【安全保障関連法案をめぐって参考人質疑】

先週7月1日、平和安全法制整備法案と国際平和支援法の安全保障関連2法案を審議する衆議院我が国及び国際社会の平和安全法制に関する特別委員会では、識者5人を招致して、参考人質疑を行った。また、今週6日には、地方(沖縄県、埼玉県)での参考人質疑が行われた。

 

*衆参両院の本会議や委員会での審議模様は、以下のページからご覧になれます。

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1日に開かれた特別委員会での参考人質疑では、与党推薦の参考人が「安全保障環境は大きく変動している。自衛隊がさまざまな脅威に切れ目なく活動することをねらいに、活動、基盤となる制度を整えることで抑止力の向上が図られる」(折木良一・元統合幕僚長)、「(集団的自衛権行使の限定容認は)憲法に反する部分はない」「日本国の安全を確立しようとする点で高く評価する」(小川和久・静岡県立大特任教授)と、安全保障法制の整備を支持する考えを表明した。

一方、野党推薦の参考人は「わが国の存立を脅かされるとは納得できない。存立危機事態の概念に無理がある。説明できない概念をつくったとの印象」「軍隊を対峙させることによる抑止が、逆に緊張を高める要因にもなる」(柳沢協二・元官房副長官補)、「自衛隊が中東地域で自衛隊が米軍の後方支援などを行えば、日本もイスラム教の敵と認識され、テロの標的になる可能性がある」(ジャーナリストの鳥越俊太郎氏)などと批判した。

 また、伊勢崎賢治・東京外国語大大学院教授(野党推薦)は、国連平和維持活動(PKO)で武器使用を迫られる可能性が高まっているとの認識を示したうえで、「最終的に国家が全責任を取るという法整備なしに、自衛隊員が国防以外に命を懸ける大義は生まれない」との認識を示した。

 

 1日と3日に行われた委員会審議では、中東・ホルムズ海峡での機雷掃海や、朝鮮半島有事などにおいて、集団的自衛権の行使で対処すべきか否かなどについて議論となった。

岸田外務大臣は、他国の掃海艇で機雷掃海が可能なら他に手段が存在し、武力行使の新3要件の「他に適当な手段がない」を満たさないのではないかとの民主党の主張に対し、他国が実施している掃海活動は他の適当な手段にはあたらないとの認識を示したうえで、「機雷掃海は多くの国の協力が必要で、わが国が他国と協力して掃海にあたることも当然考えられる」(1日、特別委員会の答弁)と、他国軍隊が主体的に掃海活動に当たっている場合でも自衛隊を派遣して協力することができるとの見解を示した。

また、個別的自衛権で日本を防衛できるとの野党側の主張について、岸田大臣は「他国からの要請も同意もない、わが国に対する武力攻撃もないなかで(個別的自衛権を発動すれば)武力攻撃をしたと認定されることにつながりかねない」(1日の答弁)、「他国が同様の主張をすることを認めざるを得なくなる」「進んで自衛権乱用の恐れを惹起すべきではない」(3日の答弁)などと否定的な見解を示した。日本防衛のため活動している米艦船が公海上で攻撃を受けたケースでも、個別的自衛権で対応できるのは極めて例外的な場合であり、基本的に集団的自衛権で対処すべきだとの認識を示した。

 

安倍総理も3日の特別委員会で、「存立危機事態は必ず(武力攻撃)切迫事態の後に生じるという関係にあるものではない」「公海上にある米艦艇に対する武力攻撃が発生したといって、それだけで我が国に対する武力攻撃の発生と認定できるわけではない。攻撃の着手と認定するのは難しい。一般的には集団的自衛権の行使とみなされる」と説明したうえで、「個別的自衛権の対応に限界があるので(武力行使の)新3要件を満たす場合は、武力行使して米国艦艇を守る必要がある」と、改めて集団的自衛権を行使する必要性を訴えた。

 朝鮮半島有事などを近隣諸国の紛争での集団的自衛権の行使が可能か否かについては、民主党が「北朝鮮が日本に弾道ミサイルを発射する兆候がなければ、存立危機事態を認定できないのではないか」(後藤衆議院議員)と追及したのに対し、安倍総理は「ミサイルだけでなく、潜水艇で特殊部隊を日本に派遣し、首都で大規模なテロを行うことも考え得る」(3日の答弁)と、存立危機事態に該当しうるとの認識を示した。

