【来年度予算案、13日にも衆議院通過へ】

今週9日、衆議院予算委員会で、来年度予算案に関する中央公聴会が開催された。中央公聴会に出席した有識者からは、「長期的に財政の持続性が確保されたとは言いにくい」(鈴木準・大和総研主席研究員)として、財政再建と経済再生に向けた努力や、基礎的財政収支の2020年度黒字化などの財政健全化目標に向けたより一層の取り組みが必要との指摘が相次いだ。4日に開催された地方公聴会(金沢市、松江市)では、出席者から地方で景気回復の実感がないないなどの意見も出た。
 

 *衆参両院の本会議や委員会での審議模様は、以下のページからご覧になれます。

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 中央公聴会の開催で、来年度予算案の採決環境が事実上、整った。衆議院予算委員会では10日に分科会を、12日に一般質疑と社会保障などをテーマにした集中審議を行う。予算委員会での実質的な審議時間が73時間、日数が15日間となり、昨年を上回る計算となる。自民党は、10日に開かれた衆議院予算委員会理事会で、13日に締めくくり質疑を行ったうえで委員会採決を行う日程を、野党側に正式提案した。また、13日に衆議院本会議へ緊急上程することも求めた。しかし、野党側は、閣僚の政治とカネ問題などを念頭に「まだ審議が続いている」「議論を見届けたい」などと難色を示し、回答保留とした。

 

来年度予算案の衆議院通過をめぐって与野党の駆け引きが行われているが、野党側が最終的に与党の提案を受け入れ、13日に衆議院通過・参議院送付、16日に参議院で審議入りとなる見通しだ。

政府・与党は、4月の統一地方選をにらんで、地方創生や経済再生への取り組みをアピールするべく、これまで年度内成立にこだわってきた。しかし、閣僚の政治とカネ問題が相次いで浮上したことで、審議・採決日程に遅れが生じているうえ、限られた時間内に来年度予算関連の日切れ法案を優先処理しなければならないことから、年度内成立が困難な情勢だ。

政府・与党は、暫定予算案を編成して、4月第1週までの成立をめざしている。ただ、民主党など野党側は、引き続き閣僚の政治とカネ問題の追及を行っていく方針で、新たな疑惑が発覚すれば攻勢を強める姿勢を崩していないことから、成立が4月第2週にずれ込む可能性もありそうだ。

 

 

【献金規制も議論の焦点に】

国の補助金交付を受けている業界団体や企業から交付決定通知より1年以内に政治献金を受けていた問題について、西川前農林水産大臣、下村文部科学大臣や望月環境大臣、上川法務大臣のほか、安倍総理や麻生副総理・財務大臣、菅官房長官、甘利経済再生担当大臣、宮沢経済産業大臣、塩崎厚生労働大臣、林農林水産大臣にも同様の疑惑が浮上した。また、民主党の岡田代表や生活の党の小沢代表、維新の党幹部などにも同様の件近々問題が出ている。いずれも「違法性がない」と説明している。

 

安倍総理は、補助金交付企業から政治献金を受け取った事実を認めたうえで、「指摘された企業は、利益を伴わないものが明確に入っている」「(補助金交付は)知らなかった」(3日の衆議院予算委員会)と献金受け取りの違法性について否定した。

政治資金規正法の規定で政治献金を受けた政治家が補助金交付決定を知らなければ同法に抵触しないことや、補助金の性質が試験研究や災害復旧のほか「性質上利益を伴わないもの」などの場合は違法とはならないとなっていることについて、補助金交付決定を把握しないまま政治献金を受けてしまうことがありうるとして「違法であるかないかは冷静に見なければならない」と述べた。そのうえで、「国民に分かりにくい」「あいまいなところがあることも否めない」として、「現行法制度のもとでこうした問題が生じないように何ができるのか、規制そのものの在り方はどうあるべきかについて各党・各会派で議論をしていただくべき問題だ」「自民党でも検討を進めている」と、再発防止のための明確化が必要だと表明した。

 

