先週1日、安倍総理は、2015年の年頭所感で、重要課題としてデフレ脱却・経済再生や、安全保障などを挙げ、「さらに大胆に、さらにスピード感を持って改革を推し進める。日本の将来を見据えた改革断行の1年にしたい」との抱負を明らかにした。

安倍総理は、今月26日召集予定の通常国会を「改革断行国会」と位置付ける。通常国会の前半は、経済対策を裏付ける補正予算や来年度予算などの早期成立に全力を挙げる。その後、集団的自衛権行使の限定容認を含む安全保障関連法案などが審議入りする予定だ。政府・与党は、関連法について通常国会中の成立をめざしている。

 

【補正予算案、9日に閣議決定へ】

安倍総理は、引き続き経済最優先で取り組む姿勢を示したうえで、「アベノミクスをさらに進化」「経済最優先で政権運営にあたり、景気回復の暖かい風を全国津々浦々に届けていく」と、成長戦略や経済対策を前進させる決意を述べた。

 政府は12月27日、日本経済再生本部(本部長:安倍総理)を開催して、昨年6月に策定した改定成長戦略の早期実行に向けた基本方針について確認した。基本方針では、2017年4月からの消費税率10%への引き上げを前提に「一刻も早い経済状況の好転を目指し、前例のないスピード感で改革を進める」とし、農業や雇用、医療、エネルギーなどの岩盤規制分野について「一歩も後退することなく改革を進め、新たな市場とビジネスチャンスを生み出す」としている。

政府は、今年初めにも成長戦略の改定実行計画をまとめ、法制化や事業化などを推進めていくようだ。

 

 また、景気回復の足取りが鈍く、後退懸念が出ていることを受け、政府は、12月27日の臨時閣議で、総額3.5兆円の経済対策を決定した。このうち1.2兆円を生活者・事業者支援、0.6兆円を地方活性化関連、1.7兆円を災害復旧・復興関連に振り分けた。政府は、これら対策により、実質国内総生産(GDP)0.7%程度の引き上げる効果を見込んでいる。

経済対策の目玉として「地域住民生活等緊急支援交付金」(総額4200億円)を創設し、地方自治体や商工団体などが発行するプレミアム商品券などへ助成する「地域消費喚起・生活支援型」(2500億円)と、地方創生総合戦略に沿って人口減少対策や少子化対策などを積極的に取り組む「先行自治体」に対して交付金を上乗せする「地方創生先行型」(1700億円)の2種類により、個人消費の喚起と、地方創生の推進・支援していく。新たな交付金制度では、各地の実情に応じて柔軟に支出できるようにし、低所得者向けに灯油購入費の助成や、子どもの多い家庭に対する子育て支援、地方での就業・創業支援などにも使うことが想定されている。

 

交付金以外の対策については、以下の通り。

■生活者・事業者支援

○急速な円安に伴う燃料・原材料高や輸入コスト増に苦しむ中小企業の資金繰り・事業再生支援

○省エネや耐震性能の高い住宅購入者に対し、低利で長期融資する住宅ローン「フラット35S」の金利の引き下げ幅拡大

○環境に配慮した省エネ住宅の新築・リフォーム(2015年3月末までの売買・請負契約が対象)にポイントを付与して商品などと交換できる住宅エコポイントの復活

○従業員の賃金をアップした中小企業への助成事業の拡充

○運送業者など向けに高速道路料金割引措置(最大5割)を来年3月末まで延長

○農業機械の共同購入など、生産コスト削減に取り組む稲作農家への支援

■地方活性化関連

○人材・企業の地方移転支援

○若者の農林漁業就業・研修支援

■災害復旧・復興関連

○東日本大震災復興特別会計への繰り入れ(1兆円)

○東京電力福島第1原発事故に伴う汚染土を保管する中間貯蔵施設の建設を受け入れた福島向けの交付金(0.25兆円)

○災害・危機などへの対応

(学校施設等の災害復旧、火山観測の研究基盤整備・観測態勢強化など)

 

 これら経済対策を裏付ける2014年度補正予算案は、今月9日にも閣議決定のうえ通常国会に提出する。補正予算案の規模は3.1兆円で、財源は、税収の上振れ分や剰余金などを充てる。政府は、2014年度当初予算で計画していた新規国債の発行額(41.25兆円)を0.75兆円減額する方針で、補正予算案の編成でも「(新たな)国債発行は行わない」(菅官房長官)としている。

 

 

【来週には、来年予算案が閣議決定】

 来年度予算案の編成に向けては、12月27日に経済財政諮問会議(議長:安倍総理)と臨時閣議を開き、「2015年度予算編成の基本方針」を決定した。

 基本方針では、財政健全化と経済再生が相互に寄与する「好循環を作り出す」路線を明示し、国・地方の基礎的財政収支(プライマリーバランス)の赤字を、2015年度に国内総生産(GDP)比で2010年度(6.6%)から半減させる財政健全化目標について「着実に達成するよう最大限努力する」とし、2020年度の黒字化目標についても「堅持する」とした。高齢化に伴い増大する社会保障費については「自然増も含め聖域なく見直す」とし、消費税率10%への引き上げ時に実施する予定だった子育て支援や医療など社会保障充実策の優先順位付けを行ったうえで、「可能な限り、予定通り実施する」とした。その一方で、中長期的な経済発展のため、地方創生、女性の活躍推進などは「強力に推進する」との方針を打ち出した。

