先週21日、経済産業大臣に宮沢・自民党政調会長代理(参議院議員)が、法務大臣に上川・自民党女性活躍推進本部長が就任した。政府・与党は、「政治とカネ」をめぐる問題で女性2閣僚のダブル辞任で受けた打撃から立て直すべく、新たな態勢のもと引き続き「経済再生」「地方創生」「女性活躍推進」などの看板政策に取り組み、信頼回復に全力を挙げる方針だ。

 

【新たな「政治とカネ」問題も浮上】

 一方、民主党や維新の党など野党側は、安倍総理の任命責任や、閣僚の資質や疑惑を追及する構えで、攻勢を強めている。資金管理団体による政治資金収支報告書の記載ミスを訂正した江渡防衛大臣に続き、就任したばかりの宮沢大臣にも「政治とカネ」をめぐる問題が明らかとなった。

 

宮沢大臣の資金管理団体による不適切な政治活動費支出が過去にみつかったほか、電力会社への監督を所管する経済産業省のトップである宮沢大臣が東京電力株600株(時価約20万円)を保有していることは利益相反の恐れがあり、中立・適正な判断が担保されるのかなどと問題視されている。

 宮沢大臣は、不適切な交際費計上があったことを認めたうえで、事務所秘書にその代金を弁済させ、政治資金収支報告書を訂正する考えを明らかにした。東電株をめぐっては、菅官房長官が、政務三役在任中の株式などの取引を自粛し、保有株などを就任時に信託銀行の管理下に置くよう定めている大臣規範にのっとって、「宮沢氏はすでに信託の手続きに入ったので、全く問題ない」と擁護した。27日には、宮沢大臣が信託手続きを完了したと発表した。

 

また、宮沢大臣が衆議院議員時代に代表を務めていた政党支部に、外国人が過半数の株式を所有する広島県の企業から計40万円の献金を受けていたことも判明した。宮沢大臣は、「先週末にその事実を把握した」「(当時は)外国人が過半数を持っていると知らなかった」と説明し、26日付で全額を返却したことも明らかにした。野党側は、外国人や外国企業からの寄付を禁じる政治資金規正法に抵触する可能性もあるとして問題視しているが、菅官房長官は「事実が判明した後、すぐに返金した。適切な処理だ」と強調し、辞任する必要はないとの考えを示した。

 さらに、有村女性活躍担当大臣が代表を務める自民党の参院比例支部が、脱税で罰金判決を受けた企業から計60万円の寄付を受けていた。有村大臣の事務所は、返金手続きを取ったという。この件に関して、菅官房長官は「企業から献金を受ける時点では脱税していなかった。後に脱税が分かったことが原因で、問題ない」と擁護した。このほか、望月環境大臣に関係政治団体の政治資金収支報告書で交際費計約660万円分の記載漏れが指摘されている。

 

ただ、野党側は、こうした説明にいまだ疑問が残るとして、30日に安倍総理出席のもと開催する衆議院予算委員会での集中審議などで、「政治とカネ」をめぐる閣僚の疑惑を徹底追及し、安倍総理の任命責任を問い質す方針でいる。特に、民主党は、政権時代に同様の「政治とカネ」をめぐる問題で閣僚辞任に追い込まれた経緯もあるだけに、閣僚辞任をも求めていくようだ。

 

 

【法案審議入りにも影響】

女性2閣僚のダブル辞任や、第二次安倍改造内閣の閣僚の「政治とカネ」をめぐる問題で、国会運営の主導権をめぐる与野党の駆け引きが活発となっている。

 

当初、与野党の合意にもとづき、土石流や地滑りで住民の命に危険が生じる場所を土砂災害警戒区域に指定に先立って基礎調査を実施し、その結果公表を都道府県に義務付ける「土砂災害防止法改正案」が21日の衆議院本会議で審議入りすることとなっていた。

しかし、野党7党が「極めて異常な事態で、本会議開会には応じられない」「新任閣僚の所信表明を優先すべき」などと審議入りを拒否した。断続的に協議した結果、与党が衆議院科学技術特別委員長ポストを野党に譲るとともに、新たに就任した2閣僚の所信聴取を行うことで、同法案の趣旨説明と質疑を23日の本会議で行うと合意するに至った。

また、派遣労働者の柔軟な働き方を認め、3年経過した後に派遣先での直接雇用の依頼を派遣会社に義務づける「労働者派遣法改正案」の審議入りも、与党が想定していた23日の衆議院本会議から、28日の衆議院本会議へとずれ込むことが決まった。

