【安倍総理、改革断行を強調】

先週12日、政府は、一般会計総額96.34兆円(前年度当初予算比0.5%増)の来年度予算案を通常国会に提出した。また、国会では、安倍総理の施政方針演説など政府4演説が衆参両院の本会議で行われた。
 

*衆参両院の本会議や委員会での審議模様は、以下のページからご覧になれます。

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「改革断行国会」と位置づける安倍総理は、施政方針演説で、経済再生や社会保障改革、地方創生、外交・安全保障法制整備などを挙げ、「いずれも困難な道のりで、戦後以来の大改革。ひるむことなく、進めなければならない」と決意を述べた。そして、「この国会に求められていることは単なる批判の応酬ではなく、改革の断行だ」と訴えた。

全国農業協同組合中央会(JA全中)の監査・指導権廃止を柱とする農協改革、混合診療の拡大などの医療制度改革のほか、法人実効税率を数年で20%台まで引き下げ、電力会社の発送電分離などの電力・エネルギー市場改革、労働改革などを改革メニューに盛り込み、成長戦略の着実な実行を強調した。また、2017年4月からの消費税率10%への引き上げを前に賃上げや改革の流れを加速して、「景気回復の風を全国に届ける」「経済再生と財政再建、社会保障改革の三つを同時に達成していく」と訴えた。

 

岩盤規制打破の象徴と位置付ける農協改革については、「農家の所得を増やすための改革」「農政の大改革は待ったなし。これからは農家、地域農協が主役」などと強調したうえで、地域農協を主体として「意欲ある担い手と地域農協が力を合わせ、ブランド化や海外展開など農業の未来を切り拓く」と、競争力ある農業・強い農業を創っていく決意を述べた。

 地方創生については、「地方にこそチャンスがある」「地方こそ成長の主役」「熱意ある地方の創意工夫を全力で応援」と地方の取り組みに期待を示すとともに、地方創生特区の創設や本社機能の地方移転を促す税制、地方で就職する学生への奨学金返済免除、農地転用許可の権限移譲、名産品の商品化・販路開拓への支援などで、地方での雇用創出・地域活性化なども進めると述べた。

 

4月の統一地方選を前に、「アベノミクスにより格差がひろがった」と批判して、再分配政策・格差是正を訴える民主党などを意識して、安倍総理は、「行き過ぎた再分配は社会の活力を奪う」「批判だけを繰り返しても何も生まれない」などと牽制した。

そして、若者雇用対策の抜本強化やブラック企業対策、子ども・子育て新制度の実施など社会保障の充実のほか、将来に格差が再生産されるのを防ぎ、誰にでもチャンスがある社会を実現するため、義務教育改革やフリースクールなど多様な学び支援、低所得世帯の幼児教育の負担軽減や高校生への奨学給付金の拡充などの子どもの貧困対策も言及した。

 

 外交・安全保障については、施政方針演説の冒頭で、イスラム教スンニ派過激組織ISILによる日本人殺害事件に触れて「日本人がテロの犠牲となったことは痛恨の極みだ」「非道かつ卑劣極まりないテロ行為を断固非難する」と述べたうえで、「日本がテロに屈することは決してない。テロと戦う国際社会において、日本としての責任を毅然として果たす」と国際社会と連携してテロに屈しない姿勢を強調、中東への人道支援の継続・拡充や邦人の安全確保の徹底も改めて示した。

 戦後70年談話を念頭に「これまで以上に世界の平和と安定に貢献する。その強い意志を世界へ発信する」「我が国は先の大戦の深い反省とともに、ひたすら自由で民主的な国をつくりあげ、世界の平和と繁栄に貢献してきた。その強い意志を世界に向けて発信する」と戦後の歩みを今後も堅持していく考えを示し、積極的平和主義や地球儀を俯瞰する外交を引き続き推進するとした。核不拡散や国連改革などで日本の役割拡大をめざすという。

