【締めきられた各省庁の概算要求】

今週8月31日、財務省は、2016年度予算編成に向けた各省庁の概算要求を締め切った。7月24日の閣議で了解した来年度予算の概算要求基準では、政策経費のうち自由に使える裁量的経費を2015年度予算より1割減らす一方、4兆円規模の特別枠「新しい日本のための優先課題推進枠」を設けて、安倍内閣の重点施策に配分することが打ち出された。社会保障関係費は2015年度予算から約6700億円増を要求上限としたが、要求総額の上限設定は、デフレ脱却を確実にするねらいから3年連続で見送られることとなった。

 

各省庁が要求している一般会計の総額は、2015年度予算の要求総額(101.68兆円)を上回り、102.40兆円超となった。高齢化に伴う医療・年金・介護などの社会保障関係費(30.9兆円)に加え、国債の償還や利払いにあてる国債費(26.05兆円、2015年度当初予算比11.1%増)が膨らんでいる。

また、国債費を除いた政策経費の要求額も76兆円超と、今年度予算を約5%上回った。公共事業関係費6兆円(同16.1%増)、防衛省予算5.09兆円(同2.2%増)、外務省予算0.75兆円(同10.4%増)のほか、スポーツ庁発足やスポーツ関連予算などを盛り込んだ文部科学省予算(5.85兆円、同9.8%増)や、政府の事態対処能力・情報収集能力・サイバー攻撃への対応能力などの強化、セキュリティー対策などの費用を計上した内閣官房予算(0.13兆円)の要求額も増えた。一方、景気回復に伴って地方税収の伸びが見込まれることから、地方交付税額(16.42兆円、同2.0%減)は少ない見積もりとなった。

 安倍内閣が重視する政策に重点配分する優先課題推進枠は、約3.9兆円の上限に達したようだ。また、地方創生を目的に「地域再生戦略交付金」「地域再生基盤強化交付金」を再編して新たに創設する自治体向け新型交付金は、内閣府などが計1080億円を要求している。

 

 2016年度税制改正に向けた各省庁の要望も出揃った。このうち、法人税実効税率(国税+地方税)の引き下げは、2015~16年度で3.29%引き下げて31.33%とすることが決まっているが、経済産業省が法人税収の大幅な上振れなどを背景に「下げ幅のさらなる上乗せを図る」と、20%台の早期実現に向けてさらなる税率引き下げを求めている。経済産業省は、税収減分の確保よりも減税を優先する方針を打ち出しているが、財務省は恒久財源の確保を伴わない減税に慎重姿勢を示している。

また、政府は、地域活性化に取り組む自治体を財政面から後押しするねらいから、企業が地方創生関連の事業計画をまとめて国から認定を受けた自治体に寄付すれば、その一定割合を法人税(国税)・法人住民税(地方税)から差し引く「企業版ふるさと納税制度」の創設をめざしている。企業が自治体などに寄付した場合には寄付全額が損金として認められ課税されないことになっているが、新制度を導入することで、企業の積極的な寄付を促すとともに、自治体間で行政サービスの向上を競いあう環境を創出するとしている。東京など大都市に偏りがちの法人税収を地方に配分する観点から、東京都や特別区など財政力が高い自治体や、企業が本社を置く自治体への寄付は新制度の対象外とするようだ。

今後、与党の税制調査会を舞台に、税制改正をめぐる議論が本格化する。自民党と公明党は、政府との調整を踏まえ、今年12月には税制改正大綱を取りまとめる。与党間で懸案となっていた2017年4月の消費税率10%への引き上げを念頭に生活必需品などの消費税率を低く抑える軽減税率の導入をめぐっても、近く対象品目や代替財源の確保など制度案詳細を検討する与党協議を再開するという。

 

 

2016年度予算は、2020年度に地方分を含めた基礎的財政収支(プライマリーバランス)の黒字化をめざす政府にとって、経済成長と財政再建の両立を前提とする財政健全化計画の初年度にあたる。政府は、歳出改革の徹底するため、経済財政諮問会議(議長:安倍総理)を軸に評価指標と工程表を今年末までに策定するとともに、経済財政運営の基本指針「骨太の方針」に盛り込まれた改革の具体化・進展度合いを点検していく方針だ。

