【労働者派遣法改正案の採決をめぐって対立】

先週10日から12日、派遣労働者の柔軟な働き方を認めることを目的に、企業の派遣受け入れ期間の最長3年という上限規制を撤廃(一部の専門業務を除く)する一方、派遣労働者一人ひとりの派遣期間の上限は原則3年に制限して、派遣会社に3年経過した後に派遣先での直接雇用の依頼や、新たな派遣先の提供などの雇用安定措置を義務づける「労働者派遣法改正案」をめぐって、与党や維新の党と、民主党など他の野党が激しく対立した。

*衆参両院の本会議や委員会での審議模様は、以下のページからご覧になれます。

  衆議院インターネット審議中継参議院インターネット審議中継


 衆議院厚生労働委員会の渡辺博道委員長(自民党)が、10日の質疑と11日の個人情報流出問題に関する集中審議の開催を職権で決めたことから、早期採決に反発する民主党と共産党は、日本年金機構がサイバー攻撃で約125万件の個人情報が流出した問題の審議を優先するよう主張するとともに、「強引な委員会運営」「一方的な採決ありきの運営」など批判して委員会を退席、審議中断のまま散会となった。

 個人情報流出問題の長期化を警戒する政府・与党は、被害防止策などを徹底することで早期の沈静化を図りたい考えだが、野党側は、二転三転する日本年金機構や厚生労働省の説明や、日本年金機構のずさんな管理が相次いで発覚していることなどを問題視し、真相が究明されるまで徹底追及の構えをみせている。日本年金機構がインターネット接続を遮断した時期について、これまで個人情報の流出を確認した翌日にはすべてのネット接続を遮断したと説明していたが、流出確認後も1週間にわたり別回線をメール専用として使い続けていたと日本年金機構が説明を変更した。これに、野党側は「虚偽説明だ」などと反発し、引き続き追及していくとしている。

 

 11日、自民党と公明党、維新の党の3党は、維新の党を含む野党で共同提出していた、同じ職務を行う労働者は正規・非正規にかかわらず同じ賃金を支払う「同一労働・同一賃金推進法案」について、「職務に応じた待遇の均等の実現を図る」を「職務等に応じた待遇の均等および均衡の実現を図る」に、法制上の措置を含む必要な措置を講ずる時期を施行後1年以内から「施行後3年以内」に変更し、「その後の実施状況を勘案し、必要があると認めるときは、所要の措置を講ずる」との文言を盛り込むなどしたうえで、修正案を共同提出することで合意した。

これを受け、与党は、11日の衆議院厚生労働委員会理事会で、12日の衆議院厚生労働委員会で労働者派遣法改正案の締めくくり質疑を行ったうえで委員会採決を行うよう提案した。維新の党は「あくまで委員会、本会議に出てきちんと議論するのが国会議員の正しい姿」(馬場国対委員長)と委員会採決に応じたが、改正案を廃案に追い込みたい民主党など他の野党は、採決を強行すれば全面的な審議拒否・日程協議にも応じないと徹底抗戦の姿勢をとった。

 

安全保障関連2法案<平和安全法制整備法案、国際平和支援法>の審議にも影響を及ぼすことを懸念した自民党は、12日の衆議院厚生労働委員会理事会で、12日に審議を終局させるものの、委員会採決は見送る考えを野党側に伝えた。しかし、民主党が委員長職権で12日の質疑を決めたことに抗議して質疑打ち切りの撤回を求めたことから、委員長職権で委員会開会に踏み切った。

委員会開会を阻止しようと民主党議員約35人が委員室前に陣取って安倍総理を取り囲んだり、渡辺委員長の入室を妨害したりと、一時もみ合いとなる事態が生じた。また、早期の審議終了に反発する民主党議員らが立ったままヤジを飛ばすとともに、約15分遅れで始まった質疑も拒否し続けた。

さらに、民主党と共産党は「不正常な状況」だとして、12日に開かれる予定だった衆議院我が国及び国際社会の平和安全法制に関する特別委員会など他の委員会も欠席した。

 

渡辺委員長は、民主党議員ともみ合うなかで首を絞められたこと(全治2週間の頸椎捻挫)を明らかにし、「暴力で思いを成し遂げようとしたのは、言論の府としてあるまじきことで、激しい憤りを感じる」と批判した。民主党は12日の衆議院厚生労働委員会理事会で陳謝したが、自民党は、渡辺委員長が質疑終局を宣言した際に詰め寄って議事進行を妨げた民主党衆院議員3人(山井和則氏、中島克仁氏、阿部知子氏)に対する懲罰動議を衆議院事務局に提出した。

