【山本洋一・株式会社政策工房 客員研究員】


 「内閣改造、来月下旬に」――。日本経済新聞は16日の朝刊一面でこんな見出しを掲げた。安倍晋三首相が8月下旬に内閣改造を実施する検討に入ったというニュースである。政権を支える菅義偉官房長官や石破茂幹事長は「続投との見方が出ている」とした。

 へー、そうなのかと思っていたら、翌日の産経新聞は少しニュアンスが違った。「9月上旬に内閣改造と自民党役員人事を行う方向で最終調整に入った」――。

時期がずれているうえ、石破幹事長に関する記述がない。8月下旬から9月上旬は、北朝鮮が日本人拉致被害者に関する調査結果を日本側に伝えるとされる時期。日経は「その前に改造すべきだと判断」、産経は「調査結果を待ったうえで」と真逆の根拠を挙げた。

看板商品である「一面記事」の内容が食い違うのは、主語である安倍首相から確約をとっていないからだ。日経は「首相周辺や与党幹部に8月下旬に改造する意向を伝えた」と書き、首相周辺や与党幹部から取材したことを示唆。産経は「複数の政府関係者が明らかにした」としている。

首相周辺とは首相秘書官のこと。政治家としての日程を管理する政務秘書官と、外務、財務、経産、防衛、警察、総務各省出身の事務秘書官の計7人を指す。政府関係者はもっと広く、「政府筋」とも呼ばれる官房副長官や首相補佐官、閣僚や次官などを含む。

いずれにしても「又聞き」であり、正確である保証はない。あと一か月半もすれば答えが明らかになるが、少なくとも改造の時期については日経と産経のどちらかが間違えている。その時、間違えたメディアは訂正を出さず「○○の考えだったが、○○を受けて方針転換した」といった言い訳記事でごまかすことになる。

 メディアが内閣改造を巡る報道の速報性を競うのは、組閣や内閣改造、党役員人事などの人事取材が、政治記者の「花形」とされているからだ。人事には多数の利害関係者がいるため、人事権者はなかなか明かさない。そのネタをいち早くとってくるのは優秀な記者、いち早く報道するのは優秀なメディアと評価される。

 しかし、それは極めて内向きな論理。読者にとって重要なのは正確性であり、その人事によって政策がどう変わるか、日本の針路がどこに向かうのかという解説だろう。複数の新聞を読み比べている人などほとんどいない。どの新聞が早かったかなど知る由もない。

 日本メディアの「内向き度」は記者の行動習性からもわかる。新聞記者が毎朝、起きて最初にやることは「朝刊チェック」。大手各紙の朝刊を広げ、自分の担当分野で「抜かれ」ていないかどうか、つまりスクープされていないかどうかを確認する。

 もしも抜かれていれば、早朝から確認作業に追われる。議員や官僚の自宅に押しかけ、「○○新聞の記事は本当ですか」と質問。イエスと答えれば夕刊に「後追い記事」を掲載する。そして翌日の朝刊に「抜き返す」ためのスクープ記事を載せる。

 重視されるのはそのニュースを伝える「意義」や正確性ではない。横並びの記事をいかに早く載せるかという視点である。メディアが内向きの「徒競走」に励んでいる間にも、国民の新聞離れは進んでいく。