 来年予算案審議への影響を懸念する安倍総理はじめ自民党は、「違法性がないことは確認できているが、何かおかしいのではないかというイメージづくりのような質疑が行われている」(萩生田・自民党総裁特別補佐)と野党側を牽制し、早期の幕引きに躍起となっている。これまで徹底追及の姿勢を示してきた民主党も、このまま泥仕合を続けるのは得策ではないと判断し、反社会勢力との関係があるとされる企業に融資していた男性から献金を受けていたことなどを認めるなど、答弁訂正や食い違いが目立つ下村大臣を除いて、追及のトーンを弱めつつある。

 

 こうした状況変化を受け、焦点は、献金規制のあり方にシフトしつつある。自民党と公明党は、国の補助金交付決定から1年以内の献金を禁じた政治資金規正法の趣旨と内容を周知徹底することがまず重要との認識で、谷垣幹事長も「条文への習熟が必要だ」と、運用改善や党内のチェック機能強化などで対応していくべきとしている。同法の規定の曖昧さなどの課題が残っている点については、両党で検討を進めていくとしている。

 一方、野党は、政治資金規正法改正による規制強化を主張している。維新の党は、企業・団体献金を全面禁止する政治資金規正法改正案も議員立法で国会に提出している。共産党も、政治資金パーティー券購入(実費分の徴収除く)も含めすべての企業・団体献金を禁止する法案を通常国会に提出する考えを明らかにした。次世代の党や社民党も全面禁止の方針を打ち出している。

民主党は、与野党間の協議を念頭に、(1)違反企業・団体への罰則強化や政務三役への献金の全面禁止、補助金交付企業への政治献金禁止通知の義務付けなどを図ったうえで政治資金規正法の周知徹底・厳格運用を行うことを優先し、(2)将来には企業・団体献金を全面禁止にする二段階の見直しを検討している。パーティー券の企業・団体による購入の禁止も検討しているという。3月中旬にも政治資金規正法改正案をまとめる方針だ。

 

 ただ、自民党内には「献金禁止は民主主義の自殺に等しい」などとの考えから、まずは規正法の周知徹底・運用改善によって対応すべきであり、野党が求める罰則強化などの法改正には消極的だ。安倍総理も「金の見返りに政治的な力を使って何かをやることが問題であって、企業・団体献金そのものがいけないとは考えていない」として、企業・団体献金そのものを禁じることについては否定的な見解を示している。与党側は、野党の動きなどを見極めながら対応していくようだ。

 また、民主党も「最終的には企業団体献金廃止に行き着ければベストだが、自民党が乗らなければルールとして確立されることにはならない。自民党に乗ってもらうための次善の策も必要」(安住国対委員長代理)として、全面禁止に二の足を踏んでいる。野党側は、民主党案がまとまり次第、野党間協議を行うことで一致しているが、全面禁止を求める維新の党などと意見の隔たりを埋めていくことができるかは、いまのところ未知数だ。

 

 

【労働者派遣法改正案、13日にも閣議決定】

 自民党は、5日の厚生労働部会で、昨年11月の衆議院解散により臨時国会で廃案となった労働者派遣法改正案を了承した。

同法案は、派遣労働者の柔軟な働き方を認めることを目的に、企業の派遣受け入れ期間の最長3年という上限規制を撤廃(一部の専門業務を除く)する一方、派遣労働者一人ひとりの派遣期間の上限は原則3年に制限して、派遣会社に3年経過した後に派遣先での直接雇用の依頼や、新たな派遣先の提供などの雇用安定措置を義務づける内容となっている。

民主党など野党が「派遣労働の固定化につながる」との懸念・批判を行っている点を踏まえ、直接雇用を促す姿勢を示すねらいから、1月30日の与党政策責任者会議で合意した「派遣就業が臨時的・一時的なもの」との文言を明記するなどの修正が施された。

 

