【自民党、TPP農業対策案を決定】

 今週17日、自民党の農林関係会議は、交渉参加12カ国による環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)の大筋合意を受けての農業対策案を正式決定した。17日に決定された農業対策案「農政新時代―努力が報われる農林水産業の実現に向けて」では、補助金バラマキ政策から農業の成長産業化への転換方針や基本的考え方<農業者の不安払拭、成長産業化の応援、未来の農業・食料政策のイメージ明確化と農業者で対応できない環境整備>を踏まえ、(1)攻めの農業へと転換するための国内農業の体質強化策、(2)コメなど重要5項目の農家経営安定対策を2本柱に据えた。

 

体質強化策として「経営感覚に優れた次世代の担い手育成、金融支援措置などの充実」「農地中間管理機構(農地バンク)の活用・拡大による農地集約・大規模化」「産地パワーアップ事業の創設」「畜産クラスター事業の拡充、規模拡大や品質向上による畜産・酪農の収益力の強化」「新たな国産ブランド品種の育成、革新的技術の開発など国際競争力の強化」「重点品目ごとの輸出促進対策、高品質な農林水産物の輸出拡大」などを列挙した。高性能な農業機械・施設などの導入や農地拡大など意欲ある農業者支援、高収益作物・栽培体系への転換、畜産物のブランド化など高付加価値化の推進、原料原産地表示の検討などを進める。また、成果目標の設定や既存施策の点検・見直し、進捗管理も行う。

 経営安定化策では、「政府備蓄米の保管期間を原則5年から3年に短縮し、単年度の購入量を増やして流通量を調整することで国内米価の下落を防止」「牛肉・豚肉の所得補填事業を法制化し、補填率を赤字分の8割から9割に拡大」「酪農経営の安定を図る加工原料乳生産者補給金制度の対象に生クリームなど液状乳製品を追加」「砂糖の代用品となる輸入加糖調整品を調整金の徴収対象に新たに加えるなど、糖価調整制度の安定的運営」といった具体的な経営への影響緩和策が並んだ。

 

 自民党の対策案では、既存の農林水産予算が削減・抑制されないよう政府が責任を持って十分配慮するよう求めるとともに、現時点で見通せない影響を念頭に弾力的な支出ができるよう基金などのしくみをつくることも盛り込んだ。ただ、対策の予算規模や必要な期間の明記は見送られた。年内にも政府が示す影響額試算を踏まえ、改めて検討するという。

 また、政策調整に時間がかかるなど、今回の農業対策案に盛り込みきれない対策は、「農業骨太方針策定プロジェクトチーム」を設置して、日本農業の将来像や、人材育成や輸出力強化などの具体策を中心に来年秋まで継続的に議論のうえ、「農業骨太方針」を策定していく方針を示した。今後の検討課題として、生産資材の価格形成のしくみや、原料原産地表示、チェックオフ制度や収入保険制度の導入、肉用牛・酪農の生産基盤強化策などがあげられている。小泉進次郎・自民党農林部会長は「対策は1回で終わりではなく、スタート。来年、時間をしっかり取り、真の不安解消と成長産業化への希望を感じる方向性を出したい」と、中長期的な農業政策に取り組む姿勢を強調している。

 

自民党は、政府が今月25日をメドに策定・決定するTPP対策大綱への反映をめざして、20日にも農業以外の分野も含めた国内対策をとりまとめる。13日のTPP総合対策実行本部では、農林部会・水産部会・経済産業部会・財務金融部会など13部会が、それぞれ検討している国内対策案について報告された。海藻類を除き輸入関税が原則撤廃される水産分野では、安価な輸入品の増加に伴う国内水産物の価格下落などが懸念されるとして、担い手漁業者への支援や国際競争を見据えた漁業の構造改革など国内漁業を収益性の高い操業体制に転換していくとともに、輸出拠点となる漁港施設の整備など国内外での需要・消費の拡大に向けた対策も必要としている。外資規制の緩和については、日本の中小企業による海外展開を促すための支援策などを打ち出す方向だ。

