【礒崎総理補佐官を参考人招致】

 今週3日、平和安全法制整備法案と国際平和支援法の安全保障関連2法案を審議する参議院わが国および国際社会の平和安全法制に関する特別委員会で、「我が国を守るために必要な措置かどうかを問題にすべきで、法的安定性は関係ない」と発言した礒崎総理補佐官を参考人として招致した。

 

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礒崎総理補佐官の参考人招致をめぐっては、与野党が特別委員会理事懇談会を7月29日と30日に開いて協議を重ねた。早期の幕引きを行いたい与党側は、まずは礒崎総理補佐官を非公開の理事会または理事懇談会に出席して弁明のうえ、与野党理事が質疑する方式を提示した。これに対し、「法の支配という観点から、行政に携わる資格がない」「立憲主義の否定であり、安倍内閣の本音」「国会に来て国民の前で謝罪すべき」「関連法案は法的安定性を欠いていると認めた」などと批判する野党側は、礒崎総理補佐官の特別委員会招致を譲らないことで足並みを揃えて、「この問題が解決しなければ審議に応じられない」「扱いによっては委員会開催に影響を及ぼすこともあり得る」と迫った。

30日の特別委員会理事懇談会で、鴻池特別委員長(自民党)が委員会出席で折り合うよう提案したことを踏まえ、8月3日の特別委員会に礒崎総理補佐官を参考人として招致することになった。野党が要求する参考人招致を受け入れなければ今後の特別委員会での審議に影響を及ぼしかねない情勢となっていることや、公明党を中心に与党内からも不快感や批判、丁寧な説明の要求などが相次いだほか、「進退は自ら判断するのが政治家の基本」(公明党の井上幹事長)と礒崎総理補佐官の進退問題にも言及し始めたことから、礒崎総理補佐官の陳謝・釈明で影響を最小限にとどめたい参議院自民党の幹部らは、野党への譲歩を決めた。

 

 3日の特別委員会では、冒頭に礒崎総理補佐官が発言の真意などを説明したうえで、15分間の参考人質疑が行われた。

礒崎総理補佐官は「私の軽率な発言により特別委員会の審議に多大な迷惑をかけた」「発言を取り消し、関係者に心よりおわび申し上げる」と謝罪した。そして、「もとより法的安定性が重要であることを認識している。あくまでも合憲性、法的安定性を当然の前提とした発言」「安全保障環境の変化も議論しなければならないと述べる際に、本来なら法的安定性とともに国際情勢の変化にも十分配慮すべきと言うべきところを、法的安定性は関係ないとの誤った表現を使ってしまった。大きな誤解を与えてしまった」と法的安定性全体を否定する意図がなかったと釈明のうえ、発言を撤回した。

また、関連2法案については「必要最小限度の武力行使しか認めないとの従来の政府見解での憲法解釈の基本的論理は変わっておらず、合憲性と法的安定性は確保されている」との認識を示した。野党の辞任要求については「法案の審議に迷惑を与えることなく、総理補佐官としての職務に精励していく」と否定した。

 

 これに対し、鴻池特別委員長は、礒崎総理補佐官が「(関連2法案の審議を)9月中旬までに終わらせたい」と発言したことを参議院軽視のような内容だと問題視して、「9月中旬にこの法律案を上げたいという発言はいかがかと思う。参議院は衆議院の下部組織ではない。官邸の下請けではない」と、礒崎総理補佐官に苦言を呈した。礒崎総理補佐官は「いわずもがなの時期的なこと申し上げたことは、首相補佐官発言として極めて不適切だったと考えている。今後は不適切な発言のないよう努力し、参議院の価値について私自身見直し、しっかりと考えたい」と述べた。

参考人質疑で野党を代表して質問に立った福山哲郎・民主党幹事長代理は、礒崎総理補佐官が「法的安定性で国を守れるか。そんなもので守れるわけない」などとも発言していたことも紹介して、「安倍総理はじめ政府が、法的安定性は維持しながら集団的自衛権を限定容認したと強弁してきた。それがよりにもよって、総理補佐官が法的安定性は関係ないと言い放った。ちゃぶ台をひっくり返したのも同然」として、礒崎総理補佐官に辞任を求めた。また、「安倍政権の考えと礒崎総理補佐官の考えが同じだということではないか。総理補佐官を任命し続ける安倍総理の責任は非常に大きい」と、礒崎総理補佐官の更迭を否定し続ける安倍総理の任命責任について言及するとともに、「任命責任という指摘はあたらない」と述べた菅官房長官も批判した。

