政策工房 Public Policy Review

霞が関と永田町でつくられる“政策”“法律”“予算”。 その裏側にどのような問題がひそみ、本当の論点とは何なのか―。 高橋洋一会長、原英史社長はじめとする株式会社政策工房スタッフが、 直面する政策課題のポイント、一般メディアが報じない政策の真相、 国会動向などについての解説レポートを配信中!

カテゴリ: 政策レポート

 
【高橋洋一・株式会社政策工房 代表取締役会長】


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27日、衆議院我が国及び国際社会の平和安全法制に関する特別委員会で安保法制が審議入りした。

 

 なかなか、政府と野党側の質疑はかみ合わない。例えば、野党側は、自衛隊の後方支援の活動範囲が「非戦闘地域」から「現に戦闘が行われている場所」以外に拡大することで自衛隊員が標的となるリスクが増大すると、批判する。

 一方、安倍首相は、「法整備で国全体のリスクが下がる効果は非常に大きい」「日米同盟の強化は国民全体のリスクを低減させることにつながる」と反論する。

 

 このかみ合わない理由は、それぞれが同じ「リスク」という言葉を使っているが、意味が違っているからだ。「リスク」という以上、確率を意味するわけであるので、考えられる場合を列挙して、数値例で説明したほうがいい。特に、マスコミは、ただ議論がかみ合わないというだけではなく、どういう点がかみあっていないのかを国民に説明する必要がある。

 

 確率論でならう「条件付き確率」という概念を使うと、両者の違いが納得できる。

 

 野党のいうリスクが増大するという意味は、不測の事態においては、個別的自衛権の行使のみの場合とそれに集団的自衛権の行使を含めた場合のどちらのリスクが高くなるかといえば、集団的自衛権を含めた場合といっているのだろう。

 

 一方、安倍首相のいうリスクが下がるという意味は、個別的自衛権の行使のみの場合とそれに集団的自衛権の行使を含めた場合、それぞれに於いて、不測の事態になる確率は、集団的自衛権の行使を含めた場合のほうが小さくなることであろう。

 

 こうした議論は、数値例で議論するほうがいい。あえて単純化して、両者の言い分を満たすような仮想的な数値例を考えることができる(下図)。

 

0605高橋さん
(表作成:政策工房) 

 

 個別的自衛権のみの場合とそれに集団的自衛権を加えた場合をあげる。個別的自衛権のみの場合において不測の事態になる場合が2ケース、通常の場合が98ケースとする。集団的自衛権を加えた場合には測の事態になる場合が4ケース、通常の場合が396ケースとする。全体では500ケースである。

 

 野党の主張は、集団的自衛権を加えた場合、不測の事態が起こるリスクは、個別的自衛権の場合の2633%から、4667%に高くなることだ。

 

 一方、安倍首相の主張は、個別的自衛権のみの場合において不測の事態になるリスクは21002%だが、集団的自衛権を加えた場合には44001%と下がることだ。

 

 こうした分析からわかることは、野党は、集団的自衛権によって安全になる場合を考えていないことだ。

一方、安倍首相の発言意図である2%から1%への低下の妥当性であるが、これまでの世界歴史から絶対的な数値水準は別としても、方向性は正しいだろう。

原英史・株式会社政策工房 代表取締役社長】 

 4月から5月半ばにかけては、統一地方選、大阪都構想の住民投票と、地方政治での動きが続きました。

 これらがひと段落し、次は、安全保障法制はじめ、国政での重要課題が本格的に動き始めています。

 

 今後の課題に移る前に、この1か月半の地方政治の総括も必要でしょう。

 

 ここしばらくのマスコミ報道では、大阪都構想が成立に至らなかった要因や、この結果が国政にどう影響するのか(橋下氏の政界引退、維新の影響力低下?など)といった分析が盛んになされています。

 

 もちろんこうした分析も重要ですが、より本質的な問題があります。

 今回明らかになった最大の問題は、地方での変革がいかに困難か、もっといえば、地方での変革の方がしばしば国での変革より難しい、ということではないかと思います。

 

 一般に、地方自治体では首長が直接公選されるため、より強いリーダーシップをふるうことが可能と考えられがちです。

 しかし、現実に起きていることをみれば、むしろ逆です。

 

是非の評価は別として、

・カリスマ的な人気を誇った橋下市長でさえ、大阪都構想を実現できなかったこと、

・他方、国政では、決して国民的関心や支持の高くない秘密保護法制、安全保障法制などが着々と前進していること、

を見比べれば、対比は明らかでしょう。

 