 政府は、13日にも改正案を閣議決定し、通常国会中の成立をめざしている。しかし、成立は、容易ではない。格差是正解消を旗印に掲げる民主党や、改悪批判を展開する共産党や社民党などが、改正案成立の阻止を掲げており、訂正案にも冷ややかだからだ。通常国会提出予定の成果で賃金を決める新たな労働制度を盛り込んだ労働基準法改正案も「残業代ゼロ法案」と批判している。

また、労働者派遣法の担当課長が1月末、日本人材派遣協会の新年賀詞交歓会で、「派遣労働は、期間がきたら使い捨てだったというふうなモノ扱いだった」「ようやく人間扱いするような法律になってきた」などとあいさつしたことも問題になっている。塩崎厚生労働大臣は、5日の衆議院予算委員会で、課長発言が誤解を招く不適切な発言だったとして陳謝のうえで、「発言した課長に対し今月2日に厳重注意」したことも明らかにした。厚生労働省も、3日の衆議院予算委員会理事会で「派遣の雇用が不安定だという課題があるのに対し、今般の法改正案は派遣労働者の保護を一層強化する観点から、派遣労働者の立場に立った制度改正を行うとの趣旨で発言した」と釈明する文書を提出した。

対決姿勢を前面に打ち出したい民主党など野党は、引き続き政府側の認識・姿勢を質していく方針だ。法案の国会提出後には、民主党、共産党や社民党、生活の党などが共闘して成立を阻止することを模索している。もっとも、維新の党は改正案に賛成する方向で、野党側は一枚岩ではない。

 

労働者派遣法改正案や労働基準法改正案などは、通常国会後半の与野党対決法案になるだろう。労働者派遣法改正案や労働基準法改正案など計9本の厚生労働省所管法案が提出される予定で、審議に多くの時間を割くのが難しい情勢だ。このことから、審議・採決日程をめぐっても与野党攻防となりそうだ。

 

 

【集団的自衛権行使容認の法整備について議論】

 6日に行われた衆議院予算委員会での集中審議で、民主党は、集団的自衛権行使の限定容認について、安全保障法制に関する与党協議で憲法9条の枠内を超える議論を行っていると追及した。安倍総理は「海外に武力行使を目的として自衛隊を派遣することは、3要件の中にある必要最小限度を超えるものだ。憲法上、出せない」と説明したうえで、「今までの憲法解釈との関係をきっちり整理してきた。憲法改正をしなければいけない法律はない」と反論した。

 

 6日、安全保障法制整備に関する与党協議会(座長:高村・自民党副総裁、座長代理:北側・公明党副代表)が開催された。政府は、集団的自衛権行使を限定容認するための法整備骨格について提示した。

昨年7月に閣議決定した「集団的自衛権を行使できる武力行使の3要件」を盛り込むべく、日本と密接な関係にある他国が攻撃され日本の存立が脅かされる「存立危機事態」を防衛出動の発動要件に加える法改正(自衛隊法、武力攻撃事態対処法)を行うとしている。政府は、集団的自衛権行使の事例として、(1)中東などの(海上交通路)シーレーン上の機雷掃海、(2)退避する在外邦人が乗船している他国船舶の護衛、(3)米国に向かう弾道ミサイル防衛などを想定している。存立危機事態にあたるか否かの決定手続きは、総理大臣が「対処基本方針」を策定し、国家安全保障会議(NSC)で審議のうえ閣議決定としている。防衛出動に関する国会承認は、原則として事前承認とし、緊急時は事後承認を認める。事後承認を得られない場合は直ちに撤収命令を出す仕組みで検討している。

改正の検討を要する法律については、自衛隊法や武力攻撃事態対処法のほか、米軍など他国軍の支援を可能とする「米軍行動関連措置法」や、武力攻撃をしている他国軍に武器などを輸送する艦船を規制する「外国軍用品海上輸送規制法」など6法をあげている。日本への武力攻撃発生時における国の責務や民間企業や自治体の義務などを定めた「国民保護法」も検討対象としているものの、集団的自衛権行使と国民保護法発動は別に判断するため、現行法でも対応可能とし、存立危機事態が武力攻撃予測事態にあたれば同法を適用するとしている。