 

 

【修正協議をめぐって与野党の駆け引きが活発に】

また、野党側は、安倍総理を支持する自民党の中堅・若手議員出席した「文化芸術懇話会」で、出席議員から報道規制につながる圧力ととられかねない発言やメディア批判が相次いだ問題について、引き続き安倍総理・自民党総裁の認識などを質した。

 こうした野党の追及に安倍総理は、3日に開かれた特別委員会の総括的集中質疑で「大変遺憾だ。非常識な発言、国民の信頼を大きく損なう発言であり、看過できない」「報道、言論の自由を軽視する発言で、沖縄県民の思いに寄り添って負担軽減、沖縄振興に力を尽くしてきたわが党の努力を無に帰するかのごとき発言だ」と厳しく批判したうえで、「自民党本部で行われた勉強会であり、最終的な責任は当然、総裁としての私にある。谷垣幹事長と相談のうえ、関係者をただちに処分した」と述べ、「党を率いる総裁として国民に心からおわびしたい。沖縄県民の気持ちも傷つけたとすれば申し訳ない」と陳謝した。

 

 安倍総理が野党の謝罪要求を委員会審議で回避し続けたにもかかわらず、3日になって総裁としての責任を認めて陳謝したのは、沖縄での参考人質疑で自民党への批判が集中することを回避し、早期に衆議院特別委員会での採決環境を整えたいとの思惑があるからだ。与党は、委員会採決の目安としていた80時間を超えたことで、早ければ15日にも委員会採決し、16日の衆議院通過をめざしている。

8日に一般質疑を、10日に安倍総理が出席しての集中審議を行い、委員会採決の前提となる中央公聴会を13日に開催する日程を、3日の特別委員会で与党と維新の党の賛成多数により議決した。これにより、衆議院での採決日程をめぐって、与野党の攻防が激化している。早期採決に踏み切る考えを示している自民党に対し、民主党は「国会審議をすればするほど反対が広がるなかで、民意を無視する姿勢は民主制の本旨に反する」「歴代自民党政権が確立した憲法解釈を国民の圧倒的反対の中で変更することは立憲主義に明確に反する」(枝野幹事長)などと強く批判している。民主党とともに廃案をめざす共産党だけでなく、自民党が協力を期待する維新の党も「採決は時期尚早」として審議継続を求める。

6日に開催された自民党・民主党の参議院国対委員長会談でも、吉田参議院国対委員長(自民党)が、関連2法案の衆議院通過後を想定して参議院の特別委員会設置を提案したが、榛葉参議院国対委員長(民主党)は「法案を理解していない国民は8割を超える。我々が受け皿をつくることは到底できない」と、提案を拒否した。

 

 また、修正協議をめぐっても、与党と民主党、維新の党の三つ巴の駆け引きを繰りひろげている。維新の党は、2日の臨時執行役員会で、関連2法案の対案を正式決定した。3日には自民党、公明党、民主党それぞれに以下の維新の党3案を示し、修正協議入りを要請した。

○武力攻撃に至らないグレーゾーン事態に対処するため、武装集団による不法行為が起きた場合に本土からの距離などの事情で対処に支障を生じかねない区域を「領域警備区域」として指定して、自衛隊が領域警備行動できるとした「領域警備法案」、

○存立危機事態の概念ではなく、「条約にもとづき、わが国周辺の地域においてわが国の防衛のために活動している外国の軍隊に対する武力攻撃が発生し、これによりわが国に対する外部からの武力攻撃が発生する明白な危険があると認められるに至った事態」(武力攻撃危機事態)にのみ個別的自衛権を拡大して自衛隊の武力行使ができることなどを柱とした「平和安全整備法案」、

○自衛隊の活動範囲を非戦闘地域の公海とその上空に限定し、国連総会か安全保障理事会の決議なしには自衛隊派遣できないことなどを盛り込んだ「国際平和協力支援法案」

 

 維新の党の協力を引き出して強行採決に踏み切ったとの印象を回避したい与党は、維新の党との協議入りに前向きだ。ただ、集団的自衛権行使の限定容認や領域警備法案などをめぐって、政府案と維新の党案の隔たりは大きい。このことから、自民党内では、「国会に提出して審議するのが本筋」(自民党の高村副総裁)など、維新の党との修正協議よりも国会審議を優先すべきとの考えが出ている。対案が国会提出されれば、政府案との並行審議・委員会での同時採決となり、委員会採決に維新の党も出席させざるをえなくなる可能性があるからだ。

