政策工房 Public Policy Review

霞が関と永田町でつくられる“政策”“法律”“予算”。 その裏側にどのような問題がひそみ、本当の論点とは何なのか―。 高橋洋一会長、原英史社長はじめとする株式会社政策工房スタッフが、 直面する政策課題のポイント、一般メディアが報じない政策の真相、 国会動向などについての解説レポートを配信中!

カテゴリ: 政策レポート



 今月
22日に投票が行われる大阪府知事選挙と大阪市長選挙の立候補者が出そろった。事実上、府知事選は松井一郎知事と栗原貴子氏、市長選は吉村洋文氏と柳本顕氏の一騎打ち、大阪維新対非維新(自民、共産など)の対決である。

 


 また「大阪都構想」が争点になろうとしている。5月の住民投票で否決という結論が一応出ているが、その際、都構想反対派が主張していた、都構想の対案としての大阪会議が機能していないからだ。筆者も、都構想の対案として大阪会議(大阪戦略調整会議)が、テレビなどで何度も取り上げられたことを記憶している。ところが、実際にはまったく機能しなかったのだ。

 


 選挙結果は。今後の大阪府市行政にどう影響するのだろうか。府市の両方を大阪維新がとれば、都構想が再び現実化する。これは、地方政治・行政にとって、地方分権で選択肢が広がるという意味で望ましい。ただし、これまでの都構想ではなく一定期間の検討の後に修正が加えられるだろう。

 


 府市のいずれかを非維新がとれば、都構想はなくなる。それは、橋下氏が登場した以前に戻ることを意味する。両陣営ともに、大阪が東京に次ぐ2極になることを目指すという意味では同じだ。大阪維新が従来の方法を破ること、非維新は従来を踏襲することで、目標を達成しようとしている。

 


 大阪府知事は、橋下・松井時代の前は、横山ノック・太田房江時代だ。この両者の経済パフォーマンスを比較してみよう。経済パフォーマンスの見方はいろいろあるが、オーソドックスには、GDPと失業率がもっとも重要なので、それらを比較しよう。いろいろな経済変動の影響を受けるので、大阪府と全国を比べ、GDPでは大阪府の全国シェア、失業率では大阪府失業率と全国失業率に対する比率をみよう。

 

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まず、GDPでは、大阪府の全国シェアは長期低落傾向にある。シェアが前年度より増えれば勝ち、減れば負けとすると、横山・太田時代は2勝11敗であるが、橋下・松井時代は2勝3敗と、やや負けクセが是正されてきたようにみえる。

   

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次に、失業率では、横山・太田時代に全国を40%近く上回っていたが、橋下・松井時代は25%程度とまだ全国水準までは達していないが、かなり改善傾向を読み取れる。

 


 大阪の経済活動が本格的に回復するにはまだ時間がかかるだろうが、横山・太田時代と橋下・松井時代を比較する限り、橋下・松井時代に分があるようだ。ダブル選挙における、大阪府市民の判断が見ものだ。

 



 

 

【高橋洋一・株式会社政策工房 代表取締役会長】

 

 46月期のGDP一次速報は年率換算▲1.6%だった。民放のニュース番組でも取り上げられていたが、某テレビ局の解説は酷かった。今回のマイナス成長について、エコノミストはすべて的中していたといい、そのエコノミストの説明を紹介していた。

 

 
 エコノミストの3ヶ月前の予想は全くあてにならない。今回の場合も、3ヶ月前にはやはりプラス予想をしている人も多かった。しかし、8月になれば46月の各種統計が出そろい46月期のGDPはほとんど予想できるので、直前の予想は当たるに決まっている。それをわざわざテレビで取り上げた。

その解説で、消費と輸出が落ち、輸出の減少は、中国などの景気後退ということだった。ここまではいい。年率換算▲1.6%は前期比▲0.4%だが、消費減少と純輸出減少の寄与度は、それぞれ▲0.4%と▲0.3%だった。


 しかし、問題は消費減少の理由だ。将来不安で消費が伸びないというものだった。消費の低迷は、20144月からの消費増税であるのに、消費増税とは一言もふれない。その一方で、将来不安で消費低迷と、財務省のよくいうセリフそのものと同じだった。漠然とした将来の不安より、増税によって可処分所得が減少した目先の不安のほうが大きいのだ。

 
 

