【閉会中審査、野党は高木大臣の疑惑を追及】

今週10日、衆議院予算委員会で、安倍総理はじめ関係閣僚出席のもと、閉会中審査が行われた。また、11日には、参議院予算委員会で閉会中審査が行われた。自民党や公明党は、日米など交渉参加12カ国が大筋合意した環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)交渉のプロセス・大筋合意の内容・国内対策、日韓関係など外交課題などについて安倍総理を質した。

一方、民主党など野党側は、複数の問題が浮上している高木復興担当大臣を追及した。高木大臣をめぐっては、自身が代表を務める自民党支部と資金管理団体が、公職選挙法で禁じている選挙区内の葬儀での香典・枕花代の支出を政治資金収支報告書に記載していたことや、週刊誌記事が掲載した過去の窃盗疑惑、高速増殖炉「もんじゅ」(福井県敦賀市)の事業を請け負う地元企業からパーティー券購入のかたちで資金提供を受けたことなどが指摘されている。これら以外にも、通常国会で成立した安全保障関連法の撤回や、米軍普天間飛行場移設問題、原発再稼働問題、TPP交渉の大筋合意を受けた政府の対応、安倍総理が重要政策に掲げる1億総活躍社会・新3本の矢などについて質していたが、論点が絞りきれないまま、国会論戦は深まらないままだった。

 

高木大臣の政治とカネをめぐる問題について、民主党の柚木道義・衆議院議員が、2012~13年に党支部が支出した香典支出8件(16万円)のうち、高木大臣が通夜までに弔問していない事例が少なくとも3件あり、公選法違反の可能性があると指摘した。そして、「2013年のケースでは代理の方が香典を持参したとしており、事実なら違法かつ、高木氏の発言は虚偽になる」などと追及した。高木大臣は「いずれも私が弔問に行き、私費で香典を渡したのは間違いない」と改めて違法性を否定した。また、後援会の資金管理団体が11~12年に選挙区内の葬儀で支出した枕花代2件(2万4000円)については「今回、マスコミから指摘を受けて初めて知った。厳重注意した。二度と起こらないようにする」と事実関係を認めて釈明した。

 パーティー券をめぐっては、具体的な時期や金額、閣僚在任中のもんじゅ関連企業からの資金受領を自粛するか否かなどには言及せず、「私の政治姿勢、復興担当大臣の仕事に影響を与えることは一切ない」と主張した。窃盗疑惑も「そうした事実はない。選挙のたびにそういう噂が出ているのは承知しているが、なぜ出ているか承知していない」と全面的に否定した。

 

高木大臣は、2日間の閉会中審査で「しっかりと説明させていただいた」と強調し、「職責を果たしていくのが私の責任だ」と大臣辞任を否定した。しかし、民主党などは、高木大臣の国会答弁は「虚偽ではないかとの疑念も湧いている」(民主党の高木国対委員長)、「全く説得力に欠けたものだ」「きちんと説明責任を果たせないなら、閣僚として適切ではない」(民主党の枝野幹事長)など、いまだ疑惑が払拭されていないと納得していない。衆議院予算委員会で追及した柚木議員は、河村衆議院予算委員長に、高木大臣・関係者の証人喚問や、窃盗疑惑に関する警察資料の提出などを要求している。

また、高木大臣の疑惑以外にも、政治とカネ疑惑が浮上した森山農林水産大臣や馳文部科学大臣、公職選挙法違反(寄付行為)にあたる可能性が指摘されている島尻沖縄及び北方担当大臣らの疑惑もある。野党側は、新閣僚の疑惑も引き続き徹底追及していく方針だ。疑惑が深まれば、安倍総理の任命責任を追及することも視野にいれている。

 

 

【安倍総理、「攻めの農業」重視の対策を強調】

 TPP交渉の大筋合意を受け、政府が11月25日にも決定するTPP対策大綱について、安倍総理は、10日の閉会中審査で「農家の不安に寄り添いながら、政府全体で万全な対策を取りまとめ、実行していく。農業を成長産業化にし、夢のある分野にしていきたい」との決意を改めて示した。