 

 

【改正案、19日にも衆議院通過へ】

 労働者派遣法改正案などをめぐって混乱した国会の正常化に向け、与野党協議を行った。12日の国家基本政策委員会両院合同幹事会で、安倍総理に民主党の岡田代表、維新の党の松野代表、共産党の志位委員長が論戦を挑む党首討論を17日に開催することで基本合意した。

15日には、与野党国対委員長会談を開き、自民党の佐藤勉・国対委員長が「野党の一部と合意できない状況で進めたことは遺憾だった。野党の意見を真摯に受け止めることを約束するので協力をお願いしたい」と述べ、民主党なども「強行的な運営は極めて問題だ。今後、波風を立てないようにしてほしい」(高木国対委員長)と丁寧な国会運営を求めるとともに、労働者派遣法改正案の補充質疑などの環境整備を条件に国会審議に復帰する考えを示した。そして、15日に衆議院我が国及び国際社会の平和安全法制に関する特別委員会で一般質疑、17日に衆議院厚生労働委員会での質疑、18日に安倍総理はじめ関係閣僚の出席のもと衆議院予算委員会で個人情報流出問題や安全保障政策をテーマとする集中審議をそれぞれ行うことで合意した。

 

 表向きは関係修復で足並みを揃えた与野党だが、労働者派遣法改正案の早期採決を阻止したい民主党などは、個人情報流出問題などで引き続き追及を強めていく方針であるのに、労働者派遣法改正案の衆議院の早期通過をめざす与党は、19日の衆議院厚生労働委員会や衆議院本会議での採決は譲らない方針だ。与党は、16日に開かれた衆議院厚生労働委員会の理事懇談会で、19日の衆議院厚生労働委員会で、補充質疑をおこなったうえで採決を行うよう野党側に提案した。共産党は反対を表明したが、民主党は即答を避けた。

 

 また、渡辺委員長に負傷した件で、厚生労働委員会理事の西村智奈美衆議院議員(民主党)が妨害を指示する作戦メモをあらかじめ準備し、それを実行していたことが判明したことで、自民党は、民主党衆院議員3人に対する懲罰動議を衆議院懲罰委員会に付託するよう、15日の衆議院議院運営委員会理事会で提案した。16日の衆議院厚生労働委員会理事懇談会では、与党が民主党に対し「実力行使を肯定する発言があった」として、党としての正式な見解を示すよう求めた。

民主党の長妻代表代行が「数の力でほとんど議論なしに採決するとき、野党がお行儀よく座って見過ごし、法律を通すことが国益にかなうのか」と妨害行為を正当化したことについても、自民党は「民主党の組織的、計画的な暴力による議事妨害、委員長への暴力を正当化する代表代行の発言は、言論の府である国会を妨害するゆゆしい問題」(谷垣幹事長)などと強く非難し、関係者の責任を追及する構えもみせている。

 

 維新の党が労働者派遣法改正案に反対ながらも採決には応じるとしており、改正案は19日にも与党などの賛成多数により衆議院を通過する見通しだ。自民党は、野党の賛同を少しでも多く得て強行採決との批判をかわすねらいから、維新の党と共同提出する同一労働・同一賃金推進法案についても次世代の党に賛同を要請した。採決を前に、再び与野党の激しい攻防が展開されることもありそうだ。

 

 

【安全保障関連法案の合憲性をめぐって議論】

政府が提出した安全保障関連2法案をめぐる憲法論争が続いた。憲法論争に早期の終止符を打ちたい政府は、1972年に国会提出した政府見解と、日本の存立のために必要な自衛措置は国家固有の権能の行使として認められるとの見解を示した1959年の最高裁の砂川事件判決を踏まえ、武力行使の新3要件の下で認められる集団的自衛権の行使は「あくまでも我が国を防衛するためのやむを得ない必要最小限度の自衛の措置にとどまる」とし、従来の憲法解釈との論理的整合性が保たれているからこそ安全保障関連法案は合憲とする見解を文書で改めて示した。これに対し、野党側は、4日の衆議院憲法審査会で憲法学者3人が政府の解釈変更は違憲との見解を示したことを盾に、政府への追及を強めた。

 

10日の特別委員会の一般質疑で、憲法違反と批判する野党側に対し、中谷防衛大臣兼安全保障法制担当大臣は「従来の憲法の基本的論理は全く変えていない。集団的自衛権の一部容認は、わが国の存立を全うし、国民を守るためのやむを得ない自衛の措置として初めて容認されるもので、他国に対する防衛を目的とした集団的自衛権ではない。決して論理的整合性や法の規範から逸脱する内容ではないと私は確信を持っている」と反論した。