 消費の低迷を示すのが、7月末に公表された家計調査による8月分の消費の大ブレーキだ。6月の実質消費は前年比2.0%減、4-6月期の実質消費水準6数は前期比1.0%減だった。1年前の消費増税の影響が長引いているのだ。消費増税は恒久的な増税であり、そのマイナス効果は1年限りではなく永続的である。消費はそのマイナス影響をまだ飲み込めていない。


 家計調査で消費が減少した理由を見てみよう。大きなマイナスの寄与度になっているのは、「その他の消費支出」0.93%減少と「被服及び履物」0.59%減少の2項目で、これらで実質消費の減少の大半を説明できる。さらに詳しく見ると、「その他の消費支出」は交際費、「その他の消費支出」は男子用上着・ズボンが目立っている。この点から、百貨店がセールを7月に後ろ倒しした効果が大きかったことが指摘されている。もしそうであれば、7月は盛り返すはずだが・・・。

 
 

 将来不安で消費が伸びないといういいぶりは、2013年秋頃にも、多くのエコノミストやマスコミ関係者がいっていた。そして、将来不安を消すために、消費増税がいいと推奨した。その大合唱の末、20144月からの消費増税が決められ、実行された。その結果、2014年度のGDP成長率は▲0.9%。消費増税を推奨した人たちは、増税の影響は軽微といっていたが、まったくウソだった。


 将来不安で消費が伸びないというのは、20174月からの10%への再増税を目論んでいる人たちだ。消費増税で落ち込んだ消費なのに、その消費増税の悪影響をいわずに、再増税への落とし穴になるような解説を、テレビで垂れ流すのは、あまりに酷いだろう。

 
 

 景気の落ち込みへの対策は、消費増税の失敗であるので、それを取り返すためには財政政策、できれば消費増税の悪影響を除去するためには、消費減税と同じような効果がある減税や給付金政策が望ましい。


 ちなみに、GDPギャップを計算すると10兆円近くになる。この分、景気対策で戻そうとすれば、510兆円規模の対策がいい。

 

 




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(表作成:政策工房) 

 


 財政政策というと財源が気になる人もいるが、心配ない。アベノミクスの円安によって、政府は儲けている。外債投資をしている外為特会では含み益は20兆円もあるので、それを国民に還元すればいい。そうすれば、増税による可処分所得減少は補われて、消費の落ち込みは避けられ、成長路線に乗るだろう。

【高橋洋一・株式会社政策工房 代表取締役会長】


ギリシャ問題を理解するには、国際政治・経済の標準理論を学ぶといい。

長期的な視点からは、ユーロの問題やEU・NATOの関係から、ユーロ離脱・EU残留という道が見えてくる(詳しくは、76日付け「国民投票実施でも混乱は必至!ギリシャ経済危機「唯一の解決策」を教えよう」 http://gendai.ismedia.jp/articles/-/44049 参照)。

 

短期的には、緊縮財政でギリシャが再建できるかという問題である

ギリシャ危機はこれまでに何回もある。これまで200年間で100年くらいの間はデフォルト期間であるので、危機は珍しいものでない。最近でも、2010年あたりから財政危機になって、年金のカットや付加価値税増税などの緊縮政策がとられた。

 

ただし、この緊縮策は成功したとはいえない。たしかに、財政赤字は減少したが、経済成長率はマイナス成長が続き、経済の落ち込みは酷くなった。2000年代の後半には、失業率は一桁であったが、2010年に入ると二桁となって、最近では25%程度にも高くなっている。


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ちなみに、この現象は、ギリシャを例にして日本に対して財政再建を説く財政再建至上主義者にとって強烈な皮肉になる。そうした人たちは、財務省の口車に乗って、財政再建しないと、金利が上昇し経済成長を阻害するといってきた。逆をいえば、緊縮策をとれば、財政の信認が増して、金利が下がり経済成長するというのが、財務省の財政赤字はケシカランというロジックだ。

 

ところが、前回の危機のギリシャでは、緊縮策をしたら、経済成長しなくなって、失業率が高くなったのだ。財務省がいってきたこととまったく逆の結果である。ギリシャは、緊縮策をとる前のマクロ経済パフォーマンスのほうが、失業率をとってみてもわかるが、はるかによかった。

 

