【与党、税制改正大綱を決定】

 今週16日、自民党と公明党は、2016年度与党税制改正大綱を決定した。当初、10日にもとりまとめて決定する方針だったが、2017年4月の消費税率10%への引き上げに伴って負担緩和策として導入する軽減税率の制度設計をめぐって、自民党と公明党との間で調整が難航し、ずれ込む結果となった。

経済再生や企業の国際競争力向上、景気の底上げにつながる企業の投資拡大と賃上げを後押しするため、法人実効税率(国・地方)のさらなる引き下げについては、2016年度に29.97%、2018年度に29.74%まで引き下げる。大綱では「財源なき減税を重ねることは国民の理解をえられない」と明記したうえで、税率引き下げの穴埋め財源として給与総額など企業規模に応じて課税する「外形標準課税」(地方税)の拡大や、欠損金繰り越し控除の縮小一部前倒しなどで捻出するとした。外形標準課税の拡大に伴い、資本金が数億円レベルの中堅企業に対しては2016年度から3年間、法人事業税の負担額が増えた分から25~75%を軽減する措置を設ける。このほか、中小企業の設備投資を促すため、新たに購入した160万円以上の機械や装置などにかかる固定資産税を半分にする時限措置(3年間)も設けるとした。

 

消費税率引き上げに伴って地方税の自動車取得税が廃止されることが決まっており、それに代わる新たな自動車税制として購入時の自動車税・軽自動車税を拡充し、上乗せ分を低燃費車ほど段階的に税率が低くなる「環境性能割」を導入する。景気減速を回避する観点や国内販売落ち込みを懸念する自動車業界の懸念を払拭する観点から、全体として約200億円規模の減税となる見通しだ。税率は、達成すべき環境性能として国が定めた「2020年度燃費基準」を踏まえ、自家用普通車が購入額の3%を上限に4段階、営業車が上限2%で4段階、軽自動車が上限2%で2段階とした。燃費が良いハイブリッド車、電気自動車、燃料電池車、クリーンディーゼル車などがほぼ非課税となる。

また、医療費削減につなげるために医療用医薬品から市販薬に転用した「スイッチOTC医薬品」の購入額が年間計1.2万円超になれば、上回った金額分の所得控除(控除限度額10万円)、3世代同居のための改修費の一部を差し引く所得控除(控除限度額25万円)、子・孫への贈与が非課税となる措置の対象を出産関連まで拡大、公共交通機関の定期券代や有料道路の料金に応じた通勤手当の所得税非課税限度額を月10万円から月15万円へ引き上げなどの減税措置が並んだ。

 

このほか、地方創生の一環として地方自治体への寄付にあたり実質的な持ち出しを寄付額の約4割に軽減する「企業版ふるさと納税」を導入するほか、地球温暖化対策として森林整備を進めるため「森林環境税」(国税)の創設など新たなしくみを検討するとした。TPPの農業対策の一環として農地集約を促進するため、農地中間管理機構を通じて農地を長期間貸し出す農家に対し、固定資産税を最大5年間半減する優遇措置を導入するほか、再生可能な耕作放棄地に対する固定資産税を1.8倍に増やした。

 

 

【軽減税率、酒類・外食のぞく飲食料品全般に】

最大焦点となっていた消費税の軽減税率をめぐっては、事務負担が増える事業者への配慮や財源確保の観点から、2017年4月の軽減税率スタート時には対象品目を生鮮食品(年間軽減額3400億円)に絞り、段階的に加工食品までひろげる案を主張してきた自民党が、国民の痛税感の緩和や分かりやすさ、景気対策になることなどを重視して軽減税率の導入当初から可能な限り幅ひろい対象品目とするよう求める公明党の要求を受け入れた。飲食料品内で線引きを行うと軽減税率の対象か否かで消費者・事業者が混乱することが懸念されるほか、来年夏に参院選が控えているなかで公明党との選挙協力を重視する官邸側の意向もあって、自民党が譲歩するかたちとなったようだ。

