先週15日、安倍総理の私的諮問機関「安全保障の法的基盤の再構築に関する懇談会」は、日本国憲法第9条が禁じる武力の行使は自衛のための措置を禁じていないとし、「自衛のための措置は必要最小限度」の範囲に集団的自衛権の行使も含めるよう、政府の憲法解釈を変更するよう求めた報告書を安倍総理に提出した。

 これを受けて、政府は、国家安全保障会議(日本版NSC)4大臣会合を開催して、懇談報告書と政府の立場との共通点および相違点について整理のうえ、政府の「基本的方向性」をとりまとめた。当初、集団的自衛権の行使容認に向けた憲法解釈見直し原案としての「政府方針」を発表する考えだったが、公明党が「与党協議を始める前に政府方針として提示されると、すでに集団的自衛権の行使容認が決定事項であるかのような印象を与える」として反発したため、具体的な結論を示さない「政府の基本的方向性」として提示することで決着が図られた。

 

 その後に開かれた記者会見で、安倍総理は、現行の憲法解釈では困難とされている事例として、(1)周辺有事において在留邦人らを日本に輸送する米軍艦船の自衛隊艦船による防護、(2)海外活動中に武装集団に攻撃された国連平和維持活動(PKO)要員や非政府組織(NGO)への自衛隊部隊による駆け付け警護を取り上げ、集団的自衛権の限定的な行使を容認するための憲法解釈見直しに理解を求めた。また、相次ぐ日本の領海侵入や北朝鮮による核・ミサイル開発、サイバー攻撃の脅威など、日本を取り巻く安全保障環境が厳しさを増している現状を踏まえ、必要な法令整備を急ぐべきと訴えた。安倍総理は「これまでの憲法解釈で十分か検討が必要」「内閣法制局の意見も踏まえつつ、政府の検討を進めるとともに、与党協議に入りたい。協議結果に基づき、憲法解釈の変更が必要と判断されれば、その点を含めて、改正すべき法制の基本的方向を、国民の命と暮らしを守るため、閣議決定していく」との決意を述べた。

 安倍総理は、公明党などに進め方や表現などで配慮しつつも、年内に再改定する日米防衛協力のための指針(ガイドライン)に反映させることも視野に、今年秋の臨時国会前に集団的自衛権の行使容認のための政府方針を閣議決定、臨時国会に関連法案を提出する路線を貫くようだ。

 

 自民党と公明党の協議は、20日からスタートした。座長の高村・自民党副総裁、副座長の北側・公明党副代表のほか、石破自民党幹事長、井上公明党幹事長ら幹部らで構成する。与党協議は、週1回のペースで行う予定だという。

 自民党は、集団的自衛権の行使容認に慎重な公明党の理解を得たうえで、通常国会中にも政府が閣議決定できる環境を整えたい考えだ。ただ、公明党は、警察権や個別的自衛権の行使で対応できるところも相当あると強調して、慎重姿勢を維持している。このため、与党協議では、武力攻撃に至ると直ちに判断できず、個別的自衛権を発動するまでに至っていない「グレーゾーン」事態や、国連平和維持活動(PKO)に参加する自衛隊の武器使用権限の拡大などの国際協力に対処できるようにする法整備といった憲法解釈の変更を必要としないテーマから協議を始める。具体事例で与党合意できれば、政府は、必要な法整備の準備に速やかに入るという。

 

 一方、野党側は、16日に野党8党の幹事長・国対委員長会談を開催し、衆参両院で全会派が参加して十分な審議機械を設けるよう、与党側に求めることで一致した。松原・民主党国対委員長が、佐藤・自民党国対委員長と会談し、野党8党の要求を伝えた。また、集中審議の複数開催、衆議院外務委員会・安全保障院会の合同開催も申し入れた。ひとまず、集団的自衛権に関する集中審議は、安倍総理や関係閣僚出席のもと、28日に衆議院予算委員会で、29日に参議院外交防衛委員会で行う方向で調整が進められている。

 

*衆参両院の本会議や委員会での審議模様は以下のページからご覧になれます。

 衆議院TVビデオライブラリ:http://www.shugiintv.go.jp/jp/index.php

 参議院インターネット審議中継:http://www.webtv.sangiin.go.jp/webtv/index.php

 

 昨年の臨時国会で成立した特定秘密保護法に基づく政府の秘密指定・解除の運用状況や指定妥当性について監視する国会設置の新機関のあり方をめぐっては、自民党と公明党が、19日の「国会および政府の情報機能の強化に関するプロジェクトチームの会合で、与党案について合意した。

 与党案は、(1)衆参各院に常設の「情報監視審査会」(仮称)を設置して、各会派の議席に応じて委員数(8人)を割り当てて構成すること、(2)政府が国会に提出する特定秘密保護法運用に係る年次報告をもとに、政府による特定秘密の指定・解除をおこなった行政機関の長から説明聴取などにより、特定秘密の適否について審査・審議すること、(3)それにより不適切と判断すれば政府に運用改善を求める勧告権を付与すること、(4)審査会は非公開の秘密会とし漏洩対策を万全に講じることなどを柱としている。秘密を漏洩した国会議員は、秘密保護法の罰則(5年以下の懲役、500万円以下の罰金)に該当するが、憲法51条に基づく国会議員の免責特権が優先する場合には、衆参各院が懲罰の対象とするとしている。