1993年の関税・貿易一般協定のウルグアイ・ラウンド合意を受けて対策費はバラマキ予算だったとの批判があることも踏まえ、「今回の対策では絶対にないようにしたい」「バラマキと批判を受けることがないよう、成長産業化に真に必要な対策を取りまとめる」と述べた。そして、「世界に誇るおいしくて安全な(日本の)農産物は、まっとうに評価される。世界のマーケットが広がっていくわけであり、政府も支援しながら、輸出を進めていきたい」「輸出促進や6次産業化の推進などにより、農業者の所得向上をめざしていく」「日本の質の高い農産品に対する関税、障壁がなくなる。チャンスとして生かし、しっかり予算をつけていく」などと、担い手の育成や農地集積など国内農業の体質・競争力の強化、6次産業化など農産物の付加価値化・農産物の輸出拡大など「攻めの農業」に重点を置いた対策とすることを強調した。

 

また、安倍総理は、TPP交渉の大筋合意の内容が農産物の重要5項目(米、麦、牛・豚肉、乳製品、砂糖など甘味資源作物)の保護などを求めた2013年国会決議に違反しているのではないかとの声があることについて、国会決議に即しているか否かは国会の判断としながらも、農林水産品の関税撤廃が日本を除く参加11カ国が98.5%に対して日本が81%にとどまっていることや、2割を例外なき関税撤廃の外におくことができたことなどを挙げて、「交渉参加の際の約束を守ることができた」「国会決議の趣旨に沿う合意を達成できた」と理解を求めた。農産物重要5項目への対策は、畜産の継続・発展のための環境整備を検討するなかで畜産農家の赤字の8割を補填する経営安定対策事業の法制化や国による補填割合の引き上げを検討するなど、「品目ごとの合意内容に応じた適切な措置を検討していく」(森山農林水産大臣)という。

 さらに、協定条文案に関税撤廃時期の繰り上げの規定や、締結国から要請などがあれば協定発効3~7年後に関税内容を見直すための再協議を行う規定が盛り込まれており、農産物重要5項目も含め、更なる自由化が迫られることになるのではないかと懸念する声が出ていることに対し、甘利経済再生担当兼TPP担当大臣は「(見直し規定は)どの通商協定にも定番で入るもの。発効する前に仕切り直しというのは全く別の話で、アメリカ政府もそんなことはできないといっている。日本も応じない」と、必ずしも条文の見直しを意図したものでなく、関税削減・撤廃の前倒しや撤廃品目の追加には応じられない姿勢を強調した。日本は、5カ国(アメリカ・カナダ・オーストラリア・ニュージーランド・チリ)と相互に結んだ関税の扱いに関する付属文書で、協定発効から原則7年後か第三国と経済連携協定を結んだ場合、締結国の要請があれば再協議できると規定している。

 

自民党と公明党は、関税削減・撤廃に伴う影響を受けやすい農林水産業を中心とした国内対策を11月中旬にもとりまとめるため、それぞれ具体的な対策案の検討作業をスタートさせている。自民党は、6日から3日間、7道県計15カ所で大筋合意内容や政府方針などの説明、関連団体・生産者への意見聴取などを行う「TPP地方キャラバン」を、9日から農林水産戦略調査会(西川会長)・農林部会(小泉部会長)の合同会議を連日開催して、農林水産関連団体などへのヒアリングを実施している。公明党もTPP総合対策本部(総合本部長:井上幹事長)・農林水産業活性化調査会(会長:石田政調会長)・農林水産部会(上田部会長)らの幹部と農家との意見交換を9日までに行った。

政府・与党内は、段階的に関税軽減・撤廃となる品目が多いことから「国内対策を15年以上」かけるとし、輸出戦略に特化した品目横断型基金の新設のほか、海外市場に適した商品開発・需要開拓・輸出を進める農家・農協への支援など「農産品の輸出戦略強化」や、離農者を雇用した企業への税制優遇など「農地集積・余剰農家対策」、加工食品などの原産地表示の義務化などについて検討している。また、農林水産業への影響を最小限にするため、政府備蓄米制度の運用期間を1年短縮してコメの新規輸入枠新設に伴う米価下落を回避することや、関税が急激に下がる品目を対象に農家の経営安定化のための基金新設・既存基金の積み増し、事実上の関税に相当するマークアップ(輸入差益)が45%削減となる小麦・大麦の生産者への予算措置の継続などの案が浮上している。