 

 通常国会中に成立させるべく、関連2法案の審議時間を積み上げていきたい政府・与党は「(礒崎総理補佐官が発言撤回したことは)潔くてよかった」(自民党の高村副総裁)、「明確に真意を説明された」(自民党の谷垣幹事長)、「特別委員会で陳謝し、発言を取り消した。深い反省のもとに2度と同じ言動を繰り返さないという本人の国会における誓いだと受け止めている」(公明党の山口代表)などと評価・擁護して、幕引きに躍起となっている。

 これに対し、野党側は、礒崎総理補佐官の釈明は不十分であり、「到底納得できない。礒崎氏をかばう総理も同じ考え方と受け止めざるをえない」「総理の任命責任というより安倍内閣の責任だ」(民主党の枝野幹事長)、「今の政権は緩んでいると同時にある意味本音が出た」(維新の党の松野代表)などと反発を強めており、引き続き礒崎総理補佐官の辞任または安倍総理による罷免を求めるとともに、安倍総理の任命責任を徹底追及する構えだ。

民主党・維新の党・共産党は、4日の特別委員会理事懇談会で、礒崎総理補佐官の再度の参考人招致を要求し、北沢俊美・野党筆頭理事(民主党)も「来週の審議に礒崎氏を呼ばなければ、審議に支障をきたすかもしれない」と迫った。しかし、参議院自民党は「引き続き検討する」と述べるにとどめた。与野党は理事懇談会で改めて協議するが、与党内には、礒崎総理補佐官の姿勢を批判する声や、総理補佐官の続投を疑問視する声が出ているものの、「陳謝をして取り消した。参考人として呼ぶことは控えていいんじゃないか」(公明党の山口代表)などと、再度の参考人招致に否定的だ。鴻池特別委員長も「総理補佐官の参考人招致は異例の対応で、次の招致は極めて難しい」と慎重姿勢を示している。

 

 

【安倍総理、中国や北朝鮮の脅威に言及】

特別委員会の開催日をめぐっては、遅くとも9月前半には関連2法案を採決のうえ成立させたい自民党が週4日ペースで特別委員会を開催することを提案したのに対し、審議未了のまま廃案に追い込みたい民主党など野党側が、定例日が設けられていた衆議院と同様、参議院でも原則として週3回の定例日を設けて特別委員会を開催すべきだと主張し、平行線をたどっていた。断続的に協議を行った結果、与野党は、29日の特別委員会理事懇談会で、原則として週3日(火・水・金曜日)の開催とし、特別委員会の予備日を月曜日とすることで合意した。

 

 関連2法案に関する特別委員会の審議では、安倍総理が29日の総括的質疑で、安全保障環境が変化している一例として(1)国防費の大幅な伸び、(2)尖閣諸島周辺での公船による相次ぐ領海侵入、(3)東シナ海での一方的な資源開発と軍事転用の恐れなどを挙げて、「既存の国際秩序とは相いれない、力による現状変更」と、中国の軍拡路線に対する懸念を表明するとともに、日米同盟などを念頭に「パートナー国との関係を深めることで紛争を未然に防ぎたい」と、米国など関係国との連携強化を図る必要性を示した。

 中国との関係改善については「外交を通じて平和を構築することが重要」としたうえで、「戦略的互恵関係の考え方に立ち関係を改善していくとともに、中国の力による現状変更の試みには事態をエスカレートすることなく、冷静かつ毅然と対応していく」「さまざまなレベルで対話を積み重ねながら、安定的な友好関係を発展させていきたい」と、外交努力を続ける考えを強調した。

 

また、北朝鮮の核ミサイル開発などについては、懸念を改めて表明したうえで、「自衛の措置としての武力の行使は最後の手段であり、紛争の平和的解決のために外交努力を尽くすことが前提だ」と強調した。中谷防衛大臣兼安全保障法制担当大臣は、30日の特別委員会で、今年10月にも北朝鮮が弾道ミサイル発射実験を実施する可能性が指摘されていることについて「仮に発射されれば累次の国連安保理決議に違反し、北朝鮮の弾道ミサイル能力増強につながる。日本の安全保障上、強く懸念すべきものだ」と警戒感を示した。

安倍総理は、日米両国がイージス艦で分担して追尾・迎撃する共同対処態勢を敷いており、「法制が成立すれば米艦護衛が可能になり、ミサイル防衛システムはより効果を発揮する。しっかりと国民の命を守ることができる」と強調した。また、4日の特別委員会でも「弾道ミサイルの脅威に切れ目ない対応を行うことが可能になり、日米同盟の抑止力、対処力は一層強化される。相手国にも同盟の絆はより強化されていると認識させることができる」と意義を強調した。