これに対し、維新の党は、7日の執行役員会で対案の衆議院提出を正式決定し、8日に提出する方針を決めた。早ければ10日の特別委員会から政府案と並行して審議される見通しだが、維新の党は「7月末までは政府案と並行審議してほしい」(柿沢幹事長)、「1回か2回の審議だけなら、とても採決に応じられるものではない」(松野代表)と、十分な審議時間の確保を与党側に求める考えだ。

参議院送付から60日経過しても関連法案が採決されない場合には衆議院本会議で3分の2以上の賛成により再可決することが可能となる「60日ルール」(憲法59条)が適用できる事実上の期限が6月24日で、政府・与党がその適用ができないよう牽制する思惑がある。また、十分な審議が行われない場合や、与党が今月中旬に強行採決に含みきった場合には、「乱暴な国会運営や国民の理解が得られないことをすれば審議拒否の選択肢もある」(松野代表)と採決拒否も辞さない構えもみせている。

 

 一方、民主党と維新の党は、6日、維新の党との実務者協議で概要をとりまとめた「領域警備法案」について共同提出で大筋合意していたが、7日に行われた民主党と維新の党の幹事長会談で、同法案を共同提出しないこととなった。民主党は、維新の党と共同提出することにより、与党と協議入りを進める維新の党を牽制するとともに、強行採決や60日ルール適用の阻止に向けて維新の党と共同戦線ができると判断していた。しかし、民主党と維新の党は、安全保障法制の方向性や対応で大きな隔たりもあるため、正式に合意するには至らなかったようだ。

 

 

【ドローン飛行規制関連法案が審議入り】

 4月に首相官邸の屋上ヘリポートで小型無人機「ドローン」がみつかった事件を受け、7月1日、与党・維新の党・次世代の党が衆議院に共同提出した「国会議事堂、内閣総理大臣官邸その他の国の重要な施設等及び外国公館等の周辺地域の上空における小型無人機の飛行の禁止に関する法律案」が衆議院内閣委員会に付託された。

 同法案は、「重要施設に対する危険を未然に防止し、国政の中枢機能の維持」を図ることを目的に、皇居や赤坂御用地、官邸・中央省庁、国会・議長公邸・議員会館、最高裁判所、外務大臣が指定する各国在日大使館、総務大臣が指定する政党事務所など重要施設周辺の上空とその周囲300メートルで小型無人機の飛行を原則禁止する内容となっている。防衛省など危機管理を担う重要施設や、国宝・重要文化財などについては、法施行後、政府内で速やかに検討のうえ必要性が認められれば対象施設に指定するよう求めている。

飛行禁止の対象施設や敷地の上空で無断に飛行させた場合、違反者に「1年以下の懲役または50万円以下の罰金」を科す一方、対象施設の周辺約300メートルの地域での無断飛行については、まず警察官が管理者に退去命令を出し、それでも従わない場合には飛行の妨害や破壊などの対応が取れるようにするとともに、処罰対象にすることができるとしている。

 

 ドローンのあり方をめぐっては、政府内でも立法作業が進められている。2日、航空法の規制対象外となっている小型無人機のあり方について検討している政府の関係省庁連絡会議(議長:杉田官房副長官)は、小型無人機の運用ルール骨子を策定した。

骨子には、(1)空港周辺や住宅密集地、人混みでの飛行は、原則として安全確保の体制をとった事業者に限定するほか、(2)日中以外の飛行禁止、(3)機体の性能や操縦者の技量などを確保するための制度の具体化、(4)事故に備えた保険の加入などが盛り込まれた。今後、空港周辺や住宅密集地などの上空や夜間の飛行を禁じることを柱とする航空法改正案を通常国会に提出し、今秋の臨時国会には、小型無人機の具体的な規制策を盛り込んだ「航空法改正案」を国会提出する方向で検討するとしている。

 