 
 ただ、自民党内には、安倍総理らが主張する「攻めの農業対策」を強く求める声がある一方、「体質強化をすればいいというだけでは大変不安」「一にも二にも経営安定」として、関税の削減・撤廃に伴う輸入品の急増や農作物の価格低下などに対応した農家の経営安定対策の充実や農業者支援、セーフティーネットの整備などで農家の不安を取り除く「守りの農業対策」を優先させるべきとの意見も根強くある。農業対策以外では、自民党厚生労働部会が、国民皆保険制度を日本の医療制度の根幹として堅持することや、TPP域内の日系企業の労使問題改善に向けて、労働関係法令が公正に施行されるよう日本政府による現地行政機関への働きかけなどを求めている。

自民党は、政府がとりまとめる関連対策大綱やその一部を盛り込んだ補正予算案に反映させるため、党としての提言を11月17日にも取りまとめる。限られた時間のなかで、どのように意見集約し、具体的かつ効果的な提言を打ち出すことができるかがポイントとなりそうだ。

 

 

【安倍総理、1億総活躍社会の実現に決意】

新たな看板政策として打ち出している「1億総活躍社会の実現」については、安倍総理が10日の閉会中審査で「政策の総動員で名目GDP(国内総生産)600兆円を実現」「働き方改革によって女性や高齢者のチャンスを広げていく」などと説明し、全力を挙げて取り組む決意を示した。

安倍総理が掲げる新3本の矢のうち、名目GDP600兆円を2020年ごろまでに実現する「強い経済」関連では、4日の経済財政諮問会議で、議長の安倍総理が緊急に実施すべき対策を11月中に取りまとめるよう甘利経済再生担当大臣に指示した。名目GDP600兆円の実現方法として、設備投資・研究開発・人材育成の促進や、賃上げを通じた個人消費の拡大、法人税実効税率の早期引き下げ、規制改革などがあがっている。諮問会議の民間議員らは、社会保険料負担が女性の働く意欲を抑えているとされる「130万円の壁」の負担軽減策も検討すべきと提起している。

 

安倍総理は、「経済界には設備投資と賃上げに積極的に取り組んでもらう必要がある」(4日の経済財政諮問会議)とたびたび強調している。甘利大臣も賃金上昇率年3%程度をめざすべきとの認識を示し、「賃上げすれば消費が伸び、景気が良くなるのはみんな知っている。そこまで踏み込めるかどうかだ」と意欲を示した。「(設備投資や賃上げを拡大するために)何らかのインセンティブをつける必要がある」(菅官房長官)と、税制優遇措置など企業の投資拡大を促進する新たなしくみを導入する方針のようだ。

 また、安倍総理は、経済再生や企業の国際競争力向上のほか、企業に設備投資や雇用、賃金を増やすよう促すねらいから、法人実効税率(国・地方)を「早期に20%台に引き下げる道筋を付ける」(11日の経済財政諮問会議)ため、引き下げ幅を確実に上乗せするとも表明している。政府は、法人税率の引き下げに前向きな安倍総理の意向を踏まえ、来年4月に引き下げられる実効税率31.33%を、30.88%とする方向で最終調整しているようだ。今後、課税ベース拡大などによる財源確保も含め、政府・与党内で協議のうえ、12月にまとめる与党税制改正大綱に盛り込むこととなる。

 

さらに、企業の研究開発や新技術導入などを支援することで、投資促進や雇用創出、関連消費の拡大などを図るため、5日に開かれた政府と経済界が協議する官民対話の会合で、安倍総理が「自動走行、ドローン(小型無人機)、健康医療は安全性と利便性を両立できる有望分野だ。スピード勝負となる第4次産業革命を世界に先駆けて実現したい」と述べ、関係閣僚に規制改革と法整備を加速させるよう指示した。ドローンを使った宅配サービスを3年以内に実現することや、2020年に自動車の無人自動運転の実用化、3年以内に人工知能を活用した診断支援システムの実用化などの目標を掲げている。