 

 これまで政府は、外交的配慮から脅威が想定される国名を提示することに慎重だったが、関連2法案への国民的理解を広げるねらいから、現実の脅威を提示して強調する答弁を行うようになっている。こうした政府答弁に、成立阻止をめざす民主党や共産党、社民党、生活の党などは「日中首脳会談を模索している状況で、特定の国名を出すことがトータルのわが国の外交安全保障戦略上、適切だとは到底思わない」(民主党の枝野幹事長)、「中国の脅威論をさまざま言い立てて、防戦にかかっている」(共産党の穀田国対委員長)などと批判している。

概ね賛成の立場を表明している次世代の党は「現代に侵略行為をしているのは中国だ。中国への抑止力を持つための安保法制にしなければならず、首相が中国の脅威を言うのは正しい」(松沢幹事長)と擁護している。日本を元気にする会の松田代表も「外にある危機が明確だから、名前を出してもいい」と理解を示した。

 

 

【集団的自衛権行使をめぐって議論】

 野党が集団的自衛権行使を限定容認することで「米国の戦争に巻き込まれるのではないか」との懸念を表明していることについて、安倍総理は、30日に特別委員会で行われた集中審議で、「フルスペック(全面的な集団的自衛権)となれば、専守防衛の範囲から外に出る」としつつ、「あくまでも自衛のための必要最小限の措置」「(武力行使の新3要件は)他国を防衛すること自体を目的としていない」と強調したうえで、日本の安全や国民の命に関わりがない状況であれば他国の「戦争に巻き込まれることは絶対にない」と明言した。そして、憲法第9条にもとづく専守防衛は「日本の防衛の基本方針であることに変更はない」とし、関連2法案が成立後も当然維持されるとの認識を示した。

 また、安倍総理は「武力行使の新3要件にあてはまらなければ明確にノーだ。あてはまっても自主的に政策判断するのは当然で、国会承認という歯止めもかかっている」(4日の特別委員会での答弁)と強調し、「米国の戦争に巻き込まれることは全くない」と主張した。

 

 国際協力のための自衛隊派遣について、安倍総理は、(1)国益に資するか、(2)日本の防衛に支障がないか、(3)現地や国際社会から評価されるか、(4)国民に支持されるかなどを判断基準とし、「こうした要素を考慮し、国際社会の一員として積極的な役割を果たせるようにしたい」と説明した。

 質問した水野賢一参議院議員(無所属クラブ)が、海外派遣中に自衛隊員が武器を不正使用した際の罰則規定が関連法案に盛り込まれていないと言及すると、中谷大臣は、刑法の国外犯処罰規定が事実上3年以上の懲役となる罪に限定していることとの兼ね合いから現時点では罰則規定を盛り込んでいないと説明したうえで、「今回の法制とは別途、不断の検討を行っていく」(29日の特別委員会)と説明した。そして、「自衛官は法令に基づく適正な武器使用が求められ、派遣に際して徹底した訓練を行っており、海外で違法な武器使用を行うことは想定されない」と理解を求めた。

これに対し、水野議員は「甘過ぎる。一発の銃声から泥沼の戦争になることもある。特に海外での武器使用には厳しい視点が必要」と批判して法案を出し直すべきだと反発した。審議が一時中断する事態となったことから、鴻池委員長が政府側に答弁の再検討を求めた。

 

このほか、自衛隊による他国軍への後方支援について定めた関連2法案で補給対象となっている弾薬と、提供が認められない武器との違いについても議論となった。中谷大臣は、3日の特別委員会で、弾薬を「一般的に武器とともに用いられる火薬類を使用した消耗品」、武器を「直接人を殺傷するなどを目的とする機械で消耗品でないもの」と定義したうえで、「手榴弾は武器とともに使わないが、直接、人を殺傷することなどを目的とする火薬類を使用した消耗品であり、弾薬として提供可能」と説明した。そして、現に戦闘行為が行われている現場以外であれば「提供を行ったとしても、他国の武力行使と一体化するものではない」との認識を示した。

また、中谷大臣は「ミサイルは提供の対象として想定していない。あえてあてはめれば弾薬だと整理できる」(4日の集中審議)との認識を示した。核ミサイルや生物兵器、劣化ウラン弾、クラスター爆弾なども理論的には弾薬に含まれるとして、「法文上は排除していない」(5日の特別委員会)と説明した。核ミサイルや劣化ウラン弾・クラスター爆弾などの輸送業務について「個々の要請に基づき主体的に判断する」としつつ、非核三原則や生物兵器・クラスター爆弾の禁止条約などを理由に「要請があっても断固拒否」されるべきと強調している。