また、横畠内閣法制局長官も「憲法9条は自衛のための武力行使を禁じ、その結果、国民が犠牲になることもやむを得ないと命じているものではない」と説明したうえで、「個別的自衛権を超える部分が確かにある。ただ、その実態はわが国に明白な危険が及ぶ場合に限定しており、憲法9条の下でも許容される。国際法上の集団的自衛権一般を許容するものでは決してない」「他国を防衛するための武力行使は憲法を改正しないとできない。政府としてその考えは維持している」と、憲法解釈変更による集団的自衛権の行使容認は限定的で安全保障関連法案は合憲であると強調した。

 

 11日に開催された衆議院憲法審査会に、高村・自民党副総裁と、枝野・民主党幹事長、公明党の北側副代表らが出席し、意見表明した後、安全保障関連法案の憲法論争を中心に自由討議が行われた。

高村副総裁は、関連法案について「従来の政府見解における憲法9条解釈の基本的な論理、法理の枠内で合理的な当てはめの帰結を導いた」と憲法や過去の政府見解などとの整合性が取れていると強調したうえで、「合理的な解釈の限界を超えるものではなく、違憲との批判は全く当たらない」と主張した。集団的自衛権行使の限定容認の論拠として砂川事件最高裁判決を挙げ、「自国の平和と安全を維持し、存立を全うするために必要な自衛の措置を取りうることは、国家固有の権能の行使として当然と言っている。個別的自衛権の行使は認めるが、集団的自衛権の行使は認めないと言っていない」と訴えた。また、憲法学者の主張を根拠に違憲論を主張する野党に対し、「最高裁判決で示された法理に従い、国民の命と平和な暮らしを守り抜くために、自衛のための必要な措置が何であるかを考え抜くのは、憲法学者ではなく政治家」「憲法の番人は最高裁であり、憲法学者ではない」と述べた。公明党の北側副代表も、高村副総裁と足並みをそろえた。

 

これに対し、民主党の枝野幹事長は「論理的整合性が取れないことを専門的に指摘」した憲法学者3人の見解を支持し、「国内を代表する憲法学者がそろって憲法違反と述べたのは重大だ。こうした声を軽視するのは国会の参考人質疑の軽視につながる」「専門家の指摘を無視して、憲法解釈を一方的に都合よく変更する姿勢は、法の支配とは対極そのもの」「論理は専門家に委ねるべきだ。論理の問題と政治判断が含まれる問題の峻別もできないのでは、法を語る資格はない」と、政府・与党の姿勢を非難した。

また、高村副総裁が集団的自衛権の行使容認の根拠としている点について、「砂川判決で論点になったのは個別的自衛権行使の合憲性であって、集団的自衛権行使の可否は裁判で全く問題となっていない」「判決は行使容認には到底結び付かない」と指摘し、「論理の一部をつまみ食いして行使が可能だと導くのは、法解釈の基本に反する」と反論した。

 

 維新の党は、集団的自衛権行使が限定的に容認される場合はあるとしながらも「関連法案は憲法上疑義なしとは言えない」(井上英孝・衆議院議員)と述べた。また、関連法案で自衛隊による後方支援任務が拡大することについて「他国の紛争に加担することになる」(小沢鋭仁憲法調査会長)、「武力行使との一体化と解される可能性がある」(井上英孝・衆議院議員)との懸念を表明した。

共産党は「砂川判決は最高裁が統治行為論をとって、憲法判断を避けたもの」であり、「政府が9日に発表した見解はまったく反論になっていない」(赤嶺政賢・衆議院議員)と批判した。そして、「明確に憲法に違反する法案は廃案にすべきだ」と訴えた。一方、次世代の党は「国会審議を通じて立憲主義は担保される」(園田博之・衆議院議員)と関連法案を支持した。

 

 15日に開かれた特別委員会の一般質疑では、砂川事件最高裁判決が集団的自衛権の行使容認を合憲と判断する根拠になるか否かについて、中谷大臣が「直接の根拠としているわけではない」と1972年の政府見解が基本的論理であるとしたうえで、「砂川判決はこの基本的な論理と軌を一にするもの」と説明した。一方、横畠内閣法制局長官は、他国防衛のための全面的行使までは認められないが、「国際法上は集団的自衛権とされるものでも、わが国を防衛するためにやむを得ない措置は含んでいると解釈できる」「自国防衛に限定するなら含まれるという理解が可能」と、集団的自衛権の限定的行使は砂川判決で認められる点を強調した。民主党は、中谷大臣と、高村副総裁・横畠内閣法制局長官の発言に食い違いがあるとして、引き続き追及する構えを示している。

