政策工房 Public Policy Review

霞が関と永田町でつくられる“政策”“法律”“予算”。 その裏側にどのような問題がひそみ、本当の論点とは何なのか―。 高橋洋一会長、原英史社長はじめとする株式会社政策工房スタッフが、 直面する政策課題のポイント、一般メディアが報じない政策の真相、 国会動向などについての解説レポートを配信中!

カテゴリ: 政策レポート

原英史・株式会社政策工房 代表取締役社長】
 
 政府は6月に成長戦略の改訂版を発表する予定だ。

 昨年6月の成長戦略のときは、発表した途端に株価が大きく下がる事態になった。規制改革などに取り組むとの決意を総論的には示したものの、各論がほとんど伴っていなかったことが失望された。
 今回は、どれだけ各論を詰めることができるのかどうかが問われる。

 すでに、新聞報道ではさまざまな各論が報じられつつある。法人税引下げ、GPIFの投資先拡大、外国人就労の緩和などのほか、農業改革や、労働時間規制などについても、大胆な改革プランが報じられている。
 例えば、農業改革では、規制改革会議から、以下の項目を柱とする包括的なプランが示されている。

1)農業委員会の見直し
・選挙制度を廃止し、選任委員に一元化。
・遊休農地対策、転用違反対策に重点化。 など
2)農業生産法人制度の見直し
・事業要件の廃止、役員要件の見直し(農作業に従事する役員は「1名以上」に)、構成員要件の見直し(2分の1未満の出資者には要件を設けない)。 など
3)農協の見直し
・中央会制度の廃止。
・全農の株式会社化。 など

 これは、農業制度について、従来指摘されてきた問題をほぼカバーしている。農業委員会制度は、従来から、閉鎖的な地域社会のしがらみで、外部からの参入が排除され、一方、耕作放棄などには有効な手を打てていないことが指摘されてきた。農業生産法人制度は、役員の多くに農作業従事要件を課し、出資者が農業関係者であることを求めるなど、多様な担い手の参入を妨げる仕組みとなっていた。また、農協は、農家からの買取り、機材等の販売、貸付などを一手に行なうことで、自立的な農業経営に対する足枷となってきた。
 こうした諸制度の改革を法核的に解決できれば、日本の農業は大きく変わるはずだが、問題は実現できるかどうかだ。

 現段階で報じられている内容は、上記の農業改革に限らず、こうした案が政府の会議で有識者から提案されているといった段階に過ぎない。これを確実に実施されるプランとして合意できるかどうかはこれからだ。

 来月の成長戦略では、単に課題を列挙し、その実現の道筋が示されていない段階にとどめてしまったのでは、「各論がない」というのと大差ない。いかに実現に向けた具体的な道筋を示すことができかが問われる。

【高橋洋一・株式会社政策工房 代表取締役会長】

 自衛権の行使容認に反対する人が決まって口にするものとして「憲法9条の護持」がある。護憲の主張はおろか、近年では「憲法9条にノーベル平和賞を」実行委員会なる組織が活動を行なっているという。国会議員の福島瑞穂氏はこの運動に賛同して、憲法九条に対する「推薦文」をノルウェーのオスロにあるノーベル平和賞委員会宛てに送付した。

 国際常識を知る者から見れば、顔から火が出るほど恥ずかしい。なぜなら9条にある戦争放棄は、べつに日本の憲法だけにある規定ではないからだ。
 韓国、フィリピン、ドイツ、イタリアの憲法には、日本国憲法九条の戦争放棄に相当する条文がある。たとえば、フィリピンの憲法には「国家政策の手段としての戦争を放棄」と書いてある。「憲法9条にノーベル平和賞を」授与しなければならないとしたら、フィリピンにもあげなければならない。希少性のないものを顕彰する理由はないので、日本の憲法9条にノーベル平和賞が授与されることは、まずないだろう。

 筆者はプリンストン大学で国際関係論を勉強した。マイケル・ドイル(プリンストン大学教授、現在はコロンビア大学教授)という国際政治学者が私の先生で、カントの『永遠平和のために』を下敷きにDemocratic Peace Theoryを提唱した人物である。「熟した民主主義国のあいだでは戦争は起こらない」という理論で、たしかに第二次世界大戦後の世界を見れば、朝鮮戦争やベトナム戦争、湾岸戦争やイラク戦争など二国間ないし多国間で戦争が起きる場合いずれかの国が軍事政権あるいは独裁政権であった。
 イギリスとアルゼンチンとのあいだで生じたフォークランド紛争でも、アルゼンチンは独裁政権だった。
 ドイル先生のいうように、民主主義国の価値観や手続きのなかで戦争が勃発する事態は現代の世界において考えづらい。彼の理論を日本と中国に当てはめれば、日本は民主主義国家だが、共産党一党独裁国家の中国はそうではない。この一点を見れば、なぜ日本とアメリカがともに民主主義国として同盟を結んでいるのか、根本的な理由を知ることができる。
 私がドイル先生に国際政治学を学んでいた1998年当時から、日本の平和憲法は特別ではないという点、自衛権の行使を妨げる議論がおかしいことは聞いていた。たいへん説得力のある話で、日本で巷間いわれる平和論がいかに論理を欠いているかを理解することができた。