 当初、自民党は、「特定秘密の指定の適否について新機関では判断しない」との方針だったが、特定秘密の指定・解除の適否について常時監視すべきと主張する公明党に譲歩して、強制力を伴わない勧告権を付与することで折り合うこととなった。自民党と公明党は、近く与党案をもとに、新機関設置で合意している日本維新の会やみんなの党などとも協議を行って、通常国会中の国会法改正をめざす方針だ。

 

 

 国会議員の定数削減を含む衆議院選挙制度改革をめぐっては、共産党・社民党を除く与野党8党の幹事長が、伊吹・衆議院議長に有識者で構成する第三者機関を伊吹衆議院議長の下に設置するよう正式に求めた。議長直属機関として設置することに難色を示す伊吹議長は、15日、石破・自民党幹事長と大畠・民主党幹事長と会談し、「議院運営委員会の議決を経て国会に第三者機関を設置すれば、設置に反対した党も議論に参加しやすくなる」と述べ、議院運営委員会の議決にもとづく第三者機関の正式な設置をめざすよう求めた。与野党8党は、伊吹議長の要請を受け入れる見通しで、通常国会中の設置も視野に、国会対策委員長会談などで調整に入るという。ただ、議員定数や選挙制度のあり方などについて、各党の主張に隔たりも大きいだけに、今後の意見集約は難航も予想されている。

 

 議員1人あたりの人口格差(1票の格差)是正策に向けた参議院選挙区制度改革をめぐって、参議院自民党は、参議院各会派でつくる「選挙制度協議会」の脇座長(自民党参議院幹事長)が提示した、議員1人あたりの有権者が少ない隣接選挙区同士をあわせて1選挙区とする「合区」案に対するヒアリングを、16日から当選回数別に開始した。自民党内でのヒアリングでは、「合区では地域の声が届かなくなる」と懸念が示されたほか、座長案への異論が相次いだ。また、比例代表定数を削減して選挙区に配分することで格差縮小を図る案なども提起されている。

 参議院自民党は、今月30日までにヒアリングを計7回開催して、党内の意見集約を図り、作業チームで対案づくりを進める方針だ。ただ、溝手・参議院議員会長が「脇氏の原案はわが党としての案ではない。党内の意見集約の期限は8月末だ」と述べているほか、改革案に慎重姿勢をみせるグループなどが独自の対案づくりも視野に勉強会をスタートさせるなどしており、脇座長が要請した今月末までの意見集約・取りまとめは困難な情勢となっている。

 

 

 施行4年後に改憲に必要な国民投票年齢を現行の20歳以上から18歳以上へ引き下げることなどを定めた国民投票法改正案が、14日、参議院憲法審査会で提案理由説明を行い、審議入りした。21日に発議者への質疑、26日と6月4日に参考人への質疑を行う予定だ。また、参議院での審議では、改正案に反対している共産党や社民党に質問時間を多く割り当てるという。与党は、6月11日の審査会採決をめざしている。改正案は、共同提出した与野党7党のほか、新党改革などの賛成多数により、6月中旬にも成立する見通しとなっている。

 

 在宅医療推進のための医療法改正や介護保険サービスの負担増につながる介護保険法改正など法案19本を一括りにして、地域医療と介護保険制度を一体で見直す「医療・介護総合推進法案」について、全野党が審議不十分と反対するなか、与党は、14日の衆議院厚生労働委員会で強行採決に踏み切った。同法案は、(1)国が904億円を投入して各都道府県に基金を設置し、医療・介護サービスへ財政支援するほか、(2)要支援者向けの事業を3年後までに市町村に移管、(3)2015年8月から、年金収入280万円以上の高齢者の介護保険の自己負担割合を現行の1割から2割に引き上げることなどを柱としている。与党の賛成多数により、14日の衆議院厚生労働委員会、15日の衆議院本会議で可決し、参議院に送付された。通常国会中にも成立する見通しとなっている。

 

 このほか、教育行政に対する自治体首長の権限を強化する「地方教育行政法改正案」が、16日、衆議院文部科学委員会で、与党や生活の党などの賛成多数により可決した。一方、教育委員会を地方教育行政の最終責任者(執行機関)として存続させる政府案の対案として民主党・日本維新の会が共同提出した、教育委員会を廃止のうえ教育行政の権限を首長に一本化する「地方教育行政法改正案」は否決された。政府案は、20日の衆議院本会議で可決のうえ参議院に送付される予定で、通常国会中にも成立するとみられている。

 

 通常国会の会期末(6月22日)まで残り1カ月あまりとなった。重要法案の会期内成立のメドがたちつつあることから、14日に開催された与党の幹事長・国対委員長会談で、会期を延長しない方針を確認した。会期を延長しない理由として、集団的自衛権の行使容認に向けた与党協議への配慮などもあるとみられている。

 

 

 集団的自衛権の行使容認をめぐる与党協議がいよいよ始まる。グレーゾーン事態など憲法解釈の変更を伴わないテーマから協議されていく予定だが、自民党・公明党の主張に隔たりがある集団的自衛権の行使容認をめぐっての駆け引きも水面下で進められる可能性もあるだろう。

 国会では、集団的自衛権に関する集中審議が来週にも行われる予定だ。集団的自衛権をめぐっては、野党それぞれ独自の主張を展開している。集中審議や6月11日の党首討論でどのような論戦となるかを見極めるためにも、安倍総理や各党の言動をきめ細かくみておくことが重要だろう。