これにより、適用税率を8%(国・地方合計)に据え置き、対象品目は「食品表示基準に規定する生鮮食品および加工食品(酒類・外食のぞく)」となった。対象品目の定め方について、「飲食料品の消費実態」「低所得者対策としての有効性」「事業者の事務負担」を挙げて、総合的に勘案したと説明している。対象外となる外食は、食品を調理する飲食店や喫茶店の衛生面を規制して危害の発生を防止する食品衛生法上の飲食店営業者が、テーブルや椅子など飲食設備を設置した場所での飲食サービスの提供を基準とした。これにより、店内やフードコートなどでの飲食は外食に、ファストフードのテイクアウトや出前・宅配などは外食にあたらないとして軽減税率を適用する。また、コンビニのイートインコーナーでは、持ち帰り可能な弁当・惣菜などは軽減税率が適用されるが、返却が必要なトレー・容器に入れた食品は外食扱いとなる。ケータリングや出張料理も外食にあたるとした。

 

 飲食料品以外では、文字・活字文化の重要性を考慮するとともに、「民主主義の根幹を形成するものへのさらなる課税は好ましくない」として、週2回以上発行する新聞(戸別配達)を定期購読契約している場合に軽減税率(適用税率8%)の対象とすることとなった。定期購読以外の新聞や書籍・雑誌など出版物を軽減税率の対象に含めるかは「日常生活における意義、有害図書排除の仕組みの構築状況等を総合的に勘案しつつ、引き続き検討する」としている。

軽減税率の経理方式については、当面、現行制度を一部変更して軽減税率導入時に請求書で軽減税率適用商品に印を付けて合計額の税率・税額を記す「簡易な経理方式」の採用を認め、2021年4月には商品ごとに税率や税額を明記する「インボイス(適格請求書等保存方式)」に移行する。軽減税率の導入までの猶予期間が限られており、事業者らの準備が間にあわないのではないかとの懸念もあるため、政府・与党は、事業者の準備状況などを検証しながら、混乱なく軽減税率制度の円滑な導入・運用を可能にするための措置を必要に応じて講ずるなど、一体となって万全の準備を進めていくとしている。

 

 軽減税率の導入に伴う年間減収約1兆円分の穴埋め財源については、医療・介護や保育などの自己負担の合算額に上限を設定し上限を超えた分を国が給付する「総合合算制度」の実施見送りで捻出できる年4000億円などのほかは、確保できるメドが立っていない。2020年度に基礎的財政収支を黒字化する財政健全化目標を堅持したうえで、(1)2016年度末までに歳入出における法制上の措置などに講ずることにより、責任を持って安定的な恒久財源を確保、(2)財政健全化目標との関係や経済・財政再生計画の中間評価を踏まえつつ、消費税制度を含む税制の構造改革や社会保障制度改革などの歳入出のあり方について検討して必要な措置を講ずるとし、これらを税制改正法案で規定する。

 政府・与党は、厳しい財政状況を踏まえて新規国債発行には頼らない方針で、穴埋め財源の捻出策として、たばこ税増税(1本あたり3円引き上げ)のほか、今後の景気回復によって見込まれる税収の上振れ分の活用、国の外貨建て資産を管理する外国為替資金特別会計からの繰り入れ(2014年度剰余金3.4兆円)などが浮上している。ただ、政府・与党内から、上振れ分の活用や特別会計からの繰り入れは安定的な恒久財源にはならないとの否定的見解も示されており、今後、1年程度かけてどのように捻出するかが焦点となる。また、「明確な線引きは簡単なものではない」(麻生副総理兼財務大臣)だけに、曖昧さが残る区分け基準をどこまで明確なものにしていくかも

 

 今後、政府・与党は、与党税制改正大綱を踏まえ、軽減税率制度を含む税制改正関連法案を来年2月上旬にも通常国会(1月4日召集)へ提出し、来年度予算とともに年度内に成立させる方針だ。安倍総理は、法案化に向けた今後の手続きにあたり「党内をまとめて一致団結してやってほしい」と谷垣幹事長に指示したが、自民党内では安定的な恒久財源が確保されないまま官邸主導の政治決着を図ったことへの不満がくすぶっている。「国の財政が逼迫した状況に対する認識をもっと持たなければならない」「財源論を棚上げにして、政治判断を優先するなら自民党の税制決定の根幹が揺らぐ」「事業者などの手続きが煩雑になる」「事業者取引に多大な混乱を招く。国民生活に影響を与える背信行為」など、財政規律に影響が出かねないことや、国民生活や事業者に混乱・負担が生じかねないことへの懸念・批判の声が相次いだ。また、官邸主導で公明党に譲歩せざるをえなくなったことへの反発も大きいようだ。

 

 

