解するのか。それは、格差の是正策として、資産課税かインフレかを質問して、その答えをアベノミクスの金融政策批判として、「編集」するからだ。
確かに、ピケティ氏は、格差是正対策としては、インフレも効果があるとしながら、資産課税の方が優れていると考えている。しかし、それはマクロ経済政策としての金融政策を批判したものではない。

 アベノミクスの金融政策は、インフレ目標2%での量的緩和策だ。アメリカ、イギリス、カナダ、ユーロで採用されている国際標準だ。これが間違いなら、世界の先進国すべてが間違いになる。ピケティ氏のようなまともな経済学者なら、いうはずない。

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