先週25日、政府は、閣議で「平成27年度予算の概算要求基準」を了解した。

概算要求基準では、公共事業費や防衛費など各省庁の政策判断で柔軟に増減できる「裁量的経費」の削減(今年度予算比で一律10%抑制)や、人件費などの義務的経費の抑制(今年度予算と同額以下)する一方、「新しい日本のための優先課題推進枠」(上限3.9兆円)を設けて、地方活性化などの成長戦略などに重点配分するとしている。年金・医療など社会保障関係費については、景気回復で生活保護費や失業手当の減少を見込む一方、高齢化などに伴う自然増分8300億円(前年度比1600億円減)を加えた範囲内で予算要求を認めるとした。

 

 例年、概算要求基準段階で予算総額を示しているが、来年度は歳出上限額を設けないことなった。来年10月の消費税率10%への引き上げの判断が今年末に控えており、法人実効税率引き下げの詳細も決まっておらず、税収見通しが立たないからだ。各省庁からの要求総額(一般会計)は、初めて100兆円を突破するとみられている。

安倍総理は、閣議に先立って開催された経済財政諮問会議で「経済再生と財政健全化を両立し、メリハリのついた予算とするよう、政府を挙げて取り組んでいきたい」と述べた。政府が概算要求基準とともに示した「2015年度予算の全体像」では、(1)新規国債発行額を今年度比で抑制、(2)社会保障を聖域としない、(3)5年以上が経過した政策は原則として縮小・廃止、などの方針が掲げられた。また、財政健全化の方針を踏まえ、「前年度を上回る効率化を行う」「ゼロベースで見直す」など徹底した歳出の抑制に努めていくとしている。

8月下旬に「概算要求」を財務省提出するべく、各府省庁は、 概算要求基準にもとづいて取りまとめを急いでいる。

 

 

 安倍総理は、25日、6月に閣議決定した日本再興戦略・改定版の「早急に具体的な制度設計に着手し、速やかに実行してもらいたい」と全閣僚に指示するとともに、「地方創生」と「女性の活躍」の関連法案を秋の臨時国会に向けて準備していく意向を示した。

 急激な人口減少と超高齢化、地方経済の低迷などの課題に対応するため、省庁横断的に地域振興策を策定する「まち・ひと・しごと創生本部」(本部長:安倍総理)立ち上げに向け、25日、政府は設立準備室を内閣官房に設置した。準備室は、9月第1週にも実施する内閣改造で地方創生担当大臣が任命され次第、速やかに創生本部を発足・始動できるよう準備を進めていく。また、安倍総理は、創生本部発足に先立ち、8月中にも有識者会議を組織してヒアリングを開始する予定で、それら作業も準備室がサポートする。 

創生本部では、2060年時点の日本人口「1億人大台を維持」を掲げ、国が都道府県や経済団体と連携して取り組む具体策を盛り込んだ「2020年までの総合戦略」を来年1月にもまとめる予定で、発足後、本部会合や有識者会議を毎月開催していくという。また、次官級の関係府省庁会議も招集して、税制や地方交付税制度の見直しなどに向けた調整を進めるようだ。創生本部の発足にあたり、いかに省庁の縦割りを越えて連携・推進できる態勢を構築していくことができるかがポイントとなりそうだ。
「女性の活躍」については、指導的地位に占める女性の割合を2020年までに30%以上とする目標達成に向け、国・地方自治体・企業に女性登用の現状把握と目標設定、自主行動計画の策定などを求めるほか、役員の女性比率の記載を有価証券報告書で義務づけるなどを盛り込んだ新法を策定する方針だという。また、女性登用状況に関する企業情報を一元化した総合データベース化なども進めていくという。

 

 

国会議員の定数削減を含む衆議院選挙制度改革を検討する第三者機関「衆院選挙制度に関する調査会」の人選について、伊吹衆議院議長は、佐々木毅・元東京大学総長を座長に起用する意向を固めた。このほか、メンバーに地方自治体首長や経済界、法曹関係者、マスメディア関係者など15人程度が選ばれる見通しだ。伊吹議長は、29日の衆議院議院運営委員会理事会で調査会メンバーについて与野党に報告する。8月にも調査会の初会合が開催される予定だ。

 

 議員1人あたりの人口格差(1票の格差)是正策に向けた参議院選挙区制度改革をめぐっては、25日、参議院各会派でつくる「選挙制度協議会」の会合が開催された。

会合では、新党改革と生活の党が、脇座長(自民党参議院幹事長)が提示した、議員1人あたりの有権者が少ない隣接選挙区同士をあわせて1選挙区とする「合区案」に賛成することを表明した。公明党や日本維新の会・結いの党など5会派は、複数の都道府県を1選挙区とし複数名を選出する「ブロック案」を主張した。

 

参議院自民党は、座長案に賛否両論の意見が党内にあると報告したうえで、現行の都道府県単位の選挙区を維持しつつ有権者数の少ない県の選挙区に有権者数の多い隣接県の一部地域を編入する「選挙区域調整案」(仮称)を試案として提示した。ただ、編入される側に抵抗感があることも留意して、対象地域などの具体的な編入案を示さなかった。選挙区画定審議会のような中立的機関に委ねることも視野に入れているという。

 

参議院第1党の自民党と、参議院第2党の民主党が、ブロック案に「選挙区が広くなり、議員が地域代表という趣旨が薄れる」などと反対しているため、協議会でブロック案が採用される可能性は低い。とはいえ、自民党と民主党が座長案への賛否も曖昧にしたままで、与野党合意のうえ秋の臨時国会に関連法案を提出できるかはいまだ不透明だ。

特に、自民党は「調整案」で党内調整できるかも微妙な状況で、党としての結論が出ていない状態にある。このため、他会派から「与野党協議が進展しないのは、自民党が統一見解を提示しないからだ」といった批判も出ている。

 

 

予定されている内閣改造・自民党役員人事について、官邸は、概算要求のとりまとめ状況や9月上旬の外交日程などを踏まえ、9月第一週3~5日の間に実施する方向で調整に入った。また、石破幹事長は、所属議員に副大臣・政務官の役職希望についての聞き取りを行う予定だという。

今回の内閣改造では、菅官房長官や麻生副総理兼財務大臣、岸田外務大臣、甘利経済再生担当大臣らを留任させる一方、大幅な内閣改造になるのではないかとみられている。特に、新設する「地方創生」や「集団的自衛権行使容認を含む安全保障法制の整備」の担当大臣の人選、女性閣僚の登用、党の人事や資金の配分に大きな権限を持つ幹事長職にある石破氏の処遇などが注目されている。

 

 

8月下旬の概算要求において、推進枠への付け替えなどが横行すれば、成長戦略名目の要求が積み上がる可能性もある。また、与党内には消費税率10%への引き上げに備え、景気対策のための補正予算の編成を求める声も出ており、その内容次第で歳出規模が急拡大する恐れもある。まずは、概算要求段階で各府省が要求・要望する政策や事業とはどのようなものになるのか、引き続きみていくことが大切だ。