公明党も17日のTPP総合対策本部(総合本部長:井上幹事長)で、農業生産者の不安解消を図るための経営安定化対策、消費者の視点を重視した原料原産地表示を義務付ける加工食品の対象拡大、TPP活用策に関する相談窓口の整備などを盛り込んだ提言をまとめている。自民党と公明党は、今週中にそれぞれ提言書を政府に提出するという。

 

 

【希望出生率1.8の実現、介護離職ゼロに重点化】

 新たな看板政策として打ち出している1億総活躍社会の実現に向け、12日、関係閣僚・民間議員らが具体策を検討する「1億総活躍国民会議」(議長:安倍総理)が開催された。安倍総理は、11月26日にもまとめる緊急対策(第一弾)について「希望出生率1.8の実現、介護離職ゼロという二つの目的達成に直結する政策に重点化したい」と述べ、具体策の検討を加速させるよう指示した。

12日の会合では、厚生労働省や文部科学省など関係8閣僚が緊急対策に盛り込む政策案のほか、国民会議の民間議員から「高等教育を含む教育負担の軽減」「未婚率が高い非正規労働者層の正規化」「企業の採用基準の見直し」「保育士の資質・処遇向上」「介護家族の相談機能の拡充」などの提案があった。各省の提案に対し、民間議員らは1億総活躍とは関係性が薄いものがみられたとして、「予算を増やすばかりではなく、精査する必要がある」と指摘も出た。

 

 2020年代半ばまでに「希望出生率1.8」を実現する子育て支援関連では、(1)待機児童の解消に向けて2017年度末までの保育受け入れ枠を40万人から50万人に拡大<厚生労働省>、(2)男性、派遣社員など有期契約で働く女性の育児休業取得促進<厚生労働省>、(3)男性の検査を含めた不妊治療への助成拡充<厚生労働省>、(4)幼児教育無償化の拡大や就学援助・奨学金の充実など教育費負担軽減<文部科学省>、(5)都市再生機構の住宅に入居する新婚・子育て世帯への家賃の一部補助や近居割(5年間5%の割引サービス)の拡充、国が助成する地域優良賃貸住宅制度の見直しなど家賃負担軽減<国土交通省>、(6)テレワークの普及促進など女性活躍の推進<総務省>などが示された。また、2016年度税制改正で、結婚・子育て支援を目的に親・祖父母が子・孫に関連資金を一括贈与すれば贈与税が非課税となる措置(1人あたり最大1000万円まで)で出産後の健診費用や不妊治療の医薬品代も対象とすることや、3世代同居のための住宅改修費用一部を所得税控除できる制度新設などを検討しているようだ。

 

介護を理由に仕事をやめる介護離職者(年間約10万人)を減らす「介護離職ゼロ」関連では、(1)特別養護老人ホームなどの介護施設・小規模多機能型居宅介護など宿泊可能な在宅サービスの整備目標を2020年度までに約34万人増から2020年代初頭までに約40万人増に拡充・地域医療介護総合確保基金の積み増し<厚生労働省>、(2)国有地を社会福祉法人に民間相場の最大半額で貸し出し(原則50年の定期借地権を設定)、事業者の建物所有要件の緩和など介護施設整備の促進<財務省、厚生労働省>、(3)離職した介護・看護職員に対する再就職支援のための貸付制度新設や離職した介護福祉士の人材バンク創設、介護士をめざす学生への修学資金の貸し付け拡充など介護分野の人材確保<厚生労働省>、(4)家族1人につき1回のみの介護休業(最大93日)を3回程度の分割取得も可能とする制度見直しと介護休業給付金の引き上げなどを提案している。

 

 こうした政府内での検討作業と並行して、自民党と公明党でも提言案とりまとめに向けて議論が行われている。自民党1億総活躍推進本部(逢沢本部長)では、緊急対策の提言案として、保育士不足の解消をめざして都道府県が実施している保育士試験を原則年1回から2回に増やすことや、企業内保育所を新たに設置した場合に助成される補助金の支給期間(運営開始から5年間)の延長、第2子以降の児童扶養手当増額など一人親世帯への支援強化、介護休業の分割取得が可能な制度見直しなどがあがっている。

 

 

