政策工房 Public Policy Review

霞が関と永田町でつくられる“政策”“法律”“予算”。 その裏側にどのような問題がひそみ、本当の論点とは何なのか―。 高橋洋一会長、原英史社長はじめとする株式会社政策工房スタッフが、 直面する政策課題のポイント、一般メディアが報じない政策の真相、 国会動向などについての解説レポートを配信中!

カテゴリ: 寄稿

【山本洋一・株式会社政策工房 客員研究員】 


 朝日新聞が「吉田調書」を巡る記事の誤りを認め、謝罪・撤回した。木村伊量(ただかず)社長は誤報の原因について「思い込みやチェック不足が重なったこと」としているが、それだけではないはずだ。競合他社との競争を優先し、スクープを捻り出そうとするメディアの体質にこそ、問題の本質が隠れている。朝日新聞だけの個別問題ととらえ、同社への糾弾で終わらせるべきではない。

 
 問題となっていたのは520付朝日新聞朝刊の一面トップ記事。政府が福島第一原発所長だった吉田昌郎(まさお、故人)氏に対して行ったヒアリング調査の結果、通称吉田調書を独自に入手したとして、それを基に「9割の所員が待機命令に違反して第二原発に撤退していた」と報じた。

以下、引用


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朝日新聞 520日付朝刊

所長命令に違反、原発撤退 政府事故調の「吉田調書」入手

 
 東京電力福島第一原発所長で事故対応の責任者だった吉田昌郎(まさお)氏(2013年死去)が、政府事故調査・検証委員会の調べに答えた「聴取結果書」(吉田調書)を朝日新聞は入手した。それによると、東日本大震災4日後の11年3月15日朝、第一原発にいた所員の9割にあたる約650人が吉田氏の待機命令に違反し、10キロ南の福島第二原発へ撤退していた。その後、放射線量は急上昇しており、事故対応が不十分になった可能性がある。東電はこの命令違反による現場離脱を3年以上伏せてきた。

 
 吉田調書や東電の内部資料によると、15日午前6時15分ごろ、吉田氏が指揮をとる第一原発免震重要棟2階の緊急時対策室に重大な報告が届いた。2号機方向から衝撃音がし、原子炉圧力抑制室の圧力がゼロになったというものだ。2号機の格納容器が破壊され、所員約720人が大量被曝(ひばく)するかもしれないという危機感に現場は包まれた。

 
 とはいえ、緊急時対策室内の放射線量はほとんど上昇していなかった。この時点で格納容器は破損していないと吉田氏は判断した。

  
 午前6時42分、吉田氏は前夜に想定した「第二原発への撤退」ではなく、「高線量の場所から一時退避し、すぐに現場に戻れる第一原発構内での待機」を社内のテレビ会議で命令した。「構内の線量の低いエリアで退避すること。その後異常でないことを確認できたら戻ってきてもらう」

 
 待機場所は「南側でも北側でも線量が落ち着いているところ」と調書には記録されている。安全を確認次第、現場に戻って事故対応を続けると決断したのだ。

 
 東電が12年に開示したテレビ会議の録画には、緊急時対策室で吉田氏の命令を聞く大勢の所員が映り、幹部社員の姿もあった。東電はこの場面を「録音していなかった」としており、吉田氏の命令内容はこれまで知ることができなかった。

 
 吉田氏の証言によると、所員の誰かが免震重要棟の前に用意されていたバスの運転手に「第二原発に行け」と指示し、午前7時ごろに出発したという。自家用車で移動した所員もいた。道路は震災で傷んでいた上、第二原発に出入りする際は防護服やマスクを着脱しなければならず、第一原発へ戻るにも時間がかかった。9割の所員がすぐに戻れない場所にいたのだ。

 
 その中には事故対応を指揮するはずのGM(グループマネジャー)と呼ばれる部課長級の社員もいた。過酷事故発生時に原子炉の運転や制御を支援するGMらの役割を定めた東電の内規に違反する可能性がある。