 これは、選挙の仕組みに立ち返ると、実はそう不思議なことではありません。

簡単にいえば、

・国政では、小選挙区制の導入により、ランドスライド(地滑り的圧勝)が生じやすくなっており、圧勝した与党のトップは、リーダーシップを発揮しやすい構造です。

もちろん、過去数年続いたような衆参ねじれ状態では「決められない政治」になりますが、選挙結果次第では「変革しやすい政治」状況も生まれるのです。

 

・一方で、地方政治では、圧勝して首長になっても、議会はまた別です。そして、地方議会は、大選挙区制、中選挙区制のもと、一般に、“個人商店型”の議員が多くを占め、変革は生じづらい構造になっています。

また、首長が変革を試みても、部下である役所組織と、国の中央官庁が一緒になって足を引っ張るといったことも起きがちです。

足を引っ張るプレイヤーが、国以上に多く、また強力なわけです。

 

 大阪都構想に関しては、とりわけ議会が難題でした。

 大阪市議会では、橋下市長という強力なトップがいながら、大阪維新の会が過半数をとることはできていませんでした。これは、定数2~6名の中選挙区制のもと、過半数を確保することはほぼ不可能だからです。

 この結果、橋下氏はダブル選挙で勝利したものの、その後、議会との関係で苦戦を強いられました。

 そこでの苦戦で政治的資本を消耗した結果が、今回の住民投票だったとも考えられるわけです。

 

 統一地方選で問題になった低投票率や、無投票の多さなども、変革が生じづらい地方議会に直結しています。

 

 こうして、選挙システムによって、

・国では、(選挙結果次第で)変革が起きやすく、

・地方では、構造的に変革が難しい、

という状態が生まれています。

 

 問題は、これが妥当かどうかです。

ふつうに考えれば逆で、国と地方の比較論で、

・相対的に国でより慎重さが求められ、

・地方では、自治体ごとにそれぞれ、もっと思い切った変革にチャレンジしてもよい、

と考える人が多いのではないでしょうか。

 

 そして、地方でもっと変革ができるようになれば、知恵とチャレンジ精神のある地方が成長できるようになり、地方間の競争で日本全体がもっと活性化していくのでないでしょうか。

                                               

 この問題は、実は、「地方分権」「地域主権」といった課題が、長年にわたって掛け声倒れに終わってきた要因でもあります。

 ここに手をつけなければ、安倍内閣の掲げる「地方創生」も、絵に描いた餅に終わりかねないでしょう。

  


【高橋洋一・株式会社政策工房 代表取締役会長】

 いよいよ5月17日だ。大阪都構想に関する賛否を問う住民投票が行われる。事前の報道によれば、反対票が優勢であるが、はたしてどうなるだろうか。

 

 地方行政の観点からみれば、人口270万人の大阪市が基礎的自治体としての適正規模を超えているのは、どのような方法で計算しても明らかなので、もう少し小ぶりの基礎的自治体に再建する、つまり、基礎的自治体として今の大阪市の代わりに、今の24の行政区を5つの特別区に統合するという大阪都構想の方向は正しい。

 

 もっとも社会科学として正しいこと(自由貿易など)が、民主主義で行われないこともしばしばなので、その意味で、17日の住民投票でどのような民意が示されるかはきわめて興味深い。

 

 政治的な立ち位置をいえば、維新の会だけが賛成で、自民・共産・民主が反対となっている。公明党の支持母体である創価学会は自主投票である。

 

 先般の統一地方選での大阪市議会議員選挙の各党の得票率は、維新の会37.0%、公明党18.9%、自民党19.6%、共産党14.6%、民主党4.2%、その他5.7%だった。

 

 維新の会と自民・共産・民主の勢力はほぼ拮抗している。要するに、公明の票がどうなるかで、勝敗は決まる。これまでの報道では、表向き公明党は反対だったので、反対が優勢なのだが、はたしてどうなるのだろうか。

 

 大阪都構想が否決されると、現状維持になる。反対は、自民・共産・民主の相乗りなので、新しい案が出てくることはまずない。となると、これまでの体制のまま、将来の大阪はどうなるのだろうか。

 