 財務省は、年末の予算案決定に向けて査定作業に入る。今年度と同水準までに抑えるべく厳しく査定する方針だが、世界経済の先行き不透明感・警戒感が増すとともに、来年夏には参議院選挙も控えているだけに、自民党内から「(災害対策やインフラ整備を進める国土強靱化施策などを念頭に)それなりの財政措置をしなければいけない」(二階総務会長)など、景気を下支えする経済対策・補正予算の編成や、来年度予算の増額などを求める声も出ており、秋以降の景気情勢次第では、例年以上に厳しい編成・予算折衝となりそうだ。

 

 

【農協改革関連法や女性活躍推進法が成立】

国会では、安倍総理が重要視する法案に動きがあった。「農業協同組合法等の一部を改正する等の法律案」と「女性の職業生活における活躍の推進に関する法律案」の採決が、8月28日の参議院本会議で行われ、与党などの賛成多数により可決・成立した。

 

 *衆参両院の本会議や委員会での審議模様は、以下のページからご覧になれます。

衆議院インターネット審議中継参議院インターネット審議中継

 

政府・与党は、全国農業協同組合中央会(JA全中)の中央会制度を廃止や地域農協の経営状態などを監査してきた監査・指導権限を撤廃し、法施行から3年半後にはJA全中を特別認可法人から一般社団法人に完全移行することなどを柱とする「農業協同組合法等の一部を改正する等の法律」を岩盤規制打破の象徴のひとつと位置付けて、国内農業の成長力強化を図るべく農業改革の実現に力を注いできた。改正法には、市町村の農地利用の認可事務などを行う農業委員会制度の見直しも盛り込まれ、委員の選出方法をこれまでの選挙・団体推薦から市町村長の任命制に変えることとなる。

与党は、維新の党と衆議院側で「農協に自主的な改革を促す」などの内容を盛り込む修正を加えることで大筋合意していたが、安全保障関連2法案をめぐる与野党攻防の煽りなどをうけ、同法案の成立がずれ込んでいた。同法案は、27日の参議院農林水産委員会、28日の参議院本会議で与党と維新の党の賛成多数により可決、成立することとなった。

 

女性の採用・昇進機会を増やす取り組み加速を促すため、従業員301人以上の大企業、国・地方自治体に、採用者や管理職に占める女性割合、勤続年数の男女差などを把握したうえで、自主判断で最低1項目の数値目標を盛り込んだ行動計画の作成・公表を義務化することを柱とする「女性の職業生活における活躍の推進に関する法律」をめぐっては、与党が衆議院側で、「実効性がない」との批判していた民主党の要求に応じて、企業に計画達成の努力義務も負わせるなどの修正を行った。

これにより、参議院でも与党と民主党などの賛成多数により可決、成立した。参議院内閣委員会では、衆議院と同様、「賃金の男女格差の把握と是正」「非正規労働者の待遇改善のためのガイドライン策定」などを求める付帯決議も行った。

 

安倍内閣は、女性活躍を成長戦略の核のひとつに掲げ、指導的地位に占める女性の割合を2020年度までに30%に引き上げることをめざしている。ただ、同法では、女性登用の数値目標を含めた行動計画の策定・公表を実施しない企業などに報告を求めることができるほか、虚偽報告には罰則も設けられているが、実施しない企業などに対する罰則規定がなく、企業の自主性を重んじて一律の数値目標も設けられていない。また、従業員300人以下の企業は、数値目標を盛り込んだ行動計画の作成・公表について努力義務にとどまっている。

政府は、同法施行にあわせて、「女性活躍の推進に関する基本方針」を閣議決定するとともに、行動計画の策定を支援するためのガイドラインも策定する。また、行動計画の内容・達成度などによって優良企業を認定し、国・自治体の公共事業や備品購入などで優遇できるようにもするようだ。今後、女性活躍を推進ため、社会全体の意識変革も含め、実効性をどのように確保し、どのような具体策を打ち出していくのかが焦点となりそうだ。

 