 
 吉田氏は政府事故調の聴取でこう語っている。

  
 「本当は私、2F(福島第二)に行けと言っていないんですよ。福島第一の近辺で、所内にかかわらず、線量が低いようなところに1回退避して次の指示を待てと言ったつもりなんですが、2Fに着いた後、連絡をして、まずはGMから帰ってきてということになったわけです」

  
 第一原発にとどまったのは吉田氏ら69人。第二原発から所員が戻り始めたのは同日昼ごろだ。この間、第一原発では2号機で白い湯気状のものが噴出し、4号機で火災が発生。放射線量は正門付近で最高値を記録した。(木村英昭)

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 朝日新聞の「スクープ」から3か月後、産経新聞も吉田調書を入手したと報じた。産経は「調書を読むと、吉田氏は所員らが自身の命令に反して撤退したとの認識は示していない」と指摘。朝日新聞の報道が誤りだと批判した。その後に続いた読売新聞と共同通信も産経と同じ立場をとった。

 
 メディア間の非難合戦を受けて政府は11日、これまで非公開としてきた吉田調書を一転、公開した。内閣官房のホームページには7日間に分けて行われたヒアリングの全文(一部黒塗りあり)が掲載されているが、焦点となる個所は88日、9日の「事故時の状況とその対応について④」にある。この中に、次のようなやりとりが出てくる。「回答者」とあるのが吉田氏の発言だ。


以下、引用


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○回答者 本当は私、2Fに行けと言っていないんですよ。ここがまた伝言ゲームのあれのところで、行くとしたら2Fかという話をやっていて、退避をして、車を用意してという話をしたら、伝言した人間は、運転手に、福島第二に行けという指示をしたんです。私は、福島第一の近辺で、所内に関わらず、線量の低いようなところに一回退避して次の指示を待てと言ったつもりなんですが、2Fに行ってしまいましたと言うんで、しようがないなと。2Fに着いた後、連絡をして、まずGMクラスは帰ってきてくれという話をして、まずはGMから帰ってきてということになったわけです。


○質問者 そうなんですか。そうすると、所長の頭の中では、1F周辺の線量の低いところで、例えば、バスならバスの中で。


○回答者 今、2号機があって、2号機が一番危ないわけですね。放射線というか、放射線量。面心重要党はその近くですから、ここから外れて、南側でも北側でも、線量が落ち着いているところで一回退避してくれというつもりで言ったんですが、確かに考えてみれば、みんな全面マスクしているわけです。それで何時間も退避していて、死んでしまうよねとなって、よく考えれば2Fに行った方がはるかに正しいと思ったわけです。いずれにしても2Fに行って、面を外してあれしたんだと思うんです。マスク外して。

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 確かに吉田氏は「2F(第二原発)に行けとは言っていない」と述べているが、第一原発で待機するよう命令したとは言っていない。むしろ「よく考えれば2Fに行った方がはるかに正しいと思った」と評価している。それがなぜ「所長命令に違反」との記事になったのか。「命令違反、原発撤退」と書いた方がセンセーショナルだと思ったからだろう。

 
 日本の新聞は日々、競合他社との内向きな「スクープ合戦」に明け暮れている。他社の持っていない資料を独自に入手したとなれば、自分たちの優位性をアピールする格好の機会。記事化にあたってはいかにその資料が重要か、その資料に意味があるか、必死で「意義づけ」をする。

 
 吉田調書は事故対応を検証するための一級の資料ではあるものの、いざ入手してみると取り立てて目新しいニュースがなかった。そのまま報じれば大きな記事にはならないし、社内で評価されることもない。そこで他の資料と組み合わせることで事実関係をデフォルメし、読者の関心を誘うような見出しを捻り出し、スクープに仕立てあげた。見出しで「吉田調書入手」と書いておきながら、記事の根拠に
「東電の内部資料」を挙げているのがその証拠だ。