今回も、ギリシャは、年金制度の改革や付加価値税の税率引き上げなどを含む緊縮策を示している。数年間の財政危機の時と同じ流れである。このままで行けば、ギリシャか前回の緊縮策の失敗を再び繰り返すことになるだろう。無理な緊縮策が、経済成長を阻害すると、財政は経済の一部門なので、最終的には財政再建もできないのではないか。何によりも、経済がしっかりして、失業が少なく、その後に財政がよくなればいい。「国破れて財政あり」というのでは、国民にとって本末転倒である。

 


【高橋洋一・株式会社政策工房 代表取締役会長】


 韓国MERSは、日本としてもかなり心配なので、マスコミ報道をフォローしている。日本語で読めるということで、聯合ニュース(http://japanese.yonhapnews.co.kr/)が役に立つ。筆者がこれまで注目しているのは、韓国保健福祉部が毎日発表している感染者数である。死者数も関心事であるが、まずは感染者数の推移をみている。

 

 610日、「まだまだ安心できない。9日の予測値は92人でまだ指数関数的増加傾向。10日、11日の予測値は112人、136人。これを下回るかどうかで勢いがわかる」と、ロイター記事「韓国MERS感染者95人に、香港は「渡航自粛」勧告」(http://jp.reuters.com/article/topNews/idJPKBN0OO2MO20150609)にツイートした。

 

 同時に、「韓国MERS。このまま指数関数的に患者数が拡大すると、あと2ヶ月で韓国国民すべてが感染してしまうという計算。ここ1,2週間で感染拡大が抑えられるかどうかが勝負でしょう 」と書き、下図を添付した。

  

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(表作成 : 政策工房) 

 これに対して、1000以上のツイートがあったので、「韓国MERS2ヶ月で韓国民全員というのは、あくまで「指数関数的な拡大」が続ければという前提。普通の感染症モデルでは、拡大の逆のフィードバックもあるので、そうならない。発生当初だけ「指数関数的な拡大」。かつて統数研で勉強したこと http://www.ism.ac.jp/editsec/toukei/pdf/54-2-461.pdf」と注釈した。

 

 その後、毎日データを追加していたが、14日「韓国MERS。データ追加。とりあえずネズミ算的なところからは出たような。といっても沈静化にはかなり先だろうけど」とツイートし、下図を添付した。


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                                                                                         (表作成 : 政策工房)


 
 翌15日、「韓国MERS。ネズミ算からは脱出したと思うが、下図はあくまで希望的な観測」とツイートして、ネズミ算モデルではなく、「ロジスティック飽和モデル」に変更し、下図を添付した。

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(表作成 : 政策工房)

 

 


 18日には「韓国MERS。データ追加、希望的予測。韓国保健福祉省の目標からみて似たような希望的観測をもっているのでしょう」と、NHKニュース「今月末には感染者出ないように」(http://www3.nhk.or.jp/news/html/20150618/k10010118431000.html)にツイートして、下図を添付した。


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(表作成 : 政策工房)


 

 

  

 飽和感染者数(上限)が250人から190人に下がってきており、沈静化の兆しは見えている。ただし、予断は禁物である。

 

 この「ロジスティック飽和モデル」は毎日新しいデータで修正している。こうすれば、より実態把握でき、先が読めると思う。実際、当初は感染者数の急増がニュースであったが、最近ではその他の死者数などの話題が前面に出てきた。これは、予想通りに感染者数が低減しているからだ。

 マスコミ報道は、韓国MERSでは過度におどろおどろしく扱うので、それに過剰に反応しないためである。

 

 

【原 英史・株式会社政策工房代表取締役社長】 

 
 

 通常国会は、6月に入ってから大荒れ模様となりました。

 

 まずは、日本年金機構の125万件の個人情報流出問題。与野党間で争点となっている重要法案が山積の厚生労働委員会は、この問題一色となり、労働者派遣法改正はじめ、法案審議の見通しは不透明になりました。

 

 そして、さらに強烈だったのが、6月4日の衆議院憲法審査会で、参考人の憲法学者3名がそろって、審議中の安全保障関連法案につき「違憲」と発言した問題です。

 

 言うまでもなく、憲法に違反する法律を作ることができないのは大原則ですから、法案審議に重大な影響を与えることになりました。

 

 ただ、ここで、憲法9条という条文の特殊性は踏まえておく必要があると思います。

 

 憲法9条を巡っては、一般的な法解釈学の世界とは別次元で、政策の現場でリアルな憲法解釈論が組み立てられてきた歴史があります。

 