集団的自衛権行使の限定容認を含む安全保障法制の整備については、公明党に配慮して、昨年7月1日の閣議決定を踏まえて「あらゆる事態に切れ目のない対応を可能とする安全保障法制の整備を進めていく」と述べるにとどめた。

 

 

【与野党の本格論戦がスタート】

こうした施政方針演説に対し、野党各党は「中身がよく分からない、言葉が躍る演説」(民主党の岡田代表)、「戦後以来の大改革とは笑止千万」「国民にとって大事なのは改革の中身」(維新の党の江田代表)、「(安保法制は)説明抜きで暴走姿勢」(共産党の志位委員長)などと批判した。

 

政府4演説に対する各党代表質問は、衆議院(16~17日)と参議院(17~18日)それぞれの本会議で行われ、与野党の本格論戦がスタートした。

民主党の岡田代表は「経済成長と格差是正を両立させることで、先進国の中でも格差の小さい国をつくりあげる」ことを掲げ、安倍内閣との対決姿勢を鮮明にする方針で代表質問に臨んだ。非正規労働者の増加や貧困率上昇などを挙げたうえで「日本社会の格差が近年拡大している」「短期的に株価を上げる政策に重点が置かれ、本質的な成長戦略には見るべき実績がない」と指摘して、「最大の問題は、成長の果実をいかに分配するかという視点が欠落していること」などと批判した。そして、非正規雇用の増加などで格差が拡大しているとして、労働者派遣法改正案などの労働法制見直しを「誤り」とし、所得課税・資産課税の課税範囲拡大や税率引き上げ検討、給付付き税額控除の実施などを訴えた。

これに対し、安倍総理は、格差が近年拡大していることについて「一概には言えない」と前置きしつつ、「税や社会保障による再分配後の所得の格差はおおむね横ばいで推移している」「国民の中流意識は根強く続いており、格差が許容できないほど拡大しているとの意識変化は確認されていない」「非正規に不本意でついている人の割合は低下している」との認識を示し、目立った格差拡大はないと反論した。

 

 西川農林水産大臣が代表を務める政党支部が国の補助金交付を受けている業界団体や企業から献金を受けていた問題が浮上したことで、民主党など野党は、17日の参議院本会議で行われた代表質問で安倍総理を質した。政治資金規正法では、国の補助金の交付決定から1年間、その団体・企業からの政治献金を禁じている。

安倍総理は「政治資金については、政治家としての責任を自覚し、国民に不信を持たれないよう、常に襟を正し、説明責任を果たしていかなければならない」と前置きしたうえで、西川大臣の献金受け取りは「政治資金規正法上、問題ない」との認識を示した。そして、「農林漁業者の所得を向上させ、農山漁村のにぎわいを取り戻す大目標に向かって、農協改革をはじめとする諸課題について、引き続き職務にまい進してもらいたい」と述べ、西川大臣の辞任について否定した。

 西川大臣は、疑念を持たれてはならないと判断して、当団体・企業に返金したという。ただ、野党側は、「献金を返せばいいわけではない。首相の任命責任も含め追及する」(民主党の羽田参議院幹事長)、「西川氏は謝罪して辞任すべきだ。辞任しないなら首相の任命責任は重大で罷免すべきだ」(社民党の吉田党首)などと批判しており、予算委員会審議などで西川大臣の政治とカネをめぐる問題を追及する構えをみせている。

 

 

【安全保障法制に関する与党協議会が再開】

 13日、通常国会の後半で焦点となる、集団的自衛権行使の限定容認を含む安全保障法制の整備について、自民党と公明党は、内容の具体化に向けて「安全保障法制整備に関する与党協議会」(座長:高村・自民党副総裁、座長代理:北側・公明党副代表)を再開させた。昨年7月1日の閣議決定にもとづき、自衛隊法改正案など安全保障関連法案を5月の大型連休明けに通常国会へ提出する方針で、3月下旬にも与党間で安保法制の基本方針を取りまとめるべく、毎週金曜日に協議を重ねていくという。