 
 「ねつ造」を煽ったのはスクープを重視する新聞社の体質であり、よりセンセーショナルな記事を書くよう日頃から指示している上司である。朝日新聞は「記者の思い込み」として個人の責任に押し付けようとしているが、それは責任逃れだ。重大な誤報が相次ぎ明らかになったこと、それが日本の国益を損ねたことを深刻に受け止め、報道のあり方を抜本的に見直さなければならない。

 
 他紙も「朝日に勝った、勝った」と浮かれるのではなく、自分たちの足元を見つめ直すべきだ。内向き競争に励んでいるのは朝日新聞だけではない。

【山本洋一・株式会社政策工房 客員研究員】

 
兵庫県議会で、また政務活動費の不適切な支出疑惑が浮上した。神戸新聞によると、10人の議員が配偶者ら親族を事務所職員などとして雇い、政活費を充てていた。国会では10年も前に配偶者の公設秘書への採用が禁止されている。地方議会も国会や他議会の「正しい改革」は見習わなければならない。

 
 神戸新聞によると、2013年度の収支報告で全議員89人のうち69人が人件費を計上。同新聞の取材に対し、このうち少なくとも10人が妻や父親、きょうだいらを政務活動補助職員や事務所連絡職員として雇い、人件費の一部を政活費から支出していたと回答した。

 
 

以下、引用

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政活費で親族に給与 10県議以上勤務実態は不透明 兵庫県会

 
 兵庫県議会の複数の議員が配偶者ら親族を事務所職員などとして雇い、政務活動費(政活費)から給与を支出していたことが4日、議会関係者などへの取材で分かった。県議会にはこうした支出を禁じる規定はないが、勤務条件などは議員が決める一方、大半の議員が給与の算定基準や勤務内容などを示す資料を収支報告書に添付しておらず、政活費の不透明な運用にさらに批判が強まりそうだ。

 
 2013年度の収支報告書によると、全議員89人のうち69人(辞職した議員も含む)が人件費として約138千~3375千円を支出。神戸新聞社が議員本人などに確認したところ、少なくとも10人が妻や父親、きょうだいらを政務活動補助職員や事務所連絡職員として雇っていた。

 
 県議会は親族の雇用を禁止していないが、雇用する際には書類整備や適正な雇用実態の確保を内規で求めている。しかし、職員との雇用契約書は現行制度では公開の対象外で、給与などの支払いを証明する領収書も個人情報を理由に氏名欄などがマスキング(塗りつぶし)されている。

 
 こうした親族雇用について、「有権者の誤解を招く」などの理由で三重県議会や鳥取県議会などは認めていない。福岡県議会は特別な経験や実績を持つ親族に限り採用を認め、その場合でも親族雇用届を事前に会派に提出することなどを義務づけている。

 
 親族を雇用していた兵庫県議は神戸新聞社の取材に、「妻に会計処理の経験がある」「身内の方が事務所を訪れる人も相談しやすい」などと説明した。

 
 兵庫県議会では、6月末に表面化した野々村竜太郎元県議の不自然な政活費支出問題を受け、領収書の厳格な取り扱いなどの見直しを決めたが、人件費の扱いは見直し項目に含まれていない。

 

※神戸新聞NEXTより

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 親族の雇用が問題なのは、勤務実態に見合った給与が支払われているかどうか、不透明だからである。過去には国会議員が妻やきょうだいらを公設秘書として登録し、国から給与の支払いを受けておきながら、実際には一切勤務していないという不正受給疑惑が相次ぎ発覚した。

 
 一概に親族と言ってもいろいろある。専門分野を持つきょうだいやいとこらに議会質問や条例立案のサポートを頼むこともあるだろうし、その際に適切な額の報酬を支払うのは不正とは言えまい。

 
 立場が不安定な秘書のなり手がいないため、やむを得ず親族にお願いすることもあるだろう。そうした場合は雇用理由と勤務実態、支払明細などの詳細を報告させ、有権者に隠さず公開すべきである。

