【野党、内部資料作成問題について追及】  先週19日、参議院わが国および国際社会の平和安全法制に関する特別委員会での安全保障関連2法案(平和安全法制整備法案、国際平和支援法案)に関する一般質疑冒頭、中谷防衛大臣兼安全保障法制担当大臣は、共産党が指摘・追及した防衛省統合幕僚監部作成の内部向けの説明資料<日米防衛協力のための指針(ガイドライン)および平和安全法制関連法案について>の作成目的とその経緯について説明した。民主党や共産党、社民党などが、内部資料作成問題で政府側を追及した。

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中谷大臣は、同資料を「統合幕僚監部が日米防衛協力のための指針(ガイドライン)、平和安全法制関連法案について内容を丁寧に説明し、法案成立後に具体化すべき検討課題を整理し、主要部隊の指揮官などに理解してもらうことを目的に作成した資料」と、内部資料の存在と外部への流出を認めた。関連2法案が閣議決定された翌日(5月15日)、中谷大臣が防衛省幹部に関連2法案の内容について必要な分析・研究のうえ自衛隊内に周知するよう指示した。統合幕僚監部は、この指示を受け、内部向けの説明資料として作成し、月26日に開いた陸上自衛隊方面総監や自衛艦隊司令官ら主要部隊の指揮官ら約350人出席のテレビ会議で使用したという。  また、中谷大臣は、関連2法案の成立を前提に説明資料が作成されたのではないかと野党が指摘していることについて「作業スケジュールのイメージ化のため、仮の日程を置いて記述した。国会審議や成立時期を予断したものではない」と反論したうえで、「私の指示の範囲内のものであり、法案成立後に行うべき運用要領の策定や訓練の実施、関連規則などの制定は含まれておらず、シビリアン・コントロール(文民統制)上も問題はない」との認識を示した。そして、「秘密は含まれていないが、対外公表を前提としておらず、外部に流出したことは極めて遺憾」「流出の経緯などを鋭意調査している。強い危機感を持ち、情報保全の徹底を図りたい」と、文書取り扱い規則の徹底を指示し情報保全を強化していく考えを示した。
 安倍総理も、21日に開かれた参議院特別委員会の集中審議で「部隊運用を担当する統幕が法案の内容や政府の方針を分析・研究するのは当然だ。中谷防衛大臣の指示の下、その範囲内で資料が作成されたものであり、防衛政策局など法案担当部局とも調整のうえで作成された。問題があるとは全く考えていない」「法案内容や政府方針を現場の部隊指揮官に丁寧に説明し、今後、具体化すべき検討課題を整理すべく必要な分析や研究を行うことは当然のことだ」などと擁護し、シビリアン・コントロールは完遂されているとの認識を示した。  これに対し、同資料を提示して追及してきた共産党の小池副委員長らは、中谷大臣が今月11日の特別委員会で「国会審議中に法案の内容を先取りすることは控えるべき」と答弁していることや、通常国会の会期延長が決まる前に国会延長を予期して資料を作成されていることなどを挙げて批判するとともに、「自衛隊という実力組織をどう動かすかということを事前に検討している。国会軽視だ」「自衛隊幹部が勢ぞろいしている会議で、現在まで国会に示されていない内容も含めて詳細に報告されているのは極めて重大」などと反発した。
 資料内で自衛隊と米軍の平時からの協力措置として情報収集・警戒監視・偵察活動を例示して、その具体的項目に「南シナ海に対する関与のあり方について検討」と明記されていることについて、中谷大臣は「今後検討していくべき課題として記載したもの」と、南シナ海での日米共同の警戒監視活動を関連2法案成立後の検討対象に想定していることを認めた。小池副委員長は、南シナ海での日米共同の警戒監視活動について「新ガイドラインにも関連2法案にも書かれていない」として納得せず、河野統合幕僚長の証人喚問を要求した。  また、ガイドライン再改定を受けて、同資料で自衛隊と米軍の「軍軍間の調整所が設置される」と自衛隊を軍と明記されていることについても、政府側は「制服中心の組織を便宜的に表現している」(中谷大臣)、「あくまで便宜的表現で、問題があるとは考えていない」(安倍総理)と釈明したが、小池副委員長は「国民に向かっては軍じゃないといい、自衛隊の中では軍だと。こんなことが通用するのか」「軍を自認するに至った自衛隊がどんどん進めている。極めて重大な事態だ」などと批判した。 