 日本年金機構の個人情報流出問題を受け、委員会採決が見送られていた「個人情報の保護に関する法律及び行政手続における特定の個人を識別するための番号の利用等に関する法律の一部を改正する法律案」が、年金機構の情報管理体制などを懸念する民主党などの提案を受け、来年1月に予定していたマイナンバーと基礎年金番号の連結を最長2017年5月まで、年金機構がマイナンバーを使って情報を提供したり照会したりすることも最長2017年11月まで延期と修正された。同法案は、国民一人ひとりに12桁の個人番号を割りあてて税・社会保障関連情報を一つの番号で管理する共通番号(マイナンバー)制度の適用範囲を預貯金口座や年金分野、特定健康診査情報などにも広げることのほか、個人情報保護の観点から蓄積された膨大な個人情報をビッグデータとして活用する際の利活用環境の整備などが盛り込まれている。

与野党の修正合意を受け、27日の参議院内閣委員会、28日の参議院本会議で与党と民主党などの賛成多数で可決した。衆議院ではすでに審議・採決されているが、参議院側で修正が加えられたことから、3日の衆議院本会議で改めて採決され、成立する見通しだ。安倍総理は27日、サイバー攻撃による情報漏えいを防止するため、自治体の情報セキュリティー対策を講じるよう、高市総務大臣に指示した。総務省は、各自治体に既存の住民基本台帳システムとインターネット用端末を完全に分離するよう要請するなど、自治体の情報セキュリティー対策をマイナンバーの通知カード送付が始まる10月5日までに徹底するという。

 

 

【与党、安全保障関連法案採決の環境整備を急ぐ】

安全保障関連2法案(平和安全法制整備法案、国際平和支援法案)の採決日程をめぐる調整が大詰めを迎えている。与党側は「60日未満で結論を出すのが参議院のあるべき姿」(公明党の山口代表)と、9月11日までに関連2法案を採決させることをめざしてきた。

 しかし、特別委員会の審議がはかどっておらず、野党側との修正協議も始まったばかりだ。野党一部が出席できる環境を整えて採決を強行したとの批判をかわしたい与党は、28日、修正案を共同提出する方針の日本を元気にする会・新党改革・次世代の党との協議をスタートさせた。また、同日の特別委員会で維新の党が提出した対案5案の提案理由説明を聴取し審議入りしたことで、与党と維新の党は修正協議を再開した。

 

与党は野党各党と修正協議を続けているが、自民党の高村副総裁が「野党との差を埋めるのは難しい」と関連2法案の骨格の修正に慎重な考えを示すなど、修正合意に向けた糸口がつかめていないのが現状だ。

日本を元気にする会など野党3党は、自衛隊の海外派遣を例外なく国会の事前承認とすることや活動継続には90日ごとに国会の再承認をえることを義務づけるほか、自衛隊の海外活動を国会が常時監視・事後検証するための組織を国旗に設置することなどの修正を求めている。このうち、与党は「例外なき国会の事前承認」について、与党は「緊急時の事後承認の余地を残すべきだ」と難色を示している。その一方で、常時監視・事後検証のための組織を国会に設置することには前向きに検討する意向も伝えた。与党は、野党3党との協議に柔軟に応じる方針だが、修正合意となれば条文は変更せず付帯決議などで対応することを検討している。

 

 一方、維新の党との協議をめぐっては、維新の党が集団的自衛権行使の要件を厳格に定めているほか、自衛隊による米軍などへの後方支援活動の範囲を日本周辺に限定するよう求めていることについて、与党側は受け入れがたいとの認識を示している。

また、維新の党と修正合意したとしても、事実上の分裂状態に陥っている維新の党が一致して採決する保証がないことへの警戒感もある。安倍内閣に是々非々で臨む橋下最高顧問(大阪市長)と松井顧問(大阪府知事)が27日に維新の党を離党し、10月1日にも新党構想を正式発表する意向を明らかにする一方、野党再編を念頭に民主党との共闘姿勢を強めたい松野代表が、31日、民主党の岡田代表と会談して関連2法案の成立阻止に向けて、4日にも野党5党の党首会談を開催することを呼び掛けることでも合意したからだ。

 