 そもそも、憲法9条は、条文だけをみれば、「戦力」と「交戦権」を認めないというのですから、集団的自衛権どころか、自衛隊の存在そのものに疑いがあります。

実際、憲法学の通説では、近年に至るまで、自衛隊は警察力を超える実力保持にあたるので違憲、とされてきました。

  

 一方、現実の規範となってきたのは、これとは別に、政策現場で作られてきた憲法解釈論です。

 政府は、戦後直後は、通説的見解に近い解釈(「戦力」=「近代的戦争を遂行する能力」)をとっていましたが、国際情勢の変化から、1954年に「自衛隊」を設け、「自衛のための必要最小限度」の実力は認められるという憲法解釈が確立されました。

 ただ、自衛権の行使には厳密な要件を課し、「わが国への武力攻撃」その他の3要件が憲法上求められるとしてきました。

 

 リアルな憲法解釈は、条文の字句解釈というよりは、「国際情勢の中で、どれだけの実力を保持し、どのような活動を認め、どのような制約を課すべきか」という情勢判断・政策判断と表裏一体で形作られてきたわけです。

 

 その後、湾岸戦争以降に自衛隊の海外派遣がさまざまな制約のもとで認められ、周辺事態法で米軍への後方支援ができるようになり、イラク特措法で「非戦闘地域」という概念が導入されました。

いずれにおいても、情勢・政策判断と表裏一体で、憲法上ギリギリ認められる範囲が確定され、法制度が作られてきました。

 

 こうした憲法解釈のあり方にはもちろん賛否あるでしょうが、こちらが現実の規範として機能してきたことは疑う余地がありません。

 

 そして、リアルな憲法解釈を作ってきたのは、誰でしょうか。

 内閣法制局を中心とした政府が勝手に作ってきた、と捉えられることも多いですが、決してそうではありません。

 リアルな憲法解釈が作り上げられた主要な場は、国会です。

 過去の安全保障関連の法案審議などでは、長時間にわたって野党からの厳しい追及がなされ、しばしば修正協議の対象ともなりました。その中で、国会質問に対する答弁などの形をとって、憲法解釈が積み上げられてきたのです。

 そうした意味で、憲法9条の解釈は、政府関係者と、与野党を超えた国会議員たちが作り上げてきたといってもよいでしょう。「合作」のような言い方をすると、結論に反対の立場をとってきた野党の方々には怒られてしまうかもしれませんが、彼らの厳しい質問があったからこそ、精緻で厳格な憲法解釈ができあがったことは否めません。

 

 こうした歴史を踏まえるに、今回、野党から「憲法学者が違憲と言っているので、法案撤回すべき」といった声があがっていることには、違和感があります。

これまで憲法9条のリアルな解釈を作り上げてきたのは、憲法学者ではなく、政策の現場のプロたち(国会議員、政府関係者)です。

 ここにきて憲法学者の名を必要以上に振りかざすようなことはせず、国会の場で自ら、「国際情勢の中で、自衛隊にどのような活動を認めるべきか、どのような制約を課すべきか」という議論をしっかりと行なってほしいと思います。

 

 なお、誤解のないよう申し上げれば、憲法学者の方々の意見がとるに足らないといっているわけでは全くありません。

 6月4日の憲法審査会に出席された3人の憲法学者の方々は、自衛隊違憲論のような条文解釈論を言われたわけではなく、リアルな憲法解釈を前提として「違憲」との主張をされています。これは、国会審議の中でも、大いに耳を傾け参考にすべきです。

 ただ、情勢判断や政策判断と表裏一体での憲法解釈を責任もって議論すべき立場にあるのは、憲法学者以上に政治家たちのはずです。

 

 5月末にスタートした衆議院平和安全特別委員会の法案審議では、こうした観点で、よい議論がなされつつあります。

 例えば、江田賢司議員(維新の党)が「立法事実」(改正が必要な理由)などを明快に問いただした質問(5月28日)、飲酒事件でみそをつけてしまいましたが後藤祐一議員(民主党)が集団的自衛権を発動するケースが広がる可能性を問いただした質問(同)など、聞いていて大変参考になるものでした。

 また、志位和夫議員はじめ共産党の方々からは、「武力行使」との関係などの論点を精緻に詰めていく質疑がなされています。

 

 ぜひ引き続き、こうした議論を国会の場で積み重ねていってほしいと期待しています。

 

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