 また、関連法案の成立後に最高裁判所が違憲判決を行った場合について、違憲との立場を取る民主党は、「これだけ議論になりながらそれを強行的に採決して作り、違憲となれば、大きな責任を負う」「その時の内閣が安倍内閣かどうかわからないが、内閣総辞職に値する」(岡田代表)と主張している。これに対し、中谷大臣は「これまでの最高裁判決や基本的論理に導かれた結果なので、違憲無効となるものとは考えていない」との見解を示したうえで、一般論として「法治国家なので最高裁の判断が出たときには、適切に従っていきたい」と述べるにとどめた。

 

 

【与党、会期延長の検討へ】

 与野党の対立で関連法案の審議が進んでいない状況を踏まえ、自民党と公明党は、めざしていた通常国会の会期末(6月24日)までの衆議院通過・参議院送付、そして会期を40日程度延長して8月上旬までに成立させることが困難との認識で一致し、会期延長の期間について検討に入った。会期延長の期間をめぐっては、関連法案の審議状況を見極めて判断するとしている。8月15日までに戦後70年談話を発表する予定であり、8月下旬から9月にかけて安倍総理らの外交日程や自民党総裁選も控えていることを理由に、当初、8月上旬までに通常国会を閉会するシナリオを描いていた。

しかし、個人情報流出問題の余波で審議が停滞し、攻勢を強める野党を相手に十分な審議時間を今後も確保していくことが難しくなりつつある。6月中の衆議院通過も微妙な情勢で、自民党内では、8月下旬や9月上旬までの大幅延長もやむを得ないとする意見がある一方、野党側の反発で強行採決となるのは避けられないだけに、憲法59条規定にもとづき、参議院送付から60日経過しても関連法案が採決されない場合には衆議院本会議で3分の2以上の賛成により再可決する「60日ルール」の適用も含め、8月10日までの延長期間内に成立させるべきとの意見も出ている。

 

また、なるべく与党だけで関連法案を採決して「強行」と批判されるのを避けたい政府・与党は、「政府は最良の案として提出したが、国会審議の中でより良い考え方が出てくれば耳を傾ける。どのような政党でも修正が出てきた場合は真摯に対応させていただきたい」(菅官房長官)、「真摯な提案があれば受ける用意はある」(公明党の山口代表)と、修正協議に柔軟に応じる姿勢を示している。これに対し、次世代の党は「不十分なところがあるので修正協議を歓迎したい」(松沢幹事長)と、前向きの姿勢を示している。

 

維新の党の松野代表は「現段階での修正協議は全く考えていない」と述べているが、安全保障関連法案の対案を6月中にも国会提出する方針を固めていることから、修正協議も視野にいれているのではないかとの見方も出ている。

党内では、(1)武力攻撃に至らないグレーゾーン事態に対処する「領域警備法案」、(2)他国軍への後方支援で弾薬の提供禁止を盛り込むことなどの「国際平和協力支援法案」、(3)集団的自衛権行使を限定容認しつつ、経済危機を理由とした集団的自衛権の行使は認めないとする「平和安全整備法案」の3法案とりまとめを急いでいる。これまで民主党と共同提出する方向で模索されてきた領域警備法案は、維新の党単独で国会提出する方針だ。また、新たに「特定地域機雷掃海特別措置法案」の提出も検討している。

維新の党を修正協議に引き込んで野党間の分断を図りたい自民党は、落とし処を探っている。関連法案の根幹に関わる修正は難しいとしつつも、維新の党との修正協議を念頭に、領域警備などの法制化は今後の検討課題と位置付け、関連法案の附則や付帯決議、政党間の合意文書などに盛り込む案が浮上しているようだ。

 

 

【当面、与野党動向に注意を】

通常国会の会期末まで1週間を切った。「安全保障法制」「労働法制」「電力自由化」「農協改革」「女性活躍推進」など、安倍内閣の重要法案がいまだ審議中だ。通常国会の会期延長は1度しか行うことができないだけに、近く安倍総理と与党は、難しい判断を迫られることとなりそうだ。

また、こうした法案の多くが与野党対決法案でもあるだけに、野党が反対するなか、与党単独で採決を強行すれば、世論の批判も免れない。このことから、自民党は、農協法改正案などについて、維新の党などとの修正協議をスタートさせている。

会期末をにらんだ与野党入り乱れた対立となっており、水面下での駆け引きも活発となっている。来週24日にかけて流動的な様相を呈しており、与野党の出方が終盤国会の行方などを左右しかねないだけに、よくよく注意してウォッチすることが大切だ。