 

 23日、「土砂災害防止法改正案」の趣旨説明と質疑が衆議院本会議で行われ、審議入りとなった。基礎調査にもとづき土砂災害警戒区域の指定予定区域を公表することで、住民に土砂災害の危険性を認識してもらい、災害発生時の早期避難につなげることを目的としている。同法案には、自治体を援助するよう国の努力義務を定めているほか、国土交通大臣が基礎調査の遅れている都道府県に是正を要求できる規定も盛り込まれている。野党側も同法改正に反対する動きはないことから、臨時国会中に成立する見通しだ。

 

 一方、労働者派遣法改正案をめぐっては、28日の衆議院本会議に安倍総理と塩崎厚生労働大臣が出席して同法案の趣旨説明と質疑を行うこととなった。同法案は、一部の専門業務を除き最長3年とされている企業の派遣受け入れ期間の上限を撤廃する内容となっている。このため、民主党は、「低賃金労働者を増大させかねない」と対決法案に位置付け、成立阻止に全力を挙げる方針だ。共産党や生活の党、社民党も反対している。

審議入りがずれ込んだことで、同法案の会期内成立(11月30日まで)は微妙な情勢となっている。野党側は、安倍総理が消費税率10%への引き上げの是非について7~9月期の国内総生産(GDP)改定値が発表される12月8日の直後にも判断することを念頭に、法案審議の遅れを生じさせることで、12月8日以降への会期延長をねらっている。こうした事態を回避したい政府・与党は、会期どおりに閉会したい考えだ。ただ、11月中旬には安倍総理の外遊日程が控えており、参議院での審議が11月後半まで持ち越される可能性もあって、窮屈な国会日程となってきているようだ。

 

 

【自民党と民主党それぞれ参院選改革案の提示へ】

議員1人あたりの人口格差(1票の格差)是正策に向けた参議院選挙区制度改革をめぐっては、22日、山崎参議院議長が、参議院「選挙制度の改革に関する検討会」で、参議院自民党会派が推薦された伊達参議院幹事長(自民党)を参議院各会派でつくる「選挙制度協議会」の座長に指名した。

 自民党の溝手参議院議員会長が、任期満了に伴う人事で、隣接する選挙区を統合する「合区案」を提案した脇氏を参議院幹事長から更迭するとともに、9月19日、協議会メンバーからも外した。これにより、脇氏が務めていた座長ポストが、自動的に空席になっていた。

 

 検討会では、自民党を代表し出席した溝手議員会長に対し、野党側から「これまでの協議会での議論を尊重すべき」「自民党は協議会で参院選挙制度の具体的な改革案を示すべきだ」といった注文が相次いだようだ。

 24日、自民党は、参議院選挙制度に関する検討会(岡田直樹座長)を開催して、鳥取・島根を1選挙区に合区する案と、高知・徳島を加えた4県を2選挙区にする2案が提示された。これ以外に、2人区で人口の少ない3県(宮城・新潟・長野)を1人区にして、東京などに割り振る「6増6減」案、比例の定員を6議席(改選時3議席)削って都市部に割り振る案、兵庫県北部を鳥取県に加える選挙区域調整案なども示された。自民党は、これら複数案を組み合わせた改革案を、31日に開催される協議会に提示する予定だ。

 民主党も、23日の参議院議員総会で、東京都など23都府県を13選挙区に再編する案を決定した。脇前座長が示した隣接22府県を11選挙区に合区する案をベースに、現在1選挙区の東京選挙区を2選挙区に分割(23区内が改選数4、23区外が改選数2)する案となっている。これにより、選挙区が144、比例94の計238となる。民主党は、同案を31日の協議会で提案する予定だ。

 

 

【集中審議に注目】

閣僚の「政治とカネ」問題が相次いで浮上するなか、今週30日、衆議院予算委員会で集中審議が開催される。野党側が攻勢を強めており、水面下での与野党の駆け引きなどにより法案審議の日程も影響が出始めている。野党の追及に、安倍総理や疑惑にあがっている閣僚たちが説明責任をどのように果たすのだろうか。今後の影響を見極めるためにも、答弁内容に注視していくことが重要だ。

 また、自民党内では、岩盤規制など規制改革や、消費税率引き上げの是非をめぐる党内論議がスタートしている。これらのテーマでは、賛否をめぐって党内を二分する可能性もあり、今後、紛糾する場面もありそうだ。こうした自民党内での政策動向もあわせて押さえておいたほうがいいだろう。