【外交問題や戦後70年談話も議論】
 21日に参議院特別員会で、24日と25日に参議院予算委員会でそれぞれ安倍総理出席のもと集中審議が行われ、安全保障法制のほか、周辺国との外交問題や、今月14日に閣議決定・発表した戦後70年談話、
沖縄で起きた米軍ヘリコプター墜落事故などをめぐっても議論が行われた。

 また、「我が国を守るために必要な措置かどうかを問題にすべきで、法的安定性は関係ない」と発言し、その後の参考人招致で発言を撤回した礒崎総理補佐官について、民主党など野党は安倍総理に更迭を迫った。これに対し、安倍総理は「引き続き職務に当たってもらいたい」と、続投方針を改めて強調した。
 21日の集中審議では、民主党の蓮舫・代表代行が他国軍を後方支援できる重要影響事態がどんなケースかを質問した際、周辺事態において他国軍を後方支援できる事例をまとめた「野呂田6類型」(1999年)と、後方支援が他国の武力行使との一体化する基準を示した「大森4要素」(1997年)とを混同して、中谷大臣が「大森6事例」と答弁した。民主党の蓮舫・代表代行は、答弁の誤りを指摘して鴻池特別委員長(自民党)に議事停止を要求すると、安倍総理は「まあいいじゃないか。そういうことは」と自席からヤジを飛ばした。これに蓮舫・代表代行が「どうでもいいとはどういうことか」と抗議したため、質疑は一時中断する事態となった。  安倍総理は「本質とは関わりがないことだから申し上げた。どうでもいいとは言っていない」と反論したが、鴻池特別委員長から「自席での発言は控えていただきたい」と注意を受けると、「答弁の本質ではないので、答弁を続けさせてもらいたいという意味で申し上げたが、発言は撤回させていただく」と発言撤回に応じた。
 24日の集中審議で、安倍総理は「他国の領域で大規模な空爆や攻撃を行うことを目的に自衛隊を派遣するのは海外派兵で、武力行使の新3要件に反する」と、関連2法案が成立しても、朝鮮半島有事に日本が集団的自衛権を行使して北朝鮮や韓国の領域内で自衛隊が活動することは憲法上ありえないと、これまでの「武力行使の目的で武装した部隊を他国の領土、領海、領空に派遣する海外派兵は、一般に自衛のための必要最小限度を超えるもので、憲法上許されない」との政府見解を、安倍内閣でも維持している姿勢を重ねて強調した。  そのうえで、朝鮮半島有事における集団的自衛権行使の事例として「わが国のミサイル防衛の一翼を担う米艦への攻撃であれば、新3要件に該当する可能性がある」と原則、公海上で弾道ミサイルを警戒する米艦の防護、公海上での後方支援などに限られるとした。また、集団的自衛権行使の前提となる「密接な関係にある他国(への攻撃)」には韓国も含まれるとし、「どの国であろうと、新3要件にあてはまるかを総合的に判断する」と説明した。
 朝鮮半島で軍事的緊張が高まったことや、周辺国との関係改善に不透明感が漂っていることなどを踏まえ、安倍総理は「現在の朝鮮半島、ロシア、中国の動向を考えると、安全保障環境はますます厳しさを増している。戦争、紛争を未然に防ぐため、日ごろから備えをしていくことが求められている」と関連2法案の必要性を強調するとともに、「安全保障法制と外交の両面で対応するのが責任ある姿勢だ」と訴えた。また、「偶発的に何が起こるか分からないなかで、しっかりとした備えをしていく必要がある。日米同盟が機能することは、北朝鮮の暴発や冒険主義的な試みを抑止するのに有効だ」(
25日の集中審議)ととも強調した。