2日の自民党国土交通部会では、国土交通省が通常国会に提出する予定の「航空法改正案」を示して了承を得た。政府は、近く関連法案を閣議決定のうえ、通常国会に提出する。

改正案では、無人航空機を「構造上、人が乗ることができないもののうち、遠隔操作または自動操縦により飛行させることができるもの」ものと定義し、ドローンや模型飛行機などほぼ全てを規制対象とした。具体的な飛行禁止空域は国土交通省令により指定するとしているが、飛行禁止とする人口密集地域については人口密度1平方キロ当たり4000人の区域を目安とする方向で調整している。

また、飛行可能な地域での飛行にあたっては「日の出から日没までの間に飛ばす」「無人機や周囲の状況を目視で常時監視する」「祭礼や縁日、展示会など人が多く集まる場所で飛ばさない」「危険物や爆発物を搭載しない」「物を投下しない」などのルールが明記された。違反者には50万円以下の罰金を科す。ただし、公的機関が事故・災害時の捜索や救助などに使用する場合はルール適用の対象外としている。このほか、操縦者の研修や機体の管理などを通じて安全確保のための対策を講じた企業・団体には、国が一括して許可を出すという。

 

小型無人機の具体的な規制策をめぐっては、12日に開かれる連絡会議から議論を本格化させるようだ。いまのところ、操縦者の身元把握をしやすくするとともに、所有者に一定の知識や技能を要求することで事故防止につなげるねらいから、20~30キログラム以上の小型無人機の購入者に機体登録を課すことや、航続距離5キロメートル以上の高性能ドローンの操縦に無線従事者の国家資格取得を義務付けるなどが浮上している。また、重要施設への侵入を探知する装置や、探知・捕獲する警備用の機材の研究・導入なども必要ではないかとの声も挙がっている。

今後、国内での使用実態や海外の規制状況、産業分野での活用期待や技術開発の進展具合なども踏まえつつ、有識者などの意見を聴いて制度化を検討していくようだ。

 

 

【対決法案をめぐる与野党攻防に注意を】

安全保障関連2法案の採決日程をめぐって、与野党攻防が本格化している。与党・維新の党による修正協議の行方が今後の焦点となっているが、一筋縄にはいかない可能性が高い。自民党と公明党は、維新の党との修正協議に一定時間を割く方針で、修正協議に伴って7月下旬に採決・衆議院通過がずれ込む可能性も視野に入れている。ただ、60日ルールを適用する可能性も残しておきたいのが本音で、事実上の期限となる7月24日までに結論が出せるかが一つのポイントになるだろう。

 

 このほか、派遣労働者の柔軟な働き方を認めることを目的に、企業の派遣受け入れ期間の最長3年という上限規制を撤廃(一部の専門業務を除く)する一方、派遣労働者一人ひとりの派遣期間の上限は原則3年に制限して、派遣会社に3年経過した後に派遣先での直接雇用の依頼や、新たな派遣先の提供などの雇用安定措置を義務づける「労働者派遣法改正案」が、8日の参議院本会議で趣旨説明と質疑を行い、審議入りすることとなっている。

政府・与党は8月初旬の成立をめざしているが、成立阻止を掲げる民主党など野党が反発しているほか、日本年金機構の個人情報流出問題で相次ぐ不手際が続出していることもあって、審議日程に不透明感が増している。野党による個人情報流出問題の追及が優先され続けば、成立がお盆明け以降にずれ込む可能性もあるようだ。

また、与党は、柔軟な働き方を広げて労働生産性を高めるねらいから高度プロフェッショナル制度創設や企画業務型裁量労働制の対象を新商品開発・立案や課題解決型営業などへの拡大、年5日の有給休暇の取得ができるよう企業に義務づける過労対策などを柱とする「労働基準法等の一部を改正する法律案」の審議入りを模索し続けているが、民主党や共産党など野党が労働者派遣法改正案以上に反対しているだけに、衆議院での審議入りのメドはたっていない。安倍総理が成長戦略の目玉に位置付けているだけに、政府側は通常国会中の成立をめざして早期の審議入りを求めているが、自民党内では、安全保障関連2法案の審議にも影響しかねないとして、早期の審議入りに慎重となっている。

 

 与野党が対決する安全保障法制や労働関連法制をめぐる与野党攻防が続いている。今後の国会運営や法案審議にも影響を及ぼしかねないだけに、当面、これらの与野党攻防に注意しながら国会審議をみていくことが大切だ。