 たとえば国際法をわずかでも勉強すると、集団的自衛権が国連憲章51条に規定されていることに気付く。「国際連合加盟国に対して武力攻撃が発生した場合には、安全保障理事会が国際の平和及び安全の維持に必要な措置をとるまでの間、個別的又は集団的自衛の固有の権利を害するものではない」
 つまり武力攻撃に対しては最終的には国連の安保理によって解決するのが最も望ましいが、それに至る過程でその国が占領支配されないように、個別的・集団的の別を問わず自衛権で対処するという発想である。もちろん安保理が機能して対応を図るのが最善だが、そうならない局面も現実には起こりうる。
 場合によっては中国のような国連常任理事国が紛争当事者となり、拒否権を発動するケースも考えられる。実際に2014年3月、国連の常任理事国であるロシアがクリミアをロシアに併合した際、国連は何もできなかった。万が一、日本が他国からの武力攻撃を受けた際は当面、自衛権でしのぎ、安保理に報告を行ないつつ最終的な解決に結びつけるというのが、最も現実的な選択である。
 その際、日本一国で中国のような軍事国家の侵攻に持ち応えられるか、という問題が生じる。だからこそ日本は他国と「正当防衛」をともに行なえる関係を構築すべきである。

 2014年5月、中国がベトナムの排他的経済水域(EEZ)を公然と侵し、石油掘削作業を進めようとしてベトナムと衝突した。南シナ海では中国に加えて台湾、ベトナム、フィリピン、マレーシア、ブルネイが領有権を主張している。2002年にASEAN(東南アジア諸国連合)が中国と結んだ自制と協調をめざす行動宣言はあっさりと無視され、ベトナムが面と向かって中国と対
峙せざるをえない状況が生まれた。中国の台頭と膨張により、南シナ海における中沙諸島・西沙諸島・南沙諸島と同じ領土危機が日本の尖閣諸島に起こりうる事態はいっそう切実なものになっている。いま安倍総理が感じている危機意識と「緊迫性」をわれわれも共有すべきではないか。 

【原英史・株式会社政策工房 代表取締役社長】
 
 今国会では、昨年秋の臨時国会で成立した「第一弾・電力システム改革法案」に続き、第二弾として、小売参入全面自由化などを内容とする法案が提出されている。
 成立すれば、すでに自由化されていた大口部門に加え、家庭まで含めて、すべての電力小売市場が自由化される。これに伴い、通信業界など異業種からも関心が示されているが、課題は少なくない。

 以下では、5月7日の衆議院経済産業委員会で、筆者が参考人として陳述した意見の概要をお示しする。


1、電力自由化とアベノミクス第三の矢(成長戦略)

 アベノミクスについて、内外関係者の目は、残念ながら、決して好意的なものばかりではない。特に、「第三の矢(成長戦略)はどうなっているのか」「もう飛ばないのでないか」といった声が少なくない。
 その中で、世界の期待をつなぎとめているのが、安倍総理の強いコミットメント、とりわけ、今年1月にダボス会議の場で、世界に向けて意欲的な方針と決意を示したことだ。

スピーチで、安倍総理は、第三の矢に関して以下6つの方針を示した。
1)岩盤規制の改革
2)TPP、EPAの推進
3)GPIF改革による成長への投資
4)法人税改革
5)女性活用、雇用市場改革
6)コーポレートガバナンス改革

 成長戦略においては、民間部門がいかに活動しやすい環境を作るか、不合理な制約を取り除くかが重要であり、規制改革は最も重要な柱だ。この観点で、安倍総理が、第一にいわゆる「岩盤規制の改革」を掲げたことは的確だ。
 その第一の柱の中で、安倍総理がまっさきにとりあげたのが電力自由化だった。