 ロシアのメドベージェフ首相の北方領土・択捉島入りしたことについて、安倍総理は「北方四島に関する日本の立場と相いれず、日本国民の感情を傷つけるもので極めて遺憾」と批判したうえで、「我が国の国益にとって重要なのは、北方領土の帰属問題を解決し、平和条約を締結すること」として「今後ともプーチン露大統領との対話を継続しつつ、日本の国益に資するよう粘り強く交渉を進めていく」と、年内来日を引き続き模索していく考えを示唆した。
 日中関係について、安倍総理は、国会状況、とりわけ安全保障関連2法案の審議を優先させることなど判断し、9月上旬で検討していた訪中を見送ると表明した。そのうえで、習近平国家主席と中国による東シナ海のガス田開発や尖閣諸島周辺での領海侵犯などについても意見交換することを視野に、「引き続き国際会議などを利用して首脳同士が率直に話し合う機会を設け、関係のさらなる発展に向け取り組んでいきたい」と、9月下旬の国連総会や、11月にフィリピンでのアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議などにあわせて日中首脳会談の実現をめざす考えを示した。  韓国とは「重要な隣国で、未来志向の日韓関係を構築すべくお互いに努力をしていきたい」とし、まずは「日中韓サミットの開催につなげ、日韓首脳会談につなげていきたい」との認識を示した。

 25日の集中審議では、民主党が、存立危機事態で集団的自衛権を行使する際、自衛隊員の安全確保策に関する規定が
、米軍などを後方支援する「米軍行動関連措置法改正案」に規定されていないことを指摘し、過去の答弁との整合性を追及した。中谷大臣は、当初、「安全確保に必要な措置は法案に明記されている」と答弁していたが、その後に法案に規定さえていないことを認めたうえで、「運用で安全を確保する」「必要な安全措置は、法案にもとづいて策定する指針に盛り込む」と軌道修正した。質問した民主党の福山参議院議員は「審議をやり直した方がいい」などと反発して審議が一時紛糾する事態となった。中谷大臣は「これからは、分かりやすく説明に努めたい」と釈明した。
 安倍総理は「安全確保の規定がないのは承知していた」と答弁し、同法案が自衛隊の支援活動を「合理的に必要と判断される限度を超えてはならない」と制限していることに言及し、「隊員の安全確保にも配慮する趣旨を含む」と強調した。

 戦後70年談話をめぐっては、民主党など野党が安倍総理本人の歴史認識などを質した。安倍総理は、先の大戦をめぐる日本の行為について、満州事変から太平洋戦争に至る経過のなかで「(懇談会)報告書にもある通り、中には侵略と評価される行為もあったと私も思っている」との認識を改めて示した。そのうえで、「先の大戦における痛切な反省と心からのおわびを表明した歴代内閣の認識は私の内閣でも揺るぎない」と強調した。  安倍総理は、戦後70年談話を総理大臣の私的諮問機関「21世紀構想懇談会」(座長:西室泰三・日本郵政社長)の「報告書を前提に談話を作成した」とし、「何を反省し、何を教訓として今後いかしていくかを明確にすることに力を置いた」と説明した。そのうえで、「談話全体が一つのメッセージになっている。一つひとつを切り取って議論するのは、より幅広い国民とメッセージを共有する観点から適切でない」「談話がすべてで、この中からくみ取ってほしい」と述べるとともに、米国・英国・豪州・フィリピン・インドネシアなど各国政府の反応も紹介して、「多数の国々から歓迎または評価するコメントが出されている」点を強調した。また、「平和は唱えるだけでは実現しない。積極的平和主義の考え方のもと、地域や世界の平和と安定の確保に、より一層積極的に貢献していくことが必要だ」とも述べた。