 
 だが、家計を同じくする配偶者や、それに類する親や子どもへの公金支出は慎むべきだ。議員活動の中で配偶者や親子どもが手伝う場面もあるだろうが、そんなことは民間だってある。ポケットマネーを支払うならともかく、税金が基である政活費や公設秘書給与の支払いはふさわしくない。

 
 国会では不正受給疑惑が相次いだことを受け、2004年に国会議員の秘書給与法を改正。議員の配偶者を公設秘書として雇うことができないようにした。神戸新聞によると三重県議会や鳥取県議会では親族の雇用自体を認めていないという。禁止する範囲の線引きはともかく、国会や他の議会でこうした改革が進む中、知らん顔をして見直しを見送ってきた兵庫県議会の責任は重い。

 
 「人のふり見て我がふり直せ」ということでは、国会も当てはまる。これだけ地方議会の政活費のあり方が注目されているのに、自分たちの「文書通信交通滞在費」(文書通信費)については一切、見直そうとしていないからである。

 
 文書通信費とはすべての国会議員に対し、月100万円(年間1200万円)支給される経費のこと。兵庫県議会のように地方議会では使途報告の中身がマスコミの厳しいチェックにさらされているが、文書通信費は報告の義務が一切ない。不正支出をチェックしようにもできないのである。

 
 資金力の乏しい若手議員はこの文書通信費を事務所経費や人件費に充てているが、大物議員ともなれば議員の個人口座に振り込まれることが珍しくいない。いわば第二の給料となっているのだ。しかも経費としての支出が想定されているので、文書通信費は一切課税されない。丸ごと1200万円を自分の好きなことに使えてしまうのである。

 
 適切に使っているというのであれば、1円以上のすべての支出について議会への報告を義務付け、その内容を公開すべきだ。もちろん地方議会よりさらに厳しく、使途について制限をかけることは言うまでもない。余った分はもちろん、国庫に返却させるべきである。文書交通費の支給総額は年間86億円超。仮に3分の1でも戻ってくれば一定の財源になりうる。

 
 政府・与党は今年末にも消費税率を10%まで引き上げると決定する。国民に負担を求める一方で、自分たちの経費のあり方については議論すらしないというのはあまりにも不誠実だ。そんな姿勢では消費増税に関する国民の理解など得られるはずがない。

【山本洋一・株式会社政策工房 客員研究員】


 先日、新聞の小さな記事が目にとまった。「自民、農山漁村体験後押し」という見出しのベタ記事で、自民党が子どもに就農体験させるための法律案を提出するというものだ。そんなこと、法律を作らなくてもできるはず。この記事には日本における議員立法の「現実」が表れている。

 

以下、引用

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825日付日本経済新聞

自民、農山漁村体験後押し 臨時国会で法案提出へ

 自民党は小中学生を対象に、地域の農山漁村での体験教育を後押しする法案を秋の臨時国会に提出する。子どもが地方で体験学習できる機会を増やすため、政府に推進会議を設置し、地方自治体の受け入れ体制を整備しやすくする。人口減少が進む地方と都市部の子どもの交流を増やす狙いがある。

 名称は子ども滞在型農山漁村体験教育推進法案で、議員提出法案とする。小中学生に約1週間地方に滞在してもらい、農業体験や、地方の文化に触れる授業をするよう自治体に促す。政府には文部科学相や農相を中心に基本計画をまとめるよう義務付ける。地方が宿泊施設や人材を確保するため予算を充てることも盛り込んだ。

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 日本の法律案の多くは政府、つまり各省庁が作る「内閣提出法案」(閣法)である。今年の通常国会では閣法が前国会からの継続案件も含めて81本提出され、そのうち79本が成立した。一方、国会議員が提出する議員立法は75本が提出され、そのうち21本しか成立していない。

 
 議員立法の成立率が低いのは、野党提出法案を多く含むからである。例えば共産党などが今国会に提出した「秘密保護法廃止法案」などは、提出者すらはじめから成立すると思って出していない。野党が自分たちの政策をアピールするために提出しただけのものである。