 ドローン利用については、関係府省庁と事業者で構成する「官民協議会」を設置して、来年夏までに具体的な対応方針を策定する。ドローンや建設機械の遠隔操作や、ドローンが上空で撮影した画像を携帯電話で円滑に送信できるようにするため、専用周波数帯の割り当てや、新たな電波利用制度の整備なども進める。運転手の操作がほとんど必要としない自動車の無人自動運転については、東京オリンピック・パラリンピック競技会場と空港の間などで無人運転移動サービスを実現するため、公道実証実験に必要な環境整備(道路交通法改正など)を行うようだ。

 

2020年代半ばまでに「希望出生率1.8」を実現する子育て支援関連では、待機児童の解消に向けて、2017年度末までに40万人分の保育受け入れ枠を確保するとの政府目標があるが、安倍総理は「少なくとも50万人分の保育の受け皿を整備したい」と、さらなる上積みをめざす考えを明らかにした。また、妊娠・出産費用や不妊治療の支援拡充、幼児教育の無償化、一人親世帯への支援強化、新婚世帯や子育て世帯を対象に公的賃貸住宅への優先入居や家賃負担軽減などの支援、3世代同居のための住宅改修費用の補助などにも取り組むと。厚生労働省は、全国的な保育士不足に対処するため、認可保育所に保育士を最低2人配置する国の基準を緩和する特例措置を来年度以降も続ける方針だ。文部科学省は、幼児教育の無償化、高校・大学生の奨学金充実、フリースクール支援、夜間中学の設置促進などを提案している。

 介護を理由に仕事をやめる介護離職者(年間約10万人)を減らす「介護離職ゼロ」関連では、特別養護老人ホームなど介護施設の整備を条件に、首都圏の国有地約90カ所を選定して介護施設を運営する社会福祉法人に民間相場の最大半額で貸し出す案(原則50年の定期借地権を設定)が検討されている。財政制度等審議会(財務大臣の諮問機関)国有財産分科会で議論のうえ、11月下旬にもまとめる1億総活躍社会の緊急対策(第一弾)に盛り込まれる見通しだ。このほか、在宅サービスの整備・充実、介護人材の確保、介護休業給付金の引き上げなども検討されている。

 

 政府の検討作業に加え、6日に自民党1億総活躍推進本部(逢沢本部長)や公明党1億総活躍推進本部(本部長:石田政調会長)がそれぞれ初会合を開催し、議論をスタートさせた。自民党と公明党は、政府が来春策定するニッポン1億総活躍プランや来年夏に行われる参院選の公約へ反映させることを念頭に、来年4月をメドに政策提言も取りまとめる方針だが、当面、社会保障分野を中心に議論して、11月中旬にも緊急対策(第一弾)に盛り込む緊急提言をとりまとめるとしている。

ただ、与党内からは、新3本の矢の実現可能性や、看板政策だった女性活躍が相対的に薄まっていることへの懸念、国民に分かりにくいといった声が続出しており、意見集約も容易ではない。また、1億総活躍社会の理念や定義などが曖昧で、具体的な政策領域も明らかとなっていないだけに、1億総活躍社会に関連付けた便乗要求もでてくるのではないかとも指摘されている。

 

 

【軽減税率の制度設計、大筋合意は12月中旬に先送り】

2017年4月に消費税率10%への引き上げに伴って負担緩和策として、飲食料品・生活必需品の消費税率を低く抑える「軽減税率」の導入をめぐっては、自民党と公明党が4日と11日に、与党税制協議会・軽減税率制度検討委員会(座長:宮沢洋一・自民党税制調査会長)で与党協議を行った。しかし、焦点となっている対象品目や穴埋め財源などで主張の隔たりが埋まらずにいる。

自民党は、対象品目をこれまで主張してきた精米だけでなく、精米を含む生鮮食品と原産地表示を条件に生鮮食品に近い加工食品にも拡大(税収減約4000億円)することを事実上、容認した。幅ひろい適用を求める公明党に譲歩する姿勢をみせたうえで、公明党にも歩み寄りを求めている。しかし、公明党は、軽減税率の大きな目的である痛税感の緩和にはつながらないとして、「酒を除く飲食料品(外食を含む、税収減約1.3兆円)」を対象にすることや、対象品目の設定と軽減税率の導入に必要な財源の議論とは切り離して行うべきと主張しており、11日の与党協議でも結論は出なかった。