<安倍総理のダボススピーチより(抜粋)>
昨年終盤、大改革を、いくつか決定しました。できるはずがない――。そういう固定観念を、打ち破りました。
 電力市場を、完全に自由化します。2020年、東京でオリンピック選手たちが競い合う頃には、日本の電力市場は、発送電を分離し、発電、小売りとも、完全に競争的な市場になっています。
 日本では、久しく「不可能だ!」と言われてきたことです。
・・・(中略: 医療、農業について)・・・
既得権益の岩盤を打ち破る、ドリルの刃になるのだと、私は言ってきました。
 春先には、国家戦略特区が動き出します。
 向こう2年間、そこでは、いかなる既得権益といえども、私の「ドリル」から、無傷ではいられません。

 今後2年間という期限を切って、少なくとも国家戦略特区ではすべての岩盤を打ち破るとの大胆な宣言をしたことは、世界で大きな期待をもって受け止められている。
 ただ、その約束の前提となるのが、先頭を切って進行中の電力自由化だ。万一にも、これが失敗する、つまり「2020年に、日本の電力市場は、完全に競争的な市場になっている」という総理の宣言に疑いが生ずるような事態になれば、これは、電力分野だけの問題にとどまらず、アベノミクス全体に対する、世界の信頼を損なうことにつながりかねない。


2、法案の課題

 電力自由化の合理性・必要性は、簡単にいえば、こういうことだ。
・かつては、規模の経済の働く構造だったため、世界中どこでも、電力分野は、公営または独占形態での規制がなされていた。
・しかし、技術革新によって、送電部門を除いて、規模の経済が消失し、従来の規制の合理性はなくなった。
・ところが、すでに合理性を失った規制が、そのまま維持され、世界の多くの国々と比べ、二歩も三歩も遅れて、ようやく完全自由化に取り組んでいる。

 こうした事象は、我が国のいわゆる岩盤規制と言われる分野で、しばしばみられる典型的なものだ。
 今回、第二弾の法案で示されている、小売参入の全面自由化は、これに取り組むステップであり、方向に何ら異論ない。

 ただ、その際に、留意しておくべき課題を3点あげておきたい。

(1)自由化によって現実に競争が生ずるか?

 第一に、自由化によって現実に競争が生ずることが重要だ。
 すでに多く関係者から指摘がなされているとおり、これまでの大口部門を対象とした小売自由化では、自由化という制度改革はなされたが、残念ながら、現実の新規参入はごく限定的だった。「事実上の独占という市場構造は基本的に変わっていない」と、電力システム改革専門委員会報告書でも指摘される状態だ。こうした結果に終わらせてはならない。
 現実に新規参入する事業者が現れ、活発な競争がなされることが必要だ。特に、これまでの垂直一貫の電力供給という制度的制約が取り払われることにより、「電力事業」や「ガス事業」といった縦割りを越えて、新たな参入、業界再編が起こっていく可能性に注目すべきだ。
 さらに、エネルギーという枠も超えて、通信、上下水道などの領域ともまたがって、新たなサービス、インフラ企業が生まれる可能性もあろう。例えば、フランスのヴェオリアは、水道事業の会社として知られるが、実際には、エネルギー、廃棄物処理なども扱う、総合インフラ企業だ。
 このように、業種の枠を超え、共用できる設備・技術を共用して効率化する、消費者向けにセットメニューを提示するなど、さまざまな形で、新たなサービスや業態が生まれていく可能性がある。

 今回の電力自由化は、こうしたインフラ産業全体の進化・再編に向けた、出発点となるものであり、また、そうなってはじめて、十分な実効性を伴うはずだ。
 他方、業種を超えた展開を本格化していくうえでは、電力自由化以外の制度的な課題も出てくる。例えば、ガスシステム改革、熱供給システムの改革も必要だ。また、上下水道など公営インフラの民間開放については、産業競争力会議の立地競争力分科会で、今年2月以降、集中的に議論している。2011年PFI法改正で、いわゆるコンセッション方式での民間開放が可能になったが、実際上の課題は少なからず残されている。
 これらの課題は、日本では、電力部門などがたまたま歴史的に「公営」でなく、上下水道などは「公営」だったため、別のカテゴリーの課題として扱われがちだが、「インフラ部門への競争導入」という意味では共通課題だ。
 こうした「インフラ部門への競争導入」に関わる課題を一体的に解決していくことにより、部門を超えた相互参入・競争促進、新たな総合インフラ事業の創出、さらに将来的には、新たなインフラシステムの輸出・世界展開にもつながっていくと期待できる。
 ただ、多様な領域にまたがる改革を一斉に進めることには、困難が伴うかもしれない。この場合、まずは、国家戦略特区のような枠組みを活用し、地域を限った実験を先行することも一案だろう。