 
 しかし、与党が議員立法で提出する法案の中にも冒頭に挙げた「農山漁村体験後押し法案」のように、首をかしげたくなるようなものが数多くある。最近の国会で成立した議員提出法案を分析すると、おおむね次の3パターンに集約される。

 

  政治マター

・改正国民投票法

 憲法改正に向けた国民投票の「3つの宿題」の一部を解決

・改正公職選挙法 

 インターネットを使った選挙運動を解禁

・国会議員歳費・期末手当臨時特例法

 財政難と震災復興のため国会議員の給与とボーナスを一部カット

 

 一つ目は政治マター、つまり政治に関する問題を解決するための法案である。例えば昨年の通常国会ではネット選挙を解禁するための改正公選法が成立したが、これこそ政治マターの典型例。政府、つまり役人が選挙のあり方を決めたり、国会議員の給料を決めたりできないため、議員立法によって法律を作ったり、改正したりするのがこのパターンである。

 

  政府では取り組みにくいもの

・改正国民の祝日法

 2016年から811日を「山の日」として祝日に

・改正児童ポルノ禁止法

 児童ポルノ作品の単純所持を罰則化

・改正スポーツ振興投票実施法

 スポーツ振興くじ(toto)の対象を海外のサッカーに拡大

 

 二つ目は先ほどのパターンにも似ているが、政府が取り組むのにはふさわしくない案件である。例えばどこかの役所が特定の休日を作ったり、公営ギャンブルの一種とも言えるtotoの対象を拡大したりするのはふさわしくない。カジノ解禁に向けた統合型リゾート法案(IR法案)が議員立法で提出されたのも同じ理由だ。

 
 児童ポルノ禁止法のように国民の間で議論の分かれる問題について、政治家の力を借りて改正するというのもこのパターン。ほかにも他省庁にまたがる政策課題だったり、省庁間で意見が対立していたりする案件を推進するため、議員立法という形を使って法改正を進めることもある。

 

  政党・政治家のアピール

・養豚農業振興法

  養豚農業の振興を図るため、農林水産大臣による基本方針の策定について定め、豚肉の生産の促進及び消費の拡大等の措置を講じる

・子どもの貧困対策推進法

 子どもの貧困対策の基本理念や国等の責務を定め、対策を総合的に推進

・国土強靭化基本法

 強靭な国づくりを総合的かつ計画的に推進するため基本理念や国等の責務、基本方針、本部の設置等について定める

 

 三つめが冒頭で挙げた「農山漁村体験後押し法案」のパターンだが、政党や政治家が「この問題に取り組んでいる」とアピールするために法律を作るものである。例えば前回取り上げた「国土強靭化計画」を巡り、自民党は政権奪還後に議員立法で法律を提出し、成立させた。

 
 中身には具体的なことが書いてあるわけではない。政府がこの問題にしっかり取り組むよう、基本方針の策定や本部の設置等を促しているだけである。しかし、政府・役人は「法律に弱い」。実際に政府はこの法律を踏まえて内閣官房に国土強靭化推進本部を作り、実績作りを急いでいる。

 
 今年の通常国会で成立した法律の中には「養豚農業推進法」や「花き振興法」というものもあるが、これも典型的な政治家のアピール法案だ。これらはパターン化されており、いずれも政府に基本計画の策定を義務付け、業界の振興策を推進するよう促すのが特徴である。

 
 特定の業界を後押しする法律の裏には業界団体の存在がある。法案作成の中心を担うのはこうした業界から支援を受けている議員。典型的な「しがらみ法案」である。各種の業界団体は政治献金や選挙応援を通じて「子飼い議員」を作っておき、こうした法律の作成時に利用するのである。

 

 
 成立した議員立法の一覧を見ていると、三つ目のパターンが際立って多いのが日本の議員立法の問題点だ。米国のように、重要な政策課題ほど議員が中心となって法整備に取り組むというのとは雲泥の差がある。背景には国会議員の能力の差だけでなく、スタッフ力の違いもある。