【対案提出で与野党が修正協議入りへ】
 安倍総理と関係閣僚出席のもとで行われている25日の集中審議を終えれば、参議院特別委員会での審議時間は約57時間と、約116時間審議した衆議院の半分程度となる。民主党など野党が攻勢を強めるなか、与党は、政府提出の関連2法案を野党提出の対案と並行審議していくとともに、野党と修正協議を重ねることで、早期に参議院の採決環境を整えたい考えだ。
 20日、維新の党は、存立危機事態の概念ではなく「武力攻撃危機事態」にのみ個別的自衛権を拡大して自衛隊の武力行使ができることとし、国民保護法の対象にすることを盛り込んだ「武力攻撃危機事態に対処するための自衛隊法等の一部を改正する法律案」、自衛隊の活動範囲を非戦闘地域の公海とその上空に限定して国連決議なしには自衛隊派遣できないことなどを盛り込んだ「国際平和協力支援法案」のほか、在外邦人の救出規定や、米軍に対する武器弾薬以外の物品・役務提供の拡充、武器を不正使用した自衛官の処罰規定などをそれぞれ盛り込んだ自衛隊法等改正案の5法案を、関連2法案の対案として参議院に提出した。  自民党と公明党は、野党一部の協力を取り付けるべく、特別委員会で審議入り後にも衆議院側で中断していた維新の党との修正協議を再開させるとともに、今週中にも修正案を共同提案する方針の日本を元気にする会・次世代の党・新党改革とも修正協議入りする方針だ。ただ、維新の党の対案では、集団的自衛権行使の要件を厳格に定めているほか、自衛隊による米軍などへの後方支援活動の範囲を日本周辺に限定していることについて「特定の地域をあらかじめ排除することは困難」(中谷大臣)と、政府・与党側が受け入れ難い内容も含まれている。こうした隔たりもあるだけに、関連法案の修正で合意できるメドはいまのところ立っていない。
 維新の党がまとめた対案8本のうち、民主党と衆議院に共同提出した「領域警備法案」、駆け付け警護を可能とする「国連平和維持活動(PKO)協力法改正案」、民主党が要綱としてとりまとめた「周辺事態法改正案」について、維新の党は民主党と参議院に共同提出することをめざして協議を継続していく方針だ。  このうち、武力攻撃に至らないグレーゾーン事態に対処するため、武装集団による不法行為が起きた場合に本土からの距離などの事情で対処に支障を生じかねない区域を「領域警備区域」として指定して、自衛隊が領域警備行動できるとした「領域警備法案」は、新たに国会の例外なき事前承認を義務づけるほか、領領域警備区域の指定要件を厳格化して指定期間を5年から1年に短縮するなど6項目を、新たに変更する。民主党と維新の党は、同法案を近く参議院に共同提出する方針だという。  ただ、残り2法案について合意できるメドが立っていないうえ、民主党内には政府提出の関連2法案の廃案を優先すべきとの慎重論もある。維新の党は、参議院に共同提出するか否かを近日中に明確にしてもらいたいと民主党に要求しており、早期合意ができなければ「単独で出すことも考えざるをえない」(今井政調会長)との構えをみせている。
 一方、日本を元気にする会と新党改革は19日、自衛隊の海外派遣は例外なく国会の事前承認とすることや活動継続には90日ごとに国会の再承認をえること義務づけるほか、自衛隊の海外活動を国会が常時監視・事後検証するための組織を国旗に設置することなどを盛り込んだ修正案を参議院に共同提出することで合意し、維新の党や次世代の党に共同提出を呼びかけた。次世代の党は、21日に開いた日本を元気にする会・新党改革との国対委員長会談で共同提出に加わることを決めた。一方、維新の党は、日本を元気にする会・新党改革の共同提出呼びかけには応じないことを決めた。  24日、3党は修正案を参議院に共同提出することで正式合意し、鴻池特別委員長に修正案の取り扱いに協力を要請した。鴻池特別委員長は「議論を通じてより良い方向に収めていきたいので、お出しいただくことは大歓迎だ」と、3党による修正案の共同提出を歓迎する考えを示した。3党は、修正案の提出時期について、与党との協議状況を踏まえつつ、改めて与野党に賛同を呼びかけたうえで今週中にも判断する方針でいる。
 ただ、安倍総理は「緊急時の事後承認を認めないと、我が国の平和と安全に支障をきたしたり、国際社会の期待に応えられないことが想定される」(21日特別委員会・集中審議での答弁)、「他国への武力攻撃が事前に察知されずに突発的に発生し、間を置かずに我が国の存立が脅かされることは否定できない」
「本当にやむを得ない場合は事後承認があり得るが、できる限り、原則として事前承認となるよう努力したい」(25日特別委員会・集中審議での答弁)と、例外なく事前承認を義務付けることに慎重な考えを示している。また、中谷大臣は、国会承認をえる際に政府が国会提出する対処基本方針について「我が方の手の内を明らかにするおそれがある場合には情報保全を図る」とし、具体的な作戦や部隊編成・展開状況の詳細などは「特定秘密保護法に該当し、特定秘密として指定されることはありえる」と、国会への詳細報告を避ける可能性も示唆した。