(2)独立性と専門性を有する規制組織への移行

 第二に、現実に競争を起こすためには、市場が正常に機能しているか、競争阻害的な行為がなされていないかなど、的確に監視する規制機関の機能が重要だ。
 この点、昨年成立した第一弾の改正法の附則で、「平成27年を目途に、独立性及び高度の専門性を有する新たな行政組織に移行」というプログラム規定が定められているが、早急に検討・準備が進められるべきだろう。
 その際、「独立性」の観点では、従来、独占的な地位を有していた電力会社からの影響を十分に排除できるようにすることが何より重要だ。このためには、電力会社との密接な関係が指摘されてきた、政治と経済産業省からの独立性も、避けては通れない。独立行政委員会の形式は、合理的な解決策となろう。
 また、「専門性」の観点では、金融規制などでの例も参考に、専門性ある人材を確保・育成できるように設計することが重要だ。
 さらに、今後「インフラ部門への競争導入」が全般的に進むとすれば、今回設けられる規制機関は、おそらく電力だけにとどまらず、より広範な競争規制機関に発展していく可能性がある。こうした可能性も視野に、検討がなされるべきだろう。

(3)自由化プロセスの停止・逆行を生じさせないために

 最後に、自由化プロセスの停止・逆行を生じさせてはならない。
 何よりまず、第三段階として積み残しになっている、発送電分離、料金規制の撤廃まで、確実に、十分な措置が実行すべきだ。
 また、今後、例えば、「一時的に電気料金が上昇した」、「たまたま停電が発生した」、「原発に関する何らかの事情変更があった」など、本質的ではない理由をつけて、自由化プロセスを停止・逆行させようとする動きが生ずる可能性は否めない。こうしたことを防がなければならない。

 参考までに、過去の他分野での規制改革の経験について述べておきたい。

まず、航空自由化について。
 航空分野は、かつては、国際線と国内線でのすみわけ、同一路線には一社だけといった競争回避措置がなされていた。1980年代以降、これが徐々に緩和・撤廃され、運賃規制についても規制緩和がなされた。
 規制緩和がなされた初期段階の頃の文献をみると、「規制緩和がなされてから、むしろ運賃が上昇した」といった指摘もあった。しかし、現時点で振り返ってみれば、こうした規制改革の成果として、多様な運賃メニュー、LCCの登場などが実現した。もちろん、すべて順風満帆ではなく、解決すべき課題はあろうが、少なくとも今、「やはり、かつての競争回避体制を維持しておけば
よかった」と考える人はまずいないはずだ。

次に、タクシー規制について。
 こちらは、90年代から2000年代はじめに規制緩和が進み、その後、「行き過ぎた規制緩和」で、運転手さんたちの労働環境悪化や事故が起きているという議論がでてきた。再び、需給調整と厳格な運賃規制の方向へとかじが切られつつある。
 この問題を詳細に論ずることは別の機会にしたいが、本来、労働環境悪化や安全上の問題は、労働規制、安全規制で対処すべき問題であり、これらを理由に、需給調整や運賃規制の復活が必要というのは筋違いだ。現在なされている議論は、規制効果の成果が十分にあらわれていない(つまり、運賃は決して下がっておらず、このために供給過剰が生じている)段階で、「行き過ぎた規制緩和」という誤った事実認識に基づき、再規制強化に向かおうというものだ。

 以上2分野の経験から言えることは、自由化プロセスにおいては、その成果が即座に十分あらわれるとは限らず、その前の段階で、何らかの理由をつけて停止・逆行させようという動きが生じうることだ。これに気をつけなければな
らない。

 これを防ぐ一つの方策は、所管省とは切り離し、改革プロセスにつき提案・監視する機能を設けることだ。例えば、かつて、道路公団民営化推進委員会、郵政民営化委員会など、担当省とは切り離し、別の担当大臣のもとに第三者機関を設けた例があった。
 こうした議論を経済産業省の人たちにすると、「自分たちは、改革反対の役所とは正反対で、むしろ自分たちこそ自由化推進派だ」と言うだろうし、そういう人ががんばっていることはそのとおりだ。だが、仮に今後、逆向きの動きがあらわれ、自由化プロセスが迷走する事態が想定されるとすれば、政府内でチームを2つにわけることは、過去にもこの種の難度の高い改革プロセスでとられてきた、ひとつの知恵だ。

 ともかく、第三の矢の先頭バッターである電力自由化が、迷走することなく前進していくことを期待したい。

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