【来週にも安倍総理が補正予算案の編成を指示】

TPP大筋合意を受けての国内対策や、1億総活躍社会の実現に向けた緊急対策などを柱とする補正予算案の編成について、安倍総理は「1億総活躍社会やTPPで早急に対策が必要だ。速やかに補正予算編成を指示する」(16日)と、マレーシアで開かれる東南アジア諸国連合(ASEAN)関連首脳会議など一連の外遊日程を終えて帰国する来週にも、補正予算案の編成を指示する意向を示した。

来年1月に召集される通常国会冒頭で処理する方針で、政府・与党内では補正予算案を3兆円以上の規模とする方向で検討が進められていくようだ。2015年7~9月期の国内総生産(実質GDP)が2四半期連続のマイナス成長となったことを踏まえ、「雇用、所得環境は改善しており、緩やかな回復基調は続いているが、機動的な対応を行うことで景気をしっかり下支えし、弱さがみられる流れを反転させていかなければならない」(安倍総理)として、景気対策も盛り込まれるという。

 

このほか、新型交付金は2016年度に創設される予定の地方創生に取り組む地方自治体向け新型交付金の積み増しなども補正予算案に盛り込む方向で検討しているようだ。石破地方創生担当大臣は、17日、地域での雇用創出など具体策について検討する「地域しごと創生会議」の初会合で、「ヒト」「知恵」「カネ」を地方創生三本の矢と位置づけ、(1)地域の人材育成や国家公務員らを地方自治体に派遣、(2)地域の経済・人口動態が把握できるビッグデータ利用の推進、(3)新型交付金と企業版ふるさと納税などを軸に支援強化を図る方針を示した。また、「まち・ひと・しごと創生会議」で2016年度から自治体での地域活性化の取り組みが本格化することを念頭に、2019年度までの地方創生施策の方向性を示した総合戦略の改定を進めており、年末までに決定する予定でいる。石破大臣は、こうした施策のうち「必要なものは補正予算、税制改正に反映をしていきたい」と意欲を示している。

 

 

【軽減税率に関する与党協議、与党幹事長も参加へ】

2017年4月に消費税率10%への引き上げに伴って負担緩和策として飲食料品・生活必需品の消費税率を低く抑える「軽減税率」を導入するにあたり、自民党と公明党は、与党税制協議会・軽減税率制度検討委員会(座長:宮沢洋一・自民党税制調査会長)で制度設計を進めている。しかし、対象品目や穴埋め財源などをめぐって、自民党と公明党の主張の隔たりが埋まらず、与党協議が難航している。

 

軽減税率の対象品目について、自民党と公明党は、精米を含む生鮮食品は加えることでは一致しているが、加工食品までひろげるかでは主張が異なっている。財源確保の点から対象品目を限定したい自民党は、加工食品の線引きが難しいとして生鮮食品、譲歩してもパンなど生鮮食品に近い加工食品への絞り込みを求めている。これに対し、国民の痛税感の緩和や分かりやすさを重視して「酒を除く飲食料品(外食を含む、税収減約1.3兆円)」と可能な限り幅ひろく設定するよう求めている公明党は、線引きを行えば混乱も招きかねないとして、加工食品全体を対象にすべきだと主張している。

軽減税率導入に伴う穴埋め財源については、医療・介護や保育などの自己負担の合算額に上限を設定し上限を超えた分を国が給付する「総合合算制度」の実施見送りで捻出できる年4000億円程度を充てることで一致しているものの、対象品目を絞って4000億円以内にとどめたい自民党と、対象品目の設定と軽減税率の導入に必要な財源の議論とは切り離し、税制全体で穴埋め財源を捻出する方策も模索すべきと主張する公明党とでは隔たりがある。公明党は、総合合算制度の実施見送り以外の穴埋め財源案として、軽減税率導入までの臨時措置として低所得者に現金を配る簡素な給付措置や、たばこ税増税などをあげている。

 