 与党は、野党との協議には積極的姿勢をみせているが、主張の隔たりもあるだけに、修正要求に応じるかどうかは慎重に検討していくようだ。このため、与野党の修正協議が進展をみるかは、いまのところ不透明だ。

【法案の絞り込み動向も注目を】
 通常国会後半の最大焦点となっている安全保障法制をめぐっては、参議院の特別委員会を舞台に連日質疑が行われている一方、与野党間の修正協議が近くスタートする見通しだ。自民党は、参議院送付から60日経過しても関連法案が採決されない場合には衆議院本会議で3分の2以上の賛成により再可決することが可能となる「60日ルール」(憲法第59条)の適用を視野にいれていないことを強調しているが、9月14日以降には60日ルールが適用可能となるだけに、9月前半には大詰めを迎えるとみられている。自民党は、21日の特別委員会理事懇談会で、28日に参考人質疑を行うことを提案したが、野党側は回答を避けたため、引き続き協議することとなった。
 このほか、国会では、女性の採用・昇進機会を増やす取り組み加速を促すため、従業員301人以上の大企業、国・地方自治体に、採用者や管理職に占める女性割合、勤続年数の男女差などを把握したうえで、自主判断で最低1項目の数値目標を盛り込んだ行動計画の作成・公表を義務化することを柱とする「女性の職業生活における活躍の推進に関する法律案」は、28日にも参議院本会議で可決・成立する見通しとなっている。安倍内閣は、指導的地位に占める女性の割合を2020年度までに30%に引き上げることを目標としており、同法成立後、女性登用を促進するための具体策が問われることになりそうだ。  派遣労働者の柔軟な働き方を認めることを目的に、企業の派遣受け入れ期間の最長3年という上限規制を撤廃(一部の専門業務を除く)する一方、派遣労働者一人ひとりの派遣期間の上限は原則3年に制限して、派遣会社に3年経過した後に派遣先での直接雇用の依頼や、新たな派遣先の提供などの雇用安定措置を義務づける「労働者派遣法改正案」は、同じ職務を行う労働者は正規・非正規にかかわらず同じ賃金を支払う「同一労働・同一賃金推進法案」とともに、参議院厚生労働委員会でいまだ審議が続いている。通常国会中の成立は確実とみられているが、民主党など野党が廃案を求めて抵抗しているほか、日本年金機構の個人情報流出問題の影響などもあって、委員会採決のメドがついていないようだ。
 一方、柔軟な働き方を広げて労働生産性を高めるねらいから高度プロフェッショナル制度創設や企画業務型裁量労働制の対象を新商品開発・立案や課題解決型営業などへの拡大、年5日の有給休暇の取得ができるよう企業に義務づける過労対策などを柱とする「労働基準法等の一部を改正する法律案」などの会期内成立を、すでに断念している。  また、自民党は、日本維新の会・生活の党とともに共同提出した、カジノ解禁を含む統合型リゾート(IR)の整備を促す「特定複合観光施設区域整備推進法案」(カジノ推進法案)も通常国会中の成立を断念する方針を固めた。会期の大幅延長を受け、推進派は「経済成長や雇用、観光振興の面で必要不可欠」(推進議員連盟会長の細田自民党幹事長代行)と、通常国会中の成立に強い意欲をみせていた。維新の党も早期審議入りを自民党に要請した。しかし、公明党や民主党などはギャンブル依存症への懸念や、マネーロンダリングなどの犯罪対策が不十分などを理由にカジノ解禁に慎重な姿勢を崩さず、審議入りにも応じない姿勢をとってきた。安全保障関連2法案の成立時期が見通せない状態が続くなか、賛否の分かれるカジノ推進法案の審議入りを強行すれば、安全保障関連2法案の審議にも影響しかねないとして、臨時国会以降への先送りもやむをえないと判断したようだ。これにより、2020年の東京オリンピック・パラリンピックにあわせて完成させる考えだったが、間に合わない可能性が高くなっている。
 通常国会の会期末(9月27日)まで残り1カ月となった。与党内では、通常国会中に審議する法案の絞り込み作業が進められている。重要法案はじめ各法案のうち、どの法案を審議入りのうえ成立させ、どの法案を先送りとするのだろうか。安全保障関連2法案の審議や与野党の水面下での攻防に注意を払いつつ、与党が各法案の扱いをどう決めるのかもチェックしておきたい。