政府・与党は、一般会計総額を96~97兆円規模とする方向で調整が進めている。来週、来年度予算案が閣議決定される予定だ。

 

 12月30日、予算案の前提となる来年度の税制改正大綱を、自民党と公明党が決定した。政府は、近く2015年度税制改正大綱を閣議決定し、通常国会に税制改正関連法案を提出する予定だ。

また、2015年度予算における税収見積もり前提となる「2015年度の経済見通し」については、民需主導による景気回復・個人消費の持ち直しなどを想定して、物価変動の影響を除いた実質成長率を2%前後とする方向で最終調整を行っている。

 

最大の焦点だった法人税実効税率(34.62%。東京都の場合35.64%)については、企業の国際競争力向上などを図るねらいから、来年度は2.51%、翌年度までの2年間は累計3.29%引き下げることとなった。税収減の穴埋め財源は、3年かけて、給与総額など企業規模に応じて課税する「外形標準課税」(地方税)を2年間で2倍に拡大することや、過去の赤字と黒字を相殺して法人税額を減らせる「欠損金繰越控除」の段階的縮小、持ち株比率が25%未満の関連会社から受け取る株式配当の非課税制度縮小(現在の5割から2割に)などにより、2.5%分の1.2兆円程度を確保して税収中立を実現するとしている。ただ、最初の2年間は、外形課税の拡充を1.5倍にとどめるなどにより、減税規模が増税分を上回る「実質な先行減税」としている。今後も、「数年で20%台へ引き下げ」を達成するべく、財源を捻出して税率引き下げ幅のさらなる上乗せをめざすという。

 このほか、企業向けとして、給与支給額を増額した企業(2012年度比で中小企業は3%以上、それ以外は4%以上)を対象に、期限付きで賃上げ分を法人事業税で非課税とすることや、企業・人材の地方移転を促す「地方拠点強化税制」を新たに創設した。地方拠点強化税制では、本社機能を三大都市圏以外(東京・中部・近畿)に移転した企業を対象に建物などの取得費用の最大25%の特別償却か最大7%分の税額控除かを選択できるほか、地方で雇用を増やせ1人あたり50万円を税額控除、本社移転は30万円を上乗せすることができる。

 

 個人向けでは、経済の活性化につなげるねらいから、消費税率10%への再引き上げが延期されたことを受けた措置として2017年末までとなっている住宅ローン減税の適用期限を1年半延長する。

また、2017年末までの3年間、子・孫への結婚・出産・子育ての費用の贈与(1人あたり1000万円まで)が非課税となる制度を2015年度に導入するほか、住宅資金や教育資金の贈与に対する非課税措置の延長なども盛り込まれた。住宅資金に対する贈与税は、非課税の対象に来年度から太陽光発電・地中熱ヒートポンプ・家庭用燃料電池などの設備設置も含め、非課税枠を最大3000万円(現行1000万円)に拡大したうえで、段階的に縮小し2019年6月末に廃止することとなった。

 さらに、少額投資非課税制度(NISA)に、未成年の子または孫の名義で年80万円までの投資ができ、その運用益には課税しない子供版「ジュニアNISA」を新設した。ただし、名義人が18歳となった年の前年12月31日までの間、払い出しできない。また、若年層による投資促進・裾野拡大を図るねらいから、NISAの年間投資上限額を120万円(現行100万円)に引き上げた。

 このほか、環境性能の高い自動車に適用される「エコカー減税」(自動車取得税、自動車重量税)はより厳しい燃費基準に移行したうえで、2年間続ける。軽自動車税も新たに適用対象となった。

 

 消費税率10%への引き上げについては、2017年4月1日から行うとし、消費税増税法の付則(景気判断条項)については削除とするとした。これに引き上げ延期に伴い、消費税転嫁法の期限も2018年9月30日に延期することとなった。食料品などの消費税率を低く抑える軽減税率については、「2017年度からの導入をめざす」とし、「早急に具体的な検討を進める」と盛り込んだ。与党は、来年1月下旬をメドに与党税制協議会の下に検討委員会を設置し、対象品目の範囲や、事業者が複数の税率を経理処理しやすくする仕組みなど具体化の検討作業を開始する方針だ。遅くとも2015年秋までに制度案を決定することをめざしているという。

 地方創生の一環として、個人が故郷の自治体などに寄付すると減税が受けられる「ふるさと納税」について、手続きを簡素化するとともに、個人住民税特例控除の限度額を個人住民税所得割り額の2割(現行1割)に拡大した。

 

 

【予算編成をめぐる動きに注目】

昨年末、経済対策はじめ、予算編成の基本方針、与党税制改正大綱、地方創生の長期ビジョン・総合戦略などを相次いで決定された。これらを踏まえ、予算案の編成・調整作業が急ピッチで進められている。

今週9日には補正予算案が、来週には来年度予算案が閣議決定される。経済再生と財政健全化の両立を掲げる安倍内閣は、来年度予算案について、聖域なく歳出を見直すことで概算要求(101.68兆円)を大幅に抑制し、新規国債の発行額を37兆円に抑制するとしている。また、景気の下支えを図るため、補正予算案とともに切れ目のない予算執行を進めるとしている。

限られた時間のなかで、政府・与党は、どこまでメリハリをつけた予算案に仕上げることができるのだろうか。政府与党内での水面下での駆け引き、政治折衝などの動向も含め、予算編成の最終局面を見極めておくことが大切だろう。