民主党は「安全保障関連法案などでの政府・与党の対応によって、十分、党の対応として<内閣不信任決議案を提出する可能性が>出てくる」(安住国会対策委員長代理)と、通常国会会期末(9月27日)までに衆議院へ共同提出することも視野に入れており、野党5党の党首会談で、不信任決議案の共同提出も含めた野党共闘を確認するとみられている。維新の党は、松野代表らが民主党の提案に同調する可能性が高い一方、新党に参加する議員らが不信任決議案提出に慎重だ。党内の亀裂が深まれば、特別委員会での採決対応や決議案採決時に対応が分かれるのではないかとみられている。

なお、民主党と維新の党は、維新の党と衆議院に共同提出した「領域警備法案」の修正案を3日、維新の党と参議院へ再提出する。駆け付け警護や人道的な地雷除去などを可能とする「国連平和維持活動(PKO)協力法改正案」や、核兵器の輸送を事実上禁止する内容などを盛り込んだ「周辺事態法改正案」も共同提出を検討されていたが、維新の党は3日に単独で提出することとなった。

 

 与党は、維新の党が事実上の分裂状態となり、野党共闘に向けた動きも加速し始めたことで、維新の党との修正協議で合意することは困難と判断し、衆議院で可決した原案のまま採決に踏み切る方針を固めた。また、11日の特別委員会採決を断念し、14~18日の間に成立させるべく採決環境の整備を急ぐ。特別委員会での参考人質疑を8日に実施することとなり、与党は、採決の前提となる公聴会も来週中に開催したいようだ。

いまのところ参議院送付から60日経過しても関連法案が採決されない場合には衆議院本会議で3分の2以上の賛成により再可決できる「60日ルール」(憲法第59条)を適用しない方針で、16日の参議院特別委員会、17日の参議院本会議でそれぞれ採決する方向で調整している。ただ、民主党など野党が関連2法案の採決に反発して、徹底抗戦に入る可能性が高い。その場合、与党が参議院で採決を強行するか、18日までに衆議院で再可決に踏み切ることもありうるようだ。

 

 

【対決法案の採決をめぐる駆け引きに注意を】

与野党対決法案は、安全保障法制や労働者派遣法改正案などに絞られてきた。参議院での審議日程が窮屈になりつつあるなか、与野党による水面下の駆け引きが続いている。

派遣労働者の柔軟な働き方を認めることを目的に、企業の派遣受け入れ期間の最長3年という上限規制を撤廃(一部の専門業務を除く)する一方、派遣労働者一人ひとりの派遣期間の上限は原則3年に制限して、派遣会社に3年経過した後に派遣先での直接雇用の依頼や、新たな派遣先の提供などの雇用安定措置を義務づける「労働者派遣法改正案」は、同法案で施行日に定めている9月1日を迎えても成立しない異例事態となっている。同じ職務を行う労働者は正規・非正規にかかわらず同じ賃金を支払う「同一労働・同一賃金推進法案」も、労働者派遣法改正案とともに審議中だ。

 

与党は、3日の参議院厚生労働委員会理事会で、同法案の施行予定日を9月30日に修正することを提案する。

政府・与党は、2012年労働者派遣法改正に伴う「労働契約申し込みみなし制度」が10月1日からのスタートで、派遣期間の制限がない専門26業務で本来の業務と関係ない業務などをさせている派遣先の企業が、直接雇用を希望する派遣労働者を雇用しなければならなくなる事態を回避すべく派遣社員の契約を9月で打ち切る事態も想定されることから、10月1日前の施行にこだわっている。通常、周知期間として法律公布から施行までに半年程度を空けるが、労働者派遣法改正案では1カ月程度と異例のスピード施行となる見通しだ。

これに対し、「生涯派遣で低賃金の労働者が増える」「派遣の固定化、不安定化につながる」ことなどを理由に改正案の成立阻止をめざす民主党など野党側は、与党の要求に「周知期間が短すぎる」「廃案にして出し直すべき」などと強く反発している。

 

 通常国会の会期末まで残すところ1カ月弱となったが、早くも政局含みの様相を呈している。当面、安全保障法制や労働者派遣法改正案などの採決日程をめぐる攻防が激しくなっていくだろう。与野党それぞれの動きや発言などに注意を払いながら、終盤国会の行方を見極めていくことが大切だ。