 

 13日の与党協議では、政府側から(1)武力攻撃に至らない侵害への対処、(2)国際社会の平和と安定への一層の貢献、(3)憲法9条の下で許容される自衛の措置、について与党側に検討を要請した。自民党と公明党は、まず武力攻撃に至らない「グレーゾーン事態」に関する法整備をめぐって議論を行った。

他国の武装集団による離島上陸・占拠や、公海上で民間船舶が襲撃された場合、外国軍艦が日本領海に侵入した場合のグレーゾーン事態で海上保安庁などが対応不可能なとき、警察権の範囲内で自衛隊による治安出動・海上警備行動を迅速に実施できるよう、発令時の手続きを簡略化するべく電話による閣議決定を認めることを大筋合意した。

また、昨年7月の閣議決定では明記されていなかった米軍以外の関係国の艦船などを防護の対象としたい政府・自民党は、日本も準同盟国と位置づけているオーストラリアなどが日本周辺海域での自衛隊との共同演習に参加することを念頭に、自衛隊や米軍とともに活動する他国軍隊も防護対象にするよう、公明党に理解を求めた。しかし、自衛隊の活動範囲の拡大に慎重な公明党が、自民党の提案に難色を示したため、次回以降に持ち越しとなった。

 

 次回会合以降の協議では、グレーゾーン事態のほか、後方支援を行うため自衛隊の海外派遣を随時可能にする恒久法制定や、集団的自衛権を行使する際の地理的範囲などについて検討される予定だ。

国際貢献分野では、国連平和維持活動(PKO)に参加した自衛隊が他国軍隊の援護に向かう「駆け付け警護」や、任務を妨害する者を排除するための「任務遂行のための武器使用」を可能にするPKO協力法改正のほか、朝鮮半島有事など周辺事態が発生した場合に米軍や関係国の軍隊を防護するための周辺事態法改正などが対象となる。また、集団的自衛権の限定行使を可能にするため、自衛隊法や武力攻撃事態法、米軍行動関連措置法などの改正も検討項目にあがっている。

 

一方、野党側は、民主党が12日、安全保障総合調査会役員会を開催し、安全保障関連法案をめぐる党内論議に着手した。今後、(1)グレーゾーン事態、(2)自衛権、(3)集団安全保障、(4)後方支援と武力行使の一体化、(5国連平和維持活動(PKO)の5項目に分けて、週1回以上のペースで議論を重ね、民主党としての見解をまとめていく方針だ。政府が5月の大型連休明けに安全保障関連法案の提出をめざしていることから、その前までに意見集約を図りたいとしている。

維新の党も13日、安全保障調査会を開催し、党内論議をスタートさせた。週1回のペースで会合を重ね、有識者から意見を聴きつつ、議論を深めていくという。

 

 

【衆議院予算委員会での論戦に注目】

 今週後半から衆議院予算委員会を舞台に、与野党の本格論戦がスタートする。18日の衆議院予算委員会で来年度予算案の提案理由説明を行ったうえで、19~20日と23日までの3日間、安倍総理はじめ全閣僚が出席のもと基本的質疑が行われる。

政府・与党は、来年度予算の年度内成立をめざしており、3月10日前後には衆議院を通過させたい考えだ。一方、野党各党は、安倍総理が掲げる改革メニューとその具体策について質すほか、西川大臣の政治とカネをめぐる問題などについても徹底追及する方針だ。

各党は、4月の地方統一選を前に、安倍総理との対決姿勢を鮮明にしようと躍起となっているだけに、質疑に誰がたち、どのようなテーマで論戦を仕掛けていくのだろうか。西川大臣の政治とカネをめぐる追及が長引けば、予算委員会の審議が混沌とする場合もある。引き続き、各党の政策や主張などについて整理しながら与野党論戦をウオッチすることが大切だ。