 与党は、12月10日にも与党税制改正大綱をまとめるべく、例年通り11月下旬から法人税実効税率の引き下げなど他の税制見直し議論をスタートさせたい考えで、当初、11月中旬にも軽減税率の制度設計で大筋合意することをめざしてきた。しかし、軽減税率の制度設計をめぐる与党協議は難航しており、合意への見通しも立っていない。こうした事態を打開すべく、公明党は、幹事長の協議参加を自民党に打診した。当初、自民党は慎重姿勢だったが、来年度予算の編成や与党税制改正大綱のとりまとめ日程などに支障をきたさないためにも、早期に合意を図るべく現在の税調担当者よりも高いレベルで政治決着を図ることが必要と判断し、17日、公明党の要請を受け入れた。

 今後、与党間で隔たりがある軽減税率の対象品目と穴埋め財源などをめぐって、自民党と公明党がどのように決着をつけていくことになるかが焦点となる。いまのところ、安倍総理は、具体的な制度設計を与党税制協議会の専門的議論に任せるとしているが、与党協議の行方次第では、より高度な政治判断も必要になる可能性もありそうだ。

 

 

【大詰めを迎える対策づくりに注視を】

12日、安倍総理は、自民党の谷垣幹事長と会談して、民主党など野党が求めている年内の臨時国会召集について協議した。安倍総理の外交日程が立て込んでいるうえ、来年度予算案の編成作業が本格化する12月中旬までの間に十分な審議時間も確保できないことなどを理由に、臨時国会の召集を見送ることを確認した。

16日、安倍総理が訪問先のトルコ・アンタルヤで「外交日程や来年度予算や補正予算の編成作業などを考えれば、年内の国会召集は事実上、困難と判断せざるをえない」「憲法の趣旨も念頭に、大変異例だが新年早々、1月4日に通常国会を召集したい」と、通常国会を例年の1月後半より大幅に前倒しして召集する方針を表明した。これを受け、17日、自民党の谷垣幹事長と公明党の井上幹事長が会談し、安倍総理が表明した方針を確認した。野党から要請があれば、閉会中審査には可能な限り対応していくことでも一致した。

 

 来年1月の通常国会まで国会が開かれないことに、「衆議院か参議院のいずれかの4分の1以上の議員が要求した場合、内閣は召集を決定しなければならない」と規定している憲法53条にもとづいて臨時国会の召集を政府・与党に迫る野党側は、「安全保障関連法に続いて2度目の憲法違反だ。憲法の規定にもとづく国会召集をしないのは独裁者といわれても仕方がない」「通常国会をちょっとぐらい早く始めるからといって、憲法違反が修正されるわけではない」(民主党の枝野幹事長)などと非難した。

 こうした批判に菅官房長官は、憲法規定に基づいた野党による臨時国会召集要求も考慮して、通常国会の開会日を前倒ししたことを強調したうえで「召集時期は憲法に規定されておらず、内閣に委ねられている。憲法に違反することはない」「合理的な期間を超えずに国会を召集すれば、憲法上も問題は生じない」(17日の記者会見)などと反論した。

 

 与党は、18日、野党側が要求した幹事長・書記局長会談に応じた。自民党は、臨時国会の召集見送りを表明し、来年の通常国会を1月4日に召集することや、閉会中審査に積極的に応じることで理解を求めた。しかし、民主党や維新の党など野党5党と参議院無所属クラブは、12日の幹事長・国対委員長会談で、高木大臣はじめ新閣僚の疑惑やTPPの交渉プロセスと大筋合意内容、くい打ち施工データ改ざん問題、米軍普天間基地移設問題など課題が山積していることを理由に、引き続き臨時国会の召集を要求することで一致しており、足並みを揃えている。与党が応じる姿勢をみせている閉会中審査の開催も要求する構えだが、「越年してでも(臨時国会を)開くべきで、それが憲法上の要請」などと「憲法第53条違反」などと訴え、臨時国会の早期召集を改めて要求した。


 

 今週から来週にかけて、政府・与党内で検討・とりまとめ作業を進めているTPP大筋合意を受けての国内対策や、1億総活躍社会の実現に向けた緊急対策、軽減税率の制度設計などが大詰めを迎える。また、来週には安倍総理が、景気対策を含む補正予算案の編成を指示する。引き続きこれらの動向を追いながら、最終的にどのような内容が盛り込まれるのかをウォッチしていくことが重要だ。