今週2日、在宅医療推進のための医療法改正や介護保険サービスの負担増につながる介護保険法改正など法案19本を一括りにして、地域医療と介護保険制度を一体で見直す「医療・介護総合推進法案」の趣旨説明と質疑が、参議院本会議でやり直された。5月21日の参議院本会議で審議入りする予定だったが、田村厚生労働大臣の趣旨説明にあたって厚労省が配布した事前資料にミスがあったとして野党が反発したため、質疑を行わないまま本会議が流会となっていた。このため、田村大臣は、趣旨説明に先立って「議事運営に重大な混乱を招き、改めて深くおわびする。今後全力を挙げて再発防止に努める」と陳謝した。質疑では、度重なるミスへの厳しい批判が野党から相次いだほか、足元の自民党からも猛省を求める意見が出た。
与党は、通常国会会期末までの成立をめざしているが、一部の法案審議に遅れも出ているだけに、自民党の高村副総裁や石破幹事長らは、会期内成立に努力するが、それでなお成立が困難な情勢となれば会期延長も考えることに含みを持たせる発言も行っている。
*衆参両院の本会議や委員会での審議模様は以下のページからご覧になれます。
衆議院TVビデオライブラリ:http://www.shugiintv.go.jp/jp/index.php
参議院インターネット審議中継:http://www.webtv.sangiin.go.jp/webtv/index.php
30日、自民党と公明党は、昨年の臨時国会で成立した特定秘密保護法に基づく政府の秘密指定・解除の運用状況や指定妥当性について監視する「情報監視審査会」(仮称)を衆参各院に設置して政府の特定秘密の適否を審査・審議することや政府に運用改善を求める勧告権の付与、漏えいした国会議員への懲罰などが盛り込れている「国会法改正案」を衆議院に提出した。
当初、与党は、日本維新の会やみんなの党とも共同提出する方向で調整していた。しかし、各会派の議席数に応じて割りあてる審査会の委員数を8人とする与党案に対し、日本維新の会は議決が可否同数で対応が決まらない場合も考慮して9人への増員を、みんなの党は両院合同で計10人とするよう求めた。与党がこれらの要求を拒否したため、日本維新の会とみんなの党は共同提出への参加を見送った。
与党は、国会採決では改正案に賛成する方針を固めている日本維新の会やみんなの党に配慮して、(1)政府は監視機関が特定秘密の提出を要求した場合、誠実かつ速やかに対応すること、(2)各省庁が特定秘密に指定した記録を毎年監視機関に提出・報告すること、(3)政府職員による内部通報制度の新設を検討することなどについて盛り込んだ付帯決議を行う予定だという。
国会議員の定数削減を含む衆議院選挙制度改革については、逢沢・衆議院運営委員長が、29日の衆議院議院運営委員会理事会で、有識者で構成する第三者機関の人選について伊吹議長が提示する案を議決する方針について各党に伝達した。これに対し、民主党など野党から「副議長や議運委員長も含めて決めるべき」などと反対論が出た。しかし、逢沢委員長は野党側の主張を受け入れなかった。伊吹議長は、衆院選挙制度改革の結論を1年以内に出すべきとの認識を示しており、諮問するテーマとして小選挙区の1票の格差是正、定数削減、抜本改革の三つを挙げている。第三者機関の人選については、各党からの推薦を受け付けず、伊吹議長主導で人選を進めていく意向を示している。近く伊吹議長が人選を提示し、各党の理解をえて議院運営委員会で議決するようだ。
議員1人あたりの人口格差(1票の格差)是正策に向けた参議院選挙区制度改革については、30日参議院各会派でつくる「選挙制度協議会」の会合が開催された。現行制度を維持しながら議員1人あたりの有権者が少ない隣接選挙区同士をあわせて1選挙区とする脇座長(自民党参議院幹事長)の合区案に対する各党の見解などが示された。公明党やみんなの党、共産党、社民党、新党改革が独自の対案を提示した。一方、自民党や民主党、日本維新の会・結いの党は、対案の検討に時間を要するなどと主張した。座長案を全面的に支持した党はなかった。脇座長は、座長修正案を7月26日に予定される次回会合で各党に再提示する方針だ。合区対象選挙区を当初の22選挙区から20選挙区に減らす案と、10選挙区に絞る案の2パターンになる見通しだ。