【補正予算案が18日に閣議決定】

 1億総活躍社会の実現に向けた緊急対策やTPP対策大綱などを柱とする「補正予算案」を12月18日に閣議決定する。補正予算案は3.3兆円規模で、財源として昨年度決算剰余金(約2.2兆円)や、法人税・所得税や消費税など今年度予算の税収上振れ分(約1.9兆円)などを充てる。 

 

 1億総活躍社会の実現に向けて緊急性の高い事業(約1.2兆円)として、地方創生加速化交付金(約1000億円)、介護施設整備(約900億円)、保育士の確保(約800億円)、保育所などの整備前倒し(約500億円)、介護人材確保(約500億円)などが盛り込まれる。具体的には、保育・介護サービスを手掛ける中小事業者の資金繰り支援(約15億円)や、介護離職対策として介護施設の整備を加速させるために都市部の国有地を介護施設の運営事業者に相場より安い価格での貸し出し(約20億円)、来年1月以降に建設する3世代同居用住宅を対象に住宅建設費の2分の1を補助(上限100万円台、約100億円)などが計上されるようだ。

来年前半の民間消費の下支えや生活支援を目的に低所得の年金受給者約1100万人(65歳以上で住民税の非課税世帯と年金などの収入が年155万円程度の単身世帯で、生活保護受給世帯は除外)に1人あたり約3万円を支給する臨時給付金(事務費を踏む目て約3620億円)をめぐっては、16日の自民党厚生労働関係合同部会で、給付目的が不明確、高齢者優遇、バラマキと捉えられかねないなどと批判的な意見が相次いだ。17日の合同会議で、「将来世代に負担を先送りしない、真に必要な人に手厚い社会保障が届く改革を検討する場を設けるので若手に参加してほしい」(稲田政調会長)と、若者対策・貧困対策なども同時に進めていくことを約束したため、臨時給付金を含む1億総活躍社会関連の補正予算案が最終的に了承された。

 

 農林水産分野(約4008億円)のうち、交渉参加12カ国による環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)の大筋合意を受けてのTPP対策大綱関連(約3122億円)では、農地の大区画化や農道・排水路・農業用ダムなどの整備といった土地改良事業(約940億円)のほか、地域で収益力を高める畜産・畑作分野の体質強化に向けた「畜産クラスター事業」「産地パワーアップ事業」(複数年度にわたって柔軟に運用できる基金方式で約1115億円)、担い手農家を対象にした実質無利子化などの金融対策(基金方式で約100億円)、水産業の競争力強化緊急事業(約225億円)、合板・製材の生産性強化(約290億円)などが盛り込まれた。

TPP対策以外では、2015年産の飼料用米・麦・大豆などの増産に対応し、水田活用の直接支払交付金の財源の積み増し(約150億円)、防災・減災対策としての農業農村整備事業(50億円)、青年就農給付金や台風被害対策なども計上ざれるようだ。

 

農業以外のTPP対策としては、地方自治体や商工会議所が一体となって中小企業の海外販路拡大や商品開発を支援する連携組織発足に向けた関連費用(約1200億円)や、関税撤廃で輸入品との競争が激化する皮革産業向けの経営支援策・多国籍企業の誘致費用など(約800億円)が盛り込まれるようだ。 

このほか、東日本大震災の復興事業の着実な推進と被災事業者の自立支援などに向けて復興特別会計に約7900億円の繰り入れ、9月の関東・東北水害の復旧や河川整備など(約5000億円)も盛り込む。テロ対策・難民対策、2016年5月の主要国首脳会議(伊勢志摩サミット)開催に向けた対策費、2017年4月に消費税率10%への引き上げに伴って負担緩和策として導入する軽減税率に係る中小事業者向け相談窓口の設置など関連対策費、米軍再編にかかる経費、マイナンバーカードの早期交付も計上されるようだ。

 

 

【予算編成の動向と内容に注目を】

 18日には、政府が補正予算案を閣議決定する。来年度予算案の編成作業が大詰めを迎えており、来週24日に閣議決定する。来年度予算案は一般会計総額96兆円台、景気回復に伴う法人税・所得税の増加や消費税率の8%への引き上げなどにより税収が57兆円台半ばとなる見通しで、新規国債の発行は34兆円台とする方針だ。与党の歳出圧力も強まっており、財務省・各省庁間の激しい攻防が続いている。

 バラマキ施策をどのように抑え、実効性かつメリハリある補正予算案・来年度予算案を編成していくことができるのか。予算編成をめぐる政府・与党の動向を抑えつつ、最終的にどのような予算内容となるのかを見極めることが大切だ。