【山本洋一・株式会社政策工房 客員研究員】
 

 民主党の海江田万里代表が当面の間、続投すると表明した。731日の両院議員懇談会で「代表選前倒し」という名の退陣要求が相次いだが、海江田氏は拒否。反執行部もあっさりと矛を収めた。民主党は党内抗争ばかり続けているが、なぜ分裂しないのだろうか。

 「代表選で信を問うべきだ」。海江田体制の総括の場として設けた懇談会で、反執行部からは代表選の前倒しを求める声が相次いだ。代表の任期は来年秋まで。代表選を早めろということは、海江田氏を代表の座から引きずり下ろすということを意味する。

 だが、海江田氏はこうした声をあっさりとかわし、「熟慮に熟慮を重ねた結果、引き続き歯を食いしばって頑張りたい」と続投宣言した。反執行部側もそれ以上は食い下がらず、代表選前倒しを求めてきた岡田克也元代表も「これ以上は蒸し返さない」と語った。

 民主党内において海江田代表への不満は強い。党をまとめる指導力に欠けるうえ、発信力も弱いからだ。実際に参院選や都議選など重要選挙に負け続けている。滋賀県知事選では元所属議員が当選したが、民主党の応援を断っており、海江田代表の手柄ではない。

 だが、公然と「海江田おろし」を主張する議員たちも、誰一人として離党を口にしようとしない。その理由は膨大な額の「貯金」にある。

 公開されている最新の政治資金収支報告書によると、民主党が2012年末時点で使い残した金は218億円。自民党の13億円、公明党の55億円と比較しても突出して多い。2013年には参院選があったが、今も100億~200億円程度は残っているとみられる。

 今後の政界再編にとって、この金は需要な意味を持つ。今年は大型選挙がないが、来年以降は重要な選挙が相次ぐ。来年4月は全国の首長選や地方議員選を同時に実施する統一地方選。再来年の夏は参院選だ。次期衆院選も参院選と同時に行われる可能性が高い。

 候補者を擁立するには金がかかる。衆院選に立候補するには一人あたり600万円(小選挙区と比例代表の重複立候補の場合)の供託金が必要で、通常は政党が負担する。選挙費用を賄うための「公認料」も出さなければならない。

 民主党は実際に2012年の衆院選で、解散直後に一人あたり1500万円を4回に分けて振り込んだ。全国300選挙区に候補を擁立しようと思えば、これだけでも45億円かかる。ビラやポスターの作成、テレビCMなど、選挙には金のかかることがたくさんある。

 東西に分裂した日本維新の会は「分党」という手続きをとり、議員の数に応じて党の金を分け合ったが、これは極めて稀なケース。通常は政党が分裂すると「出ていく議員」と「残る議員」に分かれ、政党が溜め込んでいた金は「残る議員」が独占することになる。

 みんなの党がその典型例だ。渡辺喜美前代表と江田憲司前幹事長の対立が決定的となり、党運営の主導権を握る渡辺氏が江田氏を追い出した。江田氏は結いの党を立ち上げたが、みんなの党からは一銭も受け取れず、党運営に苦労している。

 民主党の場合も同じで、分裂すれば居残り組が200億円もの大金を独占することになる。だからこそ誰も離党せず、党運営の主導権争いをしているのである。

次の焦点は海江田代表の任期が切れる来年秋。民主党のお家芸とも言われる、大掛かりな党内抗争が見られそうだ。