先週6月24日、政府は、「経済財政運営と改革の基本方針(骨太の方針)」「日本再興戦略改訂版」「規制改革実施計画」を閣議決定した。

 

 基本方針では、日本経済について「力強さを取り戻しつつある。もはやデフレ状況ではなく、デフレ脱却に向けて着実に前進している」と認識を示したうえで、1)消費税率引き上げに伴う駆け込み需要の反動減への対応、2)経済の好循環のさらなる拡大と企業の主体的行動、3)日本の未来像に向けた制度・システム改革の実施、4)経済再生と両立する財政健全化、の4点を今後の課題として挙げた。

 好循環に向けた施策として、国と地方を合わせた法人実効税率を来年度から引き下げを開始して数年で20%台とすることのほか、株式持合いの解消や独立社外取締役などのコーポレートガバナンス強化、女性の活躍推進と働き方の改革、国家戦略特区での実施を含めた規制改革の集中実施、イノベーションの促進などが明記された。また、2020年をメドに人口急減・超高齢化に向かう流れを変えるとともに、50年後に1億人程度の安定的な人口構造を維持するためには、東京への一極集中傾向に歯止めをかけるとともに、出産や育児の支援を充実させるなどの総合的な政策が重要と指摘する。

経済再生にあたっては、財政健全化も不可欠として、健全化目標の着実な達成をめざすとしている。消費税率10%への引き上げについては、税制抜本改革法附則18条に則って経済状況などを総合的に勘案し、2014年中に判断する。

 

 成長戦略改定版では、日本経済全体としての生産性を向上させ、「稼ぐ力(収益力)」を取り戻すことを目標に掲げている。基本方針で示した施策の具体策が列挙されたほか、農業・雇用・医療の3分野を中心とした規制改革、年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)など公的・準公的資金の運用見直し、輸出戦略の推進などが盛り込まれた。

 また、規制改革実施計画では、新成長戦略を実行するため、「健康・医療」「雇用」「創業・IT」「農業」「貿易・投資」の5分野249項目の規制緩和策の内容や実施時期について明記された。保険適用と適用外の治療を併用する混合診療については、「患者申し出療養」(仮称)を創設して拡大する。農業分野では、全国農業協同組合連合会の株式会社化を可能にすることや、農業生産法人への企業の出資比率を現行の25%以下から50%未満に緩和することのほか、全国農業協同組合中央会を頂点とする中央会制度を自律的な新制度に移行する具体像を今年度中に結論を得ることなどが明記された。

 

安倍総理は、24日の記者会見で「日本経済が持つ可能性を開花させるため、いかなる壁も打ち破っていく」「安倍内閣の成長戦略にタブーも聖域もない。あるのはただ一つ。どこまでもやり抜く強い意志だ」と決意を述べた。経済の好循環を力強く回転させるとともに、「成長の主役は地方」と全国津々浦々まで届けることが安倍内閣の使命と強調し、地方の経済構造改革を推進するため「地方創生本部」を新設する意向も明かした。

今後、政府は、成長戦略や規制改革を着実に実行するため、来年度の予算編成や税制改正大綱に反映していくとともに、関連法案を今秋の臨時国会または来年の通常国会に提出することをめざすこととなる。

 

 

 議員1人あたりの人口格差(1票の格差)是正策に向けた参議院選挙区制度改革をめぐっては、参議院各会派でつくる「選挙制度協議会」が26日に開催された。

脇座長(自民党参議院幹事長)は、現行制度を維持しながら議員1人あたりの有権者が少ない隣接選挙区同士をあわせて1選挙区とする合区修正案として、20選挙区を10区に統合する案を再提示した。これにより、人口格差が当初案(2010年の国勢調査ベース)の1.83倍から1.93倍になる。また、人口格差を約2.4倍に緩和して、合区対象をさらに減らす案についても説明した。

これに対し、日本維新の会・結いの党は、現行の比例代表に加え、選挙区を全国11ブロックの大選挙区制に再編して、議員定数を24減らす対案を提示した。

各党は座長修正案を持ち帰って検討することになったが、参議院自民党などには合区そのものに反発しているだけに、今後、協議が進むか微妙な情勢だ。1票の格差を2倍以内に収めるべきか否かが焦点となりそうだ。

 

 

 集団的自衛権行使を限定的に容認に向けた憲法解釈変更などをめぐっては、与党内調整が大詰めを迎えた。

24日に開催された安全保障法制の整備に関する与党協議会で、政府・自民党は、自衛権発動に歯止めを強化するよう求めた公明党に配慮して、自衛権発動の第1要件「わが国に対する武力攻撃が発生したこと、または他国に対する武力攻撃が発生し、これにより我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆されるおそれがあること」の「おそれ」を「明白な危険」に変更した。「明白な危険」として(1)放置すれば戦禍が日本にも及ぶ蓋然性が高い場合、(2)日本国民に深刻で重大な犠牲を及ぼす場合と定義することとなった。

また、「他国に対する武力攻撃」も「我が国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃」と対象を絞ることや、武力行使は「自衛の措置」の場合に限ることの明確化などが図られた。第2要件の武力行使の目的については、「我が国の存立を全うし、国民を守るために他に適当な手段がないこと」と修正することとなった。

 

27日の協議会会合で政府が提示した閣議決定最終案を大筋で了承したことを受け、それぞれの党内調整を経て正式合意する最終調整に入った。公明党内では、集団的自衛権の行使容認そのものへの慎重・反対論も相次いだが、30日の関係部会合同会議で集団的自衛権行使を限定容認する方向でとりまとめ、党執行部に対応を一任することが了承された。

 そして7月1日、自民党と公明党は、閣議決定案について協議会会合で正式合意した。党内(自民党は総務会、公明党は中央幹事会)でそれぞれ最終了承のうえ、与党党首会談も開催する。これを受け、政府は、同日中に臨時閣議を開催して、集団的自衛権の行使容認などを含む憲法解釈の変更について決定する。閣議決定後、安倍総理は記者会見を行い、憲法解釈変更の意義や今後の取り組みなどについて説明し、国民に理解を求めるという。今後、政府は、与党合意や閣議決定を踏まえ、今秋の臨時国会以降に具体的な安全保障の法整備に取り組んでいく方針だ。

 

26日、野党8党の幹事長・国会対策委員長が会談し、憲法解釈の変更に関する閣議決定について、衆参両院の予算委員会で閉会中審査を行うよう与党に求める方針で一致した。その後、松原・民主党国対委員長が佐藤・自民党国対委員長に、衆参両院の予算委員会を開催するよう要求した。佐藤国対委員長は、7月14~15日に、安倍総理・関係閣僚出席の下、衆参両院で1日ずつ閉会中審査に応じる意向を示した。これに対し、松原国対委員長は、衆参両院で2日ずつ開催するよう求めたため、今後、与野党間で日程を調整していくこととなった。

 

 

 基本方針や成長戦略改訂版などが策定され、集団的自衛権の行使容認などを含む憲法解釈の変更について7月1日に閣議決定される。これにより、安倍内閣として大きな節目を迎えたといっていいだろう。安倍総理は、9月上旬にも内閣改造と9月末に任期満了を迎える自民党役員人事を断行する考えだ。内閣改造でどのような布陣になるかも含め、安倍総理が進める経済・財政政策や安全保障政策をどのように具体化、実行していくのかについて注視していくことが重要だろう。