集団的自衛権の行使容認に向けた憲法解釈変更をめぐっては、自民党と公明党が「安全保障法制の整備に関する与党協議会」での議論を進めている。27日に開催された会合では、政府が(1)グレーゾーン事態が3事例、(2)国連平和維持活動での武器使用や国際協力などが4事例、(3)現在の憲法解釈・法制では支障が生じる集団的自衛権関連が8事例の、具体的な計15の事例集を検討材料として提示し、このうち有事に至らない(1)および(2)の7事例の説明を行った。
協議では、グレーゾーン事態にあたる(1)漁民を装った武装集団の離島上陸などへの対処や、(2)公海上で海賊などに襲われている日本船舶に訓練中の海上自衛隊の艦船が遭遇した局面での対処、についての議論が行われた。自民党は、自衛隊が海上保安庁に代わって警察権を行使する「海上警備行動」や「治安出動」では発令手続きを行っている間に被害が拡大しかねないとして、発令手続きの簡素化を含む新たな法整備を求めた。また、他の5項目についても法改正の必要性に言及した。これに対し、警察権や個別的自衛権の行使で対応できるところも相当あると主張している公明党は、既存の海上警備行動などでは対応できない具体的ケースや、離島の対象範囲などを明確に示すよう政府側に求めた。さらに、政府側が法整備の具体的な方向性が曖昧であったことから、次回会合で政府の考え方を示すよう要請した。
安倍総理や関係閣僚などが出席して、集団的自衛権行使容認など安全保障政策に関する集中審議が、5月28日に衆議院予算委員会で、29日に参議院外交防衛委員会で行われた。また、6月2日には衆議院安全保障・外務両委員会が安保政策をテーマにした連合審査会を開催した。
安倍総理は「切れ目のない防衛体制をつくることで抑止力を高め、国民の生命と財産を守りたい」「憲法が集団的自衛権の全てを認めていないのか、それで国民の命を守り抜くことができるのか、検討すべきだ」などと述べ、与党協議の具体的な議論を見守りつつも、集団的自衛権の行使容認への意欲を重ねて表明した。そのうえで、「実際に武力行使を行うか否かは高度な政治的決断であり、時の内閣が総合的に判断し慎重に決断する」「行使は義務ではない。日本が戦争に巻き込まれるという議論があるが、そういうことはない」と述べた。
日米防衛協力の指針(ガイドライン)関連では「新しい観点に立った安全保障政策の構築が可能になれば、それを基に日米共同で何ができるかを詰めていく」と述べた。今回のガイドラインは、軍事的緊張を高める中国を想定した日米防衛協力のあり方についてを柱としており、集団的自衛権の行使容認を反映することで日米防衛協力の実効性を高めたい考えだ。
安倍総理の答弁では、米艦防護において日本人が乗っていなくても自衛隊が防護する場合があり得ることや、米国以外の第三国の艦船や民間船なども防護対象となりうるとの認識を表明するなど、政府が与党に提示している15事例に収まらないケースも飛び出した。安倍総理は「あらゆる事態に対する選択肢を用意しておくことは当然」と述べたが、与野党からは必要最小限とする範囲が曖昧で拡大解釈を懸念する声も出ている。与党協議への影響も少なからずありそうだ。
3日の次回会合では、政府が、集団的自衛権関連の8事例を説明するとともに、グレーゾーン事態や国際協力の事例について議論を行う予定だという。公明党は、現行法内で自衛隊が対処する手続きの簡略化・迅速化など、法改正や新法制定を伴わない運用見直しにとどめる意向を政府が内々に示したことを受け、グレーゾーン事態の2事例を大筋で容認する方向で調整に入ったようだ。
政府・自民党は、5月30日に安倍総理とヘーゲル米国防長官が確認した年内のガイドライン改定を念頭に、集団的自衛権行使を限定容認するための解釈見直しも含めた基本的方向性について、3分野一体で早期に閣議決定したい考えだ。ただ、集団的自衛権の行使容認に慎重な姿勢を崩していない公明党は、期限ありきで進めようとする自民党を牽制し、テーマごとの徹底かつ詳細な検討作業・協議を進めていく構えをとっている。
与党協議は、自民党が想定した通りには進展せず、公明党ペースの思惑どおりに進んでいるだけに、通常国会中にも閣議決定に持ち込みたい自民党側は、焦りを募らせている。自民党と公明党で合意している週1回約1時間の会合ペースでは、会期末までに残り3回しかないからだ。このため、自民党は、協議を加速させるためにも、1回あたりの協議時間を長くすることや、開催頻度を増やすことなどを検討している。3日の会合で公明党側に正式に提案するという。
集団的自衛権の行使容認をめぐる与党協議がスタートし、与野党の本格論戦も始まった。通常国会会期末まで20日を切り、水面下での綱引きも行われている。与党協議の行方や与党首脳の発言などについてきめ細かくみておいたほうがいいだろう。