 

 中小・零細事業者の経理事務負担を和らげるため、現行の帳簿や請求書に軽減税率の対象品目に印を付ける「簡易な経理方式」を基本としつつ、中小事業者は、売り上げに占める軽減税率の対象品目割合に応じてみなし税率(8~10%)をあらかじめ定めて納税額を決める「みなし課税方式」のどちらかを選択できるようにする方向で検討されている。ただ、みなし課税方式は正確な納税額の算出が難しいため、納めるべき税が事業者の手元に残る益税が発生しやすい。自民党と公明党は、複数税率で事業者が品目ごとに税率・税額を明記する「インボイス方式」へ移行することを決めており、その移行までの経過措置(3~5年程度)と位置付けるようだ。

自民党の宮沢調査会長と公明党の斉藤調査会長は、みなし課税方式の導入を含めた制度設計の素案づくりに着手しており、みなし課税を認める中小事業者の事業規模の線引きや、対象品目の割合などの詳細を詰めている。早ければ11日の与党協議に素案を示し、具体的な制度設計の協議に入る見通しだ。

 

 安倍総理は、10日の閉会中審査で「2017年4月の消費税率10%への引き上げ時に導入が間にあうよう、中小事業者の負担にも配慮して両党間で具体案を取りまとめてもらいたい」と述べている。与党は当初、例年通り11月下旬から法人税改革など他の税制見直し議論をスタートさせるため、11月中旬をメドに軽減税率の制度設計で大筋合意することをめざしてきた。しかし、軽減税率の対象品目や穴埋め財源などをめぐって、自民党と公明党の主張の隔たりが埋まらず、与党協議が難航している。こうした事態を受け、自民党と公明党は、軽減税率の制度設計に係る大筋合意の目標時期を、与党税制改正大綱を取りまとめる12月中旬に先送りする方針を固めた。

 軽減税率の対象品目と穴埋め財源について、自民党と公明党がどのように決着をつけるかがポイントとなる。いまのところ、自民党と公明党が折りあう見通しも立っていない。軽減税率をめぐる与党協議が遅れれば、他の税制改正論議にも影響が及ぶほか、大綱決定時期もずれ込む可能性もある。すでに協議の遅れにより、ビール系飲料の酒税見直しやタバコ税の増税などが、来年度の与党税制改正大綱で見送られる見通しとなっている。

 

 

【行政事業レビュー、11日からスタート】

歳出のムダ削減を図るため、8府省55事業<来年度予算案での概算要求総額13.6兆円>の政策効果などを点検・検証する「行政事業レビュー」の公開討論が11日から3日間の日程で実施される。公開討論は、各府省の担当者らが予算案の必要性・根拠を訴えるのに対し、外部有識者(約50人)が専門的見地から予算を査定する。

 原子力・エネルギー関連(19事業)では、日本原子力研究開発機構(JAEA)の運営費交付金のほか、トラブルが相次ぎ運転停止中となっている高速増殖炉「もんじゅ」(福井県敦賀市)や運用実績のないまま維持管理費がかさんでいる使用済み核燃料輸送船などの所管事業、石油の国家備蓄施設の管理委託費などが取り上げられた。11日の公開議論で、有識者はJAEAの組織体質そのものに問題があるとの認識で一致した。そして、JAEAに交付金を支出している文部科学省に、廃船を含め船舶管理会社との契約見直しの指導を求めた。

 

 また、「オリンピックだから、地方創生だからといって、実際は全然関係ない事業というものがたくさんあった」(河野太郎・行政改革担当大臣)として、2020年東京オリンピック・パラリンピックや地方創生など看板政策に便乗した事業にも切り込む。

オリンピック・パラリンピック関連では、文部科学省所管の日本スポーツ振興センター運営費交付金の必要経費(163億円)や、全国各地で文化プログラムを推進する文化庁のリーディングプロジェクト推進費(13億円)、農林水産省が要求している夏場における国産花卉の生産向上・安定供給事業などがあがっている。地方創生関連では、地方創生の新型交付金が既存の交付金と重複していないかを点検・検証し、交付金の一本化など改善を求めるようだ。

 