 
 日本の公設秘書は3人。私設秘書を雇うこともできるが、よほどの余裕がない限り、票にならない立法活動に人手は割かない。国会に隣接する議員会館に置く秘書の数は多くても5人ほど。政党の政策担当スタッフも少なく、この体制で十分な立法活動などできるはずがない。

 
 米国の下院では常勤18人、非常勤4人まで秘書を雇うことができ、実際に平均で17人ほどの秘書を抱えている。上院には上限がなく、議員あたりの平均は43人超。あまりにも差が大きい。

 
 議員を一人減らせば数十人分のスタッフの人件費が捻出できる。議員定数の削減とスタッフの拡充に同時に取り組まなければ、法律の質の向上は見込めない。

【山本洋一・株式会社政策工房 客員研究員】

 産・学・官・民でレジリエンス社会の構築へ――。22日付日本経済新聞に、こんな全面広告が掲載された。レジリエンスとは聞き慣れない言葉だが、実は自公政権の掲げる「国土強靭化」のこと。評判が悪かった名称を一新し、官民を挙げて公共事業予算の積み増しを目指しているようだ。
 
 広告は一般社団法人「レジリエンスジャパン推進協議会」が設立され、都内で設立披露式典を開催したことを紹介。太田昭宏国土交通相や古屋圭司国土強靭化担当相らの挨拶を載せ、災害に強い国づくりの必要性を強調している。
 
 レジリエンスは英語で「弾力」や「回復力」、「強靭さ」を表す言葉。自民党の提唱した「国土強靭化計画」が公共事業のバラマキ批判を招いたので、印象を変えるために横文字を持ち出した。政府の関連サイトもいつのまにか「国土強靭化」がことごとく「レジリエンス」に置き換えられている。
 
 国民の生命や財産を守るために災害対策が必要なのは言うまでもない。公共施設の老朽化が進み、更新投資がこれから膨らんでいくのも確かだ。しかし、国土強靭化計画は災害対策を名目にしつつ、実際には公共事業予算の増額を目的としているところに問題がある。
 
 自民党の調査会はかつて「10年間で総額200兆円規模のインフラ投資が必要」と提唱。「金額ありき」であることを露呈させた。国土強靭化の推進を叫ぶ議員の多くは公共事業の関連業界から支援を受ける族議員。国民の多くはそこに「利権の匂い」を嗅ぎ取った。
 
 財政再建との両立も不透明だ。日本は総額1000兆円、GDPの2倍という巨額の債務を抱える借金大国。社会保障費の膨張も続く中、財源の確保は困難な課題である。公共工事を増やすには他の予算を諦める必要があるが、国土強靭化をうたう議員の口から具体策は聞かれない。
 
 国土強靭化を理論武装するブレーンには「財政出動による景気回復」を主張する学者が名を連ね、国の借金は増えても問題ないと強調する。しかし、財政出動の効果は低下しており、新たな借金は次世代への負担の先送りにつながる。財政再建に取り組む安倍政権の方針とも矛盾する。
 
 災害対策の強化には単なる公共工事予算の積み増しではなく、インフラ投資の取捨選択と、ソフト面の対策の充実こそが重要だ。39人が犠牲となった広島市の土砂災害でも、警戒区域指定が未指定だったことや、自治体による避難勧告の遅れが被害の拡大を招いたと指摘されている。
 
 全国くまなく公共事業をばらまくのではなく、専門家の知恵を動員して本当に危険な地域をピックアップし、重点的に予算を配分して対策を促す。全国の事例を踏まえ、自治体が迅速に、正確に避難を指示できるよう指針を常に見直す。そうした取り組みこそ国に求められている役割だろう。
 