ただ、こうした政府側の説明に、野党各党は、殺傷能力の高いミサイルは武器に分類されるべきで、ミサイルの提供を法律で認めることになりかねないと批判している。また、法文上でミサイルなどの輸送が禁じられていない以上、政策判断で可能になる余地を残すことになりかねないだけに、「大量破壊兵器は除くなどと条文に明記すべき」「非人道的な兵器を使う片棒を担ぐのか」などの批判も出ている。

 

 

【集中審議での論戦に注目を】

 安全保障関連2法案が参議院で審議入りし、特別委員会を舞台に、与野党の本格論戦が続いている。自民党は、慣例にもとづいて全審議時間を80時間強と見込み、お盆休み直前の8月11日まで特別委員会での審議を着実に積み重ねていきたいとしている。ただ、野党側は、礒崎総理補佐官の発言問題や、関連2法案の違憲性や矛盾点などを浮き彫りにし、世論を味方につけて、関連2法案の成立を急ぐ与党を強く牽制したい考えだ。

 このほか、7月31日の参議院本会議で、女性の採用・昇進機会を増やす取り組み加速を促すため、従業員301人以上の大企業、国・地方自治体に、採用者や管理職に占める女性割合、勤続年数の男女差などを把握したうえで、自主判断で最低1項目の数値目標を盛り込んだ行動計画の作成・公表を義務化することを柱とする「女性の職業生活における活躍の推進に関する法律案」の趣旨説明と質疑が行われ、審議入りした。

 

国会が正常化し、衆参両院で審議が進められるなか、今週7日には衆議院予算委員会で、来週10日には参議院予算委員会で、新国立競技場の建設計画を安倍総理が白紙撤回したことや、環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)交渉などをテーマにした集中審議が、安倍総理や関係閣僚が出席して開催される予定だ。

 野党側は、新国立競技場の建設計画見直し問題について、設計見直しの判断が遅れたことや膨張する総工費の実態などを質すとともに、一連の責任の所在について追及していく方針だ。建設計画を担当してきた久保文部科学省スポーツ・青少年局長は事実上の更迭とみて、「政治のレベルで責任を取るべきだ。事務方が責任を取って終わりというわけにはいかない」(維新の党の松野代表)などとして、所管官庁のトップであり決定などを行ってきた下村文部科学大臣の辞任、さらに事実関係によっては安倍総理の責任問題も追及する構えをみせている。

 

 大筋合意が見送りとなったTPP交渉をめぐっては、政府側が「残された課題は相当、絞り込まれた」「今回の会合の成果を踏まえながら、我が国の国益を確保しつつ、交渉の早期妥結に向けた努力をしていきたい」(菅官房長官)と意欲をみせる。これに対し、野党各党は、これまでの交渉経過が不明確だとして「交渉内容が明らかにならないと断定的な評価はできない」(民主党の枝野幹事長)、「日本が得られるものと失うものがどれだけあるのか。情報がない中でとても判断できない」(維新の党の柿沢幹事長)などと述べて、交渉の情報開示を政府に求めている。今後、賛否それぞれの立場から集中審議だけでなく、衆参両院の関係委員会で質していきたいとしている。

また、TPP交渉に慎重・反対の野党は、低関税の輸入枠が拡大するなど、政府が早期妥結を優先するあまり大幅に譲歩するのではないかと警戒感も募らせている。「漏れてきている経緯からすると、どうもわが国が守らなければならない部分が守れていない。取るべき部分が取れていない」としたうえで「日本が一方的に妥協を余儀なくされている内容なら逆にまとまらず、よかったのかもしれない」(民主党の枝野幹事長)と皮肉ったり、「(合意見送りは)国民生活より多国籍企業の利益が優先させるTPPに各国で反対の世論が広がった結果」(共産党の山下書記局長)などと譲歩案の撤回や交渉離脱を求めたりしている。

 

 衆参両院の予算委員会で開かれる集中審議で、野党各党は、新国立競技場の建設計画見直し問題やTPP交渉問題などについてどのように追及し、安倍総理や関係閣僚からどういった答弁を引き出すことができるのだろうか。与党対決法案や重要法案の審議動向や、関連委員会での審議内容も抑えつつ、集中審議での与野党論戦に注目しておきたい。