 東京都、大阪府、愛知県の県民総生産(名目)の推移を1960年から見てみよう。


0515高橋さん
 表作成:政策工房
 

 
 日本経済全体のマクロ政策に地方経済もだいたい連動する。しかし、動きはまったく同じではなく、地方によって差が出る。その差が長期にわたって継続する場合には地方政府の巧拙の差であろう。現状維持であえば、この差はこれからも続くと思ったほうがいい。

 

高橋洋一・株式会社政策工房 代表取締役会長】

 ときどき、地方の政治家の話を聞いてびっくりすることがある。
 大阪の出来事であったが、大阪府の財政が橋下知事・松井知事時代に大きく悪化したというのだ。その証拠に、大阪府債の残高の推移をみると、橋下知事になった
2008年から、それ以前と比べて急増しているといい、下のような図を見せられたことがある。 

0430高橋さん
(表作成:政策工房) 


 少し地方財政をかじったことがあれば、近年、臨時財政対策債(臨財債)が、各自治体の債務残高を急増させている要因であることを知っている。そして、地方交付税の財源が不足して、従来であれば、補填国債で賄っていたものを臨財債として地方債に振り替えたことも知っているだろう。臨財債は形式的には地方債であるが、償還に要する費用は後年度の地方交付税で措置されるものであるので、通常の地方債とは別ものとして管理されている。

 

 つまり、臨財債は事実上国の押しつけであり、大阪府に固有なものではなく他の地方自治体にも存在する。そのため、各地方自治体の財政状況を把握するためには、地方債を臨財債とその他を分け、その他で見て、全国と比較して考えるべきものだ。

 

 まず、以下の図が大阪府債残高の推移だ。上の図を臨財債とその他を分けたものだ。

0430高橋さん② 
(表作成:政策工房)



 次の図は、全国ベースでの地方債残高の推移だ。

0430高橋さん③

                                                    


(表作成:政策工房) 

 これらを見ると、2008年以前、全国ではその他は減少しているが、大阪府は横ばいである。2008年以降になると、大阪府はやっと全国並に減少し始める。全国と比較すれば、2008年以前の大阪府は酷かったが、2008年以降やっと全国並になったのだ。


 

 


高橋洋一・株式会社政策工房 代表取締役会長】

 先般の大塚家具の父娘のバトルでは驚いたことが多かった。その一つに、上場会社なのに同族会社のような株主構成だ。日本では、上場は一種の社会ステータスを獲得するために行うことが多く、大塚家具のような事実上同族会社であっても、上場されているところは少なくない。
 
 これほどの極端な同族会社とはいわないまでも、日本では安定株主が多く、浮動株主が少ない。これは、コーポレートガバナンスの上でも問題ではないだろうか。こうした株主構造では、客観的な財務諸表分析はあまり重要視されないで、内輪のロジックが優先しがちであろう。

 日本のか浮動株主比率は、先進国の中では高いほうとはいえない。アメリカ、イギリス、スイス、オーストラリアなどの市場は、浮動株主比率が9割程度もあって、開かれた市場である。一方、中国などの新興国は、上場していても政府や関連会社が大株主となっており、浮動株主比率は2~4割程度で低い。世界の市場は、先進国と新興国があるので、平均の浮動株主比率は7割程度である。日本は先進国の中では最低ランクだ。

 浮動株主が少ない日本では、先進国ではまずみられない「親子上場」がある。そういえば、日本郵政の上場は、親子上場で今年最大の上場劇としてすでに話題になっている。

 日本郵政は、親子上場のみならず、途上国のような政府が大株主だ。もちろん、はじめの上場では仕方ないのであるが、問題なのは、将来にわたって金融2社に対しても、政府が実質的に株を保有し続けるという点だ。

 筆者が役人時代に担当した小泉政権での郵政民営化では、金融2社は政府が株を持たない完全民営化とされていたが、その後の政治情勢で覆されたわけだ。つまり、民主党への政権交代の後に郵政民営化法が改正された結果だ。

 その際、政策投資銀行と商工中金でも、同じように、政府が株式を保有しないという完全民営化方針が覆され、政府が株式を保有し続けるという制度改正が行われている。そして、そうした制度に基づいて、最近天下りが復活している。

 残念ながら、そうした制度改正を元に戻すような政治的なパワーは今のところあまり感じられない。
民営化路線を敷いた小泉氏が、今や反原発の運動家のようになっているが、政治家の感性にはこれも微妙に影響している。金融会社に対して政府が株主になるという現在の途上国のような状況は明らかにおかしいが、それを政治的リスクをかけてまで元に戻すようなパワーがなかなかでにくいのが現状である。 

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