 来年度予算案の編成がこれから本格化する。国会議員は予算の分捕り合戦を競うのではなく、いかに少ない予算で政策効果を高められるか、知恵を絞るべきだ。レジリエンス協議会も国会議員の分捕り合戦を後押しする、ただの圧力団体で終わらないことを願う。

【山本洋一・株式会社政策工房 客員研究員】

 地方の政治・行政を巡る問題がまた一つ浮上した。金沢市で計画されていた競輪場の場外車券売り場設置を巡り、現職市長が前回選挙で応援を受けた業者に便宜を図ろうとしていたことが発覚。市議会の各会派が進退を判断するよう求める事態となっている。

 政治家による利益供与やいわゆる「口利き」には批判がある一方、熱心に取り組む議員ほど「優秀」と評価されたり、「いい口利きもある」と開き直ったりする向きもある。果たして利益供与や口利きは政治家に期待された仕事なのだろうか。いい口利きなど存在するのだろうか。

 山野之義(ゆきよし)金沢市長は就任前、名古屋競輪の場外車券売場「サテライト金沢」の誘致計画に同意。自社ビルへの誘致を目指していたビル管理会社の元社長と「設置に同意する」とした念書を交わし、2010年の初当選後には同意文書に署名、捺印していた。

 この問題は昨年、表面化していたが、最近になってさらに、誘致計画が立ち消えた後、業者側の求めに応じて市の予算でリサイクルセンターを入居させる代替案を提示していた疑惑が浮上。市長本人が11日に記者会見を開いて事実関係を認め、「道義的な問題はあった」と謝罪した。

 いずれも実現しなかったとはいえ、投票や選挙応援への見返りとしての利害誘導を禁止している公職選挙法に抵触する可能性がある。12月に任期切れとなる山野氏は6月の定例議会で再選出馬を表明しているが、再選どころか、任期満了すらおぼつかない事態となっている。

 同様の問題は全国で後をたたない。朝日新聞は今月5日、大阪市の市議が地元の保育所関係者の要望を受け、新規開業する保育所の定員を引き下げていたと報じた。

 報道によると当初は公募に応じた株式会社が定員120人、延長保育を午後8時半までとする保育所を開業予定するとしていたが、既存の保育所が反発。市議の事務所で既存の9法人と株式会社、市の担当者が集まり、既存保育所側が条件を自分たちに合わせるよう求めた。株式会社側はその後、定員80人、延長保育は午後7時までと方針転換。市の担当者も了承したという。

 市議は当時、議長を務めていた大物議員。株式会社側が圧力を感じたのは想像に難くない。既存の保育所は恩義を感じ、次期選挙では懸命にこの市議を応援するだろう。残念ながら株式会社の方針転換自体は橋下徹市長に問題視され、元に戻ってしまったが。

 政治家による利益供与は「口利き」とも呼ばれる。一般的な口利きは「間に立って紹介や世話をすること」(大辞泉)だが、政治の世界では「圧力」や「見返り」が伴うのが問題だ。

 政治家が民間業者や役人に何かを頼めば、本人が意識している、していないに関わらず、頼まれた側は圧力を感じるもの。政治家に何かを頼む際、見返りとして次の選挙で応援したり、献金したり、パーティー券を購入したりするのも政治家との付き合いにおける「常識」とされている。

 仮に圧力や見返りがなかったとしても、特定の有権者を優遇することは公平性の観点で問題がある。報道された大阪市議は、6月の議会で「ええ口利きがあれば、悪い口利きもある」と開き直ったが、口利きに正当なものがあるとは思えない。少なくとも首長や議員の本来の役割ではない。

 愛知県では過去の政務調査費(現:政務活動費)の返還を求められた県議が、事務所を活用している証拠として、陳情対応を記録した日報を裁判所に提出した。運転免許取り消し処分の軽減、公営住宅への入居希望、電柱の移設など、市民による諸々の口利き依頼である。

 口利きに熱心に取り組む議員ほど偉いと思っているのだろう。胸を張ってこうした資料を提出するあたりに、地方議員の思い違いがみてとれる。

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