 

自民党と公明党は、政府案を大筋で合意した。ただ、公明党は、中東・ホルムズ海峡のシーレーン上での機雷掃海など日本国民に直接危険の及ばない状況での適用には慎重な考えを改めて示し、「(7月の閣議決定の内容を反映した)政府答弁をしっかり踏まえた法制をつくっていかなければならない」(北側副代表)と新3要件を法整備において厳格に定めるよう念押しした。

また、新事態の認定に関しても「攻撃国の意思、能力、事態の発生場所、その規模、態様、推移などの要素を総合的に考慮」すると説明した政府答弁をそのまま条文に盛り込むとともに、新3要件のうち「他に適当な手段がない」との要件を加えるよう求めた。

 

 

【与党、安全保障法制の方向性について取りまとめへ】

昨年7月の閣議決定に基づいて政府が想定する安全保障関連法案の全体像<武力攻撃に至らないグレーゾーン事態への対応強化、国際協力の拡大、集団的自衛権の限定行使>は、6日の与党協議会をもって出そろった。

 

自衛隊の海外派遣を随時可能にする恒久法制定を容認するにあたって、歯止めをかけたい公明党は、派遣条件として(1)国際法上の正当性、(2)国民の理解と民主的な統制<国会承認>、(3)自衛隊員の安全確保の3原則を重視して法整備を進めるとの確約を政府に求めている。国際法上の正当性として「国連の安全保障理事会決議」が前提と主張する公明党に対し、「国連の統括下でない活動にも広がっている」(安倍総理)として、海外派遣の制約をなるべく取り払いたい政府・自民党との間で意見の隔たりがある。政府・自民党は、海外派遣にあたって国会の事前承認を原則とし(緊急時は事後承認)、国会承認を得られない場合は直ちに撤収命令を出す仕組みとすることで、公明党の理解を得ていきたい考えだ。

 

自衛隊による船舶検査活動については、「国際社会の平和と安定」のために活動する他国軍の後方支援にも対象を拡大して、対象船舶が帰属する国の同意があれば船長の同意がなくても検査できるよう要件を緩和することに、公明党が「解釈に無理がある」(北側副代表)と難色を示していた。公明党は、強制的な船舶検査について、憲法が禁じる武力行使にあたり、隊員の安全確保が難しくなるとの考えだ。このことから、政府・自民党は公明党に配慮し、船長の同意を条件に残す方向で調整している。

 

自民党と公明党は、20日もしくは27日までに安全保障法制の方向性について取りまとめる方針で、政府はこれを踏まえて法案化作業に着手する。その後、自民党と公明党が具体的な条文案にもとづき、自民党と公明党の対立点についての擦り合わせのうえ、詳細を詰めていくこととなる。

 ただ、集団的自衛権行使の範囲や、恒久法に盛り込む自衛隊派遣の歯止めなどをめぐって、なおも紆余曲折が予想される。公明党の山口代表は、「公明党が提起した具体的な論点に対し、政府は十分答え切れていない点が多々ある」と述べ、「与党の議論にちゃんと政府が答え、足並みがそろわないとスケジュール通りに進まない」と政府・自民党を牽制している。

 

 

【引き続き与野党の駆け引きに注意を】

来年度予算案の審議が大詰めを迎えており、今週13日にも衆議院を通過する見通しだ。民主党など野党は、予算委員会などで安倍内閣のスキャンダル追及を行っていくとともに、政府・自民党との対決姿勢を前面に打ち出そうと、3月中の党首討論開催なども要求したいとしている。来年度予算案や予算関連法案の審議・採決日程をめぐる与野党の駆け引きに注意を払いながら、国会論戦の行方を見極めていくことが大切だ。

 また、通常国会後半の最大争点と目される安全保障法制について、与党としての議論がほぼ一巡した。与党は、安全保障法制の方向性とりまとめに向け、それぞれの項目詳細をどのように調整し結論を出していくのかもチェックしておいたほうがいいだろう。