 11月下旬に点検・検証結果をとりまとめ、行政改革推進会議に報告する予定だ。ただ、点検・検証結果を来年度予算編成に反映するかは所管大臣らの判断となるため、予算案の編成過程で、財務省・所管官庁の熾烈な駆け引きや閣僚間の軋轢などが生じることも予想される。河野大臣は、点検・検証作業をインターネット中継で公開することで世論の後押しをえていくとともに、安倍総理の指示で、ムダ削減を実現させたい考えだ。どこまで予算案に反映できるか、河野大臣の手腕が問われている。

 

 

【当面、与野党動向に注意を】

新閣僚の資質追及などで安倍内閣の民主党など野党側は、10日の閉会中審査で「憲法を守る義務がある」(民主党の岡田代表)、「臨時国会を開いて、しっかりTPPの問題を議論する場所をつくるべき」(維新の党の松野代表)と、安倍総理に迫った。これに対し、安倍総理は「時期の決定は内閣に委ねられている」「外交日程、予算編成もある。税制の議論も行わないといけない。そうした日程を勘案しながら検討したい」などと述べるに留めた。

政府・与党は、閉会中審査での議論や世論の動向などを見極めたうえで、与党と相談しながら臨時国会を召集するか否かを最終判断としているが、トルコで開催される20カ国・地域(G20)首脳会議やアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議への出席など、安倍総理の外交日程が立て込んでいるうえ、来年度予算案の編成作業が本格化する12月中旬までの間に十分な審議時間も確保できないことなどを理由に臨時国会の召集を見送る方針を固めている。

 

その代わりとして、政府・与党は、国会論戦から逃げているといった批判をかわすため、野党から要求があれば可能な限り閉会中審査に応じる方向で検討するほか、通常国会を例年の1月後半から前倒しして召集する方針だ。参議院選挙が控えており、会期の大幅延長は難しいことから、1月4日か13日に召集する案で最終調整している。官邸などは、通常国会で今年度補正予算・来年度予算の年度内成立・早期執行、12月上旬で任期切れとなる会計検査院検査官と公正取引委員会委員などの国会同意人事の承認、TPPの国会承認、重要法案の成立などに万全を期すため、1月4日の召集を主張している。参院選に備えて地元活動を優先させたい参議院議員らの意を汲んで、自民党の国会対策委員会幹部らは13日の召集を主張している。

 

ただ、「衆議院か参議院のいずれかの4分の1以上の議員が要求した場合、内閣は召集を決定しなければならない」と規定する憲法第53条にもとづいて安倍総理宛ての臨時国会召集要求書も提出した野党側は、通常国会の前倒し召集よりも臨時国会の召集を主張している。また、衆参両院の予算委員会で開かれた2日間の閉会中審査では、議論が不十分だとして納得していない。

11日、民主党・共産党・維新(参議院)・無所属クラブ・社民党・生活の党の参議院野党6会派の国対委員長らが会談し、(1)複数の疑惑が浮かぶ高木大臣ら新閣僚の資質、(2)TPPの交渉プロセスと大筋合意内容、(3)くい打ち施工データ改ざん問題などについてさらなる審議を要求する方針で一致した。その後、民主党の加藤敏幸・参議院国対委員長が自民党の吉田博美・参議院国対委員長と会談し、臨時国会の召集に加え、新閣僚が出席する関係委員会での閉会中審査を要求した。これに対し、吉田国対委員長は、関係委員会での閉会中審査の開催は検討する考えを伝えたが、臨時国会の召集に慎重姿勢を改めて示した。

 

一両日中にも、世論動向などを見極め、臨時国会を召集するか否かを安倍総理と谷垣幹事長が最終判断するのではないかとみられている。臨時国会の召集が見送られる可能性が高まるなか、野党各党は、どのように動くのだろうか。今後の国会情勢を見極めるためにも、水面下での心理戦も含めた与野党動向に注視しておいたほうがいいだろう。

また、政府・与党は、重要政策づくり、補正予算案や来年度予算案の編成、軽減税率の制度設計などを進めている。今月下旬からヤマ場を迎えることとなるだけに、それぞれどのような進捗状況にあり、どのような内容でまとめられているのかなども、ウォッチしておきたい。